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『夜、鳥たちが啼く』あらすじネタバレ解説|結末|感想【映画原作小説】

佐藤泰志『夜、鳥たちが啼く』を読みました。

連作短編集『大きなハードルと小さなハードル』に収録されているこの物語において、派手な事件は何ひとつ起こりません。

ひょうひょうとした台詞の裏側に潜む切実なホンネがひしひしと伝わってくるような純文学です。

今回はそんな『夜、鳥たちが啼く』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

こちらは小説のあらすじ紹介です。同名映画とは一部設定やストーリーに違いがありますのでご注意ください(後述)

あらすじ

主人公の慎一(25)はちょっと変わった共同生活をしています。

借家の母屋に大学時代からの友人の妻子……といっても友人夫婦はもう別れているので正しくは元妻なのですが、ともかく微妙な関係性の親子を住まわせ、自身は離れのプレハブで暮らしています。

女性の名前は裕子。28歳。息子のアキラは3歳。

慎一は裕子に別れた理由について尋ねていませんが、邦博(元夫)はもう新しい女と暮らしているのですから、そういうことなのでしょう。

奇妙な共同生活は、裕子が転がり込んできたことで始まりました。

「次に住む家が決まるまで」という約束でしたが、もう二か月が経過しています。

家賃は折半。お互いに不必要な干渉はなし。

慎一に不満はありませんでした。

ところが、2週間前頃からでしょうか。裕子はアキラをひとり置いて、夜ふらふらと、出かけるようになりました。男をひっかけては【遊んで】いるようでした。

慎一には関係ない、と言えばそれまでです。

けれど、裕子のそれは憂さ晴らしというより、ゆるやかな自滅であるように思われてなりません。

ある夜、慎一はいつものようにふらふらと帰ってきた裕子を珍しくプレハブに招き入れます。

ふたりは何度も何度も、本能の赴くままにお互いを求めあいました。

共同生活が始まって二か月、こうなることは必然だったのかもしれません。

距離感

一晩寝たからといって、大人の男女の関係がすぐに変わるものでもないでしょう。

特に裕子は子持ちで、慎一にしてみれば友人の元妻というこれまた微妙な間柄なのですから、なおさらです。

とはいえ内心、慎一はすっかり裕子に惹かれていました。

彼女次第だ、と思ったばかりなのに、僕はふたりがあの借家から実際にいなくなることを考えたくはなかった。

けれど慎一は生来の気難しい性格のためか、それとも単に優柔不断なだけか、裕子との将来についてはっきりと口にしようとはしません。

無理に関係性を変化させなくとも、慎一は裕子たちとの今の生活に満足していました。

現状維持に努めて、結論を先延ばしにしている限りそれは続くのだと信じていました。

あるいは「はっきりと言葉にしなくとも裕子には気持ちが伝わっているだろう」と思いあがっていたのかもしれません。

ぱんだ
ぱんだ
中途半端ね

一方、男のずるさに逃げ込む慎一と違って、裕子はもっと現実主義です。

慎一と男女の仲になったことで再婚を視野に……なんて簡単には考えません。

慎一にとってそれは青天の霹靂でしたが、裕子は当初の約束通り新しい生活を始めるための家を探していました。

「二か月も甘えたわ。邦博と別れた時は、男なんてものには金輪際、頼らないつもりだったのよ。一週間か十日、世話になるつもりだったのに海にまで一緒に行ったわね」

裕子には男全般への失望が根付いているようでした。どうにも煮え切らない慎一に期待なんてできません。

一線を越えた夜から一転して、若い男女の間には別れの予感が漂っていました。


夜、鳥たちは啼く

作中の年代は80年代ごろでしょうか。

社会は今よりもっと不寛容で、誰もが人と違うことを恐れるように型にはまった人生を歩んでいました。

そんな時代背景において、慎一たちの奇妙な共同生活が近隣住民の好奇の視線から逃れられるはずもありません。

実際問題として裕子の存在は主婦たちの格好の話題になっていて、めんどうになった裕子は「家庭内離婚している夫婦だ」となげやりに説明していました。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

昼下がりの公園。

砂場でアキラから「おかあさんが好きなの」と尋ねられたとき、慎一は近くに子供を遊ばせているふたりの母親がいることに気づいていました。

世間の目があることを承知で、慎一は答えます。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「ああ、好きだ。だから、朝、ベッドでふたりで寝ていただろ」

傍にいたふたりの母親が、明らかに驚きの顔で、こっちを見た。気にしなかった。世間の眼などどうでもよかった。

鳥は夜に眠り、啼かないものだ(後述)、と教えてくれる世間など。

「そうだろ、アキラ。朝ベッドを見て、わかったろ」

「そうだね」

唇をほころばせた。

「でも、おかあさんにも話したの」

「ませてるな、おまえ。これから話してくるよ」

僕は立ちあがってベンチに戻った。並んで坐った。おまえの息子に話してきた、と僕は真っすぐ切りだした。

「慎一くんは、アキラのお母さんが好きだって」

「また、いいかげんな話なんかして」

「結婚もしてないのに、別居だし、家庭内離婚だ。おもしろいじゃないか。そんなふうに暮らしていかないか。どうだい」

裕子は口を噤(つぐ)んで前を見ていた。たくさんの子供たちが、黄色い声をはりあげて遊んでいる。

(中略)

「問題は山積みよ。あたしはもう結婚は厭(いや)よ。知ってるからあんたは今そういったんでしょうけど。きっと他人にはいいかげんな、気楽な、今時の若い者に見えるし、その分、こっちは気楽じゃないわよ。あんたの両親だって……」

僕は自分の大切な両親を、納得させることができないほど、だらしない二十五年間を送っては来なかった、と思った。ゆっくりと、静かに、しかし言葉に力をひそめてそう話した。

結末

家を出て行くそぶりを見せた裕子。素朴に本音を尋ねてきたアキラ。状況に後押しされるようにして、ついに慎一は裕子たち親子と一緒に生きる決意を固めました。

夫に裏切られ、傷ついている裕子を思えばこそ、再婚しようとは言いません。

言ってしまえば事実婚の選択です。時代はまだ幼く、ふたりがいいかげんな関係に胡坐をかいているとみなすでしょう。慎一と裕子は不愉快な目に遭うかもしれません。

それでも一緒にいよう、と慎一は言います。

たとえ両親から失望され、世間から軽蔑され、誰もふたりのことを理解しなくとも、それがいったいなんだというのでしょう。

自然に、なるようになるものがあればそれでいい。

花火大会の夜、慎一はひととき面倒なしがらみを頭の中から追いやります。隣には裕子がいて、アキラはうっとりと夜空の花火を見上げている。それだけで十分でした。

<完>


【考察】タイトルの意味

慎一の家の近くには幼稚園があり、そこでは何種類かの鳥たちが飼われています。

小説で鳥たちに言及されている場面をご紹介しましょう。

まずは物語冒頭のシーン。

…………

どうしたわけか、こいつらは夜、眠らない。不眠症の鳥たち。

時々、夜中でも啼きかわすことがあった。

街灯が明るすぎるのかもしれないし、昼間の子供たちの喧騒でリズムが狂ってしまったのかもしれない。

…………

続いて、物語のラストシーン。

…………

幼稚園の鳥たちは、今夜も啼くだろうか。啼くだろう。

生涯、とじ込められ、昼の喧騒にかりたてられ、夜になって、ひと息つく。解放される夜。

けれどこの(花火大会会場である)ゴルフ練習場のフェンスの中にいる僕たちと、どこが違うというのだろう。

…………

この短いふたつの場面を読むだけでも「夜に啼く鳥」がなんらかの比喩であることがよくわかります。

ふつう鳥は昼に鳴くものだとすれば、幼稚園の鳥たちは変わり者ということになり、転じて事実婚を選ぼうとしている慎一たち家族のようです。

あるいは窮屈な鳥かごを不寛容な人間社会と解釈してみるとどうでしょう。慎一たちは世間のしがらみから逃れられない鳥であり、その狭い世界の中で(ストレスからか解放からか)鳴き声をあげる鳥のようでもあります。

物語のラスト。慎一たちは大衆の常識に背き、険しくとも自分たちらしい生き方を選択しようとしています。

彼ら《鳥》の鳴き声は悲痛なものではなく、決意と自由を表明するものなのではないかと思いました。


感想

短編ながらも情感たっぷりで、「文学を読んだなぁ」という満足感のある作品でした。

その気分のおすそ分けというわけでもないのですが、わたしが好きだった場面を紹介させてください。

物語終盤、慎一が事実婚を提案した直後のシーン。とっても大切な話をしている最中なのに、ふいに話題は食事の話……慎一が今夜連れて行く店の話にそれていきます。

その店の料理は絶品なのですが、マスターは無愛想で客はいつも少ないのだと慎一は言います。

「客商売がへたなんじゃない」裕子の指摘に慎一はこう答えます。

「そのとおりさ。でもまずい食べものはひとつもない。いい料理人さ。作り方は丹念だし、熱心だ。無口で変わり者だから、客は寄りつかない。どっちをとる。愛想良くできないからって、彼の料理には関係がない。両方にいい顔ができないなら、俺なら彼のようにひとつだけに力を注ぐ」

このなんでもない台詞を読んだ瞬間、わたしはハッとしました。

事実上のプロポーズをさえぎってまで交わされているこの世間話こそが、この物語のテーマを象徴しているように思われたからです。

裕子を大切に思う気持ちを料理に、世間から理解を得られないであろう家族の形態を店の評判に、それぞれ置き換えてみてください。

慎一はこう言いました。

「どっちをとる。愛想良くできないからって、彼の料理には関係がない」

「世間の理解を得られないからといって、裕子を大切に思う気持ちには関係がない」と読めてきませんか?

そして慎一はこう結んでいます。

「両方にいい顔ができないなら、俺なら彼のようにひとつだけに力を注ぐ」

なんでもない顔で言ってそうなこの一文が、とたんにロマンティックな決め台詞に思われてきませんか?

穿った見方をしているだけかもしれませんが、とにもかくにもわたしはいかにも文学的な口説き方をしている(かもしれない)この場面にとてもグッときたのでした。

ぱんだ
ぱんだ
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映画はオリジナル設定多め

まずは映画版『夜、鳥たちが啼く』のあらすじを見てみましょう。

わかりやすいように、映画オリジナル設定の部分は赤字にしてみます。

…………

若くして小説家デビューするも、その後は鳴かず飛ばず、同棲中だった恋人にも去られ、鬱屈とした日々を送る慎一(山田裕貴)。そんな彼のもとに、友人の元妻、裕子(松本まりか)が、幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。

慎一が恋人と暮らしていた一軒家を、離婚して行き場を失った2人に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きするという奇妙な共同生活。自分自身への苛立ちから身勝手に他者を傷つけてきた慎一は、そんな自らの無様な姿を、夜ごと終わりのない物語へと綴っていく。書いては止まり、原稿を破り捨て、また書き始める。それはまるで自傷行為のようでもあった。

一方の裕子は、アキラが眠りにつくと一人町へと繰り出し、行きずりの男たちと逢瀬を重ねる。親として人として強くあらねばと言う思いと、埋めがたい孤独との間でバランスを保とうと彼女もまた苦しんでいた。

そして、父親に去られ深く傷ついたアキラは唯一母親以外の身近な存在となった慎一を慕い始める。慎一と裕子はお互い深入りしないよう距離を保ちながら、3人で過ごす表面的には穏やかな日々を重ねていく。だが2人とも、未だ前に進む一歩を踏み出せずにいた。そして、ある夜……。

…………

ぱんだ
ぱんだ
ほとんど赤字じゃん!

というわけで映画版『夜、鳥たちが啼く』はかなりオリジナル色の強い、言いかえれば原作小説とはかなり違った物語のようです。

あらためていくつか明確な違いをピックアップしてみましょう。

第一に、原作の慎一は小説家ではありません。コピー機などを売っている会社員です。同棲していた恋人に去られてもなければ、鬱屈もしておらず、苛立ちに任せて他者を傷つけてもいません。ほとんど別人ですね。

次に裕子。解釈によると言われればそれまでですが「親として強くありたい」うんぬんは原作小説からは読み取れませんでした。なんか解釈違いです。

最後にアキラ。少なくともわたしが読んだ限りでは「父親に去られ深く傷ついた」様子もなければ、特に「慎一を慕い始める」素振りもなかったと思います。むしろ原作のアキラは慎一を対等の存在として扱っていました。

ぱんだ
ぱんだ
ぜんぜんちがうね

わたしはなにも原作至上主義を唱えるつもりはありません。

小説は小説だし、映画は映画です。

ただ、ここまで内容がガラッと変わっているとちょっとビックリするといいますか、寂しいといいますか。

映画をご覧になる方には、ぜひ合わせて小説のほうも読んでほしいな、と思いました。

※↓は『夜、鳥たちが啼く』が収録されている短編集です。

 

映画情報

キャスト

  • 山田裕貴
  • 松本まりか

公開日

2022年12月9日公開


まとめ

今回は佐藤泰志さんの短編小説『夜、鳥たちが啼く』のあらすじネタバレ解説をお届けしました。

文庫の解説を読んでみると『夜、鳥たちが啼く』は「子持ちの女性と、結婚をしないまま家庭内離婚をする」物語だと書いてありました。

一行で矛盾していそうな評ですが、読んでみるとなるほど、たしかにそうだと納得せざるを得ません。

人の幸せのカタチはさまざまです。家庭のカタチだって別にみんな同じじゃなくたっていいでしょう。

けれど多様性への理解が今よりもっともっと低かった時代、人と違う道を選ぶのはとても勇気のいることでした。

そして慎一は裕子と日々を過ごして、その重大な決断へと至ります。

「愛想良くできないからって、彼の料理には関係がない。両方にいい顔ができないなら、俺なら彼のようにひとつだけに力を注ぐ」

※↑の意味がわからない人は感想を読んでね!

短いながらも慎一がいかに迷い、ためらい、裕子を口説くに至ったのか、心情の変化が自然に伝わってくるような良い作品でした。

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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