宮下奈都「羊と鋼の森」は2016年本屋大賞第1位に選ばれた小説です。
わたしも読んだのですが、1つ1つの文章の美しさにハッとさせられるのみならず、物語としても希望と教訓に満ちている素晴らしい1冊でした!
今回はそんな「羊と鋼の森」のあらすじを結末までお伝えしていきたいと思います!
あらすじネタバレ
主人公・外村(とむら)は北海道の山村出身の高校2年生。
特に目的意識もなく過ごしていた外村の運命を変えたのは、先生に頼まれて案内した客人の仕事ぶりだった。
板鳥(いたどり)という年配の男性が体育館に設置してあるグランドピアノの前に立つ。
――森の匂いがした
調律師である板鳥の仕事を見学して、外村は不思議な感動を覚えた。
高校卒業後、外村は調律師の専門学校へと進み、その後は板鳥の所属している江藤楽器店に就職した。
新人調律師
外村はピアノを弾くことができなかったし、音楽の素養はない。
毎日、仕事の後には店のピアノで調律の練習をしているし、家に帰ってからはクラシックを聴きこんでいるが、板鳥のような美しい音をつくることなどできそうにもない。
板鳥「焦ってはいけません。こつこつ、こつこつ、です」
お客さんのピアノを調律させてもらえるようになるのは、早くて半年後から。
外村はこつこつと練習を重ねる。
ふたごとの出会い
7年先輩の柳さんについて家庭を回るようになった。
補助という名目だが、実際には見学だ。
佐倉家の調律に同行した際、外村は双子の女子高生、和音(かずね・姉)と由仁(ゆに・妹)に出会う。
外見はそっくりだが、和音のピアノは静謐であり、由仁のピアノは弾むような楽しさを表現していた。
柳さんは由仁のピアノを面白いと評し、和音のピアノを普通と評する。
しかし、外村は姉の和音のピアノの方が好きだった。
森の入り口に立つ
仕事の後、柳さんが彼女にプロポーズをするといって直帰した。
1人で車を運転して帰る途中、外村は由仁に呼び止められる。
「調律の方ですよね?これから見てもらえないでしょうか?」
ピアノの調子がおかしいが、担当の柳さんが今日来られなくて困っているという。
しかし、外村はまだ5か月目だ。
店に連絡すると、受付の北川さんが「いいんじゃない?」と調律の許可をくれた。
ピアノの不調の原因は簡単なものですぐに直った。
外村が帰ろうとすると、双子から呼び止められる。
「いつもより少し音が全体的に上がっている気がするんです」
「微妙に気持ち悪いんです」
ピアノを一定の状態に仕上げるだけではなく、お客さんの好みの音が出るように調整するのも調律師の仕事だ。
しかし、外村にはまだその腕がない。
それなのに外村は双子の力になりたいと魔が差して繊細な調律に挑戦し、かえってピアノの状態を悪くしてしまった。
外村(どうしても今日弾きたくて僕を連れてきたのに、結局は僕がダメにしてしまった。ふたごに申し訳ない。柳さんに申し訳ない)
結局、連絡を受けた柳さんがプロポーズを延期して当日中にピアノを調律しなおした。
柳「初回は誰だってテンパるんだ。しょうがない。外村はちょっと早まっただけだ」
申し訳ない。悔しい。複雑な感情を抱えて店に戻ると、板鳥さんがいた。
外村「調律ってどうしたらうまくできるようになるんですか」
板鳥「そうですねぇ…」
板鳥さんは答える代わりに愛用のチューニングハンマーを譲ってくれた。
板鳥「私からのお祝いです。きっとここから始まるんですよ」
きっと、板鳥さんは森の入り口に立った僕を励まそうとしてくれている。
外村「ありがとうございます」
ありがたさで声が震えた。
外村「板鳥さんはどんな音を目指していますか」
板鳥「外村くんは原民喜を知っていますか。その人がこう言っています」
板鳥「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のように確かな文体」
板鳥「私の理想とする音をそのまま表してくれていると感じました」
外村(ああ、確かにそれが板鳥さんのつくり出す音だ。僕の世界を変えた音だ。僕はその音に憧れてここにいる。ここから行くしかないではないか。焦らずに、こつこつと)
目指すべき道
入社2年目になった。
音を整えることはできるようになったが、その先にはまだ進めない。
ある日、外村は板鳥さんに同行してコンサートの調律へ行くことに。
世界的に有名なピアニストがわざわざ北海道のホールまで来るのは板鳥さんの調律を気に入っているから、ということだ。
家庭用のそれとは全然違うホールのピアノを調律する板鳥さんの音を聞いて、外村はハッとする。
(この音を目指して歩いていこう)
その目標は、外村に活力を与えた。
外村は1人で調律に回るようになった。
とはいえ、クレームやキャンセルもある。
ピアノの森の奥へと続く道は、まだまだ先が長い。
由仁と和音、そして外村
由仁がピアノを弾くことができなくなった。
他のことには支障はないが、ピアノを弾こうと思うと指が動かない。そういう病気らしい。治るかどうかはわからない。
由仁「和音がものすごく落ち込んでいるんです。ピアノのある部屋にも頑として入ろうとしない。困っています」
由仁「病気でもないのに弾かないなんて、最悪」
和音は毎日の練習を欠かさない子だったが、妹ととても仲の良い姉でもあった。
外村は由仁に同情しつつ、和音がピアノをやめてしまうのは嫌だな、と思った。
佐倉家から調律の依頼が入った。
担当は柳さんだが、外村も一緒にという双子からのリクエストがあり同行することに。
調律が終了し、仕上がりを確認するために和音がピアノの前に座る。
以前にもまして素晴らしいピアノ。和音の決意がはっきりと聞こえた。
和音「私、ピアノを始めることにした。ピアニストになりたい」
静かな声に、確かな意志が宿っていた。まるで和音のピアノみたいに。
由仁「プロを目指すってことだよね」
晴れやかな、うきうきと弾む声で由仁が言った。
和音「目指す」
一応言わなければならないという感じで、奥さんが言う「ピアノで食べていける人なんて一握りよ」
和音「ピアノで食べていこうなんて思ってない」
和音「ピアノを食べて生きていくんだよ」
部屋にいる全員が息を飲んで和音を見た。
和音の、静かに微笑んでいるような顔。でも、黒い瞳が輝いていた。
きれいだ、と思った。
きっと前からこの子の中にあったものが、由仁が弾けなくなったことで顕在化したのだと思う。
数日後、ふたごが楽器店に遊びに来た。
和音が発表会用のピアノを試し弾きする。
「外村くん」
社長が興奮した面持ちで話しかけてきた。
「あの子、あんなにすごかったっけ。ああ、びっくりしたなあ、化けたよなあ」
化けたんじゃない。和音は前から和音だった。
最初に聴いたときは、まだ双葉だったかもしれない。でも、ぐんぐん育った。
茎を伸ばし、葉を広げ、ようやく蕾の萌芽を見せたのだと思う。これからだ。
その傍らで、由仁も黒い瞳を輝かせていた。
由仁「私、やっぱりピアノをあきらめたくないです」
由仁「調律師になりたいです。和音のピアノを調律したいんです」
それもまた、ピアノの森のひとつの歩き方だろう。
ピアニストと調律師は、きっと同じ森を歩いている。森の中の、別々の道を。
ふたごの決意は、外村に森の歩き方を示した。
和音のピアノを調律したい。
もっといい調律ができるようになりたい。
外村(和音が本気でピアニストを目指すことが、こんなにも僕を励ますとは思わなかった)
17歳。和音と同じ年の頃に、板鳥さんに出会った。
調律師になる、と決めた時のよろこびを、今でもはっきりと思い出せる。
あのときは、これからどこまででも歩いていけると思ったのだ。
どこまでも歩いていかなければならないだろう。
外村は朝早く会社に来て、和音のための調律を試していた。
板鳥「おや、外村くんでしたか。いったい何があったんですか」
板鳥「急によくなりましたね。音が澄んでいます」
もしほんとうにそうならうれしい。でも、音色は意図して変えてはいない。
板鳥「いいですね」
外村「ありがとうございます」
板鳥さんはにこにことうなずいた。
結末
入社3年目になった。
いまだにクレームやキャンセルはあるものの、去年とは違って迷いはない。
美しい音をつくりたい。
柳さんがとうとう結婚することになった。
その結婚披露パーティーでは和音がピアノを弾き、外村が調律を担当することに。
前日のうちに調律を済ませ、当日の早朝に和音のリハーサルを行う。
由仁「家で練習してた時とぜんぜん違う。すごいです、外村さん。私も早く調律の勉強したいです」
和音が美しい音を奏でる傍で、由仁が頬を紅潮させながら言った。
突然、和音のピアノが精彩を欠き始めた。
披露宴の準備が進んで空間に音を吸収・反響するものが増えたために、ピアノの響きが変わってしまったのだ。
外村「和音さん、ごめん。少し調整させてもらいたいんだ」
調整できるか。間に合うか。絶対に間に合わせなければならない。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体」
小さな声で口にしながら、黒いピアノの前に立つ。
「少し甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体」
森の上に光る星座。その光を目指して調律していく。
「夢のように美しいが現実のように確かな文体」
今まで培ったすべての経験を総動員して、和音が弾くピアノが一番美しく響くように。
ドレスをまとった和音が結婚行進曲を奏でる。
しあわせなふたりを親しい人たちで讃える、祝福の曲。
拍手の中を、新郎新婦が笑顔で通っていく。
「ピアノ、いいんじゃない?」
皮肉屋でいつも冷たい態度をとる秋野さんから、初めてほめられた。
板鳥「ダンパーが一斉に下りているかどうか、チェックしてみるといいですね。和音さんのピアノの美点を助けてあげなくては。もっと和音さんを信頼してもいいですね」
板鳥さんからの信頼を感じる。あとでペダルを調整してこよう。
秋野「もしかすると、外村くんみたいな人が、たどりつくのかもしれないなぁ」
外村「あの、僕みたいな人ってどういう人ですか」
秋野「うん、なんというか、まっとうに育ってきた素直な人。外村くんみたいな人が、根気よく、一歩一歩、羊と鋼の森を歩き続けられる人なのかもしれない」
「それはそうです」
板鳥さんが鷹揚にうなずく。
板鳥「外村くんは、山で暮らして、森に育ててもらったんですから」
そうだろうか。そうだとしたら、しみじみとうれしい。僕の中にもきっと森が育っていた。
もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。
時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。
何もないと思っていた森で、なんでもない風景の中に、すべてがあったのだと思う。
隠されていたのではなく、ただ見つけられなかっただけだ。
安心してよかったのだ。僕には何もなくても、美しいものも、音楽も、もともと世界に溶けている。
目をやると、ちょうど和音が新しい曲を弾き始めるところだった。
<羊と鋼の森・完>
タイトルの意味は?
結末が近づいたころに秋野さんがタイトル回収した「羊と鋼の森」という言葉。
これは単純に考えれば「ピアノ」そのものを意味しています。
・羊=ピアノの弦をたたくハンマーには羊毛フェルトが使われている
・鋼=ピアノの弦のこと。鍵盤に連動してハンマーが弦をたたくことでピアノの音が出る
・森=ピアノの主な材料は木材
一方で、小説「羊と鋼の森」では【森】というキーワードがたくさんの意味をもって何度も文中に登場します。
時に【森】はピアノそのもののこと、時に【森】は人生、時に【森】とは音楽、時に【森】は調律師(あるいはピアニスト)として進むべき道…という感じですね。
なので「羊と鋼の森」というタイトルからは「ピアノ」という意味のみならず「調律師の物語」「外村という1人の人間の物語」「美しさと音楽の物語」などの意味も読み取れるのではないかと思います。
まとめと感想
今回は小説「羊と鋼の森」のあらすじネタバレをお届けしました!
山村出身の朴訥とした青年がピアノに一目ぼれして調律師となり、その道を迷いながら1歩ずつ進んでいく…そのとき彼が何と触れて、何を感じて、どう変わっていくのか。
そのさまが実に美しく巧みな表現で描かれているところが小説「羊と鋼の森」の魅力だと思います。
特に10代、20代の若い人に読んでほしい本ですね。
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