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映画「影踏み」のあらすじとネタバレ!原作小説の結末は?横山秀夫の傑作!

   

こんにちは、若竹です。

横山秀夫「影踏み」が映画化!

山崎まさよしさんが14年ぶりに長編映画の主演を務めるということで話題になっていますね!

さっそく私も原作小説を読んでみたのですが…これがまあ面白い!

横山秀夫さんといえば、近年映画化された「64」など警察小説の大ベテランなのですが、この「影踏み」の主人公はなんと「ノビ師」と言われる泥棒!

警察小説の巨匠による犯罪ミステリー、これが面白くないわけがありません!

・ハードボイルドな世界観

・思わず「そうだったのか!」と唸らされる事件の真相

・ヒロインとの恋の行方

・主人公の過去に秘められた秘密

「これでもか!」と詰め込まれたワクワク感に、ページを繰る手が止まりませんでした!

というわけで今回は、映画化される小説「影踏み」のあらすじとネタバレをご紹介していきたいと思います!

 

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横山秀夫「影踏み」のあらすじとネタバレ!

★はじめに

「影踏み」は連作短編集であり、小説には7つの短編が収録されています。

映画化されるにあたって削られる部分もあるかとは思うのですが、今回は7つの短編すべてのあらすじ・ネタバレについてご紹介します。

どの短編も面白いので、ぜひゆっくり見ていってください。

では、まずはプロローグから!

 

プロローグ

真壁修一と真壁啓二は双子の兄弟。

兄弟はどちらも優秀で、兄は司法試験を見据えて法学部に進学した。

一方、兄に負けず劣らず有能だった弟の啓二は、受験失敗をきっかけに転落。

やがて空き巣として逮捕された。

息子のあまりに情けない姿を目の当たりにした母親は、嘆き悲しみ、ついには無理心中を決意する。

母親が放った火は一軒家を燃やし尽くし、跡には両親と弟…3人分の黒ずんだ亡骸だけが残った。

遺体の位置から、母親が弟を逃がすまいと押さえこんでいたことがわかる。

生きながらにして焼かれる苦しみは、どれほどの苦痛だったのだろう?

その日、兄は恋人と泊まりの旅行に出かけていたため、難を逃れた。

しかし、それが彼にとって幸運だったとは、決して言えない。

事件から15年。

一夜にしてすべてを失った彼は、順風満帆そのものだったそれまでの生活を捨て、弟と同じ犯罪者になり下がっていた。

「ノビ師」の「ノビカベ」

ノビ師とは、深夜、寝静まった民家に忍び込み現金を盗み出す泥棒のことを指す。

そのなかでも特に手ごわい玄人泥棒として、真壁修一は「ノビカベ」と警察や同業者からあだ名されている。

この物語は、そんな真壁修一が弟の魂とともにシャバに戻ってきたところから始まる…。

 

★主な登場人物

・真壁修一…34歳。熟練のノビ師。放火事件の後、弟の魂をその身に宿した。声を発さずに弟と会話することができる。本文での表記は「真壁」

・真壁啓二…享年19歳。意識だけの存在として今も兄と一緒に行動している。一度見たものを忘れない記憶能力を持つ。本文での表記は「啓二」

・安西久子…34歳。双子の幼なじみ。双子から好意を寄せられ、最後には修一を選んだ。今でも修一のことが好きで、足を洗って一緒になってほしいと思っている。職業は保母。

 

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第1章「消息」

《修兄ィ、例の件、ホントに調べる気?》

〈そうだ〉

耳の中に響く弟の声に、真壁は心の中で返事をした。

兄弟の会話は、他人には聞こえない。

3月25日。刑務所から2年ぶりに解放された日の早朝のことである。

「例の件」とは、真壁が逮捕された2年前の事件のことだ。

深夜、忍び込んだ稲村夫婦の寝室で、真壁は直感した。

(妻の方は起きている。そして、これから夫を殺そうとしている

真壁は急いで家の外に出て車の陰に隠れたが、異常なほどのスピードで駆けつけてきた警察によって逮捕された。

疑問は2つ。

・警察の登場があまりにも早すぎる。なぜだ?

・その後、稲村夫婦はどうなったのか?

前者については獄中で解決した。おそらく自転車に発信機が取り付けられていたのだ。

では、後者は?

刑務所から出たその足で、真壁は事件の「その後」を追った。

真壁の予想とは裏腹に「妻・稲村葉子が夫を手にかけた」という事件は起こっていなかった。

しかし、だからといって、あの日の直感が思い過ごしだったとは思えない。

真壁は稲村葉子の行方を探ることにした。

まず出向いたのは雁谷署。

自分を逮捕した盗犯係の刑事にして、幼なじみでもある吉川聡介から話を聞く。

聡介から得られた情報は次の通り。

・真壁が逮捕されたあと、稲村家には別の泥棒が入った。

・その後、旦那が保証人でしくじって、家財をすべてとられた。

・稲村夫婦はすでに離婚している。葉子の居所は不明。

雁谷署から出た真壁は、その足で稲村家に侵入した2人目の泥棒「黛明夫(まゆずみ あきお)」の住みかに向かった。

ちょっとした取引をかわし、情報を得る。

『黛が家に入ったとき、ドレッサーには高級化粧品「ラ・ベリテ」の瓶がずらりと並んでいた』

真壁の想像はこうだ。

あの夜、葉子は確かに夫を亡き者にするつもりだった。

手段は放火。

あるべき場所に「ライター」がなかったのは、葉子がその手に握っていたからだ。

放火となれば、私物は諦めざるを得ない。

それでも葉子は、高級化粧品だけは諦めきれなかった。

あの日、ドレッサーにほとんど空っぽの「ラ・ベリテ」の瓶しか置いていなかったのは、きっと車の中に残りの瓶を積んでいたからだろう。

啓二の記憶能力によれば、家の中には車のキーも見当たらなかった。

ライターと一緒に葉子が持っていたに違いない。

泥棒の侵入に気づいた葉子は、車の陰に隠れた真壁を見て「ラ・ベリテ」が漁られていると思い込み、顔を青くした。

そして、その夜の計画を中止して110番通報をした。

……。

おそらく、ここまでの推理は当たっている。

しかし、この先がわからない。

5日後に黛が侵入したとき、ドレッサーには「ラ・ベリテ」の瓶が並んでいたという。

つまり、女は放火を諦めたということだ。

それは、何故だ?

 

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競売師の使い走りをしている大室誠から情報を得る。

『稲村家の家財は、関西系のヤクザである篠木辰義が安値で買い戻した』

このことから、葉子と篠木につながりがあったことが推測される。

男女の関係とみて間違いない。

そもそも葉子が夫を手にかけようとした動機にしても保険金目当て、というところだったのだろう。

聡介に当たると、篠木はすでに大阪に帰っているのだという。

葉子も関西についていったのだろう、と聡介は言った。

なぜ篠木は関西に帰った?

ヤクザを止められるのは同じヤクザか、さもなければ…。

これまで得たいくつもの情報が一か所へと集まっていく。

〈啓二、女のツラを拝めそうだぞ。女が殺しをやめた理由もだ〉

《ええっ!》

〈三日後だ。二十九日になればすべてわかる〉

3月29日夜。雁谷本町の南にあるマンションの前で、真壁は男を呼び止めた。

聡介。301号室が大阪ってことか」

「どうやらな」

吉川聡介は事情を隠そうともしなかった。

真壁がたどり着いた真相は次の通り。

1.真壁の事件を調べるうちに、吉川聡介もまた稲村葉子の計画に気がついた。

2.吉川聡介はそれをネタに稲村葉子を脅迫。黙っている見返りとして体の関係を迫った。

3.吉川聡介は邪魔な篠木辰義を大阪へ追い返した。

ヤクザを止められるもう一つの組織と言えば、警察だ。

悪徳警察官に目をつけられている以上、葉子はもう夫に手出しできなかった。

3月29日に吉川聡介が葉子のもとに行くことは、カレンダーにつけられた印でわかった。

署で見た聡介の当直日は3,9,16,23日の4回。

一方、妻子とともに住んでいる聡介の官舎のカレンダーには29日にも赤丸がつけられていた。

「俺のはこの先、お前を野放しにする。他の係の情報も流してやる。お前はすべてを忘れる。いいな、商談成立だ」

そう言い残してマンションに入っていく聡介に、真壁は声をかけた。

「聡介、遊び呆けて馬淵に喰われるなよ」

馬淵昭信は吉川聡介と同じ盗犯係の係長。2人は出世をめぐるライバル関係にある。

真壁の挑発に激昂した聡介は、鬼の形相で振り向くと、真壁の胸ぐらをつかんで言った。

「このノビ野郎!まさか俺と対等だとのぼせてんじゃあるめぇなあ!一生涯、腐ったドブの中を這いずり回ってやがれ!」

怒声が届いたのだだろう。301号室から女の顔がのぞいた。

あの日見たものと同じ、目に痛いほど白い肌をした女だった。

肩を怒らせて去っていく聡介の背中を見ていると、啓二の声が響いた。

《掴み合った時さ、聡介のポケットに発信機を滑り込ませたじゃんか。ヤバいよねぇ、聡介の奴。商売敵の馬淵に不倫現場を見られたりしたら》

〈ネタで縛って女を抱いているんだ。それぐらいのリスクはあって当然だ〉

《でも馬淵にバレれば稲村葉子はラッキーかも》

〈どういう意味だ〉

《だって、最初が酒びたりでギャンブル狂の亭主だろ。次がヤクザで、そん次が悪徳デカだもん。男運が悪すぎるよ》

〈次も同じだ。また悪い男にくっつく〉

《そうかなあ。さっき見えた顔、めちゃくちゃ悲しそうだったじゃんか。別の男と出会ってれば、別の人生もあったのかなあ…》

真壁の脳裏に、安西久子の笑顔が浮かんだ。

久子とは出所した晩に会ったきり、顔を合わせていない。

その夜にしても、真壁は久子のことを抱けなかったし、久子の笑顔を目にしていない。

泥棒になり下がった恋人のことを忘れて、新しい男とくっつけば、久子はまたあの笑顔を取り戻せるのだろうか…。

発信機を追ってきた馬淵の車を横目で見ながら、真壁は自転車をこぎだした。

 

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第2章「刻印」

5月10日。

新聞を開くと『警察官変死事件』の続報が掲載されていた。

亡くなったのは吉川聡介

歓楽街のドブ川に浮かんでいるところを発見された。

新聞によれば、その夜、聡介は泥酔していたらしい。

誰かに突き落とされたのか、それとも酔って転落したのか…。

「真壁修一だな?ちょっとツラを貸せ」

そう声をかけてきたのは、強行犯係の刑事・猪瀬

猪瀬によれば、吉川は亡くなる直前、稲村葉子が経営するスナック「ムンク」に行っていたらしい。

つい先日、葉子のマンションの前で聡介と揉めていた真壁は重要参考人というわけだ。

運の悪いことに、吉川が亡くなった夜、真壁は『仕事』をしていた。

アリバイは証明できない。

他の容疑者はといえば…

・篠木は刑務所に入っているので除外

・葉子は最後まで店にいたという客がアリバイを証明しているため除外

無実の罪とはいえ、警察にマークされてしまっては『仕事』に支障が出る。

こうなってしまった以上、事の真相を明らかにするしかない。

細い手がかりをたどって、真壁は推理を組み立てていく。

1.葉子のアリバイを証言している人物は判事(裁判官)らしい

2.葉子と判事をつなげる人物がいるとすれば、競売で私腹を肥やしている悪徳執行官・轟木に違いない

事件の夜、おそらく「ムンク」には葉子、判事、轟木、聡介の4人がいた。

社会的地位が高い判事が証言しているため、誰一人として容疑者にはなっていないが、もしその証言が嘘だったとしたら?

店にいた人間には犯行が可能だ。

 

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「ムンク」の扉を開く。

稲村葉子と、2年ぶりの対面。

弱みを握っていることを強調すると、葉子は怯えながら事の真相を話し出した。

1.葉子は聡介と別れたがっていた。だから轟木を通じて判事に助けを求めた。

2.その夜は聡介が葉子を抱く予定の日だった。待ちくたびれた聡介はしびれをきらして「ムンク」まで押しかけてきた。

3.聡介はひどく酔っていて、轟木と判事に掴みかかった。轟木が聡介を外に連れ出した。

「あとはホントに知らないの!」

叫ぶ葉子を、真壁は冷たい目で見据える。

「判事はよく嘘をついてくれたな」

「えっ…?」

「客は自分一人だとサツに言った。轟木のためか、それとも…」

腕を伸ばし、真壁は葉子のブラウスを一気に引きちぎる。

葉子の白い肌には、くっきりと歯型が刻印されていた。

前歯のあとが2本、下が4本…。

(悪徳刑事の次は、噛み癖のある判事か…)

服代として万札を二枚放り投げると、真壁は「ムンク」から出ていった。

2時間後、真壁は轟木の家に忍び込んだ。現金、通帳、手帳。目当てのものをくすねると、音もなく撤収した。

翌日、真壁は雁谷地裁にいた。

くすねた通帳と手帳は、轟木の汚職の証拠だ。

少し脅しをかけると、轟木は一切合切を白状した。

1.競売の不正(篠木に知恵をつけて家財を格安で取り戻させた)で葉子に恩を売っていた轟木は、見返りとして葉子の体を弄んでいた。

2.女遊びをしたことがないという判事に、葉子を紹介した。

3.店を出たあと、聡介はベンチに座り込んで寝てしまった。轟木は何もしていない。

4.その夜、店にいたのは雁谷地裁の判事・栗本三樹男

ちょうど法廷で裁判長席に座っていた栗本の口元を観察してから、真壁は雁谷地裁を出た。

《修兄ィ!後ろ!》

啓二が耳の中で叫んだのは、久子が暮らす「福寿荘」への道中。

夜の闇にまぎれて背後からナイフを突き立ててきた男を、真壁は熟練の技で返り討ちにした。

「ぐえっ!」と叫んで地面に転がった、その男は…

《ど、どうして大室誠が!?》

混乱しているのは啓二だけ。真壁はすでに事情を察していた。

「ミイラ取りがミイラになっちまったようだな」

大室には葉子の店の場所を探させていた。

それが出会いとなって、大室誠もまた葉子の虜になってしまったのだろう。

それを何より証明していたのは…

「お前の顔を見るたび二十日鼠を連想する。女の背中の歯型を見てつながった。上あごの方は二本だけくっきり残ってたからな」

轟木も栗本も、前歯は一般人のそれだった。歯型とは一致しない。

「稲村葉子に頼まれて聡介を始末した…そうだな?」

「ああ、確かに俺がやった。でも、頼まれたんじゃない」

大室誠は稲村葉子に本気で惚れていた。だから葉子にとって脅威である聡介を川へと突き飛ばした。

今、こうして真壁を襲ってきたのも、葉子の不安材料を取り除くためだという。

「女にそそのかされた。結局そういうことなんじゃないのか」

「違う!俺の意思だ。彼女のためなら、あんたも轟木も、どいつもこいつもやってやるよ!」

一瞬の隙をついて、大室誠が襲い掛かってくる。

「でかい声を出すな」

大室の腹をけり上げて黙らせるが、もう遅い。

福寿荘で真壁を張っていたのは、なにも大室だけではないのだ。

声を聞きつけて集まってくる刑事たち。その中には猪瀬の顔もあった。

《修兄ィ!行こう!》

啓二の声とともに身をひるがえす。

振り返ると、二階の左端の窓に明かりが見えた。

「いつでもいいから帰ってきて。夜でもいい。ずっと明かりをつけて待ってるから」

久子の声がよみがえる。

久子の部屋の暖色の明かりは網膜に焼き付いて、いくら走っても消えることがなかった。

 

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第3章「抱擁」

三沢玲子から呼び出された。

玲子は久子の幼なじみで、警察官の娘である。

・出戻りして、今は子育てのかたわら牛乳配達の仕事をしている

・久子の保育園にも毎日牛乳を届けている

聞いてもいないのに玲子は身の上話をべらべらと話す。

「で、何の用だ?」

「うん、実はね、久子、今すごくピンチなの」

玲子の話はシンプルなものだった。

・久子の保育園で、旅行用の現金25万円が盗まれた

・犯人は不明

・真壁とのつながりのせいで警察は久子に疑いを向けた

・今は保育園の人間からも犯人扱いされていて困っている

「このままじゃ久子がかわいそうすぎるよ。ちゃんと籍を入れてあげてほしいの。何か仕事を見つけて、一緒に暮らして、一生、久子を離さないでほしいの」

泥棒をやめることはできない。

…だから、久子と一緒になることはできない。

とはいえ、真壁のせいで久子が迷惑をこうむっていることは事実。

となれば、真壁に残された道は1つだけ。

事件を解決するしかない。

真壁は久子に電話をかけた。

詳しい事情を聞くためだったが、久子は「他に相談したいことがあるから寄ってほしい」という。

「話してみろ」

「寄れない…?」

「話せ」

数秒の間をおいて、久子は言った。

「プロポーズされてるの」

「相手は?」

「園長の息子。あなたと別れてくれって言われた」

「受けるのか」

「そのほうがいい…?」

涙声が語尾に混じる。

「…この件が片付いたら寄る」

一方的に言って、真壁は通話を切った。

 

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実のところ、玲子から現場の情報を聞いた時、真壁はすでに犯人の顔を思い浮かべていた。

『割らずの清太郎』

ガラスを割ることなく、開いている窓だけを狙って侵入する手口を得意とする、76歳の現役泥棒だ。

だが、確証は持てない。

一度様子を見に行ったが、清太郎はもうヨボヨボで、まともに仕事のできる状態とは思われない。

さらなる証拠を求めて、真壁は深夜の保育園に侵入した。

侵入経路として使われたトイレの窓、現金が保管されていた場所。

一通り園内を調べてから撤収する。

《で、どうだったの修兄ィ。清太郎がやった証拠、何か掴めた?》

〈奴は犯人じゃない。その代わり、真犯人がわかった。これからもう一軒入る〉

《ま、まさか、ここに入るの?》

啓二が悲鳴のような声を上げた。

その夜、真壁が忍び込んだのは警察官舎

三郷署の署長である三沢睦夫の家に忍び込み、玲子の手帳、アルバム、預金通帳を盗み出した。

疑念が確信に変わる。

保育園から金を盗んだ犯人は、三沢玲子だ。

毎日保育園に出入りしていた玲子なら、現金の保管場所を知ることは難しくない。

通帳に記された金の動きが止まっているのは、保育園の金を盗んだからだろう。

一方、手帳とアルバムは犯行動機を物語っている。

温泉宿で抱き合っている男女の写真。

久子にプロポーズしているという園長の息子・熊川満彦はもともと玲子の恋人だった

玲子の目的は金ではなく、久子への嫌がらせだったのだ。

真壁は三沢睦夫に電話口で伝える。

「娘が可愛いなら園の連中にこう言え。金の紛失は外部の犯行と断定した。刑事連中には二度と安西久子に近づくなときつく命じろ」

電話の向こうで、一人の父親がへなへなと床に崩れるさまがはっきりと見えた。

ややあって、ヒステリックな女の声がとってかわる。

「最低!あんたが悪いんでしょ!久子をほっぽらかしとくから。久子も久子よ、満彦に色目使って、だから満彦がなびいちゃったのよ。なんでみんな、あんな女をチヤホヤするのよ。ちょっと顔が可愛いだけで、何の面白みもないじゃない。いつも黙ってて、自分の気持ちも満足に言えなくて、イライラするのよねえ、ああいう陰気なオンナ!」

半狂乱な玲子の声を無視して、真壁は通話を切った。

「園長の息子は断れ」

福寿荘で真壁が発した言葉に、久子は輝かせた。

だが、それも一瞬のこと。

真壁の心が戻ってきたわけではないと察するにつれて、久子の顔は曇っていった。

「お願い。もうやめて泥棒なんて。啓ちゃんのことは忘れて。お願いだから…」

久子の悲痛な訴えにも、真壁の心は揺らがない。

引き止めようとする細い手をほどくと、真壁は部屋を出た。

福寿荘から離れていく。

真壁の耳の中では、いつまでも啓二が泣き叫んでいた。

《戻ってよォ、修兄ィ!お願いだから戻ってよォ!俺、消えるから。俺、父さんと母さんのとこに行くからァ!修兄ィ!修兄ィってばあ!馬鹿ァ!》

 

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第4章「業火」

近頃、この界隈の泥棒を襲っている『盗っ人狩り』

その正体は暴力団「博慈会」のヤクザたちだった。

真壁も2人組の構成員に襲われて、大怪我を負ってしまう。

どうやら奴らは「泥棒に盗まれた何か」を取り戻すため、その犯人を探しているらしい。

真壁に心当たりはなかったが、そんな言い分をあっさりと信じてくれる連中ではない。

放っておけば、今度は命が危ないだろう。

巻き込まれるカタチながら、真壁はひそかに病院を抜け出し、事件の真相を探ることにした。

まずは情報収集。

1.博慈会が探しているのは重原昌男の家に入った泥棒である

2.重原は女遊びの激しい男で、妻子に逃げられている

3.重原は親の遺産を食いつぶしている無職で、今は博慈会の人間に身柄を押さえられている

重原の家はもぬけの殻だったが、代わりに近所に住む話好きの老婆が詳しく事情を教えてくれた。

老婆の話しぶりから想像すると、重原はもう生きてはいないのかもしれない。

いったい、重原は何をしたのだろうか?

危険を承知で、真壁は博慈会の事務所に単身乗り込んだ。

目的は若頭の御影征一に会うこと。

『盗っ人狩り』の黒幕は「ジゴロ」と呼ばれている人物らしい。

博慈会の人間で「ジゴロ」のあだ名にふさわしい人間といえば、まず思い浮かぶのが御影だった。

「あんたがジゴロなのか」

構成員たちに囲まれながらも、真壁はいつもの態度を崩さない。

御影はそんな真壁の度胸を気に入ったようで、事の真相を教えてくれた。

1.「ジゴロ」の正体は故買屋(盗品を買い取る質屋)のボス。名前の由来は刑法256条(故買に関する法律)から。

2.重原昌男はそれと知らずにジゴロの娘に手を出し、行為を記録したビデオテープを作成した。

3.重原と別れたあと、娘はジゴロに「ビデオテープを取り戻してほしい」と頼んだ。

4.ところが、肝心のビデオテープは貴重品と一緒に重原の家から盗み出されてしまった。

5.ジゴロと博慈会の組長には古い付き合いがあったため、博慈会が『盗っ人狩り』を始めた。

現状、ビデオテープを盗んだ犯人はまだ捕まっていないらしい。

重原昌男はすでに海の底に沈んでいる、ということだった。

御影の話によって『盗っ人狩り』の経緯はわかった。

しかし、ひとつだけわからないことがある。

まだ犯人が捕まっていないのなら、どうして真壁は無事に博慈会の事務所から出ることができたのか?

まるで、真壁だけはシロであると見抜いているかのような…。

そこまで考えて、真壁はハッと気がついた。

真壁がシロであると断定できる人間がいるとすれば…。

残念ながら、真壁と再会する前にジゴロはこの世を去っていた。

ジゴロの本名は芹沢セツ子

重原の家の近くで話を聞いた、あの老婆こそがジゴロだったのだ。

おそらくジゴロは、真壁が「ノビカベ」であることを一瞬で見抜いていた。

重原の家に入った泥棒について聞いている以上、真壁がビデオテープを盗んだ犯人でないことは明らかだ。

だから真壁は『盗っ人狩り』の対象リストから除外されていたのだった。

 

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第5章「使徒」

12月24日。クリスマスイブ。

真壁はとある民家に忍び込んでいた。

といっても『仕事』のためではない。

むしろ、その逆。

真壁の目的は家族の誰にも気づかれずに、プレゼントを置いてくることだった。

事の発端は刑務所内でのやりとり。

同じノビ師である大野という男から「恵美という娘にクリスマスプレゼントを渡してほしい」と頼まれた。

聞けば、恵美は山内という泥棒の娘であり、山内が亡くなってからは大野が毎年プレゼントを渡していたのだという。

ところが、残りの刑期から考えて、大野は今年サンタになることができない。

そこで真壁にサンタの代理と頼んだ、というわけだ。

もちろん真壁は心底嫌がったが、耳の中の啓二が「引き受けよう」とうるさかったので、仕方なくサンタ役を引き受けることにした。

大野の話通り、遠縁の親戚に引き取られた恵美(11)はひどい扱いを受けているようだった。

恵美の寝床は納戸であり、その寝姿はいかにも寒そうだ。

真壁は自腹で購入したネックレスを置き、枕もとにおいてあるサンタ宛ての手紙を拾うと、音もなく民家から脱出した。

…と、その時。

《修兄ィ!サツ官だ!》

啓二の声が耳の中で響く。

暗くてはっきりとは見えないが、家の前に見える人影のシルエットは制帽とコート。警察官のそれと同じ。

真壁は瞬時に逃走を始め、追ってくる警察官の人影をなんとかふりきった。

…しかし、どういうことだ?

偶然とは思えない。なぜあの警察官は恵美の家を見張っていたのだろうか?

 

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情報収集の結果、大野の話に嘘があったことが発覚する。

大野は山内の友人だと名乗ったが、実際には2人に接点などなかった。

どうやら、大野もまた誰かの代理としてサンタを引き受けていたらしい。

真壁は代理の代理を引き受けたことになる。

では、大野にサンタ役を頼んだ最初の人物とはいったい誰なのだろうか…?

・恵美の父親が亡くなった経緯

・恵美がサンタに書いた手紙

・恵美の家の前にいた人影

点と点がつながったとき、真壁はぽつりとつぶやいた。

「…そういうことだったのか」

数年前のことである。

恵美の父親である山内はクリスマスプレゼントを買う金がなく、デパートからリカちゃん人形を万引きした。

すぐに警備員に見つかったが、山内は警備員の脚をナイフで刺して逃走。

道路に出たところで、交通事故に遭って亡くなった。

それも、恵美の目の前で。

大野にサンタの代理を頼んだ男は、あとになってから激しく後悔した。

あのとき山内を見逃していればこんなことにはならなかったのに、と。

そこで彼…脚を刺された警備員の里見三郎は、影ながら恵美を見守ることにした。

クリスマスプレゼントを大野に運ばせていた人物の正体は里美。

そして、あの日、恵美の前で見た警察官らしき男の正体も、警備員の格好をしていた里見だった。

真壁を追いかけてきたのは、お礼を言うため。

真壁が追手をふりきれたのは、相手が本職の警察官ではなかったからだった。

「ずっと名乗らないつもりか?」

真壁の問いに、里見三郎は顔を曇らせながら答える。

「ええ、そう決めています。恵美ちゃんにとっては、私が仇みたいなものですし…。それに、恵美ちゃんの夢も壊したくありません。あのとき、お父さんに刺された警備員がサンタクロースだと知ったらがっかりするでしょう。私に対して憎しみや負い目を感じるかもしれません。だからお願いします。そっとしておいて下さい」

「いつまでも子供じゃあない」

「え…?」

真壁は恵美からの手紙を渡すと、里美に背を向けて歩き出す。

背後からは恵美からの手紙を読んだ里美の嗚咽が聞こえてきた。

『いつもステキなプレゼントをありがとうございます。わたし、本当はサンタさんがだれなのか知っているんですよ。いつか、サンタさんに会って、ちゃんとお礼をいいたいです。わたしにとって、サンタさんはお父さんと同じくらい大切な人です。 大好きなサンタさんへ 恵美より』

 

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第6章「遺言」

黛明夫が息を引き取った。

原因は例の『盗っ人狩り』

黛は犯人ではなかったが、そのとばっちりを受けて構成員に襲われ、そして亡くなった。

まだ20代の若さだった。

この世を去る間際、黛はうわごとで「父ちゃん、行っちゃやだよ」と口にしていたという。

啓二の勧めにより、真壁は遺言を黛の父親に届けることにした。

黛の父・黛耕三郎は8年前に蒸発していた。

かつては天才的なスリとして名をはせた人物で、生きているとしたら80歳近い年齢になるらしい。

耕三郎の一番弟子だった杉本克彦によれば、黛は父親から捨てられ、児童養護施設を出入りする子供時代を送っていたのだという。

「父ちゃん、行っちゃやだよ」

黛のうわごとは、寂しい子供時代を反映したものだったのだろうか…?

2月26日。

真壁は黛のメモに記されていた「県立老年病院 ふたご岳荘」へ。

多くの老人が最期の時を過ごすその老年病院に「黛耕三郎」は入院していない。

しかし、もし真壁の想像が正しいならば…

「身元のわからない人…?ああ、じゃあ、岳山一郎さんのことですね」

真壁にそう言った若い看護師によれば、岳山一郎は8年前にふたご岳の中腹で見つかったそうだ。

岳山老人は衰弱しきっていて、奇跡的に発見されなかったら今ごろ命はなかったという。

老人は自分の名前も住所も言えなかった。

地元紙が記事にしたが、名乗り出た肉親や知人は皆無だった。

「岳山一郎」という名前は地元の村長がつけたもの。

脳梗塞の後遺症に加え、ここ数年は痴呆の症状が進み、言葉を発することもほとんどないという。

 

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岳山一郎の正体は、黛耕三郎なのだろう。

8年前に何が起こったのか?

想像することは難しくない。

おそらく息子が父親に復讐を果たしたのだ。

自分を捨てた父親を、山の奥深くに捨てた。

目には目を、歯には歯を。

黛は心の底から父親のことを恨んでいたに違いない。

ならば、黛耕三郎に伝えるべき言葉は…

「黛耕三郎だな?黛明夫が亡くなった」

岳山一郎こと黛耕三郎にそれだけを告げて、真壁は病室から出た。

ボケたふりをしているが、おそらく耕三郎の意識ははっきりしている。

自分の身に起きたことを理解したうえでなお、息子からの迎えを待っているように見えた。

《修兄ィ!なぜ言わなかったのさ!》

頭の中で啓二が怒鳴る。黛は父親を捨てたことをきっと後悔していたはずだ。なぜ「父ちゃん、行っちゃやだよ」という遺言を伝えなかったのか、と。

歩みを止めることなく、真壁は答える。

〈俺は恨んでいたほうをとる。死んだことだけを知らせるのが黛の遺言だ〉

黛明夫は、いまわの際で何を思ったのだろうか?

父親に伝えたかったのは憎悪か、それとも許しか?

今となってはもう、その答えは誰にもわからない。

 

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第7章「行方」

出所から約1年。

真壁が寝床にしている「旅館いたみ」に思わぬ来客があった。

久子だ。

「よくここがわかったな」

「前に玲子が教えてくれたから…」

その玲子の事件を解決したときに、真壁は久子から「見合いをする」と聞いていた。

そして実際、久子と男が並んで歩いているのを目撃したこともある。

そんな久子が、今さら自分に何の用があるというのか?

真壁が尋ねると、久子は小さくうなずき、事情を話し始めた。

久子が見合いをした男の名前は久能次郎(36)

商店街で親から継いだ文具店を経営している真面目な男だ。

事件が起こったのは5回目のデートの時。

久子は「抱かれてもいい」という覚悟を決めていたが、待ち合わせの喫茶店に現れたのは次郎とうりふたつの双子の兄・新一郎だった。

新一郎にしてみれば「弟の恋人の顔をみてやろう。どうせ久子には双子を見分けられない」と思ってのことだったのだろうが、あいにく真壁兄弟の幼なじみだった久子には双子を見分ける能力が身についている。

馬鹿にされていると感じた久子はその場で縁談を断り、「そんなつもりじゃなかった」と何度も謝ってくる新一郎を置いて喫茶店から去った。

帰り際、久子の背中には「このアマ!次郎をコケにしたらただじゃ済まさねえぞ!」という新一郎の怒声が投げつけられたという。

そして…

「次の日から毎日、電話がかかってくるようになったの。弟と結婚しろ。さもないとひどい目に合わせるぞって。アパートに戻るとすぐ電話が鳴るの」

新一郎のストーカー化。

久子が直面している脅威を一言で表すと、そういうことになる。

新一郎は社会から脱落したごろつきで、弟の次郎にも止められないし、居場所さえもわからない。

真壁とのつながりがある以上、警察もあてにはできない。

ひとりでいるのがあまりに不安で、こうして久子は真壁のもとを訪ねてきたというわけだった。

 

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「修ちゃん…」

話を終えると、久子はコートを脱ぎ、黄ばんだひもを引いて部屋の明かりを落とした。

暗い部屋の中でも、久子がじっとこちらを見つめているのがわかる。

久子の白い手が真壁の腕に触れた、その時だった。

《修兄ィ!火事だ!》

啓二の声が耳の中で響いた。

廊下に出ると、すでに煙が流れている。

「旅館いたみ」は年季の入った木造の建物だ。よく燃える。

しかし、このタイミングで火事とは…

「まさか…」

久能新一郎が放火したのか…!?

おそらく久子は新一郎に尾行されていた。

久子が男の部屋に上がり込んだと知るや、新一郎はあらぬ想像を働かせて火を放った…それ以外に考えられない。

混乱に陥った客でごった返している廊下からの脱出を諦めると、真壁は2階から飛び降り、同じく飛び降りてくる久子を抱きとめた。

焼け出された後、真壁は久子を連れてホテルに入った。

抱かなかった。

それでも久子は安らかな表情を見せた。

朝まで真壁の胸から顔を離さず、まどろみ、薄目を開け、またまどろんで微かにえくぼをのぞかせた。

翌朝。

ひとり行動を開始した真壁の耳の中で、啓二が声を発した。

《なんか妙な再会になったけど、久子とやり直せるきっかけができてよかったね。今度こそ、足を洗う絶好のチャンスだよ。泥棒宿も焼けちゃったんだしさ。ね?》

〈………〉

《親を恨んで当てつけみたいにこんな生活してるの馬鹿馬鹿しいよ》

〈当てつけじゃない〉

《当てつけだよ。就職も結婚もしないで、それも最低の泥棒生活を十年年もダラダラ続けてさ、親父やおふくろが一番してほしくない生き方をわざとやってるじゃん。もういない人間に復讐したってしょうがないだろ。もとをただせば俺が泥棒なんかやらかして、親父とおふくろを死なせたっていうのにさ》

〈お前が…?〉

《結局、そういうことじゃんか。俺がおふくろを追い詰めちゃったんだよ。親父まで巻き添えにして》

〈ふざけたことを言うな。悪いのはおふくろたちの方だ。親父もおふくろも世間体が大事だったんだ。啓二、憎くないのか?あんなおふくろじゃなけりゃあ、お前は今だって好き勝手に手や足を動かせたんだ〉

《…違うんだよ》

啓二の声がひどく沈んだ。

〈何が違う?〉

《言ったら久子と一緒になる?》

〈それは話が別だ〉

《別じゃないんだ。久子の寝顔見てて、つくづくそう思ったんだ。俺はいつ消えてもいいと思ってる。けど、俺が消えたのに修兄ィが久子とくっつかないんじゃ、なんにもならないだろ。そんなの俺、絶対に嫌だから…》

〈なぜ消える必要がある。ずっといればいいだろう〉

《………》

〈啓二〉

《わかったよ。もうよそう、その話は》

お互いにすれ違ったまま、そこで双子の会話は途切れた。

 

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久能文具店に足を運んでみるも、新一郎に関する情報はなし。

手がかりを失った真壁は、最終手段をとることにした。

「取引だ」

真壁が「わざと捕まってやる」と確約すると、雁谷署の馬淵はニヤリと笑って情報を流した。

どうやら新一郎は昔の女の部屋に住みついているらしい。

帰り際、真壁の背中に馬淵の声がかかる。

「来月、取調室で待ってるぜ」

真壁はそのまま新一郎の住処へと足を運んだ。

インターホンを押しても返事はなし。

手を伸ばすと、扉の鍵は開いていた。

中に入ってみると、室内はまるで打ち捨てられたかのような酷いありさま。

どう考えても、この部屋には現在、誰も住んでいない。

ならば、新一郎は今どこに…?

頭の中で情報がつながっていき、やがてひとつの閃きが生まれた。

「…わかった。すべてのカラクリが」

その夜、真壁は久能文具店に忍び込んだ。

寝ている男を叩き起こし、その喉元にドライバーの先端を押し当てる。

「立て。久能新一郎。芝居はもういい」

少し問答しただけで、男は簡単にボロを出した。

間違いない。この男は久能次郎ではなく、久能新一郎だ。

「弟を殺ったのか」

「だったらどうした!」

正体を見破られた新一郎が、勢いをつけて真壁に襲いかかってくる。

「野郎!おとなしくしてりゃあ、やりてえ放題やりやがって!」

真壁は拳を首だけでかわすと、尖らせた肘を思い切り新一郎の顔面に叩き込んだ。

続いて膝蹴りを腹に食らわして、新一郎を畳に沈める。

とどめとばかりに馬乗りになると、真壁はドライバーを握った手を頭上に振り上げた。

「た、た、た、助…」

ドライバーが振り下ろされる。

その先端は、新一郎の耳たぶと畳を同時に貫いた。

「覚えておけ。俺はいつだって、お前の寝室に忍び込めるんだ」

新一郎はぶるぶると震えながら、すっかり怯えきっている。

もはや久子にちょっかいを出そうとは考えないだろう。

いつのまにか、朝になっていた。

真壁は「旅館いたみ」の現場検証を遠巻きに眺めていた朝から、何も食べていないことに気づいた。

 

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エピローグ

久能文具店からの帰り道。

啓二の声が真壁の耳の中に響く。

《久子、喜ぶだろうなあ。修兄ィが三食抜いて戦ったって知ったら》

〈………〉

《あ、それとさ、馬淵との約束は守っちゃだめだからね。パクられたら、今度こそ久子と永遠の別れだよ。だから、間違っても奴の顔を立てたりしないこと。わかった?約束だぜ修兄ィ。俺との約束はちゃんと守れよ》

〈啓二、お前…〉

啓二の口ぶりが気になった。悪い予感が込み上げてくる。

《修兄ィ、ちゃんと話しておきたいことがあるんだ》

〈………〉

《あの日、俺は居間のソファで居眠りしてたんだ。ハッとして目が覚めたら体が動かなかった。一瞬金縛りかと思ったけど、おふくろがすごい形相で俺の体を押さえつけてた…》

耳をふさげるものならふさぎたい、と真壁は思った。

しかし、啓二の声を遮ることはできない。

《火がどんどん近づいてきてさ、煙で息ができなくなって、熱くて、苦しくて、怖くて、俺、叫んだんだ。助けて、助けて、って。そしたらね》

〈………〉

《おふくろの腕が緩んだんだ。俺、体が自由になって、動けて、本当は逃げられたんだ。でも逃げなかった。無理心中じゃなかったんだ

〈なぜ逃げなかったんだ〉

《逃げようとして、でも振り返ったらおふくろが泣いてたんだ。泣きながら、俺を追い払うみたいに手をバタバタさせて、逃げな、早く逃げな、って…。自分は逃げようとしないんだ。俺、本当におふくろを悲しませたんだってわかった。だから逃げられなかった。戻ったんだ、おふくろのとこに…》

初めて知る15年前の真実。

真壁はいいようのない感情を啓二にぶつけた。

〈なぜ今まで言わなかった〉

《修兄ィと一緒にいたかったからさ》

〈どういう意味だ〉

《俺、修兄ィも久子も大好きだよ。大大大好きだよ》

〈啓二、答えろ!なぜ話したら一緒にいられなくなるんだ〉

耳の奥から、啓二の気配が消えた。

電球が切れたかのような消え方だった。

 

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啓二は最初から知っていた。

真壁が胸の奥に封印していた、本当の気持ちを。

憎んでいた相手は母ではなく、弟だった。

啓二が母親を奪ったから。

重なり合って燃え尽きるという形で、母親を永遠に独り占めにしたから。

母親の愛情が深く深く、命を燃やすほどに啓二に注がれていたから。

だから、真壁は…

〈それがどうした。行くな、啓二…!〉

気配は戻らない。

振り向くと、アスファルトに淡い影が落ちていた。

〈………〉

双子というものは、互いの影を踏み合うようにして生きているところがある。

自分と同じ人間がもう一人、存在するようなものだ。

そのことを呪ったこともある。

久子を奪われるのではないか、と苛立ったこともある。

しかし、いざ一人になってみるとどうだ。

ひとり…独り…それは自分の影を失うということ。

それに耐えられなかったからこそ、あの日、真壁は啓二の魂を呼び戻したのだ。

それなのに啓二は、今度こそ本当に消えてしまった。

〈………〉

しばらく影を見つめてから、真壁は自転車をこぎだした。

影は、濃さを増しながら、どこまでもついてきた。

<影踏み・完>

 

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小説「影踏み」の補足と感想

★小説「影踏み」の補足

【質問1】久子と真壁はどうなったの?

→結末に描写がないため不明。

【質問2】結局どういう話だったの?

→作中では「なぜ真壁は泥棒をしているのか?」という謎が大きな存在でした。エピローグから解釈すると、その答えは「嫉妬」だったのではないでしょうか。非行に走った弟にばかり構っていた両親の愛情を取り戻そうとするかのように、真壁は泥棒を続けていたのではないかと思います。

【質問3】啓二はどういう存在だったの?

→本当に『魂』としての存在だったようです。結末では真壁の体から離れ、あの世へと逝きました。

 

★小説「影踏み」の感想

読み終わった直後の感想は「え、久子は!?」でした。

啓二が消えて、真壁も自分の本当に気持ちに気づいて「あとは久子とハッピーエンドを迎えるだけ!」と思ったのですが、なんと物語はそこで終了。

・久子と真壁はどうなったのか?

・真壁は泥棒から足を洗ったのか?

これらがはっきりしないことには、正直ちょっとモヤモヤさせられました。

ただ、エピローグやタイトルに込められた意味からもわかるように、この作品のメインはあくまで「双子の修一と啓二」であって、「真壁と久子」ではないんですよね。

そういう意味では、啓二の最期の真相や、真壁の本当の気持ちが明かされた結末は、きれいなラストだったと思います。

個人的には「これで久子が幸せになれないのは残酷すぎる!」と思うので、結末の向こう側はハッピーエンドであってほしいと願っています。

余談ですが、途中まで完全に啓二の存在について疑っていました。

・実は亡くなったのは修一で、真壁の正体は啓二なのでは?

とか

・実は啓二は修一が心のなかでつくりあげた妄想の人格なのでは?

とか

ラストでは啓二の正体がどどーんと明かされるものだと予想していたのですが…見事な空回りに終わりました(笑)

 

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映画「影踏み」の内容やキャストは?

まずはキャストから見ていきましょう!

・山崎まさよし…真壁修一
・尾野真千子…安西久子

・大竹しのぶ…修一と啓二の母
・北村匠海…真壁啓二

こうして見ると、かなり豪華なキャストですよね。

山崎まさよしさんが久しぶりに主演するという点だけではなく、DISH//の北村匠海さんが出演されることでも話題になっているようです。

北村匠海さんは啓二役ということですが、回想シーン以外は声のみの出演になるのでしょうか?

そのあたりの演出も気になります。

次に、映画化に対する原作者・横山秀夫さんのコメントを見てみましょう。

山崎さんと篠原監督が素晴らしい世界観を作ってくれるでしょうから、原作にとらわれずに作っていただきたい。僕はその『影踏み』を楽しみたいと思っています。

連作短編をそのまま映画化するわけではないでしょうから、内容的には原作をベースにしつつも、映画ならではのストーリーになりそうですよね。

メインになるのは、1章、2章、7章あたりでしょうか。

映画ではヒロインとしての久子の出番が多くなりそうなので、原作では描かれなかった2人の恋の結末が見られるのではないかと期待しています。

映画「影踏み」は2019年春以降公開予定。

ちなみに撮影はすべて群馬で行われたそうです。

 

まとめ

横山秀夫「影踏み」が映画化!

今回は原作小説のあらすじ・ネタバレなどをお届けしました!

「ノビ師」である主人公が事件を解決していく7つの短編は、どれも刑事ものとは違った面白さがありましたね。

また、最後に明かされた啓二の告白と真壁の本心には、とても切ない気持ちになりました。

山崎まさよしさんが主演される映画「影踏み」は原作とはまた少し違ったストーリーになるようなので、そちらも非常に楽しみです。

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 - 小説, 映画

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