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映画「Last Letter(ラストレター)」のあらすじとネタバレ!岩井俊二最新作!

   

こんにちは、若竹です。

今回の注目作は岩井俊二「Last Letter(ラストレター)」

2019年に公開される映画はとにかくキャストが豪華で、松たか子、福山雅治、広瀬すず、神木隆之介(敬称略)が共演します。

私は映画に先駆けて発売された原作小説を読んでみたのですが、ストーリーもまた素敵!

ノスタルジーを感じる物語は、かつて青春を過ごした大人世代にこそ強くお勧めしたいですね。

というわけで今回は、岩井俊二「Last Letter」のあらすじとネタバレ!

甘酸っぱくも切ない物語の結末とは?

 

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映画「Last Letter(ラストレター)」のあらすじとネタバレ!

★主な登場人物

・乙坂鏡史郎……主人公(=僕)。売れない小説家。

・遠野未咲……ヒロイン(=君)。二児の母で、故人。

・鮎美……未咲の娘。高校三年生。

・瑛斗……未咲の息子。小学五年生。

・岸辺野裕里……未咲の妹。学生時代、鏡史郎のことが好きだった。

・颯香(そよか)……裕里の娘。中学三年生。

・宗二郎……裕里の夫。怒ると周りが見えなくなる。

 

序文

未咲へ

これは君の死から始まる物語だ。

君が本当に愛していただろう、そしてきっと君を愛していただろう、そんな君の周りの愛すべき人々の、ひと夏の物語でもある。

そして、同じそのひと夏の、僕自身の物語でもある。

天国に旅立ってしまった君に宛てた、僕からの最後のラヴレターだと思って読んでもらえたら幸いである。

 

※補足……「Last Letter」は乙坂鏡史郎が亡き未咲のために書いた小説。物語は乙坂(=僕)の一人称で語られていきます。

 

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同窓会

君が亡くなったのは去年の7月29日。

僕が君の死を知ったのは、3週間後の8月23日。

だから、8月5日に催された中学の同窓会に顔を出したとき、僕は「君に会えるかもしれない」と心のどこかで期待していた。

最後に君の顔を見たのは大学生のときだから、もし会えたら24年ぶりということになる。

 

そもそも僕が小説家を志したのは、君が魔法をかけたからだ。

「小説家になれるよ、君」

そのたった一言だけを頼りに、僕はまだ小説家という夢にしがみついている。

バカな話だ。

……君に会えたら、僕は小説家をやめようと思っていた。

 

当然ながら、同窓会に君の姿はなかった。

その代わり、君によく似た姿はあった。

妹の裕里だ。

裕里はなぜか君になりすまして参加していた。

30年も経っているせいで、誰もが裕里のことを遠野未咲だと思い込んでいた。

僕ひとりを除いて。

他の同級生は騙せても、この僕が君と裕里を見間違うはずがない。

だって、あの頃、僕は君に恋していて、裕里は僕に恋していたのだから。

 

同窓会は途中で抜け出した。

その帰り道、同じように抜け出してきた裕里を見つけたので、僕は声をかけることにした。

「ひさしぶり。君が帰るのが見えて、追っかけてきちゃった」

「あら、あたしもセ……あなたが帰るのが見えて。挨拶くらいしようかと思って」

一瞬裕里の口から漏れた『セ』という音。

『先輩』とうっかり言いそうになったところをすんでで『あなた』と言い換えたに違いない。

どうやら裕里は僕の前でも未咲を演じるつもりらしい。

僕はわざと気づかないふりをすることにした。

連絡先を交換するためスマホを渡すと、彼女はメールアドレスと一緒に『遠野未咲』と名前を打ち込んだ。

……どうして彼女は、未咲のふりをしているのだろう?

作家として、興味を抱かずにはいられなかった。

 

別れた後、メッセージを送る。

『君にまだずっと恋してるって言ったら信じますか?』

『おばさんからかうのやめてください!』

どうあっても正体を明かす気はないらしい。

僕は駅前のビジネスホテルに戻り、ラウンジで一杯やりながら、またメッセージを送ってみた。

『僕にとって君は永遠の人です』

その後、裕里からの返信はなかった。

 

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文通

ある日、家に裕里からの手紙が届いた。

『拝啓、乙坂鏡史郎さま。文句を言いたいわけではないんだけど、全部あなたのせいです。いきなりあんなメッセージを送ってくるから、待ち受け画面に表示されたところを主人に見られてしまいましたよ。おかげで主人が私とあなたのことを誤解してしまいました』

なぜ、わざわざ手紙で事情を伝えてきたのかというと、怒った旦那にスマホを壊されてしまったかららしい。

旦那の怒りが収まるまでスマホを買いなおすこともできず、仕方なく愚痴を手紙にして送ってきているということだった。

謝ろうにも、送り人の住所は書かれていない。

そういうわけで、僕はそれからもちょくちょく、一方的な裕里からの文通を受け取ることになった。

 

『ウチに巨大な犬が二匹やってきました。主人はこれを私に飼育しろと言うのです。たぶん罰です』

『義理母がしばらく家で暮らすことになりました。これもきっと主人の罰です』

僕のせいで裕里の家庭がみるみる崩壊していくかのようで、申し訳なくていたたまれなかったが、連絡の取りようがない。

 

手紙の最後には、いつも決まって『遠野未咲』と署名してあった。

後に「姉は亡くなったと知らせるため同窓会に行ったら本人と間違われて、引っ込みがつかなくなった」という真相が発覚するのだが、この時の僕にはなぜ裕里が未咲になりすましているのか、その理由がさっぱりわからなかった。

 

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追憶

卒業アルバムを眺めていると、君の実家の住所が載っていることに気がついた。

そこで僕は、居所のわからない裕里に向けた手紙を、君の実家に送ることにした。

あて先は『遠野未咲さま』とするわけだから、当然、君が目を通すことを意識しなければならない。

僕は苦心して、君が「どうやら裕里が自分のかわりに同窓会に行ったらしい」と読み解けるような手紙を書いて送った。

 

ところが、僕の手紙を読んだのは鮎美と颯香だった。

鮎美はもともと実家で暮らしていたし、颯香は「夏休みの間だけでも鮎美のそばにいたい」と君の実家に泊まり込んでいたのだ。

そこでようやく僕が君の訃報を知ることになるかといえば、そうではない。

鮎美と颯香もまた、未咲のふりをして僕に返事の手紙を寄こしたのだった。

『乙坂鏡史郎さま。中学時代、懐かしいですね。わたしのこと、どのぐらい覚えていますか? 住所はここに送って頂いて大丈夫です。 遠野未咲』

想像以上に短い内容に落胆しながらも、僕は「君から手紙が来た」と喜ばずにはいられなかった。

文中に質問が入っている以上、返事を書くことは自然な流れだろう。

そんなわけで、このごく短い手紙に対して、僕は長い長い返信を一気に書き上げて送ったのである。

 

『君のことをどのくらい覚えているか?……と聞かれたら、それはもうまるで何もかもが昨日のことのように、いや、むしろ昨日のことより鮮明に覚えているかもしれません……』

手紙の内容は、中学時代の思い出。

生徒会長だった君の凛とした姿に僕は恋をした。

といっても、君と直接話をするようなことはなく、妹の裕里と一緒に過ごす時間の方が長かったけれど。

当時、僕はサッカー部のエースで、一学年下の裕里はサッカー部のマネージャーだった。

あの頃、君にずいぶんラヴレターを書いたけれど、あれは裕里が僕に書けって言ったんだ。

「私が届けてもいいですよ」と裕里が言うから、僕は裕里と一緒にうんうん唸りながら何通も手紙を書いた。

……まあ、裕里は僕のラヴレターを一通も君に渡していなかったわけだけれど。

 

赤裸々な昔話を鮎美と颯香が読むと知っていれば、もう少し書きようもあっただろう。

けれど、僕は君が読んでいると信じて疑わなかったから「それからどうなったのか?」という2通目の手紙に、またも長々と返事を書いた。

 

『僕が真実を知った数日後、今度は裕里が僕を追いかけてきました……』

裕里は「あの手紙、全部お姉ちゃんに渡しました」という。

「お姉ちゃんなんだって?」と僕が聞くと、裕里は一通の手紙を差し出した。

君からの返事だろうか?

僕は勇んで封を開け、その場で中を見た。

 

《乙坂先輩へ。先輩のことが好きです。つきあってください。 遠野裕里》

 

頭が真っ白になった。

目の前には大粒の涙を浮かべている裕里がいる。

とっさに「あの、ごめん」と謝ると、裕里はフラれたと思い込んで、泣きながら全力疾走で走り去っていった。

『きっと裕里は僕にラヴレターを書かせることで、僕と一緒にいたかったんでしょう。本当に可哀想なことをしたなあ。今となってみれば、一切が甘酸っぱい懐かしい思い出です。君が読んだラヴレターにはこんな裏話があったのです。ああ、でもどうしてあの時代というのはかくも色鮮やかに輝いているものなんだろう』

長い手紙の終わりを、僕はこんな風に締めくくった。

『裕里は今は何をしているんですか? もう結婚して子供もいるんですか?……君は? 今はなにをしてるんですか? 乙坂鏡史郎』

 

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小説

高校卒業後、僕は横浜の大学に進学した。

そこで君と再会し、僕たちは恋人同士になった。

けれど、君はさらわれるようにして別の男のものになり、僕の前から姿を消した。

この頃の体験を書いた小説が、新人賞をとった僕のデビュー作『未咲』だ。

あれから20年、僕の時間は止まってしまっている。

小説を書こうとすると、どうしても君の話になってしまう。

だから、2冊目はまだ出ていない。

……いい加減、諦めるべきなんだと思う。

それでもアルバイトをしながら小説家のままでいるのは、やはり君のことが忘れられないからだった。

 

秘密

裕里からの手紙には、あるときから住所が記されるようになった。

『波止場方』とあるその住所は、どうやら知り合いの家の住所らしい。

どうして裕里は未咲のふりをしているのか?

裕里の家庭は大丈夫なのか?

答えを知るため、僕は直接、波止場なる人物の家を訪ねることにした。

 

扉を開けて出てきたのは、裕里本人だった。

波止場なる人物は裕里の義理母の昔の先生らしく、ひょんなことから裕里は波止場老人の家に通っているのだという。

気を遣って家に二人きりにしてくれた波止場老人の厚意のおかげで、僕は腰を落ち着けて裕里と話をすることができた。

最初から核心に触れる。

「君は未咲じゃない。裕里でしょ?」

「…あ、…え?」

「ごめん。最初からわかってた。同窓会で見かけたときから」

「……そうなんですか?」

「君が未咲になりきってるのがおかしくて、つい、その嘘につきあってしまったわけ。でもそのせいで君のおウチにいらぬ波風を立ててしまいました。ほんと、ごめん」

「いえいえいえ、そんな。嘘をついてたあたしが悪かったんです」

「どうしてそんな嘘ついたの? そこが一番知りたくて。それで来たようなもんだ」

裕里は急に神妙な顔になり、何か言いづらそうな声で、こう言った。

「実は……姉が亡くなりまして」

「…え、…いつ?」

こうして、僕はようやく君の身に何が起こったのかを知ることになる。

僕から君を奪った阿藤陽市と結婚した後、君や君の子供たちが阿藤の暴力に苦しんでいたこと。

20年間以上も耐え続けた君の心が、すっかりボロボロになってしまっていたこと。

2年前、子どもたちと実家に戻ったあとも、君の精神状態がずっと不安定だったこと。

……うつ病は回復せず、最後は自分で命を絶ったこと。

 

すべての元凶たる阿藤は、鮎美のSOSを受けた裕里が家に乗り込んでいくと「お茶が切れてる」といって外出し、それから消息不明なのだという。

「いまだにどこに行ったのかさえわかりません。姉は……そんな男に人生をめちゃくちゃにされたんです。心の傷は治らなくて。何度も手首を切って。そして、最後は山の中で……。悔しいなあ。あなたが結婚してくれてたら……」

 

裕里と別れて、帰路につく。

太陽は山の彼方に落ち、西の空は真っ赤に染まっていた。

……ああ、君がもうこの世にいないなんて。

あまりにもショックで、僕はうまくそのことを受け止められないでいた。

 

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旧友

君がもうこの世界にいないだなんて……。

しばらくの間、まったく考えがまとまらなかった。

それでも僕が動き出したのは、小説の取材に出かけるためだ。

僕が君のためにできることがあるとすれば、小説を書くことくらいしかないのだから。

 

僕が向かったのは、かつて君が阿藤や子供たちと住んでいた家。

それはくたびれたアパートの一室で、僕は少なからずショックを受けた。

他の部屋には誰も住んでいないようだったが、君が住んでいた204号室には生活の気配があった。

郵便物を見てみると、あて先の名前には「阿藤陽市」と書かれてある。

と、その時、204号室の扉が開いた。

「何か用ですか?」

出てきたのは見知らぬ女。

話してみると、驚いたことに女は阿藤と一緒にこの部屋に住んでいるのだという。

女はいつの間にか阿藤に僕のことを連絡していて、なぜか僕は仕事終わりの阿藤と外で飲むことになった。

 

安っぽい居酒屋に足を踏み入れると、阿藤はもう席に座っていた。

「久しぶり!元気だったか?」

相変わらず堂々とした態度だ。

今も昔も、阿藤には人を惹きつける魅力のようなものがある。

成功者のみがまとうオーラのようなものがある。

……だからこそ、僕も君も阿藤に騙されてしまったのだ。

 

「未咲、死んだぞ」

僕が告げると、さすがの阿藤も神妙な顔をした。

「……そうか」

「お前はウチの学生でもなかったそうだな。お前はいったいなんなんだ?」

僕が迫ると、阿藤はニヤリと笑ってビールをあおった。

「俺はな、何者かになりたかったんだな、きっと」

当時、阿藤は大学の学食で働いていた中卒の労働者だった。

大物になることに憧れながらも、それを叶えられない日々の中で、いつしか阿藤はのんきな大学生たちに恨みを抱くようになったのだという。

そこで阿藤は、大学生の中でも最も美しかった未咲を奪うことにした。

僕からじゃない。大学から、学生全員から、奪うことにしたのだという。

……まさか、そんな陰湿な思惑があったとは。

阿藤と友人として過ごした日々がよみがえる。

血の気が引き、悪寒が全身を駆け回った。

「けどよ、奪ってはみたものの、つまらない女だったよ。いっつも怯えた目でオレを見てやがった。そりゃ時には手も出るさ。子どもが2人いてな。またこいつらが汚れのないようなふざけたまなこで見やがるんだ。あんな目で見られたら、自分がほんっとーに、汚らしい、忌まわしい、ろくでもない人間に思えてくる。出ていってしばらくして家に帰ってみると、誰もいなかった。何かになりたかったオレは、何者でもないモノになってた。亭主でもない、父でもない、ろくに仕事もしてねえ、なにもかもを人のせいにして、結局自分の人生なのにさ、なにやってんだオレ」

何物にもなれないと悟った阿藤は、最後にはすべてを放り投げることにしたのだという。

肉体労働をして、酒を飲んで、煙草を吸う。

そんな人生でよしとしたのだという。

「どうだ、オレの人生は? 面白いだろ? え? 小説にかけよ。いい取材になったろ?」

僕は阿藤という名の毒に冒されて身じろぎひとつできなかった。

不覚にも涙が頬を伝った。

そんな僕に不意に阿藤の平手が飛んできた。

阿藤が僕の頬を叩いたのである。

ハッとして阿藤を見ると、阿藤の瞳には慈悲の色が浮かんでいた。

「書けるわけないだろう。悪いけどな、人の人生なんてな、お前のチンケな本に収まりきるもんじゃねえんだよ」

阿藤がトイレに行った隙に、僕は一万円札をテーブルに置いて店を後にした。

逃げ出したのは結局、僕の方だった。

たいして飲んでもいないのに路上で嘔吐した。

完敗という二文字が頭に浮かんだ。

俺は負けたのか。

何に負けたんだろう。

それすらわからなかった。

 

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手紙

東京に帰る前に、廃墟になった中学校を見ておくことにした。

僕と、君と、裕里が過ごした思い出の中学校。

校舎の中に足を踏み入れると、あの頃の記憶が甦ってきた。

 

卒業式を控えた3月の初め。

生徒のいない放課後の下駄箱で、僕は君に背後から呼び止められたのだ。

「ねえ、手伝ってほしいことがあるんだけど、時間ある?」

君が僕に手渡したのは、一枚の原稿用紙。

「卒業生代表のね、スピーチの原稿なんだけど、どうしてもピンと来なくて。手伝ってくれないかな」

「なんで僕なの?」

そう聞かずにはいられなかった。

「だって君、作文上手じゃん」

「そんなの言われたことないよ」

「あの手紙、自分で書いたんじゃないの?」

「読んだの?」

「読んだよ。全部。自分で書いたんでしょ?」

「ああ」

「素敵な文章だったよ」

動揺した。胸が高鳴った。顔が真っ赤になったに違いない。

かくして僕は君の卒業式のスピーチを手伝うことになったのだ。

お互いにアイディアを出し合って、文章を書き起こしてゆく作業は至福だった。

出来上がった文章を読み上げる君の声を、その一言一句を、僕はまだ覚えている。

……そんな思い出の校舎も、今は埃まみれで、壁は剥げ落ちていた。

 

校舎の中を歩いていると、人影が見えた。

二人の少女。

……夢、なのだろうか?

その顔は、どうみてもあの頃の君と裕里にしか見えない。

「あ、あの、君たち」

僕がそう言った瞬間、君にそっくりな少女が声を上げた。

「あれ? もしかして鏡史郎さんですか?」

僕は息を呑んだ。その声もまた君そっくりだった。

僕がうなずくと、少女は言った。

「やっぱり!……私、未咲の娘の鮎美です」

隣にいた裕里にそっくりな子が続く。

「あ、あたし、裕里の娘の颯香です」

なるほど。君や裕里にそっくりなわけだ。

しかし、なぜここに?

「なぜって近所ですから」

聞けば、2人はいま君の実家にいて、裕里から押し付けられた大型犬の散歩をするためによくここを通っているということだった。

「それにしても未咲と裕里によく似てる。タイムスリップでもしたのかと思ったよ。でも君たちはなんで僕のこと知ってるんだい?」

僕が尋ねると、鮎美は不意に頭を下げた。

「手紙を書きました。母のかわりに。なりすまして。ごめんなさい」

颯香もあわてて頭を下げる。

「ごめんなさい!」

またひとつの謎が解けた。

ずっと君だと思っていた手紙。

あの手紙を送ったのは、この子たちだったのか。

 

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何を思ったのか、鮎美は僕を実家に案内すると言い出した。

「……是非、母に会ってあげてください」

2人に導かれ、君の家へと歩く。

玄関を抜け、奥の間に入ると、君の遺骨と遺影が祭壇に据えられていた。

線香を立て、手を合わせ、目を閉じる。

2人に断って、部屋に一人きりにしてもらうと、僕は実に24年ぶりに君と向かいあった。

ずっと望んでいた再会。

それなのに、君はもうこの世界にいない。

君は……馬鹿だよ。君は、馬鹿だ。

そして、僕も。

僕は、君に何もしてやれなかった。何もできなかった。

阿藤の言うとおりだよ。

僕は最初から最後まで、蚊帳の外にいたんだ。

ごめん。

悔しいよ。

……いつのまにか、涙があふれていた。

 

ふと、部屋に小さな書棚があることに気づく。

この奥の間は君が臥せっていた場所だというから、君の書棚だろう。

並べられた本の中に、見覚えのある背表紙が見える。

間違えるはずがない。

『未咲』だ。

そうか……君は、この本を買って読んでくれていたのか……。

ふと視線を感じて顔をあげると、颯香がドアの隙間から覗いている。

「これね、僕が書いた小説なんだ」

「え?」

その言葉をきっかけに、颯香と鮎美が部屋に入ってきた。

「『未咲』!知ってた? これ」

颯香が驚いて尋ねると、鮎美は頷いた。

「読みました。その作者が乙坂鏡史郎さん。手紙をいただいたときに、すぐにわかりました。あの本書いた人だって」

「……そうか」

「私は……最初にこれを読みました」

鮎美はいつの間にか両手に古い靴箱を抱いていた。

ふたを開けると、中には古い封筒の束が入っている。

僕は息を呑んだ。

ひと目見て、それが何かわかった。

「覚えてますかこれ? 鏡史郎さんからの手紙です」

鮎美は靴箱を僕のすぐ横に置いた。

ひとつ手に取ってみる。

紛れもなく、それは癖の強い僕の書いた字だった。

「その手紙、この本と同じ内容なんですけど偶然ですか?」

「この小説を少し書くたびに清書して彼女に送ったんだ。彼女に読んでもらうために書いた小説だったから。……読んでくれてたんだ」

「読んでました。何度も何度も。母の宝物でした。私も何度も読みました。母に対する愛情がすごく伝わってきました。あなたがお父さんだったらよかったのに」

大粒の涙が宝石のように鮎美の瞳にあふれていた。

「いろいろ、つらいときも、あったんですけど、母をモデルに小説を書いたこの人が、いつか、きっと、この人が母を迎えに来てくれるって気がして。それ思ったら、なんかすごく、がんばれました。もっと早く来てほしかったけど。でも、母も喜んでると思います」

鮎美の瞳から宝石の涙がこぼれた。

その姿に君を泣かせてしまった大学時代の朝が去来する。

颯香は鮎美の隣でやはり大粒の涙を流している。

裕里を泣かせてしまった中学時代の夕暮れが去来する。

僕の中で記憶のダムが決壊したかのようだった。

関係あることないこと、いろんな記憶が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。

ああ、人生とはなんという奇遇の連続で成り立っているのだろう。

なんという巡り合いの積み重ねによって出来上がっているのだろう。

もはや耐えられず、僕は不覚にも泣いてしまった。

あどけない2人の涙の前で。

 

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遺書

僕は東京に帰るのを先延ばしにした。

まだまだ、取材したいことが山ほどあったから。

あれから、裕里と何度か会った。

夫婦の関係は無事修復できたらしく、新しいスマホを持っていた。

考えてみれば、すべては裕里が同窓会に来たことから始まっている。

彼女と再会できていなければ、僕は何も知らないままだった。

「なんか……ありがとう」

僕の言葉に、裕里はきょとんとしていた。

「なにが?」

「なんか、もう少し続けてみようかと思い始めてる。小説家を」

その言葉を聞いた裕里の顔が、あまりにも素直に喜んでいたので、僕は思わずその場にへたり込みそうになった。

僕にとってはそんな簡単なことでもないし、そんな簡単に喜んでもらっても。

とはいえ、難しく考えるのはいつも作る側だけだと決まっているのだから、彼女の笑顔の方が正解だ。

 

鮎美と颯香にも何度か面会した。

2人からも色々な話を聞かせてもらった。

こうして取材したエピソードも加えて、若干の、いや、相当な仮定や空想も交えて、この物語を書いた。

君が見ることの出来なかった、君の人生の後日譚だ。

 

「あの卒業式の母の答辞、あれが母の遺言でした」

そう言うと、鮎美は一通の手紙を見せてくれた。

封筒の表には『鮎美、瑛斗へ』とだけ書かれていた。

裏を見ると『母より』と書かれている。

君の遺書だ。

中を見ると、なんということだ。僕と君と2人で作ったあの答辞の原稿じゃないか。

それ以外には何も入っていなかった。

遺してゆく我が子2人に君が送った最後の手紙が、あの原稿とは、一体どういう意味なんだい?

どういうメッセージを込めたんだい?

これだけは君に訊くしかない。

君が答えてくれないなら、僕はいつまでもこの疑問を問いかけ続けるだろう。

君にも、自分自身にも。

 

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答辞

本日私たちは、卒業の日を迎えました。

中学時代は私たちにとって、おそらく生涯忘れがたい、かけがえのない想い出になることでしょう。

将来の夢は、目標はと問われたら、私自身、まだ何も浮かびません。

でも、それでいいと思います。

私たちの未来には無限の可能性があり、数え切れないほどの人生の選択肢があると思います。

ここにいる卒業生、ひとりひとりが、いままでも、そしてこれからも、他の誰とも違う人生を歩むのです。

夢を叶える人もいるでしょう。

叶えきれない人もいるでしょう。

つらいことがあった時、生きているのが苦しくなった時、きっと私たちは幾度もこの場所を想い出すのでしょう。

自分の夢や可能性がまだ無限に思えたこの場所を。

お互いが等しく尊く輝いていたこの場所を。

 

卒業生代表 遠野未咲

 

<Last Letter(ラストレター)・完>

 

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まとめ

岩井俊二監督の最新作「Last Letter(ラストレター)」

今回は原作小説から映画のあらすじ・ネタバレをお届けしました!

描写的に、おそらく鏡史郎や未咲の年齢は40代後半。

すっかりいい大人な主人公が中学時代や大学時代を振り返るさまは、大人なら誰もが共感できるものだと思います。

甘酸っぱかったり、苦かったりする青春時代の思い出。

作品全体にノスタルジックな雰囲気が漂っているせいで、きっと観客は自分の青春時代を思い出さずにはいられないことでしょう。

その体験は、甘酸っぱいにせよ、苦いにせよ、きっと悪くないものだと思います。

そんなわけで映画「Last Letter(ラストレター)」はかつて青春を過ごした大人世代に強くお勧めしたいですね。

 

さて、そんな映画「Last Letter(ラストレター)」ですが、注目はやっぱり豪華なキャスト!

最初に発表された4人の役どころは次の通り。

・松たか子……岸辺野裕里(現在)

・広瀬すず……遠野未咲(過去)、遠野鮎美(現在)

・福山雅治……乙坂鏡史郎(現在)

・神木隆之介……乙坂鏡史郎(過去)

面白いことに、広瀬すずさんは一人二役、福山雅治さんと神木隆之介さんは二人一役を演じるわけですね。

また、映画では松たか子さん演じる現在の裕里が主人公ということで、今回の鏡史郎目線のあらすじ紹介とはまた違った見え方になることと思います。

これだけのキャストが揃う邦画というのも近年なかなかないですし、間違いなく「Last Letter(ラストレター)」は話題作になることでしょう。

公開中に劇場で見ておかないと損をする映画になりそうです。

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 - 小説, 映画

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