本谷有希子「生きてるだけで、愛」を読みました!
今回は小説「生きてるだけで、愛」の
- あらすじ
- ネタバレ
- 感想
をお届けします!
「生きてるだけで、愛」のあらすじとネタバレ!
引きこもって、もう20日になる。
きっかけは、いつもささいなことだ。
今回の経緯はこんな感じ。
・バイト先のスーパーで不細工な同僚の男からデートに誘われた。なんとかできそうな女だと思われたのか。
・そしたら、その不細工男のことが好きなブスから露骨に攻撃された。
・ムカついたので怒鳴り返したら、店長から怒られてクビになった。
そんなわけで、あたし、板垣寧子(いたがき やすこ)は無職になり、ついでに重い鬱になった。
現在引きこもっているのは彼氏である津奈木景(つなき けい)のマンションの一室。
同棲して3年になる、と言えば聞こえはいいが、実際は無理やり押しかけて、寝て、それから居ついているだけだ。
ゴシップ雑誌の編集長である津奈木は忙しく、最近はあまり帰ってこない。
それでなくても、もともと津奈木は静かで内向的で、まるで植物のように大人しい奴なので、文句は言われない。
…あたしは、そのことにどうしようもなくイライラしてしまう。
慣れているとはいえ、どうして鬱な彼女をもっと心配しないのか?
いや、もし心配されたらされたで「放っておいて!」とキレるんだろうけど…。
すでにお察しのように、あたし、板垣寧子はいわゆるメンヘラなのである。
しかも、今回は鬱のせいで過眠症も併発している。
いくら早起きしようと思っても、目が覚めるのは日暮れごろか、夜になってから。
ふつうの人はどうして苦もなく夜に寝て、朝に起きれるのだろう?
どうしてあたしは、ふつうの人がふつうにできることができないのだろう?
なんでもないことで泣いてしまうのはどうしてなんだろう?
あたしは、あたしのことがわからない。
もう嫌だ。消えてなくなりたい。
元カノ
津奈木とは別に、劇的な恋があって付き合い始めたわけではない。
出会いは、たまたま参加したコンパ。
津奈木のことは特にタイプでもなかったけれど、無理に盛り上げようとしないだけ他の男どもよりちょっとはマシだった。
当時、津奈木は恋人にフラれたばかりで、あたしも同棲していた彼氏にフラれたばかりだった。
失恋と、酒の勢いと、あと一身上の(住むところがないという)理由で、あたしは津奈木の家に押しかけ、寝て、恋人としてそこに住みついた。
そうして、もう3年になる。
もう長いこと、そういうことはしていない。
ある日、突然、津奈木の元カノが現れた。
典型的な文系男である津奈木の元カノというから、てっきりゆるふわしたピンクが似合う女子かと想像していたけれど、安堂は意外にもキャリア系の女だった。
元カノ・安藤の要求は単純明快。
要するに「津奈木とヨリを戻したいから、おまえは別れろ」というわけだ。
新しい男をつくって津奈木を捨てたくせに、何を言っているのか。
おおかた、その新しい男にフラれて焦っているのだろう。
安堂の年齢は30代後半に見える。
崖っぷちってやつだ。
※ちなみに寧子は25歳。津奈木は32歳。
崖っぷちの焦りからか、それとももともとの性格なのか、安藤は初対面の寧子に言いたい放題だった。
「無職で二十四時間ずっと家にいるのに家のこと何もしないってどうなの。あなた、女としてどうとかいう前に人間としてどうしようもないわよね。なめてんでしょ、景のことも私のことも」
鬱の苦しみも過眠症の苦しみも知らないくせに、なにを偉そうに。
そう思ったけれど、面と向かって反発することはできなかった。
だって安堂の負のオーラは半端ない。
きっと何を言っても火に油を注ぐだけで、結局、難癖をつけられてしまうのだ。
だったら、黙ってやり過ごすのが正解だろう。
…安堂から解放されたのは、1時間後のことだった。
社会復帰
うんざりすることに、安堂はそれから毎日、景のいない時間を見計らってはチャイムを連打しに来た。
…なんなんだ、この人。ヒマなのか。
絶対に、二度と、顔を合わせるもんか。
そう思っていたのに、数日後に再び捕まってしまったのは、油断したからとしか言いようがない。
…まさかマンションの入り口でずっと待ち構えているだなんて思ってもみなかった。
安堂に連行された先は、意外なことにいい感じのイタリアンレストラン。
とはいえ、問答の中身は前回とさして変わらなかった。
「ねえ。あんた、自分が人間としていかに最低かって考えたことある?家で寝てるだけで男に世話してもらってそれが当たり前だって思い込んで景のこと苦しめて。馬鹿にすんのもいい加減にしなさいよ!」
相変わらずの言われたい放題。
しかし、今考えれば、これは安堂の罠だったのかもしれない。
「答えなさいよ。本当に働く気があるのかどうか」
「あります」
「嘘じゃないでしょうね」
「嘘じゃないです」
売り言葉に買い言葉、というやつだ。
あたしはとにかく楽になりたい一心で頷いた。
…それがいけなかった。
「じゃあ、今すぐこの店で働きなさいよ」
「え?」
信じられないことに、あたしは本当にここで働くことになってしまった。
あたしが大人しく働く気になったのは、トラットリア・ラティーナが元ヤンキー夫婦が経営するアットホームなレストランだったからだ。
彼らは熱い魂の持ち主で、どうにか不採用をもらおうと精神的に不安定なんだという話をしたにもかかわらず、あっさり採用されてしまった。
「がんばって立ち直っていこうぜ!」
オーナーの若い男が二カッと豪快に笑う。
どうやら彼らはちょうど人手不足で、新しい従業員を探していたらしい。
…最初はもちろんバックレようと思っていた。
でも「もしかして」と考えて、やっぱり働いてみることにした。
もしかして、これはチャンスなんじゃないだろうか?
あたしとも景とも違う人種の、健康的で健常な人たち。
彼らに支えてもらえれば、もしかして本当に鬱から抜けられるのではないだろうか?
逃走
勤務初日が終わった。
たくさん失敗してしまったけれど、それでも店のみんなは怒ることなく受け入れてくれた。
ここには純粋な善意があふれている。
営業後には歓迎会までひらいてもらって、あたしは久しぶりに笑った。
…けれど、やっぱり駄目だった。
きっかけは、やっぱりささいなことだ。
「ウォシュレットが怖い」というあたしの発言に、誰も同意してくれなかった。
たったそれだけのこと。
たったそれだけのことで、あたしはもうダメだった。
自分はみんなと違うんだ、と思い出してしまったから。
だから、爆発してしまった。
いきなり外に出て、駐車場の車をべっこべこに凹ませた。
店に戻ってくると、トイレのタンクの陶器製の蓋を持ち上げて床にたたきつけて派手に破壊し、それから壁のみつをの額縁を便器にぶち込んだ。
呆気にとられる店の人たちを置き去りにして、そのまま走って逃げた。
結末
真冬の深夜。津奈木のマンションの屋上。
呼び出された津奈木が、あたしの姿を見て驚いている。
それはそうだろう。
こんなに寒いのに、服も下着も身につけていない女が屋上のフェンスに寄りかかっているのだから。
それでも津奈木は慣れたもので、すぐに状況に適応した。
「鬱は?」
質問に答える。
「終わった」
「そうか。今回はまあまあ長かったね」
寒いから部屋に入ろうと伸ばされた津奈木の手を振り払って、あたしは言いたいことを言う。
「津奈木。あんた、あたしといて疲れないようにしてるでしょ。すぐにごめんって謝るのもイラつく。誤解してるようだからいうけど、あたしを怒らせない一番の方法はね、とりあえず頷いてやり過ごすことじゃないから。あたしが頭使って言葉ならべてんのと同じくらい謝罪の言葉考えて、あたしがエネルギー使ってんのと同じくらい振り回されろってことなんだよね」
一か月近く鬱で引きこもっていた反動で、ベラベラと言葉があふれてくる。
津奈木はそれでも、ただ静かに「うん」と頷いた。
「バイト先の人がすごく優しくていい人たちで、一瞬『あ、これはいけるかな』って思ったんだよね。でも、ダメだった。ウォシュレットの怖さがわかんないって言われて急にどうしていいか分かんなくなっちゃって。ねえ、津奈木。たかがウォシュレットだよ?あたしはさ、あの場所を何がなんでも大事に守ろうって思ったのにそんなことで滅茶苦茶に壊しちゃったよ」
いつのまにか、あたしは涙ぐんでいた。
その顔を見られたくなくて津奈木にすがりつくと、津奈木はあたしの背中をさすりながら小さくうんうんと頷いた。
「頭おかしいのってなおるのかなあ。頑張ろうって思ってバイト行ってもすぐ鬱になるし、鬱なおっても躁になるし、躁が落ち着いたらどうせまた鬱が来るんだとか考えたら、もうどうしていいかわっかんない。ねえ、あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ?」
相変わらず津奈木はしゃべらない。だから、あたしはしゃべり続ける。
「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね一生。いいなあ津奈木。あたしと別れられて、いいなあ」
どうしても伝えたかった。
誰よりも一番、あたしが自分自身に疲れていることを。
そんなあたしの気持ちを知ってか、それとも無難にやりすごすためか、津奈木は静かに言った。
「…いいよ。一緒にちゃんと疲れるよ」
葛飾北斎が描いた有名な富士山の絵は、科学的には五千分の一秒の瞬間を切り取ったものであるらしい。
あの、波しぶきのやつ。
葛飾北斎がその一瞬を絵にすることができたのは、きっと北斎が誰よりも富士山のことを考えていたからに違いない。
北斎がいっぱい考えてくれたから、富士山も期待に応えて美しい瞬間を見せたんだ。きっと。
「あたしはもう一生、誰にわかられなくったっていいから、あんたにこの光景の五千分の一秒でも覚えていてもらいたい」
あたしは叫んだ。屋上の景色を背にして、ありのままの自分を見せつけながら。
「あたしがあんたとつながってたって思える瞬間、五千分の一秒でいいよもう」
津奈木にとっての富士山になれるなら、それで満足してやる。
「どうなのよ、そういうの」
滅茶苦茶なことを言うあたしの全身を見つめながら、津奈木は言った。
「いいと思うよ」
津奈木にあたしのことを何から何まで全部全部全部全部理解してもらえたら、最高に幸せなんだろうな。
でも、あたしが自分のことを何も分からないんだから、それは無理な話だ。
あたし達が一生ずっとつながっていることなんかできっこない。
せいぜい五千分の一秒。
津奈木と一緒に屋上から降りていくと、部屋の前には憤怒の形相の安堂が立っていた。
きっとレストランから苦情を入れられたのだろう。
安堂はあたしの姿を見るなり怒鳴り散らしてきたが、津奈木はそれを完全に無視して、あたしの手を引っぱったまま鍵を開けて部屋に入った。
チャイムが連続で鳴り始める。
津奈木はやっぱり騒音を無視して、あたしの頭をなでながら言った。
「お前のこと、本当はちゃんとわかりたかったよ」
その一言で、あたしは少しだけ幸せな気持ちになった。
<生きてるだけで、愛・完>
「生きてるだけで、愛」の感想!
小説を読んだ感想を一言でいうなら…「恋愛小説の枠からはみ出した恋愛小説」というところでしょうか。
重度の鬱、過眠症、しかも無職。
そんな社会からはみ出してしまった主人公の一人称で進む物語は、まあ一般的な感覚から言えばめちゃくちゃです。
めちゃくちゃなんだけど、でも何故か「なんだこいつ」と突き放す気にはなれません。
気づけば、不思議と「そうだよね。わかるよ」と共感してしまっていました。
だから一見して支離滅裂なあの結末にも、なぜか感動してしまったのでしょう。
五千分の一秒が脳裏に焼き付くほどの鮮烈なつながり。
それはもはや恋だとか恋愛だとか、そんな甘っちょろいものではない「激しい愛」そのものです。
自分を見失いながら、自分に呆れかえりながら、自分に絶望しながら、それでも愛されたいという渇望だけは捨てられない。
そんな寧子の悲痛な『叫び』には心を揺さぶられるような確かな力強さを感じました。
だから「生きてるだけで、愛」は、やっぱり『愛』を取り扱った恋愛小説なのでしょう。
甘酸っぱくないし、ときめかないし、キュンキュンしない。
でもその代わり、心の真ん中をギュッと鷲掴みにされるほどに痛切な『愛』が描かれた恋愛小説。
決して大衆にウケる作品ではないのでしょう。
でも、刺さる人(おそらくその大半が女性)にはとことん刺さる…きっと「生きてるだけで、愛」はそんな作品なのだと思いました。
まとめ
本谷有希子「生きてるだけで、愛」が映画化!
今回は原作小説のあらすじ・ネタバレ・感想をお届けしました。
とはいえ正直なところ、かなり『感じる』タイプの小説なので、行間に詰まったあれやこれやの感情は今回あまり伝えられていないと思います。
なので、気になった方はぜひ小説や映画をご覧になってみてください。
映画「生きてるだけで、愛」は2018年11月9日公開!
ちなみにキャストはこんな感じです。
・板垣寧子…趣里
・津奈木景…菅田将暉
・安堂…仲里依紗
主演の趣里さんは、あの水谷豊さんの娘さんですね。最近はドラマや映画でお見かけします。
また、注目はやはり時の人・菅田将暉さん!
今回は言葉少ない役どころですが、菅田将暉さんなら細かな雰囲気で魅せてくれることでしょう。
映画公開が楽しみです。
※余談
本谷有希子作品の映画化といえば「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(2007)」や「乱暴と待機(2010)」が思い出されますね。
これらの作品が好きだった方は、今回の「生きてるだけで、愛」も要チェックです!
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