早見和真「小説王」を読みました!
最初は「小説王に俺はなる!(ドン」みたいな内容かと思っていたのですが、そんなシンプルなストーリーじゃありませんでした(笑)
出版不況の中、小説をつくる意味とは?
本気で仕事をするとはどういうことか?
エンタメ小説として最高に面白いのはもちろんのこと、自分自身の生き方をも考えさせられるようなアツい物語!
読めば読むほどぐいぐい惹きこまれて、気づけばラストまで一気読みしていました。
今回はそんな「小説王」のあらすじを紹介しつつ、感想を書いていこうと思います!
「小説王」ってどんな話?
「小説王」には主人公が2人います。
1人はデビュー作以来鳴かず飛ばずの売れない小説家・吉田豊隆。
もう1人はまだまだひよっこの若手編集者・小柳俊太郎。
お互いにくすぶっている2人が出会い「最高の一冊」をつくろうとする物語。
簡単にいえば「小説王」はそんなストーリーです。
「小説王」は「困難を乗り越えて成功してハッピーエンド」みたいな(こう言っちゃなんですが)ご都合主義の物語ではありません。
現役の人気作家が「小説家と編集者」をテーマにした小説を書いているわけですから、そこにはフィクションとは思えない圧倒的な現実感が詰まっています。
作家の裏側、編集者の裏側が描かれているという点では「お仕事もの」に分類されるのかもしれませんが、はっきりいって熱量が桁違いです。
その熱量が物語自体のアツさになっているからこそ、「小説王」はこんなにも魅力的なんでしょうね。
……と、話がそれてしまいました。
「小説王」のあらすじでしたね。
「小説王」のあらすじ【起承転結】
【起】
小説家としての豊隆の原点は「父親」
かつて小説家を目指していたという父親の影響でペンを持つようになった豊隆でしたが、その父親は豊隆を裏切るように浮気して家庭から出ていってしまいました。
それからというもの豊隆は父親への『怒り』を原動力に執筆活動を続け、ついに新人賞を獲得しデビュー。
しかし、再会した父親の口から飛び出したのは謝罪の言葉ではなく「こんなものか。あまりガッカリさせるな」という作品への酷評でした。
それからというもの、豊隆は作品づくりの原動力(=情熱)を失ってしまい、中途半端な小説しか書けなくなってしまいました。
【承】
そんな豊隆の現状を憂えたのは、小学校時代の友人で編集者の俊太郎。
俊太郎は大御所作家を巻き込んだ企画で、強引に豊隆に「最高の一冊」を書かせようとします。
テーマはズバリ「父親殺し」
最初は強引なやり方に反感を覚える豊隆でしたが、やがて編集者としての俊太郎の熱意に応えるため覚悟を決めます。
豊隆「俺に書かせてもらえるか。父親殺し。ずっと避けてきたテーマだけど、もう逃げたくない」
俊太郎「お前の時間を全部もらうぞ。そのための連載だ。俺は本当にお前がすごい小説家になるって確信してる。だから豊隆、そのためには……」
豊隆「わかってるよ。これが最後のチャンスってことだろ。俺にそんなこと言ってくれる編集者はもういないからさ。ここでさらけ出せないようなら、本当に書くことなんてやめればいい。そんな小説家、淘汰されればいい」
【転】
俊太郎の一言から始まった「父親殺し」をテーマにした小説誌での競作。
6月号からはベテラン作家・内山光紀の『悲望』
7月号からは新進気鋭の若手作家・野々宮博の『未確認生命体』
そして8月号からは吉田豊隆の『エピローグ』
ついに雑誌連載という舞台に豊隆が上がろうしたそのとき、事件は起こりました。
編集長「その8月号で休刊だ。すまない」
俊太郎「え?」
文芸誌が読まれなくなってる現状が、こんなタイミングでのしかかってくるなんて……。
頭を抱える俊太郎でしたが、諦めることだけはしませんでした。
俊太郎が見出した活路は「WEB媒体での連載」
IT企業との連携という異例の試みを押し通し、競作企画のネット連載が決定します。
豊隆のかつての恋人である女優・大賀綾乃による宣伝文句も功を奏し、『エピローグ』は話題作として大量のアクセスを呼び込みました。
【結】
1月15日。
その日は豊隆と晴子の結婚式当日であり、2人の子ども「一穂」の1歳を記念する誕生会でもあり、そして某文学賞(たぶん直木賞)の選考会の日でもありました。
これ以上ないくらいに心血を注いだ『エピローグ』は非の打ち所のない傑作。
選考結果は……
豊隆「すみません。ダメでした」
支えてくれた各方面の人々からの励ましを受けながら、豊隆は応援してくれた人々にために賞を獲りたかったのだと初めて気がつきます。
そして、そんな豊隆に思わぬ来訪者が2人。
1人目は女性作家の引地ココア。
かつて新人賞のときに「女性が描けていない」と作品を酷評した引地ココアでしたが、今回の選考会では『エピローグ』を推薦したといいます。
晴子と向き合い、徹底的に女性を描くことにこだわった日々が報われたように思えて、豊隆は思わず涙ぐむのでした。
そしてもう1人の来訪者は、久しぶりに会う父親。
因縁の父親と対面したとき、豊隆は自分の中に屈託がないことに気づきました。
豊隆(『エピローグ』を書き上げたことで、いつのまにか父親のことを許せている)
【後日談】
2年後。
豊隆は小説家として花開き、数々の文学賞を受賞する人気作家に。
「なぜ小説をつくるのか?」
その問いに2人は答えます。
俊太郎「誰かが必要としているからなんだと思う。絶対に誰かが待っていてくれていると信じてるから、俺は本をつくってる」
豊隆「きっと誰かが『今日も生きてみよう』と思ってくれるから。俺はそんな人たちに生かされてる」
「小説王」の感想
いやあ、面白かった!
正直、読みはじめる前は「友情、努力、勝利 → 完!」みたいな話かな? と高をくくっていたのですが、そんな浅い物語じゃありませんでした。
考えてみれば現役の作家が「小説家と編集者の物語」を書いているわけですから、それがチープな作品になるわけがないですよね。
作家の苦悩、編集者とのやりとり、どこを切り取っても血が通っているというか「こういう出来事が実際にあったの?」と思われるほどリアルで、読めば読むほど物語に引きこまれていきます。
そう、なんというか「物語の中に読者を引きずり込む吸引力」がとても強い作品だと感じました。
この小説を読んで誰にも共感・感情移入しない人は存在しないと断言してもいいです。
作中に登場する【小説王】こと山根仁史のセリフにこんな一節があります。
「いまのところめちゃくちゃおもしろいぞ、『エピローグ』。ずっと会ってなかったのに、なんであんなに俺のことがわかるんだよ。あれ、俺のことばっかりだ。あれは俺の小説だ。書いてくれてありがとな!」
私が読んだのは『エピローグ』じゃなくて『小説王』だったわけですが、仁史のセリフには大いに共感しました。
作家でも編集者でもその家族でもなくても、『本気で仕事をすること(あるいはそんな家族を支えること)』というテーマは万人の胸に刺さるものでしょう。
だからこそ『小説王』は読む人みんなを当事者にしてしまうのです。
そして豊隆と俊太郎の物語を「自分のことだ」と認識したら最後、あとはラストまで手に汗握って走り抜けるのみ!
私の場合、気がつくと一気読みしてしまっていました(笑)
思わず涙がこぼれた場面
私の目頭が熱くなったのは、『エピローグ』の落選後、引地ココアが訪ねてくるシーン。
かつて豊隆のデビュー作を「女性が描けていない」と酷評した引地ココアが、わざわざ訪ねてきてどんなことを言ったかというと……
「(エピローグは)よく書けてたと思う。あのときの新人の小説とは信じられないくらい、女もよく書けてた。私の見る目がなかったということね。あのときはごめんなさい」
このセリフを読んだ瞬間、私の胸の中は「ああ、報われた!」という感激でいっぱいになりました。
晴子と向き合って徹底的に女性キャラクターの描写にこだわった日々が。
それだけじゃなくて、ボロボロになるまで原稿用紙と向き合い続けた年月が。
やっと報われた。
豊隆に感情移入していたのか、はたまた晴子の気持ちになって感激していたのか、理由はわかりませんが、気がつけば泣いていました。
実はこのあと豊隆も
鼻先が熱くなった。これまで誰の、どんな言葉にも涙など出なかったのに、意外な人の、意外な言葉に、思い切り胸をかき乱された。
と感激してるのですが、私はこの一節を目で追うよりも先に涙していました。
つまり、豊隆から「もらい泣き」したわけではない、ということです。
小説を読んでいて主人公の慟哭に引っ張られるようにして涙することはあっても、主人公と同じタイミングで涙するという経験は意外と少ないものです。
あとからこのことに思い至って、「ああ、それだけ物語にのめり込んでいたんだな」とあらためて作品に没頭していたことに気づきました。
登場人物がみんな魅力的!
「小説王」の感想を語るうえで外せないのがコレ!
もうね、「みんな主人公にして1冊ずつ書けるんじゃない?」っていうくらい登場キャラクターが魅力的なんです。
「この人はこういう役割の人なのね」という無機質さが誰にもなくて、みんな自分の人生を生きてる主人公として描かれていたように思います。
なかでも私が好きだったのは主人公の妻たち!
作中で豊隆が「女性を書けていない」と指摘されているくらいですから、作者の早見和真さんも「これはうかつな女性キャラクターは書けまいぞ」と特に意識していたのではないでしょうか。
俊太郎の妻・美咲も豊隆の妻・晴子も決して「男にとって都合のいい女」でも「男のそえものとして女キャラクター」でもなく、自分の人生を生きている素敵な女性として描かれていました。
作家の彼女として最初は遠慮がちだった晴子が、出産のときには「いいから立ち会え!お前の子だ!」と言い放っていたシーンなんかは女性のたくましさを感じて好きでしたね。
また、晴子といえばプロポーズのシーンも最高でした!
以下、小説から一部抜粋。
「私たち、結婚しませんか?」
豊隆が考える隙を与えまいとするように、晴子は矢継ぎ早に言う。
「いくら考えても吉田さんのためになることなんてないんです。自分が図々しいことを言ってるのもよくわかっていて、つまり全部自分のためなんですけど、なんかいましかないっていう気がしちゃって」
「なんでいま?」
「なんか将来的に家族として吉田さんのそばにいる自分を想像したら、いま家族になっておかないと卑屈になっちゃう気がするんです。根が貧乏性なんですよどうせ近々吉田さんは売れるってわかってて、でも売れてから一緒になる自分をたぶん私は許せないんです。それを貧乏性っていうかよくわからないですけど、たぶん私はそういう人間なんです」
「でも俺、貯金も収入も全然ないよ」
「そんなの知ってます」
「いつか稼ぐようになったとしても、たぶん家族のためには生きられないよ」
「それもわかってます」
「それによって小説が良くなるっていう確信があるなら、晴子のお母さんだって抱けるよ」
「それはたぶん許せないんで、その時は別れます」
「そうか。なんか言質を取るようなマネしてごめん。っていうか、ホントに俺でいいのかな。俺でいいんなら、こちらの方こそよろしくお願いします。なんかすごく嬉しいです」
晴子の人間性が感じられるいいシーンですよね。
実はこのあと晴子は妊娠していることを告げて「だったら結婚しないっていうなら受け入れますから」と豊隆に言っています。
作家のパートナーになるという晴子の覚悟が感じられて、私はいっそう晴子のことが好きになりました。
※余談
あと、個人的には内山先生が好きです。大御所作家として威圧感を放ちながらも、実は若手に優しいというギャップがたまりません。引地ココアを豊隆の前に連れてきたのも内山先生ですし、ニクいキャラクターなんですよね~。俊太郎に「吉田ばかりじゃなくて俺にも構え。さびしいだろ」なんていっちゃうところも可愛くて好きです(笑)
読み終わった後に残るもの
文庫「小説王」の帯には解説から抜粋した森絵都さんのコメントが載っていました。
『編集者ならばもっと本をつくりたいと、書店員ならばもっと売りたいと、読者ならばもっと読みたいと願うはずだ』
ところが「小説王」を読み終えたとき、私は「もっと読みたい」とは思いませんでした。
もちろん、内容がつまらなかったという意味ではありません。
「もっと読みたい」と願うよりもはるかに強く、私は「なにかしなきゃ!」という焦燥感に包まれていました。
だって、豊隆も、俊太郎も、未咲も、晴子も、めちゃくちゃ本気で生きているじゃないですか!
その姿はとても眩しくて、「そんなふうに生きられたらどんなにいいだろう」と憧れを抱くには充分すぎるほどでした。
読了の余韻のなか、自分に「全力で生きているのか? 覚悟を持って仕事をしているのか?」と問いかけてみて、返ってきた答えは「No」
もちろん現実がすぐに変わるわけないことくらいわかっています。
だけど、だからといって何もしなければ何も変わりません。
じゃあ、どうするのか?
具体的にはなにをするのか?
まったく予想もしていなかったことですが、「小説王」は私にとって自省の機会をくれる作品でした。
エンタメの枠にとどまらず、読者に『生き方』すら考えさせてしまう。
これもまた「小説王」が優れた作品である証なのだと思います。
仕事や生き方にもやもやしたものを抱えている方は、この作品を通して何かを得ることができるかもしれません。
少なくても読んでいて面白いことだけは確かなので、ぜひ一読されることをおススメします!
まとめ
今回は早見和真「小説王」のあらすじと感想をお届けしました!
売れない作家と三流編集者。
豊隆と俊太郎が本気でぶつかり合って一冊の小説を作り上げていくアツい物語はただただ面白くて、読んでいてページを繰る手が止まりませんでした。
また、エンタメ作品として面白いのはもちろんなのですが、その枠にとどまらないのが「小説王」の魅力!
覚悟を持って仕事に臨むということ。
その中での家族との付き合い方。
読む人それぞれに共感するポイント・感動するポイントは違うかもしれませんが、「小説王」は娯楽として消費するだけではなく、読んだ人に『なにか』を残してくれるような作品だと思います。
人生で一度でも「わたし、小説家になろうかな」とチラリとでも考えたことのある人には絶対に読んでもらいたい一冊です。
※たぶん「あ、小説家だけは無理だわ」と思うことになると思います(笑)
ドラマ情報
そんな「小説王」がドラマ化!
主役の豊隆を演じるのがEXILEの白濱亜嵐さんだというのですから、視聴率高くなりそうですね!
作中でも豊隆のキャラは「イケメンでモテる」という設定でしたし、いいキャスティングなのではないでしょうか。
※ファンの方に向けて一言添えておくと、原作には明確なベッドシーンとかはなかったです(ただし、事後の描写はあり) そういえば、キスシーンもなかったような……。キスシーンくらいは追加されるかもしれませんね。
また、他のメインキャストを見てみても
・小柳俊太郎……小柳友(まさかの小柳つながり!)
・晴子……桜庭ななみ
とやはりいい感じ!
もともと作品的にもドラマとは相性よさそうに思われますし、春ドラマの中では特に「面白くなりそう!」と期待しています。
ドラマ「小説王」は4月22日(月)より放送スタート!
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