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「空の青さを知る人よ」あらすじネタバレ!結末は?今回も名作!

「心が叫びたがってるんだ」から4年!

ついに『超平和バスターズ』の最新映画がやってきました!

まずは予告をどうぞ!

予告だけでも「これ絶対見なきゃいけないやつだ!」とワクワクさせてくれますよね!

『幽霊』っぽい要素が登場するのは、ちょっと「あの花」にも似ているような。

ぱんだ
ぱんだ
いったいどんな話なの?

と、気になったので先行して発売された原作小説(ノベライズ)を買っちゃいました!

というわけで!

今回は原作小説を片手に映画「空の青さを知る人よ」結末までのあらすじをネタバレしていきたいと思います!

あらすじネタバレ

13年前。

町の片隅にあるお堂は、彼ら高校生バンドの練習場所だった。

  • 金室慎之介(しんの)……ギター
  • 中村正道(みちんこ)……ドラム
  • 阿保……ベース
  • 番場……ボーカル

しんのが愛用しているギターには『あかねスペシャル』というこっぱずかしい名前がつけられていた。

しんのの彼女の名前が相生あかねだったから。

お堂にはいつもあかねと、当時まだ3、4歳だった妹の相生あおいも一緒にいた。

まだ小さかったけれど、あおいは当時のことをよく覚えている。

いつもにぎやかで、楽しくて、幸せな場所だった。

中でもよく覚えているのは、姉の恋人だったしんののことだ。

お調子者で、ちょっと馬鹿で、でもまっすぐなギタリスト。

あのとき、あおいの目の中にホクロがあるのを見つけたしんのは「俺と同じだ! 目玉スターだな!」なんて言っていた。

あおいがベースに興味を示すと、しんのは「じゃあ、でっかくなったらお前、うちのベースな!」と言ってくれた。

意味なんてわからなかったけれど、なんだか嬉しかったことを覚えている。

……でも。

しんのは『あかねスペシャル』を置いて町を出て行ってしまった。


お堂のしんの

あれから13年。

あおいはもう高校二年生。

進路希望は『東京に出て、バンドで天下を取る』こと。

山に囲まれた、まるで牢獄みたいな地元から早く離れたい、とあおいは思う。

ベースを背負って練習場所のお堂に行くと、そこには先客がいた。

「え……?」

しんの、だった。

あれから13年もたつのに、高校生の頃のしんのが、そこにいた。

「しんの……!?」

「そうだよ。んで、お前は?」

「相生、あおい。目玉スター、二号」

「え?……ええええええ!?」

驚きたいのはこっちの方だった。

「俺、あんとき、あかねに東京行かないって言われて……」

彼がいつのことを思い出しているのか、あおいには嫌でもわかってしまう。

13年前、あおいは4歳で、あかねは高校三年生だった。

あかねは、高校を卒業したらしんのと一緒に東京に行くはずだった。

でも、両親が交通事故で亡くなり、あかねは地元に残ることを選んだ。

「俺、なんとなくここ(お堂)でいろいろ考えてて……それで気がついたら……」

今に至る、ということらしい。

要するに、このしんのは『あかねから東京行きを断られた日のしんの』ということか。

「ホント、気がついたらって感じだからよ。いきなり今が13年後っていわれても、全然ピンとこねえよ」

あおいにだって意味が分からない。

この《しんの》はいったい何者なのか?

幽霊? 生霊?

「でも、まあ、時間がたっちまったもんは、しかたねえよな!」

「切り替えはやっ!」

「いろいろ考えて決めたんだよ。とりあえず東京出てビッグなミュージシャンになってよ! あかねをど派手に迎えに行こうって!」

そうだ。

あの頃のしんのなら、きっとそう考えたんだ。

「なに、この無駄ポジティブ……」

しんのはお堂から出られなかった。

見えない透明な壁にさえぎられて、お堂から指一本だって出すことができない。

……やっぱり、霊的なものなのだろうか。

あおいはとりあえず『生霊』なのだと納得することにした。

「とにかく! よくわかんねえけど、わかることは1つだ」

しんのはにかっと笑って言う。

未来の俺とあかね、二人がくっつけばぜーんぶ丸く収まるだろ? そしたら生霊の俺は、本体にびゅーんっと戻る。頼んだぜ、目玉スター!」

「え、あたし?」

「他に誰がいるんだよ?」

ああ、そうだ。

こういう突拍子もないことを言いだすのが、しんのだった気がする。


慎之介の帰郷

あおいたちの町で大きな町おこしイベントが開催されることになった。

『第一回 音楽の都フェスティバル』

イベントの目玉は大物演歌歌手の新渡戸団吉だ。

新渡戸は地元を知るため(というか接待を受けるため)に1週間も前に到着した。

現れるなり駅前のロータリーで一曲歌いだす団吉。

団吉を迎えに来ていた市役所職員のあかねの目は、そのバックバンドの1人にくぎづけになった。

「――え?」

新渡戸の後ろでギターを弾いているのは、金室慎之介だった。

とてもつまらなさそうに、この世に楽しいものなんて何一つないとでも言いたげな表情で、慎之介はギターを弾いていた。

side・慎之介

高校生の頃は、夢も希望もあった。

自分の未来が輝かしいものだという確信と自信があった。

でも、現実は本当に本当に本当に、甘くなかった。

何もかも、うまくいかなかった。

かっこわるい。なんて情けないんだ。

この町に来たくはなかった。

……。

いろんな気持ちがくちゃぐちゃになって、悪酔いしてしまった。

ホテルの部屋まで送ってくれたあかねに絡んでしまったのは、だから酒のせいだ。

「その年でもったいつけんなよ。いいだろ、減るもんじゃないし」

最低だ。

酒のせいにしても最低だ。

「本気で言ってる? それが13年ぶりに再会して言うセリフかね」

あかねの言葉が鋭利な刃物のように胸に突き刺さる。

ナイフを持っているのは、あかねじゃない。

13年前、ミュージシャンを志してこの町を旅立った、18歳の金室慎之介だ。

「ガッカリさせないで」

吐き捨てるなり怒鳴るなりしてくれたらよかったのに、彼女は淡々としていた。

そのまま部屋から出ていく。

……この町に、来たくはなかった。

故郷に、あかねのいる町に、きらびやかな夢を描いていた高校生の自分がいた町に、こんな俺で、来たくはなかった。


あおいの気持ち

バックバンドのベースとドラムが食中毒で本番に出られなくなった。

「生音じゃないと嫌だ!」とわがままを言う新渡戸のために、急きょ市役所職員の正道(みちんこ)とあおいが代役を務めることに!

「俺は嫌ですよ。こっちはプロでやってきてんだ。素人の遊びじゃない」

不快そうに言い放ったのは慎之介だ。

結局、新渡戸の鶴の一声でそのままあおいたちが採用されることになったものの、練習中も慎之介はずっと不機嫌だった。

「ったく、女がベースとか、そもそも向いちゃいないんだよ」

吐き捨てるように言った慎之介の声に、しんのの声が重なる。

――じゃあ、でっかくなったらお前、うちのベースな!

お前が……お前があたしに言ったんだろ!

「そもそも、みちんこさんよ、あんたがベースに引っぱられるからこんなに崩れたんだろ? 話になんねえ……」

確かに、慎之介の言う通りかもしれない。

でも、それでも、この文句ばかり垂れて、否定の言葉ばかり口にする31歳のおっさんに、高校生のしんのを見せてやりたかった。

落ち着きがなくてちょっと馬鹿かもしれないけど、今のあんたよりずっと素直で優しくていい奴で……どうして、あの頃の自分を捨てちゃったの。

「こんな、クソジジイがあああああっ!」

スマホの動画で《今》の慎之介を見たしんのは激怒した。

「こうなったら、ガツッとキレキレの演奏してあいつの慢心を木っ端みじんにしてやれよ!」

リハーサル中の慎之介の冷たい視線や、舌打ちや、苛立った顔が浮かんでくる。

「で……できるかな」

「できるに決まってんだろ! 絶対、お前ならな」

すっと、しんのが自分の左目を指さす。

「だろ? 目玉スター!」

13年前と変わらない澄んだ瞳が、あおいを見据える。

丸い瞳の中に、期待とか自信とか野心とか、そんなキラキラしたものが詰まっている。

気がついたら、首を縦に振っていた。

「うん!」

体温が上がる。

しんのが信じてくれている。

だから、自分も信じてみたくなる。

気がつくと、あおいはしんのの顔をじーっと見つめていた。

あれはきっと見とれていたのだと、あとになって気づいた。

お堂での練習中、進路の話題になった。

「東京行って、バンドやる」

これを言って、芳しい反応をした人なんていなかった。

あかねも、先生も、友人も。

なのに。

「おおおお! 俺の意志を継ぐ者がこんなところに!」

しんのは無邪気に喜んでくれた。

体がカッと熱くなる。

ああ、そうだ。しんのは、そういう奴だ。

「そんな、まっすぐに褒めないで。あたしのはよこしまなんだ」

「よこしま?」

「あたしが地元を出たいのは、あか姉に自由に生きてほしいから」

高校生で両親を失って、これからやりたいことも楽しいこともたくさんあったはずなのに、4歳のあおいの面倒を見る羽目になった。

あかねは、あおいのために何もかも諦めた。

しんのとともに東京に行くという約束も、しんのそのものも、あおいが諦めさせてしまった。

「あたしのせいであか姉はやりたいこと、きっといっぱい我慢してきたと思う。あたしがここに残ってたら、あか姉はいつまでもここに縛られたままになる。だから、あたしがここを出る」

「あお……」

胸の奥にしまっていたことを全部言葉にしたら、少しだけ体が軽くなった。

ふと、思う。

もしすべてうまくいって、慎之介があかねと再びつきあうことになったら、そのとき《しんの》はいったいどうなるんだろう?

「あか姉と慎之介さんを、ちゃんとくっつける」

自分の胸に、自分の声で、自分の言葉で、刻みつけた。

「あか姉のためにも――しんののためにも」

そうしないと……どこかでくじけてしまいそうな気がした。

ひょんなことから友だち(?)になったクラスメイトでギャルの大滝千佳。

彼女にうっかり《しんの》のことを話してしまった。

「しんのって慎之介さんとは違うんでしょ?」

「……そうだよ」

「で、相生さんはその《しんの》が好きと」

何てことないような口ぶりで千佳が聞いてくる。

だから、言えたのかもしれない。

「ああ、好きさっ! 悪いか!」

「いや、悪いなんて誰も……」

言いかけた千佳に、あおいは両手で顔を覆ってその場にしゃがみこんだ。

「ええっ!? なにそれ? ちょっ……あ、相生さん~?」

動揺した千佳の声が降ってくる。

「悪いんだ……ダメ、なんだよ」

駄目だ。絶対に駄目だ。

だって、自分には役目がある。

あかねと慎之介をくっつけるという、しんのとの約束がある。

二人が再び恋人になったら、しんのは慎之介の中に戻る。

しんのは消える。

願いを叶えて、自分に帰っていく。

そんな彼を、好きになっていいわけがない。


あかねの涙

音楽堂の裏手、誰もいないひっそりとした階段に腰掛け、慎之介がギターを弾いている。

ふと、その音が止まった。

「なんでやめちゃうの? 続けて?」

こっそりのぞいているあおいの反対側から、あかねが現れる。

慎之介はあかねをじっと見つめた後、観念したようにギターから手を離した。

「俺、ここから東京に出れば、どんな夢も叶う気がしてた。……でも、違うんだな」

「夢、叶えたじゃない。ちゃんとギターを仕事にしてる」

「演歌歌手のお抱えバックバンドなんて、やりたかったわけじゃねえよ」

「けど」

「不満があるわけじゃねえ。新渡戸さんには感謝しているよ。音楽に携わってるだけで御の字だ」

慎之介の横顔はとても疲れていた。

「でも……わざわざいろんなもの捨ててまで東京に出る必要があったのかは、わかんねえ」

慎之介にとっての《いろんなもの》の大半は、きっとあかねだった。

そのことに、おそらくあかねも気づいている。

「じゃあ、別の曲をリクエストしていい?」

「は?」

「『空の青さを知る人よ』」

聞いたこともない曲名だった。

でも、慎之介は慌てふためき、右手で口元を覆って「なんで……」とこぼした。

「ちゃんと買ったよ、しんののソロデビュー曲」

えっ? と声に出しそうになった。

慎之介がソロデビューしていたなんて。

「黒歴史だろ」

うつむいて顔を隠す慎之介に、あかねがゆっくり近づいていく。

13年間という時間を埋めるみたいに、一歩ずつ階段を上って行った。

「好きな歌なんだ」

慎之介の隣に腰掛けて、あかねが笑う。

慎之介はしばらく黙っていたけれど、やがてギターを弾きながら歌い始めた。

あかねのことを歌った歌。

あかねのための歌。

それはもう、聞いていられないくらい恥ずかしい歌詞だった。

慎之介本人も耐え切れなかったらしく、そのうちにふざけだす。

「新渡戸団吉風!」

「次、数学の斎藤風!」

慎之介のよくわからないものまねに、あかねは膝を叩いて笑っている。

そうだ。こういう光景は、あの頃は当たり前のようにあった。

13年前、あかねに連れられてお堂に行くと、しんのはしょっちゅう、ふざけた歌い方であかねを笑わせた。

あかねをあんな風に笑わせられるのは、彼だけだった。

「はー! おなか痛い……。もう、普通に歌ってよ……」

曲が終わる。あかねはお腹を抱えたまま、息も絶え絶えにそう言った。

「やっぱ、なんかいいな。お前といると、落ち着くっつーか」

「え?」

俺、戻ってこようかな。なんつーかさ、周りも、堅い仕事に就きだして、身を固めててさ。俺もいい加減、そういう歳なのかなって」

思わず「ダメ!」と叫びそうになる。

だって、慎之介が帰ってきたら……あかねともう一度つきあったら……《しんの》が消えてしまう!

喉まで出かかった叫び声を止めたのは、あかねの声だった。

「なーに言ってんの。今の時代、30そこそこなんてまだ若造でしょ? 落ち着くのはまだ早いっての。私はまだまだ諦めてないよ? いろんなことを」

微笑むあかねに、慎之介が目をみはる。

「これからだよ」

力強く、あかねは言った。

「……そっか」

「そうそう」

「そうだな……うん」

慎之介が立ち上がる。

「戻るの?」

「ああ、そろそろ行かねえと」

階段を下りた慎之介は、しばらくそこで止まっていた。

ゆっくりと、時間をかけてあかねを振り返る。

「じゃあな」

不自然な別れの言葉を口にして、慎之介はあかねから離れていった。

じゃあな。その一言には、きっといろんな意味が込められていた。

きっと、残酷な意味も。

一人になったあかねは、再び階段に腰掛けた。

その肩が小さく震えだす。

声をあげることなく、あかねは、静かに静かに泣いていた。

両親の葬式でも泣かなかったあかねが。

いつも、どんなときも、柔らかな微笑みを仮面のようにかぶり続けていたあかねが。

あおいは、あかねが泣いているところを初めて見た。


あか姉

虫さされの薬を探して引き出しを漁っていると、一冊のノートがあおいの目に留まった。

表紙には、あかねの字で『あおい攻略ノート』と書かれてある。

試しに、ノートをめくってみた。

『チャーハンにちくわを入れたら喜んでくれた』

『メンチ、あおいが「美味しい」って言った! やったー!!』

料理だけじゃない。

あおいが学校に持っていく雑巾や道具袋を縫ったとか、髪をこういう形に結ってあげたら喜んだとか――あおいのことばかりが、書いてあった。

うんざりするくらい、あおいのことばかりだった。

息が苦しくなって、鼻をすすった。

ノートに書かれていたのは、あかねの試行錯誤の跡。

今のあおいと同じ高校生だったあかねが、頑張った証。

何でもできるのが、あかねだった。

料理も、掃除も、洗濯も、なんでも完璧だった。

完璧だと、見えていただけだ。

見せてくれていただけだ。

「……あたし、何してるんだろう」

ノートの上に雫が落ちた。

あおいはまた鼻をすすった。


大好き

いてもたってもいられなくなって、あおいは土砂降りの雨の中をお堂へと走った。

到着するなり、勢いよく戸を開けて、言った。

「あたしはしんのが好き」

「あー……お前の気持ちは嬉しいよ。でもよ、よーく考えてみろ。俺は生霊で」

「黙ってて!」

わかってる。そう言われるに決まっている。

「とりあえず、あたしの気持ち、全部話させて」

しんのは何も言わず、話の続きを待ってくれた。

「あたしはしんのが好き。《慎之介》じゃなくて《しんの》が好きなの。ずっと一緒にいたい。《慎之介》の中に戻っちゃうくらいなら、今のままでいてほしい

胸がずきりと痛む。

言ってはいけない言葉だった。

願ってはいけないことだった。

でも、しんのは怒らなかった。

「あお」と、真剣な声であおいの名前を呼んだ。

「だけど……」

しんのがそれ以上何か言う前に、あおいは無理やり言った。

「だけど! あたしはあか姉も大好きなんだ!」

じゃあな。慎之介にそう言われて、あかねは泣いた。

泣いたんだ。

「あか姉は《慎之介》のことが、まだ好きなんだよ。あか姉の幸せを考えたら……」

やるべきことは1つだ。

「でも、そうしたらしんのが」

慎之介と1つになって、消えてしまう。

顔を両手で覆って、あおいはその場にかがみこんだ。

「もう、どうしていいかわかんない。ねえ、どうしたらいい?」

しんのは何も言わなかった。

しゃがみこんだまま動かないあおいに、静かに手を伸ばしてくる。

きっと、あおいの頭を、優しく撫でるのだ。

「触んないでっ!」

しんのが動きを止める。

「触られるとどんどん好きになっちゃうじゃない!」

「じゃ、じゃあどうしたらいいんだよ」

「しんのもわかんないの!?」

「わかるかよっ!!」

「じゃあ、もういいっ!」

あおいは駆けだす。

しんのが追いかけられないと知っていて、お堂から走って離れた。

後ろでしんの声が聞こえる。

「待ってくれ! 俺も、もとの自分に戻ってどうなっちまうのかとか、全然わかんねえけど。でも、こうやってガキみたいに泣いてるあおを見送るだけなんて……」

「泣いてないし」

頬をぬぐって、あおいは答えた。

「泣いてないし、雨だし」

何度も何度もぬぐって、あおいは駆けだした。

しんのは、もう何も言ってこなかった。


本番前日

あかねが土砂崩れに巻き込まれた!?

土砂崩れの一報が入ってきたのは、ちょうどあかねが新渡戸の落とし物を探しにトンネルへと出向いた後だった。

まだ巻き込まれたとは限らないけれど、可能性は決して低くない。

あおいは周囲の制止をふりきり、全速力で駆けだした。

(嫌だ、絶対に嫌だ。大事な人を失うなんて、もう絶対に嫌だ!)

side・慎之介

一方その頃、慎之介はお堂で《しんの》と鉢合わせていた。

「――は?」

二人の声がきれいに重なる。

一瞬の沈黙。

先に我に返ったのは、しんのの方だった。

「そうか、あかねスペシャル、取りに来たのか?」

「……なんで」

「バイトで金貯めて、あかねと一緒に買いに行った宝物のギターだろ。何年も放り出したままだったみてーだけど」

直感的に理解した。

こいつは高校生の俺だ。

壮大で尊大な夢を描いていたころの、俺だ。

「だっせえ。夢が叶わなかったからって、何そんなやさぐれてんだよ」

「ガキに何がわかるってんだ」

「わかりたくもねーよ、小汚ねえおっさんのことなんか」

そうだ。あの頃の俺なら、そう思う。

社会がどれだけ厳しいかも、現実がどれだけ非情かもわからなかった。

何もかも自分の力で乗り越えられると思っていたころの俺なら、そう思う。

イライラする。

知ったような顔を、今この場で張り倒してやりたい。

でも、そんなこいつが、たまらなく羨ましい。

唇を引き結んだ慎之介の耳に、足音が近づいてくるのが聞こえた。

慌ただしい足音だ。

悲鳴のような、すすり泣きのような息遣いが、少しずつ大きくなっていく。

林の中の坂を、あおいが駆け足で上ってきた。

「しんのっ!」

あおいが呼んだのは、きっと、こっちだ。

お堂の出入り口に立つ高校生の自分を見上げて、慎之介は思った。


前へ

土砂崩れにあかねが巻き込まれたかもしれない、とあおいは急いで説明した。

「まだ、あか姉が巻き込まれたのかわかんないけど……今、みちんこが調べてくれてて」

「なんだ、驚かすなよ。じゃあ、とりあえずはみちんこからの連絡待ちか」

呆れたように、安心したように、慎之介が言う。

一方、しんのの反応は全然違った。

「なに落ち着いてんだよ。さっさとあかね探して来いよ!」

「今、俺が行っても」

「てめえがっ!」

慎之介にとびかかろうとしたしんのがお堂の見えない壁に弾かれる。

慎之介が目を見開いて後ずさった。

「てめえが、行かなくてどうすんだよ。がっかりさせんじゃねーよ。ビッグなミュージシャンになって、あかねを奪いに来るはずじゃなかったのかよ、お前!」

しんのの声が、血を流しているように聞こえた。

大きな未来を描いていた高校生のしんのが、その未来を上手に生きられなかった慎之介の前で、傷ついてぼろぼろになっていく。

「だっせえ、だっせえ、だっせえ! ゲロ沼に突き落とされた気分だよ。将来、お前みたいなやつになるなんて!」

「黙れ! なんも知らねえガキが」

「ああ、俺はなんも知らねえ! 俺は、こっから出ていけなかったからな」

あかねに東京行きを断られて、しんのはくじけそうになった。

東京に行きたくない、とすら思った。

だから、そんな臆病な自分を、しんのはあかねスペシャルと一緒にここに置いて行ったんだ。

「お前はちゃんと前に進んだんだろうがっ!」

噛みつくようにしんのが叫ぶ。

「なあ、思わせろよ。俺はお前なんだよな? だったら思わせてくれよ。いろいろうまくいかねーこともあんだろうけど」

しんのの声が涙声に変わっていく。

「それでも将来、お前になってもいいかもしんねえって、思わせてくれよっ!」

「俺は止まったまんまだったけどよ。あかねを想うこの気持ちはお前にも負けねえ!」

しんのは《見えない壁》を超えようと全力でぶつかり始めた。

そんなしんのの手を、あおいが引く。

「あおっ?」

「私だって、負けないから! あか姉のこと想う気持ち!」

全力で見えない壁に抵抗する。

「もう触っちゃ駄目なんじゃねーのか? あお」

「うるさい!」

叫んだ瞬間、宙を舞っていた。

見えない壁を、超えていた。

「じゃ、俺ら行くけど、おっさんはどうすんだ?」

「ど、どうするって……」

しんのは慎之介の答えを待たなかった。

あおいの手を取ったかと思ったら、勢いよく走りだす。

「行くぞ! あおっ!」

しんのは空を飛んで、トンネルへと一直線に向かった。

「すげえ! どうなってんだこれ!」

本人にもよくわからない能力らしい。

高い高い空からは、地元の景色が一望できた。

牢獄のように町を取り囲む山は、秋の色に染まっていた。

山も川も空も町も、昨日の雨に洗われて澄んだ色をしている。

「出たい出たいって思ってたけど、こんなに綺麗だったんだね」

牢獄は、とても綺麗だった。

「ああ、そうだな」

しんのの目に、青空と山々の紅葉が映り込んでいた。

左の眼球に浮かぶ小さなホクロを見つめて、あおいは微笑んだ。


空の青さを知る人よ

トンネルの出入り口は大量の土砂で埋められていた。

しんのはあおいの手を離すと、空を飛んで上の方の隙間からトンネルの中へと入っていく。

やがて、後ろからぜえぜえと息を切らしながら慎之介が追いついてきた。

「何なんだよ。空飛ぶとか、ほんとデタラメだろ」

状況をあおいから聞くと、慎之介はすぐに土砂をよじ登り始めた。

「駄目だって! いつまた崩れるかわかんないんだから、空でも飛べなきゃ無理!」

あおいは慎之介の背中にしがみつく。

しかし、慎之介は止まろうとしない。

「放してくれ! あかねがっ!」

慎之介の怒鳴り声のせいで、急に不安がこみ上げてくる。

もし……もし、あかねに万が一のことがあったら……。

もう、あかねだけなのに。

自分の家族はあかねしかいないのに。

「あかね!」

慎之介の叫び声で我に返る。

今、慎之介を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

「駄目だってば!」

押し問答をしていると、上の方から声が降ってきた。

「お前ら、何やってんの?」

しんのの声だ。

上を見上げる。

青空を背にした彼の両腕には、あかねが抱きかかえられていた。

あかねがあおいに気づいて、口元をほころばせた。

慎之介とあおいの体から、一気に力が抜けた。

「あかね! よかっ……」

両手を広げた慎之介の横を、あかねが素通りする。

次の瞬間、あかねが「あおーっ!」と抱きついてくる。

「ごめんねあおい~! 心配かけて~!」

ごめんねえ、と繰り返すあかねに、あおいは肩をすくめた。

そうだ。そうだった。

あかねはいつも自分を一番に考えてくれるから、だから、慎之介と別れたんだ。

大好きなしんのより、しんのとの約束より、あたしを選んでくれたんだ。

その愛を、世界で一番、あたしがちゃんと受け止めなきゃいけなかったんだ。

「ああ、もー……ほんとだよー!」

ぎゅうっとあかねを抱きしめ返して、あおいはその場に倒れこんだ。

「は? 1人で、帰る?」

「うん、3人で行って」

あかねの車には4人乗れたけれど、あおいはそう言って3人を送り出した。

「じゃあね、しんの」

簡単な挨拶にしたけれど、ガラスでも噛んだ気分だった。

簡単な別れの挨拶だからこそ、痛みがずっとずっと強い。

しんのは静かにうなずいて、微笑んだ。

「ありがとな、目玉スター!」

声を出しそうになるのをぐっとこらえて、あおいは3人から離れていった。

3人から自分が見えなくなったのを見計らって、走り出した。

side・慎之介

「あれ、こいつ寝てんのか?」

後部座席を振り返ると、しんのが気持ちよさそうにシートに体を預けて眠っていた。

「いいじゃない、頑張ってくれたんだもの」

バックミラーに映るしんのの寝顔をまじまじと見て、慎之介はふっと口元から力を抜いた。

「俺、ちゃんと前に進んでんだと」

「え?」

「けど、まだ途中なんだ。途中だったって思い出した」

一人きりで上京したあの日から、一歩も進んでない気がしていた。

何も成し遂げられないままただ歳を取って、周回遅れとわかっていながら無様に走っている。

それが、31歳の金室慎之介だと思っていた。

でも、しんのは言った。

お前は前に進んだんだろ、と。

「だから、諦めたくないんだ。俺も」

「うん」

微笑んだあかねに、慎之介は一拍置いて言った。

「だから、お前のことも諦めない」

口にしたら、胸の奥を風が吹いたような気がした。

「えっと……」

視線を泳がせながら、あかねが慎之介を見つめる。

『井の中の蛙、大海を知らず。されど、空の青さを知る』

「お前の好きな言葉の意味に気がついたの、東京に行ってからだった」

井戸の中から出ることのできない蛙は、外の世界を知らない。

けれど、井戸から見上げた空の青さを、美しさを、愛しさを、よーく知っている。

「よかったよ。妹を一番大切にできるあかねを好きになってよかった」

きっと彼女こそが自分にとっての「空の青さ」なのだろう。

ふと気づくと、後部座席が空だった。

しんのが、いなかった。

何も言わず、別れすら告げず、慎之介の前から消えた。

走る、走る、走る。

「あああああああああっ!」

叫びながら、あおいは走る。

「泣いてないしっ」

前方から風が吹いてきた。

その風が、ふーっとあおいの前髪を持ち上げる。

(ああ、消えたんだ)

今この瞬間、しんのはいなくなった。

あかねと慎之介を見届けて、安心して、慎之介に帰っていったんだ。

肩を震わせて、あおいはその場にかがみこんだ。

涙が頬を流れていく。

「泣いて、ないし。馬鹿しんの……」

立ち上がり、空を見上げる。

「あー……空、くっそ青い」

この空の青さを知った自分は、何ができるだろう。

何に、なれるだろう。


結末(エピローグ)

2年前の11月、野外ステージの舞台袖で、本番前に緊張でカチコチになっていたあおいの肩をたたいたのは、慎之介だった。

「もう出番だぞ」

「わかってるし」

顔をあげて精一杯強がったあおいに、慎之介は力強くデコピンしてきた。

何すんの、と言おうとしたあおいに、慎之介はにかっと笑いかけた。

「頼んだぞ、目玉スター」

自分の左目を指しながら、ギターを抱えた慎之介はステージに出ていった。

しんの、と思わず声に出した。

彼のあとを追ってステージに飛び出すと、客席は満員だった。

すぐに、あかねが手を振っているのを見つけた。

――その日のことを、ステージに上がる前に、あおいはいつも思いだす。

「こんにちは! 《ガンダーラ》です!」

今日は、上京してすぐに結成したバンド《ガンダーラ》の凱旋公演だ。

演奏が始まると同時に、あかねの姿が目に入った。

隣に慎之介がいる。

2人はついこの間、結婚した。

けれど慎之介は東京で音楽を続けているから、遠距離結婚なんて奇妙な形で新婚生活を送っている。

果たしてそれでいいのか。

考えないわけではない。

でも、いいんだ。

2人とも、幸せそうだから。

『井の中の蛙、大海を知らず。されど空の青さを知る』

あたしは、大きな海へと出られたんだろうか。

もしかしたらここはまだ、井の中かもしれない。

どこまで走っても、結局、井戸から出られないのかもしれない、と思うこともある。

そんなときは、あかねの好きな言葉に倣って、空を見上げることにしている。

ここがどこだろうと、空の青さをちゃんと見ておこう。

曇っても、雨が降っても、冷たい風に目を開けていられなくなっても、空の青さを、ちゃんと覚えていよう。

そうすれば、どこまでも走っていける。

<完>


まとめ

今回は映画「空の青さを知る人よ」のあらすじネタバレをお届けしました!

では、最後にまとめです。

まとめ
  • ラストは慎之介とあかねが結婚してハッピーエンド
  • しんのは役目を終えて消えた

「あの花」「ここさけ」からの期待を裏切らない、エモい物語でしたね!

これまでの作品に比べて、アラサー世代以上の大人にグサッ!と刺さる内容で、なんだかいろいろと考えさせられました。

ぱんだ
ぱんだ
次に読むのはコレ!
「空の青さを知る人よ」感想と考察!タイトル意味は?生霊とは?「空の青さを知る人よ」どうでしたか? 私はもう大大大満足でした! 「あの花」「ここさけ」に続く作品として、期待を裏切らない名...

映画情報

キャスト

キャラクター声優
金室慎之介 / しんの吉沢亮
相生あかね 吉岡里帆
相生あおい 若山詩音
新渡戸団吉 松平健
中村正道 落合福嗣
中村正嗣(正道の息子)大地葉
大滝千佳 種﨑敦美

小説と映画の違いは?

小説のあとがきにはこんな一節がありました。

さまざまな登場人物の視点が交錯する映画版とは違い、小説版は<相生あおい>という大きな葛藤を抱えた女子高生にフォーカスし、<金室慎之介>という大人の視点を交えながら物語が進んでいきます。

要するに、小説版と映画版はちょっと違うよ!ということですね。

映画を見た後に、もう一度小説を読み返してみると新たな発見があるかも!

ぱんだ
ぱんだ
またね!



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