赤川次郎作品の中でも特に名作との呼び声高い「探偵物語」
今回は小説「探偵物語」のあらすじとネタバレをお届けします！
あらすじ
辻山秀一（43）は失敗続きの貧乏探偵。
性格は真面目で、何より人一倍責任感が強いのが長所だが、肝心の探偵のとしての能力はからっきし。
そんな辻山が新たに探偵事務所の社長から言い渡された仕事は、とあるお嬢様のボディーガード兼お目付け役。
なんでもそのお嬢様は5日後にはアメリカに旅立つ予定だが、その間に何をしでかすかわからないということで家政婦から依頼が舞い込んだらしい。
（やれやれ、何で俺が子どものお守りなんか…）
思わずため息が出る辻山だったが、仕事であるからにはやるしかない。
…というか、今度の仕事に失敗したら今度こそクビになってしまうのだ。
こうして、行動力の塊のような女子大生のお嬢様に振り回されてばかりの、辻山の新たな日々が始まった。
…とまとめたいところだが、実のところ辻山の受難はこれだけでは終わらない。
5年前に別れた元妻の幸子が、辻山のところに逃げ込んできたのだ。
聞けば、国崎というヤクザの元締めの息子を殺した犯人として追われているらしい。
幸子は「やっていない」と主張しているが、このままでは間違いなく海に沈められることになるだろう。
もう未練も何も残ってはいないが、一度結婚した相手を見捨てるというのも寝覚めが悪い。
こうして辻山は持ち前の責任感の強させいで要らぬトラブルの種を抱え込んでしまった。
だが、ヤクザを相手にして冴えない中年に何ができるというのだろう？
案の定、家に幸子を匿っていることなどすぐにバレてしまい、あわや一巻の終わり！
そんな辻山の窮地を救ってくれたのは、なんと護衛対象のお嬢様だった…！
主な登場人物
辻山秀一
くたびれた中年の探偵。自分にはない直美の若さをまぶしく思う。
新井直美
お金持ちのお嬢様。20歳。名門私立大学三年生。
父から呼ばれたものの、内心ではアメリカに行きたくないと思っている。
長谷沼君江
幼い頃から直美の面倒を見ていた新井家の家政婦。現在、屋敷には直美と君江の二人だけ。
幸子
男が放っておかないタイプの魅力ある女性。
性格は子供っぽく自己中心的。5年前に辻山と別れ、現在は国崎の妻。
国崎
ヤクザの元締め。息子である矢代和也の命を奪った犯人である幸子を見つけて始末しようとしている。
岡野
国崎の右腕的存在。幸子を追う。
あらすじネタバレ
事件の概要
まず、事件当時の状況を整理してみましょう。
事件が起きたのはラブホテルの一室。
※幸子は国崎の妻でありながら、国崎の息子の矢代和也と男女関係にありました。
事が終わったあと、先に出ていくと言いながらバスルームに向かう矢代を見た後、幸子は眠りに落ちています。
幸子が目を覚ましたのは二時間後。
まだシャワーの音が聞こえるのを不審に思った幸子がバスルームを覗くと、そこには矢代の亡骸があった…というわけです。
部屋のドアはオートロックで、内側からチェーンもかかっていました。
つまり、密室。
犯行に及べたのは幸子しかいません。
気が動転した幸子は慌ててその場から逃げ出したのですが、その様子をフロントや他の客たちに見られていました。
こうして幸子は国崎から追われるようになった、というのが事件の概要です。
密室の謎解き
明かしてしまえば、何ということもありません。
犯人はバスルームの換気口から部屋から入ってきたのです。
換気口は大人一人が通れるほどの太いパイプによって他の部屋とつながっています。
1．犯人は隣の部屋からパイプを伝って部屋に侵入。
2．矢代を刺した後、再びパイプを通って隣の部屋に戻った。
というのが事件の真相です。
一応、換気口には金網がついていたものの、力を入れれば簡単に外せるものでした。
ちなみに換気口のトリックに気づいたのは直美。
事件現場に戻ってパイプに「最近誰かが腹ばいになって通った跡」を見つけたのも直美でした。
残念ながら、その後パイプに清掃が入ってしまい「人が通った跡」という証拠は消えてしまいます。
それでも、直美は事件当日に隣の部屋にいたカップルの片割れを探し出し、犯人の正体にたどり着きました。
犯人と犯行動機
もったいぶらずに言うと、矢代を刺した真犯人は岡野。
幸子を犯人だとして追っていた国崎の片腕が本当の犯人だったのです。
しかも、岡野は国崎から矢代を（鍛えるために）預かっていた人物でもあります。
それなのに、なぜ岡野は矢代を手にかけたのか？
犯行動機は非常にシンプルで「自分が国崎の後を継ぐため」
矢代は国崎の後を継ぐには向かない弱腰のお坊ちゃんタイプであり、とても後釜にふさわしい人物だとはおもえません。
また、国崎が亡くなれば、未亡人として我がまま放題の幸子に大きな権力が渡るのも岡野にとっては面白くありませんでした。
「幸子を犯人に仕立て上げて矢代を葬る」という作戦は、岡野にとって目障りな2人を同時に始末するための策略だったのです。
クライマックスシーン、岡野はバレては仕方がないとばかりに国崎に襲い掛かりますが、国崎も負けじと応戦。
結局、2人とも重傷を負い、幕引きとなりました。
あ、ちなみに岡野と一緒にラブホテルの隣の部屋にいたのは矢代の実の母親である前田三千代です。
三千代は岡野の共犯というわけではなく、ただ岡野と寝るためにホテルに来ていました。
辻山と直美
「探偵物語」の何が面白いって、辻山と直美の関係性でしょう！
正直、ミステリー部分はおまけでしかありません。
平凡で退屈な日々を繰り返すだけだったくたびれた貧乏中年探偵と、若さ溢れるお嬢様。
まさに「美女と野獣」…とまではいかずとも「月とスッポン」な組み合わせですよね。
それなのに直美の方が辻山に恋してしまうというんですから、おもしろい！
最初は直美も辻山のことを「可哀想」「頑張っているのね」と哀れむような目で見ていたのですが、一緒に過ごすうちにだんだん心を開いていくようになり、ついには辻山の不器用なまでの律義さが決め手となって完全に恋する乙女に変身してしまいます。
直美はこれまであまり男性とつきあった経験がありません。
なので、自分が辻山に恋していると気づいた時の直美の初々しさといったら…もう、めちゃくちゃ可愛いんです！（笑）
で、当たり前のように辻山は鈍くて直美の恋心には気づかない、と（笑）
普通なら「事件を通して親密になった2人はそのままハッピーエンドへ…」という流れになるのでしょうが、そこは天下の赤川次郎作品！そう簡単にはいきません。
物語の終盤、なんと直美は辻山と幸子が愛し合っている現場に居合わせてしまいます。
※いや、これにはそれなりに理由があったのですが…
もちろん直美は大ショック！
もともと直美はアメリカに旅立つ予定でしたから、このままでは2人は結ばれないまま…。
そんなこんなで、物語は最後の場面へ！
事件の結末
幸子と辻山は新井家に匿ってもらっていたが、ついに国崎の追っ手に潜伏先が見つかってしまう。
たまたま直美たちは外出していて助かったが、君江が人質として捕らえられてしまった。
あれこれと君江を助ける方法を考える直美と辻山。
そんな中、幸子は独断で国崎のもとに出向き、自分を差し出す代わりに君江を解放させた。
※幸子が強引に辻山に抱かれたのは、この前夜のこと。
今度は幸子を助けるべく、ひとまず24時間の猶予を国崎に約束させる辻山。
その間に（主に直美の活躍によって）真相にたどり着いた辻山と直美は、いざ決戦の場所（埠頭）へ！
結局、真犯人が岡野だということが露呈し、国崎と岡野は共倒れになったが、幸子はすでに車ごと海に沈められた後だった…。
エピローグ
責任感が強い辻山のこと、幸子を助けられなかった今、自分に振り向いてくれることはないだろう…。
そう思った直美は、居間で酔いつぶれて前後不覚になっている辻山と強引に体を重ねた。
夜が明ければアメリカへの出発日。
最後の想い出として、直美は辻山に抱かれておきたかったのだ。
翌朝、頭痛を感じながら起きた辻山は昨夜のことを知り責任感に駆られるが、やはり幸子のことがあったばかりで、とてもすぐには気持ちを切り替えられそうにない
それに、すでに直美は成田空港へと出発している。
今から追いかけてもフライトの時刻には間に合わない。
「それでいいの？」
そこに現れたのは海に沈んだはずの幸子だった！
実は幸子は自力で縄を外して車から脱出していたのだ！
ポカンとマヌケな顔をしている辻山に、幸子は言った。
「ほら、急がないと間に合わないわよ。男でしょ！」
辻山は全力で空港へと向かう。
一方その頃、直美はすでに機上の人になっていた。
飛行機はすでに離陸済み。
当たり前のことながら、物理的に辻山が間に合うはずがなかった。
ところが…
「本機は都合により、成田空港へと引き返します」
なぜか成田へと戻っていく飛行機。
ターミナルに戻った直美の目に映ったのは…辻山の姿！
直美は荷物をほっぽり出して辻山のもとへと走っていく。
そこで初めて、直美は幸子が生きていたことを知ったのだった。
「ねえ、君と僕とは、いい取り合わせだと思うんだ」
「そうね」
「家柄も財産も」
「本当ね」
「年齢だって、たった二十三歳しか違わない」
「ちょうどいいわね」
「じゃ、いいのかい？」
「でなかったら、こうして出て来てないわ」
2人は顔を見合わせて笑う。
それにしても、なぜ飛行機は都合よく空港に戻ったのだろうか？
それは『誰か』が「飛行機に爆弾を仕掛けた」という電話をかけていたからだった。
「あなたがかけたのね！」
「僕が？ 冗談じゃないよ！ こんなに責任感の強い男がそんなことをすると思うかい？」
<探偵物語・完>
まとめと感想
今回は赤川次郎「探偵物語」のあらすじやネタバレをお届けしました。
今作の大きな魅力となっているのは本格ミステリーとしてのおもしろさ…ではなく瑞々しく描かれた辻山と直美の関係性です。
少ないページ数の中に直美や辻山の「心の機微」がありありと描かれており、読者としてはもうどうしようもなく2人のことを応援したくなってくるんですね。
だからこそ辻山が幸子を抱いたシーンでは「なにやってんの！」とつい叫びそうになりましたし、最後に2人の気持ちが通じ合ったシーンでは「おめでとう！良かった！」とこちらまで嬉しくなってしまいました。
斎藤工さん＆二階堂ふみさんというこれ以上ないほどのキャストで映像化されたドラマ版も必見です！
ドラマ『探偵物語(2018)』の配信は？
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