ラストに驚き 記事内にPRを含む場合があります

『世にも奇妙な君物語』ネタバレ解説!全5話のあらすじ結末は?【朝井リョウ】

朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』を読みました!

タイトルそのまま「世にも奇妙な物語」を意識した作品で、本家ドラマの小説版みたいな感じです。

  • シェアハウスの秘密
  • 非リア充が裁かれる世界

など全5編が収録されていて、どの短編もゾッとするようなラストで結ばれます。

文庫の帯には《オチがすごい!》という自信たっぷりな売り文句。

「世にも」の世界観やイヤミス系が好きな人におすすめです。

今回はそんな小説『世にも奇妙な君物語』全5話すべてのあらすじから結末までの内容を紹介していきたいと思います。

盛大にネタバレしています。ご注意ください。

あらすじ

異様な世界観。複数の伏線。先の読めない展開。

想像を超えた結末と、それに続く恐怖。

もしこれらが好物でしたら、これはあなたのための物語です。

待ち受ける「意外な真相」に、心の準備をお願いします。

各話読み味は異なりますが、決して最後まで気を抜かずに――では始めましょう。

朝井版「世にも奇妙な物語」

(文庫裏表紙のあらすじより)

ネタバレ

『世にも奇妙な君物語』は全5話の短編集です。

ストーリーは1話ずつ独立していて、各話ラストには「どんでん返し」が用意されています。

そして、最後の第5話では各話がリンクして――。

ぱんだ
ぱんだ
どきどき

それでは、さっそく第1話から見ていきましょう。

【第1話】シェアハウさない

社会人4人が暮らすシェアハウス。

住人は年齢も性別もバラバラで、特に貧しくもなければ、出会いを求めているわけでもないらしい。

では、彼らはいったいどうしてシェアハウスに住んでいるのか?

フリーライターの田上浩子は特集記事のネタになりそうな彼らに興味を持った。

 

  • 真須美(40代)
  • 由可里(20代後半)
  • 章大(30歳)
  • 良治(40代半ば)

シェアハウスの住人たちはみんな異性にモテそうなのに、独身だ。

そして、共通して酒を飲まない。

壁にかけられたホワイトボードは帰宅の予定を書き込むのが、この家のルールらしい。

それにしても、と浩子は思う。

予定より遅く帰宅したとき、由可里はしきりに謝っていた。自立した社会人4人のシェアハウスなのだから、あんなに慌てて謝ることもないだろうに。

それに、真須美が居酒屋にいたことを隠そうとしているのも気になる。この家には禁酒のルールでもあるのだろうか。

 

浩子には目標がある。

ジャーナリストとして、性犯罪をテーマにしたノンフィクションを執筆することだ。

子どものころ不審者に襲われた経験がある浩子だからこそ、伝えられるものがあると思っている。

「首、細くてかわいいね」

気持ち悪い不審者の言葉が、今も耳にこびりついている。

防犯カメラのない田舎での出来事だった。犯人はまだ捕まっていない。

 

ぱんだ
ぱんだ
ここからオチだよ

 

テレビの画面に、信じられないニュースが映っていた。

【殺人と死体遺棄の容疑で会社員、相川由可里容疑者を逮捕】

画面に映し出されているのは、間違いなく由可里だった。幼児に暴行を加え死亡させ――とキャスターの声が続いている。

「由可里さん、うそ」

呆然とする浩子の横で、良治がつぶやく。

「由可里も、自分で小児性愛者になることを選んだわけじゃないんだけどなぁ」

驚くべきニュースに対して良治が漏らしたのは、どこか諦めをにじませる感想だった。

そして、良治の言葉は続く。

「俺も、好きでこうなったわけじゃないんだよ」

良治の手のひらが、浩子の肩をつかむ。

気づくのが遅すぎた。

このシェアハウスの住人は、みんな異常性愛の持ち主だったのだ。

お互いに監視しあうことで、性的対象となる人物を手当たり次第に連れ込んでしまいかねない性衝動を、どうにか抑制しあっていたのだ。

そして今、このシェアハウスには浩子と良治の二人しかいない。

「俺も好きで、人間が窒息する姿を見たいわけじゃないんだよ」

大きな手が、浩子の首を包んだ。

「あァ」

喉が絞り上げられて声が出ない。

両手で良治の手のひらを引きはがそうとするが、びくともしない。

浩子は目を閉じる。ほんものの暗闇の中、小さくて低い声が、降ってくる。

「……首、細くてかわいいね」

<完>

 

一口感想

シェアハウスの住人はみんな犯罪者予備軍で、お互いに監視しあうために一緒に住んでいた、というオチでした。

さらに、良治の正体は浩子にトラウマを植えつけた不審者だったわけで、イヤミス感たっぷりな二重落ちになっています。

  • 酒を飲んではならない
  • 予定通りに帰宅しなければならない

というのもオチから逆算すると納得の伏線でした。


【第2話】リア充裁判

「コミュニケーション能力促進法」が施行された日本。

  • ハロウィンで大騒ぎ
  • 先輩の家で鍋パ
  • みんなで制服ディズニー

この社会では【リア充】(※)であることがなにより求められる。

※「パリピ」「陽キャ」の類語ですね

当然、就職においてもリア充であるかどうかが第一に問われる。

政府は就労前の18歳以上の市民を対象にコミュニケーション能力を問う場【能力調査会】を設けた。

(主として)大学生のリア充度を測定する、いわゆる【リア充裁判】である。

 

谷沢知子は、誰よりも姉を尊敬していた。

世間の風潮に流されず一人努力を積み重ね、勤勉に弁護士を目指していた姉。

同年代の女子が恋に遊びに夢中になっているその時にも、姉は勉強していた。

優しくてかっこいい、自慢の姉だった。

しかし、かつて知子が憧れていた姉はもういない。

なぜなら、彼女はリア充裁判によって裁かれてしまった。

裁判で不合格の烙印を押された者は、合格するまで【課題】を遂行しなければならない。

  • 髪を染められ
  • きわどい格好をさせられ
  • 軽薄なふるまいを強制されて

そんな繰り返しの中で、姉は矯正されてしまった。

法科大学院への進学をやめ、今ではふらふらと【リア充】らしい生活を送っている。

家を出て友人たちとルームシェアを始めた姉とは、連絡がつかない。

 

そして今、知子が【リア充裁判】にかけられる日が来た。

姉と同じ勉学の道を歩んできた知子は、いわゆる【リア充】ではない。

しかし、SNSにアップロードされた写真よりも大切なことがあるはずだと、知子は信じている。

姉の名誉のためにも、理不尽なリア充至上主義に屈するわけにはいかない。

 

裁判は実に意外な展開をたどった。

知子が傍聴席に座って順番を待つ間、典型的なリア充たちが次々に有罪判決を言い渡されていったのだ。

裁判の基準が変わったのではなく、どうやら議長(裁判長)の独断専行らしい。

まるでリア充を憎んでいるかのような態度だ。

そうして知子の番が来た。

対象者全員を不合格にしかねない勢いだった議長の声色が、とたんに柔らかくなった。

「あなたはこれまで、何にも流されることなく、自分の好きなこと、やるべきことに没頭し続けてきた」

議長が、知子に向かって微笑みかける。

「あなたにはきっと、語るべき言葉がたくさんある。あなたの内側からあふれ出る語るべき思いや言葉。それが本物のコミュニケーション能力の種、なのです」

友達のいない知子を全肯定する言葉。

いまこそ全身全霊の想いを込めて、知子は大きな声で言った。

 

「これから飛び出していく広い世界で、これまで培ってきたものを武器に、私にしか築けないような他者との関係を築いていきたいんです。

フェイスブックやインスタグラムのいいねとかコメントとか、ラインの既読とかツイッターのリツイート数とか、そういうことに振り回されずに、私にしかできない会話で、お酒や、お世辞を介在させなくても成立する関係を、築いていきたいんです」

議長は知子に向かって優しく微笑んでいる。

その顔を、知子は知っていた。

いつも姉と一緒にいた「やさしいめがねのお兄さん」

この人は、変わってしまう前のお姉ちゃんを好きだった、あの人だったんだ――。

 

ぱんだ
ぱんだ
ここからオチだよ

 

すべては知子の妄想だった。

大学のテスト中、知子が問題用紙に描いた少女漫画タッチな落書きでしかない。

現実の知子は友だちがいない、ただの【ぼっち】だ。

後ろの席では、漫画のなかでバッサリ切り捨てられている【リア充】の女子大生たちが合コンの話題で盛り上がっている。

教室の中でまだリクルートスーツを着ているのは、知子だけだった。

<完>

 

一口感想

ハッピーエンドと思わせてからの、この結末!

「議長の正体」がオチだと思ってすっかり油断していたので、イヤミス全開な二段構えのラストには震えました。

それまで「リア充は薄っぺらい」みたいな話の流れだったのに、本当のラストではやっぱりリア充の方が人生を楽しんでいて、成功もしていて、皮肉がピリリと効いています。

全5編の中でいちばん「やられた!」と思わされたオチでした。


【第3話】立て! 金次郎

一目見て金山孝次郎(27)が幼稚園教諭だと見抜ける人はいないだろう。

がっしりとした体つきは筋肉質で、どちらかといえばスポーツ選手のようだ。

しかし、まぎれもなく孝次郎は子どもたちに人気の『先生』である。

二カッと笑うと大型犬のような愛嬌があり、母親たちのからの評判もよかった。

……つい先日までは。

 

保護者グループのリーダー格である宇佐見栄子の態度が急にそっけなくなったのは、2か月前の文化祭が終わった頃からだった。

はっきりとした理由はわからない。

ただ、入れ替わるように須永先生の評判が上がったことを考慮すると、どうやら行事での采配がマズかったらしい。

須永は保護者からのクレームを回避するため、1年を通してすべての子どもたちに目立つ役割を与えている。

たとえ内気な子どもが派手な役回りを嫌がったとしても、強引に表舞台に立たせるようなやり方だ。

どの子どもをどの行事で目立たせるかは【エクセルの表】で機械的に決めているというのだから、孝次郎には信じられない。

保護者たちは我が子の活躍が見られれば、それでいいのかもしれないが……。

 

一方、孝次郎のやり方は須永とは真逆だ。

リーダーシップのある子どもには活躍の機会を多く与え、目立つことを嫌う子どもには決して無理をさせない。

子どもに寄り添い、子どもの個性を伸ばす教育こそが大切だと孝次郎は信じている。

 

そんな中、孝次郎は一つの決断を迫られていた。

次の行事は運動会。

年間でまだ目立った活躍のない小寺学人を応援団長にしろ、と学年主任の須永からは口を酸っぱくして命じられていた。

しかし、学人はおとなしい性格で、応援団長などしたくないという。

一方で、学人の母親は宇佐見に次ぐ発言力の持つ主である、あの小寺久美である。

母親からの(そして上司からの)評価をとるか、あくまで子どもたちの意思を尊重するか……。

答えは決まっていた。

 

運動会当日。

孝次郎の作戦は大成功のうちに幕を閉じた。

学人に任せたのは応援団長ではなく、かけっこの実況。

いつも本を読んでいる学人の語彙力は豊富で、子どもながらアドリブもさえわたり、かけっこを大いに盛り上げた。

プログラムが終了するやいなや宇佐見と小寺がやってきて、孝次郎の采配を褒めたくらいだ。

自分なりのやり方で母親たちからの信頼を取り戻すことができた! 自分は間違っていなかたのだ!

再び入れ替わるように不手際を注意されている須永を横目に、孝次郎は深い達成感を味わっていた。

 

ぱんだ
ぱんだ
ここからオチだよ

 

宇佐見と小寺が孝次郎を褒めはやしたのは、その機転に満足したから――ではなかった。

事前の協議によって、運動会以降は

  • 孝次郎を褒めて
  • 須永には冷たくする

と決定されていたのだ。

それは【エクセルの表】によって機械的に決められた采配であり、深い意味はない。

「こうでもして平等に揺さぶってやらないと、あの人たち、自分から頭を働かせようとしないんだから」

保護者内での先生の評判を大きな行事ごとに揺り動かす、という方法を発案したのは宇佐見栄子だった。

そうすることで評判の良かった先生はその次の行事でより高い評価を目指すようになり、評判の悪かった先生は信頼を取り戻すためにさらによく頭を働かせることになるという。

スポットライトを当てる先生を定期的に変えることで、先生たちのあいだに競争心を芽生えさせているのだ。

「しっかし、金山とかちょっと褒めればすーぐやる気だしそうだよね。わっかりやすそうだもん、なんか。自分のやり方は間違ってなかったのだ! とか勘違いしそう。見た目もバカな大型犬みたいだし」

<完>

 

一口感想

2話と同じく、上げてから落とす結末。

主人公だったはずの孝次郎が、実はただのピエロだった――価値観がくるりと一転するようなオチはまさにイヤミス!

こういうの好きです。


【第4話】13.5文字しか集中して読めな

【新婚の柏アナ 夫の浮気心配?】

13.5文字ピッタリ。本田香織(36)は自ら打ち込んだネットニュースのタイトルに満足している。

「?」という記号は便利だ。根拠のない記事でも「?」さえタイトルの最後につけていれば許される。

柏アナが抗議でもしようものならしめたものだ。そのときは新しい記事のタイトルに【大激怒】の文字が躍ることになる。

誤解を招くという批判を受けることもあるが、香織は気にしない。

記事の内容が決定的に事実と異なっていたとして、すぐに訂正すればいいだけの話だ。

だいたい、ゴシップ記事だとしても注目度を上げてやっているのだから、むしろ感謝されてもいいくらいではないか。

実際、社内でも香織のゴシップニュースはアクセス数がいい。

香織は「世の中の人のニーズに応えられている」と自信たっぷりに思っているし、小学三年生の息子にも自分の仕事を誇らしく説明していた。

 

「ママの仕事ってすごいね。難しいけど、かっこいい」

息子の直喜は素直でかわいい。将来は母親と同じニュースを伝える仕事に就きたいと言っている。

そんな息子の笑顔に、いつも香織は癒されている。

 

ぱんだ
ぱんだ
ここからオチだよ

 

授業参観に遅れて到着すると、ちょうど直喜が発表する番だった。

「ボクの将来の夢は、ボクのママみたいに、世の中のことをなんでも知っていて、それでニュースを発信……あれ? 配信? する人になることです」

教壇の前では、直喜が、家にいるときと変わらない優しい笑顔でそう話している。

「ママにいろいろ聞いてここで発表したかったのですが、忙しそうだったので、ママのマネをしてみて、それを発表することにしました」

直喜の背後、黒板には白い紙が何枚も貼られている。

 

【ママ 浮気疑いパパの財布強奪】

【家庭放り同僚と不倫 息子暴露】

【パパ無実 ママ暴走逆ギレの夜】

13.5文字。全部、13.5文字だ。

 

「直喜!」

香織はまっすぐに駆け出した。太ももに、児童たちの座っている椅子や机の角がぶつかる。

「剝がしなさい! 何してるの!」

「ママのマネだよ?」

直喜が、きょとんとした表情で首をかしげる。

「直喜、なんでこんなことするの!」

香織は直喜を怒鳴りつける。

「うちの家庭のことなんて、学校の人たちにはどうでもいいことじゃない! こんなどうでもいいこと公にしていいわけないってどうしてわからないの!」

 

――すっぴん公開とかそういうどうでもいいことまでニュースとして配信するのはやめてほしい。そもそも誰もそんなニュースを求めていない。

 

怒鳴る自分の声に、誰かの声が重なる。

「財布強奪とか不倫とか、そんなことママはひとつもしてないでしょう! こんな誤解を招く言葉で……」

 

――短いタイトルや、字数の少ない要約文だけだと、誤解を招くような表現になっていることが多くて迷惑。

 

今、自分は、(受けた批判と)まったく同じことを言っている。

香織は、喉を引っこ抜かれたように、突然なにも喋れなくなった。

直喜が手づくりしたニュースに、嘘はない。

夫の浮気を怪しんで財布の中をチェックしたのも、同じ職場の元カレと飲みに行ったのも、ぜんぶ本当のことだ。

タイトルは煽るように誇張されているが、それはいつも香織がやっていることだった。

 

「ほら、ママ、誤解を招くんだったら訂正しよ?」

この教室の中にいる人間は、多く見積もってもせいぜい五十人ほどなのに、まるで、世界中の人間からじっと見つめられているようだ。

「ほら、ママ」

直喜が、香織の肩を掴む。そのまま、児童や保護者のいるほうへ、香織の体を向き直らせる。

「今すーっごく、注目度が高まってるよ! 報道を否定したいんでしょ?」

全員が、どんな言葉も信じてくれないようないような目で、香織のことを見ている。

「ほらママ、早くう」

早くっ、早くっ、と急かす直喜の手拍子の音が、時計の秒針の音を追い抜いていった。

<完>

 

一口感想

いやぁ、イヤミスですねえ!(大好物)

これまでと違っていけ好かない主人公ではありましたが、それでもちょっと可哀そうになるくらいゾッとする結末でした。

無邪気に不気味な行動をとる子ども(のキャラクター)って、サイコパスっぽくて怖いですよね。


【第5話】脇役バトルロワイヤル

はじめに

最後の第5話は、いままでの4編とはかなり毛色が違います。

いかにもシリアスな雰囲気が文章から伝わってくるのですが、その実やってることはギャグというか、コメディです。

登場人物のほとんどは、これまでの4編に登場していた脇役のキャラ。

彼らは全員役者であり、これまでの物語はすべて本家ドラマ「世にも奇妙な物語」で放送するお話(フィクション)だった、というのがわりと序盤で明かされます。

物語はそこから《バトルロワイアル》に突入していくのですが……?

 

本編

新作舞台の主演オーディション、その最終選考。

会場には6人の役者が集められていた。

  • 桟見れいな(1話 浩子の親友)
  • 八嶋智彦(2話 裁判の事務局員)
  • 勝池涼(3話 孝次郎の親友)
  • 板谷夕夏(4話 香織の上司)
  • 渡辺いっぺい(4話 名前だけ登場)
  • 溝淵淳平(初登場)

主演オーディションなのに、年齢も性別もバラバラ。

共通点があるとすれば、全員《脇役》タイプの役者だということくらいか。

噂によれば、今回のオーディションでは脇役の実績と主役の風格、その両方を兼ね備えている人物が求められているらしい。

 

オーディション開始の合図は、ビデオカメラの赤い光だった。

無人の長机にぽつんと置かれたカメラの光は、きっと録画中継を意味している。

会場には脇役6人がいるだけで、審査員の姿はない。

おそらく審査員は別室でモニターしていて、半プライベートな候補者たちの振る舞いを見て合否を決定するつもりなのだ。

合格して主役の座を勝ち取りたい、と淳平は強く想った。

 

それは一瞬の出来事だった。

足元の床がパカリと開いたかと思うと、次の瞬間にはれいなが真っ暗な《穴》に呑み込まれるように落ちていった。

元に戻った床には「不合格」の三文字。

淳平は直前のれいなの言葉を思い出す。

「だけどびっくりですよね、まさか主演オーディションが隠し撮りで行われるなんて――」

この発言で不合格判定されたのだとしたら、考えられる答えは一つしかない。

脇役っぽい振る舞いをした者から不合格になっていくのだ。

状況を整理したり、わざとらしい説明をしたり、脇役らしさを露呈した者から(物理的にも)落とされていく――。

 

脇役たちはその後も続々と脱落していった。

  • 八嶋智彦、アウト
  • 勝池涼、アウト
  • 板谷夕夏、アウト

三者三様、実に脇役らしい振る舞いだった。

たとえば、こんなふうに。

「なーんか腹減っちゃったなあ。せっかく昼時だし、弁当でも食いません?」

真剣な顔をして、ベテラン脇役の渡辺が解説する。

「空気ブチ破りハングリー。シリアスな場面で突然腹を鳴らし、とりあえず食事をしようという空気にもっていく――少なくとも、主役には絶対に回ってこないポジションだ」

 

残る候補者は2人。

どうしていいかわからないという表情の淳平を悲しげに見つめながら、渡辺は口を開いた。

「お気づきのとおり、俺は今日、説明をしすぎた。説明は、脇役のすることだ」

渡辺はあきらめたように自分から「不合格」の穴に落ちて行った。

淳平が、最後の一人だった。

 

ぱんだ
ぱんだ
ここからオチだよ

 

状況には変化がない。

ふだんは稽古場なのだろうオーディション会場には淳平だけが残り、あとはシートを被せられた舞台装置が積み上げられたりしているだけだ。

たった一人きり。

もしまだオーディションが続いているのだとしたら、淳平は主役らしい振る舞いをしなければならない。

しかし、口を開いてしゃべることもできなければ、その場から動くこともできない――淳平はかつてない息苦しさに襲われていた。

物語は、主役だけでは成り立たない。

脇役がいてこその主役なのだ。

淳平が悟ったそのとき、視界の片隅で、何かがむくりと膨らんだ。

 

「ふぁあ」

布だ。

箱馬か何かに掛けられている、としか思っていなかった、布が、膨らんだ。

「よく寝たあ」

芦谷愛菜が、上半身だけを起こした状態で、ごしごしと両目を擦っている。

なんてことだ。彼女もオーディションの参加者だったのか?

いや、それ以上に、今まで眠っているなんて、脇役には考えられない自由さじゃないか。

「ここ、どこ?」

なんだよ、なんなんだよ、結局こうなるのかよ――淳平はそう毒づきながらも、心の中ではほっとしている自分がいることにも気がついていた。

すう、と、息を吸い込む。

 

「『……やっと目が覚めたようだな』」

淳平の足元で、バタン、と音がした。

<完>

 

一口感想

おもしろかった!

「物語のテンプレートってこんなんだよね」というメタ視点からのネタといい、足元に開いた穴に落ちていくシュールさといい、クスリと笑える短編でした。

あからさまに実在の人物をもじったキャラクターがいるのですが、もうセリフから動きから想像できすぎて余計におもしろかったです。

全5話の中では唯一イヤミスっぽくないオチも、キレのある終わり方になっていて好きでした。


まとめ

今回は朝井リョウ『世にも奇妙な君物語』のネタバレをお届けしました!

小説ながらにドラマ「世にも~」の雰囲気が伝わってくる5つの短編。

どれも《オチがすごい》という挑戦的なキャッチコピーに負けないくらい粒ぞろいな物語でした。

特にわたしが好きだったのは2話と3話。

オチが全く予想できていなかったので、不意打ちのような「実は……」にすっかりやられました。

ドラマ「世にも奇妙な物語」が好きな人にはもちろん、良質なイヤミスをお求めの方にもおすすめの一冊です。

 

ぱんだ
ぱんだ
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ドラマ情報

キャスト

  • 黒島結菜
  • 葵わかな
  • 佐藤勝利
  • 田中麗奈
  • 上田竜也

ほか

※上から順番に各話の主人公ですね

放送日時

2021年3月よりWOWOWで放送スタート(全5話)

WOWOW公式サイト



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