ラストに驚き 記事内にPRを含む場合があります

「彼女がその名を知らない鳥たち」あらすじとネタバレ!結末は?

沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」を読みました。

蒼井優さんと阿部サダヲさんがW主演した映画も話題になった本作。

結末にとんでもない展開が待ち受けている超衝撃作で、

「え!?」

と度肝を抜かれてしまいました!

というわけで、「彼女がその名を知らない鳥たち」のあらすじや結末をネタバレしていきます!

予測不可能なラストとは!?

あらすじネタバレ

北原十和子が黒崎俊一と別れてから8年が経った。

十和子は33歳になり、今は黒崎と同い年である佐野陣治(48)と同棲している。

しかし、十和子の心はいまだ黒崎に囚われたまま。

十和子は今でもたった1年半しか付き合っていなかった黒崎のことを忘れられないばかりか、いつか自分を迎えに来てくれるのではないか?と心待ちにしていた。

 

同居している陣治とは、黒崎と別れて半年後に寝た。

はっきり言って、陣治という男は「女性なら誰もが生理的に嫌悪感を抱く」と形容できるほどの不快な男だ。

色黒で6頭身の小男。一流建設会社の社員であることを唯一の自慢にしている傲慢で卑屈な態度の持ち主。

ものを食べる時にはクチャクチャと音を立て、飲みかけのコーヒーカップに煙草の吸殻を捨てる。

水虫でめくれた足の皮をちびちび剥き、小便のたびに便器を汚す。

不潔でチンケで下品で滑稽。

それでも十和子は黒崎の喪失を穴埋めするように、ストーカーまがいの行為をしていた陣治と寝た。

以来、ずるずると十和子は陣治と付き合っている。

 

なぜ、十和子はそんな男と付き合っているのか?

当然のように、十和子もまた心の底から陣治のことを嫌悪している。

一方で、1人では黒崎のいない日々に耐えられそうにもない。

陣治を罵倒する毎日によって、十和子はかろうじて精神的なバランスを保っているのだった。

また、現実的な問題として十和子が住んでいるマンションの一室は、陣治が購入したものだ。

十和子が働きもせず家事もせず、一日中DVDを見ながら過ごしていけるのは陣治が稼いできてくれるからだ。

 

陣治に仕事も家事も任せきりにしながら、十和子はいつも口汚く陣治を罵る。

そうしながら、黒崎との再会を心待ちにしている。

わがまま。自己中心的。情緒不安定。極度の被害妄想

十和子もまた、かなり「めんどくさい女」なのだった。

 


 

黒崎との出会いと異様な陣治

思えば、十和子は出会った時から黒崎の虜になっていた。

前の彼氏と別れ、神戸へと旅行に来ていた十和子に対して、あまりに自然に声をかけた黒崎。

それはナンパというよりは、運命の出会いのようだった。

黒崎と過ごした日々だけが、十和子の人生のなかで光り輝いていた。

 

ある日、十和子は黒崎からもらったダイヤのピアスがなくなっていることに気づく。

まさか、と思いながら陣治の部屋を漁ると、いつも陣治がポケットから小銭を出しては貯めている瓶のなかにピアスがあった。

陣治はこんな細かい芸当をするタイプではないはずだが…。

この頃から、十和子は陣治の様子がどうもおかしいと気づき始める。

そして、ある日。

十和子は町で異様な姿の陣治を目撃する。

左右のバランスを欠いたような不自然な歩き方も変だが、なによりその表情にゾッとさせられる。

虚ろな目。どこか狂気をはらんだ目。その姿はまるで青黒い幽鬼のようだ。

なにかがすっかり抜け落ちて、空っぽになっているという印象。

十和子は足早にその場を去った。

そして家に帰ると…

「おかえり。どないしたん?どこいってたん?」

そこにいるのはいつも通りの陣治なのだった。

 


 

水島との出会い

陣治を罵るほかにも、十和子には精神安定のための手段があった。

その1つが、無茶なクレームを入れること。

時計の修理をデパートに依頼した十和子は「修理は難しい」という担当者にしつこくクレームを入れていた。

ついには、売り場の責任者である水島という男が十和子を担当することに。

十和子はなぜか声しかしらない水島という男に、黒崎に似たものを感じる。

優しく、丁寧で、甘い声。

水島は結局、十和子の時計は直らないと言う。その代わりに…

「わたくし個人の独断で、他店で買い求めてまいりました」

水島個人からのプレゼントであるという3万5千円した元の時計と同レベルだという新しい時計。

十和子のなかでなにかがぐらりと傾く。

そして、いつしか十和子は水島と体の関係になった。

水島は妻子がいるということで最初こそ関係を拒んだが、次第に十和子にうっとりと甘い言葉を投げかけるようになっていく。

水島のような黒崎。黒崎のような水島。

十和子は水島の虜になっていた。

 

黒崎は今…

ふと魔が差して、8年ぶりに十和子は黒崎の電話番号を押した。

出ない。何度目かのコールで怖くなって、十和子は受話器を置いた。

 

ある日、家に警察の人間・酒田が訪ねてきた。

曰く「黒崎俊一は5年前から行方不明になっている」

本人の携帯電話に無言電話があったから調べてほしいと黒崎の妻から依頼があり、訪ねてきたのだそうだ。

十和子(そうだ、あのとき電話はつながらなかったんじゃない。黒崎の妻が出たんだった…)

事情の聞き取りは問題なく終わった。

それにしても、黒崎はいったいどうしてしまったのだろうか?

 


 

黒崎との過去・1

これは、8年前に起こったことだ。

十和子を虜にした黒崎は甘い声で言った。

「妻と別れて君と一緒になるために、どうしても必要なことなんだ」

そう言って、黒崎は十和子に国枝という脂ぎった男に抱かれるよう頼んだ。

曰く、

妻・雪子と別れるためには支払うべき慰謝料を含めて安定した高収入を得ることが必要になる。

そのためには国枝が取締役を務める企業に好条件で迎え入れられなければならない。

国枝に女を一人、一夜の貢ぎ物として差し出す必要がある。

…十和子は国枝にいやというほど身体を弄ばれた。

 

一夜だけのはずだった国枝との密会が度重なるにつれて、黒崎は恐ろしいほど十和子に優しくなっていった。

結婚後はどのマンションに住もうか?と一緒にパンフレットを眺める。

そんな生活が半年間続いた。半年という期間が、国枝と黒崎が交わした契約だったから。

そうして、黒崎は雪子と離婚し、国枝の姪であるカヨという女と結婚した

 

陣治への不信感

十和子と水島との関係は続いている。

水島は妻と別れて、十和子と一緒になる決心を固めたという。

十和子は幸せだった。

ホテルからの帰り道、十和子は背後に陣治がいることに気づく。

(つけられていた!?)

慌てた十和子は姉である美鈴の家に泊まることに。

そこで十和子は美鈴から妙な話を聞く。

曰く、

・十和子の様子がおかしい。男でもできたんじゃないだろうか?と陣治は美鈴に話していた

・と同時に「その男が黒崎である可能性だけはない」と陣治は確信していた

陣治には黒崎の行方不明のことは話していない。なのになぜそう断言できるのだろうか?

十和子(まさか…陣治が黒崎の命を奪ったのでは…?)

 

十和子を迎えに来た陣治は水島やホテルのことは聞こうとはせず、ただ優しく十和子を家に連れて帰った。

 


 

黒崎との過去・2

8年前、黒崎と会った最後の夜。

黒崎は言った。

「来月、カヨと結婚するんだ」

「どういうわけか見合いの席で、お互い一目ぼれって感じになってしまってね。もっとも資産家の一人娘でしかも実力者の姪ときては、こっちは会う前から惚れてたようなもんだけどさ」

「薄々わかってたんだろう?国枝がさんざん引っ搔き回した後を、この僕が調整したり点検したりオイルを注したりしながら使うなんてひどい話だもんな。だって、すごかったらしいじゃないか?国枝を抱き込んで離さなかったって?」

「これでも、君には感謝しているんだ。おかげで心機一転、バリバリ仕事をやれそうだ。短い間だったけど、お互いいろいろ楽しかったじゃないか」

 

しばらく呆然としていた十和子だったが、やっと正気を取り戻すと「全部カヨに話してやる!」と喚き始めた。

すると…

黒崎は車を狭い道に入れて十和子の頬をぶつ。そのまま無表情で言う。

「君がどうしてもカヨに話したいんなら、僕の方はほら、あれを、間違えてネットに流してしまうかもしれないな。そんなことはしたくない。他の人が見ればどぎつい写真でも、僕にとっては大切な君との思い出なんだから」

十和子「あ――」

言葉にならない声と一緒にすすり泣きが漏れた。

するとまた頬を打たれた。

鼻血が顎からブラウスの胸に滴り落ちた。

「喚くなって。わかるだろう、思い出はそっとしとこうよ、お互いに、ね」

黒崎はなおもすがりつく十和子を再び平手打ちし、強引に車から引きずりおろすと、したたかな蹴りを胸にめりこませて、去っていった。

ボロボロの十和子はなんとか美鈴に連絡して、病院へと運ばれた。

数か所、骨折していた。

 

水島の嘘とカヨの話

水島からプレゼントされた時計は3万5千円相当の物ではなく、3千円の安物だった。

さらに、水島がうっとりと語った海外旅行の思い出も、書籍からの引用だったことがわかる。

それでも、十和子は水島に心奪われたままだった。

ある日、水島から「少し距離をとろう」と宣言される。

水島の妻に「旦那は他の女と寝ている」と密告があったのだ。

これも陣治の仕業なのだろうか?

水島家への嫌がらせは徐々にエスカレートしていく。

 

その頃、十和子は思い切ってカヨに会うことに。

カヨが曰く、

・黒崎は経済的に困窮していて、危ないところからも金を借りていた

・黒崎はそのことで裏社会の人間に始末されたのではないか

ということだった。

しかし、十和子には陣治が黒崎を始末したのだと思われてならない。

 


 

終わりの始まり

水島とも会えず、かといって家にもいたくない。

十和子は一日を町で過ごすことが多くなっていた。

ある日、十和子は大阪駅周辺でチンピラに絡まれて金をとられそうになる。

すると…

「それ、返したって」

どこからか現れた陣治が金を取り戻し、チンピラから十和子を救った。

 

十和子「いっつもこうやって、こそこそつけてるんやな」

助けられた十和子は、自分を尾行していた陣治を責め立てる。

陣治「十和子のことが、心配でしょうないんや」

十和子「くるなっ、どっか行ってしまえ!」

十和子が陣治を罵っていると、久しぶりに水島からの電話が入る。

十和子「すごく会いたい」

目の前で打って変わって甘い声を出す十和子を、陣治は呆然と口を開けて見つめる。

十和子は陣治をふりきって電車に乗り、水島に会いに行こうとするが、結局その日の逢瀬は叶わなかった。

水島は「誰かに監視されているようで落ち着かない」という。

十和子は仕方なく追ってきた陣治と帰ることに。

 

帰り道でうどん屋によった十和子と陣治。

ついに陣治は尾行や嫌がらせの犯人であることを認め、そのうえで十和子に警告する。

「あいつ、ゆうべ、家族で仲よう焼肉食うとったぞ」

水島は妻とはうまくいっていないと言っていたはずだ。

「十和子、おまえあんじょう騙されてるんやで。あいつは十和子の身体欲しいだけなんや。ええ加減に、目ぇ覚ませ」

嘘だ。信じたくない。十和子は店内にも関わらず大声で言う。

「黙れ!陣治の思い通りには絶対させへん。これ以上、あの人に何かしたら…」

陣治の腹に、力任せに刃物を突き立てる場面を想像する。

何かを感じとったのか、陣治も興奮して紫色の唇をわななかせる。

陣治「俺を、やるつもりなんか…、おまえ…おまえは…、そうなんやな」

十和子は自分を亡き者にするつもりだ…。陣治の顔から突然すべての表情が消える。

そこにすわっているのは弛緩しきった残骸、夕闇の街路をふらふらと歩いてきたあの不吉な亡者だ。

陣治「なんでや、いったいなんでこうなるねん」

陣治「十和子はあんな優男タイプばっかり好きになるんやな。あんな男と関わってたかて、またボロボロになって捨てられるだけやないか。なんでそれがわかれへんねん」

 

その日から、陣治は廃人のように変わってしまった。

いつも十和子のために拵えていた料理もせず、十和子に話かけもせず、ただぼんやりタバコを吸っているばかりだ。

それがどういう状態なのか、十和子には判断がつかない。

 


 

ナイフ

『優男タイプばっかり』『またボロボロになって』

十和子は陣治に黒崎に捨てられたことを話した覚えがない。

それなのに陣治はまるで会ってきたかのように黒崎のことを語った。

やはり、黒崎を亡き者にしたのは陣治…。

だとすると、今度は水島が危ないのではないか?

 

十和子は刃渡り15㎝ほどの折り畳みナイフを買った。

このままでは水島の命が危ない。

陣治が事に及ぶ前に、逆に陣治を消すしかない…。

十和子はバッグに潜ませたナイフの柄を握りしめる。

 

陣治の話

マンションに帰る。

ひたと目があった瞬間、陣治が肚を括ったのが伝わってくる。

十和子「黒崎に何したん。…黙ってたらわかれへん。もう、全部話してしもたらどうやの」

陣治「あの男は土に埋めた」

陣治は語りだす。

黒崎はもう生きてはいない。

陣治が山中に呼び出して始末し、建設現場に埋めて隠した。

動機は…

「そら、十和子にひどいことした男やからや」

具体的なことは陣治は知らない。それでも、理由としては十分だったという。

黒崎の情報を入手した方法は…

「金使こて、興信所に調べさせた」

やっぱりだ。やっぱり陣治が黒崎を手にかけたのだ…。

 

十和子「なんということをしてくれたんや!いったい、なんでそんなひどいこと」

陣治「十和子には、絶対知られたなかった。ほんまやで、おまえだけには知られたなかったんや。…せやけど」

陣治「せやけど、もう終わりや」

 

それから2人は一緒に食事をして、それぞれの部屋で寝た。

黒崎はもうこの世にいない。

十和子はそのことに現実感を抱けず、ふわふわと浮遊しているような不確かな心地だった。

 


 

十和子の本心

十和子は陣治を刺す覚悟を決めた。

それで、すべてが終わりになるはずだ。

決行は今夜。

その前に、どうしても水島に会いたくて、十和子は緊急の用事があると言って水島を電話で呼び出した。

 

水島「会いたかっただけ?そうなんだね」

十和子は水島に陣治の件のことを話さない。

安心した様子の水島は甘い声で愛を囁き、いつものように十和子とホテルへ行こうとする。

一目につかない狭い階段を、水島が上機嫌で下っていく。

その時、十和子の脳裏に「真に望んでいたこと」が鮮烈に浮かび上がった。

ナイフの柄を握り、今まで味わったことのない多幸感を味わう。

深い納得。

われながら呆れてしまう。

自分自身の本心になぜもっと早く気付かなかったのか?

今、水島を刺せば、致命傷を与えられなかったとしても転落によって命を落とすだろう。

ナイフを握り、十和子は背後から水島に忍び寄る。

そして…!

「十和子、あかん!」

すべてが同時に起きた。

走ってきた陣治が十和子をとめる。

驚いた水島が振り向く。

十和子が確かな感触を伴ってナイフを『男』に何度も突き立てる。

 

陣治の腕の中で、錯乱した十和子の身体がひきつけをおこしたように反る。

水島が鋭い悲鳴を上げ、階段を何段か転げ落ちる。

陣治と十和子の手が重なり合って一本のナイフを支えている。

十和子には確かに人を刺した感触がある。しかし、実際にはナイフは誰の身体も傷つけてはいない。

冷たくなった指を一本ずつ剥がしてようやくナイフを抜き取った陣治は、折りたたんで素早くポケットにしまい、すぐにまた後ろから十和子を抱く。

陣治「はよ、いね!ええか、面倒に巻き込まれたなかったら、何があっても、二度と顔見せるんやないぞ。もうおまえと十和子はいっさい関係ない。わかったな」

水島は小刻みにうなずき、足早に遠ざかっていった。

十和子の目は、刺した男が血だまりに横たわって手足を弱弱しく痙攣させる幻を見ている。

 

陣治「ちょっとは落ち着いたか、…十和子」

陣治「思い出したんか…」

 


 

黒崎との過去・3

十和子「あのときも、ナイフ…、買うたんや。行きしなに、なんでかわかれへんけど、ふうっと買いたなったんや」

十和子「駐車場で刺した」

陣治「そうや、帝塚山の方の料理屋の広い駐車場や。俺が駆け付けたときは車と竹の植え込みの間に倒れとった。十和子は後ろの座席にぼんやり座ってた」

十和子「陣治に、電話した」

陣治「そうや、九時ごろやったかな。助けて、助けて、言うだけで、何が起こったんかさっぱりわからんかった。それから?他に何か思い出したか?」

陣治「もうここまできたら止められへん。みな思い出せ、十和子。思い出して吐き出してしまえ」

 

十和子は少しずつ「忘れていた記憶」を取り戻していく。

黒崎に捨てられてから3年が経った頃、再び十和子に黒崎からの電話があった。

会いたいと言われて、うれしかった。

会うと、黒崎は優しくて、甘い言葉をささやき、そして…

十和子「あの人…仕事で困ってるから助けてほしい言うて…、もう一回力を貸してほしい言うて…。急に顔が…、イタチみたいな目になって…」

黒崎の目的は、金。

そのために、黒崎はもう一度十和子を国枝に差し出そうとしていたのだ。

黒崎「今、あいつから金を引き出せなかったら、僕は破滅する。頼む、助けてくれ、あいつは君の味が忘れられないって何度も言ってた。きっとうまくいく。恥をしのんで頼んでいる。もし言うとおりにしてくれたら、こんなことまでしてくれる君を、もう二度と手放せなると思う。これから何があっても、僕たちはずっと一緒だ」

十和子があっさりうなずくと、黒崎の顔に安堵と希望と勝ち誇ったような表情が広がる。

黒崎「十和子だけはきっとわかってくれると思ってた!うれしいよ、さあ、行こう」

ホテルへ行くため車に乗り込もうとする黒崎。

十和子は後ろから近づきながらナイフを取り出し、何も考えずに刺した。

もう一度、もう一度…。

 

黒崎とのこと、国枝にされたこと、一度も声にしたことのない出来事を陣治に告白する。

十和子は、記憶を取り戻したのだ。

陣治「俺がやったらよかった」

十和子「後始末、陣治がしたんやな」

陣治「腰ぬかしそうになって、なんやもたもたしてしもてなぁ」

 

5年前の真実。

十和子が黒崎を刺し、陣治がそれを隠ぺいした。

十和子はあまりのショックに記憶を失くし、陣治はずっと1人で事件のことを抱えつつ十和子を見守ってきた。

陣治「一生忘れたままでおってくれたらええと、俺は、あれから毎日そればかり願ごうてきたんや」

陣治はこれまで、どれほどの絶望に、孤独に、罪悪感に耐えてきたのだろうか。

陣治「せやけど俺、あの男埋めた日ぃから、おまえとほんまに離れられへんようになってしもた。おまえのこと、それまでも大事やったけど、もっともっと大事になったんや。ほんで俺、あのままずっと十和子とひっそり暮らしてたかったんや。それさえできたら、ほんまはほかになんもいらんかった」

水島と十和子が付き合いだしたことを知ったとき、陣治はこうなることを恐れたという。

水島を尾行したり、家に嫌がらせを仕掛けたのは、すべて十和子を守るためだった。

 


 

結末

十和子「生きてとうなんかないわ」

陣治「あかん!そんなん言うたらあかん」

陣治は事件の後、心理学について学び、十和子の状態を調べていた。

曰く、十和子が記憶を失くしたのは、自分の心を守るための処置だったという。

 

陣治「楽しかったなあ、十和子。ほんまに楽しかった。この生活いつ壊れてしまうんかと思うさかい、いろいろなことあってもあんだけ楽しかったんや」

100円ライターで煙草に火をつけ、頬をすぼめながら吸う。

陣治「辛いこと、よう思い出したな。これでよかったんやな、うん。こうなったら思い出したこと全部、抱えたまま生きていくんや。きっと、だんだん、ちょっとずつ、思い出せへんようになる」

十和子「そんなことでけへん」

陣治「せなあかん、俺が助けたる。もう眼ぇ覚ませ、十和子。これからはしっかり正気保って生きていくしかないんや」

十和子「そんなことしてまで、もう生きていとうない」

後悔が、絶望が、十和子に押し寄せる。今、ナイフさえ手元にあれば、自分で自分を終わらせたい。

陣治「俺が助ける」

陣治は十和子が黒崎にもらったダイヤのピアスを受け取り、この高台から投げ捨てた。

そのピアスは黒崎の事件を思い出させないために、陣治が隠していたものだ。

 

陣治「俺がやったらよかった。それだけが後悔や。せやからかわりに、十和子が思い出したこと俺が全部もっていったる」

手すりの鉄柵に背中をもたせかけて、陣治は十和子に向かって大声で言葉を伝える。

陣治「十和子、目ぇ覚ませよお。お前は俺にごっつい借りができるんやで、わかるか。一生かかってチョビチョビ返すしかない借りやぞぉ。ええかぁ、おまえ、俺を産んでくれぇ。あんなつるっとした顔の男やないもっとまっとうな男見つけるんや。幸せになって、俺を産んで、俺をとことん可愛がってくれぇ」

声が途切れて息を喘がせる。黒い顔に浮かぶ表情は見えない。

陣治「十和子の胎のなかになんか入ったら、男の子でも女の子でも、それは俺や、陣治やからな、必ず入りに行くからな、そのために今こうするんやからなぁ。約束や、約束やでぇ、十和子ぉ――」

こちらを向いたまま両足を蹴り上げる。頭と肩で逆さまに手すりを越え、一瞬で姿が見えなくなる。

この高台から落ちれば、命はないだろう。

 

ベンチで金縛りになっていた数秒間、十和子は落ちていく陣治だけを見ている。

あるいは、その身体は同時に、十和子の内部を凄まじい速度で垂直に落ちていくようでもあった。

十和子の一生の終わりまで、陣治の落下は続く。

ゲホゲホ咳する陣治、汚らしい陣治、たった一人の十和子の恋人。

<彼女がその名を知らない鳥たち・完>

 

※映画「彼女がその名を知らない鳥たち」を観てきました!

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まとめ

沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」のあらすじ・ネタバレをお届けしました。

『限りなく不愉快、でもまぎれもない最高傑作』

これは私が購入した小説の帯に書いてあった文章ですが、まさにその通り!という感じですね。

前半はただただ共感できない十和子と陣治の物語という趣でありながら、徐々に8年前、5年前の真相が明らかになっていき、予想を裏切る衝撃的な結末へ!

沼田まほかる作品を読むと決まって最後には「そうきたか!やられた!」という気持ちになるのですが、今回も例外ではありませんでした。

今回のあらすじ・ネタバレでは十和子の精神的な不安定さや、陣治の人物像についてなど割愛している部分が多いのですが、それらを含めて結末に至ると、本当に複雑な感情に心乱されます。

 

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