映画「赤い雪 Red Snow」
このいかにも「何か重大な真実が隠されています」という感じのシリアスな雰囲気がたまりませんよね!
今回は映画「赤い雪」のネタバレ解説・考察をお届けします!
- 30年前の少年誘拐事件と19年前の火災事件の真相とは?
- 主人公の記憶に隠された《秘密》とは?
- 記者『木立省吾』の正体とは?
Contents
あらすじ
30年前、東北地方のある町で6歳の男の子が消えた。
住民は誘拐の容疑者として水商売をしていた美女『江藤早奈江』を怪しんだが、証拠不十分で逮捕には至らなかった。
それから11年後。
早奈江はある火災事件の犯人として起訴された。
裁判では少年誘拐の容疑についても追及されたが、早奈江は最後まで黙秘を貫き無罪判決を勝ち取った。
そして、現在。
消えた少年の兄『白川一希』に、記者『木立省吾』が告げる。
「江藤早奈江の娘の居場所がわかりました。事件の真相を明らかにしませんか?」
早奈江の娘『江藤早百合』は過去の事件を目撃していた可能性が高い。
また、江藤早奈江の現在の居場所を知っている人間がいるとすれば、早百合において他はない。
一希はこの30年間で数え切れないくらい思い出そうとした記憶をたどる。
前を走る弟の後ろ姿。
猛吹雪によるホワイトアウトで、一瞬、何も見えなくなる。
そして視界が戻ったとき、弟の姿は消えていた。
弟が消えた場所は、江藤早奈江のアパートの前。
果たして弟はアパートに入っていったのか?
それとも、そのまま道を進んで川に落ちたのか?
……何度自問しても思い出せない。
弟と家族、そして自分の人生を狂わせた事件の真相を知るため、一希は早百合に接触する。
「あの日、弟に何があったんだ。君の部屋に行ったのか? 本当のことを教えてくれ」
「本当のこと? 本当のことっていったい何なんだよ? だってさ、だって……全部、全部……あんたが悪いんだろ?」
果たして早百合の言葉の意味とは?
一希の記憶に吹く吹雪が止んだとき、事件の真実が明らかになる……。
登場人物
白川一希(40)
30年前の事件で消えた少年の兄。現在は漆(うるし)職人。
白川卓巳(当時6歳)
一希の弟。30年前に消えた。遺体は見つかっていない。
江藤早奈江
30年前の事件の容疑者。現在は行方不明。
江藤早百合(36)
早奈江の娘。
子ども時代は学校にも行かせてもらえず、押し入れの中に監禁されていた。
現在は『海氷島』の旅館でバイトしている。
木立省吾
江藤早奈江の事件を追う記者。
目撃者である早百合から情報を得ようと海氷島へ。
宅間隆
早百合と同居している老人。
もともとは早奈江の連れだった。
高田幸男
19年前の火災で亡くなった早奈江の夫。
早奈江によって多額の保険金をかけられていた。
3つの事件の概要
30年前の少年誘拐事件
激しい雪の夜、卓巳(当時6歳)は友だちからの電話で呼び出され、家を飛び出した。
母親から命じられて一希(当時10歳)が後を追ったが、途中で見失ってしまった。
見失った場所は江藤早奈江の住むアパートの前だったが、卓巳がその中に入っていったかは不明。
駆けつけた警官と母親が早奈江の部屋のドアを叩いたが、反応はなかった。
翌日から大規模な捜索が始まったが、卓巳の行方はわからなかった。
失踪直後、早奈江は家賃滞納により夜逃げしている。
江藤早奈江のアパートは、卓巳が申告した友達の家とは逆方向だった。
19年前の火災事件
夜中の火事で一軒家が全焼し、住人の高田幸男が亡くなった。
新妻だった早奈江と娘の早百合は無事だった。
幸男の死亡により、早奈江は多額の生命保険金を受け取った。
警察は保険金殺人の線で早奈江を起訴したが、状況証拠しかなかったため、裁判は無罪判決で幕を閉じた。
目撃者の証言によれば、火事の夜、燃え盛る家の前で立っていた江藤母娘はまるで火事を予知していたかのように他所行きの服を着ていて、荷物もまとめられていた。
また、火事現場からは幸男以外の人間の骨が見つかっている。
損傷が激しくDNA鑑定は不可能だったが、火事のずっと前に亡くなった人間の骨であることは明白だった。
江藤母娘の余罪
卓巳失踪事件から高田幸男宅火災までの11年間で、江藤母娘の周囲からは3人の男が姿を消している。
男たちはそれぞれ早奈江と知り合って1年以内に300万円~1500万円の金を早奈江に貸していた。
金を貸した後、2人は蒸発し、1人は遺書もなく自ら命を絶っている。
そのうちの1人、早奈江に1500万円貸した不動産会社社長の林克之については、失踪当日の朝に12歳から15歳くらいの、背の高い痩せ型の少女と山に入っていく姿が複数の町民から目撃されている。
ネタバレ解説
江藤早奈江はすべての事件の犯人なのか?
裁判が無罪判決だったことからもわかるように、早奈江が3つの事件の犯人だったという決定的な証拠はありません。
しかし、状況証拠的には誰がどう見ても真っ黒!
早奈江が金目的で何人もの人間の命を奪ったことは明らかです。
では、卓巳の事件の場合は?
木立の取材の中で、当時その場に居合わせた南巡査は次のような仮説を示しています。
1.早奈江は身代金目的で卓巳を誘拐した(一希・卓巳は地元の名士の子供)
2.しかし、想定よりも早く警察と母親が家のドアを叩き始めたため、焦った早奈江は大声を出されないよう卓巳の口をタオルで塞いだ。
3.無我夢中で卓巳の口を封じているうちに時間が経過し、早奈江が気がついたときには卓巳は絶息していた。
なかなかリアリティのある想定です。
この仮説によれば、卓巳が命を落としたのは事故というか、早奈江の計画の範囲外だったということになりますね。
早奈江は事件後すぐに夜逃げしていますが、これも家賃滞納から逃げるためというより、疑惑の目から逃れるためだったと考えたほうが自然でしょう。
早奈江はもともと地域の中でも浮いた存在であり、卓巳の母親からも容疑者扱いされていましたからね。
そのまま住み続ければいつかは部屋に踏み込まれて卓巳の遺体が見つかっていたかもしれませんし……。
『卓巳の遺体』
早奈江が逃げてからも大規模な捜索は続けられましたが、卓巳の遺体は発見されませんでした。
では、早奈江は卓巳の遺体をどうしたのでしょうか?
下手に遺体を捨てたり処分したりしようとすれば、そこから犯行が明るみに出ることにもなりかねませんし、ひとまずは夜逃げ先の町に持っていったのではないでしょうか。
とはいえ、いつまでも遺体を身の回りに置いておくのも、それはそれでリスクです。
さあ、ここで卓巳の事件が19年前の火事事件につながります。
火災現場から見つかった謎の人骨。
もしそれが卓巳の骨だったとしたら……?
早奈江は保険金殺人と同時に卓巳の事件の証拠隠滅を図っていたということになりますね。
高田幸男の命を奪うためにわざわざ目立つ放火という手段を選んだのも、卓巳の遺体を燃やすという目的があったからだと考えれば納得できます。
しかし、これだけ状況証拠が揃っていても、裁判では早奈江の罪を暴けませんでした。
言うまでもなく有罪判決のためには決定的な証拠、あるいは証言が必要不可欠だからです。
だから、読者としてもここまでの情報からは「たぶん早奈江が犯人だろう」としか判断できません。
もし早奈江の罪を決定づけられる証拠があるとすれば、それは犯行の目撃者である江藤早百合の証言のみ。
物語の終盤の注目ポイントは「早百合が何を語るのか」という点でした。
では、その結果は……?
以下は、物語のクライマックスで早百合が一希に言ったセリフです。
「火事の日、ババアはあの子が入った袋に火をつけたんだ。私はただ、見ていることしかできなかった……」
この言葉を信じるならば、最後の最後で決め手に欠けていた早奈江の犯行が確定します。
放火の犯人も、卓巳を誘拐して命を奪ったのも江藤早奈江。
もちろん早百合が嘘をついている可能性もあるのですが、こんな嘘をつく理由も特にないですし、この証言をした状況的にも信ぴょう性は高いと判断してもよさそうです。
江藤早百合と宅間隆
江藤早奈江が1人ですべての犯行を立案・実行していたのかといえば、答えは「NO」
結論からいえば宅間隆と早百合も犯行に加担していました。
具体的には
- 宅間隆 = 計画
- 早奈江 = 実行
- 早百合 = 実行の補助
という分担ですね。
最初は「虐待を受けていた娘」として被害者の1人のような立場だったと思われていた早百合ですが、『消えた3人の男』の事件では被害者と一緒に山に入っていく姿が目撃されており、最終的には早奈江の共犯者になっていたことがわかります。
一方、宅間隆の立場は共犯者というより『黒幕』
作中で明言されているわけではないのですが、私はそもそも卓巳を誘拐して身代金をとろうと持ちかけたのは宅間だったと考えています。
その根拠は次の通り。
1.30年前、早奈江はある男に惚れこんでいた。早奈江は男のことを「先生」と呼んでいた。
2.早奈江の生活は行き当たりばったりで、決して頭がいいタイプではなかった。それなのに卓巳の事件以降、早奈江は見事な気配りで足跡を消している。
3.現在、宅間は早百合と同居しているが、もともとは早奈江の連れだった。
つまり、宅間の正体はかつての「先生」であり、早奈江を利用して金を手に入れていたと考えるのが自然なんです。
早奈江が痕跡を残さずに『空白の11年間』を過ごしてこれたのは、宅間の入れ知恵があったから。
一見、「良い身なりをしていたオーラのある男」と評されていた先生と、飲んだくれで早百合のヒモになっている宅間が同一人物だとは思われませんが、海氷島のスナックでママに「宅間さんは頭がいいのよ。大学院を出ているの」と言われていたり、木立に「家の外での宅間は別人のように人当たりがいい」と評されていたり、「先生=宅間」を思わせるポイントはいくつかあります。
そして、極めつけは海氷島で起こった失踪事件。
物語の終盤、宅間とスナックで意気投合していた成金の男が行方不明になるという事件が起こるのですが、これは明らかに《早奈江の周りで消えた3人の男》と同種の手口です。
おそらく、いつものように計画は宅間で、実行犯は早百合。
早奈江を利用して人の命と金を奪っていた宅間は、今もなお早百合を操って同じことを繰り返している、ということですね。
木立は「宅間が働きもせずに毎日飲んだくれていられるのは、早奈江から高田幸男の保険金の一部を受けとったからだろうか?」と推測していましたが、金の出どころはそれだけではなさそうです。
木立の観察によれば、家の中での力関係は明らかに『宅間 > 早百合』
宅間は生活費を早百合に稼がせていますし、夜は性欲のはけ口として早百合を慰み者にしています。
黒幕である宅間や、大人として宅間に従う意思決定をした早奈江と比べると、子どもの頃から虐待され続け、選択の余地なく人生も性格も歪めさせられてしまった早百合は哀れですよね。
今でこそ「ヤベー奴」になってしまった早百合ですが、3人チームの中では唯一《被害者としての一面もある》という点で同情の余地があるように思われます。
木立の正体
物語の序盤から、私は『ある事』が気になっていました。
それは「どうして木立省吾は江藤早奈江の事件を追いかけているのか?」ということです。
30年前の少年失踪事件と19年前の火災事件。
どちらも古い事件ですし、とりたてて世間の注目が集まる事件というわけでもありません。
しかも、江藤早奈江の場合は無罪判決が出ていて、時効も成立しています。
では、なぜ木立省吾は早奈江の事件にこだわるのでしょうか?
そこには何か理由があると思っていたのですが……やっぱりありました。
木立省吾の本名は『高田省吾』
木立の正体は19年前の火災事件で亡くなった高田幸男の甥っ子だったのです。
当時、幸男の家族はみんな早奈江との結婚に反対していました。
早奈江の不吉さ・不気味さを肌で感じていたからです。
しかし、幸男は家族の反対を押し切って結婚を強行。
その後、まるで呪われているかのようにどんどんやせ細っていきました。
やがて、高田家の祖父は幸男を勘当することを決意。
手始めに毎月振り込んでいたアパートの管理費をすべて凍結しました(高田家が裕福な家だったことがわかります)
そして1月後、ついに法的な勘当の手続きをとろうとしたタイミングでの火災事故。
「これ以上、幸男から金を搾り取ることはできない」と判断した早奈江の犯行だとしか考えられません。
残された高田家の家族は激しく後悔しました。
「もっと強く結婚をとめておけばよかった」と。
こういう経緯があって、高田省吾は記者になることを志しました。
「いつかこの事件の真相を明らかにする」と誓って……。
物語の結末は?
海氷島で資産家の男が失踪した事件。
宅間と早百合による犯行だと察した木立は、2人が留守の隙を狙って家の裏庭を掘り返すことにした。
雪と土を掘り返して出てくるのはゴミばかり。
それでも掘り続けていると、やがて大きな筵(むしろ)で覆い隠された深く大きな《穴》が出てきた。
穴の中には何も入っていない。
しかし、穴の土壁をよく見てみると、服の切れ端らしきボタンがついた布が埋まっている。
その布を調べようと手を伸ばしたその時、木立の頭を強烈な痛みが襲った。
背後から頭部を叩きつけられたのだ。
泥の上に倒れ込みながら、木立は問う。
「早奈江は? どこに埋めた?」
返答のかわりに、再び頭部に激痛が走る。
そして、木立はそのまま《穴》に蹴り入れられた。
「派手に掘り返しやがって」
遠くで、出かけているはずの宅間の声が聞こえた……。
一希がそのニュースを聞いたのは、海氷島から本土に戻って数日後のことだった。
ラジオから流れてくる声が告げる。
「……十九時頃、海氷島の平屋から出火し、六十代と見られる男性の遺体が発見されました……平屋の庭から、タカダショウゴさん三十八歳と見られる男性の遺体も発見され、延焼した裏山は……鎮火しました。県警は、同居人の三十代の女性の行方を追っています……」
物語の結末と現在の早奈江について
やや曖昧な部分のある結末ですが、限られた情報をもとに推測すると、次のようなことが起こったのだと思います。
1.秘密を嗅ぎまわる木立を宅間が始末し、庭に埋めた。
2.早百合が家に放火。宅間を亡き者にして逃走した。
木立が庭の《穴》の土壁に服の残骸を見つけていたことから、宅間は庭(もしくは裏山)に埋めることで遺体を処理していたのではないかと考えられます。
ニュースで触れられていなかったので、最近始末した成金男の遺体は裏山の方に埋めていたのかもしれませんね。
庭に埋められていたなら、木立の遺体と一緒に発見されそうなものですし。
ただ、たとえば「遺体を埋めてから長い年月が経過していた」としたらどうでしょう。
火事によって痕跡が燃えつくされていたとしてもおかしくありません。
そこで思い出されるのが「早奈江は? どこに埋めた?」という木立のセリフ。
木立自身、とっさに口をついて出た言葉だったようですが、これはかなり的を射た指摘だったのではないかと思います。
つまり、現在行方不明の江藤早奈江はすでに宅間と早百合によって始末されていたわけです。
秘密を暴いたかのような指摘をしたからこそ、木立は始末されたのではないでしょうか。
※早奈江が始末されたタイミングや埋められた場所は不明。島に来る前に始末されてどこかの山に埋められたのかもしれませんし、遺体として島に運び込まれて庭(あるいは裏山)に埋められたのかもしれません。
では、なぜ宅間は早奈江を始末したのでしょう?
その理由は想像に難くありません。
キーワードは『時間の経過』
かつて妖艶な美女だった早奈江が老いる一方で、子どもだった早百合は成熟した女性へと成長していきます。
宅間にしてみれば早百合さえいれば(いろんな意味で)十分になったため、早奈江を始末したのでしょう。
早奈江は宅間に惚れていた節があるので、宅間が自分から娘に乗り換えるなんてことを許すはずがありません。
宅間としては何をしでかすかわからない早奈江の口を封じるためにも、命を奪う必要があったわけです。
あるいは単純に、宅間としては有限である保険金を早奈江と山分けするのではなく、独占したくなったのかもしれません。
※早百合は自我のない《道具》のような扱い
それに、宅間としては早奈江さえ始末すれば気を遣わずに自由に生活することができるわけですし……考えれば考えるほど「江藤早奈江はすでに宅間によって始末されている」という想定が補強されていきます。
さて、そんなド悪党の宅間も、最後には報いを受けてこの世から去りました。
宅間が巻き込まれるように家に火をつけたのは、間違いなく行方不明中の早百合でしょう。
早百合としては宅間に恨みしかないでしょうし、動機は十分。
ただひとつ疑問があるとすれば「なぜ今、このタイミングで?」ということですが、これは一希との出会いがきっかけになったのでしょうね。
我を忘れて早百合の命を奪いかけるほどの一希の情念に接して、早百合の中にどんな思いが芽生えたのかはわかりません。
後悔か、それとも憎しみか。
いずれにせよ一希との出会いによって、早百合の心境には何らかの変化が生まれたのでしょう。
その結果が「宅間に復讐を果たして逃亡する」という結末。
歪んではいますが、ある意味ではここからやっと早百合の人生が始まるのかもしれないな、と思いました。
一希が思い出した記憶とは?
あらすじに登場したこのセリフを覚えていらっしゃるでしょうか?
「本当のこと? 本当のことっていったい何なんだよ? だってさ、だって……全部、全部……あんたが悪いんだろ?」
これは早百合が一希に対して言ったセリフなのですが……ちょっとおかしいですよね?
だって、30年前の事件において、一希はただ『卓巳を見失った兄』だったわけで、責任を負わされるような立場ではなかったはずですから。
でも……もし真実がそうじゃなかったとしたら?
30年前の事件当日、本当は一希は何を見て、何をしたのか?
早百合と出会ったことで、一希はついに事件当日の記憶を思い出します。
ズバリ結論からいえば、一希は卓巳が早奈江のアパートに入るところを見ていました。
それだけではありません。
ドアの郵便受けの隙間から、早奈江の部屋の中に卓巳がいることを確認していました。
では、なぜ一希はそのことを母や警察に言わなかったのでしょうか?
その答えは『嫉妬』
当時10歳だった一希は、甘え上手である卓巳の方が町の人々から、そして何より母から愛されていたことに気づいていました。
とはいえ、兄弟仲が悪かったわけではありません。
一希は兄として弟への嫉妬をギリギリのところで我慢していたのです。
しかし、郵便受けの隙間から見た光景……早奈江に抱きかかえられて嬉しそうに笑っている卓巳の姿を見た瞬間、一希の我慢は限界を迎えました。
なぜなら、一希は母とは真逆の美しさを兼ね備えた早奈江のことが大好きだったからです。
実は、事件前からすでに一希と早奈江の間には接点がありました。
下校途中に声をかけられて、一希は早奈江の部屋に上がったことすらあったのです。
名士の家に嫁ぎ、堅苦しい生活に心身をすり減らしている母とは違って、自由で奔放な早奈江。
一希はそんな早奈江のことが大好きでした。
だから、早奈江の部屋の中の光景を目撃したとき、一希は母を二度奪われたような、自分の女を二度盗られたような狂おしい嫉妬に駆られたのです。
では、ここで一度情報を整理してみましょう。
1.30年前のあの日、卓巳は早奈江に呼び出されてアパートへ向かった。
2.一希は卓巳が早奈江の部屋の中にいることを目撃していた。
3.一希は嫉妬の感情から「卓巳の姿を見失ってしまった」と嘘をついた。
4.卓巳が消えたことで白川家は崩壊。いつしか一希は自らの記憶を改ざんし、「あの日は本当に卓巳の姿を見失っていた」と思い込むようになっていた。
ラストシーン。
すべてを思い出した一希は激しい後悔に襲われ、ふらふらと船で海に出ます。
「もう戻るつもりはなかった」という一文から、おそらくそのまま命を捨てるつもりなのだろうと推察されます。
もし、あのときすぐに「卓巳は早奈江の部屋にいる」と母や警察に話していれば……。
「全部、全部……あんたが悪いんだろ?」
確かに一希は弟を見ごろしにしました。
しかし、早百合の言うように全部が一希のせいだったとは思いません。
一希にしてみれば、まさか「弟がどこに行ったのかは知らない」という小さな嘘がこんな大ごとになるとは思いもしなかったことでしょう。
それに、母親が2人の子供に公平に愛情を注いでいれば悲劇は回避できたはずです。
では、なぜ母親が卓巳をひいきしていたのかといえば、古めかしい旧家のルールを強いる義母への不満を、一族の長男である一希にぶつけていたから。
もし、一希の父が、祖母が、もっと母をいたわっていれば……。
とはいえ、白川家は旧家として地域住民からの視線も考えなければなりません。
つまり、田舎に特有の陰湿な空気、相互監視的な風習すらも、卓巳の事件の遠因といえるわけです。
こういう背景がある以上、事件の責任を誰かひとりに求めることはできないでしょう。
悲しい事件だった、としかいいようがありません。
ただ、一希にしてみれば「嘘をついた」ことはもちろんですが「記憶を改ざんして被害者ぶっていた」ことが何より許せないのでしょうね。
あまりにも切なく、そしてやるせない結末でした。
早奈江側から見た30年前の事件
状況的に「卓巳は早奈江から呼び出されてアパートに行った」と考えるのが自然です。
早奈江の目的はもちろん身代金目的で卓巳を誘拐すること。
では、卓巳は何故「友だちの家に行ってくる」という嘘までついて早奈江の家に行ったのでしょうか?
小説を読み解くと、こんな経緯が想像できます。
1.早奈江はまず一希に声をかけて、弟の卓巳も部屋に連れてこさせていた。
2.早奈江は何度も卓巳を部屋に招いていて、警戒心を解くことに成功していた。
「友だちの家に行く」という嘘が自発的なものだったのか、早奈江からの指示だったのかはわかりませんが、ともかく卓巳は「母親から止められること」と知りつつ早奈江の家に行くことにしたわけです。
きっと一希と同じように、卓巳もまた母親にはない魅力を持った早奈江のことが好きだったのでしょう。
では次に、この事件を早奈江の側から見てみましょう。
おそらく早奈江は最初から卓巳を誘拐するつもりで、その準備段階としてまずは一希に声をかけたのではないでしょうか。
それは、長男である一希よりも母親から愛されている卓巳のほうが人質としての価値があるという(宅間の)判断によるものだったのでしょう。
つまり、皮肉なことに一希は母親から冷遇されていたからこそ誘拐の標的にならずに済んだということになります。
そんな背景を想像すると、結末のやるせなさがさらに強く感じられました。
タイトル「赤い雪」の意味は?
以下、小説(ノベライズ)より抜粋。
あのアパートに降る雪だけは、なぜか赤かった。この地域は全国的にも記録的に降る。豪雪を溶かすために敷地には何本もの水道管が設置されて、古管から流れた錆び水が、敷地全体を見事な赤色に染め上げていた。
ヒューマンサスペンスですし「赤=血」という連想をしていたのですが、実際には事件が起こったアパートの特徴を示したタイトルだったんですね。
「赤い雪」は実話?
「赤い雪」は実話をベースにしたフィクションです。
※コメントでご指摘いただきました!
この話の実話は城丸君事件が元になっています。
ちょっと調べてみたのですが、当たりっぽいですね。
Wikiのリンク置いておきます。
まとめ
今回は映画「赤い雪 Red Snow」のネタバレ解説・考察をお届けしました。
『あの日、記憶からも現実からも弟は消えた』
結末まで知っていると、このキャッチコピーの印象も変わってきますね。
実話がベースになっているからか、どこか生々しい不気味さの漂う作品でした。
映画『赤い雪 Red Snow』の配信は?
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この話の実話は
城丸君事件が元になっていす。