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『真夜中乙女戦争』あらすじネタバレ解説!黒服の正体とは?【映画原作小説】

F『真夜中乙女戦争』を読みました!

最初に結論からいうと、すごくおもしろかったし好きでした。

  • 青春小説
  • 恋愛小説
  • 犯罪小説

そのすべてに当てはまるような、一風変わった作品です。

今回はそんな小説『真夜中乙女戦争』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします!

既読の方におかれましては、感想や黒服の正体についての考察をぜひご覧になってください。

※目次からジャンプできます

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

忘れがちなことだけど、行きたい所には行ってみる。

会いたい人には会ってみる。

家で思い出はできない。

バカげていると思っていたことほどやると楽しい。

寂しい時は寂しさを盾に甘えに行ってもいい。

風呂は風呂に入るまでがめんどくさいように、旅は旅に出た後あんまり後悔しないので割と行った方がいい。

でも、それでも解決しない問題がある時、私たちは戦争するしかない。

 

20XX年12月25日未明――東京は、あと一分で終わる。

愛していると言えないうちに。

ストーリー解説【ネタバレ】

物語の主人公は18歳の男子大学生です。

名前は不明で、作中では「私」としか書かれていません。

それでこの早稲田大学の一回生がどんなやつなのかというと、一口に言って「めんどくさい奴」です。

  • ひねくれてる
  • こじらせてる
  • 5年遅れの中二病

彼は毎日インスタを更新する人間を軽蔑し、東京タワーの展望台でいちゃつくカップルを憎悪し、高い授業料に見合うとは思えない大学の講義を「つまらない」と一蹴します。

当然、彼に友達はいません。

当然、彼に恋人がいたことはありません。

彼は苦学生であり、文系のくせにハードな肉体労働のバイトをしたりしていて、辛うじて大学に通えています。

せっかく上京したというのに、遊ぶ金も、ちょっとばかり贅沢する金もありません。

ゆっくり眠るための時間も、ゆっくり眠るための精神的な余裕もありません。

人生がちっとも前に進んでいない感覚。

もしかしたら何者にもなれず、何事をも成しえないのではないかという焦燥感。

彼は不眠症で、目の下にはいつも大きなクマがあります。

「俺には好きなものがないんだ。命がけで好きになれるようなものが一つも。それがなくて、ずっと困ってるんだ」

主人公たる「私」はとにかく自己評価が低くて「自分なんて空っぽだ」と思っています。

不眠はそのことに焦っているからで、むやみに攻撃的な性格はそのことから目を逸らしたいからなのでしょう。

彼の悩みは堂々巡りを続けるばかりで、いつまでたってもネガティブ思考から抜け出すことができませんでした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

私とはなんだ。どうすれば、普通になれるのだろう。必要とされるのだろう。

存在自体が許され、愛されるのだろう。

全員に愛されたいわけではない。極少ない、愛されたい人に愛されればそれでいい。

そんな普通の人間になりたいと思うことさえ凡庸極まる悩み、贅沢なのだろうか。

あるいは、もう普通さえ目指すには遅すぎるのだろうか。

普通は、私には普通ではなかった。

ぱんだ
ぱんだ
こじらせてる……

先輩

主人公は「先輩」に恋をします。

サークル(かくれんぼ同好会)の先輩である彼女は就活も終わった4回生で、名前は不明です。

真夜中のように真っ黒な髪をショートにした、非常に憂鬱で美しい顔立ちをした女。私が東京に来て、初めて関心を持てた人間が彼女だった。

主人公は「この先輩は大学に溢れかえる量産型女子大生とは一線を画した存在であるらしい」と直感的に悟ります。

一方、先輩のほうもそんな彼のことを(なぜだか)気に入ったようで、年上の余裕たっぷりにデートしてくれたりします。

いつもは社会や他人に唾を吐きかけてばかりの主人公も先輩の前でだけはたじたじで、二人が描かれているシーンだけを読むとまるで甘酸っぱい恋愛小説のようでもありました。

はじめてのデートの行き先は東京タワー。

それなりにいい雰囲気だったのに、主人公は先輩と手をつなぐこともできませんでしたし、先輩に彼氏がいるのかどうか聞くこともできませんでした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

お礼の文章を書いては消して、書いては消してを繰り返していたら、先に向こうからLINEが来てしまった。

「今夜はありがとう。楽しかった。あたし絵文字も顔文字も苦手で使わなくて、だからなんかすごい冷たい感じに見えるかもしれないけどね、でも、そうじゃないからね。気を遣ってくれてありがとう。いつか東京タワーを滅ぼす前夜には私に連絡してね。燃える東京タワーとか、インスタにアップしたいから。ご褒美にアイス奢ってあげるから」

そのメッセージの横に、まるで首を突き出して待ちわびていたかのような速さで既読が付いてしまった。

慌てて、書いていた文章を送り返す。

 

「東京タワーまで付き合ってくださり、今日はありがとうございました。僕の夢だったんです。東京タワーに誰かと行くこと。いつかまたどこかに行きませんか。次はぜひ先輩のお好きなところに行きましょう。アイスはすぐに奢ってください。ピノが良いです。空から降る三千のピノがあなたに墜落しますように。良い夢を」

(中略)

携帯にその夜、最後の通知があった。

「ねえ、東京タワーに行くのって、誰でもよかったの?」

そして三秒ほど置いて、「冗談だよ、愛」と来て、私もかろうじて「愛」と返した。

ぱんだ
ぱんだ
両想いかな?

黒服

「黒服」は主人公や先輩と並ぶこの物語の最重要登場人物です。

黒服はちょっと飛びぬけたやつで、大学生にして一生遊んで暮らせるだけの資産を持っています。

大金持ちですね。

それも親の遺産とかじゃなくて、メルカリ転売から始めて、マッチングアプリを開発したり、株の運用で利益を出したり、ぜんぶ自分一人の能力で稼いだというのですから驚きです。

とはいえ、夢のようなお金持ちになれたというのに、本人はそんなに嬉しそうではありません。

ありていに言って、彼は人生に心底退屈していました。

彼は何をやっても上手くいってしまいます。

バイクを盗んで無免許で運転して速度違反で警察に追われても、彼は難なく逃げ切ってしまいます。

破天荒というか、アウトローというか。

ひょんなことから主人公と黒服は友だちになります。

なにもかも正反対のような二人ですが、「東京なんてぶっ壊れてしまえばいい」という思想だけは同じでした。

めったに他人に心を開かない主人公ですが、黒服だけは特別です。

絶対的な自信とカリスマと行動力を持つ黒服のことを、主人公は誰よりも尊敬しています。

黒服と主人公が初めて会った日の会話をちょっとだけご紹介しましょう。

※以下、小説より一部抜粋

…………

(黒服)「幸せになりたいと願う人間が、いつまでも幸せになれない理由を知ってるか?」

「見当もつかない」

「今の自分は全く幸せではない、と自分で自分を呪い続けるからだ」

私は沈黙した。

「幸せになろうとすればいつまでも幸せになれないように、普通の人生や普通の恋愛や普通の生活に憧れた時点で、おまえはもう絶対にそれを手に入れられない。断言してもいい。そもそも人間は普通には生きられない。普通を望むのは、奇跡を望むに等しい。仮に、おまえが完璧に普通を生きおおせたとする。でもそれって楽しいか」

ずっと私が誰かの口から聞きたかったのは、こんな話だったのかもしれない。

 

「誰にそんな普通幻想を埋め込まれたのか知らないが、おまえはこうあるべきだ、という台詞には、だからどうしたと言ってやれ。SNSなんて無料で見れる他人のクソだ。他人と比較してもお前の価値は上がりもしないし下がりもしない。おまえは、自分で自分の値段を決めろ。どうなったら幸せかは誰も教えてくれない。だから何が幸福化、自分で決めないといけないんだよ」

 

「TOEICの点数はおまえの知性を意味しない。国家資格の取得も就職も給料も結婚もおまえの幸福を何も約束しない。恋だの何だのもおまえを救わない。でもたとえば今ラーメンが来る。箸を割る。そんな瞬間を幸福だと断言できるような感性が、賭けが、信念が今のお前には絶対に必要なんだ。それは本には書いていない。自分で探して、自分で作るしかない。その工程を邪魔するものは全部邪魔なんだ。でも、それでも邪魔はやってくる。そんな時、どうすればいいか分かるか」

これが最高の出会いだったのか、最悪の出会いだったのか、今となっても分からない。

「俺たちがやらなければいけないことは、たった一つだ」

 

「戦争だ」

真夜中乙女戦争

黒服はまず廃墟ビルの内装を整えて、私設映画館をつくりました。

上映時間はいつも真夜中。

やがて映画館には十人十色に人生につまずいている若者たちが集うようになります。

黒服には彼らの親身に話を聞いてやったり、時に金を貸してやったり、時に人を紹介してやったりしました。

当然、悩める客たちは黒服に最大限の感謝を捧げます。

そうして映画館を訪れる客たちは黒服を崇拝する「常連」ばかりになっていきました。

さて、ここまではあくまで下準備。

黒服の計画はここからが本番です。

  • 大学の喫煙所に火を放つ
  • 講義棟の廊下をワックスまみれにする
  • 創設者の銅像をヴィヴィッド・ピンクに染め上げる
  • 偽の休講メールを送る

戦争と呼ぶには小規模で、いたずらと呼ぶにはかなり迷惑なゲリラ活動。

大学はたちまち大混乱に陥りました。そして……

結果的に私たちは身の危険を感じた総勢数百十名の教授、その講義の無期限自主休講に成功した。

「高い授業料の割につまらない」と主人公が唾棄した講義は、こうして大学から消え去りました。

彼らレジスタンスの勝利です。

しかし、黒服の目的は大学への破壊工作などではありませんでした。

日に日に「常連」たちで構成される秘密組織の規模は大きくなり、今では総勢100名を越え、他大学に支部までできています。

警察からもマークされていて、もはや立派な犯罪集団(あるいは革命軍)という趣です。

(黒服)「金閣寺は朱雀町の大学にいる奴らにもう一度燃やされる。清水寺にバンジージャンプ台が設置されるのも時間の問題だ。年内にディズニーランドは確実に閉園に追い込む。キャストにも俺たちの仲間を送り込んでおいた。新しいポップコーンの味を出す予定だ」

破壊工作は、もはや冗談の域を完全に超えています。

黒服は次なる計画を「真夜中乙女戦争」と名づけました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

クリスマス・イヴが終わりクリスマスが始まる深夜、関東数ヶ所の発電所を爆破して、この世から不要なネオンを消す。

同時に、六本木ヒルズ・スカイツリー・サンシャイン60・都庁の展望台・ミライナタワーの屋上に同時に放火し、その様子を東京タワーの展望台で鑑賞する。

この混乱に乗じて、仮想通貨取引所も攻撃する。

この大それた計画は、「真夜中乙女戦争」と名づけられていた。

そして、その実行が数時間後に迫っていた。

 

「死人が出るじゃないか」

「だからどうした」

「だからどうしたじゃないだろ。死人が出るんだぞ」

黒服は乾いた笑い声で言う。

「当たり前だ。人間、死ぬときは死ぬ。今夜が世界の転換点となり、俺たちの転換点にもなる。思い出せ。これは遊びじゃない。悪戯じゃない。嫌がらせでもない。れっきとした、戦争だ」

 

かつて黒服が私に渡した長期計画表によれば、来年の計画の概略とは、こうだった。

全国の動物園は襲撃。囚われの動物は解放する。ペットショップも保健所の動物も。

一度でもブラック企業だと噂された企業の経営者は常連らが誘拐し徹底的に虐め抜く。

週刊誌の記者は誘拐され生まれてきたことを後悔するほどの拷問を受ける。週刊誌を買うような人間もきっと常連は見逃さない。

全業種の民間企業に潜入、あるいは潜伏済みの常連が、オフィス内の文明品を木端微塵に破壊し、粉飾決算も優良誤認も所得隠蔽も数値改竄も製品瑕疵も燃費詐称も何もかもを告発する。

でも私たちは正義に興味はない。

東証一部の株価は暴落する。

それが終われば今後は官公庁や各党本部・地方裁判所の爆破だ。

でも私たちは政治に興味はない。

それでも計画に死人を出す予定は一つもなかったはずだった。

「これは革命だ。革命に死人が出ない方が不思議だ。無血革命など、ありえない。そして俺たちの辞書に、敗北の文字はない。この戦争には、圧倒的に勝つ」

ぱんだ
ぱんだ
戦争というかテロよね

結末

主人公は黒服たちの《組織》を裏切ります。

大勢が犠牲になる大それた計画についていけなくなったから……ではありません。

主人公は冗談抜きで国家転覆を目論むような、そんな黒服のことを心底(友人として)愛していました。

それでも主人公が黒服たちと敵対した理由は、「先輩」のためです。

主人公は組織の攻撃目標から先輩の名前を削除し、こっそりと彼女を守っていました。

※攻撃といっても「内定を取り消させる」というものですが……

しかし、それは組織の「掟」に逆らう行動です。

常連たちはみんな計画に熱狂していて、計画に命をかけ、計画と結婚していました。

主人公一人だけが私的な理由から異性を庇っていたとなれば、忠誠心が不足しているということになり、つまり組織を裏切っているも同然という理屈です。

黒服か、先輩か。

主人公にとってそれは究極の二択でした。

もともと主人公は人生にも東京にも絶望していた側の人です。

「いっそぶっ壊れてしまえばいい」という想いは本物でした。

しかし、先輩と出会ったことで主人公の心境は変化しています。

私は決心した。彼女だけは誰にも傷つけさせない、と。

主人公は先輩を選び、組織を裏切りました。

 

クリスマス・イヴが終わるまで、つまり「真夜中乙女計画」が始まるまであと数分。

主人公は東京タワーの展望台で、黒服と向き合います。

「これは俺たち全員が望んだことだ。もちろん俺が望み、そしておまえが死ぬほど望んだ未来でもある」

黒服の言葉は何も間違っていません。

実際、クリスマスになったその瞬間、発電所が爆破され東京の街並みから一斉に明かりが消えると、主人公は黒服とまったく同じことを思いました。

「「この瞬間のために生まれてきたんだ」」

それでも、主人公はもう決心しています。

階下では何も知らない組織の末端が、主人公の命令で東京タワーに火を放っていました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

鉄の燃える匂いが、辺りに立ち込め始める。

もうじき、ここも火の海になる。

スチール製のゴミ箱を片手に取って、窓ガラスを叩き割った。煙が外に逃げていく。

「この俺を消してもなんの意味もない」

「分かってる」

「何をしても無駄だ」

「分かってる」

「むしろ俺が消えることで、あいつらはもっと暴れる。それが俺の本望だ」

「それも分かってる」

「あの女を守ってもなんの意味もない」

「そうかもしれない」

私は続けた。

「おまえには感謝している」

黒服は咳き込み、そうして自分の胸を搔きむしり始めた。

「でも僕が最初からやるべきだったのは、おまえを燃やすことだった」

黒服は持っていた煙草を捨てたが、その口から、ずっと煙が出続けていた。

熱い、熱い、熱い。そう惨たらしく呻きながら、彼の膝は地面に落ちた。

このシーンの疑問点は下のほうで考察しています。

クリスマス・イヴ前夜

少しだけ時間を戻して、12月23日のことです。

主人公は久しぶりに先輩とデートしていました。

いつも凛々しくて聡明でクールな先輩ですが、この日は明らかに様子が変でした。

酒を浴びるように飲んだり、生まれて初めてのクラブで踊り狂ったり、なんだかヤケクソ気味というか自暴自棄というか、何かあったに違いありません。

先輩がぐでんぐでんに酔っぱらって歩けなくなってしまったので、主人公は仕方なくラブホテルで休ませることにしました。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

「あたしのこと好き?」

「好きじゃなかったら、こんな場所に一緒にいません」

「あたしに恋人がいても?」

私が全く驚かなかったことに、私は驚いた。

「むしろ先輩に恋人がいない方が不思議です」

「それもそうだね」

「最低ですね。そういうところ好きです」

「ありがとう」

先輩には恋人がいました。

そして先輩は主人公のことも好きなのだと、悲しそうに言いました。

「あたしには恋人がいて、君とこんなことをして、とっくの昔から君のことが好きなのに彼のことも好きで、でも彼はもうあたしには勃たなくて、あたしはそんな彼を壊したいと思えないのにでもお互いに全然嫌いになれない。別れたいとも思えない。もう、終わったも同然なのにね。その愛ももう、灰みたいになっててさ」

先輩は出会い系の経験もあるといいます。

「一晩だけなんて山ほどあるんだよ」

端的に言って、先輩は絶望していました。

愛し愛されるために生まれてきたはずなのに、永遠の愛なんてない現実に絶望していました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「僕は先輩のことが好きです」

「ごめんね」

何が。

「大好きです」

「したいの?」

「そういうことじゃない」

「じゃあどういうこと」

「そういうことじゃないんです」

「じゃあなんなの、あたしたちは」

「きっと、ちょっと似た者同士だったんです。それ以上でもそれ以下でもありません」

「愛してるよ」

「もう寝ましょう」

「君も寝てね」

「おやすみなさい」

先ほどまで身体で暴れていたアルコールから痛みだけが頭にろ過され、残っていた。

先輩は寝言で、誰かの名前を呟いた。

でもそれは、私の名前ではなかった。

先輩はこのあと組織にさらわれます。

主人公は組織と敵対する決意を固めて、東京タワーで待つ黒服に会いに行くのでした。

※蛇足ながら、ホテルで朝目覚めた主人公は裸でした。お察し、ということで。

ラストシーン

場面は再び炎上する東京タワー展望台。

黒服を倒した(?)はいいものの、主人公もうかうかしていると東京タワーと心中になってしまいます。

地上に生きて戻るには、下階の火の海、そこを通って、エレベーターで下りるしかない。

あるいはここから飛び降りるかだ。

まさに絶体絶命の大ピンチ。

さらに携帯を確認してみると主人公の裏切りは早くもバレていて、常連たちの攻撃リスト、その一番上に主人公の名前が記されていました。

無事に地上に戻れたとして、彼が生き残れる可能性は極めて低いでしょう。

けれど、悪いことばかりでもありません。

さらわれたと思い込んでいた先輩は、単にホテルの別の部屋に移されていただけでした。

物語のラストシーン。

主人公は燃え盛る東京タワーの展望台で、先輩に電話をかけました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「君は今どこにいるの」

「東京タワーです」

「どうして」

「初デートが懐かしくて」

「意味が分からない」

横を見る。黒服はもうそこにいなかった。

「先輩」

「なに」

「そうか僕の話を聴いてもらえますか。すぐに終わります」

目が完全に慣れた。

「うん」

「先輩にとってはたぶん、最悪なことです」

黒を切り裂くようにして、視界に閃光が走り、この鉄塔も揺れた気がした。

「うん」

たった今爆破されたのは六本木ヒルズだろう。

「たぶん先輩の内定は明日か明後日にも取り消されます」

「うん」

「先輩に内定を出した会社も、明々後日には爆破されます」

「うん」

「それだけじゃありません」

「うん」

遠くで音もなく横に倒れていくのは都庁だ。

「大学もその他オフィスも近々、全部消えてなくなります」

「うん」

眠るように倒れるのはサンシャイン60だろう。

「本もなくなります。彼らは生協も図書館もこの世から消すはずです」

「うん」

「そもそも地下鉄も山手線も一つ残らず動かなくなります」

「うん」

レインボーブリッジの上では、何発もの花火が上がっている。

 

「あと、先輩が本当はビッチだったってこと、僕は一生、許せないと思います」

「うん」

「あの時はカッコつけちゃいましたけど」

電話の向こうで、やっと先輩が笑った。

「なんとなく、君の仕業じゃないかって思ってた。思ってたけど、だけど」

「それでも信じてくださり、ありがとう」

「誰も君のこと、絶対に許さないと思う」

「はい」

「あたしも君のこと、絶対に許さない」

「光栄です」

「もう死ねばいいと思う」

「そのつもりです、僕も」

「本当に最低だよね、君は」

でも、と前置きし、先輩は言った。

「生きているなら、今は、それでよしとしてあげるよ」

<完>

感想

「いったいこれはなんだったんだ???」

最後の一行、最後の一文字まで読んでも、わたしの頭の上にはたくさんの「?」が浮かんだままでした。

  • 結末の解釈
  • 黒服の正体
  • 作品のテーマ

一読しただけはスッキリと答えを得ることができず、しかも二度三度と読んだところで見えてくるものがあるのかどうかも怪しそうです。

ただし、ひとつだけ言えることもあります。

それは「なんだかよくわからないけど、いい本だった。好きか興味なしかに分類するなら、断然大好きだし、読んでよかった」ということです。

 

『真夜中乙女戦争』はいわゆる小説というカテゴリーから明らかに逸脱しています。

人生の真理が書かれているようであり、

Twitterでバズりそうな共感度MAXな140字の羅列のようでもあり、

愛についての物語のようでもあり、

かと思えば実のところエンタメに振り切った作品のようでもあります。

わたしはこれまでいろんな本を紹介してきましたが、この本に関しては「読まないとわからない」と言うほかありません。

この作品では全体を貫く物語というよりも、作者のセンスが主役であるという気がします。

  • 人生とは
  • 愛とは
  • 幸せとは

誰もがなんとなく抱えている無名の悩みやもやもやを切り取ってズバッと鋭く言語化した、そんな印象をわたしは『真夜中乙女戦争』から受けました。

 

繰り返しますが、この物語の真骨頂は読んでみてこそです。

一応あらすじをご紹介しましたが、いってしまえば上澄みをすくっただけにすぎません。

本書は大学生から圧倒的な支持を受けているそうです。

読み終わった今、その理由はよくわかります。

「若い人におすすめの一冊は?」と聞かれたら、きっとわたしはこの本のタイトルを口にするでしょう。

 

 

黒服についての考察

黒服とはいったい何者だったのでしょうか?

結論からいえば「彼は東京タワーだったのだろう」というのが妥当な答えという気がします。

『真夜中乙女戦争』におけるキーワードの一つは「東京タワー」でした。

主人公は毎日のように東京タワーを見に行っていましたし、先輩との初デートの場所として選んだり、果ては東京タワー宛てにラブレターまで送っています。

主人公は東京タワーに魅入られていて、東京タワーを愛したり憎んだりしていました。

ある意味、先輩よりも東京タワーの方が物語のヒロイン然としています。

 

話を「黒服=東京タワー説」に戻しましょう。

物語のラストシーンをふり返ってみると、こんな場面がありました。

黒服は咳き込み、そうして自分の胸を搔きむしり始めた。

「でも僕が最初からやるべきだったのは、おまえを燃やすことだった」

黒服は持っていた煙草を捨てたが、その口から、ずっと煙が出続けていた。

熱い、熱い、熱い。そう惨たらしく呻きながら、彼の膝は地面に落ちた。

このとき、黒服と主人公は同じ状況下に置かれているのに、明らかに黒服だけが激しく苦しんでいます。

ここで黒服が東京タワーであると仮定してみましょう。

彼が「熱い」と苦しんでいるのは東京タワー(自分自身)が燃やされているからであり、煙草を捨てても口から煙が出ているのも同じ理由からだとすれば納得できます。

このあと黒服は主人公が目を離したわずかな時間でいなくなっているのですが、彼が東京タワーの化身(妖精?)だったのなら、やはり説明がつきます。

まだまだ、理由はあります。

たとえばこの台詞↓なんかもそうですね。

「もう何十年もこの景色を見てきた。でもそれも今日で終わりだ。人間が作り上げてきた永遠は今夜一瞬で終わる」

一見普通のセリフのようですが、大学生である黒服が「何十年も」と口にするのはどこか不自然です。

東京タワーが設立されたのは1957年(昭和32年)

黒服の言う「何十年」というのは20年そこらの人生のことではなく、下界を見下ろしてきた六十余年のことを指しているようにわたしには思われました。

 

そして最後にもうひとつ。

実のところ、黒服はけっこうわかりやすく答えを開示してくれています。

以下、すべて黒服が主人公に言った台詞です。

「そしてこれは最も重要なことだが、俺はお前が俺と会う前まで、どこで何をしていたかも知ってる」

「おまえは俺と会う前、俺に何度も会いに来てくれた」

「それに俺にラブレターも送っている」

支離滅裂なセリフのようでもありますが、黒服が東京タワーだとすれば意味が通ります。

黒服の正体は東京タワーだったのです。

もうちょっと深掘り

黒服の正体が東京タワーだとして、それはどんな文脈での東京タワーだったのでしょうか?

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと?

つまり、付喪神のように東京タワーが意志を持った存在だったのか、それとも主人公の内面の東京タワーが具現化した存在だったのか、ということです。

仮に前者を客観的東京タワー、後者を主観的東京タワーとしましょう。

黒服の正体が客観的東京タワーだとすれば、数々のテロ行為は東京タワーそのものの意思だということになります。

まあ、自然破壊とかなんとか人間を攻撃する理由はありそうですが、わざわざ主人公の前に現れた理由には説明がつきません。

一方、黒服の正体が主観的東京タワーだとすれば、そもそも主人公の内面(深層心理?)と結びついた存在であるため、彼が主人公の前に現れるのは当然です。

黒服は主人公しか知らないはずの言葉(※)を知っていましたが、その理由にも説明がつきます。

※「言葉も、おまえも、役に立たない」「すべては終わる。おまえには意味はない」

よって、わたしは黒服とは主観的東京タワー、つまり主人公が生み出した東京タワーの概念(化身)だったのではないかと思います。

この文脈において、数々の破壊行為は(無意識下にせよ)主人公が望んだことということになります。

現に「真夜中乙女戦争」によって一瞬真っ暗になった東京を見て、主人公はこう思っていました。

「この瞬間のために生まれてきたんだ」

最後の先輩との電話にしてもそうです。

「なんとなく、君の仕業じゃないかって思ってた。思ってたけど、だけど」

「それでも信じてくださり、ありがとう」

「誰も君のこと、絶対に許さないと思う」

先輩は内乱の責任を主人公に問い、主人公はそれを認めます。

具体的に黒服や常連たちが本当に実在したのか、あるいはぜんぶ主人公の手によるものだったのか、そのあたりのことははっきりとしません。

ただ、本作における主人公はただ流されていただけではなく、むしろすべての源泉であり元凶だったのではないかと思われます。

あなたは黒服の正体や主人公との関係についてどのように考えましたか?

コメントで教えてくれると嬉しいです!

ぱんだ
ぱんだ
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まとめ

今回はF『真夜中乙女戦争』のあらすじネタバレ解説(と感想)をお届けしました!

いろんな要素がてんこ盛りの物語でしたが、映画版のキャッチコピー↓はこの一冊の魅力をよく表していると思います。

『青春映画史上、恋愛映画史上、犯罪映画史上、最高に過激で孤独な美しい夜更かしの物語』

大学生から圧倒的な支持を受けている本作、未読の方はぜひチェックしてみてくださいね。

個人的な感覚なのですが森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』の雰囲気が混ざっているように思いました。全然方向性違うはずなんですけどね。

映画情報

キャスト

  • 永瀬廉(King & Prince)
  • 池田エライザ
  • 柄本佑

公開日

来冬劇場公開

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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POSTED COMMENT

  1. 明けの空 より:

    納得できる部分と、釈然としない部分とあるわけで…。
    映画の方は、それなりに変更部分があると原作者も話しておられたので、どうなるか、楽しみですね。

    黒服=東京タワーの考察は私もそう思います。
    私の空想、妄想の一部なのか…はたまた実在するのか、その辺、どう描かれるのか楽しみですね。

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