大ヒット小説「探偵が早すぎる」がドラマ化しますね!
私は原作小説が大好きなので、かなり楽しみにしています。
深夜帯ではありますが、主演は滝藤賢一さんと広瀬アリスさんということで、コメディ・ミステリーとしては面白くなりそうですよね。
ただ、ちょっと驚いたのはドラマの設定が原作からかなり変更されているということです。
詳しくは後述しますが、原作ファンなら「えぇ!?全然違うじゃん!」と驚いたことでしょう。
とはいえ、あの驚きの結末だけは変わらずにドラマの最終回として採用されるとは思いますが…。
というわけで今回はドラマ化する「探偵は早すぎる」について!
- 原作小説の結末は?
- 原作小説とドラマの違いとは?
という点についてお届けしていきたいと思います!
Contents
小説「探偵が早すぎる」のあらすじとネタバレ!驚きの結末とは?
まずは原作小説の基本設定から押さえていきましょう。
・主人公は普通の女子高生・十川一華(17)。父親が亡くなったことで5兆円もの遺産を相続する。
・敵は本家筋の親族である大陀羅(だいだら)一族。一華を亡き者にして遺産を自分たちのものにしようと企む。
・探偵の名は千曲川光。事件を未然に防ぎ、同じ手段で犯人に報復する「トリック返し」
とりあえず、これだけ覚えておけばOKです。
もう少し詳しい設定
この小説の基本構造は『一華の雇った探偵 vs 大陀羅一族』というものです。
大陀羅一族は7人の兄弟姉妹にその子供たち6人を加えて計13人。
一華や家政婦の橋田は戦力にはならないので、事実上の「1対13」という図式になっています。
では、なぜこんなことになってしまっているのかというと、原因は大きく2つ。
・一華の父親が世界5位(非公表)の資産家だったから
・一華の父親は本家筋の人間ではなく、愛人の子だったから
つまり、一華は大陀羅一族にとって分家の娘。
これにより「同族内で争わない」という大陀羅一族の掟を無視して命を狙うことが可能になっているわけです。
もし一華が亡くなった場合、5兆円の遺産はまず存命中の祖父・大陀羅勝光(98)のものとなり、その後「暗殺に成功した家」の総どりになります。
例えば長女である東郷朱鳥(65)の長男・壬流古(ミルコ)が一華の始末に成功した場合、5兆円は東郷家(というより朱鳥)のものになります。
大陀羅一族はそれぞれ社会的地位も高く、一華の父ほどではないもののお金持ちばかり。つまり資金力は潤沢。
加えて残忍な性格の人物も多いため、純粋で天然なただの女子高生である一華は大ピンチなわけです。
では、一華がこの危機的状況を乗り切るにはどうすればいいのでしょうか?
ズバリ答えを言ってしまうと、唯一残された逆転の方法はカウンターです。
殺人未遂・教唆・その他もろもろの罪状…。
事件を未然に防ぎ、殺人計画の証拠を集めて訴えれば、犯人(黒幕)から遺産相続の権利を剥奪することができます。
大陀羅一族の目的はあくまで5兆円なので、こうなってしまえばレースからは脱落。
この方法で敵対する大陀羅一族の人間をすべて訴えることこそが、一華の勝利条件というわけですね。
そして、それを可能にする人物こそが、事件を未然に防ぐ早すぎる探偵・千曲川光というわけです。
※補足
大陀羅一族の人々は遺産相続の権利を剥奪されないように、自分が犯人だとは気づかれてはならないという制約があります。
そのため事故に見せかけるなど、いわゆる完全犯罪を目指さなければなりません。
そういう理由で、小説「探偵が早すぎる」には一風変わったトリックが多々登場します。
大陀羅一族の人々
・第一子長男・亜謄蛇(65)…巨大企業を率いる財界の大物【蛇】
・その長男・亮司(35)…遊び人
・その長女・紗霧(29)…長年海外に逃亡させていた危険人物
・第二子長女・東郷朱鳥(59)…東郷グループの会長の妻にして女帝【鳥】
・その長女・麻百合(31)…天然でおっとりした性格。
・その長男・壬流古(28)…切れ者のクール系イケメン。読み方は「ミルコ」。令嬢の湯布院莉奈と政略結婚させられる予定。
・その次男・牟太(26)…ワイルド系イケメン。読み方は「ムタ」
・その次女・芽瑠璃(20)…わがままで残忍な性格。読み方は「メルリ」
・第三子次男・六強(46)…貿易会社経営
・第四子次女・陣香(42)…法律事務所経営
・第五子三男・竜精(40)…投資ファンド運営
・第六子四男・貴人(35)…アパレル業界の寵児
・第七子三女・天后(28)…天衣無縫の人たらし【蜘蛛】
ちょっとネタバレしてしまうと、この全員が敵になるわけではありません。
陣香、竜精、貴人、それと亜謄蛇の長男である亮司は「首とり合戦」に不参加。
加えて、重鎮である亜謄蛇と朱鳥は子供たちに指示を出す立場であり、本人は動きません。
というわけで、残りは7人。
そのうち4人は朱鳥の子どもたちなわけですが…実は一番ヤバいのは末っ子の天后。
他の兄弟たちは金で協力者や実行犯を雇って手伝わせているのですが、天后だけは自分自身の魅力で老若男女あらゆる人間を味方に引き込み、手足のように動かします。
そんな天后だから可能な最後のトリックには驚かされましたね。
というわけで、ここからがいよいよ本編!
・誰がどんなトリックを使って一華を亡き者にしようとするのか?
・探偵はいかにしてそのトリックを見破るのか?
・「えぇっ!?」と驚く予想外の結末とは?
さっそく小説上下巻のあらすじとネタバレを見ていきましょう!
小説「探偵が早すぎる」上巻のまとめ
まずは小説「探偵が早すぎる・上巻」に収録されている第3話までのまとめをどうぞ。
★第1話「ヘビースモーカー」
・黒幕…麻百合
・実行犯…鏑木秀英(麻百合の元カレ)
・トリック…小麦アレルギーによるショック死
・概要…後天的なアレルギーの中には、アレルギー物質に長期間触れることで発症するものがある。そこで、秀英は小麦アレルギーを誘発する石鹸を一華自身に使わせることを思いつく。ちょうど一華は骨折してギプスに覆われている足のためにかゆみ止めの薬を探していたので、その効果がある石鹸だという口コミを自然に一華に聞かせれば準備は完了。あとは事前に正規の医薬品とすり替えておいた有害石鹸を一華が使い続ければ、やがて一華は小麦アレルギー体質になり、小麦成分を含む石鹸により命を落とすはずだった。
・論破…口コミに使ったエキストラは、片腕をギプスで覆っていたにも関わらず両腕の肘に石鹸を使っていると話していた。石鹸に美肌効果もあるというアピールのためだったが、片腕を怪我している人間が両腕の肘に石鹸を使えるはずがない。探偵はこの発言からトリックに気づき、石鹸を正規のものとすり替えることで計画を阻止した。
・トリック返し…秀英は重度の喫煙者。探偵はその首筋に「喫煙すると重篤なアナフィラキシーショックを起こす禁煙パッチ」を貼っていた。それに気づかず喫煙した秀英は急性アレルギー反応を起こし、病院送りに。
・結末…秀英に証言させれば麻百合の殺意を立証できる。これにより麻百合からは遺産相続の権利が剥奪されることが確定。
★第2話「毒蜘蛛」
・黒幕…六強
・実行犯…若竹友成(金で雇われたフリーター)
・トリック…毒蜘蛛に一華を咬ませる
・概要…マニアの家から毒蜘蛛を盗み出し、一華の好きなコンビニのくじ箱に入れておくことでターゲットを咬ませる。毒蜘蛛は事故により住宅街に逃げ出したように見せかけているので、故意の犯行ではなく事故として処理される。友成はコンビニ店員なので、くじ箱に蜘蛛を仕込むことは簡単。
・論破…犯行に使用する毒蜘蛛は夜行性で日光を嫌う。にも関わらず偽装では、蜘蛛は日中の庭に面した窓から逃げ出したことになる。探偵はこの矛盾からトリックに気づき、事前に蜘蛛を確保することで犯行を阻止した。
・トリック返し…命までは奪わない別の毒蜘蛛に友成を咬ませた。病院送り。
・結末…友成に証言させることで、六強からは遺産相続の権利が剥奪されることが確定。また、六強自身も毒蜘蛛に咬まれて病院送りに。
★第3話「カボチャと魔女」
・黒幕…芽瑠璃
・実行犯…養護施設から脱走した幼い兄弟。透(兄)と乃亜(妹)
・トリック…子どもにイタズラだと説明して本物の短剣で一華を刺させる、というのはフェイクで実は…
・概要…ハロウィンのイベントに乗じて、スタッフ参加している一華を狙う。子供にサプライズだと説明して本物の短剣を渡し、一華を刺させる計画…というのはフェイク。実は子供に着せた仮装にはプラスチック爆弾が仕込んであり、子供もろとも一華を吹き飛ばすというのが芽瑠璃の真の狙いだった。
・論破…イベントの受付で、透は乃亜が転ばないようスカートの丈を調節していた。これはつまり、2人の安全に無関心な人物が衣装を用意したということ。探偵はこのことから幼い兄弟に目をつけ、発見したプラスチック爆弾を解除していた。
・トリック返し…芽瑠璃の乗る車を爆破。結果、芽瑠璃は大怪我を負い片目を失った。病院送り。
・結末…探偵は幼い兄弟に施設に戻るよう言い含め、ゲームや図書カードなどの「トリート」を与えた。
★第3.5話「決戦前夜」
決戦は一華の父の四十九日の法要の日。
残る刺客は、紗霧、ミルコ、ムタ、天后の4人。
果たして大陀羅一族はどんなトリックを仕掛けてくるのか…?
小説「探偵が早すぎる」下巻4話~5話のまとめ
下巻は上巻とは違い、すべて四十九日の日に起こった出来事になります。
大陀羅一族が一華を狙えるチャンスは寺、墓、ホテルの三か所。
そのすべてが大陀羅一族の息がかかった、一華にとっての敵地です。
果たして残る4人はどんな手で一華を狙ってくるのでしょうか?
さっそく見ていきましょう!
★第4話「寺ー焼香」
・黒幕…ミルコ
・実行犯…修行僧
・トリック…天蓋を一華の頭上に落とす
・概要…天蓋とは法要の飾りの一つで、頭上に吊られるシャンデリアのようなもの。焼香の際、その天蓋が一華の真上に来るよう事前に位置を調整。あとはミルコの婚約者である莉奈がくしゃみで合図をすれば、天井裏に隠れていた修行僧が天蓋を落とす予定だった。この場合、天蓋には人為的に落とした痕跡が残ってしまうが、ミルコは寺ごと焼き払い、証拠隠滅するつもりだった。
・論破…ミルコは天蓋の位置調整のため、仏のいる場所とされる神聖な内陣と人が通れる外陣との境を、内側に動かしていた。清浄かつ不可侵の領域を狭めるような位置調整は不自然だと言わざるを得ない。探偵はそこからトリックに気づき、修行僧を捕えることで計画を阻止した。
・トリック返し…保留
★第5話「墓ー納骨」
・黒幕…ムタ、紗霧
・実行犯…佐野修平(ムタの大学の後輩)、小坊主(紗霧が寺から借りた)
・トリック…風で墓石を倒して圧し潰す(ムタ)、納骨の瞬間に自殺に見せかけて首を刺す(紗霧)
・概要(ムタ)…ムタは修平に大がかりな装置を開発させた。遠くから強力な風を発射する装置「風砲」。十川の墓は事前に手抜き工事させていたし、場所も狙いやすい墓地の真ん中。墓石が倒れる事故は報告例があるため、完全犯罪になるはずだった。
・概要(紗霧)…納骨の瞬間、一華は地下の収納スペースに骨壺を収めるため、その空間に身を乗り出すようにして屈むことになる。あらかじめ地下空間に潜んでいた小坊主が一華の首を刺し、秘密の通路を使って逃げるというのが紗霧の計画だった。小坊主の犯行は、狭霧が盾となって他の人間からは見えない。いわばそれは衆人環視による密室。謎が解けない限り、一華は自分で自分の首を刺したと結論付けるしかない。納骨の瞬間は撮影されているため、大陀羅一族の誰一人として犯行が不可能だったことは証明できる。
・結末…2人の犯行計画に気づいた探偵が、納骨する前に風砲で墓石を倒した。これでムタの計画も紗霧の計画も失敗に終わった。
・論破…ムタの場合、墓自体は手抜き工事したのに墓の立地は良好という矛盾が計画の全貌を想像させた。紗霧の場合、納骨式の撮影を許可しているということから映像記録が欲しかったのだろうと推測し、トリックに気がついた。
・トリック返し…保留
最終話「ホテルー会食」
ホテルは大陀羅一族にとって最後のチャンス。
ホテルの玄関から会食が行われる部屋に行くまでに6つもの犯行が計画され、そのすべてが探偵によって潰されました。
内訳としては、ミルコ、ムタ、紗霧が用意していた2つ目の罠がそれぞれ1人ずつ。
それに天后が仕込んでいた6名による3つの犯行計画。
計9名による事故を装った6つの犯行計画は次の通りです。
1.回転ドアの密室殺人…一華を回転ドア内に閉じ込め、あらかじめ仕込んでいたオイルを太陽光により発火させる。
2.斜め廊下の殺人…エスカレーターに乗っている一華の頭上にボウリング玉を落とす計画。老朽化したホテルの廊下は斜めになっていて、ボウリング場の前の廊下に球を落とすだけでエスカレーターのある位置に落下する。
3.熱湯…工事をしている給水メンテナンス会社員にわざと熱湯を噴出させ、至近距離から一華に浴びせかける。
4.感電…事故を装って水槽を倒し、水をライトが仕込んであるくぼみに流し込む。一華がくぼみに足を踏み入れるタイミングを狙えば感電させられる。
5.一酸化炭素中毒…ホテルの排気をふさぎ、エレベーターホールにガスを逆流させる。排気の匂いは薔薇の香りで誤魔化す。
6.エレベーターの落下…電磁ノイズをエレベーターを制御する機器に放射することで誤作動を起こさせる。過去には同様の事故の報告例もある。
これらひとつひとつに探偵が気づくに足るミスがあり、探偵がそれを指摘するシーンもちゃんと用意されているのですが、長くなるので今回は省略。
ともかくこれでミルコ、ムタ、紗霧が用意していた犯行計画は品切れ。
残るは天后が料亭の板前を取り込んで、会食そのものに仕込む最後の犯行計画だけ。
それはズバリ『毒殺』です。
★最後の犯行計画
・黒幕…天后
・実行犯…料亭「金鶴」料理長・金堂喜久雄
・トリック…毒殺
・概要…食事に毒を盛られることは一華も警戒していた。そこで一華は懐石料理の品をすべて、大陀羅一族の誰かの皿と交換させた。しかし、その行動は天后にとって予想の範囲内。天后は金堂にすべての品・すべての皿に少しずつ神経毒(テトロドトキシン)を盛らせた。大陀羅一族は全員が偏食家なので、誰もが何かしらの皿を残す。そのため毒が致死量に達するのは行儀よくすべての料理を食べる一華だけということになる。また、毒の効き目は体重に左右されるため、最も小柄な一華が最も強く影響を受けることになる。
・論破…大陀羅一族の人間が嫌う食べ物がまんべんなく取り入れられたメニューを見て気づく。
手の込んだ毒殺トリックをも未然に防ぎ、いよいよ物語はクライマックスへ!
ここからはちょっと趣向を変えて、原作小説風にお届けします。
勝利宣言
会食のトリックを阻止した千曲川は、大陀羅一族に完全勝利を宣言した。
「さあ、では大陀羅家の外道諸君。総決算だ。貴様らの今回の『犯行未遂』は以下の通り。まず長兄亜謄蛇、貴様の長女の紗霧が、納骨棺と回転ドアの密室トリックで二件。次に朱鳥。貴様の長女のマユリが、小麦アレルギーによるトリックで一件。長男のミルコが、寺の天蓋落としとホテルのエレベーターホールの一酸化炭素中毒トリックで二件。そして末娘のメルリが、子供を使った自爆トリックで一件。さらには大陀羅家の次男坊、六強の毒蜘蛛トリックが一件。
これだけでもお釣りがくるくらいだが、有終の美を飾るのはやはり本家末娘の天后、お前だ。お前のトリックはすべてこのホテルに集中している。斜め廊下、熱湯配管、水槽感電、分散毒殺の四件。
計十三件。たったひとりのかよわい女子高生相手に、揃いも揃ってよくもまあやらかしてくれたものだ。だがこの全てを私は未然に防いだ。さあ、お仕置きの時間だよ大陀羅家諸君。殺人予備罪を筆頭に、あらゆる罪状を追及していやろう。神のものは神に、カエサルのものはカエサルに…貴様らの罪は貴様ら自身に返してやる。他人の財産と地位を簒奪せんとした者は、己がそれを奪われる恐怖に怯えよ」
探偵の長い総まとめが終わる。
これで大陀羅家の野望は打ち砕かれた。
裏で犯行の糸を引いていた黒幕たちは逆に訴えられ、その身を滅ぼすのみ。
そんな終焉を感じさせる空気の中、天使のように可愛らしい声が聞こえた。
「それだけ?」
天后の声だった。
最後の犯行計画
天后には探偵すら気づかなかった奥の手が残されていた。
「…まだ気づかないか、光?」
そう口にしたのは家政婦の橋田。
橋田はいつも仏頂面で無愛想だが、今はいつものそれとも違う威圧感を身にまとっている。
橋田がヒントを出すと、探偵の表情が一変した。
「天后。貴様…このホテル自体を、倒壊させる気か!」
熱湯配管と水槽感電のトリックを阻止するために、探偵は湯と電気を止めた。
それは見ようによっては、ホテルが崩れる前兆であるとも見て取れる。
その結果、ホテル倒壊は事故として扱われ、完全犯罪が成立する。
探偵がこのトリックに気づかなかったのは、そんなことをすれば天后も大陀羅一族も巻き添えで命を失ってしまうからだ。
自らが生き残れなければ、一華を始末したところで何の意味もない。
そこで考えを止めてしまっていたから、探偵はある可能性を見逃してしまっていた。
「その天后は、偽物だ」
ホテル倒壊トリックを成立させるその答えを、橋田は口にした。
結末
会食に現れた天后は本物そっくりの偽物だった。
つまり、ホテルが倒壊しても本物の天后の身に害は及ばない。
大陀羅家には一族を裏切った者を決して許さない厳しい掟があるが、ホテル倒壊で亜謄蛇と朱鳥さえ息絶えれば問題はない。
あとは天后が手元のスイッチを押せば、老朽化した老舗ホテルは倒壊し、一華は命を落とす。
それでゲームオーバーだ。
会食の部屋の出入り口は天后(偽物)の護衛をしていた黒服の外人が守っていて、外に逃げ出すこともできない。
出入り口を巡って乱闘が発生し、混沌状態に陥った部屋の中、一華は力いっぱいに叫んだ。
「お願い、橋田!何とかして!」
「…はい。何とかしましたよ、お嬢様」
天后の手から、起爆スイッチである携帯電話が吹き飛んだ。
狙撃。
呆然とする天后に、橋田は偽物ごしに語り掛けた。
「聞いているか、天后。試合は私の勝ちだ」
橋田は天后の計画を読み、狙撃手を配置していた。
本物の天后が駐車場の車の中に乗っていることは、移動する偽物に仕込んだ無線機の範囲内にいなければならないという条件を考えれば想像できることだった。
「すまない。先代…」
探偵が力なく首を垂れる。
橋田はいつもとは180度打って変わった荒々しい口調で、天后にとどめを刺す。
「身内を標的にするという大陀羅家最大の掟破りをしてしまったお前は、もはや一族から放逐されたも同然。お前はお前の一族という大きな後ろ盾を失ったのだ。泣くがいい天后。喚くがいい天后。もはや法の力を借りるまでもない。お前は事実上、この遺産相続争いから脱落したのだ…!」
『あなたは、何者?』
無線機ごしに、天后の声が聞こえる。
「そんな愚問は…」
橋田は猛々しく天后の質問を切って捨てようとしたが、困惑し怯えた様子の一華を見て答えを変えた。
「私か。私はただの…家政婦だ」
【エピローグ】橋田の正体と結末
大陀羅一族と一華の戦いは、一華チームの完全勝利で終了。
それもこれもすべて探偵・千曲川光と橋田のおかげ…なのですが、気になるのはやっぱり橋田の正体ですよね!
橋田は亡き一華の父親に雇われて、幼い頃から一華付きの家政婦としてずっと一緒にいた家族のような存在でした。
年齢不詳・経歴不明の謎の家政婦、その正体は裏の世界で恐れられている都市伝説「トリック返し」の一人!
正確にはすでに引退しているので「元・トリック返し」です。
探偵・千曲川光は橋田の後継者であり、弟子の一人。
クライマックスの展開からもわかるように、トリック返しとしての実力は橋田の方が上です。
とはいえ、橋田は一華のそばから離れられないので、弟子である千曲川を呼び寄せたんですね。
では、そもそも「トリック返し」とはどんな存在なのでしょうか?
それは古代から存在していたという報復者の名称で、正式には「タリオ」という名前があります。
タリオはハンムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」と同じ同害報復を原則とする集団。
その技術は師匠から弟子へと受け継がれていきますが、今現在、何人のタリオが存在しているのかは不明です。
彼らは悪人が悪を成す前に同じ苦しみを悪人に味合わせ、反省を促すことをモットーとする存在。
その技術は並外れていて、ざっくり言えばめちゃめちゃ強い人たちなんですね。
じゃあ、そんなタリオの1人だった橋田がどうして家政婦をしていたのでしょうか?
橋田はタリオとしては優秀でしたが、その代償として正常な人間性を失ってしまっていました。
例えば、橋田には愛情を感じたり表現したりすることができません。
そんな橋田に一華の父は言いました。
「私の娘の下で、感情を学べばいい。あの子は感情が本当に豊かだから」と。
そういうわけで橋田は十川家の家政婦兼ボディガードとして長年勤めてきたのでした。
結末は?
事件の後、橋田は一華に退職願を渡しました。
その理由は…橋田の口から説明してもらいましょう。
「今回の件で私は気づきました。私は何も変わっていない。どころか下手をすると、これまで抑えていた分、私の中の虎が激しく暴れだすかもしれません。なので私は身を引く決心を固めました。わかっていただけますか。私はお嬢様に…この何もない中身を見せてしまうのが、怖いのです」
表情には現れないものの、橋田が一華を大切に思っていることは明らかでした。
だからこそ橋田はそんな一華に怖がられたり軽蔑されたりすることを恐れて、自分から離れようとしていたのです。
そんな橋田の本音を知った一華は、橋田を優しく抱きしめて言いました。
「確かにあのときは怖かったよ。私の知らない橋田がいるとわかって怖かったよ。でもそんな橋田の怖い顔も、私は一晩寝れば忘れられる。馬鹿だから。橋田が感情豊かだなんて最初から思ってもいない。愛情なんて別に知らなくてもいい。それが橋田なんだから。橋田は…橋田でいい」
一華に抱きしめられ、橋田は珍しく目を左右に泳がせています。
「いいよ。橋田。辞めても。お父さんと橋田の契約は、今日で終了。そして明日からは…私が橋田の、新しい雇用者だから」
「…いいのですか、お嬢様。私の給料はお高いですよ?」
「倍額でもいいよ。私って今、とってもお金持ちだから」
一華は微笑んで橋田をもう一度ぎゅっと抱きしめました。
…という感じで結末はハッピーエンド!
橋田と一華の優しい関係性がなんとも素敵なラストでした。
ドラマ「探偵が早すぎる」は原作小説と全然違う!?
最初に断っておきたいのですが、私は「設定が違うからドラマ版はダメだ」などとは思いません。
原作には原作の面白さが、ドラマにはドラマの面白さがあると思います。
そのうえで、あえて原作を基準としてツッコミを入れていくとしたら…
まず、なんで千曲川光がおっさんになってんの?
滝藤賢一さんは私も好きな俳優さんですが、そういうこっちゃないんです。
原作の千曲川光は声も容姿も所作もすべてが中性的な麗人、という設定なんですね。
詳しく言えば「体は男、心は女、しかして同性愛者」という設定であり、これを実写化するとしたら宝塚トップスターみたいな感じになるはずなんです。
それが、どうしておっさん(失礼)なのか。
ドラマ公式サイトのキャラクター紹介には「偏屈な性格で、コミュニケーション能力が著しく欠如している」と書かれてありますが、この設定もドラマオリジナルですね。
原作の千曲川はちょっと皮肉屋ではありますが、まるで英国紳士のように柔らかく人と接する人柄です。
というわけで、ドラマの千曲川と原作小説の千曲川はほぼ別人だと言っても過言ではないでしょう。
以上のように、現時点で判明しているドラマと原作との大きな違いは主に「キャラクター設定」です。
1人ずつ長々と突っ込んでいくと本当に長くなるので、できるだけ手短にツッコミを入れていきたいと思います。
・一華…原作の一華は天然で純粋な女子高生(17)です。一方、ドラマの一華は勝気な性格の女子大生(21)に変更されています。年齢も性格も広瀬アリスさんに寄せてる感じがしますね。原作の一華のイメージはむしろ広瀬すずさんに近い気がします。
・橋田…原作では家事全般イマイチで適当な言動も多い(のが魅力の)橋田ですが、ドラマではマナーや言葉遣いに厳しい一流家政婦にチェンジ。
・城之内翼…一華が恋しているイケメン。しかし、原作小説には登場しない。え、誰?
・律音…どうしてデブキャラにした。
キャラクター設定といえば、全般的に年齢は原作を無視していますね。
役者さんに合わせるためというのは理解できるのですが、マユリとミルコの生まれ順が逆になっているのにはビックリしました。
また、現時点では公式サイトで紹介されている大陀羅一族が亜謄蛇、朱鳥、マユリ、ミルコのみという点も気になります。
せめて紗霧、ムタ、天后くらいは必要だと思うのですが…もしかして出てこない?
以上のことを踏まえて、ちょっとドラマ「探偵が早すぎる」について予想を立ててみました。
ドラマ「探偵が早すぎる」はこうなる!?
1.探偵と一華による痛快コメディ・ミステリー
原作の探偵は犯行阻止に忙しく、ほとんど一華の前に姿を現しません。一華が初めて探偵と会ったのは上巻のラストですし。
一方、ドラマの一華と探偵は一緒に行動することが多くなりそうな様子。原作にはない2人の掛け合いシーンに注目です。
2.大陀羅一族はほとんど登場しない
ドラマ公式サイトで紹介されている亜謄蛇、朱鳥、ミルコ、マユリがほぼ敵のすべてなのではないでしょうか。
原作のラスボスである天后すら登場するかどうか怪しいと思っています。
これに伴い、登場する4人の性格や設定はほぼドラマオリジナルのものになると予想されます。
3.タリオ設定や橋田のラストはなかったことに?
もし原作通りの筋書きにするのなら、私ならキャスト順を「一華 → 橋田 → 千曲川」という順番にします。物語における重要度の順ですね。
一方、ドラマのキャスト順は「千曲川 → 一華 → 朱鳥 → 橋田」の順番。橋田の重要度の低さがうかがえます。
原作のラストでは一華と橋田の絆にうるっときたものですが、ドラマではそのあたりは描かれないのではないかと予想します。
4.ラスボスは朱鳥?
これもキャスト順から予想できることですね。
登場する大陀羅一族も、亜謄蛇を除けば朱鳥の子どもたちだけですし。
ラスボスが朱鳥ということは、最終回の展開も原作とは異なるものになるのではないかと思います。
ホテルでのトリックラッシュや分散毒殺、さらには奥の手のホテル倒壊トリックなど原作のクライマックスにはワクワクしたものですが、ドラマでは別の結末が用意されるのではないかと思います。
※ドラマの新キャラ城之内翼ですが、恋愛要素枠なのか、裏切って実は敵だった枠なのか微妙なところですよね。大穴として城之内がラスボスという可能性も?
★結論:ドラマと原作小説はほぼ別物!
なんというか「遺産の5兆円のために親族から命を狙われている女の子がいて、それを事件を未然に防ぐ『早すぎる探偵』が守る」という超基本設定だけを原作から借りて、新たにイチからコメディタッチに組み立てなおしたのがドラマ「探偵が早すぎる」という印象ですね。
原作はあるものの、事実上のオリジナルドラマと言っても過言ではないでしょう。
だからこそ小説を読んだ私でも十二分に楽しめる、というメリットはあるのですが、原作小説がドラマと同じ内容ではないということだけは声を大にして言いたいと思います。
小説「探偵が早すぎる」もめちゃくちゃ面白いので「そんなにドラマと違うの?」と思った方はぜひ読んでみてください。きっと楽しめると思います。
まとめ
井上真偽「探偵が早すぎる」がドラマ化!
今回は原作小説のネタバレ解説やドラマとの違いなどについてお届けしました!
では、改めて小説とドラマそれぞれの重要ポイントをまとめてみましょう。
【小説】
・探偵の影は薄い。主人公は一華で、最強キャラは橋田。
・ラスボスは天后。朱鳥の子どもたち4人も敵として登場。
・遺産争いは探偵と橋田の活躍により完全勝利。結末では一華と橋田の感動的な絆が描かれた。
【ドラマ】
・探偵が主人公。橋田の影が薄くなると予想。
・ラスボスはおそらく朱鳥。子供は2人だけ登場。
・小説とはほぼ別物の痛快コメディミステリー。
小説と比べてみれば一目瞭然なのですが、ドラマ版はかなりオリジナル要素が強めです。
少なくてもキャラクター設定の段階ではほぼ別物と言えるくらいの違いがあります。
となれば、気になるのはストーリーやトリックもオリジナルなのかという点ですよね。
個人的には唐突な新キャラ・城之内翼にはストーリー上の意味があると思うのですが…さて、どうなるでしょうか。
いろんな意味で気になるドラマ「探偵が早すぎる」は7月19日から放送開始!
原作小説とは違った面白さに期待です!
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