乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』を読みました。
この二冊は《読む順番で結末が変わる》仕掛けになっている意欲作です。
並行世界をテーマにしたSFの世界観ですが、本質的にはラブストーリーになっています。
ふたつの物語はそれぞれどのような結末を迎えるのか?
どちらから読むのがおすすめなのか?
今回は『僕愛』『君愛』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします!
「おすすめの読む順番」まではネタバレなしです。ご安心ください。
Contents
あらすじ
僕が愛したすべての君へ
人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された時代――両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦は、地元の進学校に入学した。
勉強一色の雰囲気と元からの不器用さで友人をつくれない暦だが、突然クラスメイトの瀧川和音に声をかけられる。
彼女は85番目の世界から移動してきており、そこでの暦と和音は恋人同士だというのだが……並行世界の自分は自分なのか?
『君を愛したひとりの僕へ』と同時刊行
(文庫裏表紙のあらすじより)
君を愛したひとりの僕へ
人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された世界―― 両親の離婚を経て父親と暮らす日高暦は、父の勤務する虚質科学研究所で佐藤栞という少女に出会う。
たがいにほのかな恋心を抱くふたりだったが、親同士の再婚話がすべてを一変させた。
もう結ばれないと思い込んだ暦と栞は、兄妹にならない世界に跳ぼうとするが…… 彼女がいない世界に意味はなかった。
『僕が愛したすべての君へ』と同時刊行
(文庫裏表紙のあらすじより)
二作品の違い
『僕愛』が母親のもとで育った世界線であるのに対して、『君愛』は父親のもとで育った世界線になっています。
それぞれの作品ではヒロインも違っていて、『僕愛』では瀧川和音、『君愛』では佐藤栞との物語が展開されていきます。
ストーリーはそれぞれ全然違っているのですが、実は裏ではリンクしている部分もあって、どちらも読むことで意味がわかるような仕掛けが施されています。
どっちから読む?
結論
わたしは『僕愛』→『君愛』の順番で読んだのですが、正直、ちょっと後悔しています。
逆だったな、と。
なので個人的には先に『君を愛したひとりの僕へ』から読み始めるのがおすすめです。
とはいえ、もちろん『僕が愛したすべての君へ』から読み始めてこそのおもしろさというものもあります。
読む順番によって読書体験がどのように変化するのか、ここからはネタバレを回避しつつ、もう少しくわしくお伝えしていきたいと思います。
読む順番でどう変わる?
最初、わたしは『僕愛』と『君愛』の関係性を【50:50】だと思っていました。
つまり、『僕愛』の物語のなかに『君愛』に影響する場面があって、逆も然り。相互に影響しあっているのかな、というイメージでした。
ところが、実際にはそのイメージは間違っていました。
2つの作品の関係性をシンプルに表現すると『君愛』が原因で、『僕愛』が結果です。
ネタバレを回避するため少しあいまいな表現をしますが、『僕愛』の物語を100%楽しむためには『君愛』を読む必要がある……そんな構造です。
この仕掛けによって、
先に『僕愛』から読み始めた場合は後から意味がわかる驚きを楽しめる。
先に『君愛』から読み始めた場合は順当に『僕愛』に隠された真のストーリーを楽しめる。
といった具合に異なる読書体験を味わえるようになっています。
ただし、ここで注意したいのは『僕愛』から先に読み始めた場合です。
前述の仕様上、まるまる一冊が起承転結の《起承》にあたるため、単体では伏線が張られるだけ張られて何も回収されないという事態になっています。
正直、小説を一冊読んだ満足度としては低かった、と言わざるを得ません。
もちろん、そのぶん後半である『君愛』がより楽しめるという話ではあるのですが……。
繰り返しになりますが、わたしは『君を愛したひとりの僕へ』から読み始めることをおすすめします。
この場合、起承転結は『君愛』で完結していて、『僕愛』は長いエピローグという位置づけになります。
ここからはネタバレを解禁してより具体的に物語の内容を紹介していきます。
「ネタバレ大丈夫だよ!」という方はどうぞ引き続きお付き合いくださいませ。
『僕が愛したすべての君へ』
『僕が愛したすべての君へ』の物語は一行で説明できます。
「高崎暦と瀧川和音は幸せな恋愛をして、幸せな結婚をする。ときには不安になることもあったけれど、暦は最愛の妻と子、孫たちに囲まれて幸福のなか人生を終える」
以上です。
良くも悪くも『僕愛』の物語はこれ以上でも、これ以下でもありません。
たとえば、あらすじには次のような紹介文が含まれていましたね。
彼女は85番目の世界から移動してきており、そこでの暦と和音は恋人同士だというのだが……
いかにもSFっぽい展開ですが、実はこれは和音の自作自演。
暦に一泡吹かせるためのドッキリだった、という真相でした。
もともとは成績トップの暦に対する当てつけみたいなものだったのですが、なんやかんや急接近したふたりは高校卒業後につき合い始め、やがて結婚します。
小説は
- 幼年期
- 少年期
- 青年期
- 壮年期
- 終章(老年期)
という章立てになっていて、70歳を過ぎて余命わずかな暦の姿まで描かれていました。
並行世界のルール
ここで簡単に『僕愛』『君愛』に共通する並行世界のルールについて説明しておきましょう。
まず前提として、並行世界は1つだけではなく無数にあると考えられています。
自分が生まれた世界を《000》として、ひとつ隣の並行世界は《001》の世界です。
隣り合った0番目の世界と1番目の世界ではほとんど同じことが起きていて、朝食がパンだったかご飯だったかくらいの違いしかありません。
一方、番号が二桁を越えると大きな変化もみられるようになります。たとえば、恋人が別の人になっていたり……とかですね。
和音は狂言として「《085》の世界から来た」と嘘をつきましたが、《085》なんてめちゃくちゃに離れた番号にもなると、そもそも暦と和音が出会っているかも怪しいものです。
次に、並行世界間の移動について。
並行世界への移動(パラレル・シフト)には大きく分けて2つの種類があります。
- 自然発生的な移動
- 人為的な移動
『僕愛』の世界では1~3くらいの近い番号の並行世界には日常的に(自然現象として)移動していると考えられています。
並行世界への移動とはいえほとんど同じ世界への転移ですから、本人はシフトに気づきません。近い世界へのシフトは数分ほどで終わり、自然に元の世界に戻るので、なおさらですね。
一方、運悪く遠くの世界にシフトしてしまった場合。本人は違和感からすぐに転移に気づくでしょう。また、遠くの世界への転移では元に戻るまでに時間がかかります。
こうした並行世界のルールは暦たちの成長とともに研究が進んでいきます。
最初は並行世界の存在を発見しただけで大騒ぎでしたが、やがては能動的な並行世界移動(オプショナル・シフト)だってできるようになっていきます。
並行世界研究の分野は『虚質科学』と名づけられました。
何を隠そう暦の父親は世界最先端の虚質科学研究所のNo2であり、暦自身もやがて虚質科学研究者への道を歩んでいきます。
……とまあ、ここまでは前置きでして。大事なのはここからです。
並行世界への移動とは、つまり並行世界の自分と入れ替わるということです。
暦が《001》の世界にいるとき、《001》の暦は《000》の世界にいます。
なお、このとき入れ替わっているのは精神だけです。
《001》へのシフトとは、《001》の体に《000》の精神が入ることを意味しています。
そして、もうひとつ。
パラレル・シフトでは時間の壁は超えられません。
行き先は常に同じ時間の並行世界であり、過去や未来にシフトすることはできないのです。
並行世界の自分は自分なのか?
並行世界の存在が明らかになっていくなか、暦たちは特有の問題に頭を悩ませることになります。
並行世界の自分は、自分と同一人物なのか?
前述のとおり《000》と《001》の世界にはほんのささいな違いしかありません。
それはたとえば高崎暦という個人に注目しても同様で《000》の暦と《001》の暦とでは過去や記憶を含めて99,99%同一人物だと言って差し支えないでしょう。
けれど、それはあくまでも理屈です。
想像してみてください。大好きな恋人と初めての夜を迎えるとき、もしも相手が《001》からシフトしてきた恋人だったら?
頭では同一人物だとわかっていても「この人じゃない」という迷いが生まれるはずです。
また、もし自分が納得できたとしても、本来の(000の)自分の恋人が《001》の自分と一線を越えるのは許せない、という気持ちが芽生えるかもしれません。
並行世界の自分に嫉妬する、というのも妙な話ですが。
暦たちはまさにこの問題によって初体験を一度見送ることになりましたし、結婚式当日にどちらかがシフトしてしまったらどうするのか、という繊細な問題にも直面しました。
悩み抜いた末に、暦はひとつの答えを出します。
「僕たちはお互い、相手の可能性すべてと結婚するんだ。僕は、和音のすべてを愛したい。和音にも、僕のすべてを愛してほしい」
並行世界とは「そうなっていたかもしれない可能性の世界」です。
その可能性ごと、つまり並行世界のすべての和音までもを愛すると決意することで、暦は理屈では割り切れない心のモヤモヤを振り払いました。
物語のラスト。暦は73歳になっていて、その隣には和音が立っています。
暦はガンで余命宣告されているものの、最後の時間を最愛の孫、子どもたち、そして和音に囲まれて過ごせることに心から幸せを感じていました。
すっかりおじいちゃんになった暦は、やはりすっかりおばあちゃんになった和音にしみじみと告げます。
「僕が愛したすべての君へ、この喜びを伝えたいんだ。君がいてくれたから、僕は今、こんなに幸せですって」
そして、物語は(意味深にも)次のような暦のモノローグで締めくくられました。
※小説より一部抜粋
…………
どこか遠くの、並行世界のすべての僕へ。
和音じゃない誰かを愛した、ひとりひとりの僕へ。
君が和音以外の誰かを愛してくれたから、僕は和音を愛することができた、
ありがとう。心からの感謝を。僕は今、とても幸せです。
そして、僕じゃない僕を愛してくれた、和音じゃない誰かへ。
感謝と同じだけの、祝福を。
どうか君と、君の愛する人が、世界のどこかで幸せでありますように。
<おわり……?>
『君愛』への伏線
『僕愛』のラストには明らかに『君愛』への伏線だとわかる場面がありました。
73歳の暦はその日、設定した覚えのないスケジュールに従って、待ち合わせ場所へと向かいます。
8月17日、午前10時、昭和通り交差点、レオタードの女
「レオタードの女」というのは交差点に設置されている銅像の名前です。
日時の指定は待ち合わせのようですが、誰かと約束した覚えはありません。
8月17日、午前10時、昭和通り交差点。
暦はそこで二人の女性と出会います。
一人目は、横断歩道に立ち尽くしていた中学生くらいの女の子。
信号が赤になるのに動く様子はなく、暦は思わず声をかけました。
「こんにちは。君、そんな所でどうしたの? 危ないよ」
女の子は振り向くと言いました。
「迎えに来てくれたの?」
声かけに対する受け答えとしてはやや不自然な気もしますが、ともかく暦は横断歩道を渡るよう促すことにしました。
「うん、迎えに来たよ。だからおいで、一緒に行こう」
すると、どうでしょう。少女は嬉しそうに微笑んで、そのまま消えてしまいました。
何のことはありません。暦が並行世界にシフトしたのだと考えれば説明はつきます。
暦は腕時計型のIP端末で現在地(どの並行世界にいるか)を確かめようとするのですが……。
『ERROR』
IP端末は壊れてしまったのか、《000》や《005》といった数字ではなく、エラー表示になっていました。
……と、ここまでが一つ目の出会いです。
先に言っておくと、結局、待ち合わせ相手らしき人物は現れませんでした。
だから、二人目の女性との出会いも偶然みたいなものです。
暦は引き続き交差点にいて、しかし、うっかり発作を抑える薬を落としてしまいます。
全身に痛みが走り、しかも車椅子に乗っている暦は地面に落ちた薬のケースに手が届きません。
あわや、このまま……。
大ピンチの暦を救ったのは、たまたま通りがかった老婦人でした。
「もしもし、大丈夫ですか!?」
老婦人に薬を拾ってもらって、暦は何とか一命をとりとめました。
そのままの流れで暦は老婦人と雑談に興じ……ふと、こんなふうに尋ねてみたくなりました。
「あなたは、今……幸せですか?」
突然の質問に、しかし老婦人は微笑んで答えます。
「ええ、幸せですよ」
なんてことない、老人同士の世間話。これが二人目の女性との出会いです。
待ち合わせに誰も来ないことを確認した暦は、しかし上機嫌で家に帰ります。
愛する妻が待つ家へ……。
一度、まとめますね。
- 設定していないスケジュールの謎
- 交差点の女の子の謎
- 最後に出会った老婦人は誰なのか?
これら3つの謎は『僕愛』単体を読んでも解明できません。
すべての謎は『君愛』の物語からつながっています。
『君を愛したひとりの僕へ』
まずは軽くあらすじをふり返っておきましょう。
この世界の暦は虚質科学研究者の父親のもとで育っていて、研究所所長の娘である佐藤栞(しおり)と恋に落ちます。
中学二年生。ふたりの関係は幼なじみ以上、恋人未満でした。
そんな折、親同士の再婚話が浮上!
兄妹になっては結ばれないと焦った暦と栞は、まだ未完成の装置を使って並行世界に駆け落ちしようとするのですが……。
一応補足しておくと両親が結婚しても血のつながりのない暦と栞は結婚できます。14歳のふたりはまだ知らなかったんですね。
交差点の幽霊
並行世界への逃避行は最悪のかたちで失敗しました。
栞は転移した世界で交通事故に遭い、いいえ正確にはその直前で元の世界に戻ろうとしたのですが、結果として精神(≒魂)が《世界の外》に放り出されてしまいました。
世界ひとつひとつをグラスに浮かぶ【泡】だと考えてみてください。並行世界へのシフトとは、泡から泡へのジャンプを意味しています。
ところが、栞の意識は泡を飛び出したまま、行き先の泡に入ることなく取り残されてしまいました。
すると、どうなるか?
第一に、もとの世界の栞の体は脳死状態になりました。
植物状態とは違って自発的な呼吸さえありません。医学の力で生命を維持にするにしても限界があり、半年延命することさえも難しいとされています。
では、虚質科学によって栞を救うことはできないのか?
答えは残酷にも「No」でした。
虚質科学はまだ発見されたばかりの分野であり、世界の狭間に取り残された魂に干渉する方法など見当もついていません。
暦がどれほど絶望したのかは語るまでもないでしょう。
生きる気力を失い廃人のようになってしまった暦を救ったのは、やはり栞の存在でした。
昭和通り交差点。
栞は交通事故に遭ったその場所で地縛霊のような存在になっていました。
誰の目にも見えず、誰にも声は届かず、触れることもできない交差点の幽霊。
ただ一人、暦だけはハッキリと栞の姿を見て、栞と会話することができました。
暦はなんとか栞の幽霊を生きる希望にして、栞を救出する実験に参加します。
人聞きの悪い言い方をするなら、暦は人体実験の被験者に立候補したといえるでしょう。
任意の並行世界への転移……開発中だったオプショナル・シフトの実験体として暦は名乗りを上げました。
無数の並行世界のなかには「幽霊になった栞を救出できた世界」があるかもしれません。
その世界に辿り着ければ、同じ方法で暦の世界の栞を助けられるはず……という理屈です。
1年……2年……世界的な権威である所長が手配した医療体制のおかげもあり、栞の延命に問題はありませんでした。
高校生になっても暦は毎日欠かさず交差点に出向き、栞と話し続けていて……そして……。
17歳の、ある寒い冬の日のことでした。
※以下、小説から一部抜粋
…………
ベッドの上の栞は、生命維持装置を外されていた。
「……栞?」
血の気のない栞の頬をなでる。
栞が教えてくれた、感じたくなかった温度差を、その頬の冷たさに感じる。
「ほんの、一時間前だ……栞の体は、心臓の鼓動を止めた」
俺の心臓も止まってしまえばいいのに。そう思った。
◆
ささやかな葬式を行い、栞の体を燃やした煙が煙突から流れるのを眺め、喪服代わりの学生服を着たまま交差点へ行くと、十四歳から全く変わらないままの栞の幽霊が俺を笑顔で迎えてくれた。
『暦くん。久しぶりだね……』
「うん。ごめん」
毎日栞に会いに来ていたのに、三日間も栞をひとりにしてしまっていた。
だけど仕方がなかった。
俺は栞に、栞の体がこの世から消えたことをどう伝えればいいのか、分からなかった。
『……暦くん、何か悲しいことがあったの?』
栞の優しい声がする。俺は何も答えられない。
『大丈夫だよ、暦くん。泣かないで。私がいるからね……』
半透明の手が、俺の頭をなでようとしてすり抜ける。
信号が変わり、横断歩道を人が歩き始める。
たくさんの人が、俺と栞の横を通り過ぎていく。
誰も、栞がそこにいることに気づかない。
栞が不幸にならない世界
10年後。27歳になった暦は虚質科学研究所の所員として働いていました。
革新的な論文をいくつも発表している暦はいまや虚質科学分野における注目株であり、研究所でも一人で研究に没頭することを許されています。
そんな暦の研究テーマはズバリ《時間移動》です。
暦が生まれた《000》の世界にはもう栞の肉体がありません。それでもまだ諦めないというのなら、残された希望は時間移動だけでした。
とはいえ、時間移動は不可能というのが虚質科学における常識です。そのため暦は表向きには別の研究成果を発表しつつ、一人だけで不可能の壁に立ち向かっていました。
そんな、ある日のこと。
暦は運命的な出会いを果たします。
「瀧川和音です。よろしくお願いします」
和音は虚質科学研究所に入所する期待の新人であり、暦の部下になるといいます。
暦は覚えていませんでしたが和音は高校時代の(交流のなかった)同級生でした。そしてこっちはあとで思い出すのですが、とある並行世界では暦と和音は恋人同士でした。
一方、この世界の和音はどうやら暦にライバル心を燃やしているようです。
暦は真の研究テーマ(時間移動)を打ち明け、和音を協力者として引き込みました。
それからさらに10年後。
暦はついに時間移動理論のヒントを掴みます。
しかし、それは和音(そして読者)のイメージしていたものとは大きく異なっていました。
「要するに、この世界に体だけ置いて虚質(≒魂)だけ過去の分岐点に戻って、そこから違う世界に融合してその世界を生き直すってこと?」
未完成の装置を二人同時に使ったからなのか、暦と栞の虚質は一部同化しているようでした。
そのため暦の虚質が過去へとさかのぼれば、栞の虚質も連動して時間移動して並行世界の肉体に宿るはず……理屈は通っています。
簡単にいえば、並行世界の過去から人生をやり直すというのが暦の計画ですね。
ただし、その場合《000》世界の暦の体は脳死状態になってしまいます。
そのことはもちろん、暦にもわかっていました。
「俺は栞が幸せになれる並行世界へ、この世界の栞の虚質を、魂を連れて逃げる。後のことは知らない」
ここで和音は驚くべき指摘をします。
「その方法で他の世界の自分に合流した場合、あなたや栞さんの虚質は並行世界の虚質と融合するんだから、記憶や人格はきっと残らないわよ。過去に遡った分だけ消えていって、合流したら後はもう他の世界の自分に任せるしかないわ」
読者にしてみれば寝耳に水の話です。人生をかけて恋人を救おうとして、もし成功したとしても記憶ごと消えてしまうなんて!
けれど、暦はもうとっくに覚悟を決めていました。
「それでいい。俺にとって栞は、この世界で出会った栞だけだ。その栞を不幸にした俺が許せない。不幸にした出会いが許せない。栞が幸せになれないこの世界が許せない。だから、この世界の俺と栞の魂が、違う世界でやり直せるならそれでいいんだ」
ずいぶんと身勝手な言い分でした。残された暦の両親や、ここまで10年も研究につき合ってきた和音を置いてけぼりにするというのですから。
けれど……
※以下、小説から一部抜粋
…………
「君は、俺を許すのか?」
「許すも許さないもないわ。あなたが選んだあなたの人生なんだから」
「……それを言うなら、俺は君の人生を巻き込んで随分引っかき回してしまったような気がするんだけど」
「それは私が選んだ人生よ。それにね」
そこで和音は、ふっと遠くを見て。
「気が狂うまでに誰かを愛せるって、羨ましいわ」
そんなことを言って、笑うのだった。
確かに和音は、誰も愛しているようには見えないのだけど。
「ところで、栞さんが幸せになれる世界って、具体的にはどんな世界なの? 幸せの定義っていうのも難しいと思うけど」
「ああ、そうだな。絶対の幸せなんてものはないと俺も思う。けど、少なくとも栞をこの世界と同じ不幸にはさせない世界の定義なら分かってるんだ」
「へえ。その定義って?」
栞が不幸にならない世界の定義。
それはもう、ずっと前から分かっていた。
「俺と栞が、絶対に出会うことのない世界」
目指すべき世界の条件
「暦と栞が出会う」というポイントを通過すると、必ず「栞が幽霊になる」という結末に至る。暦はその残酷な真実(不可避の事象半径)にたどり着いていました。
栞が不幸にならない世界の最低条件は皮肉にも「暦と出会わないこと」だったのです。
暦と和音はさらに10年を研究に費やします。しかし、問題は山積みでした。
ありていにいえば、暦と栞は出会わずにはいられなかったのです。
両親の職場が同じ。年齢も同じ。住んでいる町も同じ。
たとえ幼少期に出会っていなくとも、人生のどこかで出会ってしまえばアウトです。
47歳の暦がいま転移したとして、その世界の栞と50歳で出会わないとも限りません。
つまり、転移後の未来がわからない限り「絶対に栞と出会わない」かどうかは暦には判別できないのです。
もはやここまでか……。
絶望的な状況の中、しかし暦は電撃的に閃きます。
「見つけた! 俺と栞が出会わない世界を探す手段を!」
思いついてみれば簡単な話でした。条件はたった一つだけです。
それは……
「寿命でも事故でもなんでもいい。とにかく、俺が栞と出会わないままに死にそうになるのを待つ。そうしたら、晴れてその世界は合格だ。その世界の過去に移動して合流すれば、俺は栞と出会うことなく死を迎える」
暦は並行世界の監視を始めました。
探し求めるのは、暦が栞に会わないままこの世を去る世界。候補のなかには、無意識でのことか、和音が隣にいる世界が少なくありませんでした。
それから20年以上が経過した、ある日のこと。
ついに《その時》はやってきました。
※以下、小説より一部抜粋
…………
とある世界の俺が余命を宣告された。
73歳。癌。余命6か月。
6か月はまだ長い。念のために俺は、もう少しその世界の俺の死期を待つ。
(中略)
決めた。並行世界の俺が、余命1か月を迎えるその日。
俺は、栞を助けるために過去へと沈む。
俺と栞が絶対に出会わない、俺が選んだその世界では、栞は俺と出会わずに幸せな家庭を築いていた。
俺は栞とは出会わずに……和音と結婚して、幸せな家庭を築いていた。
栞以外の誰かと結婚するなんて、と思ったけど、和音ならまぁいいか、と思った。
決行日を決めると、あらためて自分の人生が思い返される。
長い、長すぎる人生だった。
そして、何の意味もない人生だった。
妻もいない。子供もいない。自分が何のためにこの世界を生きてきたのか、さっぱり意味を見出せない。俺が唯一愛した人は、俺のせいでこの世界から消えてしまった。
だが、それももう終わりだ。
さぁ、世界を消し去ってしまおう。
こんな、愛する人のいない世界なんて。
結末
決行日前日、暦は昭和通り交差点へと足を運びます。
「お別れだ」という暦の言葉に、何も知らされていない栞は目を丸くしました。
『……もう会えないなんて、やだ』
分かってくれ。いやだ。不毛なやり取りが続きます。
本心をいえば、暦だって二度と栞に会えないなんて辛いに決まっています。
けれど、過去を変えなければ栞は何百年でも孤独なまま交差点に立ち続けることになるでしょう。暦がこの世を去った後も、いつまでもいつまでも……。それだけは許せません。
困り果てた暦は、栞と一つの約束を交わします。
「俺たちが新しく生きる世界で、今から1か月後の8月17日。俺は、この交差点に栞を迎えにくる。そこで俺たち、もう一度会おう」
約束とは名ばかりの賭けでした。
8月17日は宣告された余命を過ぎた期日でしたし、なにより新しい世界の暦は栞との記憶も過去も約束も、なにも覚えてはいません。
暦はこのあと《新しい世界》の暦の予定に例の文章(「8月17日、午前10時、昭和通り交差点、レオタードの女」)を入れることになるのですが、それだって「ボケて入力でもしたか」と消されてしまえばそれまでです。
けれど、それでも、暦は約束せずにはいられませんでした。
※以下、小説より一部抜粋
…………
「向こうの世界での、今から一か月後。俺たちは7歳の時まで遡ってやり直すから、それから66年後の8月17日。時間は……今、ちょうど10時か。じゃあ午前10時にこの交差点に迎えに来るよ」
『本当に……?』
「ああ、約束だ」
栞は、その未来を見つめるように目を細める。
『……66年後……とっても、遠いね……』
「そうだな。でも、俺とお前はもう、それだけの時間を一緒に過ごしてるんだ。それと同じ時間をもう一回繰り返すだけさ」
同じ時間なわけがない。今度の66年間、俺の隣に君はいないし、君の隣に俺はいない。
だけど、待たなければいけない。
「それまで、この約束を覚えていられるか?」
『うん。忘れない。絶対に』
ゆっくりと頷いて、栞は今にも消えてしまいそうに、儚げに微笑んだ。
「……じゃあ、俺はもう行くけど。さよならじゃないな。また会おう、栞」
『うん……またね、暦くん』
笑顔で手を振る栞に、俺も微笑みを返して。
そして俺は、栞のいる交差点に背を向けた。
『暦くん』
最後に、俺の背中に聞こえた声は。
『私、暦くんに会えてよかった』
足を止めて、振り向いて、駆け寄って、抱きしめてしまいたくなるほどに。
『ありがとう。大好き』
俺の心を、柔らかく抉(えぐ)った。
ラストシーン【暦】
※以下、小説より一部抜粋
後は、和音がこのIPカプセルを起動させれば、すべてが終わる。
分岐点は、7歳の時。両親が離婚するときに、父と母のどちらについていくかだ。そこまで過去に戻って母を選べば、栞と出会うことはない。
(中略)
「何か、言い残すことはない?」
ガラス越しに俺の顔を見下ろして、和音がそんなことを聞いてきたので、俺は最後に素直な気持ちを伝えておくことにする。
「ありがとう。君に会えて本当に良かった。迷惑をかけてすまない」
「いいわよ別に、今さら」
それが、俺と和音の最後の会話だった。
さようならはあえて口には出さず、胸の中だけで和音に別れを告げる。
俺の人生は栞のためだけのものだったけど、栞以外で感謝を捧げたいのはたった一人、和音だけだ。和音はある意味で栞以上に俺と深く関わってくれた人だった。
IPカプセルが起動し、時間移動開始へのカウントダウンが始まる。
「10、9、8、7、6、5、4、」
3、のカウントの代わりに和音は。
「……さようなら、暦。あなたが幸せになれますように」
そんな、何十年も一緒にいて初めて聞くような優しい声で。
俺があえて飲み込んだ別れの言葉を口にして、俺を送り出してくれた。
◆
そして俺は、虚質の海を沈んでいく。
栞の欠片を抱きしめて。すべての俺に別れを告げて。
俺と栞が出会わない世界へ。
和音を愛した一人の『僕』へ、栞との大切な約束を託して。
そこでもう一度、愛する人と出会うために。
ラストシーン【栞】
気がつけば、私はここにいた。
大きな交差点だ。横断歩道の上に私は立っている。
(中略)
いったいどうして、いつからここにいるのか、私には分からない。
というか、自分が誰なのかもよく分からない。
なんとなく、ついさっきまで誰かと一緒にいたような気がするんだけど、多分その誰かは私を置いてどこかへ行ってしまった。
けど、ひとりぼっちで何も分からなくても、不思議と不安はなかった。
怖くなんてない。寂しくなんてない。そう思えた。
たった一つだけ、分かっていることがあったから。
私は、誰かを待っている。
交差点でひとり、ずっと――
私は誰かを、待っている。
<おわり>
小説『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』を読みました❗️
主人公の暦くんはそれぞれの物語で別の女の子と恋に落ちます。それは並行世界の物語。片方の結末だけではわからない真実とは……?🤔
今秋劇場アニメ化(二作同日公開)
⬇️あらすじと感想🌐https://t.co/XuGVxuj9At— わかたけ@小説読んで紹介 (@wakatake_panda) June 30, 2022
補足解説
『僕愛』と『君愛』の関係性をあらためて整理してみましょう。
もうお察しのことと思いますが、『君愛』のラストで暦が転移したのは『僕愛』の世界です。
『君愛』の日高暦は「佐藤栞と出会わない世界」を望みました。そうして目をつけたのが『僕愛』高崎暦の世界だったわけですね。
『僕愛』には消化されなかった謎が3つありました。
【1】なぜ覚えのないスケジュールが入力されていたのか?
→ 並行世界の日高暦が交差点の幽霊である栞と再会する(迎えに行く)ために入力していた。
【2】交差点の幽霊の謎
→ 日高暦を待っている佐藤栞
【3】通りがかった老婦人の正体
→ 高崎暦と出会わなかった佐藤栞。結局、最後の最後で出会っていることになりますが、作中では「どうせ死期が近いのだから問題はない」と説明されています。
『僕愛』の高崎暦は何の気なしに(老婦人の)栞に「いま幸せですか?」と質問し、「幸せです」という答えを受け取っていました。『君愛』の物語を下敷きにすると、この短いやり取りがとても尊いものであるように思われます。
最後に、ちょっとだけややこしい部分について補足を。
高崎暦は入力されたスケジュールにしたがって交差点に向かい、「迎えに来た」と交差点の栞に言います。それこそは栞が待ち続けていた再会の合言葉でした。
直後、交差点の幽霊は消え、IP端末にはエラー表示。
これは端末が壊れたのでもなければ、高崎暦がパラレル・シフトしたわけでもなく、栞の虚質が消えた(=『僕愛』世界の栞に融合した?)ためと思われます。
このあたりについては少し考察の余地がありますが、とりあえずはここまで。
疑問点やご意見など、記事下のコメントに残してくださるとうれしく思います。
感想
「本当に読む順番間違ったな!」というのが率直な感想です。
『君を愛したひとりの僕へ』が本編で、『僕が愛したすべての君へ』は長いエピローグ、あるいはスピンオフのような位置づけだとわたしは思っています。
『僕愛』から読むというのは、まさにエピローグ(もしくはスピンオフ)から読んでいるようなものです。あんまりおすすめできる読み方ではありません。
もし読む順番が逆だったら、
「ああ、この世界では献身的に尽くしていた和音が報われている!」
などなど、思うところもあったのでしょう。
一方、前情報なしで『僕愛』から読むとこうなります。
「え……なんにも起こんないけど……? うんまあ、幸せそうだけど……これで終わり?」
オブラートに包まず言えば、『君愛』というスパイスの効いていない『僕愛』は内容すっかすかでした。そこに小説1冊を読んだ満足感はありません。
『君愛』まで通読した今、あらためて『僕愛』を読めばまた印象も変わるのかもしれませんが……そこまではいいかな……。
- 読む順番で結末が変わる2つの物語
- 並行世界というSF設定
読み始める前、『僕愛』『君愛』にワクワクしていた気持ちはすっかり意気消沈してしまいました。
前述の通り、読む順番は『君愛』スタート一択だと思います(個人の感想です)
また、SF要素にしてもやや設定の詰めが甘いと言わざるを得ず、考察を楽しめるような余地はありませんでした。
物語的には『シュタインズ・ゲート』の焼き直しのように感じられましたし、特に目新しさもなし。
事前の期待が高かっただけに、少しだけガッカリさせられました。
いや、違うんですよ。わたしは別に2作品を否定したいわけではありません。
たとえば、栞の「迎えに来てくれたの?」の意味がわかった瞬間。
たとえば、暦が「栞と出会わない世界に行く」と宣言した場面。
他にも「そうきたか!」とハッとさせられる場面はいくつもあって、楽しませてもらいました。
それなのにこんなに批判的な感想になってしまったのは……なぜでしょう……わたしには肌が合わなかったということなのでしょうか。
なにやらTiktokで話題沸騰とのことで、若人らしい瑞々しい感受性がわたしに足りないせいかもしれません。
もしあなたが『僕愛』『君愛』を読み終えているのなら、ぜひ感想を教えてください。
「めちゃくちゃおもしろかったでしょ!」でも「ちょっと残念だったよね」でも構いません。
記事下のコメントに残してくださるとうれしいです。
まとめ
今回は乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』のあらすじネタバレ解説をお届けしました。
ふたつの並行世界で、暦は和音と栞、それぞれ別の女性を愛します。
一方は困難を乗り越えて最高のハッピーエンドに至る物語。
もう一方は悲劇に見舞われ、最後まで報われない愛に殉じる物語。
ふたつの物語はコインの裏表のようなものです。
和音と育む温かな愛。引き裂かれるような栞への切実な愛。
どちらがあなたのお好みでしょうか?
気になった方はぜひ確かめてみてくださいね。
※個人的には『君愛』から読み始めるのがおすすめです!
映画情報
劇場アニメ予告
キャスト
- 宮沢氷魚(暦)
- 橋本愛(和音)
- 蒔田彩珠(栞)
公開日
2022年10月7日(金)2作同日公開
【追記】求ム考察
コメントに熱量の高い考察をいただいたのですが、不甲斐ないことにわたしの頭ではオーバーヒートしてしまいそうな難易度でした。
ぜひ、あなたの頭脳を貸してください!
以下の考察について、あなたの意見・考察をコメント欄に書いていただければ幸いです。
この場が「僕愛」「君愛」SF要素の熱い議論の場になれればと思います。
※以下、いただいたコメントです。
…………
本日君愛/僕愛映画を視聴して最後のシーンについて、また著者がツイッターで残した
下記の2点の謎について気になったので考察がてらここに来ました。
①なぜ交差点に幽霊がいたのか?
②なぜIP端末はエラーになったのか?
②について、
IP端末は個人の虚質紋と世界のずれを数値化するモノ
ずれ=異なる選択数と仮定すると、エラー=その世界では選択しえない状態=可能性のない状態
つまり、その世界では存在しない可能性に至った
=>不可避の事象半径を越えた
=>栞と暦が出会うと栞が幽霊化する事象を乗り越えたことを示している
と考察しました。
また、①なぜ交差点に栞の幽霊が居たのか?
君愛劇中で暦の予測では下記が示されていました。
・君愛暦と栞の虚質が癒着しており暦のパラレルシフトと同時に移動している
=>シフト先でも記憶を残して交差点に存在している
・タイムシフトによって出会う可能性のない世界の分岐まで戻れば、
暦と栞の虚質は分離され、その後出会わなければ幽霊化する事象に至らない
=>エンドロール背景で分離した描写があったので分離は成功した
・タイムシフトによって虚質が移動した際、僕愛世界の暦と融合したら記憶が残らない
他考察可能な情報として
・僕愛世界には記憶の無い栞が66年存在し続けていた
※映画ではラストシーンしか幽霊栞は出ておらず、小説未読のためここは他の方のコメントを参考
・著者のヒントとして最後の栞の虚質は横移動していない
これらを加味すると、
僕愛のタイムシフトで暦と栞の虚質は分離され、暦は融合したが分離した栞は融合せず記憶を失った虚質だけが交差点に取り残された。
=>タイムシフトの影響で可能性が無くなれば戻った時点で幽霊も同時に消えるはずだが一部が残ったのはなぜか?
これは完全に憶測ですが、
・66年後のオプショナルシフトにより暦のIP端末に予定が入力された
=>約束だけが残った=未来の約束が確定しており未来の因果が過去に影響して部分的に固定された
=>タイムシフトしても66年後に会うまで栞の虚質(再会の約束)が固定された
・会った直後に消えた=会う約束が果たされて、因果が無くなり可能性が消失したため
・最後に少年暦と会って消えたシーン=融合した僕愛暦の虚質が想起され幻出した
と解釈しました。
長々と書いてしまいましたが、非常に良い作品だったのでコメント、考察いただけると幸いです。
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僕愛の暦はどこに行ったんですか?
過去に戻っても未来は続いてる的な感じですか?
>テトさん
質問の意図とズレていたら申し訳ないのですが、高崎暦はどこにも行っていません。時間移動もしていません。
『君愛』のラストで起こったのは入れ替わりではなく、融合に近いものでした。融合といっても日高暦が一方的に消えるような形であり、高崎暦には事実上影響のない形です。
また、融合後『君愛』世界の日高暦は脳死状態になっています。
君愛の最後の最後で、14歳?の頃の暦が栞に結婚しようと言っていますが、あれは僕愛でも君愛でもない他の並行世界ですか?
映画の君愛の最後で暦が栞に結婚しようと言うシーンは僕愛でも君愛でもない他の並行世界ですか??
>ミクさん
映画はまだ見れていないのですが、14歳の暦が栞に「結婚しよう」と言う場面は小説にもありました。君愛の二章、両親の再婚が決まり、並行世界に逃避行しようとする(つまり栞が幽霊になる原因の)場面です。
「向こうの世界で会おうね。それで、私をお嫁さんにしてね」
「うん。約束する。向こうの世界で結婚しよう」
映画の最後にミクさんが見たシーンは、この場面の回想ではないでしょうか?
君愛の最後の歴のIPカプセルに入ったのは、自分はパラレルシフトするためだと思ってたのですが、過去に潜るとこの記事に書いてあることから、タイムシフトなのかなとも思いまして、、一体どっちですか?
>よしさん
君愛のラストで日高暦が実行したのはタイムシフトです。
並行世界の自分である高崎暦の過去に合流し、同時に消滅(融合)しています。
こんばんは。小説読者です。疑問がスッキリしないのでご協力いただきたいです。
・僕愛で高崎暦が栞の幽霊と会いますが
僕愛の世界では栞は幽霊になっておらず
過去の栞の虚質に融合する予定でした
これはタイムシフト時に高崎暦は少年時代の日高暦に融合できたが、栞は出来ずに僕愛の世界の幽霊になり66年待ち続けた後に8/17老人の暦に迎えにきたと言われて
それをトリガーに年老いた栞に融合した30分後
暦を助け再会という解釈でしょうか?
また、栞が約束を覚えていたのは
僕愛の世界に幽霊のまま、すなわち君愛の世界の虚質として移動してきてしまったことにより、
融合しなかったことで元の記憶が残っていると捉えたら良いですか?
僕愛のラストから考察すると栞は幽霊のままシフトして
記憶がうっすらしかなく、誰かを待ってる程度の記憶でしたが、それはシフトが完全成功しなかったことの影響なのかな?と捉えてます。
わかたけさんはどのようにお考えでしょうか?
>りんねさん
こんばんは。時間移動が絡むSFはいろいろ気になってしまいますよね。微力ながらわたしも考えてみます。
まず前半の部分から。
日高暦が栞と再会を約束したときの文脈から察するに、再会(迎えにきた発言)そのものは栞の融合条件ではないように思われます。8月17日を迎える前に高崎暦老人が他界していた可能性もありましたし。
つまり、日高暦が融合した時点で栞も融合できている(消滅する)はずなんです。
幽霊栞は「迎えにきた」発言の直後に消え(融合し)ますが、これは約束が叶えられたためではなく、その瞬間に並行世界の日高暦がタイムシフトした(高崎暦少年に融合した)ためでしょう。
端末のエラー表示も融合が起きたことを示唆していました。
1.幽霊栞が66年待った
2.まだ融合していない高崎暦老人と再会
3.日高暦の融合と同時に消えた(融合した)
栞目線の時間経過がいまいち腑に落ちませんが、わたしはこのように解釈しています。
続いて後半部分。
虚質栞は厳密には世界の外側に存在しています。だから僕愛世界から観測する虚質栞も、君愛世界から観測する虚質栞も同じ場所に存在している同一人物だと考えています。
さっきの時間軸の件といい、幽霊栞に関しての矛盾らしき点は「まあ、世界の外側にいるイレギュラーだからなんでもありなんやろな」くらいに捉えるとちょっと楽になれるかもしれません。
栞の記憶が定かでないのは、シンプルに66年見えない存在としてひとりぼっちだったからではないかと考えています。人間でいえば発狂してるレベルでしょうし……。
本日君愛/僕愛映画を視聴して最後のシーンについて、また著者がツイッターで残した
下記の2点の謎について気になったので考察がてらここに来ました。
①なぜ交差点に幽霊がいたのか?
②なぜIP端末はエラーになったのか?
②について、
IP端末は個人の虚質紋と世界のずれを数値化するモノ
ずれ=異なる選択数と仮定すると、エラー=その世界では選択しえない状態=可能性のない状態
つまり、その世界では存在しない可能性に至った
=>不可避の事象半径を越えた
=>栞と暦が出会うと栞が幽霊化する事象を乗り越えたことを示している
と考察しました。
また、①なぜ交差点に栞の幽霊が居たのか?
君愛劇中で暦の予測では下記が示されていました。
・君愛暦と栞の虚質が癒着しており暦のパラレルシフトと同時に移動している
=>シフト先でも記憶を残して交差点に存在している
・タイムシフトによって出会う可能性のない世界の分岐まで戻れば、
暦と栞の虚質は分離され、その後出会わなければ幽霊化する事象に至らない
=>エンドロール背景で分離した描写があったので分離は成功した
・タイムシフトによって虚質が移動した際、僕愛世界の暦と融合したら記憶が残らない
他考察可能な情報として
・僕愛世界には記憶の無い栞が66年存在し続けていた
※映画ではラストシーンしか幽霊栞は出ておらず、小説未読のためここは他の方のコメントを参考
・著者のヒントとして最後の栞の虚質は横移動していない
これらを加味すると、
僕愛のタイムシフトで暦と栞の虚質は分離され、暦は融合したが分離した栞は融合せず記憶を失った虚質だけが交差点に取り残された。
=>タイムシフトの影響で可能性が無くなれば戻った時点で幽霊も同時に消えるはずだが一部が残ったのはなぜか?
これは完全に憶測ですが、
・66年後のオプショナルシフトにより暦のIP端末に予定が入力された
=>約束だけが残った=未来の約束が確定しており未来の因果が過去に影響して部分的に固定された
=>タイムシフトしても66年後に会うまで栞の虚質(再会の約束)が固定された
・会った直後に消えた=会う約束が果たされて、因果が無くなり可能性が消失したため
・最後に少年暦と会って消えたシーン=融合した僕愛暦の虚質が想起され幻出した
と解釈しました。
長々と書いてしまいましたが、非常に良い作品だったのでコメント、考察いただけると幸いです。
>通りすがりのSF好きさん
熱量の高い考察ですね!
わたしが放り投げてしまった謎まで丁寧に深掘りされていて「なるほどなー」と頷いてしまいました。
映画だけでここまで読み取れる能力は数多のSF作品に鍛えられたものでしょうか?
さて、本題に入ります。
本題に入ったばかりですが、降参です。
①②ともにわたしなりに再考してみたのですが、どうもつまらない考察しかでてきません。
たとえば、IP端末エラーについては高崎暦と日高暦が融合したため発生した、くらいの認識なんですが、そのような答えをお求めではないでしょう。
不可避の事象半径を越えた証としての現象という考察、とてもいいと思います。
とはいえただ「わかりません」で済ませるのもバツが悪いので、ここは集合知に頼るとしましょう。
記事内でSF好きさんの考察を紹介し、それに対するコメント・考察を募ることにします。
他力本願な解決策ですが、この場が熱い議論の場になればいいなと思います。
あとは月並みですが、小説(映画化に合わせてスピンオフも出ています)も読まれてみてはいかがでしょう?
SF好きさんなら、わたしが気づかなかった点まで拾い上げることができるはずです。
かしこ。
勢いで書いたモノを投げつけてしまいすみません。。
アドバイスいただいた通り後日小説版も読ませていただこうと思っています。
補足)
自分で再読すると②は別に事象半径の話に結びつけなくても、その世界であり得ない存在(栞幽霊)に出会い干渉を受けた時点で、暦は0番世界中であり得ない可能性の存在になった、と取った方が自然かも知れません。
君愛の最後のシーンの結婚しようはなんですか?
>にらひちさん
映画はまだ見れていないのですが、14歳の暦が栞に「結婚しよう」と言う場面は小説にもありました。君愛の二章、両親の再婚が決まり、並行世界に逃避行しようとする(つまり栞が幽霊になる原因の)場面です。
「向こうの世界で会おうね。それで、私をお嫁さんにしてね」
「うん。約束する。向こうの世界で結婚しよう」
この場面の回想かと思われます。
劇場版「僕愛」「君愛」のラストは同じように見えるけど実は並行世界で劇場版「僕愛」は暦の虚質は過去の暦への融合は成功していたが栞の融合はできておらず
66年後の交差点で出会うことで融合が果たせたのかなと。
「君愛」では暦の虚質も栞の虚質も「僕愛」の過去へのパラレルシフトは成功したが暦の虚質は暦の虚質と完全に同化できず眠った状態になり、交差点に行くことで虚質が目覚め虚質としてしおりを迎えに行き二人の虚質は呪縛から解放され旅立ったんじゃないのかなと思いました。
小説と劇場版の「君愛」は色々異なっていて小説「君愛」は過去へのパラレルシフト時暦の虚質は消滅し栞の虚質からも記憶が消滅して終わってるように見えました。劇場版「僕愛」「君愛」と小説の「君愛」「名前」を読んだだけなので今週末にでも小説の「僕愛」を読んでみたいと思います。見方がまた変わるかもしれません。
>ぺんぺんさん
すとんと腑に落ちるような考察ですね。
映画と小説では違いがあるという指摘にも納得しました。
小説をすべて読まれて総合的な見解ができあがったら、ぜひまた聞かせてください。