「で、結局なにが本当でなにが嘘だったの?」
小説『微笑む人』を読み終えた30秒後には気になって仕方がなくなっていました。
※30秒間は「いい本を読んだな」という余韻に浸っていました
そこで
- 客観的な事実
- 証言者の主観ではあるものの信ぴょう性が高いもの
- 本当か嘘かわからないもの
と物語を整理しなおして考えてみました。
今回は貫井徳郎『微笑む人』のネタバレ考察です。
はじめに結論から
おそらく、この小説は『よくよく物語を読み解くことで答えがわかる』という仕組みにはなっていません。
めちゃくちゃざっくり意訳すると、この小説の本質は
「わかりやすい結末が用意されていると思った? ねえ、思った? 残念でしたー!」
というものだからです。
※さすがにざっくりしすぎ
小説のラストで、物語は一度
『仁藤は子ども時代に強烈なトラウマを抱えてしまい、その原体験のせいでサイコパスになった』
という実に《らしい》結末を迎えておきながら、つぎの瞬間には
「最終的に理解できる結末が必ずあるのなんて、フィクションの中だけですよ」
と読者を突き放します。
※この場面の詳しい描写は前の記事を参照
この斜め上の裏切りこそが小説の核心である以上、作者が「推理してたどり着ける真相」を用意しているとは思えません。
それでもなお真相を手にしようと考えを巡らせようものなら、再び作者から
「うんうん、犯人に理解できる背景があることを確認して安心しようとしているんだよね? でもホントは他人のことなんてわかんないよね?」
と先手を打たれていたことに気がつきます。
打つ手なし。
八方ふさがり。
真実は闇の中。
このさい断言してしまいますが、小説『微笑む人』には
「あー、そうだったのか! 納得!」
という答えは存在しません。
しいていうなら「答えがわからない、というのが答え」と言ったところでしょうか。
もしあなたが、《行間に隠されていた真相》のようなはっきりしたものをお探しなら、残念ながら本記事はハズレです。
ここからは
- 「答えはない」を前提に置きつつ、
- 作者に冷笑されるのを承知の上で、
それでもなお物語を考察してみたという内容になります。
それでもよろしければどうぞゆっくりしていってください。
仁藤は犯人なのか?
『もしかしたら仁藤は犯人ではないのではないか?』
一度は検討しなければならない命題ですよね。
仁藤は「いい人」と評判の人物ですし、なにより犯行動機(メリット)がありません。
「本が増えて手狭になったから」なんて理由は実に嘘っぽいです。
過去の事件についても状況証拠しかありませんし、
「ぜんぶ偶然の一致だった」
「証言者の主観によって印象が歪められ、怪しく見えているだけ」
という可能性は十分に考えられます。
いや、ほぼ間違いなくクロでしょうね。
わたしが特に重要だと思ったのは、以下の事柄です。
- 妻子殺害の犯行現場を完全な第三者に目撃されていること
- 仁藤が妻子の火葬を急がせようとしたこと
- 物的証拠の発見により否認していた容疑を認めたこと
少なくても仁藤が妻子を手にかけたことは間違いないと言わざるをえません。
確かに、この物語はインタビュー形式で進んでいくので「証言者が嘘をついていてもわからない」という不安定さがあります。
ただし、複数の(そして無関係の)証言者の話が一致している場合にはその限りではありません。
もし仁藤が完全な無罪だとするならば
- 仁藤の居住地から遠く離れた地域の地元住民が嘘の目撃証言をした理由
- 葬儀社の人間が「火葬を急げと仁藤に怒鳴られた」と嘘の証言をした理由
に説明をつけなくてはならなくなります。
そんな理由があるようなら、もう《何でもあり》じゃないですか。
わたしとしては、仁藤が完全な冤罪被害者という線はないと思います。
過去の事件の中では、大学生時代の疑惑が一番怪しいですね。
証言者の刑事が嘘をついていない限り、仁藤は自分を怪しんでいる刑事を罠にはめて排除しています。
仁藤がゲーム機欲しさに同級生を葬ったかどうかはともかく、刑事を罠に陥れたその手口そのものが「いい人」の発想ではありません。
中学生・会社員時代の疑惑は正直、クロと言うには材料不足な感じがするのですが、やはり他の事件のことを考慮すると《常習犯》という言葉が思い浮かびます。
最終章の考察
『微笑む人』は最終章で一気に訳がわからなくなります。
あらためて振り返ると
- 仁藤は同級生の女の子を助けるために彼女の父親を殺害した
- 実は、殺害したのは女の子自身で、仁藤はその現場を目撃したことで倫理観が歪んだ
- ところが、その話は真っ赤な嘘だったかもしれない
- ショウコの目的は取材の妨害だった?
という内容でした。
いちばんわかりやすいのは
『ショウコの話はすべて本当だった』
と仮定することです。
つまり、仁藤は小学生時代の壮絶な原体験の結果、安易な問題解決方法として殺人を選ぶ異常者になった、という話ですね。
最終章ではショウコによって暗に否定されていますが、だからといって真実ではないとも限りません。
あえて本当にあった出来事を話してから否定することで、「その話は嘘だった」と思わせることこそが目的だったのかも……?
ただ、ふつうに考えれば筋の通らない話だとは思います。
もしそれが真実だとして、その事実を知っているのはショウコと仁藤しかいないのです。
ショウコにしてみればわざわざ何も話さなくても、黙っているだけでいいはずですから。
仁藤俊実とショウコの関係性
『微笑む人』最大の謎は仁藤ではなくショウコです。
彼女の目的はいったい何だったのでしょうか?
そもそもショウコが「私」の取材を妨害しようとする意図がわかりません。
ふつうに考えれば仁藤の半生を小説として出版されると困る事情がショウコにはあった、ということになります。
そして、その《事情》はショウコが話した「義父殺し」ではないように思われます。
もし本当に隠したい真実が「義父殺し」だとしたら、一度だってその話を「私」にするはずがありません。
そこでわたしはこう考えました。
『仁藤とショウコは現在もつながっているのではないか?』
たとえば、安直ですがふたりが男女の関係だったとしたらどうでしょう?
- 藤が妻子を手にかけた本当の理由はショウコとの未来のため
- 「本が増えて手狭に~」と嘘の理由を言ったのは、ショウコに迷惑をかけないため
- ショウコがわざわざ取材を妨害してきたのは、その事実を隠すため
筋としてはそこまで悪くないように思われます。
この場合、仁藤は離婚ではなく殺害を問題解決の方法として選択しているわけで、過去の事件の犯人としての異常さはそのまま、動機だけが実は違っていたということになります。
また、この仮説ならば仁藤がやけに「ショウコ」という音の女性ばかりに惹かれていた描写の意味にも説明がつきますね。
- 仁藤はひょんなことからショウコと再会し、恋仲になった
- 離婚するより、いつもどおり事故に見せかけて始末した方が早いと考えて実行した
こんな出来事があったのではないかと想像できます。
ちなみにこの場合、仁藤の犯行には『金銭目的』という側面があったとも考えられます。
仁藤の妻子には生命保険金がかけられていなかったため、保険金目的の犯行という線は早期に捨てられていました。
しかし、目的がお金を得ることではなく、減らさないことだったとしたら?
離婚と死別、仁藤の手元にお金が多く残るのは……という話です。
だとしたら仁藤はあまりお金に執着するタイプには見えませんし、犯行の黒幕は実は……?
まだまだこの仮説について語ることは多いのですが、これ以上は考察というより妄想の域なのでこのあたりで自重しておこうと思います。
まとめ
今回は貫井徳郎『微笑む人』の考察でした。
正直な話、
全面的に敗北
という気分です。
いろいろな角度から考察することで読了直後の大混乱からは立ち直れましたが、それでもスッキリ自己満足できるような結論には辿りつけませんでした。
『微笑む人』の真相は読んだ人の数だけあると思います。
- 「真相はこうだったんじゃないか?」
- 「あの描写にはこんな意味があったんじゃないか?」
など、あなたの考察もぜひコメントで教えてくださいね!
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小説の趣旨:人に期待しない。、イメージだけで決めつけない。また人間には色んな側面がある。人間は弱いから人を殺す場合もある。
小説の考察:1説:殺人容疑の主人公は間違いなく殺人を犯した。女(幼馴染み抄子もまたサイコパス)の影響が強い。
2説:たまたま不運が重なった(諦めの境地で、全て第三者的な視点で自分の事も他人の事も冷めた視点で見るようになった。精神崩壊)