貴戸湊太『そして、ユリコは一人になった』を読みました!
結論からいえば、期待以上におもしろかったです!
貴戸湊太『そして、ユリコは一人になった』
まぁ~~~~おもしろかった❗️❗️
教科書のように丁寧な学園ミステリで、推理小説読む人なら犯人はすぐわかると思う
ちょっともの足りないかな、と思ったんだけど
エピローグにぜんぶ持ってかれた!🤩
イヤミス好きにおすすめです👍#ブログ書きます pic.twitter.com/5z8tZ8BiLr
— わかたけ@読んでネタバレ (@wakatake_panda) February 10, 2020
↑でつぶやいているように、畳みかけるようなラストは必見!
今回はドラマ化も決定している『そして、ユリコは一人になった』のネタバレをお届けします。
本記事には作品のネタバレがどっさり含まれています。
「そんなにおもしろいなら読んでみようかな」という人は今すぐAmazonへGO!
Contents
あらすじ
百合ヶ原高校には「ユリコ様伝説」がある。
ユリコという名前を持つ生徒は超常的な力で守られ、逆らう者には不幸が訪れる。
ただし、ユリコ様になれるのは一人だけ。
ユリコが二人以上いた場合、彼女たちも不幸な目にあって転校や退学をし、一人だけが残る。
新入生の百合子は伝説を聞いて怯えるが、親友の美月に単なるオカルトだとなだめられる。
しかし、ユリコという名の生徒が屋上から落下し――。
(文庫背表紙のあらすじより)
あらすじの補足(伏線)
ユリコ様の条件
ユリコ様になれるのは「下の名前の読みがユリコの生徒」だけです。
なので、
- 由利小太郎(ゆり・こたろう)
- 岼子美咲(ゆりこ・みさき)
といった名前の場合、ユリコ様になることはできません。
ただし、↑のふたりのように惜しい「ユリコ」の名前を持つ生徒は「白百合の会」に入会することができます。
白百合の会
白百合の会は「ユリコ様」を信奉する非公認サークルです。
特別棟四階の化学準備室が部室で、ユリコ様伝説の記録がおもな活動になっています。
現在、会員は二人(+顧問の先生)
名前 | 備考 |
由利小太郎 | 二年の男子 小柄 |
岼子美咲 | 三年の女子 小柄 |
高見沢友利夫 | 顧問の化学教師 三十代半ば 背が高い |
由利と岼子はもともといじめられていたのですが、ユリコ様の力によっていじめの主犯が《不幸》になったため、ユリコ様を崇めるようになりました。
一言でいえば「ユリコ様信者」ですね。
高見沢先生の名前は「ゆりお」ですが、ニアミスなのでOKだそうです。
ユリコ様伝説の起源と背景
1970年、初代ユリコがいじめと失恋を苦に屋上から飛び降りたのが伝説の始まりです。
現在まで続くユリコ様の不思議な力は「初代ユリコの怨念」によるものだとされています。
なお、百合ヶ原高校はもともと女子高でした。
ユリコ様の権威があるため、共学になって久しい今もなお校内には女性優位の風潮が色濃く残っています。
※共学化は1998年。作中の西暦は2018年。
今年のユリコ様候補
今年のユリコ様候補は五人。
昨年までユリコ様だった三年の筒美友里子の他は(当たり前ですが)全員一年生です。
- 矢坂百合子(主人公)
- 松沢佑璃子
- 岸ゆり子
- 西島揺子
先にネタバレすると、百合子以外の一年生候補は次々に亡くなっていきます。
彼女たちは息を引き取る前に「ユリコ様にやられた」と言い残していました。
これはユリコ様の呪いなのか?
それとも殺人事件なのか?
百合子は親友の美月と一緒に事件の謎に迫っていく……というところでネタバレスタートです!
ミステリとしては、美月が探偵役で百合子がワトソン役です。
推理をするのはもっぱら美月のほう。
百合子はクラスでいじめられて孤立しているので、美月だけが頼りです。
ふたりは小学生のときから親友で、百合子が名門校である百合ヶ原高校を受験したのも、美月と離れたくないからという理由でした。
ネタバレ
- 松沢佑璃子……屋上から転落
- 岸ゆり子……階段から転落
- 西島揺子……頭に砲丸が直撃
どの事件現場でも「三つ編みで、セーラー服の下に赤いシャツを着た人影」が目撃されていました。
それは「ユリコ様の力を借りられる」とされる格好で、校内では
- 三年の筒美友里子(去年のユリコ様)
- 一年の矢坂百合子(主人公)
がその髪型と服装をしています。
しかし、友里子には動かぬアリバイがありますし、もちろん百合子も犯人ではありません。
第三者がマネしようと思えばすぐにできる格好ですし、この情報だけで犯人を絞り込むことは不可能です。
あらためて第一の事件に目を向けてみると、目撃された「三つ編み赤シャツ」の人物は、密室状態の屋上から忽然と姿を消していました。
『犯人はどうやって屋上から脱出したのか?』
この謎を解くことが、犯人を突き止める大きな一歩になります。
屋上密室の謎
犯人が松沢佑璃子を屋上から突き落としたとき、屋上の扉には鍵がかかっていました。
つまり、犯人は屋上に閉じ込められていたことになります。
しかし、教師が鍵を開けて屋上に出たときには誰もいませんでした。
犯人がピッキングで屋上の扉を開けた可能性はありますが、逃げる前に再びピッキングで施錠した……とはちょっと考えにくいですよね。
さて、犯人はどうやって屋上から脱出したのでしょうか?
以下は、読者に(けっこうわかりやすく)提示されたヒントです。
◆
・屋上のひとつ下は特別棟四階。
・特別棟四階にある化学準備室は、常に窓が開けられている。
・化学準備室の窓枠には「焦げた糸くずのついた制服のボタン」が落ちていた。
・松沢の転落騒ぎと時を同じくして、特別棟の裏手では火事騒ぎが起きていた。
・燃えていたのはセーラー服、スカート、赤いシャツだった。
※セーラー服はMサイズだった
◆
犯人が屋上から脱出した方法はわかりましたか?
このあとすぐ答え合わせなので、推理したい方は今のうちに!
はい、では答え合わせです(短っ!)
犯人が屋上から階下の化学準備室に逃げたことはすぐにわかったと思います。
ただ、問題はその方法です。
いくら階下の部屋の窓が開いているとしても、道具がなければ降りられません。
そこで犯人は着ていた服を結びあわせてロープにしました。
無事に脱出したあとは、化学準備室からロープの下端に火をつければ証拠隠滅もできます。
屋上のフェンスの結び目は焼き切れ、火のついた制服は裏手に落ちて火事になった……というのが事件の真相でした。
ただし、この推理にはまだ穴があります。
セーラー服・スカート・赤シャツを失った犯人は、いったい何を着ていたのでしょうか?
屋上の扉に鍵がかけられた(密室に閉じ込められた)のは、犯人にとって計算外の出来事でした。
だから、あらかじめ予備の制服を用意していたとは考えられません。
とっさに体操服や化学準備室の白衣を着たとも考えられますが、それではあまりに目立ってしまいます。
実は、この謎こそが犯人を特定する大きな手がかりになるのですが、今はいったん保留にさせてください(続きは記事後半で)
初代ユリコの日記
白百合の会が保管していた「初代ユリコの日記」
美月はこの日記を読むことで犯人はおろか、その犯行動機まで見抜いてしまいました。
結論からいえば、この日記には「ふたつの嘘」が含まれています。
日記の《嘘》を見破ることができれば、一連の事件の真相はもうすぐそこです。
では、少しだけ日記の内容を見てみましょう。
◆
1970年 ユリコ記す
・クラスの女の子がかわいらしい髪留めをしていたので見とれていたら、気味悪がられた。私ってそんなに変だろうか。
・私はかわいい女の子になりたい。長い黒髪をなびかせて、そよ風のような微笑みを浮かべたい。でも、実際のところ私はそうじゃない。そのことが悲しい。
・休み時間にこっそり『赤毛のアン』を読んでいると、クラスメートに見つかってしまった。クラスの皆は大声で笑った。私には相応しくないらしい。つらくて少し泣いてしまった。クラスの皆は女々しいと言って笑った。
・精一杯おしゃれをして学校に行った。アンをモチーフにした、かわいらしくて女の子らしい格好だ。でも、皆には笑われ、先生からもきちんとした身なりをするようにと言われた。女の子らしくいたいだけなのに。悲しい。涙がこぼれた。
・私を笑っていた女の子が、怪我をして入院したらしい。近所の図書館の屋上にいたところを突き落とされたそうだ。犯人は若い男で、高校生ぐらいだったという。ひやっとしたが最後までクラスメートの噂話を聞いてほっとした。
・今日は足元に水を掛けられ、制服がびっしょり濡れて大変な目に遭った。どうしてここまでするのか。そんなに私が憎いのか。
◆
「あれ?」と引っかかることはありましたか?
答え合わせの前に、まずは日記の続きを簡単にお伝えしますね。
ご覧のとおり初代ユリコはいじめられていたのですが、やがて敵対する女子たちが相次いで怪我をするようになります。
※現場ではいつも高校生くらいの若い男が目撃されていました。
「ユリコと敵対すると不幸になる」と気づいた女子たちはいじめをストップするのですが、ユリコが渡部という男性教師と恋愛関係にあることが露見すると、再びユリコを「不潔」と攻撃し始めます。
やがて問題が大きくなると、渡部はユリコを捨て、学校からも去ってしまいました。
こうしてユリコはいじめと失恋を苦に屋上から身を投げて……日記はそこで終わっています。
さて、それでは日記に隠されていた《嘘》の答え合わせといきましょう。
日記に隠されていた嘘
『実は初代ユリコは男だった』
これが一つ目の嘘の正体です。
日記にあった
- かわいい髪留めを見ていたら気味悪がられた
- 女の子らしい服装をしたら教師から注意された
- クラスのみんなから女々しいと笑われた
という記述からも推測できますし、
『足元に水を掛けられて制服が濡れた』
という一文からは、ユリコがスカートではなくズボンを身に着けていたということがわかります。
つまるところ、初代ユリコは男性の肉体と女性の心を持つトランスジェンダーだったんですね。
ユリコという名前はおそらく偽名。
渡部教諭との交際が大問題になったのは、生徒と先生という関係以上に、ふたりが男性同士だったからです。
小文字の注釈まで含めてこの記事を読み飛ばさなかったあなたには、もうお分かりのことと思います。
- 初代ユリコが屋上から身を投げたのは1970年
- 百合ヶ原高校が共学になったのは1998年
女子高だった1970年の百合ヶ原高校に、男子生徒はいませんでした。
つまり、二つ目の嘘の正体は……
『日記は1970年に書かれたものではなかった』
です!
初代ユリコが百合ヶ原高校に入学したのは、少なくても1998年以降。
今回は割愛しましたが、日記の中に海の日(1996年施行)が出てくることからも、実際の年代が1970年ではないと判断できるようになっていました。
もちろん!
次はいよいよ犯人の正体がわかる解決編です!
犯人
実のところ、犯人はかんたんに特定できるようになっています。
というのも、化学準備室の窓が常時解放されていると知っているのは白百合の会の関係者だけだからです。
犯人は屋上密室から化学準備室に逃げているので、
- 由利小太郎
- 岼子美咲
- 高見沢友利夫
のうちの誰かが犯人ですね。
で、ここからの絞り込みなのですが、屋上密室の最後の謎を覚えていますでしょうか。
『着衣をロープにした犯人は、そのあと何を着ていたのか?』
不審な目撃証言がないことから、犯人はセーラー服を燃やしてしまったにも関わらず、いつもの服装でいられたと推測できます。
ここから展開される推理は次のとおり。
- 犯人はセーラー服の下に本来の服を着ていた?
- つまり、セーラー服は犯人にとって仮装だった?
- 犯人はセーラー服を日常的に着てはいない人物
- 犯人は男性である
女生徒である岼子美咲が犯人だった場合、セーラー服の下にセーラー服を着る意味がありませんよね。
これで容疑者は二人にまで絞り込めました。
由利小太郎か、高見沢友利夫か。
どちらが犯人なのか見分けるための材料は、実はもう(こっそりと)提示しています。
「屋上密室の謎」のときに小さく書いていたのですが、燃えていた(犯人が着ていた)セーラー服は女子のMサイズでした。
上背のある高見沢が着るには小さすぎるサイズです。
一方、由利小太郎は男子にしては小柄な体型でしたよね。
※「あらすじの補足」を参照
というわけで、犯人は由利小太郎です。
目撃者が違和感を持たなかったことからも、犯人は一般的な女子生徒と変わらないシルエットだったと考えられます。この点からも小柄な由利小太郎が犯人であると推理できます。
犯行動機
由利は「ユリコ様」になりたいと強く願っていました。
しかし、どんなに由利が望んでも候補者になることすらできません。
そこで由利は候補者全員を手にかけ、校内にひとりも「ユリコ」がいない状況をつくり出すことにしました。
特に「ユリコ」不在のときのルールはないので、自分が「ユリコ様」になれるような新しいルールをつくるつもりだったんですね。
では、なぜ由利はそこまでして「ユリコ様」になりたかったのでしょうか?
- 自分をいじめていた人間への復讐
- 女性優位の風潮を覆すため
- 特権を手に入れて校内を支配するため
いろいろ思いつきますが、本当の動機はこのうちのどれでもありません。
由利は初代ユリコが男性であったことに気づき、その在り方に深く共感していました。
なぜなら、由利もまた初代と同じく女性の心を持っていたからです。
由利の初代ユリコへの憧れ(信奉)は日に日に強まり、やがて初代ユリコと同じ存在になりたいと願うようになりました。
由利が「ユリコ様」になりたかったのは、初代ユリコと同一化したいという願望のためだったのです。
ユリコ様伝説の謎
由利は逮捕され、百合ヶ原高校を震撼させた一連の事件は終結しました。
しかし、まだ謎は残っています。
由利による「候補者殺し」の他にも、ユリコ様にまつわる《不幸》は起きていました。
- 百合子をいじめていた女子が怪我をする
- 友里子に楯突いた女子が屋上から身を投げる(命に別状なし)
- 身の危険を感じてノイローゼになった筒美友里子が百合子を排除しようとして逆に屋上から転落する(命に別状なし)
これらは結局、本物のユリコ様の呪いだったのでしょうか?
そもそも
- ユリコが一人になるように自然淘汰される
- ユリコ様に反抗する人間には不幸が訪れる
という現象は、これまでずっと続いてきたことです。
※白百合の会が十数年にわたる詳細な記録を保管しています
由利の事件は人為的なものでしたが、「ユリコ様伝説」そのものは本物だったのでしょうか?
答えは「No」です。
由利の事件は氷山の一角にすぎませんでした。
今回の事件、そして連綿と続いてきた「ユリコ様伝説」は、裏で糸を引く黒幕によって仕組まれたものだったのです。
黒幕の正体
ユリコ様伝説の継続期間を考慮すれば、黒幕が生徒ではないことは明らかですよね。
この記事では最低限の登場人物しか紹介していないので、怪しい人物はひとりしかいません。
そう、黒幕の正体は化学教師であり、白百合の会の顧問でもある高見沢友利夫!
「ユリコ様の呪い」は高見沢が演出していたまやかしだったのです。
◆
たとえば、屋上から身を投げた三年女子の浅香樹里。
彼女は遺書に「先生の期待を裏切るくらいなら死んだ方がマシだ」と書いていました。
浅香樹里は友里子に反抗的だったので、呪いのせいで受験ノイローゼになって飛び降りたのだ、と誰もが解釈しました。
屋上から突き落としたのならまだしも、狙った相手を受験ノイローゼにさせることなんて、ふつうはできませんからね。
ただし、浅香樹里の担任教師だった高見沢の場合、話が変わってきます。
高見沢は浅香樹里に対して過度な期待(プレッシャー)をかけることで、受験ノイローゼになるように仕向けたのでした。
遺書にある「先生」という単語は、不特定多数の教師を指した言葉ではなく、高見沢を意味する言葉だったんですね。
◆
由利が一連の事件を起こすように誘導したのも高見沢です。
由利が初代ユリコと同じ心の性別だと見抜いた高見沢は、わざと日記の《真実》に気づくよう誘導しました。
- 由利が初代に深く共感し、「ユリコ様」に憧れるようになること
- 目的達成のために候補者を次々手にかけること
すべては高見沢の狙い通りでした。
◆
では、高見沢はなんのために「ユリコ様伝説」を演出していたのでしょうか?
美月はその理由までしっかり見抜いていました。
「なぜなら、先生自身が初代ユリコ様だからです」
高見沢の年齢は三十代半ば。
共学化した1998年に入学した高校生だったとすれば、年齢はピッタリです。
また、浅香樹里や筒美友里子がそうであったように、百合ヶ原高校の屋上から飛び降りても、生き残る可能性は十分にあります。
そして「ユリオ」という名前も、「もじってユリコになる初代の本当の名前」としては違和感がありません。
『高見沢 = 初代ユリコ = 黒幕』
これが由利の事件の裏に隠されていた、もうひとつの《真相》です。
黒幕の目的
いじめと失恋。
辛い記憶が残る百合ヶ原高校に、高見沢は教師になって戻ってきました。
それは何故か?
復讐のため、ではありません。
女性の心を持つ高見沢にとって、(共学になったばかりで)女性優位の風潮がある百合ヶ原高校は居心地がよかったのです。
ところが、共学化から数年も経てば、男女のパワーバランスは自然と対等なものへと変わっていってしまいます。
そこで高見沢は「ユリコ様」という絶対的な君臨者をつくりだすことで、女性優位の風潮を守ることにしました。
- 校内の「ユリコ」をひとりだけにする自然淘汰
- 「ユリコ」に歯向かうものに訪れる不幸
高見沢は人知れず、生徒たちに危害を加え続けてきました。
そう、かつて自分を攻撃してきた女子たちを手ずから不幸にしてきたように。
初代ユリコの日記で目撃されていた「高校生くらいの若い男」という犯人像は当時の高見沢自身だったのです。
◆
高見沢は十数年にわたって《不幸》を演出し続けてきましたが、人命を損なうような事件だけは起こしていませんでした。
それなのになぜ今年は、由利を操って殺人事件まで起こさせたのでしょうか?
それは「ユリコ様伝説」を信じる生徒が少なくなってきていたから。
せっかくユリコ様と敵対する人間を不幸にしても「偶然だろう」で片づけられてしまえばそれまでです。
このままではユリコ様のカリスマは失われ、女性優位の伝統が消えてしまう。
焦った高見沢はどんな手段を使ってでも全生徒にユリコ様を信じさせたいと考えました。
とはいえ、さすがに自分で生徒の命を奪うのはリスクが高すぎます。
そこで高見沢は由利を焚きつけて今回の事件を起こさせた、というのが本当の真相でした。
◆
美月はすでに高見沢の犯行を裏づける物証を警察に提出していました。
近いうちに高見沢は理想郷だった百合ヶ原高校から追放され、犯罪者として逮捕されることでしょう。
ガックリとうなだれた高見沢は最後に言い訳がましく訴えました。
「全部の不幸を私が演出したわけじゃない。私が何もしていないのに、不幸が起きることはたびたびあった。やはり超常的な存在としてのユリコ様は実在するんだ」
◆
「結局、超常的なユリコ様はいたってことなのかな?」
百合子の問いに対し、美月はきっぱりと言い切ります。
「そんなもの、いるはずがないわ」
美月は噛んで含めるように百合子に説明しました。
「高見沢先生の言う、勝手に起こった不幸っていうのは、ユリコ様の力に乗じて、嫌いなやつを嫌な目に遭わせてやろうっていう第三者のやったことよ。ユリコ様を隠れ蓑に、これ幸いにと嫌がらせをしたんだわ。そうでなくては、高見沢先生一人ではユリコ様伝説は持たない」
「言うなれば、ユリコ様というのはこの学校全体の悪意のことね。目に見えない悪意が集まって、ユリコ様という虚像を作り上げたんだわ」
結末
事件が終わってみると、校内に残った「ユリコ」は百合子だけになっていました。
一連の事件は由利と高見沢によるものではありましたが、大多数の生徒は事件の真相を知らないまま。
むしろ、事件の前後で比べてみると(高見沢の思惑通り)以前にもましてユリコ様伝説を信じる生徒の数は増えているようでした。
「ユリコ様」になってしまった百合子は自然と孤立してしまい、美月以外の生徒は誰も近寄ってきません。
「大丈夫よ、百合子」
不安がる百合子の肩に優しく手を置き、美月は言います。
「何があっても私が守ってあげる。だって、百合子は私の大切な友達だから」
百合子はその言葉に安心し、美月さえいてくれれば他には何もいらない、と思うのでした。
◆
思わず「おわり」と打ってしまいそうになりましたが、小説にはまだエピローグが残っています。
そして実は、小説『そして、ユリコは一人になった』の本番はここからです。
どうぞラスト一行までお見逃しなく。
エピローグ
エピローグの舞台は白百合の会の部室。
たった一人の会員になった岼子が、美月に語りかけます。
「よくよく考えてみると、あなたの行動はおかしいのよ」
今回、すべての謎を解明したのは美月です。
最初から最後まで美月には一点の迷いもなく、まるで美月のシナリオ通りにことが進んでいるかのようでした。
その鮮やかさは『完璧』というほかありません。
しかし、であるならば、美月はなぜ「ユリコ様伝説」が校内に残るような幕引きを選んだのでしょうか?
美月には確かに「ユリコ様伝説」を消滅させるチャンスがあり、それを実現するだけの能力も兼ね備えていました。
それなのに、なぜ?
答えはひとつしかありません。
美月は由利と高見沢を排除しておきながら、意図的に「ユリコ様伝説」を残したのです。
「仮にそうだとして、私がそんなことをする動機は何ですか」
まるで追い詰められた犯人のような美月の問いに、岼子は間髪入れず答えを返します。
「矢坂百合子さんを操って、あなた自身が陰でこの百合ヶ原高校を支配するためよ」
計画のすべて
読者にもわずかながらヒントが与えられていました。
- 美月と百合子は小学生からの親友である
- 百合子は美月に依存している
- 美月が生まれたとき、美月の母親は18歳だった
- 美月の母親はなぜかいつも百合ヶ原高校の話ばかりをする
「あれ?」と引っかかることはありましたか?
このあとすぐ、戦慄の答え合わせです。
美月の母親である嶋倉優梨子は、かつて百合ヶ原高校のユリコ様候補でした。
候補だった、という言葉からもわかるように嶋倉優梨子はユリコ様を巡る争いに敗れ、退学しています。
十八年前(西暦2000年)のことです。
その後、優梨子は転校先で男子と親しくなり、卒業と同時に美月を出産します。
優梨子は我が子に「ユリコ」と名づけたかったのですが、母娘どちらも「ユリコ」となってしまうため叶いませんでした。
ならば、と優梨子は幼い美月に命じました。
「ユリコという名前の女の子と仲良くなりなさい」
優梨子は「ユリコ様」への執念に憑りつかれ、すっかり狂ってしまっていました。
美月に拒否権はなく、母の望むようにふるまうしかありません。
美月は百合子を手なずけ「自分に従順なユリコ」に仕立てあげました。
すべては母がなれなかった「ユリコ様」を意のままに操るため。
最後に、美月が探偵役として事件を解決した(できた)本当の理由ですが、これについては岼子のセリフを引用することにしましょう。
◆
ひょっとしたら由利君や高見沢先生のことも事前に気づいていたのかしら。
それでいて放っておいて犯行に及ばせ、最後の最後で罪を暴いてみせた。
矢坂百合子がユリコ様になった時、特に高見沢先生は良き理解者として親しくなってしまう恐れがあったからね。
あくまで、矢坂百合子は一人ぼっちにしておいて、そこにあなたが手を差し伸べ、陰でコントロールする。
そういう計画だったんじゃない。
◆
エピローグは美月の視点で描かれているため、岼子の言葉を受けて美月が心の中でどのように思ったのか、読者は知ることができます。
岼子のセリフに対して、美月は心中でこのように反応しました。
『全くもってその通りだった』
鳥肌のラスト一行
美月は岼子に睡眠薬を盛られていました。
目が覚めると、そこは百合ヶ原高校の屋上。
岼子がそこから美月を落とすつもりなのは明らかですが、まだ美月の身体には力が入りません。
「どうして、私を……殺すの」
「神聖なるユリコ様を、裏で操って貶めたからに決まっているでしょう」
岼子もまた「ユリコ様」に憑りつかれた人間の一人でした。
「ユリコ様」のためなら殺人までいとわないという異常さは、まさに狂信者さながら。
「ああ、ユリコ様。私はあなたのためにこの無礼な女を殺します。その後は警察に自首してこの学校を去りますが、あなたは私のことをずっと覚えていてくれますよね」
恍惚とした表情の岼子は、ためらうことなく美月を屋上から突き落としました。
落下しながら、美月はいろんなことに思いを馳せます。
自分は助からないだろうという静かな諦め。
ユリコ様の呪縛からやっと解放される喜び。
そして、百合子のこと。
地面に激突し、薄れゆく意識の中、美月は「ひとりぼっちで残される百合子が可哀想だな」と思います。
美月にとって百合子は利用すべき道具でしたが、それがすべてではありませんでした。
ふとした瞬間、ただの友人として楽しく笑いあえた瞬間も、たしかにあったのです。
「……百合子」
美月は最後にかけがえのない友人の名前を呼ぼうとしましたが、喉からは血があふれるばかりで言葉になりませんでした。
…………
一方その頃、百合子はテニス部の練習中。
部活が終わったら美月とおいしいクレープを食べにいくのだ、と浮かれながらボール集めにいそしんでいます。
ユリコ様を巡る争いは終わり、そばにはいつも大切な美月がいてくれる。
今の百合子には一抹の不安もありません。
だから、グラウンドのほうが急に騒がしくなったことなど、百合子は気にもしませんでした。
物語の最後は、次の一行でしめくくられます。
…………
そして、百合子は一人になった。
<完>
感想
まぁ~~~おもしろかったですね!
なんといっても特筆すべきはあのエピローグです。
- 美月の母親の狂気
- 美月が百合子を利用していたこと
- 美月が屋上から落とされること
この真実そのものにも驚かされるのですが、それ以上に《描き方》に感動しました。
岼子に真相を言い当てられるときの美月の心情描写は、読んでいるこっちにも緊張が伝わってくるようでしたし、
なによりあの屋上から落下するシーン!
これは今回のネタバレを読んでもわからないのですが、あるひとまとまりの文章がプロローグとまったく同じになっているんです。
プロローグは初代ユリコ(高見沢)が屋上から身を投げたシーン。
エピローグは美月が屋上から突き落とされたシーン。
まったく違う状況なのにぜんぶの言葉がどちらの心情にもピタリとあてはまっているんですね。
このリフレインに気がついたときには、一瞬でテンションがMAXになりました!
この感動は実際に小説を読まないとわからないと思うので、気になった方はぜひご自身の目で確かめてみてください。
※ネタバレ読んだ後でも楽しめると思います。
まとめ
今回は貴戸湊太『そして、ユリコは一人になった』のネタバレをお届けしました!
では、最後にまとめです。
- 犯人は由利小太郎
- 黒幕は初代ユリコだった高見沢友利夫
- 美月の目的はユリコ様になった百合子を裏から操る存在になることだった
ちなみに貴戸湊太先生は今作がデビュー作です。
※2020年第18回「このミステリーがすごい! 大賞」U-NEXT・カンテレ賞受賞
何度も言うようですがあのエピローグには心底しびれたので、次回作にも期待しています!
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初めましてテセウスの船のネタバレ検索してるときにこの記事を見つけてからすっかりハマってネタバレが気になるドラマや小説を検索しては記事を読んでます
文章本当に上手ですね分かりやすい
ぱんださんも可愛い
>みさきさん
はじめまして!
いくつも記事を読んでくれたんですね。嬉しいです!
ぱんだくんも褒めてもらえてご満悦の様子です(笑)
ユリコはドラマで知ったのですが、原作も気になり、、、。
さっそくネットでポチッとしたのですが、結末が気になってしまって
この記事にたどり着きました‼
記事を読んだ後、原作も届き読みました。
とても上手くまとめられていて、驚きました‼
>ドラマ大好き人間さん
ありがとうございます!
ユリコはドラマも小説もいいですよね!
ドラマでは美月が死ぬとこまで描けてないのですね。校務員役の佐藤二朗は特に意味はないのでしょうか?