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『交換ウソ日記』あらすじネタバレ解説|櫻いいよ【映画原作小説】

櫻いいよ『交換ウソ日記』を読みました。

すれ違いがもどかしい恋愛小説。今どき交換日記という甘酸っぱさもありつつ、そこに決定的な《ウソ》が積み重なっていくことで、事態はどんどんややこしくなっていきます。

物語終盤、ついに《ウソ》が発覚するとき、ふたりの関係はどうなるのか――?

今回は小説『交換ウソ日記』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

好きだ――。

高2の希美は、移動教室の机の中で、ただひと言、そう書かれた手紙を見つける。

送り主は、学校で人気の瀬戸山くんだった。

同学年だけどクラスも違うふたり。希美は彼を知っているが、彼が希美のことを知っている可能性は限りなく低いはずだ。

イタズラかなと戸惑いつつも、返事を靴箱に入れた希美。その日から、ふたりの交換日記が始まるが、事態は思いもよらぬ展開を辿っていって……。

予想外の結末は圧巻! 感動の涙が止まらない!

(文庫裏表紙のあらすじより)

ラブレター

『好きだ』ルーズリーフの切れ端に書かれた、たった三文字のラブレター。

瀬戸山くんから告白されたという状況に、希美は喜ぶよりもまず混乱しました。

人気者の瀬戸山がどうしてわたしなんかに? というか、いままで話したこともなかったはずだよね? もしかしてイタズラ?

文系の希美は週に一度だけ、選択科目である数学の授業のために、理系クラスを訪れます。そこは理系である瀬戸山くんの教室で、希美は瀬戸山くんの席にいつも座っていました。

そうして、机のなかにセロテープで貼られた手紙を見つけたという次第です。

ともかく、告白されたからには返事をしないといけません。

瀬戸山くんと付き合ったらきっと注目の的になるでしょう。周りの目を気にしすぎる希美には耐えられない状況です。それに、元カレからフラれた苦い記憶もまだ風化していません。

悩んだ末、希美は返事をしたためました。

『ありがとうございます』

角が立たないよう、遠回しに断ったつもりでした。しかし――。

『それ、どういう意味?』

伝わらなかったのか、それともすぐには諦められないほど好きでいてくれているのか、瀬戸山くんから再度のメッセージが届きます。

そうして、希美と瀬戸山くんとの交換日記がはじまりました。

希美は押しに弱いというか、NOといえない性格です。「俺のことを知ってほしい」「友達からでもいいから」と強く押された結果、断れなくなってしまったのです。

ともあれ、人気者の瀬戸山くんに好かれて悪い気はしません。

手紙の文面からは瀬戸山くんのまっすぐさや、意外な可愛らしさなんかも伝わってきました。

『前からずっと気になってた。自分を持っていてかっこいいなって。っていうか俺、気持ち悪いな』

希美はいつのまにか自然と瀬戸山くんの姿を目で追うようになっている自分に気づきます。

グラウンドをちらっと見ただけで、瀬戸山くんをすぐに見つけることができた。理系コースの男の子達の中で、彼が一番動き回っている。それに、なんとなくうまい、気がする。さっきもシュートを決めていた。

ただ、希美にはひとつ、気になっていることがありました。

『好きだ』と書かれた最初の手紙には、宛名がなかったのです。

※以下、小説より一部抜粋

…………

『ちょっと気になったんだけど、わたしの名前、知ってる?』

瀬戸山くんはその日のうちに返事をくれた。

『名前くらい知ってるよ(笑) 松本 江里乃だろ?』

ぱんだ
ぱんだ
え、誰!?


勘違い

江里乃は希美の親友です。生徒会の副会長で、いつも堂々としている目立つタイプの美人。告白されることもしばしばで、なるほど瀬戸山くんの隣に立てばお似合いのように思われます。

それでは、なぜ江里乃宛ての手紙が希美に届いてしまったのでしょうか?

その答えは希美たちが移動教室で受けている数学の授業の、終わったあとの場面を想像してみるとわかります。

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと?

希美は放送委員で、授業が終わるとお昼の放送のためにすぐ放送室に向かいます。

江里乃はいつもそんな希美の荷物(教科書やノート)をまとめて、教室まで持って帰ってくれていました。

だから瀬戸山くんは自分の席には江里乃が座っているのだと勘違いしたのです。

瀬戸山くんが自分の教室に戻ってきたとき、希美はすでに放送室に向かっていて、彼の席には江里乃がいた、という状況だったわけですね。

ぱんだ
ぱんだ
なるほどね

思えば、瀬戸山君からの手紙にはいくつか違和感がありました。

『自分を持っていてかっこいいなって』

まさに江里乃にぴったりなこの褒め言葉は、希美にはぜんぜん当てはまりません。

希美は周りに気を遣ってばかりいて、いつも自分の意見を言いません。良くいえば《おひとよし》、悪くいえば八方美人。江里乃とは正反対の性格です。

ぱんだ
ぱんだ
そっかー

もうひとつ、違和感の例を挙げましょう、

瀬戸山くんとのやりとりは一冊のノートを渡しあう交換日記方式になっていたのですが、瀬戸山くんから希美に渡すときは、放送室の前に設置されたリクエストボックスに入れるようにお願いしていました。

そのことについてのやりとりがこちらです。

…………

(瀬戸山)『放送委員のやつに見られねえの?』

(希美)『放送委員以外は見ないから大丈夫だよ』

(瀬戸山)『放送委員には見られるんだ(笑) ダメだろ、それ』

…………

うーん……会話が絶妙に噛み合っていません。

はたから見れば「あれ?」と首をひねりそうなものですが、なにせ希美は降ってわいた瀬戸山くんとの接点に舞い上がっていました。恋は盲目ということで、希美が違和感に気づかないのも仕方がなかったのかもしれません。

葛藤

希美は瀬戸山くんに真実を告げるべきか悩みます。

『ごめんなさい、勘違いしていました。わたしは江里乃ではありません』

そうやってちゃんと伝えるべきだということくらい、希美にもわかっていました。

けれど、明らかに交換日記を楽しみにしている瀬戸山くんの様子を見て、希美の決心はぐらぐらと揺らいでしまいます。

※以下、小説より一部抜粋

…………

『勘違いでした』とか伝えたら、彼はどんな顔になるんだろう。

焦る彼。頬を染める彼。気になって仕方がなくて、返事を待っていられずにソワソワしている彼。わたしが真実を暴露したら、これらが全部なくなって、歪んだ顔になってしまうのかもしれない。

そう思うと、胸がひどく痛んだ。

笑顔でいてほしい。喜んでいてほしい。素直な人だからこそ、傷付いた顔より笑っていてほしい。そっちのほうが、きっと彼には似合う。

ここで、ちゃんと言わないなんて間違っているのは、わかっている。でも……


交換ウソ日記

希美は交換日記を終わらせることができませんでした。

瀬戸山くんを落胆させてしまうと思うと、どうしても言い出せなかったのです。

江里乃のフリをして交換日記を書く日々が始まりました。

「こんな嘘、長くは続かないの、わかってるのになぁ……」

希美が最初に思い浮かべたのは「江里乃が瀬戸山くんを好きになってくれたらいいのになぁ」ということでした。

江里乃にはいま彼氏がいません。本人は、

「好きな人はいないなあ。誰か告白してくれたら付き合うんだけどなあ」

と言っていました。

希美は思います。

わたしが瀬戸山くんに全てを告げて、瀬戸山くんが改めて江里乃に告白すればふたりはめでたく付き合うことになるんじゃないだろうか。すごく簡単だ。わたしが今すぐに交換日記で謝ればいいだけだ。

そう思いながらも、希美はなかなか行動に移せません。

交換日記のおかげで、希美は今まで知らなかった瀬戸山くんのいろんな側面を垣間見ることができました。

実は甘党なこと。小学四年生の妹がいること。犬と猫を飼ってること。サッカーが大好きなこと。英語が苦手なこと。

瀬戸山くんがデスメタルを聞くと知ったときには驚きました。希美もまたデスメタルが大好きで、でも友達には理解されなくて、同じ趣味の同級生に出会ったのがはじめてだったからです。

いつしか希美は、交換日記を楽しみにするようになっていました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

やりとりを始めて、そこそこの日が過ぎた。どれも短いやりとりだけれど、ほぼ毎日このノートはわたしと瀬戸山くんの間を行ったり来たりしている。

交換日記は半分くらい埋まった。

初めはお互いに気を使いながら話していた気がするけれど、最近は随分と砕けた口調になり、会話も自然になってきた。

いつかは終わらせなければいけないこの交換日記。それを、楽しんでいる自分がいる。そして、終わりを想像すると、少し寂しくなる。

知らなかった人を知っていくのが、こんなに楽しくて嬉しいものだったなんて。

(中略)

本当のことを伝えたら、瀬戸山くんとの交換日記は終わりになる。しかも、わたしは瀬戸山くんに嫌われるんだ。

無意識のうちにポケットの中の(小さな)交換日記に服の上から触れていた。説明できない、言葉にできない複雑な感情が込み上げてきて、涙が出そうになった。

(中略)

思った以上に素直で、思った以上によく笑う、そして、とても優しい人。ちょっと前までわたしには縁のない人だと思っていたのに、関りを持つだけでこんなにも印象が変わっていく。

もっと、話をしてみたい。瀬戸山くんのあの素直さに触れて、笑っていたい。


好き

希美は自覚のないまま、瀬戸山くんに惹かれていきます。

交換日記のやりとりだけではありません。瀬戸山くんとはなにかと接点が増えていて、会うたびに誰に対しても分け隔てのない彼の距離感にドキドキさせられていました。

一歩わたしに近付いて、ぽんっと頭のお団子に手をのせた。大きな手が、わたしのお団子をふんわりと包み込むのが、わかる。感じるはずのないぬくもりが全身に伝わってきて、わたしは全身が固まったかのように動けなかった。

一冊目のノートが埋まる頃、学校では試験の時期が近づいてきていました。

希美の得意科目は英語。瀬戸山くんに頼まれて、なんと英語を教えることになってしまいます。

勉強会の会場は、なんと瀬戸山くんの家!

緊張しながらついていくと、瀬戸山くんの元気な妹と、車椅子に乗ったおばあちゃん、トラ柄の猫が迎えてくれました。

…………

「これは猫のジョー」

「すっごい可愛いねーいいなあ。そういえば猫と犬がいるんだっけ?」

「……あぁ……犬は庭にいるよ。ハスキーで名前はラリー」

…………

時間はあっというまに過ぎていきました。瀬戸山くんからは希美の苦手な数学を逆に教わって、有意義な勉強会になりました。そろそろ帰る時間です。

すると瀬戸山くんがあっけらかんと「明日も来るだろ?」なんて言うので、希美は思わず固まってしまいました。

「なにその顔。そりゃそうだろ、一日で赤点を免れるほど俺、頭よくねえよ。お前も数学あのレベルじゃ無理だろ」

帰り道。冷たい風が吹くバス停。瀬戸山くんは送ってくれていて、希美と一緒にバスを待っています。

瀬戸山くんの家には妹とおばあちゃんしかいませんでした。瀬戸山くんがそのためにサッカー部を辞めなくてはならなかったことを、希美は知っています。

「夜に美久(妹)とばーちゃんだけにしてらんねーしなあ。ばーちゃんはあんな体だし、なんかあったとき、美久だけじゃ心配だしな。土日は親父がいるからいいんだけど、平日はなー」

※以下、小説より一部抜粋

…………

「俺、我慢大嫌いで、思ったこと全部口にするし、やりたいようにやりてえから、部活辞めるときも、すっげえ嫌だった」

瀬戸山くんの話に、黙って耳を傾ける。

「親父と喧嘩しまくったんだけど、そのときばーちゃんが俺をかばったんだよ。あの体で。美久は気を使い始めるし。あいつだって友達と放課後遊びたいはずなのに毎日直帰してさ。で、半分自暴自棄になって辞めたんだ。もう諦めはついてるけど、なんで、俺が我慢しなきゃいけねえんだって、やっぱり時々思っちゃうんだよな」

そして、わたしのほうを向く。街灯が彼の顔を照らしていて、ああ、なんだか、綺麗だなあと思った。

「そんなとき、お前が、今は無理かもしれないけど、またやれるよって言ったから。すっげえ楽になった」

ふっと息を吐くように笑う。

そんなふうにわたしの言葉を受け止めてくれたのかと思うと、胸が熱くなる。

「ほら、みんなは続ける方法を考えてくれたり、残念がったりするわけだろ。俺もそう思うから我慢してる気分だったけど、そうでもねえなあって。プロになりたいわけじゃないし、全国大会目指すほど強いわけでもねえし、またいつか楽しめばいいかーって」

いつもの笑顔をわたしに向ける。

そんな笑顔を向けないで。わたしはそんなにすごいことを言ったわけじゃない。曖昧な言葉しか口にできないだけ。

そう思うのに、笑顔の瀬戸山くんから目が離せなくなる。そして、瀬戸山くんもわたしから目を逸らさなかった。

(中略)

バスにひとりで乗り込んで、一番後ろの窓際に座る。窓の外の瀬戸山くんが、わたしに気付いて軽く手を上げた。

まだ胸がうるさいほど高鳴っている。さっきの瀬戸山くんの笑顔が脳裏に焼き付いていて、思い出すたびに心拍数が跳ね上がった。

頬が熱い。

顔が、熱い。

どうしよう。駄目なのに、意味ないのに、無駄なのに。

バスが走り出してしばらくすると、携帯にメールが届いた。『また明日』という短いメールに、嬉しくて、苦しくなる。

……わたし、瀬戸山くんが好きだ。

<すぐ下のネタバレにつづく>


ネタバレ

毎日の勉強会で、希美と瀬戸山くんとの距離はさらに縮まっていきます。

希美がそうであったように、瀬戸山くんもまた《自分とは違う》希美の考え方を尊敬してくれているようでした。

ふたりの間にはとてもいい雰囲気が漂っていました。そして、そのために事件は起こります。

ぱんだ
ぱんだ
え?

希美は一瞬、なにが起こったのか理解できませんでした。

瀬戸山くんが希美の髪に指を絡ませていて……次第に彼の顔が近づいてきて……そして……。

唇に、温かい、なんとも言えないなにか、が触れた。

※以下、小説より一部抜粋

…………

名残惜しい気持ちで緩やかに瞼を持ち上げると、目の前で瀬戸山くんがわたしを見ていた。ほんのりと、頬を赤く染めている。さっきはなにも見えなかった。多分、彼の顔が近すぎたんだろう。

――ってことは。

一気に頭の中がクリアになって、ぱっと唇を手で覆った。

「な、な……なん、で」

「っあ……、いや、あの」

わたしのパニックぶりを見て、瀬戸山くんも、はっと我に返ったような顔をして、手を離した。

「わ、り……つい……」

わたしと同じように口元を手で隠しながら呟く。

つい、ってなに? 『つい』キスしたってこと?

目の前が真っ白になって、熱が一気にすうっと引いていく。唇が小刻みに震え出して、ぎゅっと奥歯を噛んだ。泣くな。泣いたら駄目だ。

(中略)

なんで、キスなんてしたの?

『つい』なんて……ひどい。

あんなふうに、目を逸らして気まずそうにするなら、しないでほしい。江里乃のことが好きなくせに、わたしのことを好きでもないのに、『つい』キスするような、いい加減な人だったなんて。

バス停に着くと、ちょうどいいタイミングでバスがやってきて、逃げるように駆け込んだ。

一番後ろの座席に座り、乱れる息を整えようとするとぼろりと涙が零れる。ひとりになった途端に、堰を切ったように溢れ出して、それを止めようとも思わなかった。

真っ直ぐにわたしを見る、瀬戸山くんの瞳。優しい微笑みと、わたしにくれた、嬉しい言葉。そして、触れた唇。

全てを忘れてなかったことにしたくて、自分の唇をゴシゴシとこすった。こんな感覚、消えてなくなればいい。

最低最悪だ。江里乃のことを純粋に好きなのだと思っていたのに。

あの手紙のように、嘘偽りなく、素直に、真っ直ぐに、江里乃を想っていると思っていたのに。

きっと、他の女の子にもこんなことしているんだ。だから、その気にさせるようなことばかりするんだ。勘違いして浮かれて、バカみたいだ。

瀬戸山くんは、『わたし』にキスしたわけじゃない。『その場にいた』からキスをした。

それが、悲しいよりも、悔しい。怒りよりも、苦しい。

 

なんで、江里乃が好きなのに、キスしたの?

なんで、江里乃が好きなの?

なんで、わたしじゃないの?

 

ポケットの中で携帯が震えて、鼻をすすりながら確認する。瀬戸山くんの名前に、一瞬体が震えた。小さく深呼吸をしてから、涙を拭い開封する。そこには、短い文章が添えられていた。

『ホント、ごめん。ホントに、ごめん』

そんなに謝らないで。余計に虚しくなるから。


告白【前編】

それからの希美は失恋したかのように落ち込んでしまいました。

いっそ本当に瀬戸山くんのことを嫌いになれたらよかったのに、そうそう簡単に気持ちは変わってくれません。

そんな状態ですから、江里乃のフリをして交換日記を書くなんてとてもじゃないけど無理で、ノートはずっと希美の手元に留まっています。

ふと、放送室のリクエストボックスを見てみると、瀬戸山くんからの手紙が届いていました。

『もういい加減気になるから言うわ  お前、誰?』

どうやら瀬戸山くんは交換日記の相手が江里乃ではないことに気づいたようです。

なんで? どうして? いくら考えてみても答えは出ません。

悩みに悩んだ末、希美はようやく結論に至ります。

嘘をつき続けるよりも、今、嫌われたほうがいい。これ以上嘘をついたり、誤魔化していたりしていると、自分のことを大嫌いになってしまう。

決して自暴自棄になっているわけではありません。希美はあれから時間をかけて気持ちを整理して、やっぱり瀬戸山くんのことが好きだという本心と向き合っています。

唇にそっと触れると、瀬戸山くんとのキスが蘇る。どんな理由があっても、あのキスはわたしにとっては本物だ。そう思うと、あの日が宝物のような気がしてくる。うん……わたし、嬉しかったんだ。

希美は机の中からレターセットを取り出してペンを握りしめました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

ごめんなさい。

ずっと嘘をついていてごめんなさい。

手紙を最初に受け取って返事をしたあとに江里乃宛てだと知って、言いだせなくて……、

今まで交換日記を続けてしまいました。

 

ずっとやりとりしていたのはわたし、黒田希美でした。

謝っても許してもらえないと思うけど本当にごめんなさい。

 

交換日記、楽しかったです。

嘘ばっかりだったけど、それでも、楽しくて……

瀬戸山くんと仲よくなって余計に言い出せなくなってしまって

 

嫌われたくなくて嘘ついてごめんなさい。

楽しかったです。

 

今度は江里乃にちゃんと瀬戸山くんの気持ちが伝わることを応援しています。

 

ありがとう。ごめんなさい。

黒田希美


告白【後編】

「っ黒田あぁぁぁぁああっ!」

放課後になるなり叫びながら教室に飛び込んできた瀬戸山くんは、怒りの形相で希美を睨みつけていました。

手には希美が出した手紙が握られています。交換日記が嘘だったと知って憤慨しているのだと、希美にはすぐにわかりました。

怒られても仕方ない。怒られて当然のことを、わたしはしたんだ。

瀬戸山くんは鋭い視線を逸らすことなく、まっすぐに希美の机まで歩いてきます。

「お前、これ、どういうこと?」

※以下、小説より一部抜粋

…………

「……それが、あの、本当の……こと……です……」

「これが? お前さー、ホンットいい加減にしろよ?」

冷たい視線が頭上から突き刺さる。

「ごめんなさい」と口に出して、頭を下げようと思ったとき、ビリッと紙を破る音が聞こえた。手紙をビリビリに破り、小さくなった手紙の欠片をひらひらとわたしの目の前に落とした。

「ご、め……」

泣くな。

泣いちゃ駄目だ。

そう思っているのに、堪えきれず涙がじわじわと溢れてきて、声が震える。

教室にいるクラスメイト達は誰も言葉を発しようとはせずに、固唾を飲んでわたしと瀬戸山くんを見つめていた。

「もー無理。お前に合わせてらんねえ。付き合いきれねえ。なに勝手に終わらせてんだよ! なんのために、お前に言わせるようにしたと思ってんだ!」

怒鳴り声に、ビクリと体を震わせて目を瞑った。縮こまりながら彼の言葉を反芻して、ん、と首をひねる。

「お前、俺が気付いてねえと、本気で思ってんのか! とっくに気付いてんだよ。っていうか、お前、嘘が下手くそなんだよ。ごっちゃごちゃじゃねえか。気付かないフリしてたんだよ、バーカ!」

「な、なん、で……」

ど、どういうこと? 意味が、よくわからないんだけど。瀬戸山くんは、わたしが交換日記の相手だったって、わかっていたってこと? じゃあどうして、知らないフリしてわたしと話をしてくれていたの? なんで、交換日記をやめようとしなかったの?

頭が混乱して、言葉が出てこない。

 

「俺が、お前のこと好きだって、なんで気付かねえんだよ!」

 

さっきまで静寂に包まれていた教室から突如「えーっ!」とか「マジで!?」という声がどっと上がって、一気に騒がしくなった。そばにいた江里乃達も「ちょっとー!」と興奮気味にわたしの体をバシバシと叩く。

ちょっと待って。意味がわからない。瀬戸山くんがわたしのことを……好き?

いつまで経ってもなにも言わずポカーンとバカみたいに口を開けているわたしを見て、瀬戸山くんが、眉根を寄せてちっと舌打ちをした。

「っわ!」

そして、ぐいっとわたしの肩を掴んで、無理やり立ち上がらせた。

「最後まで、手紙で終わらせんじゃねえよ! しかも、なんだよ応援するって。嘘ばっかじゃねえか。こんなもんいるか! なんで嘘ついたんだよ、なんで言えなかったんだよ、理由がちゃんとあるだろうが。本当のことを言えよ!」

間近にある、瀬戸山くんの顔。真剣で、必死なその目に、吸い込まれるかと思った。

なんでこんな展開になっているのか、わからない。けれど、好きだと言われた言葉が、体中に染み込み広がってきて、胸が熱くなる。

「言えよ、ちゃんと。聞くから、聞かせろよ」

わたしの腕をしっかりと強く掴みながら、目の前の瀬戸山くんがちょっと泣きそうな顔で、言った。

 

「好き、です……」

 

頭で考えるよりも先に、本音が零れた。

「……本当は……応援なんて、できない。好きだから、言え、なかった」

涙が言葉と一緒に溢れ出る。

瀬戸山くんはわたしを見て、はーっと深い溜息をついてから、わたしのお団子に手を置いた。

「よくできました」

そして、目を細めて、にっこりと微笑んでくれた。今まで見た瀬戸山くんの笑顔で、とびきり優しくてあたたかな、微笑み。

そして、その瞬間、教室や廊下から拍手が沸き起こった。

(中略)

「じゃ、帰るか」

ひととおりみんなの歓声にお礼をすると、瀬戸山くんはくるりとわたしのほうに振り返り、手をぎゅっと握った。

これ、夢なんじゃないかな。だって、こんなの、想像もしてなかった。クラスはおろか他の生徒にまで注目されてしまい、恥ずかしくて倒れそうだけど、それ以上に幸福感が勝る。そんな状況、絶対嫌だって思っていたのに。

嬉しくて、また涙が出そうになり、わたしの手を引いて歩き出す瀬戸山くんの背中を見ながら涙を拭った。


結末

そんなわけで大団円です。

希美は嘘をつき通しているつもりでしたが、実のところ何度も何度も失言していました。

たとえば、瀬戸山くんの家に初めてお邪魔した日の会話を思い出してみてください。

「そういえば猫と犬がいるんだっけ?」

瀬戸山くんにしてみれば「なんで知ってるの?」って感じです。

確かに瀬戸山くんはペットのことを交換日記に書きました。だから江里乃がそう言ったのなら驚くに値しません。でも、希美が知っているのは明らかに変です。

他にも「デスメタルが好きなのは江里乃」という設定をうっかり忘れて自分のこととして話してしまっていたり、そりゃあ瀬戸山くんだって気づきます。

「お前、あれで隠してたつもりなのがすげえよな」

考えてみれば……というか考えるまでもなく、勉強のためとはいえ毎日家に招いている時点で瀬戸山くんの気持ちは明らかでした。

それならどうしてすぐに告白しなかったのかというと……

「お前は、俺が好きなのは松本だって思ってるから、俺が突然『お前が好きだ』って言っても信じねえだろ」

瀬戸山くんは希美ほど鈍感ではありません。希美と両想いなのはわかっていました。でも、交換日記の経緯があるので告白しても信じてもらえないかもしれない。

そこで瀬戸山くんは一計を案じます。

「お前から言わせたらいいんじゃねえかなって思ったんだよ。(中略)まさか、お前がこんなに鈍いとは」

ふたりの思惑はすれちがっていて、でも最後は瀬戸山くんが公開告白で強引に軌道修正したという次第です。

ぱんだ
ぱんだ
ところでさ……

はい。もしかしたらあなたはこう思っているかもしれません。

「瀬戸山くんは江里乃が好きなんじゃなかったの?」と。

ぱんだ
ぱんだ
うんうん

では、そもそも瀬戸山くんが江里乃を好きになったきっかけはなんだったのでしょうか?

答えは「机のコメント」です。

ぱんだ
ぱんだ
なにそれ

瀬戸山くんが家庭の事情でサッカー部を辞めたことはもうご存じですね。それを不満に思っていた瀬戸山くんは「なんで我慢しなきゃなんねーんだよ」と自分の机に落書きしていました。

ある日、瀬戸山くんは落書きにコメントが寄せられていることに気づきます。

『いつかまた、思う存分できるといいね』

そのたった一言に、瀬戸山くんは救われました。

コメントが選択授業の間に書かれたものだと推測した瀬戸山くんは、誰が自分の席に座っていたのか確認します。

彼の目に飛び込んできたのは、授業終わりに希美の荷物を片付けている江里乃の姿でした。

これが瀬戸山くんが江里乃を好きになった経緯です。

でも、本当に机のコメントを書いたのは希美だったわけで……。

ある意味、瀬戸山くんが好きだったのは最初から希美だったと言ってもいいでしょう。

机のコメントを書いたのが希美だということに、瀬戸山くんは遅れて気づきます。

でも、だから希美のことを好きになった、というわけじゃありません。

瀬戸山くんは言います。

「最初の手紙が松本に渡っていたとしても、俺、結局は多分、お前を好きになってたと思うよ。机のあのコメントがお前じゃなかったとしても」

瀬戸山くんが好きになったのは、ありのままの希美でした。

周りの人の気持ちに寄りそえる、どこまでも優しい希美でした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「結果的には、黒田があの手紙を受け取ってくれて、交換日記を続けてくれて、よかった。そう思えるくらい、今、お前のことすげえ好きだよ」

瀬戸山くんは、間違いなく、《わたし》を見てくれている。

その瞬間、またぶわっと涙が溢れた。

瀬戸山くんのたくさんの言葉が、わたしの中に染み渡っていく。

付き合うことに不安が全くないかといえば噓になる。でもそんなことよりも、もう好きな気持ちを隠さなくてもいいんだ、ああ、もうわたし、瀬戸山くんに、好きって言ってもいいんだ。自分に嘘を、つかなくていいんだ、本当の気持ちを、伝えてもいいんだ。

改めてそう思うと、すごく幸せな気分になった。

「ん」

差し出された手を、しっかりと握り返し、瀬戸山くんを涙いっぱいの瞳で見つめる。

「わたし、瀬戸山くんが、好き」

泣きながら思い切り笑って気持ちを口にしたら、瀬戸山くんは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 

わたしも、今までの交換日記も、嘘ばかりだと思っていた。

だけど、瀬戸山くんは見つけてくれた。わたしを、見つけ出してくれた、

交わした言葉も、残した文字も。ごめんね、本当は全部嘘だった。

だけど、嘘ばかりだと思っていた中にも、わたしはちゃんと、いたんだね。そう思っても、いいのかな。

「あ、それ、今度会うまでに返事書いてこいよ」

新しいノートを指さして、瀬戸山くんが言う。

「俺と、黒田の、新しい交換日記」

《わたし》に渡されたまっさらのノートを抱き締めて、この白いノートを嘘で汚さないようにしようと、思った。

新しい交換日記

【瀬戸山くんが書き込んでいたメッセージ】

本当は俺、交換日記の相手が黒田って、途中からわかってた。

わかったときには、あの机のコメントが黒田だってことも気付いてた。

でも、それを言ったら、もう交換日記できねえのかなって思って黙ってた。

俺も、隠しててごめん。

他のヤツに告白しといてすげーかっこ悪いけど、黒田が好きだ。

瀬戸山

(勘違いしてて、ごめん)

【希美の返事】

好きです。

わたしと付き合ってください。

これからよろしくおねがいします。

黒田希美

<おわり>

ぱんだ
ぱんだ
いいねしてね!


 


まとめ

今回は櫻いいよ『交換ウソ日記』のあらすじネタバレ解説をお届けしました。

10代の恋愛小説では鈍感さや不器用さが物語を盛り上げたりするものですが、それにしても希美はいろいろ気づかなすぎてやきもきさせられました。

こちらが「ああ、希美は瀬戸山くんのこと好きになったのね」と読み取ったときには、希美はまだ「好きになるはずない」なんて思っていて、

あるいは「これはもう瀬戸山くんも希美のこと好きだよね」と確信したときでも、希美は「瀬戸山くんは江里乃のことが好きなんだから」とか思っていて、

いや、気づいてよ!

と何度も心の中で念じたのですが、結局、瀬戸山くんが強硬手段に訴えるまで希美は察してくれませんでした(笑)

とはいえ、このもどかしさこそ甘酸っぱい恋愛小説の醍醐味というものでしょうか。

わたしも10代の頃はこういう物語に胸キュン(死語?)したなあ、などと思いながら読んだ一冊でした。

 

映画情報

特報

キャスト

  • 高橋文哉
  • 桜田ひより

公開日

2023年7月7日公開

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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