ホラー

小説『スイート・マイホーム』あらすじネタバレ解説|怖すぎる結末【映画原作小説】

神津凛子『スイート・マイホーム』を読みました。

評者に「おぞましい」とまで言わしめた(小説現代)新人賞受賞のホラー小説です。

ミステリー要素もあるので読み味は「イヤミス」に近いものがありますが、《あの結末》はとてもイヤミスの領域に収まるものではありません。

最後の1ページ、ここまでやるか――石田衣良(作家)

「怖い」を通り越して「おぞましい」

今回は小説『スイート・マイホーム 』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします。

あらすじ

長野の冬は長く厳しい。

スポーツインストラクターの賢二は、寒がりの妻のため、たった一台のエアコンで家中を暖められる「まほうの家」を購入する。

ところが、その家に引っ越した直後から奇妙な現象が起こり始める。

我が家を凝視したまま動かない友人の子ども。

赤ん坊の瞳に映るおそろしい影。

地下室で何かに捕まり泣き叫ぶ娘――。

想像を絶する恐怖の連鎖は、賢二の不倫相手など屋外へと波及していき、ついに関係者の一人が怪死を遂げる。

ひたひたと迫りくる悪夢が、賢二たち家族の心を蝕んでいく……。

(単行本帯のあらすじより)

まほうの家

エアコン一台で家中を暖められる「まほうの家」

そのカラクリは次のように説明されています。

「家の地下に家と同じだけの広さの空間があり、そこにエアコンを置き、作動させます。その暖気が、天井に配したダクトと壁の間を循環して家中どこでも同じ室温が保てるのです」

暖気の循環する狭い空間が家をまるごと包んでいるイメージですね。室内はいわゆる輻射熱(ふくしゃねつ)によって暖められます。

エアコンが設置された地下室は膝の高さの空間で、大人がほふく前進でやっと進めるほどの高さしかありません。

閉所恐怖症の賢二にとっては悪夢のような空間でしたが、苦手意識を差し引いてもなお「家中が暖かい」という機能性は魅力的なものでした。

話はとんとん拍子に進み、賢二は結婚三年目にしてマイホームを購入します。

広い土地に平屋の新居が完成する頃には、次女のサチも誕生し、四人家族になっていました。

ぱんだ
ぱんだ
ほうほう

ここで清沢家の家族構成についてご紹介しておきましょう。

夫の賢二は高身長でイケメン。モデルと紹介されても違和感のないルックスの持ち主であり、運動神経も人並み以上というハイスペックな人物です。

弱点は閉所恐怖症であること。また、ジムの同僚で八歳年下の友梨恵と不倫関係にあった(※)という秘密も抱えています。

※友梨恵の結婚により関係は解消された

妻の「ひとみ」は賢二の不倫にはまったく気づいていません。長女の誕生からレスになっていましたが、マイホーム購入の時期と重なるように夜の営みを再開し、次女を出産しています。

新しい家に引っ越してきたとき、長女のサチは三歳、次女のユキは四か月でした。

美男美女の若い夫婦と、かわいい盛りの女の子がふたり。

清沢家はまさに絵に描いたような《理想的な家族》だといえるでしょう。

迫りくる悪夢

ある日、賢二は自宅に友人の上林を招待しました。

上林はよろこんで新築の「まほうの家」にお呼ばれされたのですが、いくばくも滞在しないうちに青い顔をして帰ってしまいます。

あまりに不自然な態度です。賢二が理由を問い詰めると、上林は気まずそうな顔でおずおずと語りだしました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

あの日、上林が見たもの――。

上林はトイレから出た後、廊下でスマートフォンを操作していた。スマートフォンの画面が、リビングから漏れる光で照らされていた。

ラインをしていた――上林はそう言った。しばらく待ったが、自分のメッセージが既読にならないのでリビングに戻ろうと画面を消した。

暗くなった画面に人の顔が映っていた。

ぎょっとした上林はスマホを取り落とした。振り返ったが誰もいない。

(中略)

(顔が映っていたあたりを見上げると)天井から垂れ下がっていたものが、さっと引っ込んだ。髪のようだった、と上林は言った。

髪の毛だと思った瞬間全身に鳥肌が立った。なぜ天井から髪の毛が?

…………

《悪霊》の存在を訴えたのは上林だけではありません。

友人の子ども。長女のサチ。そして妻のひとみも。

ひとみが【それ】を体験したのは、賢二が出張で留守にした夜のことでした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「誰かいたの。じっと見られてた」

妻は恐怖に顔を歪めた。

(中略)

「私が振り返った時には、誰もいなかった。でも……ドアが開いてた

妻は寝室を振り返ると言った。

「しっかりと閉めたはずのドアが、ほんの少し……誰かが覗けるくらいの隙間が開いていたの」

私の腕に鳥肌が立った。

…………

ひとみの恐怖体験はこれだけではありません。

赤ん坊のユキの瞳のなかにも、ひとみは【それ】を見ています。

「赤ちゃんの瞳は、まるで湖面のようでしょう? その湖面にね、映ったの。人の顔みたいだった。ユキの瞳から目が離せなくて、そのままでいたら、するするとユキの瞳から消えたの。それからしばらく、まだ動けずにいて、やっと勇気を出して天井を見上げた時には何もいなかった」

自宅の天井に人の顔が浮かんでいたのだと、ひとみは言っているのです。

賢二を見つめるひとみの目は、ゾッとするほど真剣でした。

ぱんだ
ぱんだ
怖っ!

上林とひとみは天井に《悪霊》がいたと証言しています。

一方、友人の子どもとサチが《悪霊》に出会ったのはエアコンが設置してる例の地下空間でのことでした。

まるで《悪霊》は家に憑りついているかのようです。

賢二が購入した土地……つまり「まほうの家」が建てられた土地はもともと葡萄畑でした。持ち主が亡くなったため売りに出されていた土地だったのですが、もしかしたら何か関係が……?

怪死

賢二を悩ませる心配事は、自宅で目撃される《悪霊》だけではありませんでした。

賢二の過去の不倫を証明する写真が、友梨恵(不倫相手)のもとに送られてきていました。

いったい誰がこんな真似を?

賢二の頭に真っ先に浮かんだのは、不気味な雰囲気を身にまとった《ある男》の言葉でした。

「家族を大事にしないとこわいことになる」

まるで賢二の不倫を咎(とが)めるような発言です。

そうやって賢二に警告した男の名前は甘利(あまり)といいます。

甘利は「まほうの家」を購入した住宅会社のマネージャーで、賢二たちを担当した社員(営業兼建築士)の本田によれば、問題のある男だということでした。

甘利はにきびだらけの醜い顔がコンプレックスで、賢二たちのように美男美女の家族に嫉妬してはトラブルを起こすのだそうです。

友梨恵の新婚生活を破壊した写真の送り主は甘利であり、次のターゲットは賢二たちの家庭なのかもしれない……。

賢二は恐ろしい想像に身を震わせます。

長野県警の刑事・柏原が清沢家を訪ねてきたのは、そんなある日のことでした。

「甘利浩一さんは昨日、自宅アパートで遺体で発見されました」

遺体の首には紐のようなもので絞められた痕跡が残っていたと刑事は言います。他殺です。

賢二は混乱しました。

なぜ、甘利が殺されなければならないのか?

さらにわけがわからないのは、甘利が亡くなった後も、例の【不倫写真】が友梨恵の夫の職場や実家に送りつけられていることです。

必然、不倫写真を握っている犯人は甘利ではなかったということになります。

……じゃあ、いったい誰が? なんのために?

賢二の混乱は、柏原刑事の二度目の来訪によりさらに加速することになります。

「原友梨恵さんは二月十二日、自宅マンションにて遺体で発見されました」

二人目の死者です。警察は離婚後ということで友梨恵の自殺を疑っているようでしたが、数日前に電話で話したときの友梨恵はとても前向きで、賢二にはとても自殺だなんて信じられませんでした。

  • 甘利と友梨恵の死
  • 不倫写真を握る脅迫者の正体
  • そして家に憑いている《悪霊》

賢二の周辺で【何か】が起きていることは間違いありません。

しかし、何が原因なのかも、これからどうすればいいのかも、賢二にはさっぱりわかりませんでした。

疑問

不穏な空気が漂ってきたところで、物語はいよいよクライマックスへと突入していきます。

でも、その前にちょっと待った!

賢二を取り巻く状況はまさしくホラーのそれですが、ひとつだけ、よくわからない点があります。

ぱんだ
ぱんだ
というと?

「家に憑いている悪霊」と「殺人事件」

同時並行的に発生した二つの事象が、どう考えてもつながらないんです。

まずは甘利と友梨恵を殺害した犯人について考えてみましょう。

《犯人》は不倫写真の持ち主であり、目的は不明ですが、明らかに人為的な(物理的な)方法でふたりの命を奪っています。

重要なポイントなので繰り返します。

甘利と友梨恵はあくまで人間の手で始末されたのであって、たとえば呪い殺されたというわけではありません。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

一方、賢二の家に住み着いて(棲み憑いて)いる《悪霊》はどう考えても人間ではありません。

《悪霊》の出没場所は主に天井付近や膝丈くらいの高さしかない地下室です。

そんなところに潜んでいる人間はいません。もしいたとして、目的が不明すぎます。

何か賢二たちに恨みがあって、霊を装うことでノイローゼにさせようとしている……いやいや、わざわざそんなことをしなくても、もっと手っ取り早い復讐の方法がいくらでもあるでしょう。

先ほど「家に憑いている悪霊」と「殺人事件」がつながらないとお伝えしたのは、つまりはこういうことです。

清沢家を脅かしているのは悪霊なのか、それとも人間なのか?

悪霊騒ぎと殺人事件はそれぞれ独立した、関係のない出来事なのでしょうか。それとも……。

<すぐ下のネタバレに続く>

ネタバレ

結論から言います。小説『スイート・マイホーム』にオカルト要素は一切ありません。

殺人事件も悪霊騒ぎも、一人の(生きている)人間によって引き起こされた事件です。

小説の第二章では視点が賢二から甘利に切り替わり、犯人の正体が明かされます。

犯人の正体は……と、その前に。

第二章で読者はひとつ大きな思い違いをしていた(させられていた)ことに気づきます。

『笑ゥせぇるすまん』のように不気味な存在だった甘利という男は、その実、真面目で誠実な、信頼のできる男でした。

ぱんだ
ぱんだ
むむ?

甘利は容姿や口調など第一印象こそ悪いものの、仕事ぶりは誠実そのもの。

客からも会社からも評価されていて、若くしてマネージャーに昇進しています。

甘利が「家族を大事にしないとこわいことになる」と賢二に耳打ちしたのは、脅しではなく、真摯な忠告のためでした。

つまり、甘利は賢二の周辺で発生するトラブルを予見していたのです。

それは、なぜか?

理由は簡単です。甘利は《犯人》のことをよく知っていました。《犯人》が清沢家をつけ狙うのではないかと、甘利は誰よりも早い段階で危惧していたのです。

甘利は何度も《犯人》に清沢家から手を引くよう警告していました。

その誠実さと優秀さのために、甘利は無念の最期を遂げることになります。

甘利の口を封じ、清沢家の人々を恐怖の底に突き落とした《犯人》とはいったい誰なのか?

実のところ、ヒントはすでに(こっそりと)提示してあります。

賢二が甘利に誤ったイメージを抱いてたのは、誰のせいだったのか?

この記事内では存在感を薄くしていましたが、その人物はやや不自然なほど何度も物語に登場していて、しかし甘利とは逆に疑う余地のないほど好印象だったために、無意識のうちに容疑者のリストから外されていました。

※甘利や《悪霊》への疑いが目隠し(ミスリード)になっていました。

一連の事件の犯人は清沢家の新居を担当した住宅会社の営業にして一級建築士、本田です。

ぱんだ
ぱんだ
誰!?

正体

本田は若い女性の社員で、第一章では信頼できる誠実な人物として描かれていました。

※本当に信頼すべきは甘利だったわけですが……

甘利を警戒するよう賢二に耳打ちしたのも彼女ですし、新居完成の折には華やかな鉢植えを個人的に贈ってくれたりもしています。

職務の域を越えて清沢家を気にかけてくれる善良で頼れる女性社員。本田はいわば【味方】として描かれていました。

しかし、真実はすでにお伝えしている通りです。

本田は清沢家の懐に入り込む一方で、甘利と友梨恵を殺害し、家に憑りつく《悪霊》としても暗躍していました。

ぱんだ
ぱんだ
でも、なんで?

本田の犯行動機……というか行動原理はちょっと複雑です。

彼女と清沢家は正真正銘、住宅会社の社員とその客という関係でしかありません。

モデルハウスを見学したときが初対面であり、過去に遺恨があったわけでも、その後、たとえば賢二と男女の関係になったという事実もありません。

というか実際のところ、本田は清沢家に対していかなる恨みも憎しみも抱いていません。

にもかかわらず、本田は賢二の不倫相手を殺害し、《悪霊》として清沢家に憑りついていました。

ぱんだ
ぱんだ
……なんで?

前提として、本田は異常者です。精神が破綻している、狂っている……あるいはシンプルにサイコパスだとお伝えしたほうがわかりやすいでしょうか。

狂気のはじまりは、交通事故でした。

結婚を控えていて、マイホームも完成間近……まさに幸せの絶頂というタイミングで、本田は婚約者を亡くしています。

新居の地鎮祭の日。婚約者の運転する車が見えて、彼女が手を挙げた、その次の瞬間の出来事でした。

「目の前で、婚約者の車がスピードを落とすことなくガードレールにぶつかり……。即死でした。ブレーキのトラブルが原因だったようです」

子どもは女の子一人がいい。将来は一緒に家庭菜園がしたい。本田の未来設計図はズタズタに切り裂かれてしまいました。

ぱんだ
ぱんだ
むごい……

それからの本田は【理想の家族】に執着するようになりました。

美しく仲睦まじい夫婦と、かわいい娘。それが本田の定義する理想の家族です。

清沢家は(不運にも)彼女の思い描く理想の家族そのものでした。

だから、狙われてしまった……この点において清沢家は完全に被害者であり、彼らに何らかの落ち度があったわけではありません。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

本田は理想の家族を「じぶんの家族」だと見なします。

過去、甘利に客の家への不法侵入を注意された際の本田の反応を見てみましょう。

私の家族が住む、私の家に、忍び込む?)

いま、本田はみずからを「清沢家の家族の一員」だと認識しています。

彼女が清沢家の天井裏や地下室に(気持ち悪くも)住み着いていたのは、清沢家の人々を怖がらせるためではありません。

「家族だから、一緒の家に住むのは当たり前」だと本田は認識していたんです。

狂気的な思想を持ちながら「清沢家の人々に見つかってはならない」という常識的な発想も持ちあわせているあたりが実に厄介です。

本田が友梨恵を殺害した理由についても、同じ文脈で説明ができます。

彼女にとって友梨恵は【理想の家族】の調和を乱す不純物にして外敵でした。

だから、排除した。

彼女が守りたかったのは【理想の家族】だったわけですが、ある意味では清沢家の平穏を守るための行動だったともいえます。

不倫という罪において友梨恵だけが制裁され、賢二には何の罰もなかった理由がここにあります。

繰り返しになりますが、本田は自分のことを「清沢家の家族の一員」だと認識しています。

だから、彼女は天井裏からじっと見つめるだけで、住人に危害を加えたりはしていません。

少なくても、これまではそうでした。

ぱんだ
ぱんだ
なんか不穏……

理想の家族

小説の最終章。事件は賢二が職場の慰労旅行で家を留守にした夜に起こりました。

旅行先から家に電話した賢二の耳に飛び込んできたのは、妻の悲鳴。

「ユキがいない」という不吉な言葉を最後に、通話はプツリと途絶えてしまいます。

青ざめた賢二がタクシーで自宅に引き返すと……

家の庭にはパトカーと救急車が停まっていた。

嫌な予感がじわりと忍び寄ってきます。

玄関に駆け込むと、家の中は警察と鑑識の人間で埋め尽くされていました。

リビングにはうつぶせに倒れた体。背中には包丁が深々と埋まっていて――。

相当凄惨な、むごい現場にもかかわらず、私は安堵した。サチでもユキでもない。それはどう見ても男の背中だった。丸く蹲っている背中は大きく広い。

結果からいえば、ひとみもサチもユキも、無事でした。

警察が囲んでいたのは、絶命していたのは、リビングに倒れ伏した大柄な男ただ一人だけです。

最初、賢二はあまりにも混乱していて、それが誰だかわかりませんでした。

けれど、当然ながら、まったくの赤の他人が、家のリビングで亡くなっているわけがありません。

男の顔を見た瞬間、賢二の心臓が止まりました。

兄だった。私は仰向けにされた兄の顔から目が離せなかった。僅かだが、微笑んでいるようにも見える。背中を刺されて微笑むバカがどこにいる?

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと!?

賢二は前日の夜、家を留守にする不安を兄の聡(さとる)に電話で打ち明けていました。

実家暮らしの聡は弟の不安をくみ取って「まほうの家」の様子を見に行き、そこで今まさに凶行に及ばんとする本田と鉢合わせます。

本田の狙いはユキの命でした。

聡はユキを守ろうと腕に抱きかかえ、そうして背中を刺されたという次第です。

深夜の出来事でした。物音で目覚めたひとみに見つかるわけにもいかず、本田はユキを諦めてその場から立ち去った……というのが事の顛末です。

ぱんだ
ぱんだ
もやもや

はい。わかっています。ここにきてお兄さんが初登場したり、本田がユキに危害を加えようとした理由が謎だったり、いまいちスッキリしませんよね。

もう少し補足説明します。

まず、本田がユキを狙った理由から。

これについては本田視点の記述があるので、引用します。

理想の家族に違いなかったが、人数が増えすぎた。娘が一人。それが正解で、あとはいらない。

ポイントはユキが生まれたタイミングです。

本田と出会ったとき、賢二たちは三人家族でした。この段階ではまだ妊娠もしていません。

「マイホーム発注 → ユキ誕生 → 新居完成」の順番です。

本田はユキの存在について次のように独白しています。

お腹にいる間にどうにかしたかったが、生まれれば愛せるかもしれないとも思った。娘が二人でも正解になるのではないかと思った。しかし、生後数ヵ月経ってもやはり愛せなかった。元に戻すしかなかった。

夫が慰安旅行で家を留守にする。夜中に決行するつもりだった。

本田にとって【理想の家族】を構成する人数は三人であり、次女のユキは余分だったため、始末しようとした……というわけですね。

この後、小説では本田視点での聡との攻防も描かれていて、それはもう手に汗握る緊迫した場面でした(でも長くなるので割愛します)

ぱんだ
ぱんだ
お兄さん……

ここからは、清沢聡について説明します。

この記事ではいきなり登場させてしまいましたが、聡は話の序盤から存在感のある人物でした。

聡は統合失調症を患っていて、母親と実家で暮らしています。

「警察に見張られている」などといった妄想にとりつかれていて、幻覚・幻聴の症状もあるようです。

賢二は兄の世話(看病)を母ひとりに押しつけてしまっている罪悪感を抱いていて、そのため実家に帰りたがらない……といった経緯が物語前半では語られていました。

身内とはいえ、聡はいつ何をしでかすかわかりません。

過去には閉所恐怖症の賢二を実家の押し入れに閉じ込めて失神させたこともあります。

ユキを守ってくれた兄という最期とは裏腹に、物語前半における聡は要注意人物として描かれていました。

それで、ここからは思いっきりネタバレになるのですが、そもそも聡が心を病んでしまったのは賢二のせいです。

賢二は子どもの頃に実の父親を殺していて、けれど、その記憶を忘れています。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

父親は典型的なDVダメ男であり、いわば身を守るための殺人(過剰防衛)でした。

正義感が強く優しかった聡は、弟を守れず、それどころかその手を汚させてしまったという罪悪感のために心を病んでしまいます。

賢二を押し入れに閉じ込めたのは、床下に父親の頭蓋骨を隠していたからです。

※賢二に思い出させようとしていた

さて、ここでもう一度、聡の最期をふりかえってみましょう。

私は仰向けにされた兄の顔から目が離せなかった。僅かだが、微笑んでいるようにも見える。背中を刺されて微笑むバカがどこにいる?

聡が微笑んでいたのは今度は守れたという心情の表れだったのでしょう。

今回は駆け足での説明になってしまいましたが、賢二と聡(そしてふたりの母親)を巡るもうひとつの清沢家の物語にも深いドラマがありました。

※このあたりをくわしく説明するとめちゃくちゃ長くなってしまうので、だいぶ粗めの解説になってしまいました。わかりにくかったらごめんなさい。疑問点はコメントに書いていただければお答えします。

決着

物語の最終局面。賢二はついに敵の正体(=本田)に気づきます。

あの女は、この家に住んでいた。

事件後、妻のひとみは精神が不安定になり、入院してしまいました。ギリギリのところで堪えていた心が、ついに限界を超えてしまったのでしょう。娘たちは義両親に預けています。

誰もいなくなったはずの「まほうの家」で、しかし、賢二は人が這いずる音を確かに耳にしました。

音は例の地下室から聞こえてきます。

ひざ丈の高さしかない地下室は暗く狭く、閉所恐怖症の賢二にとっては悪夢の空間です。

しかし、家族を壊した女への怒りが賢二を突き動かしました。

――逃げてたまるか。

賢二は女と決着をつけるべく、地下室へと潜ります。真っ暗な空間では視覚は頼りになりません。ずずず……、と女の這いずる音だけが不気味に耳に届いてきます。

ふと、腕にさらりとした感触がありました。髪の毛です。驚きより恐怖より、怒りが爆発します。

不自由な姿勢ながらも繰り出した賢二の拳が、女に直撃しました。

女はうめき声をあげて後退していきます。

逃がすものか。引きずり出して、必ず報いを受けさせる。

勢いづいた矢先、賢二の腕に鋭い痛みが走りました。ぬるりとした血の感触。女は刃物を持っていました。

そこから先はまさに死闘です。

不意に突き出される切っ先をかわして女の腕を掴んだかと思えば、至近距離からの頭突きで脳が揺れ、なんとか堪えて女の頭を床に叩きつけ首を絞めたはいいものの、血で手が滑って抜け出されてしまい……。

女は執念のためか異常にしぶとく、最後にはとうとう賢二の胸に深々とナイフが突き立てられてしまいました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

激痛などと言う言葉では生ぬるい、おそろしい痛みが私の胸をえぐった。私の目の前には、赤い目をした女の顔があった。顔を縁どる髪が、(賢二に殴られて)ひしゃげた顔から噴き出る血で黒光りしていた。

女はなぜか悲しそうな表情を浮かべ、言った。

「どうしてこわしたの」

そして私の胸に刺さったナイフにゆっくりと手を伸ばす。私はそれはじっと見つめる。

女の指がナイフの柄に触れそうになったその時、私は胸に刺さったナイフを自ら引き抜き、目の前にいる女の胸に突き立てた。

女の顔は、純粋に驚いているように見えた。

何か言おうというのか、口をパクパクしている。

その様子を見ながら、私は胸に手を当てる。指の間から血が溢れ出す。階段にもたれるようにして女は倒れ、それきり動かなくなった。

ぱんだ
ぱんだ
共倒れ……

スイート・マイホーム

結末が気になるところですが、ここで少しだけ本田の過去について語らせてください。

本田がこんなにも狂ってしまっているのは「婚約者を目の前で亡くしたショックのため」でしたよね?

あれ、実は嘘です。

本田は確かに交通事故により婚約者を亡くしていますが、そもそもその事故は本田が仕組んだものでした。

初めて自分で家族を持とうと決めた時、婚約者に女がいることがわかった。それが許せず婚約者自身に制裁を加えた。

この時点で本田は完全に狂気の向こう側に立っていました。彼女が【理想の家族】に固執する狂人となったきっかけはもっと過去にあります。

ぱんだ
ぱんだ
なにがあったの……?

彼女の父親は大工でした。彼女は父親のことが大好きで、父親の仕事についても幼心に誇らしく思っていました。

そんな父親が心臓発作で亡くなったのは、彼女が八歳の時でした。

その後、本田は父親が最後に手がけた(形見ともいえる)家を見るため、何度も何度も、何年も何年もそこに通い続けます。

家の住人は「美貌に恵まれたとは言えない大家族」であり、じっと家を見続ける本田のことを気味悪がり、冷たくあしらいました。

そして、事件は起こります。

中学二年生の夏です。彼女は大家族の父親に汚されました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

痛みと悔しさと恐怖で涙が止まらなかった。それを見て男は更に興奮しているようだった。男にのしかかられている間中、私は家のことを考えるようにした。

理想の家を。理想の家族を。

ことが済むと男は、その家の主人は二度とこの家に来るなと言った。言われなくても来るつもりはなかった。この家はもう父の家でもなんでもない、ただの汚れた悪魔の家になっていた。

八か月後の深夜、私は公園のトイレで赤ん坊を産んだ。女の子だった。

弱々しい産声を上げた後、すぐに静かになった。

スポーツバッグに赤ん坊をつめるとあの家へ向かった。バッグに火をつける。表に出しっぱなしになっていたゴミ袋に火がうつり、炎が広がっていった。

家が炎に包まれたように見えたが、それは私の願望だったのかもしれない。

…………

ぱんだ
ぱんだ
(絶句)

以上が、本田が【理想の家族】を追い求めるようになった壮絶な背景です。

本田の願いは「理想の家に、理想の家族を住まわせること」でした。その実現のために賢二の不倫相手を殺し、ユキを家族から排除しようとしました。

その行動のせいで清沢家が取り返しのつかないほど壊れてしまったという因果関係に、とっくの昔に壊れてしまっている本田は気づきません。

以下は地下室での死闘、その直前の本田のモノローグです。

私に感謝こそすれ、なぜあんな恐ろしい顔で話しているのだ。まさか主人(賢二)は私を排除しようとしているのか。「家族」であり「家」である私を?

みずからを「家」として、理想の家族を住まわせる。

本田の宿願はついに叶いませんでした。

結末

賢二は生きていました。本田と相打ちになった直後に柏原が到着し、すぐに治療を受けられたためです。

本田の生死については明言されていませんが、逮捕されたにせよこの世を去ったにせよ、もう彼女が清沢家に干渉することはありません。

これにて一件落着……と言いたいところですが、清沢家が負ったダメージはそう簡単に癒えるものではありませんでした。

賢二は足に後遺症が残り、もうジムでは働けない身体になっています。

妻のひとみの精神状態は不安定なまま。今は子どもたちを連れて実家に戻っています。

病院で目覚めてから、賢二は一度も妻子に会えていません。

事件の全貌とともに不倫の事実が公表され、義父の怒りを買ってしまったためでした。

小説は残り3ページ。

戦慄のラストまで、どうぞ、お見逃しのないよう……。

※以下、小説より一部抜粋

…………

義父からの連絡があったのは、退院後しばらく経ってからだった。

「ひとみが、どうしても家に帰ると言って聞かない。私としては、あんなことがあった家に帰すのはどうかと思うが、医者はひとみの好きなようにさせてやれと言うし、仕方がない」

「お義父さん――」

「しかし」

義父は、私にそう呼ぶことを許さない、と言った口調で遮った。

「私も妻も、まだ君に会うつもりはない」

退院後すぐに妻の実家を訪れ、その後も通い続けたが全て門前払いだった。

「これから連れて行く。ひとみは子どもも連れて行くと言って聞かないが、サチは熱をだして寝込んでいる。ユキだけ連れていく。君とひとみで話し合うといい」

まほうの家は、じっと私を待っていた。

この家を求めたことで、私は家族を失った。

寒さに耐えられないなら、どこか他所で暮らせばよかった。家族がいてくれさえすれば、どこでも、そこが我が家なのだから。

蜃気楼のような家を見つめながら、ふと、失ってはいないのかもしれない、そう思った。

これまでも、妻との齟齬を乗り越えてきた。もしかしたら、今度も乗り越えられるのかもしれない。妻が家に帰りたいと言ったのは、私と前向きに話し合う為なのかもしれない。

それに――ここで家族を守り生きることが、私にできる唯一の贖罪ではないか。

そうだ。共に生きていく。私達ならそれができる。期待を抱き、私は家に入った。

三和土には見慣れた妻の靴が揃えて置かれていた。もう帰っている。

リビングを進むと、ソファの向こうから揃えた足がのぞいていた。妻が床に座っているのだろう。

「ひとみ」

声をかけたが返事はない。

私はゆっくりと近づく。片側に崩した足が見え、次いで妻の後ろ姿が半分見える。

妻は顔を正面に向けていた。向き合うように、花を落とした椿がこちらを見ている。

前に回された腕の形からユキを抱いているのが分かった。

暗くなった家で灯りもつけず、ユキを抱いたまま放心した妻を見たのはいつだったか。

ふと、あの時の光景と重なった。

「ひとみ」

返事はない。私は妻の正面に向かおうとして思わず足を止めた。ぎくりとして体が硬直する。

ユキの顔は妻の腕に隠れて見えない。

妻の反対側の腕がだらりと床に投げ出されていた。その先に銀色に光るフォークが転がっていた。フォークの先に何かついている。赤い、液状の――。

突然、妻が振り返った。

「おかえりなさい」

妻の正面に回る。視界が霞む。これは夢だ、夢だ夢だ夢だ――夢でなければこんな――。

「これでもう見なくてすむよ。ね?」

こんなむごい――。

嬉しそうに笑う妻の腕に抱かれた娘は、もう二度とその瞳を開くことが叶わない姿になっていた。

――赤ちゃんの瞳って湖面みたいでしょう? なんでも映しだして――。

ユキは、その瞳を奪われていた。

 

私の求めたまほうの家。もしも本当に魔法があるとしたら、戻りたい。

戻りたい。

帰りたい。帰りたい。

<おわり>

感想

小説300余ページで十分に疲弊していた心に、とどめを刺すような結末でした。

これは確かに「イヤミス」では済まされません。

おぞましいミステリの略で「オゾミス」と銘打たれている作品ですが、それでもまだ表現が軽いと思います。

あの結末を読んだときの気持ちは「怖い」とも「おぞましい」とも少し違いました。

あの時の気持ちは、たとえるなら、冤罪で死刑宣告を受けた被告人のそれに近かったのではないかと思います。

理不尽さ。絶望。無力感。

あまりに救いのない光景に打ちのめされ、まるで感情のスイッチが切れてしまったかのように、わたしは何も考えられなくなり、その場所から動けずにいました。

ひとみにも賢二にも決して感情移入してはいけないと、心を守るシステムが作動して、一切の感情を緊急停止させていたのかもしれません。

それだけ破壊力のある惨(むご)たらしさが、あの結末には宿っていました。

ぱんだ
ぱんだ
そんなに……?

結末でひどいことが起こる、というのはもちろん承知していました。

単行本の帯には大きく「選考委員全員戦慄!」と印刷されています。

だから、わたしは半ば無意識のうちに「賢二に災いが降りかかるんじゃないか」と身構えていました。

  • 父親を手にかけたこと
  • 兄を病気に追い込んでしまったこと
  • 不倫していたこと

賢二には拭いきれない罪があります。

その報いを受けるのは、どんな惨事であれ、自然の摂理に適(かな)う展開であるように思われました。

しかし、ご承知のように、わたしの予感は最悪のカタチで外れてしまいます。

最も罪のないユキが損なわれてしまったこと。

良き妻であり良き母であったひとみに、とりかえしのつかない罪を背負わせてしまったこと。

たとえば「賢二の目が潰れる」といった直接的でわかりやすい因果応報に比べて、何百倍も嫌な気持ちになる(という言葉では表現できないほどの)ラストだったと思います。

底なし沼のように無慈悲で救いのない、心にべっとりとした黒い染みを残すような結末(小説)でした。

 

まとめ

今回は神津凛子『スイート・マイホーム』のあらすじネタバレ解説をお届けしました。

  • 霊ではなく人間が怖いホラーだった
  • 主人公には衝撃の過去があった

ホラーとしてもミステリとしても「濃い」内容で、正直、途中まででも十分に不安な気持ちにさせられたのですが、それを塗りつぶしてなお印象に残っているのはやっぱりあのラストです。

「『怖い』も『ゾッとする』も、ふりきれると逆に何も感じなくなるんだな」なんて他人事のように感じていたのは、きっとキャパシティをオーバーしてしまっていたのでしょう。

「イヤミス」のつもりで読むと、後悔するかもしれません。

それほどまでに真っ黒な気持ちにさせられる一冊でした。

ぱんだ
ぱんだ
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映画情報

キャスト

  • 窪田正孝(主演)

※監督は斎藤工さん

公開日

2023年公開

ぱんだ
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