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石田衣良「北斗 ある殺人者の回心」のあらすじとネタバレ!ドラマ版にも注目!

石田衣良「北斗 ある殺人者の回心」がドラマ化!

石田衣良(原作)×中山優馬(主演)×瀧本智行(監督)という豪華さに、最近のWOWOWドラマの勢いを感じますね。

気になったので、さっそくドラマの原作となる小説を読んでみたところ…とてつもない作品でした。

約600ページという大ボリュームで描かれているのは、主人公・端爪北斗(はしづめほくと)の半生。

そのあまりの悲惨さと、圧倒的なリアルさ、そして石田衣良だからこそ描ける生々しすぎるほどの心情描写。

「これ、本当にフィクションなの?」と思わず疑いたくなるほどの人物像の掘り下げには感服するばかりでした。

正直、絶対に全5回のドラマ尺ではこの作品の魅力を引き出しきれないと思います。

というわけで、今回はそんな小説「北斗 ある殺人者の回心」のあらすじ・ネタバレについて!

ドラマの予習・復習やカットされた部分の補てんなどにお役立てください!

…その前に「回心」って何?

「サイコパスな犯罪者が凶悪事件を起こしていく話かな?」

最初にこの小説のサブタイトルを見た時は、そんな風に思っていました。

しかし、実際にはもう全然違う!

主人公・北斗は確かに殺人事件を起こしてしまいますが、その背景には両親からの虐待歴や最愛の人が詐欺にあって無念の中亡くなってしまったことに対する復讐など、実に複雑な事情があるのです。

そして物語の終盤、北斗は裁判にかけられるなかで「生きるべきか、極刑に処されるべきか」というテーマと深く向き合います。

自分を愛してくれる人のためにも生きて罪を償うべきか、それとも遺族の希望通り命をもって罪を償うべきか。

それはある意味究極の問いであり、社会倫理や宗教的な問題であるとも言えるでしょう。

サブタイトルにある「回心」とは宗教的な用語です。

「回心(かいしん)」…神に背いている自らの罪を認め、神に立ち返る個人的な信仰体験(キリスト教)wikiより

自らの罪に向き合った末に、北斗が選んだ結末とは?裁判の結果は?

答えは続くあらすじ・ネタバレの中で、お確かめください!

 


 

「北斗 ある殺人者の回心」あらすじ・ネタバレ!

――端爪北斗は誰かに抱きしめられた記憶がなかった。人の身体が温かいのか、冷たいのか、わからない。

北斗は幼児期から両親の虐待を受けていた。

父・至高はいつも北斗と母・美砂子に理不尽な暴力を振るい、美砂子も至高の顔色をうかがいながら北斗の心身を痛めつけた。

絶食の上、冬の寒い日に一晩中裸でバルコニーに立たされる。

ドライブの途中で道に放置される。

骨が折れるほど殴られ、蹴られる。

泣くとより酷い暴力を受けるので、北斗はただ両親に「指導、ありがとうございます」と言うことしかできなかった。

北斗(家の事情を誰にも知られてはいけない)

それが至高の教えだったし、北斗自身も第三者にそれを知られることは恥だと思った。

中学3年生の時、初めて北斗は自らの手首を切った。

 


 

父・端爪至高

間もなく、詐欺まがいの会社に長年勤めてきた至高の精神が壊れ始めた。

暴力を振るわなくなり、急に老け込んだように見える。

そうかと思えば、思い出したかのように狂暴になることもある。

至高「おまえは私の息子だ。北斗、忘れるな」

至高はそう言いながら錆びたドライバーで北斗の額に星形の傷を刻み込んだ。

北斗(父のいう通りなのだ。自分はこの壊れた男の息子で、それがきっと自分にかけられた呪いなのだろう)

北斗(自分は一生幸福になることも、誰かに愛されることも、誰かを愛することもないだろう)

北斗(そして、この父のように自滅していくだろう)

 

そしてとうとう至高の精神は壊れてしまった。

街中で暴れ出し、精神科に緊急入院したのだ。

重ねて、至高が末期がんに侵されているいることも発覚。

北斗が高校一年生の時、ついに至高は病によりこの世を去った。

これから北斗は父を憎むことも、父に立ち向かうこともできない。

北斗の心は空っぽになってしまった。

 


 

母・端爪美砂子

至高がいなくなり、母・美砂子は北斗を虐待しなくなった。

その代わり、美砂子は北斗に暴力を求めるようになった。

母は母で、殴られることに依存していたのだろう。

至高の代わりになることを求められ、北斗は何度か母に暴力を振るってしまう。

(このままではいけない)

北斗は児童福祉司の富岡に事情を相談することにした。

北斗「…僕は母を殴ってしまう。父がやったように殴るんです。お願いします。僕を助けてください」

富岡「虐待を受けていた人が、何らかの事情で逆に虐待をするようになる。北斗くんのケースは珍しい話ではないんだよ。大丈夫。何とか方法を考えてみよう」

富岡の行動は素早く、すぐに北斗は家を出て児童養護施設に入ることになる。

「さよなら、お母さん。お幸せに」

別れの際の母の涙を、北斗は不快に思った。

その時々の気分で感傷的になったり、暴力的になったりする。

親というのは信用ならない生き物だ。

北斗は母の幸せを願う一方で、もう母の姿を見たくないとも思っていた。

 


 

里親・近藤綾子

児童養護施設では高校卒業までの支援しか受けられない。

富岡は北斗のために里親を探し、近藤綾子という初老の女性を引き合わせた。

綾子は早くに夫を亡くし、今までの何人もの子供を引き取っては育て上げたベテランだ。

綾子「きっと今は誰も自分のことなんて大切に思ってないと考えてるかもしれないけど、そんなことはないよ。あなたのことを大切に思い、大切に扱い、好きになってくれる。そういう人がこれからあなたの前にたくさん現れるでしょう」

北斗は感嘆して、目の前の綾子を見つめた。

綾子には、分厚く張った氷のような心の殻を破る力があるようだ。

 

北斗は綾子の家に引き取られることになった。

しかし、北斗には大人を信用することができない。

いつ本性を現して自分を傷つけるのかわからない綾子を試すために、北斗は反抗的な態度をとるようになった。

深夜まで爆音で音楽を聴き続ける。

飲酒して交番に出頭する。

綾子が大事にしている仏壇をめちゃくちゃにする。

それでも綾子は優しく、北斗のことを見捨てたりなどしなかった。

北斗「僕が何をしても、綾子さんは見捨てないんですか。なぜ、僕を叱って叩かないんですか」

綾子「それはね、北斗くんがうちの子どもだから。親は子どもが苦しんでいたら、叩くんじゃなくて、いっしょに苦しむものよ」

気がつけば、北斗は爆発的に涙を流していた。

涙は後から後から湧いてくる。

綾子「大丈夫。何があっても、あなたはここのうちの子だから。家族は何があっても変わらないのよ」

抱きしめてくれている綾子の胸に頭を埋め、北斗は引き取られて初めてその言葉を口にした。

北斗「…お母さん」

北斗は自分の全てをゆだねられる大人に生まれて初めて出会った。

北斗(お母さん、お母さん、僕を守ってください。冷たい外の世界から、残酷な僕自身の心から、守ってください)

北斗(お母さん、お母さん、その代わり何があっても、僕があなたを守ります)

 

その日を境に、北斗は生まれ変わった。

教室でも笑顔を見せるようになり、次第に友人が増えていった。

これからの数年間が、北斗の人生の黄金期になる。

 


 

幸福な時間の終わり

そして、北斗は大学生になった。

わずかな幸福の時間が終わりを告げる。

綾子が肝臓がんに侵されてしまったのだ。

余命は1年。

以後、北斗は大学から遠のき、毎日の時間を綾子の看病に当てることになる。

北斗と同じく綾子の子どもである明日実も時折病室に顔を見せ、何かと綾子と北斗の面倒を見るようになった。

北斗(絶対にお母さんを守ってみせる)

北斗にとって綾子は絶対的な存在だった。

決意とは裏腹に北斗はどんどん瘦せ細り、その心は虚ろになっていく。

今の北斗の心を占めるのは「綾子に残された時間を幸福なものにする」という一点のみであり、自分がどうなろうと北斗には興味のないことだった。

 

ある日、綾子の旧友が見舞いに「波洞水」という銀粉の舞う水を持ってきた。

【波洞水は、命の水です。】

案内によれば、その効果によりガンが治った実績もあるという。

波動水・銀は税込みで10,500円、金は31,500、最高級のプラチナは52,500円。

全て1本1リットルの価格である。

綾子「まあ、きれい」

何も知らない綾子は波洞水を気に入ったようだった。

綾子「これ、悪くないみたい」

 


 

波洞水と生田友親

年が明け、綾子の病状はさらに悪くなっていた。

綾子「北斗くん、波洞水をちょうだい」

この頃、綾子は波洞水を気に入り、1日に1本「波洞水・金」を飲むようになっている。

綾子「ねえ、北斗くん。先生からもっとお水を飲むように言われているのだけど、波洞水を1日2本にすることはできないかしら?やっぱりおいしいし、身体にもいいような気がするなあ」

北斗「わかった。明日から波洞水を2本にしよう」

1日で約6万円が波洞水のために通帳から引き落とされていく。

綾子が残した通帳の残高はみるみる減っていき、北斗は大学費用のために綾子が残した北斗用の通帳も切り崩し始めた。

通帳が空になるのが先か、綾子の回復が先か、あるいは命が尽きるのが先か。

どれが一番先にくるとしても、北斗はその結果が出た後も続いていく自分の人生が恐ろしくてたまらなかった。

 

二月から三月にかけて、いよいよ綾子の容体が危なくなってきた。

今では一日に1本の「波洞水・プラチナ」しか飲むことができなくなっている。

綾子の命の残量が見えてきた時点で、北斗は自暴自棄になっていた。

 

北斗の家に記者が訪ねてきた。

記者「来月、波洞水被害者の会が集団訴訟を起こすことになっています。生田友親のいう波洞水に科学的な根拠はなく、波洞水は末期の癌患者を騙す悪質な手口だったという訴訟内容です」

北斗の頭は真っ白になった。

 


 

喪失と復讐

何百万円も投じた波洞水にはガンを治す効果などなかった。

悪質な詐欺。

北斗はその事実に絶望したが、綾子のために波洞水を購入し続けた。

しかし…

「ごめんね、北斗くん。私が、あんなインチキな水を持ってきたばかりに」

綾子の旧友の言葉に、北斗の全身が総毛だった。

北斗「お母さんに、波洞水の話をしたんですか」

「そうよ。謝っておかなくちゃ、綾ちゃんに恨まれるじゃないの」

綾子に波洞水のことを知られてしまった。

波洞水を糾弾する雑誌の記事を見ながら、綾子が言う。

綾子「ごめんね、北斗くん…そんなに高いものだとも知らずに…わがままばかりいって…あなたの学費は大丈夫なの…ほんとに、ごめんね」

もうすぐ命が尽きようとしている母親に謝ってほしくなどなかった。

波洞水は、生田友親は、うちのお母さんになんてことをさせるんだ。

詐欺なんて勝手にすればいい。

しかし、綾子に残された時間をめちゃくちゃにすることなど、誰にも許されるはずがない。

北斗(絶対に赦さない…絶対に赦さない…絶対に)

綾子「あのお金はこんなおばあちゃんのためじゃなく…北斗くんの…未来のため…のものだったのに」

集中治療室のベッドの上で、綾子が泣いていた。

北斗(お母さんの最後の時間がめちゃくちゃにされた)

誰かがこの償いをしなくてはならない。

 

その日から綾子の気力は根こそぎ削がれてしまい、四月初旬に綾子は亡くなった。

最後の瞬間に立ち会った北斗は、綾子に質問した。

北斗「お母さんは、波洞水の、生田友親に、復讐してもらいたい?」

母が、うなづいたように見える。

北斗(わかったよ、お母さん。生田の奴には、僕が必ず復讐する)

北斗にはもう未来は必要なかった。

北斗(僕はお母さんのために、生田を殺す)

母を看取るために生きてきた北斗は、その日、今度は一人の男に復讐するために生きる決心をした。

迷いはない。後悔もない。

北斗にとって、それが世界の全てになった。

 


 

姉・明日実

明日実「乾杯しよう。北斗くん、二十歳おめでとう」

北斗の誕生日を、明日実が祝ってくれている。

明日実は綾子とともに衰弱していく北斗を心配し、ずっと姉として支え続けてきた。

明日実は綾子が亡くなってから一度も涙を流さない北斗を心から心配していた。

明日実「さっき玄関であいさつしたとき、驚いたんだ。一週間かそこらで、げっそり痩せていたから」

明日実「あのね、生きている人は、そこまで亡くなってしまった人の方に近づいたらいけないんだよ」

明日実の手が北斗の手を取った。自分の胸に北斗の手をのせる。

明日実「私は初めてじゃないから、別にかまわない。北斗くんがこっちに帰ってくるために役に立てるなら、好きなようにしていいよ」

ここで明日実を抱いてしまえば、自分はきっと未来を信じるようになるだろう。

それでは綾子との最後の約束が守れなくなる。

北斗「ありがとう、明日実姉さん。今夜は生まれてから一番いい誕生祝いだった。僕は大丈夫、心配かけてごめん」

北斗は初めて明日実を姉と呼んだ。

明日実「わかった。でも、私はいつでも、北斗くんのただ一人の家族だからね」

 

その夜、北斗は音楽を聴きながら、号泣した。

北斗(約束は必ず守る…お母さんのために)

北斗は何度も胸の中で誓い、泣きながら眠ってしまった。

次に目覚めた朝、北斗は別人のように爽快な気分になっていることだろう。

愛する人の死を悼み、初めて涙を流した夜が、北斗を本当の殺人者として生まれ変わらせたのである。

 


 

生田友親との接触

世間では波洞水の事件が取り上げられ、生田は今や人々の関心を集める存在になっている。

北斗は鋭利で刃渡りの長いナイフを2本調達して、生田波洞研究所へと向かった。

波洞水の信者を装い、生田と接触することに成功する。

生田友親は哲学者のような風貌をした、初老の男だった。

北斗は生田にナイフを突き立てる前に、話をすることにした。

生田「君がある部分的な悪を行うことで、数百人の子供の命が救われる。君が自分で悪を引き受けないというのなら、子どもたちは生きていられない。君ならどうする?」

生田は昔から貧しい国の子どもたちを救う活動をしており、そのために波洞水で金を集めているのだという。

果たしてこの男が悪なのか善なのか、北斗にはわからなくなった。

しかし、それでも綾子と交わした約束だけは果たさなければならない。

生田「卒業して、まだ私がこの研究所を主宰していたら、ここで働いてみないか」

どうやら生田は北斗を高く評価している。

北斗「はい、よく考えてみます。今日は生田先生にお会いできて、本当に良かった」

その日、北斗が生田にナイフを突き立てることはなかった。

(すでにこの男の命は自分の手中にある)

北斗はその事実に満足していた。

 


 

凶行

後日、北斗は改めて生田波洞研究所を訪ねた。

今回は確実に生田を始末する、という覚悟を持って。

しかし、生田は警察の事情聴取を受けており、なかなか帰ってこない。

じりじりとした焦りが北斗を苛んだ。

そして、その不幸な出来事が起こってしまう。

「…あなた…それ…」

研究所の事務員である中年女性・飯岡に隠したナイフを見られてしまったのだ。

北斗の体は素早く動き、生田を想定したシミュレーション通りに一突きで飯岡の命を奪った。

もう後戻りはできない。

 

そして、不幸は連続する。

研究所の看護師である若い女性・関本に現場を見られてしまったのだ。

「お願いだから…助けて…」

1人目ですっかり動転してしまった北斗は、関本の体をめった刺しにして黙らせた。

これで2人。

数日前に成人している北斗が捕まれば、極刑を言い渡されても不思議ではない。

 

2つの遺体が転がる中、北斗はじりじりと生田の帰りを待った。

ところが研究所を囲む記者が言うには、生田は事情聴取の後ホテルへ直行したため、研究所には帰ってこないという。

北斗は用意していた服に着替え、漫画喫茶で夜を明かした。

研究所での事件はすでにニュースで報道されてしまっている。

すぐに北斗が犯人だと露見してしまうだろう。

復讐を遂行するには、翌日、ホテルで生田を襲撃するしかない。

 

別人の名を騙り生田の部屋を確認した北斗。

ついに復讐の時が来た。

生田の部屋のドアをノックする。

北斗「桐嶋フローリストと申します。お悔やみのお花を届けに参りました」

黒いナイフの柄をしっかりと握る。

次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。

「端爪北斗だな。銃刀法違反並びに死体遺棄の容疑で、逮捕する」

屈強な警察官に取り押さえられ、北斗は身動きが取れない。

北斗は喉が破れるほどに叫んだ。

北斗「生田…何年かかっても、絶対おまえを殺してやるぞ」

こうして、北斗は逮捕された。

 


 

罪と罰

復讐は失敗に終わった。

北斗は取り調べで事実の全てを認めたが、自らの心情や生い立ちについては一切語らなかった。

北斗には罪を軽くしようという思惑はない。

北斗は極刑に処されることを望んだ。

一方、明日実をはじめとする北斗にゆかりのある人々は、一様に北斗の減刑に向けて奔走していた。

 

北斗「弁護士に話すことはないよ。僕は減刑してもらいたいとは思っていない。自分で犯した罪は自分で償いたい」

明日実「北斗くん、諦めたら駄目だよ。私はあなたに生きていてもらいたい」

北斗は弁護士との面会を拒み、極刑を望んだが、明日実はそれを許さなかった。

明日実「お母さんも北斗くんもいなくなってしまうのなら、私も一緒にいく。北斗くんが極刑に処されるところなんて見たくないから、私が先にいく」

明日実もまた被虐待児童であり、手首には何本ものリストカット跡がある。言葉に重みがある。

北斗は仕方なく弁護士との面会を受け入れる事にした。

明日実「あと、これからは他人だと何かと不便になる。北斗くん、私と家族になろう。あなたはずっとここにいてもいいから、私と結婚して」

明日実「私たちがずっとあこがれてて、でも手が届かなかった家族をつくろう。私は北斗くんを絶対一人にしないから」

涙声でそう言う明日実の言葉に、北斗の心は痺れた。

 

国選弁護人の高井と面会した。

高井は臨終の綾子が頷いたように見えたのは「下顎呼吸」という意志とは無関係の現象だったという。

北斗(自分は勘違いで、2人もの命を奪ってしまった)

北斗の目の前は真っ暗になった。

さらに、高井が言うには、生田友親は波洞水で得た金のほとんどを私用に使っていたということだ。

しかし、北斗にはもうそれはどうでもいいことだった。

罪のない命を2人分も奪ってしまった罪は、償わなければならない。

裁判は、約1年後。極刑が言い渡されれば、それから約7年前後で刑が執行されるはずだ。

 


 

明日実の決意

夏になり、秋が来て、冬が終わり、年が明けた。

裁判の日取りが4月中旬に決定する。

北斗はやはり極刑を望んでいた。

 

明日実「市役所でもらってきた。私も北斗くんも成人だから、自分たちの意志だけで結婚できるんだよ」

半分が明日実の字で埋められた婚姻届を手に、明日実が言った。

北斗「駄目だ、結婚なんてできない。そんなことをしたら、明日実さんは不幸になる。僕なんかと一緒だと、明日実さんも人生を棒に振るんだ。そんなことは、僕が許さない」

明日実は穏やかな決意を秘めた微笑みを浮かべている。

明日実「北斗くんはお母さんのために、あんな事件を起こして、人生を棒に振ったんだよね。それはあなたの勝手でしょう。だったら、私も北斗くんのために、婚姻届を出して、勝手に人生を棒に振るよ。それくらい自由でしょう」

北斗「…わかった、考えてみる」

明日実が2人を仕切るアクリル板を強く叩いた。

明日実「もう考えている時間なんてないんだ。最悪の判決が出たら、家族以外の面会はできなくなるんだよ。来週にはもう私と会えなくなるかもしれない。考えてみるじゃなく、結婚するって言ってよ」

ぽろぽろと涙を流す明日実に、北斗は触れることすらできない。

明日実「この結婚はただの同情とか、法律上の手続きだけじゃないよ。私は北斗くんが好き。ずっといっしょに生きたいと思ってる」

明日実に涙と鼻水で化粧を崩させながら、こんな場所でこんなことを言わせてしまっている。

北斗は消滅してしまいたかった。

北斗「ありがとう、明日実さん。感謝してる」

それが、北斗にいえる精いっぱいの言葉だった。

 


 

端爪北斗の裁判

そして、裁判が始まった。5日目には判決が言い渡されることになる。

世間で注目されている北斗の裁判には、記者や野次馬が詰めかけた。

 

検察側は北斗の犯行の残虐性を指摘し、弁護側は北斗の不幸な生い立ちや詐欺の被害者である点から情状酌量の余地を訴える。

高井「裁判は魂を裸にする劇だ」

弁護士の高井が言ったように、裁判では北斗が誰にも知られたくなかった虐待歴や両親のことまでつまびらかにされた。

児童福祉司・富岡の証言、明日実の証言、そして実の母・美砂子の証言。

被害者・飯岡の夫と息子が極刑を訴える一方で、被害者・関本の祖母と妹は涙ながらに極刑は望まないと話した。

『改悛の情』

極刑になるか減刑されるかの分かれ道になるのは、北斗自身が反省している態度を見せるかどうかに大きくかかっている。

これまで北斗は極刑を望み、反省の態度を自らに禁じてきたが、被害者の妹が涙ながらに話す姿を見て、心から「改悛の情」が湧き上がってくるのを感じた。

(自分はなんてことをしてしまったんだろう。生田のことだって、金を奪い返すだけでよかったのに)

生きて罪を償うべきか、やはり自らの命で償うべきか。

北斗の心は大きく揺れていた。

 


 

最後の意見陳述

そして、裁判4日目。

検察官による論告求刑。検察官はやはり極刑を訴えた。

弁護人の最終弁論。高井は見事な調子で北斗には情状酌量の余地があると訴え、寛大な処罰を求めた。

そして裁判の最後は、被告人による意見陳述。

ここで何を話すか、反省の色が見られるかで判決は大きく変わってくる。

(生きて)

明日実からの伝言が何度も北斗の頭の中で再生される。

北斗は内側から浮かんできた言葉をそのまま口にすることに決めた。

「最初に…亡くなられた飯岡佳恵さんと関本みのりさん、そしてご遺族の皆さんに謝罪します」

謝罪に始まり、北斗は真摯な反省についてや、綾子への愛情について、事件の顛末についてなどを語っていく。

「僕の21年間は空っぽの人生でした。生まれてきていいことは何もありませんでした。そんな人間が2人の命を奪ってしまって、被害者の方には心から申し訳ないとしかいいようがありません。あんな事件を起こしてまで、僕は何を求めていたんでしょうか」

北斗にとって、綾子は自分を認めてくれる唯一の存在だった。恩返しがしたかった。

「僕があれほど望んだ復讐の理由はなんだったんでしょうか。僕はお母さんに何をしてあげたかったのか…」

「間違えました。僕が本当に望んでいたのは、お母さんに何をして欲しかったかです。そういうことをしてくれたのはお母さんだけだったし、その人が目の前でゆっくりと亡くなってしまった」

気づけば北斗はこの裁判で初めて涙を流していた。

「…僕は、ただ抱きしめて、欲しかった…お母さんに、愛されたかった…お前は私の子で、とても大切に思っている…いいことをしても、悪いことをしても、うちの子だと…」

北斗は涙をぬぐい、遺族への謝罪で意見陳述を終えた。

「僕はつまらない人間で、取り返しのつかない残酷な行いをしてしまいました。ごめんなさい。謝っても取り返しはつきませんけれども、本当にすみませんでした」

あとは、翌日の判決を待つばかり。

 


 

判決(結末)

裁判の最終日。裁判長から判決が言い渡される。

事前に高井から聞いた話によれば、主文(判決)が後回しにされれば極刑なのだという。

そして…

裁判長「主文は後回しにします」

北斗の全身の血液が砂のようにさらさらになって足元から流れ出した。

後回しは、極刑。

裁判長は裁判のまとめとして、事件の残酷性、情状酌量の余地などについて早口に読み上げていく。

極刑の第一報を知らせるべく、記者が傍聴席から駆け出ていった。

 

裁判長「判決の主文をいい渡します」

北斗は背筋を伸ばし、最後通告に身体が崩れ落ちないように身構えた。

裁判長「被告人を、無期懲役に処する」

高井弁護士が真っ赤な顔で、拳を握っている。

裁判が終わった後も、北斗は証人席に残って、頭を下げていた。

みっともないと思ったが、溢れる涙を止められない。

搾り出すように言った。

「ありがとう、ございました」

高井弁護士や泣き顔の明日実が北斗を囲む。

明日実「…よかった」

北斗は職員に連れられ、裁判所を後にする。

途中で、遺族に一礼した後、北斗は誰にともなく呟いた。

「ありがとうございました」

端爪北斗は立ち止まって一度だけ深呼吸をすると、両手を前に重ねたままゆっくりと歩き出した。

<北斗 ある殺人者の回心・完>

 


 

まとめと補足、ドラマ版について

以上、WOWOWドラマ化される石田衣良「北斗 ある殺人者の回心」のあらすじ・ネタバレでした!

なにせ小説が大ボリュームなので、あらすじではカットしたエピソードも多いのですが、原作の雰囲気は伝わったでしょうか?

虐待の悲惨さ、綾子への感謝、罪とどう向き合うか…小説では驚くほど緻密に北斗の心情が描かれています。

おそらくドラマ版でも全5話という短さではとても小説の持ち味を描き切れないと思うので、気になった方はぜひ原作小説の方も読まれることをお勧めします。

ちなみに、結末では北斗は罪を悔い、無期懲役を言い渡されたわけですが、検察側が諦めなければ裁判はまだ続きます。

その後の北斗がどうなったのか?と想像するのも一つの楽しみ方ですね。

※私は登場人物の中ではダントツに明日実が好きなので、できれば北斗にはいつか明日実と幸せになってほしいと思っています。

 

さて、そんな「北斗 ある殺人者の回心」のドラマ版ですが…

おそらく裁判から物語を始めて、回想という形でストーリーを進めていくのではないかと予想します。

見どころはもちろん主演の中山優馬さん演じる北斗!

本当に難しい役どころだと思います。

だからこそ、中山優馬さんには「活字の中のリアルさ」を超えた現実の人間ならではの「生々しさ」に期待したいですね。

ドラマ「北斗 ある殺人者の回心」は2017年3月25日(土)夜10時スタート!

できるだけ原作の雰囲気やエピソードをそのまま残したドラマになるといいなぁ、と思います。

ぱんだ
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WOWOW入ってる?



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