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小説「絶叫」のあらすじネタバレと感想!結末では驚きの真犯人が判明!

葉真中顕「絶叫」がWOWOWドラマ化!

原作小説は「このミステリーがすごい(2015)」の第11位に選出された話題作ですね。

私も読んだことがあるのですが、結末の展開に「そうきたか!」と驚かされたことをよく覚えています。

ジャンルとしては『社会派サスペンス』に分類されていますが、ミステリー好きにもおすすめの一冊です。

というわけで今回は、そんな小説「絶叫」のあらすじ・ネタバレ(と感想)をお届けしていきたいと思います!

予想外の真実が待ち受ける結末は必見です!!

「絶叫」のあらすじとネタバレ!

★あらすじ

都会のマンションの一室で発見された孤独死体。

亡くなった鈴木陽子(40)の遺体は飼っていた11匹の猫に食い荒らされ、原形をとどめていなかった。

死因は不明だが、おそらくは自殺。

しかし、もしこれが他殺だったとしたら?

猫に食わせることで証拠隠滅を図ったとも考えられる。

事件性の有無を確認するため陽子について調べ出した刑事の奥貫綾乃は、陽子の経歴に不審な点があることに気づく。

4度の婚姻歴。

最初の1人を除く3人の夫たちは、陽子と結婚してから1年以内に、同じ状況下で亡くなっている。

……これは、保険金殺人の痕跡?

捜査が進むにつれて、陽子の過去はやがて別の殺人事件へとつながっていく……。

 


 

鈴木陽子という女

小説「絶叫」の物語は、鈴木陽子を主人公とした《過去編》と奥貫綾乃を主人公とした《現代編》を交互に繰り返しながら進んでいきます。

そのうち、特に重点が置かれているのは陽子の人生の足跡をたどる《過去編》

鈴木陽子がどんな人間で、どんな人生を送ってきたのか?

読者は陽子の細かな心の動きまでしっかりと追体験することになります。

というわけで、そんな陽子の人生を簡単にまとめたものがこちら!

 

【子ども時代】

・弟が交通事故で亡くなる。実際はいじめを苦にした自殺だったので運転手は無罪放免。

・母親は生前から弟だけを可愛がっていたし、父親は仕事人間だったので、陽子は親からの愛情を知らないまま育った。

・バブル崩壊後、投資に失敗した父親が莫大な借金を残して失踪。母親から捨てられ、一人で生き始める。

 

【社会人時代】

・初恋の相手である山崎と再会し、結婚。山崎の仕事の都合で上京。

・山崎と離婚。原因は山崎が浮気相手との間に子供をつくったこと(おそらく陽子は不妊体質だった)

・保険外務員(保険のおばちゃん)として再就職。上司の芳賀と不倫。

・芳賀に利用され、実績のために枕営業を始める。また、自分で保険商品を買うことで実績を水増しする。

・芳賀が若い女のストーカーとなり失脚。傷心を癒すためブランド品をリボ払いで買い漁る。

・生活保護を申請していた母を悔しがらせるために、毎月の仕送りを開始。

・新しい上司に不正がバレてクビになる。

 

【どん底へ】

・とにかくお金が必要となった陽子は風俗に身を落とす。

・ホストの『レイジ』に入れ込み、金を貢ぐ。

・店をクビになったレイジが家に転がり込んでくる。レイジは働きもせず酒を飲み暴力をふるうようになる。

・陽子、仕事帰りに《風俗狩り》に遭遇。一日の売り上げを奪われ、無理矢理犯される。

 

【ここまでの補足と解説】

ここまでの略歴から、陽子がいかに不幸な人生を歩んできたのかがわかります。

「バカな女だなあ」と思われるかもしれませんが、陽子にしてみればその場その場で「そのするしかなかった」の連続だったんです。

幼少期に親から愛されていなかったせいか、陽子はずっと『居場所』を求め続けてきました。

山崎の隣、仕事、芳賀の隣、ホスト……。

陽子はただ居場所が欲しかっただけなのに、見事に裏切られ、騙され、どんどん最底辺へと転がり落ちていきます。

それは陽子の責任というよりは、そういう運命だったとしかいいようがありません。

実際、作中では陽子の人間性について『平凡』だと説明されています。

特別優秀ではないけれど、人より劣っているわけでもない普通の女性。

……そう、ここまではまだ《どこにでもいる平凡な女性が哀れにも人生を転がり落ちていく話》だったんです。

「悲惨な人生」が「壮絶な人生」へと切り替わるのは、まさにここから。

《風俗狩り》の男に体を弄ばれているとき、陽子は心の中でこうつぶやいていました。

 

「これで条件はそろった。ようやくチャンスが巡ってきた」と。

 


 

保険金殺人

陽子を襲った犯人の名前は「神代武」

NPO法人「カインド・ネット」の代表、といえば聞こえはいいですが、実際はホームレスを囲って生活保護を搾取しているド悪人です。

陽子は『ある計画』を実行するために、犯罪に慣れた神代たちと協力関係を結びました。

その計画とは……最低のDV男となったレイジを始末し、その命を金に換えること。

つまり、保険金殺人。

計画は次のように進められました。

1.レイジ(本名:河瀬幹男)を神代の豪邸に住まわせ、油断させる。

2.その隙に陽子は婚姻届を一人で提出し、レイジと入籍。ダミーの物件を借りて、そこに本籍を移す。

3.いよいよ実行。深夜、泥酔しているレイジを路上に寝かせて、その頭をトラックで轢く。

 

トラックの運転手は神代が囲っていたホームレスの1人である新垣清彦。

新垣は神代に「レイジは悪人だ」と信じ込まされていました。

レイジを轢いた後、新垣は自ら110番通報。

被害者の方に過失があり、また被害者の妻(陽子)が責任を追及しなかったことで、新垣は無罪放免になります。

結果として、生命保険3千万円、共済2千万円が2つ、そして新垣の自賠責保険の慰謝料3千万円……合計1億円もの大金が陽子と神代の手に入りました。

すべては計画通り。

陽子は知っていました。

弟が亡くなった交通事故から、運転手が罪に問われない方法があることを。

生命保険を売っていた経験から、少額なら加入後すぐに保険金を受け取ることになっても怪しまれないことや、生命保険と共済がお互いの情報を知らないことを。

保険金殺人を疑おうにも、事故の時間、陽子にはアルバイトをしていたというアリバイが存在していますし、陽子と新垣との間には何一つ接点などありません。

また、レイジはしばらく神代の邸宅に住んでいたわけですが、書類上ではダミー物件に住んでいたことになっているため、神代の関与も見つかりません。

完全犯罪。

こうして、陽子は目的を果たしました。

 


 

計画の準備を進める間、陽子もまた神代の豪邸に住んでいました。

そこでは毎夜のように神代の寝室に呼ばれ、抱かれていました。

神代には天性のカリスマ性があったため、自分を襲った男だというのに陽子は神代に愛情を抱くようになります。

また、神代の家には他にも神代に心酔しているファミリー(舎弟)たちが住んでいて、陽子は彼らともすっかり打ち解けていました。

いつの間にか、神代の女であることが陽子にとって新しい『居場所』になっていたのです。

だから、神代が「これからも《換金》を続ける」と宣言したとき、陽子は特に拒否感もなく「協力する」と申し出ました。

 

陽子の4度の婚姻歴。

1人目は初恋の人である山崎克久。

2人目はレイジこと河瀬幹男。

そして、3人目の夫の名前は……新垣清彦。

そう、レイジを轢いた運転手の男です。

神代による《換金》は、実行犯を次のターゲット(陽子の夫)にするという仕組みで継続されました(口封じのため)

新垣をトラックで轢いた男の名前は沼尻太一。

書類上の陽子の4人目の夫はこの沼尻であり、彼もまた同じ手口で《換金》されました。

レイジと新垣と沼尻で、合計3億円。

普通なら警察に保険金殺人を疑われそうなところですが、そこは神代の巧妙な手口によって見事に隠蔽されていました。

第一に、結婚するごとに陽子の名字と戸籍が変わっていたこと。本籍も移していたため、よくよく調べないと前の事故との関連は見えてきません。

第二に、実行する土地を毎回変えていたこと。都県の境を越えれば管轄する都県警も変わり、やはり前の事故との関連が隠されます。

 

次のターゲットは沼尻を悪人だと信じ込んで轢いた八木徳夫。

しかし、彼は陽子の夫とはならず、今でも生きています。

それはなぜか……?

 

さて、ここでついに陽子の人生と『NPO法人代表理事殺害事件』とがつながります。

 


 

NPO法人代表理事殺害事件

実は小説「絶叫」の冒頭では、最初の段階ではまったく『謎』な1つの事件が提示されています。

その事件の概要は以下の通り。

・NPO法人「カインド・ネット」の代表理事である神代武(54)が自宅で殺害された。

・同居の女性が1人行方不明になっている。110番通報したのもこの女性だと思われる。

 

神代と同居していた女性といえば、もちろん鈴木陽子!

そう、陽子は4人目の《換金》を実行する前に、神代を日本刀でめった刺しにして逃亡していたのです!

……で、最終的には国分寺のマンションで遺体が発見された、と。

奥貫綾乃が主人公の《現代編》では、この時点で事件の謎は解けたとして捜査本部が縮小されています。

・神代殺害の犯人は鈴木陽子

・彼らによる連続保険金殺人のカラクリも明らかになった。共犯者だった神代の舎弟たちや、実行犯であり神代殺害にも手を貸した八木徳夫も捕まった。

・陽子の死は逃げられないと悟っての自害(神代の舎弟たちや、陽子が共犯として巻き込んだ八木徳夫は陽子殺害を否定)

※11匹の猫は証拠隠滅のための工作ではなく、精神を病んでいた陽子が動物収集に依存する「アニマルホーダー」になっていたからと解釈された。

一見、問題なく筋が通っているように思われます。

そして実際、警察も最後までこの線で処理を進めていきました。

そんな中、ただひとり事件に深く踏み込んでいた奥貫綾子だけはこの結末に『違和感』を覚えます。

神代の家から莫大な金を持ち去ったはずの陽子の預金口座に100万円足らずの金しか入っていなかったのはなぜか?

陽子を始末してその金を奪った『真犯人』がいるのではないか?

綾乃は不審に思ったものの、一刑事の立場では組織の決定に異を唱えることはできず、そのまま一連の事件は幕を閉じました。

 

というわけで、本当に面白くなるのはここからです!

注目すべきポイントは『陽子の死の真相』

はっきり言ってしまえば、陽子の最期は自殺ではなく他殺です。

神代を葬り去った後、陽子の身に何が起きたのか?

誰が、何の目的で、陽子を亡き者にしたのか?

いよいよ驚きの真相が明らかになります!

 


 

真犯人

結論からいえば、鈴木陽子を殺した真犯人は鈴木陽子です。

これは自殺の比喩ではありません。

同姓同名の「もう1人の鈴木陽子」がいたというわけでもありません。

DNA鑑定により、遺体は鈴木陽子本人だと確認されています。

しかし、その鈴木陽子を手にかけた真犯人もまた本物の鈴木陽子なのです。

 

……どうでしょう? 混乱してますか?(笑)

それとも事件のカラクリを見抜かれてしまったでしょうか。

あまりもったいぶっても仕方がないので、ここからはネタばらしといたしましょう。

 

神代を始末した後、陽子は国分寺のマンション(遺体が発見された部屋)に「儲け話がある」と言って風俗嬢時代の知人を招きました。

その人物の源氏名は樹里。本名は橘すみれ。

陽子は橘すみれを睡眠剤で眠らせると、何の罪もない彼女の命を奪いました。

その目的は、鈴木陽子の死を偽装するため。

つまり、最後まで鈴木陽子として処理された遺体は、陽子本人ではなく橘すみれの遺体だったわけですね。

一方、本物の陽子はその日から「橘すみれ」として生き始めました。

保険証などの身分証は橘すみれが持ってきていたので、あとは顔を整形すれば入れ替わり完了。

誰も彼女が陽子だとは気づけませんし、誰も彼女が橘すみれであることを疑いません。

こうして別人に成り代わることで陽子は完全犯罪を成し遂げ、誰からも追われることのない新しい人生を手に入れたのでした。

 

陽子が成り代わる相手に橘すみれを選んだのには理由があります。

それは、すみれが両親の形見として『お守り』を肌身離さず持っていたから。

そして、そのお守りの中身は『へその緒』

……もうお気づきでしょうか?

そう、DNA鑑定への対策ですね。

すみれの遺体そのものは猫に食い荒らされていて、原形をとどめていませんでした。

警察は部屋の中から鈴木陽子の身分証を発見し、遺体が陽子であると仮定します。

遺体の本人確認に使われるのは、親兄弟のDNAか、本人のDNA。

髪の毛や、爪、あるいは「へその緒」

今回の場合、DNA鑑定に使えるサンプルが母親の部屋に保管されていた「へその緒」しかなかったため、警察はそれをDNA鑑定に使用するしかありませんでした。

そして、すみれの遺体とすみれのDNAが合致したことで、警察は遺体が鈴木陽子本人であることを確認したのです。

 

……はい、実は今、私はちょっとおかしなことを言いました。

母親がいるなら、DNA鑑定には母親の髪や血を使えばよかったはずですよね。

では、なぜ警察はそうしなかったのでしょうか?

答えは簡単で、陽子(に見せかけた橘すみれ)が亡くなったのと同時期に、陽子の母親が行方不明になっていたからです。

※陽子(実は橘すみれ)の遺体が発見されたのは亡くなってから半年後

母親のDNAをとろうにも、本人がいなければどうしようもありません。

陽子の父親は蒸発していますし、唯一の兄弟である弟も他界済み。

警察がDNA鑑定に使える対象は「へその緒」しか残っていなかったわけです。

 

さて、ここで新たな問題が1つ浮上しました。

陽子が橘すみれに成り代わったのと同じタイミングで、陽子の母親が行方不明になった……これって偶然でしょうか?

答えはもちろん「No」

DNA鑑定されないように、陽子が工作した結果です。

では、消えた母親はどこにいったのでしょうか?

 


 

結末

橘すみれの亡骸を密閉した国分寺のマンションを出た後、陽子は母親のもとへと向かいました。

認知症の母を部屋から連れ去り、車に乗せることは実に簡単でした。

そうして向かったのは、山。

あとは崖から谷底の原生林へと母親を投げ込めば、陽子の完全犯罪が成立します。

 

物語のラストシーン。

陽子は自分を愛してくれなかった母親の首に手をかけ、文字通り息の根を止めながら叫びました。

「お母さん、ありがとう! 私を産んでくれてありがとう!」

陽子自身、なぜそんなことを叫んでいるのかよくわかりません。

ただ、胸が熱くなって、そこから言葉があふれ出してきたのです。

「生まれたくなんてなかったよ! 選べるのなら、別の家の別の子に生まれたかったよ! あなたに愛されたかったよ! それでも、私を産んでくれてありがとう!」

涙を流しながらも、母の首にかけた両手の力は決して緩めませんでした。

「お母さん、私は、生きるよ! あなたを殺して、私も殺して、生きるよ! 求めて、奪って、与えて、生きるよ! あなたにもらったこの命が消えるその日まで、私は、戦うよ!」

ありがとうと叫びながら、精一杯の感謝を言葉にしながら、陽子は母の命を摘み取りました。

 


 

《現代編》のラスト

「他人だったんだよ」

それは、一連の事件が解決した後のこと。

少年たちに暴行されていたホームレスが鈴木康明の……陽子の父親の免許証を持っていたことで、警察はにわかに活気づきました。

警察はさっそく陽子のDNAとホームレスのDNAで親子鑑定を実施。

その結果は……

他人だったんだよ。親子の確率はゼロ。そのホームレスは鈴木陽子の父親じゃなかったわけだ。まあ、どっかで免許証を拾ったんだろうな」

警察が親子鑑定に使用したDNAサンプルは、実際は橘すみれのものです。

仮にホームレスが本当に陽子の父親だとしても、橘すみれのDNAと一致するはずがありません。

こうして、真実は再び闇の中へと沈んでいったのでした。

 


 

小説「絶叫」の感想と考察

なんといっても衝撃だったのは、結末で明かされるトリック!

まさか遺体がまったくの別人だとは思ってもみませんでした。

もちろん最初から「実は陽子は生きているのでは?」と疑ってはいたのですが、DNA鑑定をクリアした時点でその可能性は消していました。

あらためて読み返してみると、

・樹里は肌身離さずお守りを身につけている

・その時代、お守りの中身に「へその緒」が使われることもあった

という伏線はしっかりと張られていたんですよね。

いやぁ、してやられました。

 

また、結末といえば陽子が樹里を手にかけるシーンにはゾクリとさせられました。

これは実際に読まないとピンとこないかもしれませんが、一人称(私)と二人称(あなた)が逆転する場面があるんです。

具体的に言うと、それまで『私=陽子』『あなた=樹里』だったものが、樹里の息の根を止める瞬間から『私=樹里』『あなた=陽子』に置き換えられているんですね。

ちょっと一部抜粋してみましょうか。

ここで命を落とすのは、鈴木陽子、あなただ。

書き換える。

あなたは、鈴木陽子。私ではない。

私は、橘すみれ。あなたではない。

私たちを棄てた、この世界を騙しきる――。

このシーンのどこにゾクリとしたかって、陽子の本気さというか、覚悟ですよね。

「私は本当は鈴木陽子だけどこれからは橘すみれとして生きていく」なんて甘っちょろい考えではなく、「今この瞬間から、私は橘すみれだ」と自認しているのがわかります。

それまでの自分の人生をすべて捨ててでも、それこそ何の罪もない第三者の命を奪ってでも生き延びてみせる、という鬼気迫る覚悟に圧倒されました。

 


 

鈴木陽子という女の人生

小説「絶叫」は、鈴木陽子の40年間の半生をまるまる描いた作品でもあります。

・親から愛されなかった子供時代

・男に裏切られ、利用され、身を持ち崩していった社会人時代

・選ぶ自由などなく気がつけば犯罪者になっていた30代

小さいときから陽子のことを見ていたせいか、私には陽子が『悪人』だとは思われません。

どちらかといえば陽子の属性は『平凡な善人』であり『被害者』

巡り合わせのせいでどんどん不幸になっていく陽子の姿は見ていられないほどに哀れでした。

 

普通なら小説の登場人物にここまで感情移入することもないのですが、時代背景やその時々の状況を細かく描写する作風のせいか、陽子には生々しい存在感がありました。

まるで、本当にこの世界に生きている人間のように感じられたんです。

だからこそ『どこにでもいる平凡で不幸な女』だったはずの陽子が、いつしか自らの経験を活かして完全犯罪を計画したり、あまつさえ自分のが逃げ延びるために罪のない知人の命を奪って身代わりに仕立て上げたり、という展開には身の毛がよだちました。

「お前はそんな人間じゃなかったはずだろう!?」という気持ちになりました。

「いったいどこで道を踏み外してしまったのか?」と彼女の人生を思い返してみて……私は再びゾッとしました。

どこにも、選択肢などなかったのです。

すみれの命を奪ったのは、仕方のないこと。

神代に助けを求めたのも、仕方のないこと。

金に困るようになったのも、枕営業したことも、ダメな男に惚れてしまったことも、全部全部仕方がないこと!

まるで水滴が上から下へと落ちていくかのように、陽子の人生は生まれたときから選択肢のない一本道だったのです。

これにはさすがに絶句しました。

運命に追い立てられ、下へ下へと落ちていくうちに、いつの間にか平凡さの欠片もない壮絶な状況に身を置いていた陽子。

彼女は確かに許されざる悪です。

しかし、では彼女はどうすればよかったというのでしょうか?

もし彼女が不妊でなければ山崎との子供に恵まれ、幸せな人生を送っていたかもしれません。しかし、不妊であることは陽子の責任ではないでしょう。

もし彼女が芳賀に利用されていなければ、人並みの生活を送れていたかもしれません。しかし、女を騙し慣れた男の手練手管にウブな乙女がコロリと落ちてしまうのは罪ではないはずです。

もし彼女が娘をちゃんと愛してくれる両親のもとに生まれていたなら、まったく別の幸福な人生があったかもしれません。しかし、赤ん坊は両親を選べません。

結局は、どうしようもなかったのです。

陽子は、その場その場を懸命に生きていただけ。

だというのに、たどり着いたのは社会の闇のどん底。

あまりにも理不尽、というほか言葉が出てきません。

もし自分がそんな人生に放り込まれたとしたら、それこそ世を呪って《絶叫》するしかないでしょう。

そういう意味では、絶望的な状況の中でも決して生き延びることを諦めず、最後には警察さえ騙し通してみせた陽子には尊敬の念すら覚えます。

もはや彼女には人並みの幸せは待っていないかもしれません。

それでも私は彼女に「生きて! 生き続けて!」とエールを送りたいと思います。

「理不尽な運命に負けずに抗い続けてほしい」と願います。

 


 

タイトル「絶叫」の意味は?

作中には目に見えてわかりやすい「タイトル回収」はありませんでした。

私が思うに、タイトル「絶叫」に含まれる意味は2つ。

1つ目は、前述した理不尽な運命に対する《絶叫》

そして2つ目は、小説ではエピローグとして最後に描かれている陽子が母親の首を絞めるシーンの《絶叫》

 

「生まれたくなんてなかったよ! 選べるのなら、別の家の別の子に生まれたかったよ! あなたに愛されたかったよ! それでも、私を産んでくれてありがとう!」

 

もはや陽子自身でさえどんな感情で口にしているのかわからないこの叫びは、とにかく印象に残りました。

だって、嫌いな母親の首を絞めながら「産んでくれてありがとう!」と涙ながらに叫んでいるシーンですよ?

『凄絶』という言葉がピッタリな、すさまじい場面です。

その瞬間の陽子の心中を慮(おもんばか)ると、こちらまで理由もわからず感極まるような、そんな気持ちになります。

 

『絶叫』

物語を、そして陽子の人生を端的に表した、いいタイトルだと思います。

 


 

まとめ

葉真中顕「絶叫」がWOWOWドラマ化!

今回は原作小説のあらすじ・ネタバレ・感想などをお届けしました!

今回は要点だけを解説しましたが、原作小説は文庫本で約600ページの大ボリューム!

伏線の張り方や陽子の心情の変化など見どころの多い作品なので、未読の方はぜひお手に取ってみてください。

ドラマ情報

さて、そんな「絶叫」がドラマになるわけですが、気になるキャストはこんな感じ!

・鈴木陽子……尾野真千子
・神代武……安田顕
・奥貫綾乃……小西真奈美

その他の出演者:片桐仁 前川泰之 小柳友 郭智博 濱津隆之 奥貫薫 酒井若菜 要潤 麻生祐未

WOWOWドラマはいつも地上波ドラマに負けないくらいキャストが豪華ですよね。

個人的には大好きな安田顕さんや片桐仁さんが出演されているのが嬉しいところ。

バカっぽい役の安田さんも好きなのですが、こういう嫌らしい悪党役も実によく似合うんですよね(笑)

いずれにしても演技派のキャスト揃いなので、シリアスで緊迫感のあるドラマが期待できそうです。



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POSTED COMMENT

  1. ひまじん3号 より:

    はじめまして
    この本をのめりこむように面白く読めたんですが、自身の読解力のなさからあまりにも「?」だらけだったため、解説をされているページを検索するなかで貴ページを拝見させていただきました。
    そして、いろいろわからなかった点が次々と理解できました。
    大変救われました。ありがとうございます。
    ミステリー小説大好きなのでほかのページも楽しませていただいてます。

    更新応援させていただきますm(__)m

    • わかたけ より:

      >ひまじん3号さん

      はじめまして。
      応援ありがとうございます!
      お役に立てたのなら嬉しいです(^^♪

  2. ドラマも本も好き より:

    ドラマのラストが納得行かないので原作はどうなのか?と探してたどり着きました。

    ドラマでは、橘すみれに成った陽子が「ミス バイオレット」というカフェを開きます。
    そこに女刑事が引き込まれるように入ってきて、陽子を見つけてしまう。
    「鈴木陽子さん?」との呼びかけにビクリとして作業の手が止まる陽子
    ゆっくりと振り返る陽子の顔のアップ(眼鏡をかけてロングヘアになっているが整形はしていない)
    陽子の呟き「やっと終われる、、、やっと、、」
    で END
     これはひどい。
    でもこちらのサイトで原作小説はそうでは無いとわかり、 ホッとした次第です。
    わかたけさんに感謝感謝です。
    葉真中さんの他の小説も読んでみようと思います。

    • わかたけ より:

      >ドラマも本も好き さん

      ドラマではラストが大幅に改変されていたんですね!
      ある意味、原作とは正反対の結末だったようで、驚きました。
      お役に立てたのならよかったです!

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