切ない・泣ける

『明け方の若者たち』あらすじネタバレ解説!この恋には秘密がある【映画原作】

カツセマサヒコ『明け方の若者たち』を読みました!

結論からいいます。

めっっっちゃよかったです!!

最初は『花束みたいな恋をした』と同系統の恋愛小説かと思っていたんですが、とんでもない!

20代前半の青春の酸いも甘いも描かれた物語には、予想外すぎる《秘密》がありました。

今回はそんな小説『明け方の若者たち』のあらすじがまるっとわかるネタバレ解説(と感想)をお届けします!

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

明大前で開かれた退屈な飲み会。

そこで出会った彼女に、一瞬で恋をした。

本多劇場で観た舞台。「写ルンです」で撮った江の島。IKEAで買ったセミダブルベッド。フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり。

世界が彼女で満たされる一方で、社会人になった僕は、”こんなハズじゃなかった人生”に打ちのめされていく。

息の詰まる満員電車。夢見た未来とは異なる現在。深夜の高円寺の公園と親友だけが、救いだったあの頃。

それでも、振り返れば全てが、美しい。

人生のマジックアワーを描いた、20代の青春譚。

(単行本帯のあらすじより)

 

補足

『明け方の若者たち』の主要な登場人物は3人だけです。

  • (主人公)
  • 彼女(ヒロイン)
  • 尚人(親友)

最後まで読んでも【僕】と【彼女】の名前はわかりません。

少しややこしいのですが、以下の解説でも【僕】【彼女】と表記します。

ネタバレ

物語は王道のボーイミーツガールから始まります。

「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」

退屈な飲み会から抜け出して、深夜の公園で2人だけの酒盛り。

初対面の【彼女】はそれはもう魅力的で、完全に一目惚れでした。

まるでこれまでの恋がぜんぶ偽物だったみたいに、

生まれて初めて恋をしたみたいに、

出会った日の別れ際には、【僕】はもうすっかり【彼女】に夢中でした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

LINE IDを交換すると、丸いアイコンに切り取られた、今より髪の長い彼女の写真が僕のスマホに表示された。

それまで味気なかった携帯が、満を持して生まれた愛くるしい生き物のように、愛おしい存在として生まれ変わった気がした。

 

「ありがと。じゃあ、またね」

最終電車が、彼女を迎えにくる。改札前は、名残惜しさを包んだ空気がパンパンに膨らんでいた。

「また、飲みいこ?」寂しさや悲しみをできるだけ遠ざけるように言うと、「うん、絶対」と、彼女も笑顔を返した。

その笑顔が嘘じゃないなら、たとえ他の全てが嘘であっても許せそうな気がした。

 

ホームへ向かう階段を、彼女が上っていく。

たまにこちらを振り向くと、大きく手を振った。姿が完全に見えなくなるまで、何度もそれを繰り返して、僕らはお別れをした。

2人が出会ったのは2012年の春。僕は大学4年生で、彼女は大学院生でした。

人生の全盛期

あの日から始まった彼女との時間は、底の見えない沼であり、僕の人生の全盛期だった。

のちにこう↑振り返るように【僕】と【彼女】の関係はとんとん拍子に進んでいきます。

初めてのデートは下北沢で観劇。

サイゼでワインを飲んで、さてこれからどうしようという時間。

「初デートでホテルに誘うのもなぁ」とまごつく【僕】に、【彼女】が言います。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「あのね」

満を持して、というよりは、しびれを切らして、に近かったかもしれない。

彼女は頼みごとをするように、遠慮がちに僕に言った。

「もうちょっと押してくれたら、いいかも?」

「えっと、うん?」

なんと答えていいかわからず、間抜けな相槌だけが、口から漏れた。

言葉の意図を理解したら、今度は彼女の本心が、理解できなくなった。

「え、押して、いいの?」

「うん、試しにね。ちょっとだけ」

「じゃあ、あの、えっと」

誘導尋問みたいなやりとりに戸惑いながら、言われたとおりに言葉を選ぶ。

「よかったら、朝まで、一緒にいませんか?」

「はい、お願いします」

…………

こうして2人は初デートのその日に一線を越えました。

「すげー好き」

彼女は、僕が「好き」という言葉を呟くたび、体を悶えさせた。

あとはもう、ラブラブ一直線です。

その日から僕と彼女は、毎日のように連絡を取り、毎週のように会ってはどこかに出かける関係になった。

本当に単純な性格で呆れるけれど、散々使い古されたJ-POPの歌詞のように、これまで飽き飽きするほど退屈だった日常が、彼女と出会ってからはすべてが真新しく見えるようになっていた。

まさに人生の全盛期!

時にインドアに、時にアウトドアに、青春ど真ん中の恋人たちはそれはそれは楽しそうに季節を過ごしていきます。

夏から秋へ、冬から春へ。

大手印刷会社に就職した【僕】は高円寺に八畳1Kの部屋を借りて、小さなアパレルブランドで働き始めた【彼女】と半同棲生活を始めました。

就職してからは【僕】の会社の同期であり悪友でもある尚人も含めて、若者たちは飲んだり歌ったり、体力の限りに笑い、遊びました。

この時点で最初の出会いから約2年間が経過しています。2014年ですね。

一転

時間はさらに進んで、2015年の夏。

小説でいえば3章から4章へと切り替わったタイミングで、物語は急に手のひらを返します。

あれほど順風満帆に恋していた【僕】が、

これ以上ないくらいに幸せそうだった【僕】が、

数か月も【彼女】に会っていないというのです。

ぱんだ
ぱんだ
えっ!?
  • お互い社会人になったから
  • つき合って3年くらい経って落ち着いたから

思い浮かぶ理由がないでもないですが、それにしたって遠距離恋愛でもないのに数か月も会わないなんてやっぱり変ですよね。

しかも、電話やLINEもほとんど音信不通状態だというのですから、ますます「どうしちゃったの!?」という気持ちが強くなってきます。

物語を読み進めてみると、案の定というか、関係が疎遠になっているのは【彼女】側の都合のようでした。

※ただし、詳しい事情はまだわかりません。

そんなわけで当然【僕】の気持ちは沈みっぱなしです。

【彼女】と過ごした充実した日々を思い出しては、現実とのギャップに憂鬱になっての繰り返し。

【僕】は仕事でもミスを連発し、人生の全盛期から一転、暗い顔で日々を過ごしていました。

彼女の秘密

実は小説の読者としては「僕と彼女が別れる」という結末は、最初からわかっていました。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

雨が降った日には、彼女を思い出すことが多い。

なぜかとふり返ってみれば、霧雨でも、台風でも、大抵の雨の日は、なぜか二人でいることが多かったからだ。

各章のはじめには↑みたいな【僕】のモノローグがあって、「今はもう彼女と一緒にいないんだな」という状況が透けて見えていたんです。

だから問題は

  • どうして別れたのか?
  • 何があったのか?

ここにあります。

伏線らしき描写としては「彼女は僕を自分の家に入れなかった(=僕は彼女の家に入ったことがない)」というものがありました。

さて、これが身の回りの恋愛話だとして、あなたなら何を一番に疑いますか?

ぱんだ
ぱんだ
うーん……

状況証拠から判断すると、浮気か、二股か、いずれにせよ別の男の影があるような気がします。

【彼女】にとってはそっちが本命で、【僕】は遊び相手だった……?

実にありそうな話ですが、この仮説には納得できない部分もあります。

【僕】と【彼女】は約3年間ほぼ毎日のように会っていました。

そのうちの1年間は【僕】の借りた部屋で、半同棲状態だったんです。

とても他に男がいたとは思えません。

それになにより【僕】と【彼女】の恋愛はほんとに楽しそうで、二人とも裏表なく心から笑っていて、これ以上ないってくらい愛しあっているように見えました。

【彼女】が嘘をついていたり、演技をしていたり、【僕】を裏切っていたとは思えませんし、思いたくありません。

ぱんだ
ぱんだ
じゃあ、なんなのさ!

すみません、だいぶもったいぶってしまいました。

では、バシッと一言、尚人に答えをいってもらいましょう。

 

「でもなぁ、いくら好きでも、相手が既婚者だったら、ハッピーエンドは望めねぇよ」

ぱんだ
ぱんだ
ぅえええっ!?!?

語られなかった裏側

『彼女は人妻だった』

これが《秘密》の正体です。

浮気でも二股でもなくて、不倫だったんですね。

そして、驚くべきことに、【僕】は最初から【彼女】が既婚者だと知っていました。

ぱんだ
ぱんだ
……え?

2012年の春。出会った日の夜に【彼女】はちゃんと事実を伝えていました。

「夫が三年くらい、海外出張に出ることになって、実質、独身みたいなものです」

【彼女】は嘘をついていませんでしたし、【僕】は騙されていたわけではありません。

【僕】はちゃんと理解していました。

最初から、僕らの恋、ではなく、僕の恋には、時間制限がついていた。

あくまでも僕は彼女の夫の代わりであって、二番手であって、補欠だった。

その証拠に彼女の誕生日だけは、三年間で一度も当日に祝えたことがなかった。

ここまでくれば2015年の音信不通の理由も、もうおわかりですね。

2人が出会った日から、もうタイムリミットの3年が経過しています。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「相手への絶対的な好意があれば、どれだけ忙しくても返事はできる」

これは僕自身が実感した、恋愛における一つの教訓だ。

現にこれまでの三年間、僕と彼女は、周りからみれば異常なほどに、たくさん連絡を取ってきた。

もしもその相性がズレてきたとしたら、答えは一つ。

単純に、彼女の中で僕の優先順位が下がったのだった。

(中略)

心身を埋め尽くしていた存在が突然いなくなったことで、僕はドラッグを奪われた中毒者のようになった。

彼女のそばに夫の影が見えるような気がした。

(中略)

苛立ちと焦りと不安が交互に顔を出した。

彼女の下心を僕の真心と交換することで成り立っていた三年間が、なかったことにされる予感ばかりしていた。

「もう、好きじゃないんでしょ?」

切り出してしまえば、確実に関係を終わらせられる。

それでも彼女にはメールやLINEだけで別れ話をするような薄情な女になってほしくなかったし、いくらなんでもそれでは後味が悪すぎるように感じて、せめて次に二人で会うまでは、全てを受け入れて、耐えることに決めていた。

ぱんだ
ぱんだ
つらい……

 

補足

「彼女は実は既婚者だった」という驚きは、ある意味、叙述トリックによるものです。

物語の語り手である【僕】は、読者にいくつも隠し事をしていました。

たとえば、【彼女】の結婚指輪について。

彼女は二人でいるときだって、絶対に指輪を外してくれなかった。

セックス中でさえ、そのリングが外れることはなかった。

彼女は僕に、本気になることはない。常にそう警告されているようだった。

あるいは、【彼女】が【僕】を選んだ理由について。

「怒らないでね」と前置きしてから、彼女は僕の人生史上、最低最悪の言葉を口にした。

「横顔が、夫に似てたから」

小説でいえば1章から3章までの間、【僕】はこれらの辛い経験を一切語らず、読者に隠していました。

もしかしたら、そうした辛い現実から目を背けていたかったという【僕】の気持ちの表れだったのかもしれません。

好きだと伝えて返してほしい言葉は「ありがと」じゃなくて「私も」だったのに、その言葉は最後までもらえなかった。

世界の終わり

2015年11月。

【僕】は7か月ぶりに【彼女】と再会します。

「突然、帰ってきたんだよね」

【彼女】が誰のことを言っているのか、主語がなくても【僕】にはわかってしまいました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「帰ってきた日からずっと一緒にいて、だから連絡もできなくて、会える時間も作れなかったんだ?」

「まとめると、そんな感じかも」

肝心なときに、欲しい言葉をくれない人だった。

いつも最後には、自分を選んでしまう人だった。

こちらの「会いたい」には応えないくせに、彼女の「会いたい」には拒否権がない関係だったように、僕からのサヨナラはありえなくて、彼女からの別れだけを待つ関係だった。

彼女はつくづく、彼女のままだった。

 

「もう、しばらくは出張もないみたいで」

「そっか」

「本当にごめんね、せめて、ちゃんと伝えたかったんだけど」

「だけど?」

「ごめんなさい」

そこでまた、言葉は消えてしまう。

何かを隠しているわけじゃないのもわかる。

単純に、タイミングを失ってしまったのだろう。

そして、面倒ではあるけれど、すぐに関係を切れるほど、残酷にもなりきれなかったのだろう。

簡単に断ち切れるほどの関係ではなかっただけでも、少し嬉しくなる自分が悲しい。

それ以上に、さっさと切ってはくれなかった、その半端な優しさが憎い。

 

「一応聞きたいんだけど」

「うん」

「嘘でもいいんだけど」

「嘘は言わないよ」

「いや、嘘でもいいから、言ってほしくて」

「何?」

「少しは、好きでいてくれた?」

どこまで情けない男だよと、自分のセリフに悲しくなって、目と鼻の間、グンと涙腺が緩む音がした。

隠そうとして、鼻の穴が膨らむ。

明らかに不細工でダサくなった僕を見て、彼女は何を感じるのだろうか。

いくらダサくって、もういいのだ。どれだけ格好つけたって、帰ってきやしないんだから。

まだ泣くには早い気がして、大きく息を吸おうとしたら、ズブブと、蕎麦をすするような音がした。

彼女の瞳は、こっちを向いていた。

 

「ごめんね。ちゃんと、すごく好きだったよ」

一切の冗談を含まない真剣な声で、彼女はそう返した。

その瞬間、心の暴走をなんとか抑えていた壁が決壊して、ボタボタと涙がテーブルに落ちた。

喫茶店の店員や、角にいるカップルが、明らかにこっちを見ていた。

一番奥にいた男子高校生の四人組だけが、まったく気づかず少年誌を取り合い、大声で何か叫んでいた。

それらも、視界からゆっくりぼやけていく。

すべてを尽くしても離れてしまう彼女を、止められなかった自分の魅力のなさを、ひたすら恨むことしかできなかった。

涙の落ちた先、自分の拳を見ると、皮膚には親指の爪が食い込んでいて、血が滲み出ていた。

 

「ごめんね、あのとき」もう聞きたくもなかった。

「横顔が似てたとか、そんな言葉だけで済ませて、絶対に傷つけたなっておもってた」聞きたくもない言葉が続いた。

「一緒にいてね、私はこんなに愛されてもいいんだっておもえたのね」

知らねえよそんなの。

「ありがたいことがなあって毎日実感したし、同じぶんだけ愛していたいなっておもって」

知らねえってば。

「ごめんね、本当に幸せだったし、楽しかった」

もう、いいって。

「それなのに、ごめんなさい」

いいってば。

 

何度も何度も、彼女は僕に謝り続けた。

謝られるたび、遠くに行ってしまう事実がどんどん明確に、浮き彫りになっていった。

2015年、秋。

彼女のいる世界が、三年半の歳月をかけて、終わりを迎えた。

これ以降、【彼女】はもう物語に登場しません。

それから

それからの【僕】は精神がボロボロになって、目も当てられない状態でした。

復縁はありえない。そうわかっていても、1パーセントでも期待していなければ、全てに絶望してしまう寸前だった。

会社を休んで、部屋に引きこもり、何も手につかないまま時間だけが過ぎていきます。

最初から予告されていた別れだったからといって、覚悟ができていたわけではありません。

むしろ「いつか別れる日が来る」という現実から目をそらし続けてきた3年間でした。

真剣に【彼女】を愛していた、その愛情のぶんだけ、喪失の痛みに襲われます。

「このまま廃人になってしまうんじゃないか」と心配になるくらい【僕】の落ち込み方は酷いものでした。

ぱんだ
ぱんだ
しんどいね……

致命傷だった【僕】の心の傷は、けれど、時間とともにゆっくりと癒えて、かさぶたになっていきました。

彼女という深い沼からゆるやかに上がりつつあったのは、別れて一年が経った頃だった。

時間が解決してくれる問題は、想像していたよりも多い。

2016年12月。

失恋を経験し、嫌いだった総務の仕事にも慣れ、26歳になった【僕】はなんだか少し大人になったように見えます。

それは成長したということなのか、それとも妥協や諦めを覚えただけなのか……。

月曜の朝は、まだ家にいるのに「帰りたい」と口にしていて、本当はどこに帰りたいのだろうと考えていた。

親友の尚人がベンチャー企業に転職するという話を聞いて、【僕】はようやく過去の恋ではなく、未来に目を向け始めました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

麻痺して不感症になっていた心が、親友との別れが迫って、急に動き出した気がする。

「こんなハズじゃ、なかったのにな」

もういろんなものを「思い出」として捉えられるようになった。

「一生忘れない恋」とか「いつまでも忘れられないあの人」みたいなノリでいるけれど、どうせ断片的な記憶しか残らないのだろう。

フラれたのをいいことに、被害者面を楽しんでいただけかもしれない。

悲劇の主人公を演じていた自分が、少し恥ずかしくなってきた。

「いい加減、前向けよ」声に出して、自分を鼓舞してみる。

何をしようか。また転職サイトに登録か。他の方法を考えるか。とりあえず会社を辞めてみるか。一人だし、フリーターから再スタートでも悪くないのかもしれない。

とりあえず、打席に立たなくちゃ。

結末

前章では「人生これからがスタートだ!」みたいな前向きさを見せていた【僕】ですが、現実は甘くありません。

日々にワクワクのない職場でも、一応は有名企業だし、いきなり辞めたり転職したりと思い切るのは難しくて、結局はこれまでと同じ毎日を過ごしています。

一歩を踏み出した尚人が早くも転職を後悔しているというのですから、あながち【僕】が意気地なしというわけでもないのでしょう。

次の転職先を探しているという尚人と飲んだ帰り道、【僕】はふと思い立って、思い出の公園へと足をむけます。

歩いていると、たった一人のことだけが頭に浮かんでは消えていきました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

月明かりが眩しい夜にあの人を思い出してしまうのは、きっと出会った日も、それからの甘く熟れていた夜も、こんな風に明るい月が僕らを照らしていたせいだった。

あの人は、真夜中になると「コンビニ行かない?」といつも僕を誘った。

拒否権なんてなかったし、僕も彼女の習性に付き合うのが好きだった。

彼女は春になると、名残惜しそうにおでんを買った。

好きなおでんの具は一位がたまごで、二位がはんぺんだった彼女は、そんなところまで僕と似ていた。

夏になれば新作のアイスを片っ端から買った。

いつもパピコばかり買っている僕とは、真逆の存在のように感じた。

秋になればさつまいも味のあらゆる菓子に手を出した。

品評会のように語る彼女の横を歩くのが、いつだって好きだった。

冬はあんまんの半分をいつも僕にくれた。

食べ歩きするとすぐにこぼす彼女は、餡子を口の端につけたまま、よく笑っていた。

その全ての時間に、月がぼんやりと浮いていた気がする。

そのせいで僕は、夜中にコンビニに入るたび、あの人のことを思い出しては途方に暮れていた。

 

インスタグラムで彼女のアカウントを覗けば、画面には幸せそうな最新の彼女が映っている。

僕といるときはアウトカメラで切り取られた風景写真ばかりだったカメラロールは、今ではインカメラで切り取られた自撮り写真でほとんどが構成されている。

自撮りされた彼女は相変わらず綺麗で、僕のことなんかこれっぽっちも覚えていないような笑顔をしていて、そのすぐ横に、夫の顔がある。

夫の顔は、正面から見たら僕とは全く異なるのに、横から見てみれば、確かに僕に似ていた。

その事実を目撃するたび、いつでも悲しみに暮れるのだけれど、僕は懲りずに何度も彼女のアカウントを覗いてしまうのだった。

本当にこの人を愛していたんだっけ、愛してもらっていたんだっけと、ぼんやりと画面を見つめて考える時間が、過去と現在をつないでくれていた。

 

高円寺の家にいた頃の僕らは、空ばかり見ていた気がする。

その間、僕は彼女を想い、彼女はほかの誰かを思い浮かべていたのかもしれない。

何千キロと離れていても同じ空であることを告げるあの白い月が、嫌いでもあった。

盲目的だった恋に光を差し込むあの月のせいで、露わになる冷たい現実に、何度泣いたかわからない。

それでも、僕はあの月明かりの下で見た彼女の横顔が、酔っ払った顔が、求める顔が、おもいきり笑った顔が、怒った顔が、泣いた顔が、何よりも好きだった。

どれだけ周りがやめとけと言っても、たとえ法律や常識や正解が、二人を許さなかったとしても、僕は彼女と一緒にいたかった。

こんなハズじゃなかった人生を、最後まで一緒に歩んでみたいと願ってしまった唯一の人だった。

 

明大前の小さな公園。

誰もいない遊具の上には、缶のハイボールが二つ置かれている。

写真でも撮ろうかとおもって、スマホを取り出す。

そこで、気がつく。

携帯電話、なくしたみたいだ。

<完>

感想

最高でした。

「瑞々しい文章とはこういうことか!」と初めてピンときました。

全編を通して言葉選びがほんとうに素敵で、なんてことのないシーンを読んでいるだけでも「きれいな小説だなぁ」と圧倒されました。

なかでもわたしが好きだったのは、次の一文です。

彼女の下心を僕の真心と交換することで成り立っていた三年間が、なかったことにされる予感ばかりしていた。

彼女が人妻だったと明かされた後の場面ですね。

下心が「恋」で、真心が「愛」とはよくいう言い回しですが、僕と彼女では「好き」の種類が違ったという表現としてめちゃくちゃ美しいな、と思いました。

この一行だけで、美しくて、切なくて、悲しくて、そんな気持ちが一気に押し寄せてくるようでした。

『明け方の若者たち』は名言・名文だらけの小説なので、きっと誰が読んでも「これは!」と感動する一行に出会えると思います。

そう断言できるくらい、ちょっと群を抜いたクオリティでした。

こんな人におすすめ

『明け方の若者たち』は読み手を選ばないタイプの作品だと思いますが、わたしとしては少なくとも主人公たちより年上の、つまりアラサー世代以上の大人のあなたに強くおすすめしたいです。

  • 上手くいかなかった恋愛の経験
  • 理想の人生とは違う現実に悩んだ日々

主人公がリアルタイムで(もしく回想で)経験するこれらの苦悩に共感しすぎるほど共感できてしまうのが、『明け方の若者たち』という小説の最大の魅力だと思います。

だから、主人公と同じような苦かったり迷走したりの青春を送ってきた、そしてそれを懐かしく思い出せるような大人世代にこそ、この物語はグサリと刺さります。

「不倫とかしたことないけど?」と思われるかもしれませんが、実のところそこは問題ではありません。

  • 好きな人に振り向いてもらえなかった
  • 大好きだったのに別れてしまった

恋愛で苦しい気持ちになったことがある人になら誰でも、カツセさんの魔法のような文章が沁みるはずです。

やや恥ずかしながら告白すると、かくいうわたしも小説を読みながら自分の過去の恋愛を思い出していました。

もちろん関係性とかいろいろ物語とは違うのですが、主人公の物語のはずがいつのまにか自分の過去の恋愛を追体験しているようでもあり、懐かしいやら切ないやらで胸が締めつけられるようでした。

読み終わった今なら、単行本の帯に載っていたこの↓推薦文の意味がよくわかります。

痛くて愛おしいのは、これがあなたの物語だからだ――村山由佳(作家)

かつて若者だったすべての大人たちに「いいから読んでほしい」と押しつけたいほど、久々にグッときた作品でした。

 

 

まとめ

今回はカツセマサヒコ『明け方の若者たち』のネタバレ解説をお届けしました!

カツセマサヒコさんは今作が長編デビュー作とのことですが、一発でファンになりました。

「ちょっと気になるな」と思ったら、迷わず読んでみてください。

この記事では本作の魅力の5%も伝えられていなかったのだと気づくはずです。

※力不足でもうしわけない……

「もう読んだよ」という人は感想をコメントで教えてくれると嬉しいです。

あなたはそれぞれカラーの違う全10章のなかで、どの章が一番好きでしたか?

わたしは僕と彼女が本当に本当に幸せそうだった3章がいちばんのお気に入りです。

ぱんだ
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映画情報

キャスト

  • 北村匠海

公開日

2022年公開

ぱんだ
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またね!


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