切ない・泣ける

『今夜、世界からこの恋が消えても』あらすじネタバレ解説|感涙の結末【映画原作小説】

一条岬『今夜、世界からこの恋が消えても』を読みました。

一日ごとに記憶がリセットされてしまう恋。

もはや定型ともいえるこのテーマはわかりやすく《泣ける物語》である反面、薄っぺらいお涙ちょうだいになってしまっているケースも散見されます。

そのため「大丈夫かな?」とちょっと心配しながら読み始めたのですが……やられました。

ぱんだ
ぱんだ
どしたの?

切なすぎる……!!!

くわしくは記事後半の感想に回すとして、少なくともわたしはこの本を読みながら何度も目頭が熱くなりました(特に終盤)

今回はそんな小説『今夜、世界からこの恋が消えても』のあらすじがよくわかるネタバレ解説(と感想)をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

僕の人生は無色透明だった。日野真織と出会うまでは――。

クラスメイトに流されるまま、彼女に仕掛けた嘘の告白。

しかし彼女は「お互い、本気で好きにならないこと」を条件にその告白を受け入れるという。

そうして始まった偽りの恋。

やがてそれが偽りとは言えなくなったころ――僕は知る。

「病気なんだ私。前向性健忘って言って、夜眠ると忘れちゃうの。一日にあったこと、全部」

日ごと記憶を失う彼女と、一日限りの恋を積み重ねていく日々。

しかしそれは突然終わりを告げ……。

(文庫裏表紙のあらすじより)

小説のPV

初恋

まずは上記あらすじをふりかえりつつ、物語序盤の流れを追っていきましょう。

主人公の名前は神谷透。高校二年生。

透はどこか冷めた雰囲気の地味な男子なのですが、前の席の生徒へのいじめをやめさせようと行動し、なぜか可愛いと評判の女子に告白する流れになってしまいます。

※いじめっこはフラれる神谷を笑いものにしたかった

告白の結果はまさかのOK。

ただし、奇妙な条件つきでした。

  1. 放課後まではお互い話しかけないこと
  2. 連絡のやりとりは簡潔にすること
  3. お互い、本気で好きにならないこと

透が告白したのは、あくまでいじめを止めるためです。

告白した女子……日野真織にはあとで事情を話して、謝って済ませるつもりでした。

けれど、自分でもよくわからない気持ちに突き動かされ、透は真織との恋愛ごっこを続けていきます。

真織はいつも笑顔で、自然と周囲を明るくさせるような女の子です。

透が真織を好きになるまで、それほど時間はかかりませんでした。

恋を嘘に出来なくなっている自分に気が付いた。

透は告白し、そして真織の秘密を知ることになります。

「前向性健忘って言って、夜眠ると忘れちゃうの。一日にあったこと、全部」

真織は記憶障害という深刻な問題を抱えていました。

あらためて「つき合うにあたっての3つの条件」をふり返ると、腑に落ちます。

放課後まで話さないのは、記憶障害という状況を受け入れるのに時間が必要だから。

メッセージアプリなどで頻繁に連絡を取らないのは、前日から地続きの話題についていけないから。

本気で好きにならないのは……真織にしてみれば毎朝「わたしには彼氏がいます」と書かれている日記に驚いているわけで、どう考えてもまともな恋愛なんて不可能だからです。

病状を告白したことで、真織は楽しかった恋人ごっこも終わりになるのだろうと覚悟しました。

しかし、透は言います。

「記憶障害について僕に話したことは、書かないでおいてくれ。それとあわせて、僕が君を好きになっていることも」

ぱんだ
ぱんだ
おお!?

透は記憶障害のことを知らないフリをして、これからも真織と恋人ごっこを続けていくのだといいます。

真織にとっては病気について告白してしまった後悔や不安が消えるわけでいいこと尽くしです。しかし、透にとっては本当の恋心を押し殺してつき合い続けることになるわけで……。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「なんだかそれって、私にばかり都合がよくない?」

「そんなことないよ。僕は……」

ほんの短い間のうちに、この身を組み替えてしまったもののことを思う。

僕にとって、好きという気持ちは不可解なものだった。クラスの中で恋愛の話を耳にすることもあったけど、それは自分とは遠い世界の出来事だと思っていた。

それが今、自然に、なんでもないように彼女のことを好きになっている。

笑う顔が、下らないことを言うところが、自分らしく振舞いながらも人を気遣っているところが、好きだった。好きの理由は言い足りない。初恋に戸惑ってすらいる。

でも――そんな想いを改めて伝えてどうする。日野の負担にしてどうする。

「僕は、日野と付き合うまで、毎日がつまらなかったんだ。だから擬似彼氏でもいいから一緒にいられるんなら……。今日のことは全部、なかったことにすればいいんじゃないかと思ってさ」

透に言われたとおり、真織は病気について話したことも、告白されたことも、日記には書かずに忘れました。

好きの記憶

朝が来るたび、真織は「昨日事故に遭った」という認識で目覚めます。

しかし、実際には事故が起こったのはもう数十日も前の話で、カレンダーの日付は「いつのまにか」未来にジャンプしています。

壁の貼り紙。日記。スマホに記録しているメモ、写真、動画。

真織は毎朝、時間をかけて自分を取り巻く情報を受け止めます。

せっかく進学校に入学して特進クラスにも入れたというのに、勉強にはもうついていけません。

いいえ。勉強だけじゃなくて、何を努力しても無駄、何も積み重ねられないという現実は真織を深く絶望させます。

けれど、日記を開いてみると《昨日の私》はとても楽しそうに一日をふり返っていました。

どうやらそれは会ったこともない《彼氏くん》のおかげらしい、と真織は気づきます。

自転車に二人乗りしてみたり、彼氏くんの家でおいしい紅茶を飲んだり、一緒に夏祭りに出かけたり……。

限られた「今日」という一日を、日記の中の《真織たち》はいっぱいの楽しい思い出で埋め尽くしていました。

ある日、真織はふと思います。

私はひょっとして、彼のことを好きになりかけているんだろうか。

ぱんだ
ぱんだ
おお!

ハッピーな雰囲気なところ申し訳ないのですが、ちょっと待ってください。

冷静に考えてみると、これはちょっと変な話です。

だって、真織にとって透はいつでも「初対面の男子」なのですから。

いくら日記に書かれていたとしても、情報だけで見ず知らずの(特にイケメンでもない)男の子を好きになったりするものでしょうか?

ぱんだ
ぱんだ
うーん……

ここからちょっとだけ遠回りして話をしますね。

記憶には知識として蓄えるものの他に、自転車の運転のように感覚的に覚えるものもあって、これらは手続き的記憶と分類されています。

真織は中学の頃は美術部でした。透に勧められてクロッキー(速写)を続けてみると、体が感覚を覚えているということなのか、日を重ねるにつれどんどん上達していきました。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

ここで話は真織の恋心に戻ります。

はたして真織の透への気持ちは、毎日ゼロにリセットされているのでしょうか?

記憶が消えても絵が上達していくように、好きという感情も心身のどこかに積み重なっている、という可能性もあるのではないでしょうか。

真織の親友であり、ふたりの日々を誰よりも近くで見守っていた綿矢泉は次のように観察しています。

記憶は蓄積していないはずなのに、真織は以前よりも早く神谷との関係に馴染み、笑顔を交わしているように見える。(中略)好きの感覚も、真織の中で引き継がれているのだろうか。

事情を知らない人々にしてみれば、真織と透はただの仲の良いカップルにしか見えなかったでしょう。

実際、つき合って数か月も経った頃には両想い(片想い×2)だったわけですし。

ただし、ふたりがお互いの本当の気持ちを知ることはもうありません。

「透って、私のこと好きだったりする?」

乙女心とわずかな期待を含んだ真織の問いに、透はこう答えます。

「大丈夫だよ。僕は、日野のことを本当に好きになったりしないから」(※)

※恋愛ごっこを続ける(真織のそばにいる)ためには本気で好きになってはいけない、という約束があるため

真織の寂しそうな笑顔の裏側には気づかないまま、透は決意をあらたにするのでした。

(彼女を好きになったことに後悔はない。この想いは実らなくても……いいんだ)

ぱんだ
ぱんだ
もどかしい!

ネタバレ

季節は巡り、透たちは三年生に進級しました。

真織の記憶障害のことは学校側に伝えてあります。配慮によって真織と透は同じクラスになり、それまで以上に笑顔あふれる日々を過ごすことができました。

そして、卒業の日がやってきます。

ぱんだ
ぱんだ
展開が早い!

透は市役所に就職。泉は大学に進学。真織は絵の教室に通ったりしながら、記憶障害の快復を待つことになりました。

※前向性健忘の治療方法はなく、自然快復を待つしかありません。

真織の病状は事故に遭った高校二年生の四月(※)から少しも前進していません。

※透と出会う約1か月前

けれど、泉は明るい未来の到来を予感していました。

なぜならこの2年間、透がいつも真織のそばにいて、ずっとずっと笑顔にし続けてきた事実を知っているからです。

一度、泉は透に尋ねてみたことがあります。

「好きだからって他人のためになんでもできるの?」

透は答えました。

「今、純粋に日野との日々が楽しいんだ。少しの無理をしてでも出来ることがあるなら、それをしたいと自然に思える。日野が僕を驚かせて、見直させてくれる。こんな僕でも、少しでもいい人間になりたいと自然に思わせてくれるんだ」

そう話す透は、真織と出会う前とはまるで別人のように生き生きしています。

一見すると透ばかりが真織を支えていているような関係に思われますが、透は透で、真織からたくさんのいい影響を受けていました。

父親との確執を解消できた(※)のも、真織と出会ったおかげだと透は考えています。

※とてもいいエピソードがあったのですが、長くなるので割愛。

お互いが、お互いにとって必要不可欠な存在。

記憶障害という重い荷物を背負ってなお有り余るほど、透と真織は理想的な恋人同士であり、人生をともに歩んでいけるパートナーなのだと、高校生活を通して泉は確信していました。

※以下、小説より一部抜粋(泉視点の一節)

…………

もう真織は本当に大丈夫だろう。

朝目覚めて現実に、自分の状態を認識するよう迫られても。

そんな状態でも高校に通い続け、卒業したという事実があれば。

過去の自分と今の自分を繋ぐ、日記があれば。

毎日クロッキー帳に向かい、今の状態でも絵の技術を進歩させている自分がいれば。

以前のように毎日は会えないだろうけど、神谷がいれば。

暗転

まるで「この後はハッピーエンド」みたいな雰囲気で前項を締めくくりましたが、残念ながらそうはいきません。

起承転結でいえばようやく「承」が終わったところです。この後には「転」が待ち構えています。

いったい真織の身になにが起きるのか……事件を予感しながらページをめくると、予想だにしていなかったセリフが目に飛び込んできました。

「僕、心臓があまり良くないかもしれなくて」

ぱんだ
ぱんだ
えっ!?

伏線はありました。母親が病死していること。瘦せすぎな体つき。「虚弱」という言葉が使われた場面もありました。

けれど、まさか透が……。

透によれば心臓が弱いといっても致命的な状態というわけではなく、検査でも異常は見つからなかったのだといいます。

だから、泉に「心臓が良くないかもしれない」と打ち明けたのは保険というか、万が一に備えてのことであり、決して入院するとか手術するとか、そういう話ではありませんでした。

それなのに……

神谷透が心臓突然死で亡くなったのは、その翌日の夜のことだった。

ぱんだ
ぱんだ
……えっ?

神谷透は心臓突然死により亡くなります。

あまりにも突然すぎる、そして早すぎる終わりでした。

訃報を耳にした泉は、前日聞かされたばかりの透の《遺言》を思い出します。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「もし僕が死んだら、日野の日記から、僕のことを消去してほしいんだ」

あらゆる言葉が意識から消え去り、ただ、目の前の優しい男を眺める。

神谷が、死んだら……。

「とは言っても、日野は日記をノートに書いてる。重要なことをまとめてる手帳も別にあるみたいだ。だから単純に消すんじゃなくて、ノートパソコンに手帳や日記の中身を移し変えて、僕のとこだけ削除するっていう面倒なものなんだけど」

そこまで神谷が続けた時、私の中から大きな感情と、それに伴った大きな声が出た。

「な、何それ。何それ」

恐れるように神谷の目を見ると、そこだけ切り取られたかのように澄んで静かだった。

「大事なことなんだ」

「私は、そんなことやりたくない。自分でやったらいいよ」

「そうだね。本当にそうだ。ごめん、変なこと言って。でも、聞いてほしいんだ」

「やだ」

私が駄々をこねるように拒んでも、神谷は苦笑しながらも言葉を続けた。

「僕は、記憶を失う前の日野との関りはほとんどないから。だから……もし僕が死んでも、日記に僕が登場しなければ、それは日野の中でなかったことに出来る」

「確かに、出来るかもしれないけどさ。神谷、あんたはそれでいいの?」

恋人の中から自分が完全に消えること。そんなこと、望む人間なんているだろうか。

神谷は私の顔を見て笑った。悲しく、笑った。

「僕はそれでいいと、思ってる。別れたことにしてもいいけど、日野は探そうとするかもしれない。それで僕の死を見つけるのは、精神的にもよくない気がする。だったら、少し手間をかけてしまうけど、最初からいなかったことにすればいいじゃないかって。僕との関係はなかったことにすればいいじゃないかって、そう思ってさ」

ぱんだ
ぱんだ
そんな……

消えた記憶

透の死は真織を深く深く絶望させました。

一晩眠って記憶がリセットされても、日記を読めば「彼氏くんの死」に直面することになります。

来る日も来る日も、真織は会ったこともない透の死に涙を流し続けました。

「なんで、だろう。おかしいよね。私、その人のこと記憶にないはずなのに。おかしいよね。涙が、涙が止まらないや。顔だって、写真でしか、知らないのに。やり取りだって、日記でしか、覚えてないのに。なのにさ、おかしいよね」

前向性健忘には、うつ病を併発するケースが少なくないといいます。重度のものになれば、最悪、自ら命を絶つ危険性もあるそうです。

それだけは避けなければならない……。泉は透に託された《遺言》を実行しました。

日記を書き換え、スマホを新しいものと交換し、真織の過去から神谷透の存在を消したのです。

※以下、小説より一部抜粋

…………

それ以降、真織の日課はノートパソコンを見ることになった。

データ化された以前の手帳の記述や日記を読み、自分の日々をそこに新たに打ち込んでいった。

それが以前からの習慣だと真織のお母さんにも話してもらった。

入れ替えた翌日に会うと、真織は透の死を知らないのに辛そうにしていた。自分の体調がどうして悪いのか、分かっていない様子だった。

(中略)

それから二日、三日と経つうちに真織は徐々に回復していった。

人間の自然治癒力を、嬉しくも悲しくも思う。

(中略)

(卒業後の)四月末のある日、天気がいいので公園を真織と二人で散歩する。

そこは透と真織が初めてデートした場所であり、高校三年生になる前の春休みには三人でお花見をした場所でもあった。真織がそこに行きたいと希望したのだ。

桜が完全に散ってしまった公園を歩きながら、真織が言葉を探すように言う。

「なんだろう……何か、とっても大切なことを忘れている気がするんだけどさ。思い出せないや。ま、当たり前か。毎日、その日の記憶がなくなっちゃうんだもんね」

ぱんだ
ぱんだ
せつない……

知らない彼女の、知らない彼

真織の記憶障害が治ったのは、高校卒業(透の死)から約一年後の四月のことでした。

真織は大学進学を目指し、予備校に通い始めます。

記憶がちゃんと積み重なる日常のなか、真織は本棚の裏に隠されていたクロッキー帳を見つけました。

ページを開くと、見知らぬ男の子の絵が描かれていた。

心臓がどくどくと早鐘を打つ感覚。それが記憶障害の期間に出会った、なにか特別な人だということはすぐにわかりました。

「ねぇ、これって誰なのかな?」

クロッキー帳を発見した本棚の裏は、昔から真織が「大切なもの」を隠すのに使っていた場所でした。

そこに描かれていた男の子は、決して他人なんかじゃない。そう確信する真織にはもう嘘をついても無駄だと悟り、泉は答えます。

「真織、その人はね……真織の恋人だったの。でも、でもね、その人はもう……この世にはいないの。死んじゃったの」

泉は真織の本当の過去を語り、日記や手帳もすべて手渡しました。

それからは透を《思い出す》ための日々が始まります。

日記や手帳を読んでも、真織は透の顔だけは決して見ようとはしませんでした。

それだけは自分で思い出すべきだと、真織は強く決心しています。

受験勉強の合間を縫っては、かつてのクラスメイトや、透の家族……神谷透を知る人たちに話を聞いてまわりました。

そして、一年後。

大学に合格したその春、真織は再び桜の季節の公園へと足を運びました。

 

『明日の日野も、僕が楽しませてあげるよ』

ふとした瞬間、記憶の底から声が、浮かび上がってきました。

『日野の名前を呼ぶたびに、なんだか楽しい気持ちになるんだ』

最初はぼんやりと、けれど、少しずつ鮮明に。彼の声が、姿が、笑顔が、再生されていきます。

『日野のことを、好きになってもいいかな』

じわり、と涙がこみあげ、視界がにじみました。

※以下、小説より一部抜粋(真織視点)

…………

「声かけて、大丈夫?」

その声に振り向くと、泉ちゃんが心配そうに私を見ていた。

私は唇を強く結んだ。そうしないと瞳に張られたものが溢れてしまいそうだった。

「うん、ありがとう。今……今ね。私、何かを思い出しかけたんだ」

「そう」

「誰かの声が、聞こえてね。その人が、笑っていて。明日の私も、その人が、楽しませてあげるって。そう、言っていた気がした」

それが誰かということは、確認しなくてもすぐに泉ちゃんには分かったみたいだ。

彼女は苦しげに視線を下げ、私は反対に笑ってみせる。だけど声は震えていた。

「私は、何も覚えてない。でもね、生きるよ。それでいつか、全部、思い出してみせる」

「うん」

「大切なものは、全部、自分の中にあるから。その大切なものを、全部、全部、思い出してみせる。必ず。私は、私は……」

知らず、私は片手で顔を覆っていた。

どんな悲しみも、いつか人は忘れる。傷は、いつまでも痛むものではない。

そういった(透の)お姉さんの言葉を思い出しながらも、痛み続ける限りは泣こうと、そう思った。それでいいんだ、泣き虫でもいいんだ。

すべて自分のものだ。悲しみも、痛みも、喜びも、思い出も、全部、全部。

そう思ってまた、私は泣いた。

結末

三年後の春。真織と泉は桜咲くあの公園に足を運んでいました。

真織は大学四年生。泉は社会人になっています。

「そういえば、どう? あれから……」

真織はまだ透を思い出そうとしています。その進捗を尋ねる泉に、真織はクロッキー帳を差し出しました。

すっかり上達した絵のなかに《それ》を見つけて、泉は思わず立ち止まります。

 

『クロッキー帳の中には、透がいた』

過去に真織が描いていたものではありません。何枚も何枚も書かれている透の顔は、たしかに新しく描かれたものでした。

呆然とする泉の隣で、真織もまた動きを止めていて……。

「泉ちゃん、ごめん、ちょっとクロッキー帳返してもらっていい?」

真織はその場でクロッキー帳に鉛筆を走らせ始めました。

満開の桜の下、迷いのない線が懐かしい輪郭をなぞっていきます。

それはどんな映像や写真にも残っていない、隣にいた人にしか描けない透の絵でした。

※以下、小説より一部抜粋(泉視点)

…………

「また透くんのこと思い出せたよ。でもきっと、まだ全部を思い出したわけじゃない」

鉛筆を動かしながら真織が言う。深い息が、その口から漏れた。

「私が好きだった彼は、もう……いない。だけどその記憶は、ちゃんと私の中にある。体に、心に眠ってる。思い出すことで、一緒に生き続けることが出来る。それは上手く言えないけど、希望みたいなものに違いないと思うんだ。世界は徐々に、彼を、透くんを忘れていってしまう。それでも」

見ると真織の瞳から涙が滴っていた。それを拭うと、また真織は描き始める。

「なんで泣いてるんだろうね。まだ痛むのかな。でもね、暖かくもあるの。私は多分、今でも彼が好きなんだ。だけど大丈夫。いつかまた、ちゃんと愛する人を作るから。ちゃんと、自分の幸せに手を伸ばすから。でも、それまでは、もう少しだけ……」

私は何かを言いたかったが、言葉は今は必要ないのかもしれない。

この失われていくばかりの世界で、透はちゃんとそこにいた。

真織の中で、透は生き続けていた。

そして真織の記憶の中でアイツは、あんな顔をしていたんだ。

 

真織が描いた透は、どれも笑っていた。

優しい顔で真織を見守り続けたあの日のままに、今もそこで笑っていた。

<おわり>

感想

まさか透が亡くなるだなんて、思ってもみませんでした。

最後は真織の記憶障害が治ってハッピーエンド。あるいは、悲劇になるにしても真織の身になにかが起こるものと思い込んでいました。

だから、物語をひっくり返す《あのセリフ》を読んだときには、それこそ後頭部をガツンと殴られたかのような衝撃がありました。

「僕、心臓があまり良くないかもしれなくて」

透が物語から退出すると、一人称視点は二人を見守ってきた泉に引き継がれます。

泉の主観なので、透が亡くなってからの真織の心中は直接は描かれません。

真織の一人称にすればどれだけ悲しんだか、そしてどのような気持ちで透を思い出そうとしていたのか、ダイレクトに訴えることができたはずです。

しかし、それではあまりに《クドイ》というか、あからさまに涙を誘っているような格好になってしまいます。

言い方はアレですが、そういった「安直なお涙ちょうだい」に走らない作品だからこそ、わたしは感動できたのだと思います。

物語のラストシーン。真織が記憶の中の透を描く場面。

もう透のいない世界で、それでも奇跡のように透を思い出せている……この情景には感情がかき乱されました。

涙がこみ上げたのは、けれど悲しみのためではありません。

《嬉しい》に似て非なる気持ち。

《切ない》に似て非なる気持ち。

こういう表現が正しいのかわかりませんが、わたしにとってそれは《良質な感動》でした。

「青春。恋愛。病気……ははぁ、さては泣かせるやつだな?」と軽く考えていた自分の頬をぶってやりたい気持ちです。

いわゆるライト文芸と分類される作品群にも、十代ならぬ(いい年をした)わたしが心から感動できる小説がまだまだあるものだなぁ、と認識を改めました。

※透の父親が葬儀で流していた涙につられて泣いたのは、むしろ年のせいかもしれません。主人公たちの親世代に共感しがち。

ぱんだ
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まとめ

今回は一条岬『今夜、世界からこの恋が消えても』のあらすじネタバレ解説(と感想)をお届けしました!

実は《第26回電撃小説大賞 メディアワークス大賞 受賞作》という肩書きもある本作。

「もうこの手の泣ける系はいいかな」と思っている大人のみなさんにも自信を持ってオススメできる作品です。

ぜひ小説を読んで、あの言語化できない嬉しいような切ないような感動を体感してみてくださいね。

 

映画情報

キャスト

  • 道枝駿佑(なにわ男子)
  • 福本莉子

公開日

2022年7月29日公開

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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POSTED COMMENT

  1. 絶対的道枝駿佑様信者 より:

    私は、映画を見る予定なんですが、超絶道枝駿佑様オタクなんで、
    みっちーがこの、「神谷透」を演じるとなると、映画館で
    号泣しそうWWこれを読んだだけでもなきました!
    絶対いますぐこの本買う!!!!!!!!!!!!

    • わかたけ より:

      >絶対的道枝駿佑様信者 さん

      熱量が伝わってくるコメントをありがとうございます!
      道枝駿佑さんを通じて作品に出会うって素敵ですね。
      映画も楽しみです(^^♪

  2. 小説好き より:

    コメント失礼します!
    僕もこの作品を読みましたが、終わり方が全く予想とは異なり本当に驚かされる作品でした。
    透の「僕、心臓があまり良くないかもしれなくて」この文字を見た時に文字通り一瞬動きが止まってしまいました笑
    今まで読んだ泣ける系の作品は正直展開が読めてしまってお涙ちょうだいみたいな風に感じてしまう作品もあったんですけどこの作品は今までの中でも上位に食い込むくらい好きな作品になりました!
    ですが、個人の意見としては真織と透の2人が本当に好きだったので、最後はもう少し思い出してもいいんじゃないかな?と思いました。

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