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小説『夏へのトンネル、さよならの出口』あらすじネタバレ解説|結末の感想【劇場アニメ化】

八目迷『夏へのトンネル、さよならの出口』を読みました。

代償と引き換えに望むものが手に入るという《ウラシマトンネル》

少年少女はトンネルの謎を解き明かし、願いを叶えようと奔走します。

とはいえ、すんなり上手くいくはずもなく……。

今回はそんな小説『夏へのトンネル、さよならの出口』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

「ウラシマトンネルって、知ってる? そこに入れば欲しいものがなんでも手に入るんだけど、その代わりに年を取っちゃうの――」

そんな都市伝説を耳にした高校生の塔野カオルは、偶然にもその日の夜にそれらしきトンネルを発見する。

――このトンネルに入れば、五年前に死んだ妹を取り戻すことができるかも。

放課後に一人でトンネルの検証を始めたカオルだったが、転校生の花城あんずに見つかってしまう。

二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが……。

かつて誰も体験したことのない驚きに満ちた夏が始まる。

(文庫裏表紙のあらすじより)

ウラシマトンネル

カオルが発見したウラシマトンネルの特性は、噂で聞いたものとは少し違うようでした。

まず、ウラシマトンネルに入ると年をとるという点。

浦島太郎の連想から「トンネルから出ると老人の姿になっている」みたいな想像をカオルはしていたのですが、これは間違いでした。

むしろ、本当のところはその逆です。

トンネル内での1秒は、外の世界での40分に相当します。

1時間で100日。1日なら6年半。

たとえば夏にトンネルに入って90分滞在してから出たとすると、あっというまに外は冬になっているわけです。

つまり肉体年齢そのままに未来に行けるわけですが、戸籍上の年齢はしっかりカウントされるわけですから、ある意味では「年を取る」ともいえますね。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

次に、欲しいものが何でも手に入るという点。

これもちょっとニュアンスが違います。

先回りしてネタバレしちゃいますが、正しくは「失くしたものを取り戻せる」です。

カオルの場合はもともと亡くなった妹を取り戻したいという願いでしたので、不都合はありません。

ただし、無限に続くかのように思われるトンネルのどこまでいけば願いが叶うのかは未知数です。

もしかしたら、どこまで行っても無駄足で、ただ時間だけが早送りのように過ぎ去り、トンネルを出た頃にはどこにも居場所がなくなっている……なんて事態になってしまうかも……。


花城あんず

花城あんずは意志が強く、行動力もあり、おまけに美少女という絵に描いたようなヒロインです。

なんといっても彼女は序盤のインパクトがすごかったですね。

不良の上級生に絡まれても動じず、逆に馬乗りになってボールペンでめった刺しにして返り討ちにしちゃう場面ではその強さに圧倒されました。

かといって鉄壁のようにとっつきにくい女の子かといえばそうでもなく、カオルの前ではけっこう乙女な一面をのぞかせたりもしていて、そのギャップがまたかわいいです。

※ちょっと化物語の戦場ヶ原さんっぽいなと思ったり

さて、そんなあんずもウラシマトンネル調査隊に加わるわけですが、気になるのはその目的です。

彼女の叶えたい願いとは何なのか?

これもすぐネタバレしちゃうのですが、花城あんずの願いは「特別になりたい」というものでした。

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと?

きっかけは祖父の葬式でした。

人間一人が亡くなれば、やがてその存在は緩やかに忘れられていきます。

その人が存在した影さえ世界から消え失せてしまうようで、あんずはとても恐ろしくなりました。

たとえ死んでも忘れられないような、世界に名前が残り続けるような人間になりたい。

「特別になりたい」という願望は「ふつうでありたくない」という感覚的な恐怖の裏返しです。

ぱんだ
ぱんだ
ふーむ

彼女はウラシマトンネルを発見する以前から、すでに行動を開始していました。

花城あんずの夢は漫画家になることです。

賞にも応募していて、カオルが読ませてもらった作品はプロにも引けを取らないほどクオリティの高いものでした。

しかし、あんずの両親は娘が漫画に没頭することを良しとはしませんでした。

よく言えば真面目で厳格な、悪くいえば頭が固く融通の利かない両親だったのです。

あんずはそんな《ふつう》の両親に反発するように漫画を描き続け、ついには東京から田舎へと島流しされます。

こうしてあんずはカオルの高校に転校してきたのでした。

花城あんずにはウラシマトンネルに願う具体的な望みはありません。

「失くしたものを取り戻せる」というトンネルの本質に鑑みれば、なおさら彼女はなにも得られないように思われます。


塔野家の事情

主人公・塔野カオルの家庭事情はなかなかに壮絶です。

妹であるカレンの死をきっかけに家庭は崩壊し、母親は蒸発。

父親は精神的に不安定になり、カオルを怒鳴ったり無視したり、荒み放題。

もともとカオルが母親とその浮気相手の間にできた子ども(※)という経緯もあり、カオルと父親との関係は冷え切っています。

※つまり、父親とは血がつながっていない

ぱんだ
ぱんだ
うわぁ……

しかも、カオルの不遇はこれだけにとどまりません。

物語中盤でカオルは偶然にも蒸発した母親と再会するのですが、母親はカオルと目が合うなり恐怖に顔を引きつらせて、はっきりと我が子を拒絶しました。

母親の隣には見知らぬ男の姿。いつか再会すれば母親からまた愛されるようになるのではないかというカオルの一縷の希望は粉々に打ち砕かれます。

失意のままカオルが帰宅すると、今度は父親の隣に見知らぬ女が座っていました。

再婚するのだ、と父親は言います。

女の前でとりつくろってはいるものの、父親がカオルを邪魔に思っていることくらい、すぐにわかりました。

ぱんだ
ぱんだ
しんどい……

カオルがなにより許せなかったのは、両親がカレンの存在を《なかったこと》にしようとしていることでした。

太陽のように明るく無邪気だったカレン。

両親の仲を取り持つようにわざとわがままに振るまっていた賢いカレン。

5年前、カレンは虫取りのために上った木から落下して命を落としました。

その場にいたカオルが、ほんの一瞬だけ目を離した瞬間の出来事でした。

カオルがリスクを覚悟してまでウラシマトンネルに挑むのは、カレンを助けられなかったという後悔のために他なりません。

あのとき、もし……。

この5年間でなんども繰り返し、すっかり心にこびりついてしまった罪悪感が、カオルを突き動かします。

カオルには何を犠牲にしてでもカレンを取り戻すという覚悟がありました。


迷い

ウラシマトンネルの調査でネックになるのは時間です。

土日をすべてを捧げたとしても、トンネル内には1分半もいられません。

そこでカオルたちは夏休みを利用して本格的な探索に乗り出すことにしました。

出発日は8月2日。

ところが、前日になってアクシデントが発生します。

あんずが新人賞に応募した漫画が編集者の目に留まり、これから担当としてアドバイスをくれるというのです。

もちろん担当がついただけでどうこうなるものでもありませんが、それでもプロになるという夢が現実味を帯びてたのもまた事実です。

あんずは大きな決断を迫られます。

ウラシマトンネルに入るか、残って夢への一歩を踏み出すか。

正直、ウラシマトンネルの探索に乗り出せば、帰ってこれるのは早くても数年後といったところでしょう。

もちろん担当つきの話はなかったことになります。

一方で、あんずはカオルのことが好きです。

カオルをウラシマトンネルに見送ってしまえば、もう二度と会えない可能性だって十分に考えられます。それだけは避けねばなりません。

あんずの迷いを察したカオルは、ひとまず探索を延期することにしました。

あんずには考える時間が必要だと考えたからです。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「……本当にごめんなさい」

唐突に謝りだす花城に、僕は苦笑して返した。

「別に、誰が悪いとかの話じゃないよ」

「でも……少しでも早くカレンちゃんに会いたいだろうに、私のせいで……」

ずず、と鼻をすする音。よほど責任を感じているようだ。

僕は頭を搔いて、できるだけ凛々しい声を作って言った。

「顔を上げてくれよ。可愛い顔が台無しだよ」

「茶化さないで」

「茶化してないよ」

(中略)

「花城すごい可愛い! めちゃくちゃ可愛い! この世で一番可愛い!」

赤い顔がさらに赤くなる。

「や、やめてってば!」

手を振り切られて僕は無理やり口を塞がれる。

「な、なんなの急に! バカじゃないの!?」

「ははは、ごめんごめん。こうすりゃ元気出ると思ってさ」

「もう……」

呆れたように嘆息する花城。だけどそのすぐあとに「ぷっ」と吹き出して、壊れたみたいに笑いだした。

「はは、あっははは! 本当、バカみたい! あははははは!」

そんな花城を見ているうちにこっちも無性におかしくなって、僕たちは人目も憚(はばか)らずバカ笑いした。笑いの火は炭火のように深いところで燃えていて、一度笑いやんでも、またすぐに大声で笑った。おかしくて堪らなかった。

ぱんだ
ぱんだ
青春だねぇ


ネタバレ

↑のような和やかなやりとりがあったにもかかわらず、カオルはあんずを置いて一人でウラシマトンネルに乗り込んでしまいます。

数日後にあんずが「やっぱりカオルと一緒にトンネルに入ろう」と決意したときには、すでに手遅れでした。

あんずが無我夢中でトンネルの入り口にたどり着くと、そこにはカオルからの手紙が残されていました。

『君は、今すぐにでも漫画家になるべき人間だ。だから置いていった』

カオルとは違って、あんずには命をかけるほどの願いはありません。

特別になる必要なんてない、と手紙の中でカオルは諭します。

『たぶん、君は普通の生き方を楽しめる女の子だと思うんだ』

短い手紙は、次のように締めくくられていました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

もし、君がここで引き返してくれるなら、もう、僕のことは待たなくていい。

新しい友達をいっぱい作って、いろんな経験をして、たくさん笑ってほしい。

面白い漫画を描いて、みんなを楽しませてほしい。

だから、僕がウラシマトンネルを抜けるとき、君が最高の漫画家になっていることを心から願うよ。

 

最後に。

これは、僕からの提案なんだけど。

花城あんずは塔野カオルにとって誰よりも特別な人間である。

ってところで、ひとまず納得してくれないかな?


本当の特別

カオルはウラシマトンネルを駆けながら時計を確認します。

18分経過。外ではもう夏休みが終わる頃です。

後ろから誰かが追ってくる気配はありません。

あんずは手紙を読んで引き返してくれたのだ、とカオルは心から安堵しました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

花城。君に辛い選択をさせてしまった。本当にごめん。何回謝っても足りない。

君の好意には、気づいていた、分かるよ。僕も君のことが好きだから。

でも、君の好意は違うんだ。それは悲劇のヒロインになりたいと願う憧憬が変質したものでしかないんだ。

妹を失った僕に、なんらかのドラマ性を期待していただけなんだ。

ダメだよ、花城。それじゃあダメだ。

特別になりたいなら、僕になんて構ってちゃいけない。

普通に頑張れ。

誰にでもできて、誰にも褒められず、誰にも同情されない。

そういう普通をひたすら延々と地道に積み重ねた上に、特別があるんだよ。

君なら、それに辿り着ける。

辿り着けるんだよ、花城。

君は、一人で漫画を描いてきたんだろう。今まで誰にも言わなかったんだろう。

上手くいかないことがあって、描くのをやめたくなったことがあったかもしれない。

もしかすると、描くのが何より楽しくて、やめたいと思ったことなんて一度もないのかもしれない。

それでも、とにかく、君は描き続けてプロに評価された。

それこそが、特別な経験なんだよ。

ウラシマトンネルに入って出るよりも、ずっとずっと特別で、素晴らしいことなんだよ。

だから、花城。君は胸を張って今を生きろ。

今を頑張れ。

僕のようには、決してなるなよ。


失っていたもの

カオルはトンネルを走り続けます。

1時間25分(141日)が経過。

5時間20分(1年と168日)が経過。

9時間56分(2年と263日)が経過。

もう何十キロと走り続けていて、とっくにトンネルの長さを越えているはずなのに、道はどこまでも続いていました。

息が切れ、足は震え、もうほとんど歩いているような状態です。

持ち込んだ水はもうすぐ飲みつくしてしまいます。

何の成果も得られず、このままトンネル内で遭難するしかないのか……と諦めかけた、そのときです。

突然、カオルの目の前に木の扉が現れました。

不自然すぎる扉を、しかしカオルはなんの迷いもなく開きます。

扉の向こうには、一面の砂浜が広がっていました。

そして……

「よく来たね、お兄ちゃん」

10歳のままの姿の塔野カレンが、当たり前のように立っていました。

ぱんだ
ぱんだ
!!

カオルは幻のような不思議な世界で束の間、カレンと穏やかな時間を過ごします。

泣いたり戸惑ったりしたのは最初のうちだけ。

気づけばカオルはあの頃と同じように、自然にカレンと話をしていました。

そうして、話題は花城あんずとの出会いに移ります。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「お兄ちゃんはその人のことが好きなの?」

純粋な眼差しでカレンが僕を見つめる。

僕は食べかけのスイカを皿の上に戻して、海を見つめながら答えた。

「……そうだね。僕は、その人のことが好きだよ」

カレンは「きゃー」と嬉しがるような悲鳴を上げて僕のほうに擦り寄った。

「好きなのに一緒にいなくてもいいの?」

「うん。あの子には、他にやらなきゃいけないことがあるからさ」

「それでも好きなんでしょ? 離れて寂しくない?」

「それは……たしかに寂しいっちゃ寂しいけど……」

カレンはじっと僕を見つめて返事を待っている。軽く受け流したり嘘で誤魔化す気にはなれなかった。

「……本当はね、カレン。僕に誰かを愛する資格なんてないんだよ」

僕の不注意のせいでカレンを死なせてしまった。父さんが変わり果ててしまったのも、母さんが蒸発したのも、元を辿ればすべて僕の責任だ。

そんな僕が誰かを愛するなんて、それはもう、ものすごくおこがましいことなのだ。

(中略)

「ふーん。だったらあたしがあげるよ!」

そう言うなりカレンは急に立ち上がって廊下の奥に消えた。たったった、と階段を駆け上がる音が聞こえる。

少ししてカレンは数本のカラーマジックとA4サイズの白紙を持ってきて、それらを縁側に並べた。

(中略)

「今からお兄ちゃんに資格をあげます!」

カレンは用紙を目の前に掲げて、大仰な口調で読み上げるふうに言った。

「えー・お兄……じゃなくて、塔野カオルは、あたしに頑張って会いに来てくれたので、今後、誰かを愛しても、別によいです! はいっ、おめでとう」

両手で用紙を渡される。

用紙にはでかでかと「愛するしかく」と書かれていた。その周りには色とりどりのマジックで花だったり犬だったりの絵が描かれている。

僕は、それを受け取れずにいた。

「お兄ちゃん? どうぞ、だよ」

腹の奥から熱いものがこみ上げてくる。

カレンを失ったあの日から、ずっと悔やみ続けてきた。苛まれ続けてきた。

僕がいながらカレンを救えなかった事実に、打ちのめされていた。

贖罪をしたかった。でもその方法が分からずにいた。

だから幸せになることを避けて少しでも罪悪感を軽くしようとしていた。

そうやって一生を全うするのが、僕の定めなんだと思っていた。

それなのに、こんな、こんな――。

 

「お兄ちゃん? これ、いらないなら捨てちゃうよ?」

「ま、待って。いる。めちゃくちゃいるから……」

僕は慌てて両手で「愛するしかく」を受け取った。

触れた指先から、じわじわと熱みたいなものが腕を通って全身に伝わっていく。薄いA4用紙が、とてつもなく尊いものに感じられた。

長い時間を経て、やっと自由になれたような気がした。

「……ありがとう、カレン。これは大切にするよ」

「うん! そうして!」

「それと……ごめん。早速なんだけどさ」

また恥ずかしいことを言ってしまうであろう自分に、僕は思わず苦笑した。

「少し、誰かを愛したくなっちゃったよ」


取り戻していたもの

カオルは妹と再会できた嬉しさに時を忘れていましたが、夢のようなこの世界もトンネルの内部であり、つまり現実世界では恐ろしい勢いで時間が進み続けています。

「い、急ごう……! 長居しすぎた……!」

カオルはカレンを連れて夢の世界の出口である《木の扉》へと戻ります。

想定よりもずっと時間がかかってしまいましたが、とはいえカレンさえ取りもどせるのならカオルに後悔はありません。

《木の扉》の向こう側に一歩踏み出すカオル。

一方、カレンは白い砂浜が広がる《あちら側》の際(きわ)から動こうとはしませんでした。

「ねえ、お兄ちゃん。本当はわかってるんでしょ?」

別れの予感をふり払おうと、カオルは必死にカレンを説得します。

けれど、どんなに言葉を重ねてもカレンは《あちら側》から出ようとはしません。

「大丈夫だよ。あたしはいつでも側にいるから……だから、ね」

カレンはトン、と軽くカオルの背中を押します。

「お兄ちゃんも、今を生きて」

カオルが振り向くと、そこにはもうカレンの姿も、木の扉さえありませんでした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

こうなることは、薄々予感していた。

ウラシマトンネルの真の特性は『失くしたものを取り戻せる』だ。

だからこそ僕はカレンに会うことができた。誰かを愛する資格だって得た。

だけど知らぬ間に取り戻していたものが他にもあった。

『現実と向き合う力』だ。

辛い過去を受け止め今を生きること。それは10歳で時が止まったカレンの存在と矛盾している。

だから、どちらか片方を選ぶ必要があった。

きっとウラシマトンネルには悪意はおろか意思すらない。トンネルに足を踏み入れた者が失くしたものを、自動的に投影するだけ。

では、そこに矛盾が発生すればどうなるのか。

おそらく、より強い思いが優先されることになるのだろう。

つまり、僕自身が、無意識に現実と向き合うことを選択していた。

カレンの死を、すでに僕は受け入れていたのだ。

……分かっていたことだ。

それでも、奇跡が起こってまたカレンと一緒に暮らせる日々が来るんじゃないかと、そんな期待を捨てきれずにいた。

甘い夢だった。

もう、目を覚まさなければならない。

歯が砕けるくらい強く奥歯を噛み締める。腹筋に力を入れて、爆発しそうな感情を内に閉じ込める。さらにそれを押さえ込んで、蓋をして、鍵を何重にもかけて、密封する。

目をゴシゴシと腕で拭い、力の限り叫んだ。

 

「カレぇぇぇン!! いってきまぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっす!!」

 

僕は出口に向かって走り出した。

――いってらっしゃい。

そう、カレンに声をかけられたような気がした。


走れ

カオルが想像したとおり、あんずはウラシマトンネルに入りませんでした。

漫画を描いて、描いて、描いて……。

高校卒業から一年後には、プロの漫画家として連載がスタートしました。

連載が始まってからは毎日が大忙しだった。作業量は倍増し、睡眠時間は学生時代の半分にまで減った。とにかく大変だったけど、連載の忙しさは『不安』を紛らわせるためのよく効く麻酔となった。

塔野くんの帰りを待たなかった日は、一度もない。

二年後には連載が完結しました。

あんずは迷います。

このまま新連載を始めるのか、それともカオルを探しにウラシマトンネルに入るのか。

あんずは何度も何度も自問自答しますが、いつも答えは出ませんでした。

けれどある日、あんずはハッと目を覚まします。

「……私、バカだ」

きっかけは高校時代の友人との再会でした。

友人が語る高校時代のあんずは無茶で、無鉄砲で、でも絶対に自分を曲げない女の子で……。

当たり前のように持っていた《勇気》をいつのまにか失くしていたことに、あんずは気づきました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「あ、あんず? 急にどうしたの?」

「これ! 会計!」

財布から抜き取った一万円札をテーブルに置いて、私は口に料理を含んだまま走って喫茶店を飛び出した。

居ても立ってもいられなかった。待ってるだけじゃ何も始まらないことに気がついたから。

私は塔野くんも漫画も諦めたくない。どちらかなんて選べない。

なら、両方掴み取ればいいだけの話だ。

私はウラシマトンネルに挑む。

それで塔野くんが見つからなければ、今度は世界中を捜してみせる。

悲惨な結果になるかもしれない。二兎追う者は一兎も得ずなんてことわざもある。

でも、二兎を得るには、二兎を追うしかないのだ。立ち止まっていたら、何も捕まえられない。

そんなのは、絶対に嫌だ!

私のすべてが叫ぶように『走れ』と訴えている。

全力で追いかけろ、って。

熱い血液が巡る頭の中で、走馬灯のように記憶が錯綜する。

香崎への転校、不良との喧嘩、初めて歩いた線路の上、トンネルで繋いだ手、夏祭り、突然の別れ――彼と過ごした夏の思い出の一つ一つが、叱咤するように私の背中を押してくる。

ねえ、塔野くん。あなたのこと、絶対に見つけてみせるから。

走って、捜すから。

だから、お願い。

私が見つけるまで、無事でいて――。

 

塔野くんがウラシマトンネルに入ってから五年

彼との時間を取り戻すために、私は走り出した。

ぱんだ
ぱんだ
5年!?


結末

カオルとあんずはウラシマトンネルのなかで再会します。

より正確にいえば、がむしゃらに走りすぎたばかりに前のめりに転んで気を失ってしまっていたカオルを、あんずが発見したというカタチでの再会です。

あんずの膝枕のうえで目を覚ましたカオルは、はじめのうちはまだ実感できていませんでした。

外ではどれだけの時間が流れたのか。

どれだけの時間、あんずを待たせてしまったのか。

あんずは強く強くカオルを抱きしめ、ほとんど泣き叫ぶようにして5年分の後悔をぶちまけました。

「ねえどうして待たなくていいなんて書いたの!? ひどい! 一緒に行くつもりだったのに! どうして置いてっちゃうのよ! 私があのとき迷ったのがいけなかったの!? だから見放したの!? うああああああん! ごめんなさい! でも私のこと嫌いにならないで! 一人にしないでよ! ああああああん!」

あんずは泣きじゃくりながら、決して離すまいとするようにカオルの背中にまわした腕に力をこめます。

背中に食い込む爪の痛みに、カオルはあんずがどれだけの不安と戦ってきたのかを思い知るのでした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「ごめん……辛い思いをさせちゃったみたいだね……」

「絶対に許さないから……もう離れないで……」

「うん……大丈夫。これからは君を置いていったりしないよ。一緒に歩んで行こう」

「……ほんとに?」

花城の肩を掴んで身体を引き離す。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった彼女は、それでも綺麗だった。

僕は一呼吸置いてから、思い切って花城に顔を寄せた。

唇を重ねる。

軽く歯が当たって一瞬「失敗したかも」と思ったけど、気にしないことにする。

五秒くらいそうしていた。外では大体六時間に相当するキス。

顔を離す。ファーストキスは、ほんのり塩の味がした。

僕は立ち上がり、呆けたままでいる花城に手を差し伸べた。

「さあ、帰ろう」

エピローグ

カオルがウラシマトンネルに滞在していた時間は計47時間56分。

これを外の世界の年月に換算すると13年と45日になります。

17歳のままのカオルはもちろん、22歳の時点でトンネルに入ったあんずも戸籍上は30歳になっていました。

まともな就職は難しいだろうと思われますが、しかし、ふたりはあまり気にしていません。

あんずは漫画家として再デビューを目指すと言います。

カオルは上京するあんずについていき、アシスタント兼パートナーとして一緒に暮らすことにしました。

「……私、塔野くんより五つも年取っちゃったけど大丈夫?」

「うん。僕は年上が好みなんだ」

「それホント?」

「嘘。花城だからいい」

「あはは。前から思ってたけど、塔野くんって結構キザっぽいよね」

後日、カオルたちが見に行くと、ウラシマトンネルは影も形もなくなっていました。

トンネルの入り口だった場所はなんの変哲もない岩壁に変わっています。

「……やっぱり、全部幻覚だったのかも?」

物語のラストシーン。

カオルはあんずを連れて家の様子を見に行きます。

空き家になって久しい家には何も残っていませんでしたが、カオルが隠していたカレンの遺品を入れた箱だけはそのままに残っていました。

「あれ? なんだこれ」

箱のふたを開けると、覚えのない簡素な封筒が入っていました。

中身の便せんに書かれていたのは父親の引っ越し先の住所と電話番号。

カオルを邪魔に思っていたはずの父親の意外な行動に、チクリと胸が痛みました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「それ、塔野くんのお父さんの?」

花城が心配そうに訊いてきた。

「うん……」

「どうするの?」

「……一緒に持って帰るよ。いつか……会うときが来るかもしれないし」

胸に生まれたほのかな期待を噛み締めていると、突然、花城に腕を引かれた。

「不安なら、私も一緒に行ってあげる」

とびきりの笑顔で言われて、僕も笑顔で答える。

「それは頼もしいね」

宝箱を抱えて、二人で家を後にした。

びゅう、と吹いた風が電線を鳴らす。冷気が襟元に忍び込み、僕は身震いした。

セミの鳴き声はもう聞こえない。僕たちが過ごした夏は終わり、じきに秋を迎える。

そしてまた、来年も夏は来るのだ。

<おわり>


感想

ハッピーエンドで幕を閉じた『夏へのトンネル、さよならの出口』ですが、その結末にはかなり驚かされました。

カレンが生き返らないところまでは、まあ、想定通りです。

少年少女の成長と冒険を描く物語に、反魂なんて禁忌は似合いませんからね。

だから、予想外だったのはその後です。

わたしはてっきり「トンネルから出たら時間なんて進んでなくて、もとの17歳の夏に帰ってくる」というオチを想像していました。

文句なしの大団円です。ジュブナイルとして妥当な着地だと思われました。

けれど、物語はわたしの想像を軽く飛び越していきました。

まさか実年齢17歳の少年を戸籍年齢30歳として社会に放り込むとは!

エンドマークのあとの社会生活の心配までするのは野暮だとわかっているのですが、「もろもろの手続きどうすんだろう……」という考えが頭をよぎりました。

ぱんだ
ぱんだ
これだから大人は

でも、いいですよね。ふたりして未来で再出発する結末。ワクワクします。

カオルにはあんずが、あんずにはカオルがいれば、それでいいのです。

あんずは帰ってくるかもわからないカオルを五年も待ち続けて、そのうえ何もかも放り捨ててウラシマトンネルまで迎えにいきました。

一方、カオルが妹の復活よりも『現実と向き合う力』を取り戻そうと強く願ったのは、きっとあんずのおかげ(あんずのため)です。

カオルとあんずの関係はただの相思相愛にとどまりません。

運命共同体というか、それこそ「この人さえいてくれればいい」と思いあえる関係性です。

その絆の前には、浦島太郎状態の社会に放り込まれることなんて、小さな問題でしかありません。

しっかりと時間の代償を払って戻ってきたことにより、そういったふたりの強い結びつきがより伝わってきました。

影の差していた思春期から一転、これからは幸せな未来がふたりを待ち受けているのだと思われて、清々しく爽やかな結末でした。

ちょっとだけ考察

死者を蘇らせるためにどこまでも土壁のトンネルを進んでいく……この状況は日本神話の黄泉比良坂(よもつひらさか)を彷彿とさせます。

イザナギが亡き妻・イザナミを追って入った、いわゆる冥界というか《あの世》ですね。

カオルがウラシマトンネルの最奥で見つけた《木の扉》はあの世とこの世の境界線であり、カレンと再会した《向こう側》は黄泉の世界だったのかもしれないなあ、などと思いました。

※黄泉比良坂から逃げ帰ったイザナギと、前向きに引き返したカオルとでは全然状況が違いますけどね

余談ですが「夏へのトンネル」というタイトルはSF小説の金字塔『夏への扉』からとっているのかな、とも思いました。肉体年齢そのままに未来に行く、という流れも似ています。

ぱんだ
ぱんだ
いいねしてね!

まとめ

八目迷『夏へのトンネル、さよならの出口』のあらすじネタバレ解説(と感想)をお届けしました。

ウラシマトンネルというSF装置もさることながら、王道のボーイミーツガールとしてのストーリーラインもおもしろくて、ぐいぐい世界観に引き込まれる作品でした。

今回のあらすじ紹介ではごっそり省略しているエピソードもあるので、気になった方はぜひ小説を読んでみてくださいね。

※特に大人になったあんずをトンネルへと走らせるきっかけにもなった川崎小春のエピソードがよかったです

 

劇場アニメ情報

制作チーム

  • 【監督】田口智久
  • 【制作】CLAP

公開日

2022年夏公開

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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