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小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』あらすじと感想|青春をふりかえる【映画原作】

燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読みました。

今を生きる43歳の「ボク」がふりかえる青春の舞台は、1990年代後半の東京。

  • 仕事
  • 仲間

若い頃なんてなんにも持っていなかったはずなのに、大人になって成功した今、なんだかあの頃のほうが輝いていたように思う……。

大人になってしまった人たちに突き刺さる……今回はそんな小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』結末までのあらすじと感想をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

17年前、渋谷。大好きだった彼女は別れ際、「今度、CD持ってくるね」と言った。

それがボクたちの最終回になった。

17年後、満員電車。43歳になったボクは、人波に飲まれて、知らないうちにフェイスブックの「友達申請」を送信してしまっていた。

あの最愛の彼女に。

とっくに大人になった今になって、夢もない、金もない、手に職もない、二度と戻りたくなかったはずの《あの頃》が、なぜか最強に輝いて見える。

ただ、「自分よりも好きになってしまった人」がいただけなのに……。

各界でオトナ泣き続出、web連載中からアクセスが殺到した異色のラブストーリー、ついに書籍化。

(書籍のあらすじより)

ありふれた青春

みもふたもない言い方をすれば、この物語では劇的なことは何も起こりません。

東京でひとりぼっちすり減っていた若者が恋をして、がむしゃらに仕事をして、いろんな人と出会っては別れていく……。

それはごくごくありふれた、1990年代を東京で過ごしたひとりの若者の自分語りでしかありません。

彼女と出会ったきっかけは雑誌の文通コーナー(古っ!)

別れ話はなくて、最後は彼女が「今度、CD持ってくるね」と言ったきり自然消滅。

ぱんだ
ぱんだ
あるある

はい。どこにでも転がっているような甘酸っぱくて苦い青春の恋のお話です。

43歳になった主人公はそんな彼女にうっかりフェイスブックの友達申請を送ってしまうわけなんですが、それにしたって何が起こるという話でもありません。

「ボク」は彼女と再会しませんし、だいいち彼女はもう結婚しています。

友達申請は承認されますが、「ボク」は彼女になにひとつメッセージを送らず、そのまま物語は幕を閉じます。

ぱんだ
ぱんだ
……それ、おもしろいの?

はい、これがまたおもしろいんですよ!……と安直には言えません。

たぶん、めちゃくちゃつまらないと切って捨てる人もいるんじゃないかと思います。

なにせ、本当になにも特別なことがおきないまま、気がつけば160ページの(そして他人の)青春プレイバックが終わっているような物語ですからね。

では、どんな人なら本作を楽しめるのかというと、たとえば次のような文章にピンとくるかどうかです。

『美味しいもの、美しいもの、面白いものに出会った時、これを知ったら絶対喜ぶなという人が近くにいることを、ボクは幸せと呼びたい』

燃え殻さんの文章は、ありふれた青春のありふれた気持ちを叙情的にあらわしています。

いまふうに言えば『エモい』というやつですね。

一定年齢の超えた(つまり青春を通過した)読者は、そんなエモい文体に引っぱられるようにして、自らの20代をふりかえらずにはいられないでしょう。

そうなったら最後、手のひらを返したようになんでもない物語のはずの『ボクたちはみんな大人になれなかった』がたまらなく愛おしくなり、切なさで胸がいっぱいになる……そんな読書体験をもってあなたは「これは最高の一冊だな」と納得することになるはずです。


結末

20年くらい前の恋愛を事細かに覚えていることからもわかるように、「ボク」はいまだに人生でただ一人の「自分より好きになった人」のことを引きずっていました。

女々しいとバッサリ言ってやってもいいのですが、ただまあ、気持ちはわからなくもありません。

他人に無関心な都会で、彼女の存在だけが20代のボクの支えでした。

彼女がいなければ、ボクは早々に都会から脱落していたかもしれませんし、43歳時点での社会的成功もきっと手に入れられていなかったのです。

それほどのいわば精神的支柱だった恋人との別れはあまりにも突然で、気持ちの整理をつける暇もありませんでした。

ぱんだ
ぱんだ
落ちこむね……

フェイスブックの友だち申請は、結婚して名字の変わった彼女に承認されます。

サブカルに染まっていて世の中を斜めに見ていた彼女の投稿はずいぶんふつうの主婦らしいものばかりでしたが、それは「ボク」も同じことです。

情熱のない仕事をして、つくり笑いが透けて見える写真を投稿して。

「つまらない大人になったね」といわんばかりに、彼女はボクの投稿に「ひどいね」を押していきます。

ボクはそんな彼女の変わらなさに口元を緩めて、そして再び《あの頃》に思いを馳せます。

ボクが彼女に伝えたかったこと。でも伝えられなかったこと。それは……。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「キミは大丈夫だよ、おもしろいもん」

どんな電話でも最後の言葉は、それだった。

彼女は、学歴もない、手に職もない、ただの使いっぱしりで、社会の数にもカウントされていなかったボクを承認してくれた人だった。

あの時、彼女に毎日フォローされ、生きることを承認されることで、ボクは生きがいを感じることができたんだ。

いや今日まで、彼女からもらったその生きがいで、ボクは頑張っても微動だにしない日常を、この東京でなんとか踏ん張ってこられた。

そして1999年、ボクと加藤かおりは、別れたんだ。

正確にはこっぴどくフラれたんだ。

きっとフェイスブックで再び繋がったのは、あの時、彼女に言えなかったことを伝えるためだったのかもしれない。

「ありがとう。さよなら」

<おわり>


【考察】彼女の秘密

ここからはやや蛇足で、なおかつ既読者向けの内容になります。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』には最後まで明言されなかった謎……というと大げさですが、不明点があります。

  • かおりはなぜボクをフッたのか
  • ボクとつきあってた頃に旦那と出会っていた点
  • 彼女が後の旦那に「夏帆」と名乗っていたこと

はっきりとした答えはどこにもないので、ここから先はわたしの想像になります。

一番の手がかりになりそうなのは、やっぱり彼女が夏帆と名乗っていた事実ですよね。

これは偽名というより、源氏名に近いものでしょう。

小説の序盤。43歳のボクが抱いた女優志望の子が本当の名前を教えてくれるエピソードからも連想されるように、若く貧しかった彼女も夢やお金のために源氏名を使う必要に駆られたのではないでしょうか。

いまふうにいうとパパ活ですね。

物語の中盤、アパレル店員だった彼女は支援を受けてインドに旅立っていますが、このあたりにも(のちの旦那である)小沢さんの影がちらついているように思われてなりません。

かおりは夢やお金のために他の男性とも関係を持っていた。そしていつまでも不安定なボクを見限って、その男性を障害の伴侶として選んだ』

わたしがまっさきに想像した答えがこれ↑です。

かおりのことを薄情だと思われるでしょうか?

わたしはそうは思いません。

ボクがボクの人生を生きていたように、かおりにはかおりの人生があります。

あらゆる意味で不安定だったボクよりも、包容力のある大人の男性に惹かれたのかもしれません。

あるいは安定した将来を手に入れたいと、多少は打算的な考えが働いたのかもしれません。

ボクとかおりの関係は、若い恋であり、まばゆい青春でした。

それは人生の一時期にだけ許された、期間限定の蜜月です。

いつかは現実を直視しなければならなくなる日が来ます。

つまるところ、かおりはボクより一足先に大人になろうとした、ということだったのではないでしょうか。

 

物語のラスト。

ボクは思い出のなかのかおりに「ありがとう。さよなら」と伝えます。

もしも当時、ボクが面と向かってかおりに別れ話を切り出されていたのなら、そんなに冷静な対応は絶対にできなかったでしょう。

「ありがとう。さよなら」という言葉は、43歳のボクがちゃんと大人になっている証であるようにわたしには思われました。

 

タイトルの意味

「ボクたちはみんな大人になれなかった」というタイトルは、1999年、ふたりが別れたときの状況をあらわしているんじゃないかな、と思いました。

きちんとボクと向かい合ってフッてあげられなかったのは、かおりの幼さ。

かおりに甘えきっていたこと。結婚を含めてかおりとの将来ときちんと話し合わなかったこと(その他もろもろ)はボクの幼さ。

タイトルの「ボクたち」というのは、ボクとかおりと、そしてきっと読んでいるわたしたちのことでもあります。

大人になってからふりかえる若い頃の恋愛って「もっとこうするべきだった」って反省ばっかりですよね。

あの頃、わたしたちはみんな大人になれていなかったんだなぁ、となんだかしみじみしてしまいました。


感想

泣きはしないな、というのが率直な感想です。

小説の売り文句が「大人が泣くラブストーリー」というものだったのですが、少なくともわたしにはピンときませんでした。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』はもともとWEB連載されていた小説で、全160ページが19章にわけられています(※文庫版)

つまり、単純計算で1章あたり8~9ページ。

読みやすい文章も相まってサクッと読むには最適なのですが、章をまたぐと場面がコロッと変わっていたりして、物語をとおしての大きな『うねり』のようなものは感じられませんでした。

とはいえ、それはつまらなかったという意味ではありません。

ボクの視点で淡々と語られる等身大の物語は、読者の思い出の扉をスゥっとたやすく開きます。

わたしは「ボク」の青春の軌跡をたどりながら、同時に自分自身の思い出をふりかえっていました。

しみじみと懐かしく、眉をひそめたくなるほど苦く、そしてぽっかりと切ない。

まるで10年ぶりに電源を入れた携帯電話の写真フォルダを見ているような感覚、とでもいいましょうか。

  • 切ない
  • センチメンタル
  • ノスタルジック

自然とそんな気持ちにさせられる小説、というのがわたしが『ボクたちはみんな大人になれなかった』読んで抱いた感想です。

「大人泣き」をした人にしても、わんわんと号泣するような泣きではなく、きっとツーっと一筋の涙が頬をつたうような感じだったんじゃないかな、と想像します。

※まあ、わたしは1ミリも泣く気配はなかったのですが……


ここが好きだった

わたしが一番好きだったのはスーのエピソードです。

「あなた」

「ん? どうした?」

「忘れ物」

「忘れ物? は、ないと思うよ」

「だね」

「あなた」の三文字にスーがどんな気持ちを込めていたのかと想像すると、胸がキュッと締めつけられます。

スーはどうしてボクに《あなた》と呼びかけたのでしょうか?

そして、スーのいう《忘れ物》とはいったい何のことだったのでしょうか?

未読の方は「なんのこっちゃ」と首をかしげていることかと思いますが、このシーンばっかりはこの場で詳細に解説・考察するのは無粋というものです。

気になった方はぜひ、小説を読んでこの切なさを味わってみてください。

 

あなたはどのシーン・どのセリフが印象に残りましたか?

コメントで教えてくれると嬉しいです!

まとめ

今回は燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』のあらすじと感想をお届けしました!

この小説が刺さるのは、圧倒的に大人世代でしょう。

青春時代をふり返るということは、今はもう青春から遠く離れてしまっているのだと自覚することに他なりません。

それはなんだか寂しいことでもありますが、でも、みんなそうやっていつのまにか大人になっているんですよね。

ふと青春時代を懐かしみたくなったときは、この小説を開いてみるといいかもしれません。

ありふれた青春の物語が、きっとあなたの思い出にも寄り添ってくれるでしょう。

ぱんだ
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映画情報

予告動画

キャスト

  • 森山未來
  • 伊藤沙莉

ほか

公開日

2020年11月5日(金)劇場公開&Netflix配信

ぱんだ
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またね!


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