五十嵐貴久『リターン』を読みました!
続々と映像化されている『リカ』シリーズの二作目で、時系列的にも素直に『リカ』の次に当たる物語です。
今度は誰が、どんなふうにリカの犠牲になってしまうのか……。
というわけで今回は小説『リターン』のあらすじがまるっとわかるネタバレ解説をお届けします!
あらすじ
高尾で発見された手足と顔がない死体は、十年前ストーカー・リカに拉致された本間だった。
警察官を殺し、雲隠れしていたリカを追い続けてきたコールドケース捜査班の尚美は、同僚の孝子と捜査に加わる。
捜査が難航する中、孝子の恋人、捜査一課の奥山の連絡が途絶えた。彼の自宅に向かった二人が発見したのは……。
『リカ』を超える衝撃の結末。
(文庫裏表紙のあらすじより)
前作ラストのまとめ
リカは菅原刑事が撃った銃弾に貫かれました。
胸と腹に一発ずつ。
救急車で搬送されましたが、死んでもおかしくない重傷です。
しかし、リカは信じられないことに救急隊員2名と警察官1名を殺し、救急車から逃げ出します。
彼女は本間隆雄を拉致し、そして……。
リカの足取りを追った菅原刑事が見つけたのは、本間隆雄だったパーツたちでした。
両手、両足、目、鼻、耳、舌、唇。
きれいに並べられたそれらは外科手術の要領で切除されていました。
生きたまま切り離された手足たち。
本間隆雄はきっとまだ生かされています。
なんのために?
動かず、何も言えなくなった本間は、リカにとって理想的な《恋人》でした。
狂った意識と妄想の中で、リカは「生きているだけ」の本間と幸せに暮らしていきます。
いつまでも、いつまでも……。
<リターンに続く>
↓あらすじだけでも超怖い1作目『リカ』
ネタバレ
今作の主人公は警視庁捜査一課コールドケース捜査班の梅本尚美です。
コールドケース捜査班というのは過去の未解決事件を取り扱う部署で、尚美はずっとリカ事件の捜査を担当していました。
あの惨劇から10年。
幻のように姿を消したリカは今も見つかっていません。
10年前、尚美は菅原刑事の直属の部下でした。
リカの狂気に当てられて精神を壊して廃人になってしまった菅原のためにも、尚美はリカを逮捕したいと執念を燃やしています。
本間隆雄の遺体が発見されたのは、警察にとってまたとないチャンスでした。
手がかりとしては頼りないものの、リカらしき目撃証言もあり、かの犯人が今も生きているのだと確認できたからです。
警視庁が立ち上げた捜査本部には、もちろん尚美も加わりました。
「男の名前は本間隆雄。十年前、2002年12月に行方不明になった人物だ」
捜査会議での報告によれば、本間は殺されたのではなく、喉に食べ物を詰まらせた、つまり事故死だったのだといいます。
※以下、小説より一部抜粋
…………
「リカは十年にわたって手足を切断されたこの男とともに生活していたのだ。
死体からは目がえぐられ、鼻、舌、耳も切断されていた。人間としての基本的な部分だ。
本人にとって生きているという感覚があったかどうかもわからないが、とにかくこの男は生きていた。
おそらくは毎日食事を与えられていたのだろう。
解剖の結果、栄養状態にはまったく問題がなかったということもわかった。同時に、体のどこにも異常は見られない。
生理的に見ればまったくの健康体だったということになる」
…………
この10年間、リカによる新たな被害者は出ていません。
本間という「恋人」がいたリカは満たされていて、新たな「狩り」をする必要がなかったからです。
ならば、本間が亡くなった今は?
リカはただの物体となった本間を無造作に山に捨てました。
リカは愛情なしには生きていけないバケモノです。
もうすでに次の「恋人」を探しているに違いない、と尚美は直感しました。
リカ、再び
ある日、尚美は親友で同期の青木孝子から相談を持ちかけられました。
「彼から連絡がないの」
孝子は捜査一課の奥山刑事との結婚を控えているのですが、その彼からの連絡が途絶えたのだといいます。
(たった数日連絡がないだけで、大げさな)
そう思いながらも、尚美は孝子と一緒に奥山の自宅へ向かいました。
合鍵を使って、部屋の中へ。
寝室まで進むと、案の定というべきか、奥山はベッドに横たわって寝ているようでした。
※以下、小説より一部抜粋
…………
孝子がひとつ大きなため息をついた。
「何寝てるのよ」
ベッドに近寄り、布団の上から男の肩を叩いた。
その瞬間、首だけがベッドから転がり落ちた。
何が起きたのか、わたしにはわからなかった。
ベッドから落ちた首がごろりと転がって、目の前で止まった。顔がこっちを向いている。
その顔には目がなかった。
目だけではない。鼻も、唇も、耳もなかった。
髪の毛がべっとりと血で濡れている。
わたしはそのまま崩れるように床に座り込んだ。顔から目が離せない。
男の顔をじっと見つめた。それは紛れもなく奥山刑事の残骸だった。
孝子が無言でベッドの布団をはいだ。横たわっていたのは首のない男の体だった。
両手、両足には手錠がかけられている。
そして体のすぐ脇に、眼球と鼻と唇と耳が置かれていた。
シーツは血で汚れていた。鼻をつく嫌な臭い。
…………
お察しの通り、明らかにリカによる犯行です。
奥山刑事は出会い系サイトを通じてリカを見つけ出していて、会うところまで漕ぎつけていました。
所詮は女一人と侮り、自分だけで逮捕するつもりでした。
しかし、リカを甘く見たのが運の尽きです。
異常を察したリカに先手を打たれ、奥山刑事は哀れ「解体」されてしまいました。
「……殺してやる」
孝子がつぶやいた。わたしは何も言えなかった。
目の前に転がっている奥山の首。
まるで子供がトンボの首をむしり取るように、リカは奥山の首を切断していた。
罠
尚美と孝子は捜査本部に無断で奥山の携帯電話を持ち出し、リカにメールを送りました。
『リカ。
久しぶりだね。元気にしてたかい? 二人でまた楽しい時間を過ごそう。返事を待っている。
たかお』
リカの専門家である尚美には、リカがもう安易な罠に引っ掛からないだろうと理解できています。
奥山の件で警戒心を強めたリカに、新しい別の男を装ってアプローチしても無駄です。
そこで尚美は亡くなった本間隆雄の名前を使ってリカを釣ることにしました。
「本田たかお(本間の偽名)という名前を見れば、頭ではなく心が反応する。抗することはできない。返事を書かないではいられなくなる。少なくとも確かめないではいられないはず」
「愛情の化け物ということね」
理性を飛び越えて本間が生きている可能性にすがりつくに違いない……リカの心理を読み切った一手でした。
尚美の作戦は成功。リカと高円寺駅のホームで待ち合わせることになります。
捜査本部にすべてを打ち明け、リカを待ち構える準備は万端。
あとはホームに降り立ったリカを捕まえるだけ……そのときでした。
駅のホームに滑り込んできた電車のなかに、尚美はリカの姿を見つけます。
しかし、鋭い嗅覚で罠を悟ったのか、リカはホームに降りてきません。
高円寺に駅のどの路線にいつリカが現れるかは予測できず、待ち構えるにも人数は不十分で、つまり今リカを目撃しているのは尚美ただ一人だけです。
(このまま逃げられるわけには……!)
気づいた時には、体が動いていました。
リカのいる電車の中へ、尚美は飛び込みます。
そして……
※以下、小説より一部抜粋
…………
「もしもし?」
孝子の声がした。わたしは混み合っている車内で携帯を顔に寄せた。
「リカを発見」
「何?」
「リカを発見」私は声を押し殺した。「中央線上り電車に乗っている。降りていない。わたしはその電車に乗った」
「何? 聞こえない」
「今、リカと一緒の車両にいる」わたしは呼びかけた。「聞こえる? リカと一緒にいる」
電車が動き出した。人で満杯になっている。動けない。リカはどこに。どこにいる。
その時、わたしの目の前でいきなり人波が割れた。リカが立っていた。
「見いつけた」
リカが無邪気に笑って、わたしを見た。わたしは携帯を握ったまま、立ち尽くしていた。
狂気
気がつくと、わたしは部屋にいた。狭い部屋だった。
首が動かない。目だけで左右を見た。椅子に縛り付けられているようだった。
リカを罠にかけるつもりが、罠にかかったのは尚美のほうでした。
リカは最初からメールが警察によるものだと気づいていて、その発信者を拉致するために高円寺駅に現れたのです。
しかし、なんのために?
その答えはすぐにわかりました。
「あなた、刑事よね。刑事なら知ってるでしょ。たかおさんはどこ?」
いくら「本間隆雄は死んだ」と言い聞かせても無駄でした。
リカはもちろんそんなことは知っているのです。
知っていて、その上で「本間隆雄は警察に保護されている」と信じ込んでいるのです。
「たかおさんが死んだなんて嘘。たかおさんが死ぬなんてありえない。たかおさんは死なない。死んだりしない。ずっとリカと一緒にいてくれる。そう約束した」
リカが一歩、こちらへ近づいてきます。
手にはメスが握られていました。
※以下、小説より一部抜粋
…………
「本当のことを言わないと、目玉にこのメスを刺す」
誰か助けて。この女は本気だ。本気で言った通りにする。最悪の事態が訪れる前に、誰か助けて。
メスが近づいてきた。右だ。右目を狙っている。メスがぼやける。焦点が合わない。お願い、やめて。誰か。この女を止めて。
「本当のことを言って。たかおさんはどこにいる?」
「だから、墓地にいると――」
次の瞬間、何の警告もなしに、メスが刺さった。
熱い。熱した鉄の棒のようだ。鉄の棒がわたしの目を切り裂いている。
頬を何かぬらぬらしたものが伝った。血なのだろう、とわかるまで数秒かかった。
メスが動いている。わたしの右目を何度も突き刺してはえぐっていく。
メスが引かれた。わたしの右目はもう視力を失っていた。
その時、わたしの左目が何かを視界に入れた。リカの手元。メス。その先に丸い塊があった。
白と赤のグラデーション。ぬるぬるの肉塊。見たくない。見れば、何かを認めてしまうことになる。
だがわたしは見つめた。メスの先についていたのは眼球だった。わたしの右目。信じられない。そんなことが。
わたしの喉から何かがこみあげてきた。口に溢れる。嘔吐。黄色い胃液が口から飛び散った。
結末
普通なら「手を挙げろ!」と寸前で助けが入りそうなところですが、尚美は容赦なく目をえぐられてしまいました。
しかも、目を奪ったからといって、リカの気が収まるわけでもありません。
「最後に聞く。たかおさんはどこ? 答えて」
リカからの最後通牒。
尚美は絶望とともに悟っていました。
(何を答えても無駄だ。リカはわたしを殺す。もう誰にも止められない)
「知らねえよ、そんなこと。お前のたかおさんは死んだ」
いよいよもう後がありません。
リカが尚美に手を伸ばした、その時でした。
※以下、小説より一部抜粋
…………
いきなりドアが開いた。孝子が立っていた。リカが振り向く。孝子は既に拳銃を構えていた。
「尚美」
孝子が叫んだ。一瞬わたしを見る。すべてを悟ったようだった。
リカの口から咆哮が漏れた。追いつめられた獣のような叫び。そのまま孝子の方に突っ込んでいく。
(中略)
孝子の方が素早かった。リカの顔面に銃を押し当て、そのまま引き金を引いた。
リカの左目に穴が開いた。崩れるように座り込む。
その上に乗った孝子が、リカの顔に銃口を当て、続けざまに二発撃った。大きな音。リカは動かない。
孝子は冷静だった。銃身に、新しい弾丸を装填する。六発の弾を込め、そのままリカの顔面に銃口を当てる。続けて六度引き金を引いた。凄まじい音がした。
孝子が一歩下がった。リカは動かない。顔中を血で汚して倒れている。
孝子がリカの首筋に触れた。
「死んだ」
つぶやきが漏れた。
(中略)
「リカは……死んだのね」
「ホラー映画のモンスターじゃない。リカは現実に生きている人間よ。全部で十二発。頭部には六発。それで死ななかったらもうお手上げ」
行こう、と孝子がわたしの腕を自分の肩に回した。
寄りかかりながら、わたしはドアに向かって歩いた。
目眩がする。出血のせいだ。今頃になって震えが来た。全身に悪寒が走る。
わたしは死ぬところだった。リカに殺されるはずだった。右目ひとつで済んだのは、もしかしたら運がよかったのかもしれない。
「リカは死んだ」わたしはつぶやいた。「すべてが終わった」
エピローグ
孝子の言うとおり、さすがのリカも頭を六発も撃ち抜かれては生きてはいられません。
リカの死亡によって、10年越しの「リカ事件」は幕を閉じます。
しかし、ある意味、本当の恐怖はここからです。
エピローグでは、尚美が菅原刑事に「リカを倒した」と報告するシーンが描かれていました。
仇を討ったとはいえ、それで簡単に菅原の意識が戻るような奇跡は起きりません。
尚美もそのことは重々わかっています。
菅原刑事の入院から10年。
医師によれば、そろそろ入院費も底を突きかけているのだといいます。
尚美にとって菅原は恩師であり、父親にも等しい存在です。
異例なことではありますが、尚美は「自分が菅原を引き取る」と主張しました。
さて、ここからが『リターン』の本当の結末です。
※以下、小説より一部抜粋
…………
「わたしが菅原さんを引き取ります」
構いませんね、と言った。それは、と酒井(医師)が戸惑ったような声を上げた。
「あなたは菅原さんと血縁関係があるわけではない。そんなことが可能かどうか……」
「血縁者の方とはわたしが話します」わたしは言った。「了解が取れれば問題はないでしょう。病院としても納得してもらえますね」
「ちょっと……事務の人間と話します。待っていてもらえますか」
酒井が病室を出ていった。
わたしはベッドの上の彼を見つめた。体の奥から笑いが広がっていくのを感じた。
彼が意識を取り戻すことはないだろう。無反応のまま生きていくだけだ。
わたしがすべて世話をする。食事を与え、排泄の面倒を見る。入浴もさせよう。
彼を完全な形で自分の物にするのだ。
一緒に暮らす。たくさん話しかけよう。何を話しても、彼はじっと聞いてくれる。それで十分だ。
愛していると伝えよう。彼は受け入れてくれる。
わたしたちは愛し合える。愛とは、そういうことを言うのだ。
わたしはベッドに近づき、彼の手に触れた。温かかった。頬ずりをした。動かない。彼は黙ったまま座っている。
帰りましょう、と言った。わたしたちの家に帰ろう。
彼が微笑んでいると思ったのは、わたしの思い込みだっただろうか。
いや、違う。彼にはわかったのだ。これから幸せな日々が待っていることを感じている。間違いなかった。
「ただしさん」
わたしは下の名前で呼びかけた。愛しあう者同士なら、そう呼ぶだろう。ただしさん、と繰り返した。
「愛してるわ」
扉の向こうで足音が聞こえた。ただしを胸に抱きよせ、扉が開くのを待った。
これ以上ない幸福をわたしは感じていた。
<完>
補足
最後は尚美がリカのようになっていました。
まるでリカの狂気が伝染したかのような、薄気味悪いラストでしたね。
わたしが読んだ限りだと特に伏線もなかったので「急に!?」とビックリしましたが、ゾッとする幕切れだったことは確かです。
五十嵐貴久『リターン』を読みました❗️
怖すぎた『リカ』の結末から10年後
再び動き出したリカの、今度の標的は……?
不穏と狂気に満ちたシリーズ2作目😱
6月公開の映画版「リカ」の原作でもあります
⬇️小説のあらすじhttps://t.co/h57dvkcqLJ
— わかたけ@読んでネタバレ (@wakatake_panda) March 31, 2021
まとめ
今回は五十嵐貴久『リターン』のあらすじネタバレをお届けしました!
正直、シリーズの中では(比較的)怖さ控えめな作品だと思います。
何といっても一作目の『リカ』は初めましてなこともあってインパクトがすごかったですし、不気味さでいえば三作目の『リバース』がイチオシです。
ただ、ラストで尚美が「リカ化」していたのにはさすがの気持ち悪さ(褒め言葉)がありました。
いったい尚美はいつから、そして何故「リカ化」してしまったのでしょうか?
そんな考察をしながらもう一度読んでみると、1周目とはまた違ったおもしろさがありそうですね。
映画情報
予告動画
キャスト
キャスト | 役名 |
高岡早紀 | 雨宮リカ |
佐々木希 | 梅本尚美 |
市原隼人 | 奥山次郎 |
内田理央 | 青木孝子 |
公開日
映画「リカ 自称28歳の純愛モンスター」は2021年6月18日公開!
※ストーリーの原作は『リバース』
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