そこで今回はアニメ映画「HELLO WORLD」のあらすじを結末までネタバレをお届けします!
名台詞、名シーンがいっぱい!
予告編
登場人物と相関図
出典:https://hello-world-movie.com/chara/index.html
あらすじネタバレ
堅書直実は昔から『何かを決める』のが大の苦手だった。
隣の席のクラスメイトに声をかけるかどうか。
そんな簡単なことでさえ迷ってしまい、結局、声をかけられない。
だから、直実には友達がいない。
いつも自分の席で本を読んでいる。
逃げてばかりの自分の性格が、直実は嫌いだった。
◆
何もない空間から、いきなり大人の男が転がり出てきた。
男はこちらの顔を見るなり、ひどく嬉しそうな顔をした。
「堅書直実っ!」
(なんで僕の名前を!?)
直実は怖くなって一目散に逃げだした。
しかし、案の定というべきか、男は追いかけてくる。
逃げながら、直実は3つのことに気がついた。
- 男の姿は直実にしか見えていない
- 男の声は直実にしか聞こえていない
- 男の体はまるで立体映像のように、あらゆるものをすり抜ける
「あなたは、いったい」
どもりながら尋ねる。
すると、男は強く精悍な大人の声で答えた。
「教えてやるさ。俺が何者なのか。そして、お前が何者なのか」
にやり、と男の口元が歪んだ。
◆
「2020年。ここ、京都の地において『クロニクル京都』の真の計画が秘密裏に始動した」
クロニクル京都。
表向きには、京都の地理情報の移り変わりを詳細に記録する事業とされている。
『アルタラ』という無限の記憶領域を持つ装置がそれを可能にしているとか。
その事業に、別の目的があった……?
男の話は続く。
「その計画とは、大量の測定機器を用いて京都の都市全域を精密に測定し、アルタラに京都の全事象をまるごと記録しようというものだった」
世界のデータ化。
記録された過去の世界の人々は、自分がデータ上の存在だと気づかない。
男はゆっくりと結論を告げる。
「2027年4月17日。ここはアルタラに記録された『過去の京都』で、お前はアルタラに記録された『過去の堅書直実』」
「……僕、が?」
男は頷いて、顔を隠していたフードに手をかけた。
「そして俺は、2037年の現実世界からアルタラの内部にアクセスしている『十年後の堅書直実』だ」
フードの下から現れたのは、大人になった直実の顔だった。
以後、未来の堅書直実のことは『ナオミ』と表記します。
また、直実はナオミのことを『先生』と呼ぶようになります。
目的
ナオミがデータ上の過去の世界に来た理由。
それは……
「お前に彼女をつくるためだ」
「は?」
「今日から三か月後、お前は一行瑠璃と恋人同士になる」
ちょっと何を言っているのかわからなかった。
◆
一行瑠璃(いちぎょうるり)
直実のクラスメイトで、同じ図書委員の女の子。
いつも一人で本を読んでいるけれど、その在り方は直実とはまるで違う。
一言でいえば、瑠璃は『強い』
休み時間に自分の席に誰かが座っていたとしたら、彼女は一切の迷いなく「椅子を」と言える。
どんなにその席に座っている女子たちの会話が盛り上がっていても、だ。
表情はいつも厳しく、笑った顔など見たことがない。
瑠璃は一人でいるのは、人と馴れ合わないと決めているからのように思える。
直実が『孤独』であるのに対し、瑠璃は『孤高』だった。
……そんな彼女と恋人同士になる?
「そんなバカな」
◆
ナオミを連れて図書室へ。
瑠璃の姿を目に映した瞬間、ナオミの目から涙がこぼれ落ちた。
次から次へと。
とめどなく、いつまでも。
◆
「付き合い始めてすぐの頃に、事故は起こった」
ナオミは静かに告げた。
「二人で一緒に行った、花火大会でのことだった。落雷が、河川敷の木を直撃した。運悪く、そのそばにいた彼女は……」
悪い予感に、心臓が高鳴る。
「二度と目を覚ますことはなかった」
そう言われても、実感はない。
ただ、ナオミは瑠璃を見て泣いていた。
それだけは確かだ。
「俺の目的は『記録の改ざん』だ。今日から三か月後の記録を書き換えて、事故を防ぐ」
アルタラの内部に「瑠璃が生きている世界」をつくること。
それがナオミの目的。
でも、それは……
「意味があることなんですか?」
恐る恐る、直実は尋ねた。
記録の中で瑠璃が助かったとしても、現実の彼女は戻ってこない。
「……本当に、つき合い始めたばかりだったんだ。二人でどこにも行けなかった。何の思い出もない。写真の一枚すらない」
ナオミは静かに言う。
「一つだけでいい。幸せになった彼女の笑顔がほしい。その記録がほしい。たとえそれが、現実じゃないとしても」
ナオミの視線が、こちらに向く。
「たとえそれが、俺のものじゃないとしてもだ」
その目は、覚悟を伝えていた。
「俺は何もできない。アバターの俺は、この世界に触れることすらできない。俺は、無力だ」
そう言うとナオミは深々と頭を下げた。
「頼む。力を貸してくれ」
「僕は、その」
無理だ、と反射的に言いそうになった。
足が勝手に一歩後ろに下がった。
でも、ここで逃げることは、考えなしに拒絶することだけは、やっちゃいけないと思った。
「僕は……事故が防げるなら、一行さんが死んじゃうのを止められるのなら……助けたいです、僕も」
ナオミは驚いたような顔をして、それから微笑んだ。
神の手
ナオミが指を鳴らすと、連れていたカラスがぐにゃりと変形して、直実の右手で手袋の形になった。
『神の手(グッドデザイン)』
アルタラのデータにアクセスして「世界そのもの」を書き換えることができるアイテム。
イメージするだけで石を宝石に、空気を水に変えることができる。
ただし、使用には制限もある。
- 直接触れたものしか変えられない
- 複雑な構造のものは処理に時間がかかる
鉄や水のような簡単なものはつくりやすい反面、PCなどの精密機器はつくるのが難しい。
扱いには練習が必要で、最初、直実は小さなプラスチックの塊をつくるのが精いっぱいだった。
◆
直実の使命は大きく分けて2つ。
- 事故を防ぐこと
- 瑠璃と恋人になること
事故に関しては『神の手』で対応できる。
ただし、『神の手』は恋愛の役には立たない。
「だから、恋愛の助けは俺の仕事だ」
そういってナオミは一冊のノートを取り出した。
表紙には『最強マニュアル』と書かれてある。
ページをめくってみると、中身はナオミの日記だった。
「つまり、昔の先生がやったとおりに行動すれば、記録された歴史の通りに一行さんと恋人になれる、と」
「成功はすでに記録されている。心配するな。ただ信じて、この通りに行動するだけでいい」
◆
それから『最強マニュアル』を実践する日々が始まった。
日記の出来事をひとつなぞるたびに、瑠璃との距離が近づいていく。
直実は少しづつ、瑠璃のことを知っていった。
直実は少しずつ、瑠璃をかわいいと思うようになっていった。
恋
図書委員会主催の古本市のため、直実と瑠璃は手を取り合って古本を集めた。
集まった本の大部分は、瑠璃の祖父の蔵書から寄贈されたものだったけれど、二人は大きな手ごたえを感じていた。
あとは古本市の開催を待つだけ。
そう思っていたのに、校庭に置いていた古本の山は、小火(ぼや)が起きてぜんぶ燃えてしまった。
いったい彼女はどれだけ傷ついたのだろう。
直実の怒りの矛先は、ナオミへと向けられた。
こうなるとわかっていたなら、どうして教えてくれなかったのか。
「これも必要なことだ」
少しでも歴史に反することをすれば、そのあとの未来がどう変わるのか予想不能になる。
そうなれば『最強マニュアル』は役に立たなくなり、ひいては瑠璃と恋人になれなくなるかもしれない。
瑠璃の命を救えなくなるかもしれない。
「彼女を救えなかったらお前の責任だ」
ナオミの言っていることはきっと正しい。
頭では理解できる。
でも。
それでも。
「事故を防ぎたいのは、一行さんに生きて、幸せになってほしいからで。でも、一行さんは今、幸せじゃない」
感情に流されているだけだって、自分でもわかっている。
でも、僕は彼女の悲しい顔なんて見たくないから。
だから、もう心は決まっている。
◆
直実は『神の手』を使って燃えた古本を再構築した。
本は情報の塊だから、つくる難易度は高かったけれど、徹夜して40冊ほどは元に戻せた。
疲れ果てた直実が眠っている間に古本市は開催され、盛況のうちに幕を閉じた。
◇
彼が「別の場所に保管してあったから」と持ってきた本を見て、私は困惑した。
目の前で確かに燃え尽きていた本が、その中に含まれていたから。
「本が無事でよかったですね」
屈託なく微笑む彼を見て、ぜんぶ、わかった。
なぜだか、理屈を飛び越えて、本当のことが、心の真ん中に飛び込んできた気がした。
彼がやったのだ。
どうやったかはわからない。
けれど間違いない。
彼は、魔法を使ったのだ。
古本市のために。
みんなのために。
もしかしたら、私のために。
まるでヒーローのように。
◇
目が覚めると、もう夕方だった。
古本市が成功したと彼女から聞いて、僕は思わずガッツポーズをとった。
「堅書さん。ありがとうございます」
お礼を口にする彼女はいつのまにか至近距離にいて、僕は顔が熱くなるのを感じた。
「いえいえ」
普通に相槌を打った。
話はこれで終わりのはずだった。
なのに彼女は、今もこちらを見つめている。
「その、僕は、何もしては」
彼女は首をふった。
「ありがとうございます」
そして僕に向かって、笑いかけた。
「あ」と思ったときにはもう遅かった。
彼女の笑った顔が胸に焼き付く。
たぶん僕はこの光景を、一生忘れないのだろうと思う。
「僕は」
口が勝手に動いていた。
理性の制止を振り切って、言葉が喉を通る。
「僕は、一行さんが好きなんだ」
逃げるように下を向いた。
言ってしまった。
言って、しまった。
「そうですか。交際というものは一人では成し得ないことです」
彼女の声が、死刑宣告のように思える。
だけど、続く言葉は予想とは違っていた。
「ですから、二人でやってみましょうか」
顔をあげる。
目の前には、彼女の笑顔があった。
運命の日
2027年7月3日。
宇治川花火大会当日。
直実は瑠璃をデートに誘っていない。
事故の運命を回避するためだ。
このまま何ごとも起こらなければ……
直実の淡い期待は、ナオミの低いつぶやき声によって儚く散った。
「来やがったか」
ナオミの視線の先には、狐の面をかぶった不気味な一団がいた。
それらは人の形をしているが、人ではない。
アルタラの『自動修復システム』
記録の改ざんを許さない存在。
堅書直実の敵。
「こいつらは歴史通りに宇治にいないお前と彼女を、無理矢理そこへ連れていく気だ」
「そんな、どうしたら」
「戦え」
事故の時間まで13分。
それまで持ちこたえれば、直実たちの勝ちだ。
「彼女を守るぞ」
頼もしいナオミのかけ声に、直実は真剣な表情で頷いた。
◆
『神の手』を使ってどれだけ吹きとばしても、狐面の数は一向に減らない。
むしろ時間が迫るほどに狐面はわらわらと増えていく。
直実はついに狐面たちに取り囲まれてしまう。
「あっ」
それは一瞬の出来事だった。
まばたきの間に、直実はどこか別の場所へ瞬間移動させられていた。
橋の上。
目の前には部屋着姿できょとんとしている瑠璃。
「直実っ! そこが落雷地点だ!」
切羽詰まったナオミの声が聞こえた。
直実は混乱している瑠璃の手を引いて走り出す。
しかし……
「痛っ!」
瑠璃の足に、地面が絡みついていた。
《世界そのものの力》によって、瑠璃は橋の上から一歩も動けない。
運命の瞬間まであと2分。
ナオミの声が飛んだ。
「直実、派手にやれ!」
直実は頷いて、『神の手』を高く天に掲げる。
全ての力を使って。
限界すら超えて。
直実はつくりだした。
《ブラックホール》を。
運命の刻限。
天から雷が落ち、そして黒い穴へと吸い込まれていく。
目の前にミサイルが落ちたのかと思うほどのすさまじい衝撃があたりを襲った。
◆
「堅書さん?」
何がなんだかわからないという顔でつぶやく瑠璃を、直実は思わず抱きしめた。
生きている。
一行瑠璃が、生きている。
やりとげた。
彼女を守れた。
こらえきれなくて、直実はみっともなくボロボロと泣いた。
◆
気がつくと、すぐ近くにナオミが立っていた。
「先生」
きっと喜んでくれているはずだ。
直実は「よくやった」という言葉を期待した。
しかし、ナオミの口から出たのは意味不明な言葉だった。
「『器』と『中身』の統一が必要だった。彼女の精神を、事故当時の状況に近づける必要があった。測定値がようやく閾値(いきち)を超えた。今ならば『同調』できる」
「先生? 何を言っているんです?」
ナオミは直実を無視して語り続ける。
「彼女は、恋をした。お前に恋心を抱いて、お前に心を開いた。その結果、彼女の精神はついに、事故に遭ったときとほぼ同じ状態になったんだ。これで、すべての準備が整った」
ナオミが指を鳴らす。
すると直実の手から『神の手』が離れて、一行瑠璃を閉じ込める《檻》に変わった。
「落雷を受けた彼女は、死んだんじゃない」
先生は言った。
「脳死になったのさ」
《檻》ごと、一行瑠璃は天に空いた『穴』へと吸い込まれていった。
「ありがとう。さようなら、直実」
本当に嬉しそうな顔でそう言うと、ナオミは花火みたいな、ぱらぱらの光になって、夜の闇に消えた。
彼女が消え、ナオミが消え、あとに残ったのは夜だけ。
夜だけが、残った。
「……先生?」
直実は夜空に向かって、か細い声で聞いた。
2037年
病室でじっと彼女を見つめる。
この十年閉じたままだった彼女の目が、ゆっくりと開いていく。
「会いたかった……!」
ナオミ……26歳の堅書直実の頬を涙が伝う。
2037年夏、一行瑠璃は十年ぶりに目を覚ました。
10年前の自分に瑠璃を救わせる。
そして、瑠璃を奪う。
彼女の目を覚まさせるためには、それしかなかった。
◆
『アルタラセンター システム管轄 メインディレクター』
それが2037年の堅書直実の肩書だ。
ナオミが過去から瑠璃を連れ去ったせいで、今、アルタラには重大なエラーが発生している。
通常の修復作業では間に合わない。
緊急措置として数千時間に及ぶメンテナンス『リカバリー』が発令された。
アルタラ内部の世界を一度壊して、もう一度再構成する。
そのプログラムのスタートボタンを、ナオミは押した。
10年前の自分ごと、その世界を消した。
謝りたくても、もういない。
自分と同じように恋をしてくれた、10年前の堅書直実は。
世界の終わり
一方、16歳の直実は《世界の終わり》を目撃していた。
狐面の軍団が『神の手』ですべてを《無》に変換していく。
さらに、世界そのものもアリ地獄のように歪み、地面が次々に《底の穴》に吸い込まれていく。
直感的に悟った。
僕は、死ぬ。
恋人を失い、兄のように慕っていたもう一人の自分に裏切られ、そして消えてなくなる。
「いちぎょうざんっ!」
僕はみっともなく叫んだ。
けれど、何も起こらない。
この手にはもう『神の手』はない。
◆
ふと、頭に閃くものがあった。
アリ地獄の底の穴。
あれは彼女が吸い込まれていった穴に似ていないだろうか?
だとすれば、あの穴に飛び込めば彼女に会えるのではないか?
我ながら、バカげた考えだと思う。
そんなことをすれば、十中八九、死ぬ。
これまで冒険を避けるように生きていた自分が、そんな危険な賭けに乗れるはずがない。
ずっと逃げてばかりだった。
結果がわからないことには挑んでこなかった。
そんな自分が……
諦めようとしたその瞬間、思い出す光景があった。
焼けた古本の山。
徹夜で本を再構築した夜。
彼女の笑顔。
そうか、と僕は気づいた。
僕はあの時、もう冒険をしていた。
『最強マニュアル』を捨てて、予測不能な未来を選んでいた。
僕はもう、できていた。
自分で決められていたんだ。
心の中から不安がすっと消えた。
静かに凪いだ気持ちで、僕は《黒い穴》に飛び込んだ。
◆
自分の輪郭があやふやになる。
ぐちゃぐちゃに溶けてなくなっていく。
奇妙な空間に、直実の意識は浮かんでいた。
「……死んだのか」
「いいえ、貴方は死んでいません」
驚いて振り返る。
声の主はカラスだった。
ただ、ナオミのカラスとはちょっと違うように見える。
カラスは言う。
「私は貴方の味方です。堅書直実さん。貴方の手で一行瑠璃を取り返すのです」
カラスは変形し、直実の右手で『神の手』になった。
「君はいったい」
「私は、貴方の三か月の努力を見つめ続けてきた、ただのカラスです」
空間が歪み、再び自分の境界があいまいになる。
そして僕は、僕と混ざり合った。
十年の記憶
この十年間の先生の記憶が流れ込んでくる。
先生(ぼく)は、一行さんを救うことに人生のすべてを捧げていた。
食事を削って。
睡眠を削って。
命を削って。
ただひたすら、彼女をとり戻すためだけに先生(ぼく)は生きていた。
アルタラに入れるのは、世界レベルの優秀な研究者だけだ。
そのなかで出世するのは、もちろんさらに難しい。
天才じゃないから、先生(ぼく)は泥にまみれながら努力を重ねるしかなかった。
そうしてアルタラの中心人物になっても、まだ終わりじゃない。
むしろそこからが本当の地獄だった。
アルタラ内部に入りこむためのトライアンドエラー。
最初の失敗では背中が焼けただれた。
140回目の失敗では左足が動かなくなった。
そして、336回目の挑戦で、先生は僕に会えた。
そこに至るまでの先生の気持ちが、自分のことのようにわかる。
同じ立場にいたら、きっと僕だって同じことをしていた。
違和感
2037年。
ベッドの上で目覚めた瑠璃は、何もかも信じられない思いでいた。
やせ細った自分の体。
十歳も年を取った自分の顔。
とても受け入れられない。
……でも、納得するしかない。
自分にとっての現実は、目の前の《これ》なのだと。
「会いたかった……!」
目の前で大人の男の人が泣いている。
いわれてみれば、どことなく堅書さんの面影が見てとれる顔立ちだ。
ボロボロと涙を流す彼を見て、私はようやく覚悟を決めた。
十年後の世界で生きること。
十年間、ずっと自分を愛し続けてくれた人に報いること。
ふと、ある光景が目の前によみがえる。
あのとき堅書さんが古本市のために助け出してくれた思い出の本。
「……あの、本」
口に出したことに、意味はなかった。
けれど
「あの本?」
彼のその一言で、頭が真っ白になる。
「違う」
私は、何の意味もわからないまま。
心が本当だと思ったことを、口にしていた。
「貴方は、堅書さんじゃない」
◆
一瞬、思考が停止した。
頭をフル回転させて、ようやく思い至る。
そうか、彼女にとっての堅書直実は一人じゃない。
彼女にとっての堅書直実は《古本市を諦めなかった直実》だ。
だけど、大丈夫。
きっとまだ確信には至っていない。
うまく演じ続ければ、乗り切れる。
そう思ったとき。
ガラリ、と病室の扉が開く音がした。
入り口を見ると、そこに。
狐面の男が立っていた。
「……は?」
帰るべき場所
自動修復システムが現実にいるはずがない。
しかし、実際に目の前にいるのはよく知っている狐面だ。
ナオミは直実に説明した言葉を、そのまま思い出した。
『アルタラに記録されたこの世界は、現実世界の完全な複写として成立している』
『この世界に存在するお前には、その二つを区分することができない』
まさか。
まさか。
考えている余裕はすぐになくなった。
狐面の大群が病室になだれ込んでくる。
標的は明らかに瑠璃だ。
狐面はその精神に《異物》を宿した瑠璃を排除しに来たのだ。
次から次へと押し寄せる狐面の大群に、ナオミはなすすべもなく取り押さえられる。
狐面たちは無遠慮にベッドに足をかけると、その両手を瑠璃の細い首にかけた。
「かたがき、さ……」
か細い彼女の声が、消えた。
何もできないナオミの目の前で。
ナオミが過去から無理やり瑠璃の精神を奪ってきたせいで。
彼女が、死んだ。
「あああああああああああっ!」
ナオミは自分の心が壊れる音を聞いた。
その瞬間。
ベッドに群がる狐面の集団がはじけとんだ。
「えふっ、えっ」
彼女が苦しそうに咳き込んでいる。
まだ、生きている。
彼女のかたわらには、当たり前のように16歳の堅書直実が立っていた。
◆
僕は彼女を抱きしめて言った。
「帰りましょう。僕たちの場所に」
先生を力いっぱいに殴り飛ばしてから、病院を出る。
右手の『神の手』は先生が用意したものより高性能らしく、手の届かない場所でも変質させられたし、出力も桁違いだった。
逃げる。
逃げる。
逃げる。
狐面たちは黒い波のように道路を埋め尽くしながら追いかけてくる。
追いつかれそうになったそのとき、狐面たちを跳ね飛ばしながら一台の車が猛スピードで近づいてきた。
「乗れ!」
助けに来てくれたのは、先生だった。
「先生!? どうして……」
「彼女を、元の世界に戻す」
予想外の言葉に、目を丸くする。
先生の言葉が続く。
「こうなったのは、すべて俺の責任だ」
後悔がにじむ声で。
「こんなことは望んじゃいなかった。こんな目にあわせる気はなかった。俺は」
先生は言った。
「もう一度、彼女の笑顔が見たかっただけだ」
先生がどんな気持ちでその言葉を口にしているのか、僕にはわかる。
十年を費やして、足を犠牲にして、そこまでして手に入れた一番大切なものを、先生は返すといっていた。
自分ではなく、一行さんの幸せのために。
「指示を出せ、直実っ!」
「京都駅です! 大階段へ!」
別れ
京都駅に着くと、直実は『神の手』で大階段を《元の世界に帰るための扉》に変えた。
扉が開く。
「さあ、早く!」
彼女が扉をくぐれば、すべては丸く収まる。
それでいい。
俺にできることは、もう何もない。
あとのことは直実(おれ)に託せばいい。
そう思っていると、彼女と目が合った。
「どうした」
「貴方は、堅書さんなんですか」
予想外の質問に目を丸くする。
少しだけ考えてから、シンプルに答えることにした。
「いいや、堅書直実はあいつで、俺はただのエキストラさ」
堅書直実は、もう俺じゃない。
この物語の主人公は、あいつだ。
「さあ……」
彼女を促す。
扉をくぐれと、背中を押そうとしたときだった。
彼女は。
俺を抱きしめた。
頭が真っ白になる。
「貴方は、私を愛してくれたのですね」
真っ白な頭に、その言葉が染みこんでいく。
彼女は何も知らないはずだ。
世界の真実も、この十年の出来事も。
なのに……。
「ありがとうございます。さようならっ」
扉をくぐると、彼女の体は光の粒になって消えていった。
網膜に、最後に見た彼女の表情が焼き付いている。
彼女の笑顔が、焼き付いている。
「一行さん、僕は……」
誰にも届かない声で、つぶやく。
「君が好きだったんだ……」
彼女はもうこの世界にいない。
彼女とはもう二度と会えない。
いつのまにか、涙がこぼれていた。
◆
元の世界に帰るための扉が壊された。
壊したのは幾千幾万の狐面で構成された《怪獣》だ。
存在のスケールが違う。
高性能な《神の手》でも、攻撃を防ぐだけで精いっぱいだった。
まさに絶体絶命の大ピンチ。
だというのに、先生は不敵に笑っていた。
「直実、やつを倒すぞ」
「はい」
やっぱり、先生は先生だった。
いつでも頼りになる兄のような存在。
「『神の手』で今すぐ」
いったい、どんな手でこの窮地を乗り越えるつもりなのか。
「俺を消せ」
「……え?」
「システムによる修正の第一選択は、アドレス重複の解決だ。重複する記録は、処理しなければならない。同じものは、世界に二ついられない。つまり」
先生は僕と自分を交互に指さした。
「お前か、俺。この世界からどちらかが消えれば、狐は止まる。答えはもう、決まっている」
「いやだ!」
たとえ、それしかないとしても。
その道だけは、選びたくない。
僕はがむしゃらに『神の手』の力を使った。
だけど、狐面の怪獣には届かない。
「いやだ! いやだ! いやだ!」
「なお」
先生の言葉が、不自然に途切れる。
一瞬遅れて、血しぶきが飛び散った。
僕を守るように、先生が串刺しになっていた。
「せ、せんせい」
「堅書直実」
体を貫かれているのに、先生は柔らかく笑っていた。
「幸せになれ」
僕はぐっと手を握りしめて。
『神の手』で先生を苦痛から解放した。
神様のもとに、先生を送った。
結末
先生が消えると同時に、狐面は跡形もなく散っていった。
それから何かとてつもない衝撃があって、気がつくと元の世界に戻っていた。
「堅書さん」
「一行さん」
互いの名を呼んで、駆け寄る。
そのまま、互いを抱きしめた。
二人で確認し合う。
堅書直実と、一行瑠璃だということ。
花火で別れたときのままの、16歳のふたりであること。
生きていること。
もう離れなくていいということ。
いったい何が起こって、ここがどんな世界なのかなんてわからない。
でも、だからこそ、きっと何をしてもいいし、何だってできる。
やりたいことはもう決まっていた。
僕は、幸せになろうと思う。
それは、思っているよりずっと大変な道のりなのかもしれないけれど。
でも、僕(おれ)は。
俺(ぼく)なら、できると思った。
エピローグ
堅書直実は目を開く。
病室の白い天井が目に映る。
「『器』と『中身』の同調が必要だったんです」
女性の声が聞こえた。
直実の高性能な『神の手』から聞こえてきた声と同じだった。
「貴方は大切な人のために動いた。貴方の精神は今、ようやく『器』と同調したんです」
説明の声が頭に染みこんでくる。
目の焦点と意識の焦点が、同時に定まっていく。
ベッドの脇に女性がいる。
その女性は、自分の知っている人とは少しだけ変わっていて。
だとしても、絶対に見間違うことのない。
世界で、一番大切な人だった。
「堅書さん」
彼女が微笑む。
その笑顔は、ナオミの宝物だった。
「やってやりました」
涙がこぼれた。泣き笑いながら、一行瑠璃はナオミを抱きしめた。
ナオミは震える手を伸ばす。
細い腕が、思う通りに動かない。
何年たっているのかわからない。
だが、何年だろうと、ささいなことだった。
ゆっくりと腕を伸ばす。
二度と会えないはずの彼女を、抱きしめた。
<完>
まとめ
今回はアニメ映画「HELLO WORLD」のあらすじネタバレをお届けしました!
では、最後にまとめです。
- 未来のナオミは裏切る
- ラストはSF考察が意外と複雑
- 直実もナオミも、それぞれの世界で瑠璃と結ばれる
ちゃんと先生(ナオミ)にも救いのある結末なのが最高でした!
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