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「僕はロボットごしの君に恋をする」のあらすじとネタバレ!結末は?

山田悠介「僕はロボットごしの君に恋をする」を読みました!

劇場アニメ化もするということで、正直めちゃくちゃ楽しみにしています!

というのも、小説が面白かったのはもちろんのこと、そのアニメPVがとにかくエモいんです!

主題歌も声優さんもアニメ制作会社も、小説のPVとは思えないくらい豪華!

この約1分半のPVを見ただけで「あ、面白そう!」と直感できますよね。

とはいえ、実はアニメPVでは「僕ロボ」最大の秘密はまだ隠されたまま。

PVのエモさが100だとすると、劇場アニメのエモさは500くらいになると自信をもって断言できます!

というわけで、今回はそんな「僕はロボットごしの君に恋をする」のあらすじとネタバレ!

驚きと感動の結末とは!?

あらすじとネタバレ

★主な登場人物

・大沢健(28)…主人公。AIロボット技術研究所の操作官。咲を想い続けている《cv.入野自由》

・天野咲(23)…スポーツメーカーの営業で、健の幼なじみ。「翼」を名乗る四号に惹かれていく《cv.花澤香菜》

・天野陽一郎(28)…健の同僚のエリート研究員。咲の兄であり、幼いころから健の頼れる存在《cv.木内秀信》

 

第1章 大沢健の恋

2060年、東京。

科学技術の進歩により、今ではどこにでもロボットがいる。

コンビニの店員だってロボットだ。

彼らは人間のようでいて、人間ではない。

人間と見分けがつかないロボットの開発は、法律で禁止されている。

 

ただし、何ごとにも例外はある。

大沢健が働くAIロボット技術研究所では、人間そっくりなロボットが開発・運用されている。

新型ロボットの運用目的は、治安維持。

操作官である健の仕事は、人間そっくりなロボットを遠隔操作して、都内で起きる犯罪を取り締まることだ。

警察官でもない健がそんな仕事をしているのは、これが警察庁と合同で立ち上げたプロジェクトだから。

ロボットには恐怖を感じる心がない。

そして、人間よりも強い。

犯罪者やトラブルへの対処にはもってこいだ。

将来的にロボット刑事が全国に配置されれば、日本はより安全な国になることだろう。

 

とはいえ、今はまだ実験段階。

人間そっくりなロボットの存在は極秘事項であり、何があっても一般人に遠隔操作ロボットの正体を見抜かれてはならない。

また、操作官による犯罪を防ぐために「操作中は研究所の敷地内から出てはいけない」という内規も存在する。

いろいろと制約も多いのだ。

 


 

そんな中、我らが大沢健がどんな操作官かといえば……正直、あまり優秀ではない。

真面目だけど気弱。

持ち前のヒーロー願望を空回りさせては、うっかり新型ロボットの正体を見抜かれそうになってしまう。

今回もそんな凡ミスのせいで、健は担当エリアを変えられたのだった。

 

とはいえ、悪いことばかりではない。

新しい担当エリアには、天野咲の勤め先である総合スポーツメーカー「アテナ社」があった。

咲は健の幼なじみで、片思いの相手でもある。

ロボット越しとはいえ「咲に会えるかもしれない」という期待は、健をワクワクさせた。

 

健が咲と再会したのは、意外なことに研究所の敷地内でのことだった。

兄である天野陽一郎を迎えに来た咲と、ばったり出くわしたのだ。

…ただし、ロボット越しに。

早くに両親を亡くした天野兄妹は今でも同居しているほど仲が良いが、それでも極秘プロジェクトのことは秘密だ。

「これは健が操作しているロボットだ」とは説明できない。

陽一郎はとっさに「こいつは同僚の佐藤翼だ」と咲に健のロボットを紹介した。

 

健の操作するロボットの名前は「三号」という。

外見は20代後半の男性。

身長が高く、顔も整っている。

基本的には健がインカムで指示を出すが、ある程度は自動で対応しているハイスペックなロボットだ。

その三号が、爆発した。

正確にいえば、爆発事件に巻き込まれた。

いかにロボットとはいえ、爆発に巻き込まれてはひとたまりもない。

三号はバラバラに壊れてしまった。

 

…爆発事故の直前に見かけた不審な男が犯人だったのだろうか?

 


 

第2章 出会い

1か月後、6月上旬。

幼なじみでエリート研究員でもある陽一郎の口添えか、健に重要な任務が言い渡された。

極秘プロジェクトの内容は、テロを未然に防ぐこと。

聞けば、夏に開催される東京オリンピックに向けて、ある企業に爆破テロの予告が届いたのだという。

三号を壊した例の爆破事件との関連も疑われるということで、唯一犯人の顔を見ている健が指名されたということらしい。

爆破予告を受けた企業は、総合スポーツメーカーのアテナ社。

咲の会社だ。

咲を守るためにも絶対に犯人を見つけ出さなければならないと、健は気を引き締めた。

 

任務遂行のため、健には新たな遠隔操作ロボットが与えられた。

名前は「四号」

外見も性能も使い慣れた三号と同じだが、テロ対策のために少し機能が追加されている。

 

健はさっそく四号を操作してアテナ社へと向かわせた。

アテナ社での仮の姿は警備員。

制服に身を包んだ四号は、誰がどう見ても人間だ。

四号がロボットであることはもちろん、テロを警戒していることも極秘事項であり、誰にも知られてはならない。

 

健が正面入り口を見張っていると、受付でちょっとしたトラブルが起きた。

どうやら咲がストーカーに絡まれているらしい。

男は酔っているのか正常な状態ではなく、やがて懐からナイフまで取り出した。

(咲が危ない!)

健は四号に指示して、ストーカーを取り押さえさせた。

ロボットに恐怖心はないから楽勝だ。

とはいえ、はたから見れば、さぞ勇敢な青年に見えたことだろう。

助けられた咲も、いたく感激しているようだった。

 

「佐藤さんですよね?どうしてここに?」

咲は四号のことを覚えていた。

エリート研究員である陽一郎の同僚がアテナ社で警備員をしているのは、確かにおかしい。

健は「詳しい事情は話せないんですが、警備担当として赴任しました」とだけ説明しておいた。

 

……ふと、昔のことを思い出す。

あれはまだ健が高校生で、咲が中学生だったころ。

天野家の葬儀で見かけた咲は、他人に気を遣わせまいと気丈にふるまっていた。

ところが、健が持参したワスレナグサを渡したとたん、我慢していたものが一気に崩壊したように、咲は泣き出したのだった。

「本当にありがとうね」と繰り返し言いながら…。

その姿を見て、健は彼女を一生守るんだと誓ったのだった。

 

ストーカー撃退から1週間後。

「あのときのお礼がしたい」と咲から食事に誘われた。

もちろん健は有頂天になって快諾。

本来なら「ロボットの私的利用」は違反行為だったが、「これも警備のうちだから」と苦しい言い訳で自分を納得させた。

四号ごしとはいえ、初デート。

健は期待で胸を膨らませたが、いざふたを開けてみると待ち合わせ場所には咲の上司や先輩の姿もあった。

(なんだ、2人きりじゃないのか…)

結局、特に咲との仲が進むこともなく、食事会は期待外れのまま終わった。

 


 

第3章 デート

7月。オリンピックの開催が近づいたことで、健の警備エリアは国立競技場などの外部にまで拡大された。

というわけで、健はさっそく営業である咲の外回りについていくことに。

咲の担当は多岐にわたるが、なかでも力を入れているのは陸上競技。

咲自身がマラソンの選手だったので、出身大学の陸上部へ足を運ぶとOGとして歓迎された。

咲は社会人2年生。

在学中の後輩がまだ現役の選手なのだ。

 

「先輩、少し走っていきませんか?ほら、佐藤さんも!」

後輩の言葉に乗せられて、なぜか咲と四号も練習に参加することに。

メニューは5000メートル走。

四号がそこそこ走れるとみると、咲はこんな提案をしてきた。

「佐藤さん、競争しませんか?先にゴールした方が勝ち。私が勝ったら、ご飯ご馳走してください」

「僕が勝ったら?」

「何でも一つ言うこと聞きますよ」

咲はそう言った瞬間、急にペースを上げて学生たちの先頭に躍り出た。

どうやら今も走り込みを続けているらしい。

現役の学生と比較しても咲のペースは速い。

……とはいえ、ロボットである四号が本気を出せば世界記録くらい楽勝で出せる。

「四号ラスト、フルスピードだ!」

ゴール目前、健の指示に従って四号は急加速。

うっかりオリンピック選手並みの記録を叩き出しながらも、咲より先にゴールを踏んだ。

 

「佐藤さん、びっくりしました。まさかこんなに速いなんて」

咲から向けられる尊敬と羨望の眼差し。

自分が走ったわけでもないのに、健は誇らしげな気分になる。

「約束は約束です。佐藤さんのいうこと何でも一つ聞きますよ」

恥ずかしそうにつぶやいた咲に、健は迷うことなく口を開いた。

「じゃあ、僕とデートしてください」

その瞬間、咲は目を見開いて驚いていたが、頬を赤くしてうなずいた。

 

3日後。

四号はネズミのキャラクターで有名な遊園地に来ていた。

大学生の頃によく来ていたという咲に案内されて、園内を巡る。

咲はずっと笑顔で、いつしか口調も打ち解けたものになっていった。

 

「クライマックスに、一番乗りたかったやつに行きましょ!」

一日の終わりに咲が向かったのは、遊園地の花形であるジェットコースター。

今日一番の笑顔で絶叫する咲に、研究所のモニター前に座っている健は微笑む。

……ところが、クライマックスである地上50メートルからの急降下を目前にして、いきなりアトラクションは停止してしまった。

どうやら演出ではないようだ。咲も不安そうにしている。

四号に周囲を見渡させると、変電施設から煙が上がっているのが見えた。

火事…いや、爆発か?

まさか、例のテロと関係が!?

 

健は決意して四号に指示した。

「四号、お前高いところ平気だろ?自力で降りて操作室を見てきてくれ。電力が止まっているなら、お前のバッテリーをつないでマシンを下まで降ろしてくれよ」

危ないと制止する咲に「大丈夫だから」と笑顔で告げてから、地上へ降りる。

いかにも無茶な行動だが、ロボットである四号には簡単なミッションだ。

結果、地上に降りた四号が電力を供給したことにより、マシンは無事地上へと戻ってこられた。

 

……変電施設が爆発した原因は不明。

 


 

第4章 ロボットごしの恋

ついに、オリンピックが開幕した。

遊園地での事件以来、咲との距離は急速に縮まっている。

あれから何度も2人で食事に行ったし、毎日のように電話もしている。

たいていは忙しい仕事の合間を縫って先から誘ってくるのだ。

まだ付き合っているわけではないが、咲が恋していることは明らかだった。

 

しかし、健はそれを単純に喜べなかった。

(咲が惚れているのは僕じゃない。四号なんだ)

当たり前だ。

健は毎日のように咲を見て彼女と話しているが、実際にはまったく会っていない。

しかも健はチビで気弱な冴えない男。

対して四号は、身長180㎝で、顔もよく、強く勇気もある。

若い女の子が惹かれるには十分だ。

(僕は永遠、ロボットごしの君に恋するだけなのだろうか)

葛藤の末、ついに健は決心を固めた。

2週間の大会期間が終わったら、何もかも告白する。

自分自身が咲に会いに行って、四号の正体を教えよう。

(もう耐えられない。四号ごしではなく、自分自身の目で咲を見たい。四号じゃなく、自分で咲を守りたい)

もちろん咲に四号の正体を教えることは研究所の規則で禁止されている。

機密漏洩は重罪にあたるだろう。

しかし、構わない。

健にとって今一番重要なのは、咲への恋心なのだから。

 

大会終盤の女子マラソン。

先頭集団が折り返し地点に差し掛かったとき、健は異変に気がついた。

観衆の中、一人の男が妙な動きをしている。

人ごみをかき分けて規制線に近づいていくあの男は……三号が巻き込まれた爆発事件のときに見た人物ではないだろうか?

何をするつもりだ…?

健が折り返し地点に目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

(咲…!?)

トップ争いをしている日本人選手を応援する咲の姿が、そこにはあった。

男が何かをしようとしているのなら、咲の身が危ない!

健は四号に男を追わせたが、とてもじゃないが間に合わない。

四号から送られてくる映像の中で、男がリュックを規制線の中に放り投げた。

「四号、リュックだ!」

健は男の確保よりリュックを優先した。

四号が咲の脇をすり抜けて規制線を越える。

テレビ中継の画面にも四号の姿が現れた。

 

その直後だった。

耳を貫く爆発音がインカムを通して鳴り響いた。

 


 

第5章 告白

「四号、応答しろ!」

健の声に反応はなく、モニターは砂嵐。

爆発の衝撃で四号は壊れてしまったのだろう。

現場はどうなったのか?

咲は無事なのか?

今すぐ走り出したい衝動に駆られるが、研究所の内規により、健は敷地内から出ることができない。

もし職務規定を破れば、クビどころか重犯罪者として起訴されてしまう。

頭の隅でちらりとそんなことを考えながらも、気づけば健は駆け出していた。

 

現場に到着。

折り返し地点は予想以上の惨状で、多くのケガ人が血を流して倒れている。

(咲は…!?)

やっと見つけた咲の体の半分は、コンクリート塊の下敷きになっていた。

圧し潰されているわけではないようだが、このままでは身動きが取れない。

健は火事場の馬鹿力を発揮してコンクリート塊をひっくり返す。

反動でコンクリート塊が健の足にのしかかり、バキッと鈍い音が響いたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

幸い、咲は軽傷で済んでいるようだった。

 

「咲ちゃん、聞こえるか。しっかりしろ」

「…翼くん?」

「僕だ。健だよ。久しぶりだね」

目を覚ました咲は健の登場に戸惑いを見せたが、次の瞬間には表情を凍りつかせた。

「翼くん!?」

そばに転がる四号の残骸を見てしまったのだ。

破損のため金属ボディがむき出しだが、顔は原形をとどめている。

いままで四号を生身の人間だと思っていた咲はパニックに陥っていた。

「落ち着いて。彼は亡くなってる。でも大丈夫。事情はあとで説明するよ。とにかくここから逃げよう」

「嫌っ!」

咲は四号の体を抱き起こしたが、その体が機械であることに混乱している。

健はひとまず先を病院に連れていくことにした。

 

「健くん、どういうことか説明して。翼くんはいったい……」

健の車に乗り込むころには、咲は冷静さを取り戻していた。

この状況では、もう言い逃れはできない。

健は覚悟を決めて口を開いた。

「ずっと黙っててごめん。四号、いや『翼』はAIロボット研究所が開発したロボットだ。僕が操作して治安維持の任務にあたってたんだよ」

「……」

「『翼』は存在しない。僕なんだよ。翼を通じてずっと咲ちゃんと話してたのは――」

咲はあまりの驚きに声が出ない。

しかし、やがて事実を理解すると、両手で顔を覆い泣きはじめた。

その悲しみに四号を操作して加担していた健にはかける言葉がない。

 

「とにかくここを離れよう」

エンジンをかけると、来るときにつけていたニュースが車内に流れだした。

『たったいま入ってきたニュースです。現場の捜査にあたる警視庁はさきほど今回の爆発をテロと断定。容疑者を特定したと発表しました』

容疑者は大沢健。AIロボット技術研究所の職員で、人質を一名とって逃亡中。指名手配され各幹線道路での検問が始まっている模様です』

驚いた咲が健の顔を覗き込む。

ニュースの途中から、健の頭の中は真っ白になっていた。

 


 

第6章(前編) 逃亡

いったいどうしてこんなことに?

いくら自問してみても答えは出ない。

ともかく今優先するべきは「咲の安全」と「逃亡」だ。

咲は身の潔白を信じてくれたが、警察が同じように健の言い分を信じてくれるとは思えない。

 

「まずは私のマンションに行く。そこでお兄ちゃんの車に乗り換えよう」

咲の提案で、健はひとまず天野兄妹の家へ。

二人暮らしには広すぎる高層マンションの2LDKに到着すると、やっと人心地がついた。

 

「翼くんのこと、詳しく教えて…」

絞りだすような咲の声は、健の胸をしめつけた。

ついに、すべてを話す時が来た。

・研究所の極秘プロジェクトのこと

・四号の正体と任務

・これまでの経緯に陽一郎は無関係であること

健は包み隠さずすべてを説明した。

 

しばらく沈黙が続いたあと、咲がぽつりとつぶやいた。

「好きだったの。翼くんのこと、とっても好きだった……」

翼になりすまし咲と話していた健は返す言葉もない。

ごめんと再び謝罪の言葉が出かかったとき、それを制するように咲が言った。

「でももういいの。健くんがわざと私をからかってたんじゃないことはよくわかる。仕事だったんだし、しょうがないよね」

《仕事》という響きがやけに乾いて聞こえる。

違うんだ。

仕事のために君と仲良くなったんじゃない。

「僕は……」

僕はロボットごしの君をずっと見つめていたんだ。

話そうとする健を、咲の言葉が制した。

「そっちがお兄ちゃんの部屋だから、とりあえずこれに着替えて。泥だらけだし、変装にもなるしね」

 


 

「これからどうする?」

咲の言葉に、健は答える。

「準備が出来たらでかけよう」

「どこに?」

「真犯人のところさ。ここからそう遠くない」

 

たどりついたのは、AIロボット技術研究所。

つまり、健の職場。

待ち伏せしていると、やがて目当ての人物が研究所から出てきた。

健の直属の上司である辻秋成課長だ。

「課長」

声をかけられた辻の視線が健と咲を射抜く。鋭い眼光だ。

「お前か。ずいぶん捜したよ。のこのこ出てくるとは自首するつもりか?」

「僕は自首しに来たんじゃない。本当の犯人を捕まえに来たんだ」

その言葉に辻の片眉がピクリと動く。

「どういうことだ?」

「僕は見た。一回目のテロでも今日の現場でも……。テロを起こしたのはうちのロボットですよね

となりで咲が驚きの声をもらす。

どこかで見覚えがあると思っていた犯人の顔。

ようやく健はそれが研究所のロボットであることを思い出していた。

「ほう。だがもう遅い。世間ではお前がテロの実行犯だということになっている」

健の指摘を認める発言。

気がつけば、健たちは十人ほどの警備ロボットに囲まれていた。

 

「お前は極秘プロジェクト中の身だ。裁判にかけられることはない。俺たちが処遇を決めてやる」

そういうと辻はジャケットの内側から拳銃を取り出した。

「君は誰だか知らないが、こいつの手助けをするとはいい度胸だ。一緒に始末してやろう」

銃口が咲に向けられる。

その光景を見た瞬間、健はカッと頭に血が上るのを感じた。

「彼女に手を出すな!」

そう叫びながらものすごい勢いで辻に突進する。

警備ロボットを蹴散らしながら前に進む。

辻の銃に撃たれて転がっても、すぐに立ち上がって突き進む。

健の体当たりは辻を派手に転倒させた。

その拍子に転がった拳銃を拾い上げると、健は咲を連れてその場から逃走した。

もはや実行犯のロボットを捕まえても意味はない。

真実を暴き、無罪を証明しなければならない。

 


 

研究所をあとにした健と咲は、隠していた車に乗り込み急発進させた。

あたりはすっかり夜。

健が三浦半島の先頭に浮かぶ城ヶ島に車を駐めたときには、日付が変わっていた。

一日中フル稼働していた健と咲は、もうくたくた。

島の南側にある公園で、体を休めることにした。

 

海を見渡せる公園のベンチに座ると、健は考えを巡らせた。

いったいどうして、こんなことになってしまったのか?

小役人タイプの辻が黒幕だとは思えない。

ならば、一連の事件は組織ぐるみの犯行……?

そこまで考えたとき、健はハッと『ある可能性』に思い当たった。

もしかして、すべての黒幕は…。

 

「二人とも大変だったな」

背後からいきなりかけられた声に、健は驚いて振り返る。

知っている声。

知っている姿。

だが、明らかに何かがいつもと違う。

月光を背に浴びて、陽一郎が立っていた。

 


 

第6章(後編) 真実

「陽ちゃん、どうしてここに?」

「お前だよ、健。お前の体にGPSを埋め込んである。驚いたよ。はじめに電波を受信したとき俺の家に向かっていただろう。それで咲と一緒だと予想がついた。俺の家で騒動を起こしたくなかったから、ここまで黙って見逃していたわけだ」

陽一郎の言葉で、健は想像を確信に変えた。

「はじめからそのつもりで僕は監視されていたんだ……。研究所の同僚の一部も、アテナ社の常駐の警備員も、そして咲ちゃんの上司たちも、僕を見張るための警備ロボットなんだね?意図的にこのプロジェクトに参加させて、アテナ社担当にして、テロの犯人に仕立てた。すべては研究所が仕組んだことなんだ……」

 

「陽ちゃんも、グルなのか?」

陽一郎は健の問いを無視して言った。

「咲、お前にはだいたい想像がついているはずだ。昨日一日健と一緒にいたんだから」

一瞬の静寂。

陽一郎が言う通り、咲は何かに気づいているようだった。

「健くんの撃たれた傷から、血が出てない……」

陽一郎がうなずく。

「テロのとき私を助けようとして負った脚の怪我もおかしかった。それにこの銃……」

研究所から健が持ち帰ってきた銃は、明らかに普通の拳銃ではない。

それは電磁波を照射して《機械》を破壊するものだった。

陽一郎は咲から銃を受け取り言った。

「そうだ。健、お前も俺が創ったAIなんだよ」

その瞬間、健の頭の中ですべてが音を立てて崩れていった。

 


 

「お兄ちゃんやめて!お願い!」

「お前は黙ってろ」

陽一郎は健に銃を向けながら歩くよう促した。

展望台を降りて、海沿いの柵まで追い詰める。

「僕がAIってどういうことだ? そんなわけないだろう」

「まだそんなことを言ってるのか? これまでのことをよく思い出してみろ。お前が自室だと思っているのは研究所の格納庫だ。ベッドには急速充電器がセットされている。お前は無意識に夜はそこで充電してたんだ。四六時中監視カメラで見られていたんだよ」

「嘘だ!じゃあ僕のこれまでの思い出はなんなんだ。僕たち幼なじみだろ。だってみんなが小さい頃のことも覚えてるんだよ」

陽一郎は冷たい視線を向けたまま、健と咲に向けて『真実』を語りだした。

 

陽一郎と咲の父親は、日本のAI研究をリードする天才科学者だった。

天野博士の研究目的は『完璧なAI』をつくりだすこと。

そのために天野博士は何度も何度も、失敗した実験体ロボットを解体しては、改善を加えていった。

洋平、悟、章弘――。

咲が幼いころから目にしていた『幼なじみ』たちは、すべて天野博士がつくったロボットだった。

そして、天野博士の遺志を継いで陽一郎が完成させたのが『大沢健』

失敗した実験体の記憶を引き継いでいる、最新鋭のヒューマノイド。

「まさか陽ちゃんのお父さんって…」

「そう。AIロボット技術研究所を立ち上げた初代所長・天野理だ。そして積み上げてきた総決算がお前、健というわけだ。お前の記憶はすべて親父や現所長、俺が創ってきたAIの記憶というわけだ」

陽一郎の話を聞いて、咲はハッと顔をあげた。

「……ずっと不思議だったの。二年前にはじめてお兄ちゃんから紹介された健くんが、どうして私たちの小さいころのことを話すのか。てっきりお兄ちゃんから聞いた話をしゃべってるだけだと思ってた。でも、そうじゃなかったんだね。健くんはずっと私たちのそばにいた。私が幼稚園の時はじめて会った『悟』くんも、お父さんお母さんのお葬式で、私に花をくれて、一緒に泣いてくれた『章弘』くんも、見た目は違っても全部健くんだったんだね」

 

陽一郎と咲の両親が亡くなった原因は、飛行機事故。

飛行機を操縦していたAIのミスで、事故は起こった。

だからこそ陽一郎は『完璧なAI』の完成にこだわったのだという。

「人間そのままの完璧なAIを完成させる最後のピースは《愛》だ。しかし愛情がすぎれば悪事をも働いてしまう。『自分さえ良ければいい』という行動に出やすくなるんだ。あらゆる力を持つロボットにそんな感情を持たせたら、それこそ人間対ロボットの戦争になりかねない。そこで国際学会はその一線を越えることを禁止した。愛情のプログラミングをして、良くも悪くも完璧な人間に近づけることは法律違反になったんだ。ただし、俺の考えは違う。愛情をプログラミングしない限り、AIが完成することはない。そこで俺たちは密かに研究を続け、愛情を入れても暴走しないギリギリの線を探ってきたというわけだ」

 


 

健は『咲を愛するようプログラミングされたAI』だった。

一連のテロ事件も、咲の身に危険が迫ったときの健の反応を引き出すための自作自演だったのだという。

だが、多大な犠牲を払って行われた実験の結果は、失敗。

咲の身に危険が迫ったとき、健は『プログラミングされた職務規定を破って』テロ現場に急行し、さらにはこうして研究所に敵対している。

「お前は人間に近づきすぎた。《愛情》のプログラミングが強すぎてすべてに優先させてしまうようになったんだ。エゴが生まれればあとはどうなるかわからない。お前を出発点にして同様のロボットが増殖していけばとんでもないことになる。俺たちが国際規約を破って研究していたことが露見してしまう。俺はいまそれを防ぎに来た」

 

「健、二つのうち一つを選べ」

1.今ここで陽一郎に処分される。

2.ロボット兵として米軍に引き渡され、壊れるまで戦地で戦い続ける。

絶望的な二択。

どちらにしても、健に未来はない。

それでも、ただのロボットならば、合理的な判断ができるのかもしれない。

しかし、健は違う。

もう後戻りできない気持ちを、知ってしまっている。

絶望にあらがうように、健は思いのたけを叫んだ。

「嫌だ、僕は咲ちゃんを愛してる。身体なんてどうなってもいい。ずっと一緒にいたいんだ!」

 

そのときである。

公園側からまばゆい光が照らされた。

『警察だ!君たちは完全に包囲されている。大人しく武器を捨てなさい!』

物々しい重装備の特殊部隊が銃を手に包囲網を縮めてくる。

陽一郎も警察に包囲されるのは想定外らしく震えていた。

健は咲にも銃口が向けられているのを見て、我を忘れて咲に向かって走った。

「やめろっ!」

無我夢中で彼女の肩を抱き覆いかぶさる。

混乱の中、『犯人は武器を所持』という情報が特殊部隊の判断を早めた。

次の瞬間、あたりに銃声がこだまする。

「健くん!」

「咲ちゃん!」

健の声が波音に砕かれて消えていく。

舞い上がった波しぶきが静かに引くと、咲の足元には健が崩れ落ちていた。

 


 

エピローグ

一か月後、咲と陽一郎は横須賀港に来ていた。

今日は、研究所が秘密裏に米軍に流しているロボット兵の引き渡し日。

無表情に並んだ5体のロボットのうち、咲はずっと一番左の一体を見つめていた。

 

あれから、健は逮捕されていったんは警察署に連れていかれた。

研究所とつながっている警察庁の圧力により、陽一郎や現所長はお咎めなし。

すべては「健が暴走したせいだ」として片付けられた。

健は廃棄処分が決定。

しかし、そこから陽一郎が働きかけて『初期化』することを条件に引き渡しの許可を得た。

初期化と再インストールを行うと見た目は健に間違いないが、中身はまったくの別人になってしまった。

今の健に《愛情》はプログラミングされていない。

光を失った目はうつろで、ただ命令に従う人形になっていた。

 

「気をつけ、右向け右!前へ進め!」

上長の命令で健を含む五体が米国の船に乗り込んでいく。

「健くん…」

咲はそっと目を閉じた。

彼が最期に口にした「愛してる」という言葉。

それがプログラミングの結果かどうかなんて、どうでもいい。

(私は彼を愛していたし、彼も私を愛してくれていた)

それだけは誰にも否定できない真実なのだから。

健は確かに人間ではなかった。

しかし、本物の人間より人間らしかった。

 


 

「健くん!」

名前を呼んでも、彼が振り返ることはない。

このあと、健は戦地に送られ、破壊されるまで戦い続けるのだ。

日本に帰ってくることは二度とない。

その運命を理解しつつも、咲は健の無事を祈らずにはいられなかった。

目を閉じ、ポケットの中の金属片に触れる。

それは陽一郎が初期化する前に内緒でコピーをとった、健そして彼の前から続く幼なじみたちの全データが入った大容量メモリーだ。

島での健の叫びがよみがえる。

『身体なんかどうなってもいい。ずっと一緒にいたいんだ!』

もし、健が無事に帰ってきたら、そのときは必ず――

 

咲はポケットに忍ばせていたカードケースを取り出した。

そこには両親の写真が入っていたが、ケースを裏返してそこに収めてあるものを眺めた。

それは両親の葬儀のとき『当時の彼』がくれた花の押し花。

ワスレナグサの花言葉は……

咲はその押し花を両手で包み、遠ざかる大型艦船をいつまでも見送り続けた。

<僕はロボットごしの君に恋をする・完>

 

※補足

ワスレナグサの花言葉は『私を忘れないで』、そして『真実の愛』

 


 

小説「僕はロボットごしの君に恋をする」の感想!

いやあ、面白かった!

「あの山田悠介さんがただの恋愛小説を書くわけがない」とは思ってましたが、まさかこんな結末になるとは!

私はてっきり「本物の健は実は亡くなっていて、今の健はロボットなのかな?」と思っていたので、結末では「えっ、そもそもロボットだったの!?」と驚いてしまいました。

結末から振り返ってみれば、あれもこれも山田悠介さんによる『印象操作(ミスリード)』だったんですよね。

たとえば

・ロボットを操作している主人公がロボットであるはずがない、という思い込み

・「僕はロボットごしの君に恋をする」というタイトルである以上、『僕』である健がロボットであるはずがない、という思い込み

冷静に考えれば健がロボットであることは明らかであったにも関わらず、これらの思い込みのせいで私は「それでも元は人間だったんでしょう?」と考えてしまったんだと思います。

 

また「健は最初からロボットだった」という推理をしようとすると、どうしても「小さいころから天野兄妹と知り合いだった」という点が引っかかります。

ロボットは年をとったり成長したりしませんからね。

それで私は「元は本物の人間だった」と考えたわけですが……まさか何体もの実験体ロボットの記憶を引き継いでいたとは!

小説の中で健は自分自身の思い出として葬儀の時の咲とのやりとりを振り返っていますが、実はそれは陽一郎によって一部改ざんされた記憶。

本当は前モデルである『章弘』の記憶だったとわかったシーンでは「マジか!」と思わず声が出てしまいました。

特に、咲の「健くんとは2年前に初めて会ったはずなのに」というセリフには鳥肌が立ちましたね。

「え、健は天野兄妹と幼なじみだったはずでしょ!」と思って読み返してみたら、なんとそう説明しているのは健だけ!

まんまと『叙述トリック』にはまってしまっていたわけです。

 

恋愛小説ながらも、ミステリーとしても最高に楽しめた一冊でした。

 


 

2人の恋と結末について

「僕はロボットごしの君に恋をする」の結末は、いまいちハッピーエンドなのかバッドエンドなのかはっきりしません。

健の『心』は守られたものの、『身体』は戦地で破壊される運命。

で、咲は「健の体が帰ってきたら、そのときは…」なんて思っているわけです。

ここで私は思いましたね。

「いや、別のロボットに記憶移し替えたらええやん」と。

「身体は絶対に帰ってこないし、そもそも帰ってこれてもテロの犯人として指名手配されていた顔やん」と。

純粋に健と咲のハッピーエンドを実現するなら、別のロボットに健の記憶を移し替えればいいだけの話だと思いました。

 

しかし、次の瞬間には、ふと『ある考え』が頭をよぎりました。

そもそも健と咲にハッピーエンドなど訪れるのだろうか?

冷静に考えてみれば、健はやはりどうしようもなくロボットです。

人間ではありません。

「心を持ったロボットは、もはや人間と同じなのでは?」という理屈はわかりますが、それでもやはり人間とロボットの間には壁があると言わざるをえません。

仮に健が「健の記憶を持つロボット」としてよみがえったとして、それで何がどうなるというのでしょう?

結婚もできなければ、子供もできない。

食事の代わりに充電する恋人を、咲は生涯愛し続けることができるのでしょうか?

しかも、なんだかんだ言って、健からの『愛』はそもそもプログラミングされたものなんですよね。

その『愛』も『記憶』でさえも、陽一郎(人間)が本気を出せばいくらでも書き換えられる。

そんな存在、咲からすれば不安すぎませんか?

ある意味では究極の純愛ともいえるでしょうが、少なくとも私だったら耐えられません。

そういう意味では、大団円で終わらなかった「僕ロボ」の結末は順当なものだったのかもなあ、とも思いました。

 


 

劇場アニメ「僕はロボットごしの君に恋をする」について

現時点(2018年9月)では詳しい情報は公開されていないものの、アニメPVの制作陣がそのまま続投するならかなり期待できる映画になりそうですよね!

改めて情報を整理すると、こんな感じ。

  • アニメーション:A-1 Pictures
  • キャラクターデザイン:loundraw『君の膵臓をたべたい』
  • テーマソング:THE SxPLAY(菅原紗由理)
  • ロゴ:BALCOLONY.『魔法少女まどか☆マギカ』『活撃 刀剣乱舞』

 

で、声優キャストは…

  • 花澤香菜(天野咲 役)
  • 入野自由(大沢健 役)
  • 木内秀信(天野陽一郎 役)

 

スタッフ陣も声優キャストも、まあ豪華!

「君の名は」や「君の膵臓をたべたい」に続く、新たな劇場アニメの金字塔になりそうな予感です!


まとめ

山田悠介「僕はロボットごしの君に恋をする」が劇場アニメ化!

今回は原作小説のあらすじ・ネタバレ・感想などをお届けしました!

切ない恋愛小説でもあり、読者を裏切るミステリー小説でもある。

2つの魅力が詰まった「僕ロボ」は本当に面白くて、一日で一気読みしてしまいました。

驚きの結末まで読んでからアニメPVを見直してみると、実はかなり終盤のシーンまで含まれていることに気づきます。

「実はもう全編できあがっているでは?」と思ってしまうくらいです。

1分半のアニメPVでさえちょっと感動してしまうのですから、これが劇場アニメになった日には号泣必至!

映画館でもう一度「僕ロボ」に感動できる日を楽しみにしています。



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POSTED COMMENT

  1. そるてぃ より:

    記事を見て、この小説を買った者です。
    帯に「追加スピンオフでついに感動の完結!」と書かれた方を買ったのですが、調べたらもう一冊あるようで、どちらが本編なのでしょうか?
    私が買ったのはスピンオフだけなのでしょうか…

    • わかたけ より:

      >そるてぃ さん

      たぶん文庫を買われたのですよね?

      ご安心ください。

      文庫は「本編+スピンオフ」になっています。

      記事を読んで小説に興味を持ってもらえたということ、嬉しく思います(^^♪

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