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映画『サヨナラまでの30分』ネタバレあらすじ!結末に感動!

映画『サヨナラまでの30分』

「新田真剣佑 × 北村匠海」という無敵のキャストが気になりすぎて、先に原作小説(ノベライズ)を読んじゃいました!

感想はとにかく

エモい!

のひとこと!

「キャスト目当てで見たけどガッカリ」という残念なことにはならないと保証します!

ぱんだ
ぱんだ
ほんとに~?

ホントです!

映画『サヨナラまでの30分』結末までのあらすじをネタバレ有りでまとめたので、どうぞ確かめていってください!

※予告からも漂うエモさ!

ネタバレあらすじ

「友人はいません」

こんな受け答えばかりしているからだろうか。

何十社と臨んだ就職活動は、いまだに一次面接すら通ったことがない。

きっと今日の会社も落ちる。

……ああ、ダメだ。

考えないようにしても気分が落ち込む。

こんなときは、あの場所に行くに限る。

いまは廃墟となった屋外プール。

1人きりになれるあの場所で、自分のための音楽をつくっている間だけ、息苦しさから解放される。

その日、廃墟のプールに行くと見慣れないモノが落ちていた。

カセットテーププレーヤー。

中身も入っている。

いったいどんな音楽が吹き込まれているのだろう?

何気なく再生ボタンを押した、次の瞬間――

「え?」

颯太は、自分の身体を外側から見ていた。

まるで幽体離脱のよう。

ただし、幽体離脱と違って颯太の身体は中身(精神)を失っても動いている。

身体はペタペタと腕や足を触っていたかと思うと、急に立ち上がってプールの外へと飛び出していった。

「ええっ!?」

颯太は慌てて自分の身体を追いかけた。

身体は古本屋の前で、知らない女の子に話しかけていた。

「カナ」

《颯太?》は愛しそうに彼女の名を呼ぶ。

しかし、カナと呼ばれた女の子は「誰」と冷たい口調だ。

「もう、まだ怒ってんの?」

《颯太?》の行動に、幽霊の颯太はぎょっとした。

女の子を抱きしめている。

カナと呼ばれた女の子は心底イヤそうに抵抗している。

痴漢だ。犯罪だ。

ヤバい。捕まってしまう。

青ざめた瞬間、耳元で「サー」というノイズ音がした。

これは、さっきプールでカセットを再生したときと同じ音……。

ガチャ。

テープが回りきった音がしたかと思うと、視界がぐるりと反転した。

一瞬の暗転が去ると、颯太の腕の中にカナがいた。

キッとこちらをにらみつけている。

「ちょっと! はなして!」

突き飛ばされた。

どうやら、最悪のタイミングで身体に戻ってしまったらしい。

カナは店の奥へと消えていき、代わりに怒った顔の若い男がこちらに近づいてきた。

「お前、カナのなんなの? 俺が抱きしめたら、お前が抱きしめてて。……えっ、どゆこと?」

颯太は男の言葉にハッとした。

もしかしたら……

ポケットからカセットテープレコーダーを取り出し、再生ボタンを押す。

「……まじか」

同じだった。

テープを再生すると、颯太の中身が入れ替わる。

颯太の身体にこの男が入り、代わりに颯太は幽霊みたいになってしまう……。

取り引き

『若手ミュージシャン、事故死』

スマホには何度も確認した記事が表示されている。

『五人組ロックバンド「ECHOLL(エコール)」のボーカル・宮田アキさん(22) 搬送先の病院で死亡を確認』

宮田アキは確かに亡くなっているのだろう。

颯太以外の人間には姿を見ることも、声を聞くこともできないのだから。

「つまり、こういうことだろ? 1年前に俺が死んで、こないだお前があのカセットテープを再生させた。そしたら、俺がお前になった」

幽霊のくせにやけに明るい口調だ。

もし生きていたとしても絶対に関わりたくないタイプだったな、と颯太は思う。

現状を整理してみる。

  • アキは誰にも見えないし、何にも触れない
  • カセットテープの再生ボタンを押すと、アキが颯太の身体に入る
  • 再生時間の30分が過ぎると、元に戻る

要するに、颯太が再生ボタンさえ押さなければ何も起こらないのだ。

しつこく話しかけてくるアキはうざったいけれど、無視するしかない。

「苦手なんだ? 面接。俺、トークには自信あるから、やらせてみてよ、試しに」

就活の面接直前。

思いがけないアキの言葉に心が揺らいだ。

もう何十回となく落ちていて、正直、わらにもすがりたい気持ちではある……。

少しだけためらったものの、颯太は再生ボタンを押した。

結果は……

『二次面接のお報せ』

なんてことだ!

あっさり一次面接を通過してしまった。

もしかしたら、このまま内定が出てしまうかも……!

「……ま、そんなに就職したいなら、協力してやらないこともないけど?」

……悪魔のささやきが聞こえる。

アキはきっと、カナというあの女の子と話したいのだろう。

面接を代わってほしければ、身体を貸せというわけだ。

答えは決まっている。

背に腹は代えられない。

ポジティブ

「ね、びっくりするかもしれないけど、言っていい?……俺、アキ」

イタズラっ子のように(颯太の顔で)二カッと笑うアキとは正反対に、カナは無視を決め込んでいる。

そりゃそうだ。

誰が信じるものか。

ガチャ

はい30分、時間切れ。

アキはへこたれることなくバンドの残りのメンバーに会いに行った。

  • 森涼介……ベース 実家のカフェを経営
  • 重田幸輝……ドラム 肉体労働
  • 山科健太(ヤマケン)……ギター 音楽講師

結果は想像のとおり。

誰も相手にしてくれない。

ガチャ

また30分、時間切れ。

ちょっと考えれば誰にだってわかる。

別人の身体に入ってるけど自分は1年前に死んだ宮田アキだ、なんて信じてもらえるはずがない。

なのに……

「ま、お前の顔だし。あいつらからしたら他人だからな。見てろって。俺にこじ開けられない扉はない

ちっとも相手にされなかったのに、アキは自信たっぷりに言った。

なんだ、そのポジティブさは。

ECHOLL復活ライブ

その夜、ライブハウスで演奏するバンド名のなかには「ECHOLL」の文字があった。

メチャクチャなことに、アキが勝手に申し込んだのだ。

無視されてしまえばそれで終わりだったけれど、きっと何か思うところがあったのだろう。

今、ステージ上では森、重田、ヤマケンの3人が「ECHOLL」として演奏している。

けれど、弱い。

自信のなさが伝わってくるような演奏で、客席にも白けた空気が流れている。

「やっぱ、俺がいないとな!」

颯太の身体を借りたアキが、ステージ上にあがった。

戸惑うメンバーに構わず、ギターを手に取り、スタンドマイクの上に立つ。

そして――

アキが声を発した瞬間、ステージから意識をそらしていた観客たちが、一斉に振り返った。

※動画は実際にこのシーンで歌われる曲。いい曲だ……。

アキの歌声に導かれるように、客が集まっていく。

ぽっかりと空いていたステージ前は、我先にと集まった観客でいっぱいになった。

ステージ上のアキは笑いながら、歌いながら、ただ一点だけを見つめている。

その視線の先にいるのは――カナだ。

幽霊の颯太から見えるカナはステージ上のアキをじっと見つめながら、哀しげな表情を浮かべていた。

あの場所で歌っているのが、本当のアキなら良かったのに。

そうしたら、彼女はこんな風に泣きそうな顔をしないでいられる。

やがて、曲が終わる頃。

カナは耐え切れなくなったのか、ステージに背を向けて、ライブハウスから飛び出した。

「カナ!」

歌っていたアキが、カナを追いかけるよう、ステージから飛び降りた。

追いついたアキに、カナは「なんであんたが」と言った。

その「なんで」には、いろんな意味が込められている気がした。

多くを語り合うことなく、カナはアキを振り切って帰っていった。

その夜、無理やり連れていかれた)打ち上げからの帰り道、颯太はアキに言った。

「あの。無期限でいいですよ」

「無期限?」

「入れ替わりのこと」

「……え、無期限って一生? この先ずっと、お前の身体貸してくれるってこと?」

颯太は頷く。

アキのため、というより自分のためだ。

幽霊でいる間は、誰とも関わらなくていい。

その状態は、思いのほか心地いいものだった。

「その代わり、面接とか、飲み会とか、さっきみたいな無駄な人付き合いは、全部変わってください」

「え? じゃ、俺、カナと、あいつらと、またバンドやれるってこと?」

「お好きにどうぞ。僕の時間を半分あげます。代わりに、あなたの一人の時間を半分もらいます」

利害の一致だ。

なにより、ライブを見て思った。

アキの歌も、アキの書いた曲も、最高なのだ。

アキの音楽には価値がある。

たくさんのファンが、これからもアキを待っている。

だから、これが一番いい選択なのだろう。

「颯太っ! お前……最高だわ!!」

アキは嬉しそうに笑った。

苛立つばかりだったその笑顔が、いまは好ましいものに感じられた。

新しい日々

「りんご音楽祭」

去年、アキたちが出られなかったフェスに参加することが決まった。

ステージに立つ新生「ECHOLL」のメンバーは森、重田、ヤマケン、そして颯太(アキ)

そこにカナの姿はない。

きっとカナの時計は1年前に止まってしまったのだ。

それほどまでにアキの……恋人の死は彼女にとってショックな出来事だったのだろう。

身体を貸しているときに見えるアキの《思い出》のなかでは、カナはいつも柔らかく笑っていたのに……。

どうにかしてあの笑顔を取り戻すことはできないだろうか?

フェスに向けて練習、練習、また練習。

30分に1回再生ボタンを押すというのは案外めんどくさいもので、タイミングがあわないときは颯太自身がアキの代わり(というのも変だけれど)をすることもあった。

「誰かと音楽やるのって、おもしれーだろ?」

アキが笑っている。

以前の颯太なら「ひとりのほうがいい」と即答していたに違いない。

けれど、今は違う。

仲間と一緒に音楽をつくることは、アキが言うとおり楽しい。

あとはこのスタジオに、カナがいれば完璧なのだけれど……。

中略のためにちょっと説明を。

颯太はどんどんアキがいた場所に収まっていっています。

本人はそんなこと思っちゃいませんが、それはもうアキがいなくても問題ないくらいに。

これにはアキも複雑な心境で「俺のバンドだぞ」とつぶやいてみたりもするのですが、颯太の人柄と音楽センスを認めているので今はなにも言いません。

あと、省略しましたが颯太とカナはそれなりに仲良くなっています。

と、いうことは……

カセットテープ

生前、アキはずっとカセットテープを愛用していた。

バンドが始まってからずっと、同じカセットテープにずっと曲を録音していたのだという。

「……そういうことか」

その話を聞いて、ようやく颯太は理解した。

「ずっと疑問に思ってたんです。どうして入れ替わっているときに、あなたの過去が見えたりするのか」

「ん?」

「このテープを再生させたら、あなたが出てきたってことは、あなたって幽霊というよりは、このテープに込められた記憶が具現化したものなんじゃないかなって」

「テープに入った思い出が、俺」

そう考えるといろいろ納得できる。

アキにバンド結成以前の記憶がないのは、カセットテープが使われるより前の出来事だから。

入れ替わりのときに颯太が見るアキの過去は、カセットテープに込められた思い出。

「なるほど。俺がこのテープの中身、そのものねえ」

「今日、休みでしょ? デートしよ!」

休日の朝、カナの家に押しかけて突然誘っているのはもちろんアキだ(カナから見れば颯太だけど)

「……いいよ」

彼女は小さな声で了承する。

「おっし!」

アキの声にあわせて、思わず颯太はガッツポーズをとった。

今日の目的は、カナに新曲を吹き込んだカセットテープを渡すことだ。

アキと颯太の2人でつくった曲を聞けば、カナもバンドに戻りたくなるかもしれない。

「準備してくる」

家の中に戻っていくカナは、心なしか嬉しそうだ。

彼女を見送っていたアキが、ふと、玄関傍にある窓を見た。

鏡のように窓に映し出されたのは、当然だが、アキではなく颯太の姿だった。

困ったような顔で、アキはじっと窓を見つめている。

カナはデートの誘いに頷いたが、彼女はアキの存在を感知しない。

入れ替わりの事情を知らない彼女は、アキではなく、颯太とのデートに了承したのだ。

「そういえば、入れ替わりの時間、短くなってないか?」

アキのささやきに颯太は頷く。

現に今も、カナとデートしているのは颯太自身だ。

30分あるはずの時間が、だんだん短くなってきている……?

「おい、俺の彼女だぞ」

カナがコーヒーを買いに行った隙に、アキが釘をさしてくる。

「あなたの彼女ということは、僕の彼女でもありますよね」

思わず口から出た言葉は、すとん、と胸に落ちた。

「……は?」

「僕の身体を二人で分け合っていくんですから、彼女も二人で共有するってことですよね」

他人と同じ空間にいることが苦痛だった。

彼女なんてコスパが悪くて興味もなかった。

ついこの間までそんな風に言っていたことが、今の颯太には信じられなかった。

カナと一緒にいる時間は、どうしようもなく心地よい。

「お前、俺に一生身体貸すって、そういうこと!?」

アキの叫びに、颯太は耳をふさいだ。

アキが中に入っていると、姿かたちは颯太なのに、不思議と別人に見える。

「新曲、作ったんだ。フェスで一緒にやろう」

アキがカセットテープをカナに差し出す。

しかし……

「フェスには出ない。バンドはもうやらない」

「カナがいなきゃ意味がない」

「もともと向いてなかったの。音楽でやっていこうなんて思ってなかったし。なのにいつも……あいつのペースに巻き込まれて」

「……『あいつ』、って」

「今の生活のほうが、私には合ってる。もう忘れたの。前に進みたい」

残酷な言葉だ。

だが、無理もない、と颯太は思った。

死んだ人間は生き返らない。

どれだけ遺された傷が深くても、いつまでたっても治らなくても、過去に戻ることができない限り、前に進むしかないのだ。

「カナ。俺、本当は……」

アキが、カナの頬に手を伸ばした。

ガチャ

瞬間、カセットテープの再生時間が終わり、入れ替わりが戻る。

身体に戻された颯太は、真正面からカナのまなざしを受けた。

ひどく哀しげで、苦しそうだった。

どんな言葉も、今のカナには届かないと思った。

彼女が傷ついていることはわかるのに、その傷を覆ってあげることもできない。

カナが求めているのはアキだ。

だから、颯太には、どうやったら彼女が笑ってくれるのかわからない。

「……帰るね」

カナは、新曲の入ったカセットテープを受けとってくれなかった。

あたりを見渡せば、今にも消えそうな儚い顔で、アキが佇んでいる。

「連れていきたいところがあるんです」

気づけば、颯太はカナを引き留めていた。

廃墟のプール。

颯太とカナは背中合わせに座って夜空の星を見上げている。

「僕の母……ピアノの先生だったんです。中学のときに、亡くなって」

ぽつり、と颯太が語り出す。

母親にピアノを教わったこと。

周囲から「かわいそう」と哀れまれるのが嫌で、人を避けるようになったこと。

それは誰にも話したことのない颯太の本音だった。

「……つまんないことで喧嘩して、それが最後」

颯太が話し終えると、今度はカナがぽつりと話し始めた。

アキが死んだときのことを話している、とすぐに気づいた。

「走ったり、夜中まで映画観たり……なんでもいいの。なんかしてないと……おかしくなりそう」

涙ぐんで、カナは声を震わせる。

颯太よりもずっと華奢な体が、さらに小さく、か弱く見えた。

「一秒でも時間が空いたら、考えちゃうから。もう二度と、アキに……会えないんだって」

アキの名を口にした瞬間、カナは泣いていた。

一年。

それだけの時間が流れてもなお、カナの心はアキでいっぱいなのだ。

いっぱいだったからこそ、別のことで気をそらすしかなかった。

「誰かと一緒に音楽をやる楽しさも、仲間も、全部、アキがくれたから。ひとつだって忘れたくない……アキがいないとダメなの」

颯太の肩に、そっとカナの頭が載せられる。

すがりつくように、カナが嗚咽を漏らしていた。

泣きじゃくる女の子に、どうやって寄り添えばいいのかわからなかった。

だから、颯太はそっとカナを抱きしめた。

寄り添うように抱き合う二人から、アキは目をそらす。

自分が死んだことで、カナがどんなに傷ついて、どんな痛みを抱えて、どんな風に過ごしてきたのか。

アキは、そのことに思いを馳せることができなかった。

バンドが解散するのが嫌だった。

また、みんなと、カナと音楽がやりたかった。

……自分のことばかりで、カナの気持ちを考えてあげることができなかった。

ふと、アキは颯太の隣に置かれたカセットプレーヤーを見た。

今、アキは颯太の身体の中に入っていない。

それなのに、中に収められているカセットテープが回っている。

沈んだボタンは、再生ではなく、録音のボタンだった。

「……!」

アキはとっさに、自分の身体を見下ろした。

一瞬、火花が散るように光が走ったかと思うと、アキの身体の輪郭があいまいになった。

「……あの。これ」

カナを家まで送ると、別れ際に颯太はカセットテープを手渡した。

「聴かなくてもいいです。でも……持っててもらえませんか。みんな、カナさんのこと想ってるから」

言い残して颯太は去っていく。

カナは部屋に戻ると、カセットテープのケースを開いた。

中には歌詞カードとコード譜も入っている。

歌詞カードを開いた瞬間、カナは顔をぐしゃぐしゃにした。

歌詞の頭に『lyric』のサイン。

文字に黒い星マークを組み合わせた独特なサインは、アキがいつも書いていたものだった。

(どうして……)

偶然とは思えない。このサインはアキだけのものだ。

(アキ。あなたなの?)

上書き

翌朝。

いつものメンバーが集まったスタジオに、カナが飛び込んできた。

「おっしゃー、これでみんな揃ったな!」

「おせーんだよ」

「おかえり。……カナ?」

思い思いに声をかけるメンバーを無視して、カナはまっすぐ颯太の前まで歩いていく。

 

「アキなの?」

 

森も重田もヤマケンも、そして颯太ですら黙り込むなか、カナは続ける。

「バカみたいだけど……一緒にいると、時々……そばにいる気がして」

カナの目に、アキの姿は映っていない。

それでも、彼女はアキの存在を確信し、アキを見つけてしまった。

「アキ。アキ。ずっと会いたかったんだよ」

カナはすがるように、颯太の腕を掴んだ。

代わってくれ、と耳元でアキの声がする。

いっそ両耳をふさいでしまいたい。

颯太は手に持ったカセットプレーヤーの再生ボタンを押すことができなかった。

「しっかりしろよ! アキはもういねーんだよ!」

森が颯太からカナを引きはがす。

「でも」

「……わかるよ。気持ちはわかるけどさ! 死んだやついつまでも引きずったってしょうがないじゃん」

ヤマケンが無理して明るく言う。

まっとうな意見だと思うけれど、いまのアキは、きっと引きずってほしいと思っている。

「アキ……」

カナが呼んでいる。

けれども、それは颯太ではなかった。

「僕は……アキさんじゃない」

震える声で言って、颯太はスタジオを飛び出した。

廃墟のプール。

まるで迷子のように、膝を抱えて途方に暮れる。

カナは、颯太に向かって、アキ、と呼びかけた。

彼女の目には、颯太のことなんて少しも映ってはいなかった。

「何逃げてんだよ」

顔を上げると、いま最も会いたくない男がいる。

「いーよな。何かあったらすぐ自分の世界、逃げかえって一人で自分に『いいね!』押してりゃ、傷つかねーしな! ダッセェ!」

「あんたにそんなこと言われる筋合いねーよ!」

颯太が叫んだ。こんなにも声を荒げるのは、人生で初めてのことだった。

「は?」

「あんたの方が、よっぽどダッセェって言ってんだよ! 分かれよ! 自分のしてることが、カナさんのこと、傷つけてるって」

アキの望み通り、バンドは復活した。

けれども、あのまま解散した方が、カナは幸せだったのかもしれない。

少なくても、これ以上、死んだアキのせいで苦しむことはなかった。

「いくらでも代わってやるよ! 言えばいいだろ。カナさんにもみんなにも。あんたがいるって。そしたら全部解決する」

今ならば、信じてもらえるかもしれない。

彼らの間には、颯太の立ち入ることのできない絆がある。

「……見てみろよ、そのテープ」

アキは力なく笑った。

「は?」

颯太はプレーヤーから、カセットテープを取り出した。

拾ったときは真っ黒だったカセットテープの大部分が透明になっていた。

「これって、どういう……」

「こないだ、言ったろ。このテープが、俺の思い出だって。それが、消えたってことじゃねーの?」

「消えたって、なんで……」

颯太には本当にわからなかった。いったい、何が起きているのか。

 

「上書き」

 

「上書き?」

「お前だよ。お前と、お前に入った俺が、新しい記憶をつくった。カナやあいつらと」

カセットテープに記録されているのは「ECHOLL」の思い出。

それが今も積み重なっているとしたら、上書きされているのだとしたら、もともとの記憶に宿ったアキはどうなる?

「じゃあ、もし……このテープが全部透明になったら……」

 

「俺が、テープに入った思い出そのものなら、全部上書きされたときに、消えんじゃねーの?」

 

颯太は言葉を失くした。

いつも自信に満ちたアキが、苦しそうに目を伏せる。

その表情には、自らの境遇に対する失望と、やるせなさだけがあった。

手にしたカセットテープは、もうほとんど透明になっている。

アキが望むように「ECHOLL」の活動を続ければ、アキは消えてしまう。

アキを守るためには「ECHOLL」として新しい時間を重ねるわけにはいかない。

(どうして)

もう、颯太が望むように、全員で音楽を続けることはできない。

もう1回

『フェスには出ません。バンドも辞めさせてください』

そのメッセージだけを送って、颯太は「ECHOLL」のグループから抜けた。

「それでいいわけ?」

背後からアキの声。颯太は振り返らずに答える。

「別に一人でも音楽は作れるし」

「お前はそうやって、このままカナと、あいつらと、一生、二度と会えなくて、それでいいのかって聞いてんだよ」

カナの顔が浮かんで、颯太は動きを止めた。

「……元の生活に戻るだけだし。……それにカナさんが必要としているのは!」

自分ではなくアキだ、と颯太が言うより早く、アキが口を開いた。

 

「お前だよ!」

 

アキの声は震えていた。

振り向くと、いつも自信満々だった男が、打ちのめされたような顔をしている。

「あいつらが必要としてるのも、お前だ」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ! 僕がこれ以上、カナさんやみんなと会ったら、あなたが消えてしまうんですよ!?」

「……思い出したんだ。何であいつらとバンド始めたのか」

過去を愛おしむように、アキは言った。

高二のフェスでカナと出会ったこと。

フェスで出ていたバンドみたいに、聴いている人を笑顔にしたいと思ったこと。

ステージに立ちたい、と強烈に思ったこと。

 

「俺きっと、もう一回だけ、スッゲー、生きるために、戻ってきたんだわ。あいつらと、お前と、もう一回!」

 

颯太は言葉を詰まらせた。

「僕は!」

「もう一回だけでいい。お前の身体、貸してくれ」

颯太がもう一度再生ボタンを押せば、アキはきっと消えてしまう。

颯太と違って、アキはもう覚悟を決めているのだ。

「僕は、あなたを上書きしたくないっ!!」

出会ったときは、なんて理不尽な人だろうと思った。

颯太の生活を滅茶苦茶にかき回して、好き勝手して、巻き込まれてばかりで、うんざりしたときもあった。

けれども、アキがいなければ、颯太は知らなかった。

誰かと音楽をつくることの喜びを、教えてくれたのはアキだった。

アキがいたから、颯太は以前よりもずっと息が楽になった。

身体を貸すなんて偉そうなこと言って、本当に救われていたのは颯太のほうだ。

アキとの出会いがあったから、いまの颯太がある。

アキとだって、これからも一緒に音楽をつくっていきたい。

だから……

「……明日、最終面接があるんです。約束通り、面接に行ってもらいます」

颯太は布団をかぶった。

――翌朝、目が覚めたとき、もうアキはいなかった。

走れ!

最終面接の日。

今日は「りんご音楽祭」の当日でもある。

リクルートスーツに着替えて準備していると、玄関のチャイムが鳴った。

「おはよ!」

ヤマケンがまぶしいほどの笑顔で立っていた。

フェスに向かう前に立ち寄ってくれたのだろう。

だけど、颯太はもう心を決めている。

「……言いましたよね。僕は」

口ごもる颯太をよそに、ヤマケンは言う。

「アキはさ、小学校んときからリーダーで、ヒーローで、俺はただ、あいつの後ろ、ついていきゃよかった。……でも今は違う。俺ら、お前のおかげで、やっと前に進めたんだよ。颯太。おまえと一緒に新しいバンド、つくりたいんだ」

「迷惑なんです」

「迷惑かけるよ! だからお前も迷惑かけろよ! 好きなだけ!」

一方的にトークアプリで別れを告げて音信不通になった颯太に、まっすぐにぶつかってきてくれる。

颯太は心苦しくなって、玄関の扉を閉めた。

「待ってるからな!」

ヤマケンの声が胸に刺さった。

最終面接。

颯太はカセットプレーヤーの再生ボタンを押さなかった。

こんなときだけ都合よく頼るわけにはいかない。

「では、志望動機をお願いいたします」

「あ……」

面接が始まると、すぐに頭が真っ白になった。

言葉が、出てこない。

「僕が、やらせていただきたいことは……」

この企業でやりたいことなんて、本当は何もない。

ただ就活のために受けた会社なのだ。

「最終面接だと緊張するかな? 今まで通りでいいから」

「今まで通り……」

「君の話、よく上がってきててね。君がいると、面接の場がいつも盛り上がるって。ほら、君のモット―、『自分にこじ開けられない扉はない』だっけ?」

 

「それは……僕じゃありません」

 

「……え? なにを言ってるの?」

面接官が戸惑っている。

けれど、だって、それは僕じゃない。

本当にたくさんの扉をこじ開けていったのは、アキだ。

いつだってアキは自由に振るまった。

けれども、決して自分勝手ではなかった。

もう一度、みんなと音楽をやりたい。

アキの願いは、彼だけでなく、遺された人たちの願いでもあった。

「ECHOLL」のメンバーは不幸な事故で引き裂かれても、アキと、彼とつくりあげた音楽を捨てることができなかった。

アキの死に傷つきながらも前に進もうとしたのは、決してアキの存在を忘れて、なかったことにするためじゃない。

むしろ、アキがいたことを忘れないために、もう一度、音楽を始めようとした。

颯太は拳を握る。

もう、迷いはなかった。

アキの願いを、「ECHOLL」の願いを叶えることができるのは颯太だけだ。

「すみません……失礼します」

颯太は立ち上がって、面接官に頭を下げた。

すぐさま踵を返して、会場を飛び出していく。

自宅までギターをとりに行って、リクルートスーツを脱ぎ捨てる。

今から向かえば、まだフェスの出番には間に合うはずだ。

駐輪場に停めていた自転車に飛び乗って、颯太は勢いよくペダルを踏みつけた。

あなたが夢見た未来

自転車を下りた颯太は、いちばん高台にあるステージまで向かう。

タイムテーブルどおりなら、もうすぐ「ECHOLL」の出番となる。

「颯太!」

「カナさん」

振り返れば、同じように走ってきたであろうカナがいた。

額に汗をにじませて、彼女は颯太から目をそらさなかった。

「……会いに来た。颯太に」

真っすぐなカナの声に、もう迷いはなかった。

「この曲、一緒にやりたい」

うつむいた颯太は、ゆっくりと顔を上げる。

カナの向こうに立っているアキを見据えた。

「ごめんなさい。僕がやりたくて来ました。みんなと……あなたと」

ここまで颯太を導いてくれたアキと一緒に、音楽をやりたかった。

今までの人生で一番濃い時間が欲しかった。

みんなでつくる音楽で、生きている、という実感を共有したい。

アキが、ふっと柔らかに笑った。

颯太が再生ボタンを押す。

颯太の身体に入ったアキは、颯太の『ふり』をして言った。

「行こう。カナ『さん』」

メンバーと合流したアキは、前髪をかきあげてステージに向かった。

聴衆にまぎれて、颯太はステージに立つ「ECHOLL」を見上げた。

重田がドラムスティックを鳴らしてカウントをとる。

始まった曲に、颯太の胸はいっぱいになった。

みんなが奏でるのは、颯太とアキ、二人でつくった曲だ。

何度も繰り返し、妥協することなく作り上げた音が形になっていく。

『離さない。君をそこから未来へ連れ出すよ』

その歌声は、不思議とアキそのものに聞こえた。

『あの日思い描いてた未来へ行こう 行こう』

ヤマケンも、森も重田も、みんな生き生きとしている。

ギターを鳴らし、歌うアキは、嬉しそうにメンバーを見ていた。

いま、颯太はステージに立っていない。

けれども、寂しさはなかった。

この景色は、アキだけでなく颯太が願ったものだから。

(僕が、あなたを連れて行く)

アキが重ねていった時間を、アキの宝物だったバンドごと、ぜんぶ未来へと連れていく。

たとえ上書きしても、なかったことになんてさせない。

誰も知らなくても、颯太だけは知っている。

もう一度、アキがこの場所で生きていたことを。

命を燃やすように歌い上げたことを。

『この声を この言葉を この歌を ずっと』

ふと、アキの身体に青白い光がまとわりつく。

瞬いた淡い光が、少しずつアキの姿を崩して、薄れさせていった。

まるで最後の別れを告げるように。

アキの視線が、颯太を射抜く。

次の瞬間、颯太は客席ではなく、ステージに立っていた。

もうどこにも、アキの姿はない。

颯太は目を閉じて、大丈夫、と震えそうになる身体に言い聞かせた。

どんなに胸が痛くても、アキがいなくても、歌い続けてみせる。

『真昼の星座のように 永遠を歌うから 響け』

アキの歌ではなく、颯太のまま声を張り上げる。

颯太の歌声を後押しするよう、カナがピアノの音色を重ねていく。

そこに、メンバーそれぞれの音が合わさって、ひとつの音楽になっていく。

歌い終えると、割れんばかりの歓声が会場に響き渡った。

 

「さよなら」

 

柔らかなアキの声が、風とともに颯太の中へ溶けていった。

<完>

ぱんだ
ぱんだ
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まとめと感想

今回は映画『サヨナラまでの30分』のネタバレあらすじをお届けしました!

ラストでアキは消えちゃうんですけど、決して悲しい終わりではなく、

『アキの想いは颯太が未来に連れて行く』

という、希望に満ちた結末でした。

全体的には、颯太が

「バンド(カナ)にはこれまで思い出を積み重ねてきたアキの方がふさわしい」

と思っている一方で、アキが

「バンド(カナ)には今を生きている颯太の方がふさわしい」

と思っていたりと、めちゃくちゃエモかったです!

映画ではここに豪華アーティストによる挿入歌が6曲も入るので、さらに感動すること間違いなし!ですね。

※そんな挿入歌の中から1曲お届け!

ちなみに「ECHOLL」というバンド名は

  • 「Echo(エコー)」
  • 「Encore(アンコール)」

を組み合わせた造語。

アキのことを想うととっても切なくなる言葉ですよね。

映画『サヨナラまでの30分』の配信は?

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FOD

※配信情報は2021年2月時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

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キャスト

  • 新田真剣佑(宮田アキ役)
  • 北村匠海(窪田颯太役)
  • 久保田紗友(村瀬カナ役)

楽曲提供アーティスト

  • 内澤崇仁(androp)「風と星」
  • 雨のパレード「もう二度と」
  • odol「瞬間」
  • Ghost like girlfriend「stand by me」
  • Michael Kaneko「真昼の星座」
  • mol-74「目を覚ましてよ」



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