みなさんは「モンテ・クリスト伯」を読んだことがありますか?
日本では「巌窟王(がんくつおう)」とも訳されているデュマの名作小説ですね。
罪には罰を、誠実さには褒賞を。
「正義の復讐者」である主人公が悪人を追い詰め、善人を助けていくという王道のストーリーには時代を越える魅力があります。
というわけで今回はドラマ化もされた名作「モンテ・クリスト伯」のあらすじネタバレをお届けします!
復讐が終わった後、結末で主人公を待ち受けていたものとは…!?
あらすじネタバレ
地下牢の囚人
船乗りのエドモン・ダンテス(19)の人生は、まさに順風満帆だった。
先代の船長が亡くなったことで新たに船長を任されることになっていたし、恋人のメルセデス(17)とはもうすぐ結婚することになっていた。
…それがまさか、あんなことになるなんて。
事件が起きたのは、まさにダンテスとメルセデスの結婚式の日。
式場になだれ込んできた警官たちによって、なんとダンテスは逮捕されてしまったのだ。
もちろんダンテスは「身に覚えがない」と主張したが、警官たちは聞く耳を持たない。
そのままダンテスは検事による取り調べを受けることになり…なんと裁判すら行うことなく投獄されてしまった!
罪状は「(当時離島に流されていた)ナポレオンの熱狂的な支持者であること」
確かにダンテスは先代船長の遺言に従ってナポレオンの密書を運んだが、手紙の内容は知らなかったし、もちろんナポレオンの支持者というわけでもない。
本来なら罪には問われないはずだ…それがなぜ監獄の島「シャトー・ディフ」に収監されることになってしまったのだろうか?
事件の裏側
この騒動の真相は次の通り。
まず、警官たちがダンテスを逮捕したのは『密告書』が届けられたためだ。
密告書の差出人はダンテスを良く思わない3人の人物。
ダングラール
船の会計係。若くして出世するエドモンのことを妬ましく思っていた。
フェルナン
漁師。どうしてもメルセデスと結婚したいと思っており、エドモンが邪魔だった。
カドルッス
他人の不幸を妬む小物。
中でも特にダングラールとフェルナンの強い意志によって、密告書は検事のもとに届けられた。
しかし、「ダンテスが自分の意志でナポレオンの密書を運んだ」という密告書の内容はあくまで嘘っぱちに過ぎない。
当然ながら、この虚偽の密告書だけで罪人の烙印を押されるようなことにはならないはずだ。
では、なぜダンテスは不幸にも無実の罪でシャトー・ディフに閉じ込められることになってしまったのか?
その理由は、ダンテスを取り調べた若き検事・ヴィルフォールにある。
実は、ナポレオンから預かった手紙はヴィルフォールの父親(ノワルティエ)に宛てられたものだった。
つまり、ナポレオンと共謀して謀反を起こそうとしていたのはダンテスではなくヴィルフォールの父親だったのだ。
取り調べ中にこの事実に気づいたヴィルフォールは保身のために手紙を燃やすと、ダンテスに罪を被せて裁判も通さず監獄送りにした。
こうしてダンテスはまんまと陥れられ、二度とは出られない暗い牢獄の住人になってしまったのだった。
牢獄での出会い
シャトー・ディフの中でも特に劣悪な地下牢に閉じ込められたダンテスは、やがて隣の牢の囚人が脱獄を企てていることに気づく。
囚人の名はファリア神父。
看守には「気がふれた老人」と思われているようだったが、実のところファリア神父は計り知れない知識を持つ学者だった。
ダンテスは第二の父としてファリア神父を尊敬し、ファリア神父から実に多くのことを学んでいく。
そうして知識を吸収し、教養を身につけていくことで、ダンテスはやっと自分の身に起こった悲劇の真実に気がついた。
絶望に沈みきっていたダンテスの心を、怒りの炎が煌々と照らす。
(必ず、復讐を果たしてみせる)
ダンテスは心に固く誓った。
脱獄
ダンテスはファリア神父と協力して着々と脱獄の準備を進めていた。
ところが、計画を実行する前にファリア神父は病に倒れてしまう。
もう助からないと悟ったファリア神父が「おまえは私の息子同然だ」と語りかけると、ダンテスは涙を流して悲しんだ。
ファリア神父は最期に莫大な隠し財産の在り処をダンテスに伝えると、そのまま息を引き取った。
亡きファリア神父の遺体は袋に入れられ、翌朝には牢から運び出される予定だ。
ダンテスは祈りを捧げながら袋の中の遺体と入れ替わり、ついにシャトー・ディフから脱獄することに成功した。
投獄から、実に14年後。
ダンテスは34歳になっていた。
モンテ・クリスト伯爵
ファリア神父の言った通り、モンテ・クリスト島には巨万の富が隠されていた。
金や宝石類の価値は約1億フラン。
どんなに使っても使い切れないほどの財産を手に入れたダンテスは、まず情報を集めることから始めた。
その結果は次の通り。
ダンテスの父親
ダンテスが投獄された後も、老父は息子の無実を信じ続けた。
しかし、最後は飢えと孤独の中で亡くなった。
ピエール・モレル
かつてのダンテスの雇い主。
ダンテスを救おうと努力したが力及ばず、経営するモレル商会は今や倒産の危機に瀕している。
メルセデス
ダンテスの投獄後、いとこのフェルナンと結婚した。
当然ながら、彼女はフェルナンの悪行を知らない。
カドルッス
落ちぶれて安宿の主人に。
ダングラール
スペインの銀行に入って大出世。
現在はフランス有数の銀行家。男爵。
フェルナン
軍に入って大出世。陸軍中将であり貴族院議員。
現在はモルセール伯爵の名で通っている。
ヴィルフォール
出世し、現在の肩書は検事総長。
なんということだろうか!
善良な人々が困窮する一方で、悪人が堂々と出世しているだなんて間違っている!
ダンテスはまず火急の問題であるモレル商会の救済から手を付けることにした。
今、モレル商会は資金繰りに詰まったばかりか、最後に残った船すらも失い絶望的な状況にある。
そこでダンテスは正体を隠したままモレル商会の借金を帳消しにし、新しい船を与え、さらには娘(ジュリー)の結婚費用までもを贈った。
これによりモレル商会は再び息を吹き返したのだった。
復讐開始
モレル商会の救出から、9年後。
すべての準備を終えたダンテス(43)は、満を持してイタリアの貴族「モンテ・クリスト伯爵」としてパリの社交界に乗り出した。
いかにパリ社交界が華やかな場所だといえども、ダンテス以上の財力を持つものなどいない。
「モンテ・クリスト伯爵」の名が「桁違いの大金持ち」として人々の噂に上るまで、さして時間はかからなかった。
人々から送られる羨望の眼差しを受けとめる一方で、ダンテスは次々にターゲットに接触していく。
モルセール伯爵(フェルナン)には息子(アルベール)を危機から救った恩人として。
銀行家のダングラールには最大級の顧客として。
ヴィルフォール検事総長には妻子を助けた恩人として。
※もちろん、ダンテスが都合よくターゲットの身内を危機から救えたのは、彼がそうなるよう仕組んだからに他ならない。
誰もが立派な肩書にふさわしい豊かな暮らしを送っていた。
そして、誰もがモンテ・クリスト伯の正体に気づかなかった。
まるで、自らの罪をすっかり忘れてしまっているかのようだ。
…なに、構いはしない。
準備はすでに整っている。
さあ、復讐を始めよう。
新たな登場人物
エデ
ギリシャの地方太守アリ・パシャの娘。
フェルナンの裏切りによって父親を殺され、自らも奴隷の身分に貶められたが、モンテ・クリスト伯爵によって救出された。
マクシミリアン・モレル
ピエール・モレルの息子。大尉。
誠実な青年であり、モンテ・クリスト伯爵とは親しい仲。
ただし、伯爵の正体は知らない。
ヴィルフォールの娘であるヴァランティーヌを愛している。
ベルトゥッチオ
モンテ・クリスト伯爵の執事。過去に恨みからヴィルフォールを刺したことがある。
ヴィルフォールが地中に埋めた愛人との子どもを助け、ベネデットと名付けて育てた。
アルベール
フェルナンとメルセデスの子ども。誠実な青年。
ダングラールの娘・ユージェニーと許嫁だが、お互い結婚に前向きではない。
華麗なる復讐
★ダングラール(その1)
銀行家のダングラールが大事にしているものといえば、まず間違いなく金だろう。
第一段階。モンテ・クリスト伯爵は密かに根回しして銀行の融資先を破産させると、さらには「戦争が起こった」という偽の情報を流して、ダングラールが価値ある株や債権を売却してしまうように仕向けた。
これにより、ダングラールの銀行は一気に経営難に陥る。
第二段階。モンテ・クリスト伯爵は何食わぬ顔で焦るダングラールに近づくと「とんでもない大金持ちの息子だ」として『カヴァルカンティ家の嫡子・アンドレア(※)』を紹介した。
※もちろん偽物。正体は不良のベネデット。
案の定、ダングラールはモンテ・クリスト伯爵の話に食いついてくる。
娘のユージェニーとアンドレアを結婚させれば銀行を立て直せると考えたのだ。
しかし、そのためには「ユージェニーとアルベールの婚約」をどうにかして破棄する必要がある。
モンテ・クリスト伯爵はダングラールに「モルセール伯爵(アルベールの父=フェルナン)の過去を調べてみては?」と進言した。
★カドルッス
安宿の主人に落ちぶれていたカドルッスは、あのあと金のために人の命を奪い、長らく刑務所に入っていた。
そこでカドルッスと一緒に入っていた囚人こそ、不良の道に落ちたベネデット(ヴィルフォールの隠し子)
脱獄後、ベネデットがアンドレア・カヴァルカンティとして裕福な暮らしを送っていることを嗅ぎつけたカドルッスは、ベネデットを脅迫して金を引き出し続けていた。
…だが、過ぎたる欲は身を滅ぼすものだ。
カドルッスはベネデットから聞き出した「不用心な金持ちの屋敷」に盗みに入るが、実はそれはベネデットの罠。
知らせを受けて屋敷で待ち構えていたブゾーニ神父(正体はダンテス)によって返り討ちにされてしまう。
すぐにカドルッスは逃げの一手を打つも、屋敷から出たところでベネデットに刺されて絶命。
最期にブゾーニ神父の正体がダンテスであることを聞かされたカドルッスは、恐ろしさにひきつった表情のまま息絶えた。
「まず、一人…」
★フェルナン(モルセール伯爵)
復讐対象者の中で最も蔑むべき人間はモルセール伯爵だろう。
今や貴族院議員にまで上り詰めたモルセール伯爵だが、それは度重なる裏切りの末に手に入れた地位だった。
中でも、軍人時代に仕えていたアリ・パシャを裏切った事件は聞くに堪えない。
あろうことかフェルナン(当時)は主人であるアリ・パシャを殺害し、その城をトルコ軍に、その妻と娘(エデ)を奴隷商人に売り飛ばしたのだ。
…ところで、モンテ・クリスト伯爵がダングラールに「モルセール伯爵の過去を調べろ」と勧めたことを覚えておいでだろうか?
ダングラールは娘(ユージェニー)とアルベールの婚約を解消するため、アリ・パシャ事件の真相を突き止めた。
そして、その悪事は新聞記事となり、広く世間に知られることとなった。
モルセール伯爵はふてぶてしくも「誤報だ」と主張したが、裏切りの生き証人であるエデの証言により罪状が確定。
こうしてモルセール伯爵の名誉は地に落ちた。
そんな中、モルセール伯爵の名誉のために立ち上がった者がいた。
長男のアルベールである。
アルベールは黒幕がモンテ・クリスト伯爵であることを突き止めると、家の名誉のために決闘を申し込んだ。
父親が過去に許されない罪を犯したことは認めるが、それを暴く権利などモンテ・クリスト伯爵にはないはずだ、というのがアルベールの主張だった。
モンテ・クリスト伯爵は動揺することなく決闘を承知する。
というのも、モンテ・クリスト伯爵は剣の腕前も銃の扱い方も超一流であり、決闘に負ける見込みなどまるでなかったのだ。
決闘の前夜。
モンテ・クリスト伯爵を訪ねてきた人物がいた。
モルセール伯爵夫人(メルセデス)である。
要件は息子の命乞い。
「エドモン…どうか息子の命を奪わないでください」
驚くべきことに、メルセデスはモンテ・クリスト伯爵の正体がエドモン・ダンテスであることを見抜いていた。
涙ながらに息子の命乞いをするメルセデスにほだされたダンテスは、わざと決闘に負けることを承知する。
決闘に負けるということは、命を失うということだ。
「ありがとうございます。必ず息子の命は助けて下さいね。さようなら」
覚悟を決めて要求を受け入れたにも関わらず、メルセデスがあまりにもあっさりとそのことを受け入れたので、ダンテスは驚いてしまった。
「俺は馬鹿だった。復讐を誓った男が普通の人間の情けを再び持つとは…」
事情を知ったエデは涙を流して思いとどまるようダンテスを説得したが、一度口にした約束を反故にすることなどできない。
ダンテスの決心が揺らぐことはなかった。
翌朝。
決闘に現れたアルベールは青ざめた表情をしていた。
どうやらアルベールはメルセデスからすべての事情を聞いたようだ。
父・フェルナンの策略により14年間も暗い牢獄に閉じ込められていたエドモン・ダンテスには復讐をする正当な権利がある。
アルベールはそのことを認めてモンテ・クリスト伯爵に謝罪するとともに、フェルナンの身内である自分たち母子への温情に深く感謝の意を表した。
事ここに至っては、もはや2人が争う理由はない。
決闘は中止という意外な形で幕を閉じたのだった。
息子が決闘を取りやめたと知るや否や、モルセール伯爵は怒り狂ってモンテ・クリスト伯爵の屋敷に乗り込んできた。
今度は自ら決闘を申し込み、名誉のために戦おうと考えたのだ。
もちろん決闘となれば、モンテ・クリスト伯爵の勝利は疑いようもない。
しかし、そのような決着のつけ方は復讐の仕上げとしてふさわしくないだろう。
ダンテスは水夫の服に着替えると、フェルナンに向かって叫んだ。
「お前は俺から許嫁のメルセデスを奪った。この顔を忘れたとは言わせないぞ」
目の前の男の正体がエドモン・ダンテスだと気づいた途端に、フェルナンの全身は震えだし、歯はガチガチと音を鳴らし始めた。
先ほどまでの勇ましい姿はどこへやら。
フェルナンは脱兎のごとく逃げ出し、自分の屋敷へと帰った。
すると、そこには手をとりあって家から出ていくメルセデスとアルベールの姿が!
地位も名誉も失い、妻子にも見捨てられ、今やフェルナンには何も残っていない。
孤独と絶望の中、フェルナンは自らの頭に銃弾を撃ち込んだ。
★ダングラール(その2)
アンドレアとユージェニーの結婚式当日。
これで銀行を再建できるとダングラールは上機嫌だった。
ところが、式場に警官たちがなだれ込んできた(※)ことで事態は一変。
※アンドレア(=ベネデット)がカドルッスの命を奪った事件について、モンテ・クリスト伯爵が通報したため。
式はめちゃくちゃになり、いつの間にかアンドレアは逃走。
もともと結婚に乗り気ではなかったユージェニーもまた混乱に乗じて家出してしまった。
これでカヴァルカンティ家の財産を当てにしていたダングラールの計画は水の泡。
モンテ・クリスト伯爵がとどめとばかりに約束していた多額の借入を申し込んだことで、ダングラールの銀行は事実上経営破綻した。
その後、ダングラールは銀行の始末をつけることなくパリから夜逃げする。
その手中にはモンテ・クリスト伯爵から受け取った500万フラン分の受取が握られていた。
経営の責任を取ることなく、自分だけ金を持って逃げだしたのだ。
★ヴィルフォール
一方その頃、ヴィルフォール家では立て続けに家人が亡くなるという事件が起こっていた。
毒によって何人もの身内の命を奪った犯人の正体は、なんとヴィルフォールの後妻・エロイーズ。
その目的は、自分の子供であるエドワールに財産を相続させることだった。
最後に前妻の子どもであるヴァランティーヌを亡き者にしたことでエロイーズの計画は完遂されたが、いつまでも真相に気がつかないヴィルフォールではない。
「罰を受けずに済むとでも思っていたのか?私が帰ってくるまでに毒薬を飲んでおけ。さもなくば私がお前を首切り台送りにしてやる」
まるで自分にはひとかけらの罪もないかのように、ヴィルフォールは冷たく言い放った。
娘を失った悲しみに暮れつつも、ヴィルフォールは検事総長としての責務を果たすため法廷へ。
誰もが彼のことを立派な検事だと褒めたたえる中、その日の裁判が始まった。
被告人は『あの』ベネデットだ。
もうすぐ裁かれようというのに、その態度はひどく落ち着いている。
名を問われると、ベネデットは立ち上がって答えた。
「自分の本当の名前は知らない。しかし、父の名前なら知っている。検事総長のヴィルフォールだ」
周囲がざわめく中、ベネデットはそのまま自分の出自について語り続けた。
ヴィルフォールがかつて妻ではない女と密通していたこと。
その女が生んだ赤ん坊を、ヴィルフォールが生きたまま埋葬したこと。
赤ん坊は偶然にもベルトゥッチオによって助けられ、ベネデットと名付けられたこと。
話し終わる頃には、ヴィルフォールの顔は真っ青になっていた。
「お父さん、証拠をお見せしましょうか?」
「必要ない。お前の言ったことはすべて本当だ」
ヴィルフォールは罪を認めると、検事総長の地位を捨て、よろよろと家に帰っていった。
今やヴィルフォールの心の支えは、同じく罪を犯した妻エロイーズの存在だけ。
ところが、帰宅したヴィルフォールを待ち受けていたのは毒薬を飲み冷たくなったエロイーズとエドワール、そして最近隣に越してきたばかりのブゾーニ神父だった。
ブゾーニ神父は変装用のかつらをとって言い放つ。
「思い出せ。出世のために無実の男を地下牢に閉じ込めたことを。この顔を覚えていないのか」
その後のヴィルフォールの姿は、あまりにも哀れなものだった。
罪の重さに耐えられなかったヴィルフォールの心は壊れてしまい、すっかり狂ってしまったのだ。
狂人になってしまったヴィルフォールを前にして、ダンテスはつぶやく。
「復讐は、もう充分だ。最後の者は助けてやろう」
★ダングラール(その3)
パリから夜逃げしたダングラールは、ローマのトムソン商会でモンテ・クリスト伯爵の受取を500万フラン分の手形に換えた。
(よしよし、この金さえあれば何とでもなる)
ひと安心したのも束の間、気づけばダングラールは山賊に捕えられ、貧相な牢に閉じ込められてしまっていた。
だが、ダングラールにはまだ余裕がある。
なにせ懐には500万フラン相当の手形が入っているのだ。
いくらか金を積めばすぐに解放されるだろう、とダングラールは高をくくっていた。
ところが、ダングラールにとって想定外だったのは、なぜか山賊たちが切り札の500万フランについて知っていたことだ。
山賊たちは一回の食事につき10万フランという法外な値段を要求してくる。
最初こそ意地で我慢していたダングラールだったが、やがて飢えに屈し、食事ごとに10万フランの手形を書くようになった。
残り400万フラン…200万フラン…50万フラン…。
2週間ほど経った頃、500万フランもあったダングラールの資産は、わずか5万フランにまで目減りしてしまっていた。
ダングラールは最後の5万フランだけは守り通そうと粘ったが、絶食5日目にしてついに限界が訪れる。
ダングラールは山賊の頭を呼ぶと言った。
「私の持っているものはすべて差し出します。だから、私を生かしておいてください」
情けなく命乞いをするダングラール。
ふと顔を上げると、そこにいたのは山賊の頭ではなくモンテ・クリスト伯爵だった。
「いや、私はモンテ・クリスト伯爵ではない」
「そんなはずはない。ならば、他の誰だというのですか」
「お前によってシャトー・ディフに送り込まれた男、エドモン・ダンテスだ。我が父は飢えて亡くなった」
ダングラールは一声絶叫すると、そのまま倒れ伏した。
「立ちなさい。あなたを許そう。フェルナンはこの世を去り、ヴィルフォールは発狂した。あなたは他の2人より幸福だ。その5万フランはそのまま持っていってよろしい。あなたは自由の身だ」
そう言い残し、モンテ・クリスト伯爵は姿を消した。
あとに残されたダングラールは倒れたままピクリとも動かず、その髪はまるで老人のように真っ白に変わってしまっていた。
結末『待て、しかして希望せよ』
パリでのモンテ・クリスト伯爵には、年の離れた親友がいた。
その名は「マクシミリアン・モレル」
ダンテスがかつて救ったモレル商会の息子である。
ヴィルフォール家の事件のとき、モンテ・クリスト伯爵は彼から「愛するヴァランティーヌをどうか救ってほしい」と頼まれていた。
なるほど、親の罪を子にまで求めることはないだろう。
モンテ・クリスト伯爵はマクシミリアンの頼みを聞き入れたが、すでに告げたようにヴァランティーヌはエロイーズの毒により亡くなっている。
マクシミリアンは悲しみのあまりヴァランティーヌの後を追おうとしたが、モンテ・クリスト伯爵は「私こそがモレル商会を救った恩人である」と自らの正体を明かし、一か月間だけ思いとどまっておくようマクシミリアンに言い聞かせた。
そして、一か月後。
すべての復讐を終えたモンテ・クリスト伯爵は、マクシミリアンをモンテ・クリスト島に連れて行った。
すると…ああ、何ということだろう。
そこには夢にまで見たヴァランティーヌの姿があるではないか!
そう、実はヴァランティーヌは生きていたのだ。
医者すらもヴァランティーヌの生存に気づけなかったのは、一時的に死んだような状態になる薬を飲ませていたためだった。
※島に着いたマクシミリアンは自決用の毒だと信じてヴァランティーヌが飲んだものと同じ薬を呑み込んだ。目を覚ましたマクシミリアンが自身とヴァランティーヌの生存に気づいたのは、モンテ・クリスト伯爵が島から去った後だった。
★第二のメルセデス
薬を飲んで気を失っているマクシミリアンを、ヴァランティーヌがかいがいしく介抱している。
これでいい。
2人はきっと良い夫婦になる。
かつての自分とメルセデスが手に入れられなかった幸福を、新しい夫婦に与えることができた。
…もう、充分だ。
唯一、娘のように大切に想っているエデのことだけが心残りだが…なに、自分がいなくなってもうまくやっていけるだろう。
「ヴァランティーヌさん、どうぞこれからもエデと仲良くしてやってください。これから先、エデはひとりぼっちになるでしょうから」
伯爵がヴァランティーヌにそう頼んだ時だった。
「ひとりぼっち?いったいどういうことでございますの」
振り返ると、この世の終わりのような顔をしたエデが立ちすくんでいた。
「お前は明日から自由になるのだ。もう奴隷ではない。かつての暮らしに戻れるのだよ」
「それでは、私を捨てていくとおっしゃるのですか」
「エデ、お前は若く美しい。私のことなど忘れて幸せになるのだ」
「…わかりました。それがご命令でしたら」
悲痛な面持ちで後ずさるエデ。
とても黙って見ていることなどできず、ヴァランティーヌは叫んだ。
「伯爵様、エデの気持ちをおわかりになりませんの」
「私の心をわかっていただけるなんて。奴隷の心をわかろうとする主人などいませんわ」
伯爵はエデの目をじっと見つめた。
エデもまた、伯爵の目を見つめ返していた。
「お前は、私と一緒にいるほうが幸福だというのか」
「はい」
「私が、お前から離れたら?」
「これ以上、生きていようとは思いません」
「エデ、お前は…私を愛しているのか」
「ヴァランティーヌさんがマクシミリアンさんを愛しているように、命をかけてお慕いしています」
久しく忘れていた感情がダンテスの心に染みわたっていく。
ダンテスは両手を広げて、エデのことを抱きしめた。
★『待て、しかして希望せよ』
やがて目を覚ましたマクシミリアンは、伯爵からの手紙を受け取る。
万事抜かりのない伯爵らしく、手紙にはこれから2人がどうするべきかが綴られていた。
また、手紙にはパリの屋敷も、モンテクリスト島に設えた豪華な隠れ家も、結婚祝いとして贈る、と書かれてある。
そして伯爵からの手紙は、次のように締めくくられていた。
『生きることの素晴らしさを知るためには、まず苦しみに身を置かなければなりません。私があなたを騙したのは、そういう理由からです。お二人とも、どうかお幸せに。そして、次の言葉をいつまでも忘れないでいてください』
それはまさに、シャトー・ディフの絶望から這い上がり、見事に復讐を成し遂げた男の人生を表現した言葉だった。
『待て、しかして希望せよ』
遠くを見ると、水平線の彼方に小さく船が見える。モンテ・クリスト伯爵とエデを乗せた船だ。
「さようなら、我が友よ!我が父よ!」
涙ながらに叫ぶマクシミリアンに寄り添い、ヴァランティーヌは言った。
「きっと、またお会いできます。伯爵様はおっしゃいました。『待て、しかして希望せよ』と」
<モンテクリスト伯・完>
まとめと感想
今回は名作「モンテ・クリスト伯」のあらすじ・ネタバレをお届けしました!
この作品の何が良いって、一番はやっぱり主人公のキャラクターではないでしょうか。
・復讐者でありながら、弱きを救う紳士でもある
・主人公なのに黒幕(悪人たちは終始一貫してダンテスの手のひらの上で踊っているだけ)
・基本的に無敵超人(頭も切れるし、腕っぷしも強い。一通りの学問はマスターしている)
小説を読み終わったとき、私はすっかりエドモン・ダンテスの大ファンになってしまっていました。
だから「どうなるものか」とハラハラしていた結末では、ダンテスがエデの愛に気づいてくれて本当に嬉しかったです!
この手のストーリーでド直球ストレートなハッピーエンドを迎えるって、なんだか逆に新鮮ですよね。
実に華麗で爽快な復讐劇もさることながら、ポジティブな気持ちになれるラストにも大満足でした。
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このコメントちゃんと送れるでしょうか?
岩窟王のあらすじ、有難うございました。
雪の丞変化との比較をしたくて読みました。同じ様に島流しや横恋慕の話が出てくるけれど、海とかスケールの大きさが違うかな?雪の丞の方は テレビ(1970)の脚本が かなり原作より社会派で、大野靖子氏が担当された最終の2回は、「権力が財宝を呼ぶのだ」とか、けっこう原作にない印象的なセリフが出てきます。貧乏侍のしがない出世の望みや、主人公のラストの言葉も「復讐を遂げた私に何が残りました?復讐などせずに、あなたは新しい人生を生きなさい」と夫の敵を取ろうとした妻に諭したり、けっこう心に残ります。
たかちゃんさん、読んでいただきありがとうございます!
モンテ・クリスト伯と雪之丞変化の類似は指摘されるまで気づきませんでした!
たしかに比較しながら読むとおもしろそうですね!
読んでみなさい見てみなさいと紹介されて飛び付こうと思ったのですが、まずは興味有るかなー?と疑いストーリーを見せて貰いました、わかりやすくまとめてありとても助かりました、有難うございましたm(__)m
本作のあらすじを探してこのサイトを見つけました。登場人物とストーリーが簡潔にまとめてあり本物の小説を読むように楽しめました。これを読んだ後青い鳥文庫の本を買って読みました。ちなみにモンテクリスト伯が信号所を乗っ取って偽の信号を送ったのが世界初のハッキングと言われているそうです。