『同窓会で語られるのは、思い出と犯罪計画』
タイトルとキャッチコピーに惹かれて雫井脩介『仮面同窓会』を読みました。
結論から言います。
巧みな伏線、叙述トリック、意外すぎる結末。
ミステリー小説好きなら必読の一冊です!
というわけで今回は「仮面同窓会」のあらすじネタバレと感想をお届けします!
予想外の真犯人と犯行動機、そしてまさかのラストとは!?
Contents
あらすじネタバレ
高校の同窓会に参加した洋輔は、懐かしい顔ぶれと再会した。
希一、八真人、和康。
小学校から高校まで一緒だった幼なじみたち。
高校では一番やんちゃな希一の道連れで、よく4人まとめて生徒指導の樫村に叱られていた。
洋輔は今でも鮮明に当時のことを覚えている。
……というか、忘れようと思っても忘れられない。
樫村は前時代的な頑固教師で、それは指導というより体罰だった。
屈辱的な思い出は、トラウマとして今も洋輔の心にこびりついている。
いや、洋輔だけではない。
他の3人もまた、当時の恨みを忘れてはいなかった。
「樫村、やろうぜ」
希一の提案に心から反対する人間は、4人の中にはいなかった。
仮面同窓会
『仮面同窓会』
そう名付けられた計画の全貌はとてもシンプルだった。
- 樫村を拉致する
- 廃工場に連行し、積年の恨みを晴らす
正体を隠すため、当日は各々『お面』をかぶる。
これが計画名の由来だ。
あまり大ごとにするつもりもないので、殴る蹴るは禁止にした。
希一は樫村の『弱み』を握っているとかで、警察に駆け込まれる心配もないという。
なに、ただの悪ノリの延長線じゃないか。
いつしか4人は『お祭り』の決行を楽しみにするようになっていた。
悪夢の始まり
計画はおおむね成功した。
目・口・腕・脚。
粘着テープでぐるぐる巻きの樫村をさんざんからかい、思う存分、仕返しをした。
とはいえ、イレギュラーが起こらなかったわけではない。
暴れる樫村を押さえつけるときに、洋輔は一瞬だけ樫村と目が合った。
それに、うっかりして「カズ」と和康の名前を呼んでしまった。
……だが、たったそれだけのことで身元を特定されはしないだろう。
満足した4人は身動きの取れない樫村をその場に放置したまま撤収した。
◆
翌日、洋輔は八真人からの電話で目を覚ました。
「樫村、死んだらしいぞ」
事件
樫村の遺体が見つかったのは、廃工場から1キロ以上離れた場所にある溜め池。
犯行時刻は『仮面同窓会』の約6時間後。翌早朝の3時~4時頃。
特筆すべきは、樫村の遺体が粘着テープで縛られたままだったことだ。
1時間もあれば樫村は自力で拘束を解けたはず。
つまり、犯人は4人が帰ってからすぐに廃工場の樫村を拉致し、長時間拘束したうえで命を奪ったということになる。
人通りのない廃工場に、第三者がたまたま訪れたとは考えにくい。
客観的に考えれば、犯人は4人の中の誰かということになる。
ひとりで樫村の身体を池に投げ込めたとは思えないため、最低でも2人は関わっていると見ていいだろう。
いったい誰が……?
容疑者だらけの登場人物紹介
【新谷洋輔】
主人公。26歳。営業職。ときおり二重人格を思わせるような独り言を話す。
【片岡八真人】
洋輔が最も信頼する親友。優しくて冷静。高校時代、真理とつき合っていた。
【皆川希一】
4人の中で一番ギラついている。皆川不動産の若専務。
【大見和康】
小心者でときどきズレた発言をする。フリーター。
【竹中美郷】
同級生。同窓会の前に再会した洋輔と恋人関係になる。
【日比野真理】
美郷の親友で、大和の彼女だった。のちに謎の自殺。
【串刺しジョージ】
父親とその浮気相手を串刺しにしたという噂の中学生。都市伝説。
【ストーカー男】
洋輔と美郷がつき合うきっかけとなった謎のストーカー男。
【樫村貞茂】
厳しい指導で恨みを買っていた保健体育教師。すでに定年を迎え、悠々自適に暮らしていた。
【新谷雅之】
次男。2歳年上の洋輔の兄。14年前、事故で川に落ちて他界。享年14歳。
【新谷稔彦】
長男。10歳年上の洋輔の兄。
この時点で最も怪しいのは主人公の洋輔。
別人格としての次兄(雅之)が洋輔が寝ている間に体を動かしている?
二重人格
予期せぬ出来事が起こった。
樫村の遺体が発見された溜め池で、いつかのストーカー男と再会したのだ。
ストーカー男は美郷から頼まれて溜め池に近づく不審人物を見張っていたのだという。
ストーカー男と美郷の間につながりがあるという事実に、洋輔は驚いた。
「お前は何者だ?」
「お前は何者かと問うより、自分は何者かと問え」
「お前は美郷とどういう関係なんだ?」
「俺は彼女の救世主だ」
美郷の本命は自分で、洋輔との関係は当てつけにすぎないとストーカ男は言う。
……ダメだ、頭がおかしい。
洋輔の心中を察するように、ストーカー男は笑った。
「俺に言わせれば、新谷洋輔、お前の方がおかしな人間だ」
「なに?」
「新谷洋輔、お前は病んどる。兄貴を失った事故をずっと引きずっとる。問題はお前が負った喪失感と心の傷だ。
お前はそれを埋められずに、心の中でこの世から消えちまった兄貴と対話することを選んだ。お前は自分の中に兄貴を飼い、その兄貴はお前とともに成長した。
その結果、お前は二重人格者になった。
まあ、お前も可哀想な男だよな」
馬鹿馬鹿しい、と切って捨てる洋輔。
ストーカー男は不敵に笑って言った。
「ふっ、どうにでもとればいいわ」
◆
美郷に確認すると、確かにストーカー男に見張りを頼んだと認めた。
ただ、ストーカー男とはたまたま再会して和解しただけで、名前すら知らないという。
洋輔は「やっぱりあの男の妄言だったか」と考えつつ、「危険だから二度と奴とは会うな」と美郷に釘を刺した。
……なぜか美郷は、洋輔が樫村の命を奪った犯人ではないかと疑っているようだった。
疑心暗鬼
樫村を亡き者にした犯人は誰だ?
最初、洋輔は希一と和康が組んで事に及んだのだと思っていた。
希一はもともと過激な性格。
和康には「名前を聞かれた」という動機がある。
しかし、和康には犯行時刻に深夜のコンビニでバイトしていたというアリバイがあった。
4人中2人が犯人だとすれば、残るは希一と八真人。
だが、あの八真人がそんなことをするはずがない……。
◆
謎が深まるなか、洋輔はある噂を耳にする。
それは「樫村は日比野真理に性的暴行をはたらいていた」というものだった。
洋輔(真理が自ら命を絶った原因か……)
樫村が真理を襲ったとき、すでに真理と八真人は別れていたはずだ。
しかし、だからといって割り切れるものでもあるまい。
洋輔の心中に新たな仮説が生まれた。
樫村を葬り去ったのは八真人なのではないか?
動機は真理のかたき討ち。
もし八真人が結婚する予定だという恋人と犯行に及んだのだとすれば、希一と和康は無関係ということになる。
《鉄の結束》
希一と和康はすっかり「洋輔が犯人で間違いない」と思い込んでいるようだった。
『仮面同窓会』のことがあるから警察に告げ口したりはしない。
その代わり、2人はことあるごとに洋輔に罪を認めるよう促してきた。
彼らにしてみれば「洋輔が認めない限り、次の標的は自分かもしれない」という恐怖があるのだろう。
とはいえ、洋輔にしてみれば覚えもないのに「俺が犯人だ」と認めるわけにもいかない。
現状を打開すべく、洋輔はまず和康を説得することにした。
しかし、結果は失敗。
和康は「あの2人が犯人なら、俺に声がかからないはずがない」という。
「それを言うなら、俺にだって声がかかってない」
洋輔が反論すると、和康はきっぱりと言った。
「洋輔は俺らとは違うわ。俺らには《鉄の結束》がある」
その言葉でようやく、洋輔は3人と自分との間に『溝』があることに気がついた。
《鉄の結束》
確かに、洋輔は樫村の生活指導が嫌で、高三のときは希一たちと距離をとっていた。
その結果、洋輔は無事に卒業できたが、希一・和康・八真人は留年した。
《鉄の結束》とはそのことを指しているのだろう。
それにしても、あの八真人までもが留年したのは今でも不思議でならない。
当時は病気で留年して一学年下だった真理のために学校に残ったのだと思っていたが……。
???
鈍い光を放つ刃が、深々と奴の身体に突き刺さる。
【俺】は獲物の耳元でささやいた。
「分かっとるだろ……。樫村と同じだ。あいつを犯った罪だて」
発覚
和康が何者かに刺されて死んだ。
その時間、洋輔は眠っていた。
だが、洗面台には血の跡があり、バスルームにも少し前に使われた形跡がある。
それを見つけたのは急に部屋を訪ねてきた美郷だったが、美郷は何も言わずに証拠隠滅を手伝ってくれた。
……もはや、認めざるをえない。
「お前がカズをやった犯人だな」
美郷を帰したあと、洋輔は《兄》を問い詰める。
〈おいおい、変なことを言うな。濡れ衣だ〉
一人きりの部屋に《兄》の声が響く。
「嘘をつけ。さっきも俺が寝とるうちに風呂に入っただろ」
〈風呂ぐらい入らせろ〉
そんな言い合いをしていると、突然、ドアを開けて美郷が部屋に上がり込んできた。
「今、誰と話してたの?」
「え、いや……」
洋輔が言いよどんでいるうちに、美郷はさっと部屋の中を見渡した。
壁際のノートパソコン。
部屋の片隅にあるスピーカー。
押し入れへと延びるコード。
美郷はおもむろに押し入れのふすまに手をかけると、勢いよく開けた。
押し入れの上段には、万年床の上にあぐらをかいた兄が背を丸めて座っていた。
「あんた誰!?」
「よ、洋輔の兄貴……」
美郷はきっと洋輔を睨んだ。
「あなたのお兄さん、亡くなったんじゃなかった?」
……見つかってしまったものは仕方がない。洋輔は素直に答える。
「いや、それは下の兄貴。これは上の兄貴」
洋輔の押し入れには、ずっと長男の俊彦が住みついていた。
次男・雅之の事故にショックを受けて引きこもりになった稔彦が、実家を出てアパート暮らしをする弟についてきたのだ。
寄生虫、といってもいい。
洋輔の独り言は、心の中に住む雅之との会話ではなく、実は押し入れの中の稔彦との対話だったのだ。
見たこともない変人を目の前にして、美郷は呆然とつぶやいた。
「何これ……。てっきり二重人格かと思ったのに」
罪人
和康の葬式から数週間後、洋輔・希一・八真人の3人は再びあの廃工場へと集まっていた。
奇しくも、3人の主張はほぼ同じだ。
「俺はやっていない。お前が犯人だろう。認めてくれさえすれば責めないし、それで終わりにする」
洋輔は八真人が犯人だと主張(稔彦は犯行を否定している)
一方、希一と八真人は洋輔が犯人だと決めつけている。
……このままでは平行線だ。
◆
らちが明かないと思ったのか、希一が話の流れを変えた。
そもそも希一にとって、『仮面同窓会』は樫村への恨みというより、《鉄の結束》を固めなおすための儀式だったのだという。
後ろ暗い秘密を共有することで、お互いに裏切れない関係をつくる。
それが希一の目的だった。
洋輔はふと和康の言葉を思い出す。
「洋輔は俺らとは違うわ。俺らには《鉄の結束》がある」
今ならその言葉の真の意味が理解できる。
希一・八真人・和康の3人は『仮面同窓会』よりも前から後ろ暗い秘密を共有していたのだ。
洋輔にも自白させるためだろう。
希一は意外にもあっさりと『罪』を告白した。
「日比野を八真人んちに呼んでもらってな、俺とカズがあとから乗り込んでって無理やり酒盛り始めたわけだ。そんで、あの子が酔っぱらったあたりで……3人で犯った」
洋輔は一瞬で頭が真っ白になった。
希一は自分になびかない真理に業を煮やしての行為だったと説明する。
また、真理の自殺の原因はあくまで樫村の件であり自分たちとは関係ない、とも。
……吐き気がする。
ひとつだけわからないのは、なぜ八真人がそんな卑劣な計画に乗ったのかということだ。
常々、八真人はなぜか希一の味方をしていたが、まさかそんな凶行にまで手を貸すとは……。
八真人は本当は美郷が好きで、真理のことは本気じゃなったという。
……あれ?
じゃあ、いったい誰が樫村と和康を手にかけたんだ?
???
「言いやがった……やっぱり八真人はクロ、洋輔はシロだ」
このときを、ずっと待っていた。
「よし、お前ら、いくぞ」
正体
「洋輔、来たよー!」
その場の緊張にそぐわない声とともに、乱入者たちは現れた。
美郷、ストーカー男、そしてなぜか稔彦。
「よう、希一、八真人、久しぶり」
親し気に声をかけるストーカー男。
希一は呆然とつぶやいた。
「ジョージ……どうしてここに?」
◆
ストーカー男の正体は【串刺しジョージ】として狐狸山の都市伝説になっていた人物・宮本譲司だった。
譲司は洋輔のひとつ下の学年であり、留年した希一たちとは同級生だったのだ。
高校時代は【宮本】姓だった譲司だが、今は母方の苗字を使っている。
日比野譲司。
ストーカー男の正体は、日比野真理の兄だった。
真相
樫村と和康を殺した犯人は譲司と美郷だった。
動機は真理の復讐。
真理の仇を討つに当たって、譲司と美郷にはひとつ問題があった。
最後まで真理は八真人が犯行に加わっていたのかを話さなかったのだ。
確実にクロなのは希一と和康。
八真人はクロに近いグレー。
3人とつるんでいた洋輔についても、確実にシロとは言い切れない。
そこで譲司と美郷はまず事実関係を確認することにした。
譲司がストーカー男を演じ、美郷が洋輔に近づいたのもそれが目的だ。
譲司と美郷は洋輔に仕掛けた盗聴器で会話の一部始終を聞いていた。
そして今、譲司と美郷はついに確証を得た。
八真人はクロ、洋輔はシロ。
今こそ復讐のとき。
結末
希一はあっさりと譲司に敗北した。
そのまま樫村と同じように全身を拘束される。
いまだ現状に理解が追いつかないでいる洋輔に、譲司が告げた。
「洋輔にはこいつらを沈めてもらう」
「なっ……そんなことできるわけないだろ!」
「じゃあ、あんたもこいつらと一緒に沈められる?」
美郷に真顔で問われ、洋輔は言葉を失った。
「お前は俺らと新しく《鉄の結束》を組むんだ。それが嫌なら、こいつらと一緒に沈むだけだぞ」
親友をこの手で沈めなければ、自分が沈められる。
せめて八真人だけでも助けてほしいと懇願する洋輔に、譲司は突き放すように言った。
「なあ、お前は八真人がなんで希一に逆らえんと思っとるんだ?」
「え……?」
「なんで稔彦がここに加わっとると思っとるの?」
美郷がそう訊いてくる。
「やめろ! もういいだろ!」
洋輔に「自分のことは気にするな」とまで言った八真人が、譲司と美郷の言葉に強い拒絶反応を示した。
その理由は、すぐに兄の口から語られることになる。
「美郷様と譲司様は、俺たち兄弟に仇討ちの機会を与えてくださったんだ」
「仇討ち……?」
「雅之が川に落ちて死んだのは事故じゃなかった。あれは八真人に突き落とされたんだ」
◆
当時小学生だった八真人は、雅之に弱みを握られていた。
八真人が盗撮騒ぎを起こした現場に、雅之が居合わせていたのだ。
以来、八真人は雅之に逆らえなくなった。
だから、八真人が雅之を川に突き落としたのは、奴隷のような立場から自由になるためだった。
しかし、八真人の思惑は外れることになる。
八真人が雅之を突き落とす瞬間を、希一に見られていたのだ。
それからというもの、八真人は希一に絶対服従しなければならなくなった。
高校生活の日々、八真人は希一に支配されながら、《秘密》を隠して洋輔の親友として振るまっていたのだ。
◆
「だから、こいつらの《鉄の結束》とやらは、七年前、希一が真理を犯るために編み出したもんだが、本当はそのさらに七年前の、雅之の事件から始まっとるわけだ。
希一は雅之の事件から七年ごとに《鉄の結束》を固める画策を施したことになる。そこに前回からカズが加わり、今回はお前も加わった」
悪魔がささやくように譲司が言う。
「わかっただろ。お前は何もためらう必要はない。立派に八真人を沈める権利がある」
それでも親友を手にかけるわけにはいかない。
しかし、拒否すれば自分も沈められてしまう。
叫びだしたくなるような葛藤に苛まれる洋輔に、八真人がぽつりと言った。
「洋輔、気にすんな。お前に殺られるんなら仕方ない」
八真人はそう言い、弱々しく微笑んだ。
「俺はもういい……疲れたわ」
◆
目の前には、縛り上げられた希一と八真人。
その体にはずっしりとした重しがつながれている。
その背中を押せば、彼らはあっけなく水底に沈んでいくだろう。
「それ!」
兄がうなり声をあげる希一の背中をぐいっと押した。
同時に譲司が積みあがった重しを池に蹴り入れる。
すぐに大きな水音が立ち、洋輔の心臓を縮ませた。
「次!」
譲司の声で、洋輔は感情を遮断する。
ただ機械的に、親友だった男の背中を押す。
不意に重みが消え、八真人の背中があっけなく手から離れていった。
どん、どんと激しい水音が上がる。
洋輔は泣きたくなった。
<完>
感想
率直に言って、めちゃくちゃ好みでした!
- 序盤からいきなりの「主人公は二重人格じゃないか?」と錯覚させるミスリード!
- 叙述トリックで巧妙に偽装された譲司(=俺)の存在!
- 《鉄の結束》の裏に隠されていた罪と、あのイヤミスすぎるラスト!
いやもう、ホントに内容てんこ盛りでお腹いっぱいになりました(笑)
読む前から「面白そうなあらすじだな」と思っていたのですが、誇張抜きで予想の3倍は面白かったですね。
だいたいのミステリは「じゃじゃーん! 実は○○でした!」と1回はどんでん返しがあるじゃないですか(あってほしい)
それが『仮面同窓会』では剥いても剥いても次が出てくるタマネギのように、次々に『どんでん返し』が目の前に現れるわけです。
「まだ裏があったの!?」と何度も驚かされる終盤には、本当にワクワクさせられました。
雫井脩介さんの小説を読むのは3冊目でしたが、ぶっちぎりで『仮面同窓会』が一番面白かったです。
イヤミスなラストに鳥肌
何度も驚かされた『仮面同窓会』ですが、あのラストは本当に意外でした。
というのも、洋輔は最後まで「自分の身も大事だけど、親友を手にかけるなんてできない」という態度をとっていたからです。
結局、洋輔には何の罪もなかったわけですからね。
そりゃ、わざわざ犯罪者になろうとは思いません。
だから、結末はなんだかんだいって『いい感じに丸く収まる』のだと思っていました。
洋輔は手を汚さず、八真人と希一は逮捕される、とか。
ところが、待っていたのは洋輔にとってまったく救いのないラスト!
あらすじの方では省略しましたが、実はかな~り嫌な後味が残るラストでした。
それまで私は『仮面同窓会』をイヤミスだとは認識していなかったので、あの終わり方にはしびれましたね。
イヤミス好きには是非ともおすすめしたい一冊です。
ラスト。譲司の指示で、洋輔は八真人の背中を押すときに「よいしょー!」という掛け声をあげます。
それは洋輔のトラウマである、樫村お得意の『天突き体操』を模したもの。
「洋輔、声が小さい!」
譲司が笑いながら言ったセリフは、樫村からさんざん浴びせかけられた言葉でした。
結局、洋輔は過去のトラウマを何一つ清算することができないまま、親友を手にかけたという罪をも背負ってしまったのです。
親友を失い、恋人を失い、仕事もうだつが上がらない。洋輔の人生はお先真っ暗。本当に救いのない結末でした。
秀逸な叙述トリックとミスリード
あらすじにも『???』という項目があるように、『仮面同窓会』には「謎の人物目線のエピソード」がちょくちょく挟まれています。
他の多くの読者と同じように、私はすぐに「どうやらこいつが真犯人らしいぞ」と気づきました。
そしてあっさりとミスリードにひっかかって「さては謎の人物の正体は洋輔の別人格だな」という結論を出してしまいました。
結局、謎の人物の正体は譲司だったわけで、私の予想は大ハズレ。
でも、それは雫井脩介一流の叙述トリックがそれだけ秀逸だったということでしょう(そういうことにしといてください)
たとえば、このエピソード。
洋輔は樫村の葬式に参列していないはずなのに、芳名帳にはなぜか洋輔の名前が記帳されていた。
葬式のシーンでは【謎の人物】が希一たちとふつうに話しています。
でも、洋輔には葬式に行った記憶がありません。
それまでの流れから「別人格の記憶は洋輔に残らない」という偽のルールができあがっていたので、私はこの現象をすんなり別人格による行動だと納得しました。
まさに著者の掌の上、って感じですね(笑)
ちなみに、このエピソードの正解は「譲司が芳名帳に洋輔の名前を記帳していた」です。
洋輔と譲司とでは性格が全く異なりますが、「洋輔は昔から気分屋だった」「二重人格の性格の違いはまるで天使と悪魔」などという記述があったため特に違和感は抱きませんでした。
ミステリにおいて重要なトリック・ロジックの点でも優れた小説だと思います。
美郷が怖い
洋輔目線では、美郷は可愛くて健気な女の子に見えていました。
でも、それは復讐のための演技だったわけですよね。
終盤で猫かぶりをやめた美郷は冷血な性格で、それまでのイメージとのギャップにゾッとさせられました。
譲司によれば、美郷は当初「いいから洋輔も八真人も沈めてしまおう」と主張していたそうです。
人間の二面性はよくミステリの題材になりますが、何度読んでも慣れません。
いつも「もし私の周りにもこういう人がいたら……」と頭に浮かんで不安になってしまいます。
洋輔の立場に立って考えると「大好きな恋人からずっと始末するべきかどうか見極められていた」という現実を突きつけられたわけで……うわぁ……。
私だったらもう二度と立ち直れないかもしれません。
ラストにはそんな要素も加わって、ますますイヤミスでした。
まとめ
今回は雫井脩介「仮面同窓会」のあらすじ・ネタバレ・感想をお届けしました!
最後にあらためてまとめておきましょう。
- 真犯人は美郷と譲司(ストーカー男)
- 動機は真理の復讐
- 結末は洋輔以外の3人がいなくなるイヤミスエンド
個人的なおススメ度は★5つ!(MAX)
エンタメ小説としてもミステリー小説としても文句なしの「当たり」でした。
ドラマ情報
キャスト
役名 | キャスト |
新谷洋輔 | 溝端淳平 |
竹中美郷 | 瀧本美織 |
皆川希一 | 佐野岳 |
大見和康 | 木村了 |
片岡八真人 | 廣瀬智紀 |
謎の男 | 永井大 |
樫村貞茂 | 渡辺裕之 |
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永井大を活かせてない。