ラストに驚き

『かがみの孤城』あらすじ解説と感想!【ネタバレ注意】

辻村深月『かがみの孤城』を読みました!

本屋大賞2018を受賞した本作。

実はありえないほどの高得点で1位に選ばれていたって知っていますか?

例年の1位がだいたい300点~400点のところ、なんと『かがみの孤城』の点数は651点。

ぱんだ
ぱんだ
すごっ!

これでおもしろくないわけがありませんよね。

そうしてワクワクしながら読んでみた結果……

 

もう、最高でした。

 

今回はそんな小説『かがみの孤城』のネタバレ解説と感想をお届けします。

「もう読んだから感想だけ読みたい!」という方は目次からジャンプできます。

未読の方はこのままお進みください。

あらすじ

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。

輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。

そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた。

なぜこの7人が、なぜこの場所に?

すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。

生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。

一気読み必至の著者最高傑作。

鏡の城の鍵探し

《鏡の中の城》に集められた7人の中学生は、みんな不登校の子どもでした。

  • いじめ
  • 家庭の問題
  • 親や友達とのすれ違い

事情はそれぞれですが、みんな学校に通っていない子たちばかりです。

  • この城はどこなのか?
  • なんで集められたのか?

疑問だらけの7人に、城の管理者らしき《オオカミさま》は言います。

 

「お前たちには、今日から3月まで、この城の中で《願いの部屋》に入る鍵探しをしてもらう」

 

鍵探しのルールは次のとおり。

  1. 期間は3月30日まで(約1年間)
  2. 城に入れるのは午前9時~午後5時の間だけ
  3. 鍵を手にした1人だけが願いを叶えられる

 

そのルールを聞いた瞬間、こころの脳裏に1人の少女の顔が浮かびました。

もし、願いの鍵が手に入ったら、こうお願いすればいい。

 

――真田美織が、この世から消えますように。

こころの事情

こころが不登校になったのは、真田美織のせいです。

『真田美織の彼氏が、こころのことを昔好きだった』

そんなこころには何の関係もない理由で陰湿で悪質ないじめは始まりました。

クラスの中心にいる真田美織の命令は絶対です。

こころはたちまちクラス中からつまはじきにされ、仲良しだった東条萌ちゃんすらこころに近寄らなくなりました。

そして極めつけは、真田美織が大勢の仲間を引き連れてこころの家に押しかけて来たあの《事件》です。

  • 扉を乱暴に叩き
  • 勝手に庭に入り
  • どうにか家に入ろうとする

エスカレートしていく少女たちの行動に、こころは心底恐怖しました。

(――家に入ってこられたら、殺される)

本当にそう思いました。

こころの両親は共働きで、家の中には他に誰もいません。

こころは震えながら家中の鍵を確認し、あとはうずくまって祈るしかありませんでした。

幸い、施錠はきちんとされていました。

家に入れないとわかると、真田美織は同情を誘うように泣き始めます。

「ひどいよ。あの子、他人の彼氏に色目使って」

取り巻きの女子たちは口々に「かわいそう」と美織をなぐさめました。

家の中で一人、こころが涙を流しているとも知らずに。

こころはこの《事件》のことを両親に話していません。

なぜだか、話せませんでした。

その代わり、翌朝、こころは両親に言いました。

「おなかが痛い」

その日から朝の腹痛が治ることはなく、こころは学校を休み続けています。

ところで、真田美織はどうしてこころの家の場所を知っていたのでしょうか?

それはきっと近所に住む東条萌ちゃんが教えたに違いないのです。

登場人物

名前説明
安西こころ主人公 中1
アキ中3 明るくて社交的な女子
スバル中3 穏やかで背の高い男子
フウカ中2 ピアノを弾く眼鏡女子
マサムネ中2 生意気でゲーム好きな男子
リオン中1 イケメン
ウレシノ中1 小太りで惚れっぽい男子
オオカミさま狼のお面をつけた小学生くらいの少女
喜多嶋先生頼りになるフリースクールの先生 20代後半の女性
真田美織こころが不登校になった原因 教師の評判はいい
東条萌こころを裏切った元友達

城のルールと謎

モチーフとペナルティー

《鏡の城》は西洋の童話に出てくるようなお城です。

『5時を過ぎても城に残っていた場合は、狼に食べられる

というルールからは、童話『赤ずきん』が連想されます。

※オオカミさまも7人のことを「赤ずきんちゃん」と呼びます。

なお、ペナルティーは連帯責任であり、その日城にいたすべての子どもが食べられてしまいます。

城の謎

城にはバスルームやキッチンがありますが、水もガスも通ってません。

一方で、電気だけは使うことができます。

また、城の備品を使った場合は、翌日には元通りの位置に戻っています。

オオカミさまがピアノの発表会で着るようなドレスを何着も着まわしていることも、城の謎を解くヒントになっています。

鍵探しのルール

《鏡の城》は誰かが願いを叶えた時点で出入りできなくなります。

また、誰かが願いを叶えた場合、《鏡の城》に関する全員の記憶が失われます。

3月30日まで誰も願いを叶えなかった場合、記憶はなくなりません。

1学期(~8月)を通して、7人は心を通わせる友達になりました。

なのでひとまず、(記憶を失わないため)願いの鍵を使わないという方針で合意します。

ネタバレ

こころたち7人は日本全国からランダムに選ばれた不登校の子ども……ではありませんでした。

リオンだけは例外で、ふつうに学校に通っていたのです。

「隠すつもりはなかった」とリオンは言います。

しかし、考えてみればこれは妙な話です。

城が開いているのは午前9時~午後5時の間。

つまり、ほとんど学校に拘束される時間と同じです。

学校に行っているのなら、城に来られるはずがありません。

この謎を解くヒントは、《オオカミさま》の言葉のなかにありました。

 

「城が開くのは、日本時間で午前9時から午後5時まで」

 

そう、リオンは日本と約19時間の時差があるハワイに住んでいたのです。

《鏡の城》が開いている時間は、リオンにとって夜の時間帯。

だから学校に通いながら城にも来ることができていたんですね。

不登校ではなくとも、リオンもまた生きにくさを感じる《事情》を抱えていました。

大好きだった姉の死。母親との不和。

リオンは家庭から追い出されるようにハワイの学校の寮に入れられ、英語で満足に会話できない苦しさのなか日々を過ごしていました。

最初、リオンは《願いの鍵》を使って「姉を返してほしい」とお願いするつもりでした。

本当の共通点

先ほど「こころたちは日本全国からランダムに選ばれた不登校の子どもではない」とお伝えしました。

実はこれ、リオンのことだけではないんです。

こころたち7人はもっと大きな思い違いをしていました。

それは……

「私たちはみんな、雪科第五中学校に通う予定で、だけど通っていない子。そういう共通項で今ここに集められてるってこと?」

「だと思う」

そう、こころたち7人は同じ中学校の生徒だったのです。

※リオンも留学しなければ同じ中学校に通っているはずでした

それまでこころたちは私服で《鏡の城》に来ていました。

ところが、たまたまアキが制服を着てきたことで、この重大な事実が判明したのでした。

会えるけど会えない

「オレたちは助け合える」

親に転校させられそうになっていたマサムネは、三学期の始業式に一日でいいから登校してほしいと他のメンバーに頼みます。

一日だけ登校すれば、転校を4月まで引き延ばせる。

3月30日を前に転校して、万が一にも《鏡の城》に来られなったら嫌だ。

《鏡の城》の仲間たちが登校してくれるなら、学校に行く勇気を出せる。

そういうお願いでした。

こころたちの返事はもちろんOK。

内心では怯えながら「それでもみんながいるなら」と勇気を出して学校に行く決意を固めたのでした。

約束の日。

こころは不安と期待を抱えて久々の通学路を歩きます。

登校の時間は遅めにずらしているし、目指すのは教室ではなく保健室です。

それでもこころの足は重く、一歩ずつ不安が大きくなっていくようでした。

「みんなに会いたい」

こころの足が止まらなかったのは、その一心からです。

しかし……

やっとの思いでたどり着いた保健室には、誰もいませんでした。

  • まだ来ていないのか?
  • 他の場所にいるのか?

こころは思わず保健室の先生に訊ねます。

すると……

 

「嬉野くん? 一年生に、そんな生徒はいないけど」

 

名前が特徴的なマサムネも、二年生の生徒にはいないとのことでした。

こころは家に帰ると、すぐに《鏡の城》に行きました。

メンバーたちは口を揃えて言います。

「なんで学校に来なかったんだ?」

どうやら、状況はみんな同じのようでした。

つまり、みんな雪科第五中学校に登校したのに、誰とも会えなかったのです。

こころがそうだったように、ウレシノもまた「一年生にこころという生徒はいない」と言われたといいます。

これはいったい……?

「オレたちはパラレルワールドの住人なんじゃないか?」

そう考察したのはマサムネです。

マサムネは裏切られた可能性なんて少しも考えず、全員が登校したのに会えなかった理由を見つけようとしていました。

こころたちが《鏡の城》の中でだけ会えるパラレルワールドの住人だとしたら、現実世界で他のメンバーに会うことはできません。

一見、悪くない仮説のようでしたが……

 

「違う。全然違う」

オオカミさまはあっさりとマサムネの仮説を否定します。

「会えないとも、助け合えないとも私は言っていない。いい加減、自分で気づけ」

断絶の正体

『同じ中学校に登校したはずなのに、どうして会えなかったのか?』

小説でこの謎の答えが明かされるのはかなり終盤の方です。

とはいえ、作中にはヒント(伏線)が多く、真相はかなりわかりやすいものでした。

※実際、わたしもかなり早い段階で気づけました。

答えをネタバレする前に、ヒントの一部を紹介します。

ヒント1

スバルは『ハリー・ポッター』を知らなかった。

 

ヒント2

とある映画に続編があることを、アキは知らなかった。

 

ヒント3

スバルとアキにとって、買い物といえば商店街。

こころにとって買い物といえばショッピングモール。

 

ヒント4

「一学年にクラスはいくつあるか?」の認識が、それぞれで違う。

 

ヒント5

アキとスバルは(喜多嶋先生のいる)フリースクールの存在を知らなかった。

なんとなく答えが見えてきましたか?

それでは、答え合わせです。

「私たち、時間が――年がズレてるんだよ! 私たちはそれぞれ違う時代の雪科第五中の生徒なんだよ! 同じ世界にいるんだよ!」

こころたちは生きている時代が違っていたんです。

スバルが『ハリー・ポッター』を知らなかったのは、まだ作品そのものが存在しない過去の人間だから。

具体的に言うと、スバルが生きているのは1985年です。

  • 土曜日も学校がある
  • 祝日の曜日が違う
  • ノストラダムスの大予言の話題

こうした伏線も、それとなく会話の中に仕込まれていました。

以下は、それぞれの本名と年代です。

名前年代
長久昴(スバル)1985
井上晶子(アキ)1992
安西こころ2006
水守理音(リオン)2006
政宗青澄(マサムネ)※2013
長谷川風歌(フウカ)2020
嬉野遥(ウレシノ)2027

※「青澄」と書いて「あーす」と読む

この表から、それぞれ同じ期間に中学校に在籍していなかったことがわかります。

だから約束の日にこころたちは会えなかったんですね。

二周目を読むと年代のズレの伏線がそこかしこにあったことに気づきます。

たとえば、こころがマサムネのゲーム機を見て驚くシーン。

こころはニンテンドーDS世代なのですが、マサムネが持っていたのは3DSだったんです。

ルール違反

こころの部屋の鏡がいきなり割れたのは、3月29日の5時を過ぎたころでした。

いったい何が起こったのか?

混乱しながら粉々に砕け散った鏡の破片をのぞき込むと、切迫した声が聞こえてきました。

 

「アキが、ルールを破った。5時を過ぎても、城から帰らなかった。狼に――食われた」

「僕たちも、今からたぶん、食べられる」

 

ペナルティーは連帯責任。

その日城にいた全員が狼に食べられる。

期限の前日ということもあって、その日はこころ以外の全員が城に集まっていました。

仲間たちを助けられるのは、こころしかいません。

「こころ、頼む! 願いの鍵を、見つけて――」

ぷつり、と声がとぎれます。

こころは恐怖で竦む(すくむ)足を無理やり動かして、《鏡の城》へと入っていきました。

願いの鍵の在り処

《鏡の城》は台風が直撃したかのように荒れていました。

あれほどきらびやかだった城内の面影はなく、視界に入るすべてのものがボロボロになっています。

仲間たちを助ける方法はただ一つ。

《願いの鍵》を使うしかありません。

しかし、みんなで約1年間も探したのに、《願いの鍵》どころか《願いの部屋》さえまだ見つかっていないのです。

こころは頭を抱えます。

ヒントらしきものといえば、城の中にいくつかある意味深な『×印』のマークくらいで……。

そのとき、こころの頭にさっと閃くものがありました。

もしかしたら……!

ヒント

×印の場所は次のとおり

  • 机の下
  • ベットの中
  • 火の入ってない暖炉の中
  • 台所の戸だなの中
  • 洋服ダンスの中
  • 洗濯おけの中

そして『オオカミ』と『童話』とくれば……?

こころの読みは当たっていました。

《願いの鍵》の在り処は、大時計の中。

「オオカミさまはオレたちを赤ずきんちゃんって呼ぶ。フェイクだって、気もするんだ」(リオン)

きっとリオンは気づいていたのでしょう。

鍵探しのモチーフは、『七ひきの子やぎ』だったのです。

『七ひきの子やぎ』といえば、狼がお母さんのふりをして家に入り、隠れた子やぎたちを食べてしまうという童話ですね。

ただ一匹だけ助かった末っ子が隠れていたのが、大時計の中でした。

生きて、大人になって

《願いの鍵》のすぐ近くに、鍵穴が見えます。

《願いの部屋》もまた大時計のことだったのです。

こころは鍵穴に鍵を差し込み、願います。

 

「どうか、アキを助けてください。アキのルール違反を、なかったことにしてください」

 

その瞬間、優しい光があふれ、こころを包み込みました。

光の向こう側に、うずくまって泣いているアキの《心》が見えます。

誰よりも《願いの鍵》に固執していたアキは、本当にひどい現実を生きていました。

義父からの性的虐待に怯える日々は、ルール違反をしてでも家に帰りたくないと思うほど辛いものでした。

絶望のなかずっとひとりぼっちだったアキに、こころは叫びます。

頑張って、大人になって、と。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「私たちは、会えるよ!」

 

『七ひきの子やぎ』で隠れた末っ子のいる大時計のふたをお母さんやぎが開ける場面を思い出した。

アキ、出てきて。

願いながら、心を手を伸ばす。

「逃げないで! 手を伸ばして! お願い! アキ!」

声の限りに叫ぶ。

「アキ、生きて! 私たちは助け合える! 会えるよ! だから生きなきゃダメ! 頑張って、大人になって! アキ、お願い。私、未来にいるの。アキの生きた、大人になった、その先にいるの!」

手の先に、柔らかく、温かいものが、触れる。

誰かが、こころの手を握り返す。

その感触が伝わってきた瞬間、こころはきゅっと目を閉じた。

しっかりとその手を握る。絶対に離すもんか、と思う。

 

――こころ。

 

「そうだよ、こころだよ!」

涙で顔がぐしゃぐしゃになる。

アキの手。絶対に離さない。

「迎えに来たよ」

 

――こころ、ごめんなさい、私。

 

「いいから!」

お腹の底から声が出る。叫ぶ。

「そんなこといいから! 戻ってこおおおい!」

閉城

こうしてアキが戻ってきて、物語は大団円。

いつのまにか城の雰囲気は元通りに戻っていて、食べられてしまった他のメンバーも戻ってきていました。

《願いの鍵》を使ってしまったので《鏡の城》は閉じられますし、みんなの記憶も消えてしまいます。

けれど、誰ひとりとしてアキやこころを責めるメンバーはいません。

むしろ、誰もがアキが無事に戻ってきたことを心から喜びました。

《オオカミさま》がくれたお別れの時間で、こころたちは初めて自分たちが別々の時代の中学生であることを確かめ合います。

そして、思い思いに最後の時間を過ごします。

ウレシノがフウカに告白したり、スバルがマサムネのためにゲームクリエイターになると約束したり……。

記憶が消えてしまっても、絆まで消えてしまうわけではない、とみんな信じています。

そして、いよいよ現実に帰る時間がやってきました。

※以下、小説から一部抜粋

…………

大広間には、亀裂が入ってところどころが割れた、ボロボロの鏡が七枚。

また、元のように立てられていた。

《オオカミさま》が戻れるように準備しておいてくれたらしい。

「楽しかった」

みんなを代表するように、言ったのはフウカだった。

ふだんあまり率先して意見を言うことがなかった彼女がそうしたことを少し意外に思ったけれど、こころも同じ気持ちだった。

「うん」

「私、ここに来てる間だけは普通の子みたいになれて、本当に嬉しかったんだ」

フウカがみんなを見る。

眼鏡の奥の目が優しく、だけど少し寂しそうにも見えた。

「自分は、みんなと同じになれない……いつ、どうしてそうなったかわかんないけど、失敗した子みたいに思えてたから。だから、みんなが普通の子にそうするみたいに友達になってくれて、すごく嬉しかった」

その声に、こころは息を呑む。

この場のほとんどみんながそうなったのがわかった。

『普通になれない』はずっとこころが思ってきたことだった。

学校に通ってる他のみんなみたいにうまくできなくて、同じになれないことに気づいて、だから絶望していたし、苦しかった。

ここでみんなが友達になってくれて、どれだけ嬉しかったか。

しかし、その時だった。

「え、それ、おかしくない?」

ウレシノの声だった。

みんながはっとしてウレシノを見る。

ウレシノは真剣な……怒ったような顔をしていた。

「フウカは普通じゃないよ」と言った。

断言する、強い口調だった。

「優しいし、しっかりしてるし、全然普通じゃないよ」

「あ、そういう意味じゃなくて……。ウレシノがそう言ってくれるのは嬉しいけど」

「いいんじゃないの? ウレシノの言う通りだよ」

ウレシノの声を後押しするように言ったのはリオンだった。

普通かそうじゃないかなんて、考えることがそもそもおかしい。そんなの、オレはどうだっていいし、単純にフウカがいい奴だから仲良くなれたんだよ。嫌な奴だったら絶対仲良くならなかった。それはみんなそうだろ?」

リオンの言葉に、今度はフウカが息を呑んだ。

「違う?」と言うリオンに、フウカが「ううん」と首を振った。

小声で言う。

 

「ありがとう」

結末

※以下、小説から一部抜粋

全員が、それぞれの鏡の前に立つ。

亀裂の入った鏡は、もうこれが本当に最後なのだと予感させた。

「……アキ」

隣に立った晶子に、こころが呼びかける。

「なに? こころ」

「手、貸して」

晶子が怪訝そうに、手を差し出す。

その手を、こころはぎょっと握る。

届け、届け、と念じながら。

見てしまったことを、考えていた。

鏡の向こうに戻っても、待っている現実。

お母さんも、義理のお父さんもいる、どうにも動かない晶子の現実。

この手を離して、晶子はそこに帰らなければならない。

こころにできることは、もう、何もない。

「未来で待ってるから」

そう言うのが精いっぱいだった。

晶子が目を見開く。

 

「2006年。十四年後の未来で、私は待ってる。会いにきてね」

 

伝われ、と思う。

言葉にできないことがもどかしかった。

どこまで伝わるかわからない言葉でしか、言えることがない。

晶子はしばらく、呆気にとられたようにこころの手を握っていた。

しばらく経って、「うん」と頷いた。

頷いてくれた。

「わかった」

会いに行く、とそう約束してくれる。

「狼に食べられて、死ぬほど怖かったから。もう、バカな真似はしないよ」

そう言って、微笑んだ。

「みんな、元気でね!」

「うん!」

「またね」

「じゃあな」

「さよなら!」

「元気で!」

「どっかで会えたらいいね」

晶子の、こころの、風歌の、政宗の、嬉野の、理音の、昴の、

みんなの声が重なって、弾ける。

最後の鏡の旅に、みんなの姿が、溶けていく。

それぞれの現実と時間に、みんなが帰っていく。

虹色の光が溢れ、そして、消える。

明かりの消えた大広間に、狼面の少女だけが残された。

《オオカミさま》は、全員の背中を見送る。

光が消え、鏡が元通り静かになったのを確認して、ゆっくりと、背を向ける。

そして静かに、深呼吸する。

終わった――、と一人で静かに息をつく。

すると、その時だった。

 

「姉ちゃん」

 

声がして、狼面の少女が弾かれたように顔を上げる。

声の方向を、光が消えたばかりのはずの鏡を振り返る。

水守理音が、そこに立っていた。

「本当は、最初の日から、もしかしたらって思ってた」

三月三十日。

理音が続ける。

 

「城が閉まるはずだった明日は……姉ちゃんの命日だ」

鏡の城の真実

物語がきれいに終わったかと思いきや、実はここからが本番!

ミステリ小説も真っ青の《謎解き》が始まります。

丁寧に伏線の説明をしちゃうと長くなってしまうので、まずは結論からお伝えしましょう。

 

《オオカミさま》の正体は亡くなった理音の姉だった。

 

これが『7人の時代の違い』のさらに奥に隠されていた、作中最大の秘密です。

それでは、もう少しくわしく解説していきますね。

 

理音と実生

理音のお姉さんの名前は「実生(みお)」といいます。

子どもの頃から病気で、中学生の年齢でこの世を去りました。

理音は7歳年上の姉のことが大好きで、小学校に通い始める前はよく病室に遊びに行って、物語を読み聞かせてもらったりしていました。

特にリオンがお気に入りだったのは、『七ひきの子やぎ』です。

理音は実生にねだって何度も『七ひきの子やぎ』を読んでもらっていました。

 

最後の約束

「ねえ、理音。もし、私がいなくなったら……」

まだ幼くて、姉がいなくなるなんて思ってもいない理音に、実生は言いました。

「私、神様に頼んで理音のお願いを何かひとつ、叶えてもらうね」

神様にお願いするから、と繰り返す実生に、理音は言います。

「じゃあ、オレ、姉ちゃんと学校行きたい」

実生は困った顔をして、ありがとう、とつぶやきました。

「私も、行けるなら理音と一緒に学校行きたい。……一緒に遊びたいよ」

 

鏡の城の真実

つまり、《鏡の城の鍵探し》は実生が理音のために用意した舞台だったんですね。

神様にお願いすることで、実生はこの不思議な現象を実現したのでしょう。

結局、《鍵探し》を通じて理音はかけがえのない友達に出会えたわけですし、ある意味では姉と一年間遊んだのだとも解釈できます。

わからないことがあるとすれば、亡くなったはずの実生がどうして生きているのかという点ですが……

「今も、姉ちゃんの現実は、6歳のオレと一緒に病室の中なんだろ?」

とまあ、そういうことですね。

《鏡の城》は時を越えて存在しています。

《オオカミさま》の正体は、生前の(約7年前の)実生だったのです。

小学生のような外見をしていたのは、まだ実生が(比較的)元気だったころの姿だから。

※中学生の年齢の実生の体はボロボロで、髪も抜けていた

実生はお話を読むだけでなく、オリジナルの物語をつくるのも得意でした。

《鏡の城の鍵探し》は実生が理音のためにつくった最後の物語だった、というわけですね。

実生は《鏡の城》の管理人ではありましたが、不思議な力をもらったわけではありません。

あくまで神様にお願いを聞き届けてもらった、という立場です。

だから理音が狼に食べられたとして、ルールを曲げて助けることとかはできなかったんですね。

 

そのほか伏線回収

《鏡の城》のモデルは実生が誕生日に買ってもらったドールハウスです。

病室にも置かれていたドールハウスは西洋のお城のようで、食器やドレスなどの小物もそろっていました。

《鏡の城》にはガスも水道も通っていませんでしたが、それは元がドールハウスだから。

ドールハウスではシャンデリアの電気がつくようになっていたので、《鏡の城》でも電気だけは使えたんですね。

そして、もうひとつ。

メンバーの年代を見て気になることはありませんでしたか?

1999年だけ該当者なしで、2006年だけ理音とこころの二人が選ばれている点です。

実生は理音より七歳年上なので、本来なら1999年の参加者と同じ生まれ年だったんですよね。意味深です。

 

お願いをもうひとつだけ

※以下、小説から一部抜粋

「……これで本当に最後だから、あとひとつだけ、お願い、聞いてくれない?」

これまで散々願いを叶えてもらってきて、図々しいと思うけれど、姉はいつも理音に甘かった。

懐かしく、思い出す。

「オレ、覚えていたい。みんなのことと、姉ちゃんのこと」

《オオカミさま》は答えない。長い時間待っても、何の返事もない。

困らせるつもりはなかった。

理音は黙って、鏡の方に向き直る。

心の中で、姉に「さよなら」を言う。

鏡の中に――手を伸ばす。

すると、そのときだった。

 

「善処する」

 

声が聞こえた。はっきりと。

理音ははっとして、後ろを振り返る。

しかし、鏡のまばゆい光が視界に溶けて、城の、大広間の輪郭が消えていく。

《オオカミさま》の姿が遠ざかる。

こっちを向いた《オオカミさま》が、最後に自分の狼面をゆっくりと外し、理音に向け微笑んだ――ように見えた。

ラストシーン

戻ってみようと思う。学校に。

二年生一学期、初日の朝。

こころは登校しようとしていました。

《鏡の城》の記憶は残っていませんが、「自分には他にも行ける場所がある(学校がすべてじゃない)」という気がしています。

それに、この一年間ずっとこころの味方でいてくれた喜多嶋先生の顔を思い浮かべると、不思議と気持ちが軽くなりました。

満開の桜が風に舞う、学校への道。

「よお」

ふいに、こころに声がかけられます。

※以下、小説から一部抜粋

…………

自転車に足をかけて――男子が一人、こっちを見ていた。

雪科第五中の、男子の学ランの制服を着て、校章を胸につけて。

刺繍の名札に、「水守」と書かれている。

その子の名前を、こころは知っている気がした。

実生はちゃんと理音の記憶を残していてくれていました。

きっと理音は両親と話し合って、きちんと「日本に戻りたい」と伝えたのでしょう。

理音がいれば、きっとこころも大丈夫ですね。

エピローグ

エピローグの主役はフリースクールの喜多嶋先生です。

今回のネタバレ解説ではいまいち存在感薄めだった喜多嶋先生ですが、作中ではこころの味方として誰よりも頼もしい働きを見せていました。

  • わざわざ家まで様子を見に来てくれたり
  • 鈍感な担任教師に代わってこころを守ってくれたり
  • こころがいちばん必要としている言葉をくれたり

もし喜多嶋先生がいなかったら、こころはもう一度学校に通う決意なんてできなかったはずです。

《鏡の城》の経験もさることながら、こころが再び前を向けたのは喜多嶋先生のおかげなんですね。

ぱんだ
ぱんだ
なるほど

察しのいい読者なら、きっと違和感があったのではないかと思います。

こんなに都合のいい大人が、ただの優秀な登場人物なはずがない、と。

ぱんだ
ぱんだ
!?

他の謎と同じように、喜多嶋先生の正体に関してもちゃんとヒントは提示されていました。

  1. 喜多嶋先生は若い女性である
  2. 喜多嶋先生の下の名前はわからない
  3. 喜多嶋先生はこころと同じ中学校出身

さて、もうお気づきでしょうか。

それでは答え合わせといきましょう。

 

 

喜多嶋先生の正体は大人になったアキです。

 

一時は命を投げ出すほど自暴自棄になっていたアキですが、《鏡の城》から戻ったあとは教師の道に進みます。

やがてアキは病院で水守実生ちゃんに勉強を教える経験を経て、不登校の子どもたちに寄り添うフリースクールの先生になりました。

名字が違うのは、実生ちゃんの主治医だった喜多嶋先生と結婚したからです。

そうして大人になったアキはこころをはじめ、やがて未来の時代の仲間たち(※)の支援も担当することになります。

※フウカ、マサムネ、ウレシノ

こころたちに救われたアキが、今度はこころたちを救っていたんですね。

もちろんアキは《鏡の城》で過ごした時間のことを覚えていません。

けれど、(こころがそうであったように)絆まで消えてしまったわけではありませんでした。

※以下、小説から一部抜粋

…………

大学院を卒業し、結婚し、苗字が変わり、『心の教室』も携わりながら、いつしか心に、ある思いが芽生えた。

 

今度は私の番だと。

 

どうしてそんなふうに思ったのか、わからない。

けれど、昔から、胸に、一つの光景が焼きついている。

腕に強い、痛みの感覚が残っている。

それは、誰かに強く腕を引かれる記憶だ。

 

私は、助けられた。

震えながら、命がけで、私の手を引っ張って、この世界に戻してくれた子たちが、どこかにいる。

大丈夫だよ、アキ。

大人になって。

未来で待ってる、と。そう叫んで、私をここに繋ぎとめ、大人にしてくれた子たちがいる。

はっきりと見えないその子たちの顔の中に、なぜかあの実生の面影も重なる。

どうしてかわからない。けれど、腕に痛みが蘇るたび、晶子は思う。

 

今度は、私がその子たちの腕を引く側になりたい。

安西こころちゃんが、部屋の中に入ってくる。

※物語の序盤にもあった「喜多嶋先生」とこころが出会うシーン。まだこころが城に入る前ですね。

唇が青ざめ、不安そうに目をおどおどと動かし、ゆっくりとこの部屋に入ってくる。

その姿を見て、とうとう、この時が来た、と思った。

どうしてかわからない。

けれど、ずっとこの時を待っていた気がする。

この子がどんな暴力に曝(さら)され、闘ってきたのか。わからない。

わからないはずなのに、考えると、胸がいっぱいになった。

大丈夫だよ、と心を込めて思う。

「安西こころさんは、雪科第五中学校の生徒さんなのね」

「はい」

「私もよ。私も、雪科第五の生徒だったの」

大丈夫だよ、と胸の中で呼びかける。

待ってたよ、とアキの胸の中で、声がする。

大丈夫。

大丈夫だから、大人になって。

 

部屋の壁にかけられた小さな長方形の鏡が、アキとこころを映している。

その鏡が日差しに照らされ、虹色に少し、輝いた。

おや、とおもってアキは振り返る。

今、鏡の中に昔の――中学時代の自分が、この子と座っていた気がした。

<完>

感想

「活字の物語がここまでおもしろいなんて!」

『かがみの孤城』は単行本で約550ページとボリュームのある小説ですが、ほとんど丸一日かけて一気読みしてしまいました。

これが他の小説なら、休憩を挟まないととてもじゃないですが、500ページを一気読みなんてできません。

でも、『かがみの孤城』にはページをめくる指が止められなくなるほどのワクワクがあって、集中がまったく途切れませんでした。

なにが言いたいのかというと、めちゃくちゃおもしろかったです!

謎解きが楽しすぎる

『かがみの孤城』にはミステリ小説としての魅力があります。

  • 時代差の謎
  • 鏡の城とオオカミさまの謎
  • 喜多嶋先生の謎

結末~エピローグで一気に押し寄せてくる《真相》のラッシュは圧巻でしたね。

わたしは読みながら『時代のズレ』に気づいたので、途中からは「7人のメンバーがどの時代から来たのか?」という謎解きに夢中になりました。

アキとスバルは流行のエンタメの話題についていけてないから、けっこう過去の人間っぽいなあ。

ゲームの最新作の認識がズレてるから、こころよりマサムネの方が未来の人間で……。

ときには前のページに戻って伏線を確認したりしながら、年代順の予想をメモして読むのが楽しかったです。

『かがみの孤城』ではわかりやすい伏線からちょっと気づきにくい伏線まで、いろんな難易度の伏線があちこちに仕込まれています。

ミステリ好きなら謎解きに夢中になると思いますし、そうじゃない人は純粋に物語が楽しめてラストで驚ける。

読者を選ばず、子どもから大人まで幅広く楽しめるのも『かがみの孤城』の大きな魅力だと思います。

 

余談

最近、おもしろいと思うミステリ小説のパターンがあります。

それは「わかりやすい謎の裏に、もっと大きな謎を隠している」というものです。

読者は表層の謎を解いた時点で「よし、謎は解けた!」と思考をストップさせてしまうので、さらに大きな謎に気づきにくくなるという寸法ですね。

わたしの場合、『かがみの孤城』では時代考証に夢中になりすぎて、オオカミ様の正体の謎解きをおそろかにしてしまいました。

そのおかげで結末では「あーっ! そっか!」と驚ける楽しさがあったのですが、「自分で気づきたかった!」とちょっと悔しくも思いました。

喜多嶋先生がアキだろうとは思っていましたよ!(言い訳)

 

気づきました?

マサムネがパラレルワールドのたとえで名前を出したゲーム『ゲートワールド』

制作者の名前は「ナガヒサ・ロクレン」でした。

これ、スバルのことです。

名字はまんま長久ですし、ロクレンは「六連星=昴」からですね。

こころの物語かと思ったら……

『かがみの孤城』はこころの物語を中心としながら、けっして他の登場人物をおそろかにしません。

リオンと実生の物語。

やがて喜多嶋先生になるアキの物語。

それだけじゃなくて、マサムネも、スバルも、フウカも、ウレシノも、みんなそれぞれにちゃんと背景があって、わき役としておざなりにされていないのが好印象でした。

解説のほうでは省略しましたが、物語のラストではそれぞれが抱えている(家庭や学校での)事情が明かされます。

そうして、それぞれが真剣に悩み苦しんでいたことが伝わってきたからこそ、結末であれほど感動したのでしょう。

結局、《鏡の城》では実生も含めて8人全員が「いい結果」を手にしました。

それは絆であったり、夢であったり、生きる意志であったり……。

『かがみの孤城』を読み終えたあと、しばらく呆然とするほどの余韻が残ったのは、8人ぶんのハッピーエンドによって胸がいっぱいになったからだったのだと思います。

人と人が心を通い合わせ、絆を結ぶ過程を丁寧に描いた、心に残る一冊でした。

まとめ

今回は辻村深月『かがみの孤城』のネタバレ解説をお届けしました!

この小説をひと言で表現するなら「バケモノみたいな完成度」

序盤から終盤まで一切の中だるみがなく、ずーっとおもしろい!

それなのに結末では畳みかけるような謎解きで、さらに2倍3倍とおもしろくなっていく。

本屋大賞で史上最高得点が入ったという結果にも納得しかありません。

このうえ二周目もおもしろく読めるのですから、ホントにバケモノみたいな小説です。

  • 好きな本は?
  • おすすめの本は?

たまに聞かれることがあるのですが、次からは『かがみの孤城』と答えることにします。

未読の方はぜひお手に取ってこの小説のクオリティを確かめてみてください。

「もう読んだよ!」という方はコメントに感想を書いてくれると嬉しいです。

ぱんだ
ぱんだ
またね!




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