感動・ヒューマンドラマ

『雨に消えた向日葵』あらすじネタバレ解説|結末に涙【ドラマ原作小説】

吉川英梨『雨に消えた向日葵』を読みました。

警察小説です。映像化のキャストが印象強くて、主人公の刑事は完全にムロツヨシの姿で脳内再生されていました。

豪雨のあぜ道で失踪した小学五年生の女の子は無事見つかるのか……?

今回は小説『雨に消えた向日葵』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

埼玉県坂戸市で小学五年の石岡葵が失踪した。

最後に目撃されたのは豪雨の中をひとりで歩く姿。

現場には傘一本しか残されていなかった。

誘拐か、家出か、事故か。

葵が一か月前に同じ場所で男につきまとわれたという姉の供述を受け、県警捜査一課の奈良健市も坂戸市に急行した。

二転三転する証言、電車内で発見された葵の私物、少女に目を付けていたという中学生グループ……。

情報が錯綜し、家族が激しく焦燥に駆られるなか、執念の捜査で真相に迫っていく。

事件の概要

事件が発生したのは2016年7月4日。

小学五年生の石岡葵ちゃんが下校途中で失踪しました。

通学路は田んぼの一本道であり、豪雨の影響もあって目撃情報はほぼありません。

葵ちゃんはハッとするほどの美少女であり、誘拐された可能性が第一に考えられます。

「品川ナンバーの車の男」からストーカーされていた、と姉の沙希は証言しました。

「お父さん、きっとあの男だよ!」

一方、捜査初期の段階では事故や家出の可能性も捨てきれません。

増水した川に近づいたのではないか?

あるいは、離婚調停中の家庭環境が原因で家出しただけではないのか?

【事件】だと断言できない以上、人員配置はあらゆる可能性を考慮したものになります。

しかし、最終的に葵ちゃんの失踪は事故でも家出でもなく【事件】でした。

結果論として、事件に的を絞った初動捜査が行われなかったために、葵ちゃんの捜索は難航してしまいます。

一週間が経過。地元の消防団の捜索活動も下火になりました。

三か月が経過。各所に設置された防犯カメラの映像は上書きされ、証拠能力を失います。

やがて事件開始から一年半が経過すると、捜査本部も解散されました。

継続捜査係が後を引き継ぐものの、いわゆる迷宮入りです。

「時間切れだ」

無情な宣告を突きつけられて、しかし、誰よりも被害者家族と接してきた刑事の奈良健市だは諦めようとしませんでした。

奈良は執念深く葵ちゃんの行方を探し続けます。

20年前、妹を救えなかった後悔を繰り返さないためにも、諦めるわけにはいきませんでした。

捜査過程

第一に捜査線上に浮かんできた容疑者は、下校する葵ちゃんを校門で見送っていた担任教師・浮島航大でした。

浮島は小児性愛者であり、葵ちゃんの失踪後に【違法な蔵書】を慌てて廃棄していたことから疑いの目が向けられました。

逮捕令状が下り、奈良は浮島を取り調べます。浮島は容疑を否認しました。

「僕は小児性愛者かもしれない。でも、非接触派です。幼女が好きだから見守っていたい。でも触れたいとは思わない。眺めるのは好きだけれど、いたずらしたいとも思わない」

浮島にはアリバイがありませんでしたが、かといって犯人だと断定できるほどの証拠もありません。

結局、二週間の勾留の後に浮島は釈放されました。

※彼はこの一件の影響で職を失うことになります。

ぱんだ
ぱんだ
むむむ……

次の容疑者は葵ちゃんをつけまわしていたという「品川ナンバーの車の男」です。

特徴的なスマホカバー(※)を手掛かりに、奈良は男の正体に迫ります。

※同人漫画作品をモチーフにした自作のグッズだった。

スマホカバーのデザイン、少女を辱める内容の同人漫画の作者は(驚くべきことに)警察官僚の息子・岡部正克でした。

※ただし、岡部には犯行時のアリバイあり

自作のスマホカバーを所持している男と聞き、岡部はすぐにひとりの読者(ファン)を連想します。

中本郁也。37歳。フリーター。強姦未遂で逮捕歴のある男です。

警察は事件捜査において前歴者をまっさきに疑います。しかし、中本の場合は本人ではなく両親の所有する車が「品川ナンバーの車」であったため初動捜査では見落とされていたのでした。

奈良は中本を取り調べます。中本の主張は次のとおりです。

「俺は確かに写真を撮りました。すごい美少女だったし……。でも、失踪事件には関わっていません。七月四日は通院する母に付き添っていました」

結果から言えば中本もまたシロでした。証言通り、中本にはアリバイがありました。

しかし、事件にまったく無関係というわけでもありません。

中本は葵ちゃんの写真と情報を、ダークウェブの闇サイトに流していました。

「どんなサイトなんだ」

「実在する少女の顔写真と個人情報が載っています。住所、学校、通学路、習い事先――」

《真犯人》はこのサイトの情報をもとに葵ちゃんを誘拐したのだと考えられます。

しかし、ダークウェブ上のサイトの閲覧者を特定するのは(少なくとも埼玉県警には)不可能です。

中本郁也といういわば教唆犯(=共犯者)にこそ辿り着いたものの、そこは袋小路でした。

次の一歩を踏み出すための手がかりすら失い、捜査は完全に振り出しに戻ってしまいます。

謎の容疑者

市民からの情報提供により、捜査は新たな展開を迎えます。

「葵のランドセルの一部が見つかった」

葵ちゃんのランドセルはバラバラに切断され、ゴルフ場に遺棄されていました。

処分に困った犯人が苦肉の策として捨てていったものと考えられます。

あるいは、数か月経っても進展のない捜査状況が犯人を油断させたのかもしれません。

その証拠に、ランドセルには犯人のものと思しき指紋が付着していました。

願ってもない物証ですが、しかし、喜んでばかりもいられません。

容疑者は事件後にゴルフ場を利用した客、そのほぼ全員です。

現状、利用客一人一人のアリバイを確認していくしか道はないわけで、限られた捜査員をフル投入したとしても途方もない作業になるのは明白でした。

月日は残酷に過ぎていきます。

ようやく一人の利用客に目星をつけた頃には、もう手遅れでした。

容疑者・仮称「M」の出現からすでに一年以上が経過していました。

名前も偽名。住所もでたらめ。一年前の「M」の行方を追う手段はありません。

事件発生から一年半。捜査本部は解散されました。

「時間切れだ」

奈良は県警捜査一課の刑事です。すぐさま別の事件の捜査が始まります。

それでも奈良は被害者家族と連絡を取り、独自に情報を集め続けました。

あらためて全体を見渡してみると、今回の失踪事件の難しさがよくわかります。

葵はどこで消えたのか? 葵はいつ消えたのか? 事故だったのではないか?

葵はまだ生きているのか……?

奈良は「生きているはずだ」と自分自身に言い聞かせます。生きているのなら、監禁されているに違いありません。一刻も早く助け出してあげなければ。奈良は執念の一歩を踏み出しました。

<すぐ下のネタバレに続く>

ネタバレ

2019年4月。中学三年生だった石岡沙希はこの春、高校三年生になりました。

だというのに葵ちゃんのための中学校の制服はまだ新品のまま。

事件発生から丸三年が経とうとしていました。

結局、ゴルフ場に現れた容疑者「M」の正体は不明なまま。継続捜査係も膨大な紙資料の確認に追われるばかりで、捜査が進展しようはずもありません。

だから、事件が最終局面を迎えたのは奈良の執念と、そしてなにより家族の想いのたまものでした。

ぱんだ
ぱんだ
というと?

これまで奈良や埼玉県警の捜査をお伝えしてきましたが、その間、被害者家族は黙って見ていたわけではありません。

父親の石岡征則は「葵を探す会」を立ち上げ、母親の秋奈はそのPTA支部長、姉の沙希は高校生支部長として粘り強く目撃情報を集め続けていました。

※父親は時間確保のため銀行員の職を手放しています。母親は一時期心労に倒れ、沙希は被害者家族を狙った詐欺の被害に遭っています。それでも、彼らは諦めませんでした。

葵ちゃんの行方につながる手がかりを掴んだのは高校生支部でした。

郵便局でアルバイトしていた女子高生が、書き損じはがきに葵ちゃんオリジナルのキャラクターが描かれているのを目撃していたのです。

父・征則は牛乳会社にかけあい、流通する牛乳パックに「葵ちゃんが書いたイラスト」を印刷してもらっていました。

情報提供者の女子高生は牛乳パックのイラストを覚えていて、書き損じはがきに描かれていた同じイラストに気づいたというわけです。

※欧米では行方不明の子どもの写真を牛乳パックにプリントする手法が実際にとられているそうです。

この情報から得られる推察は2つあります。

第一に、はがきを交換しに来た人物こそが《犯人》である可能性が高いこと。

そして第二に、少なくともハガキを書いた時点まではいう条件付きではあるものの、葵ちゃんは生きているということです。

ぱんだ
ぱんだ
そっか!

しかし、喜んでばかりもいられません。問題の書き損じはがきは年賀状でした。つまり、《犯人》の出現は1月の出来事です。対して、現在は4月。

当然といえば当然ですが、女子高生は《犯人》の顔をよく覚えていませんでした。防犯カメラもすでに上書きされてしまっています。

奈良は一縷の望みにかけて再生紙工場へと急行しました。例のハガキがまだリサイクルされていない可能性に賭けるしかありませんでした。

物語もいよいよ大詰めです。

再生紙工場にはリサイクルを待つ膨大な量のはがきが待っていました。天井まで積み重ねられたハガキの束が無数に並んでいる光景です。

本来なら人員を総動員して人海戦術に打って出たいところですが、捜査本部はもう解散してしまっています。

奈良はありとあらゆる手段を使って人員を集めました。

結果、葵ちゃんのために50人規模の刑事たちが集まりましたが、それでもまだ足りません。しかも、時とともに彼らは次第に新たな事件に駆り出されていってしまいます。

最後に残ったのは奈良を含めてたった数人。しかも、ハガキの束の中に探し求める一枚が入っている保証もありません。

まさに砂漠の中から一粒のダイヤを拾い上げようとしているようなものです。

葵ちゃん直筆のはがきはそうした地道なチェック作業の末に発見されました。

ぱんだ
ぱんだ
見つかったの!?

犯人

犯人は田中晃教という男でした。37歳。不動産収入で暮らす裕福な人物です。

彼の名前はこのクライマックスでいきなり提示されたわけではありません。

事件発生から間もない頃、奈良は捜査の一環で田中に会っています。

事件発生直後、葵ちゃんの私物が電車内で発見されるという出来事がありました。

「葵ちゃんは電車に乗ったのではないか?」と警察を誤誘導する(捜査かく乱の)ために犯人が置いていったのです。

警察は監視カメラで駅の出入りをチェックしたのですが、そのなかに映っていた一人が田中晃教でした。

奈良は田中の自宅を訪問し、当日のアリバイがないことを確認しています。

ぱんだ
ぱんだ
えっ、アリバイなし!?

はい。田中は「その時間は一人で家にいた」と奈良に話しています。

もっと疑うべきだった、と思われるでしょうか?

けれど、ちょっと待ってください。そもそも正確な失踪時刻は不明なのです。葵ちゃんが最後に目撃されたのが午後5時。その後、母親が葵ちゃんの不在に気づいたのが午後7時半。

その時間帯すべてにアリバイがなければ、即ち「犯行は可能だった」と判断されるわけですが、そんなことを言いだしたら誰も彼もみんな容疑者になってしまいます。

  • 失踪の時間帯にアリバイがない
  • 駅の防犯カメラに写っていた

この情報だけで田中が犯人だと見抜けというほうが無茶な話です。

奈良が訪問した際、田中は落ち着いていて、言動も理知的でした。おまけに田中は事件後、葵ちゃんを捜索する地元消防団の活動にも参加しています。

奈良が田中晃教の存在を見過ごしてしまっていたのも、無理からぬことだったと言えるでしょう。

結末

田中は葵ちゃんを誘拐したあげく三年間も監禁し続けてきた極悪人ではありますが、なにも犯罪のスペシャリストというわけではありません。

警察の誘導により外出したところであっさりと逮捕されました。

だから、いわゆるクライマックスにあたるのは葵ちゃんが救出される場面です。

やせ細り、足の爪が剥がされている痛々しい姿。彼女は喉をつかえさせながら「第七小学校五年二組二番、石岡葵です」と口にしました。

「ずっと、あの、あの、練習していたんです。この日のために」

葵ちゃんは救急車で病院にされます。到着すると、病院の前には医療関係者に混じって一人の刑事の姿がありました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

葵は人をかき分けて彼のところへ向かった。刑事は驚いた様子で、一歩、二歩と後ろへ下がってしまう。葵はその手を取った。両手で握る。

この人に見つけてもらったのだ。

だが、お礼の言葉が出ない。つかえたり、ぺらぺらしゃべれたり、今日の自分はとてもおかしかった。ただ強く、刑事の手を握った。

刑事は葵が触れた途端に肩をびくりと震わせた。なにかを怖がっているようにも見えた。

葵を見て、細かく頷き返すだけだ。葵よりも刑事のほうが震えていた、

緋沙子(※)が葵を救急搬送口へ促す。

※大前緋沙子。奈良と同期の女性警察官。継続捜査係の班長。

刑事と手が離れた。名前を聞けなかった。廊下を歩きながら、緋沙子に尋ねた。

「埼玉県警なのに奈良っていうのよ」

前を見る。パパとママとお姉ちゃんが診察室の前で、待っていた。

奈良健市の過去

葵ちゃんに接する奈良の様子がおかしかったのは、過去のトラウマのためです。

20年前、奈良の妹は強姦の被害に遭っています。

奈良はその現場の近くを通りすぎていながら、ヘッドホンのせいで悲鳴を聞き落としてしまいました。

妹・真由子はそのトラウマから極度の男性恐怖症になり、40代を迎えた今でも苦しみ続けています。

トラウマのため社会で働けない真由子は、奈良が着替えや身の回りの世話といった雑事を任せなければ、ずっと家に引きこもっているしかありません。

被害に遭ったのは真由子ですが、20年前の事件は奈良にとっても悔いても悔やみきれないトラウマになっています。

奈良が独身であるのも、事件にかかりきりで実家にあまり寄りつかないのも、捜査において《音》を重視するのも、すべては20年前の事件を引きずっているためでした。

※あるいは刑事になったことすらも事件の影響だったのかもしれません。なお、葵ちゃんを発見するまでの捜査では奈良の《音》へのこだわりが重要な役割を果たしていました。

ぱんだ
ぱんだ
そんなことが……

奈良が葵ちゃんに手を握られて怯んでいたのも、つまりはそういうことです。

後日、奈良は次のように回想しています。

※以下、小説より一部抜粋

…………

三年間も男に暴力で支配されていた少女が、異性に触れられると思わなかった。

壊してしまう気がして、奈良は最後まで彼女の手を握り返すことができなかった。

本当は、とても嬉しかったのに。

小さいけれど力強かった手を両手でしっかり握り返し、よく頑張った、よく耐えた、よく生き延びてくれたと言ってやりたかったのに――。

奈良ひとりが、二十年以上前の事件の夜に立ち止まったままだった。

…………

物語では「警察の捜査」「被害者家族の想い」と並行して、奈良と妹の日々も語られていました。

もう二十年も変化していない、停滞した日々です。奈良も真由子もいつかは一歩を踏み出さなけれないと承知しつつ、それでも後ろを振り返ってばかりいました。

ところが、です。

物語のラスト。事件解決後に奈良は真由子から「住み込みで働くために引っ越す」と告げられます。

奈良は思わず「無理だ」と止めますが、真由子の決意は固く、もう荷物も送っているということでした。

奈良は「駅まで送る」と告げて、大慌てて家に帰ります。

駅までは歩いて十分の距離です。けれど、奈良は自転車に二人乗りして駅まで向かうことにしました。そうやって遊んでいた子どもの頃の記憶を、奈良は今も鮮明に覚えていました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

ペダルをこぎ出した。大人になった真由子は重たかった。ふくらはぎに力を籠める。スピードが出てくる。ちらりと後ろを見た。彼女はサドルの下の金具に指を絡めていた。

風を受ける顔は気持ちよさそうで、小さなおさげ髪を垂らしていた幼少期を思い出す。

県道沿いの道に出た。更にスピードを上げる。真由子は笑いながら小さな悲鳴を上げた。

(中略)

「掴まってろ、飛ばすから」

「別に急いでないよ」

「箱根で引っ越しトラックの運ちゃん待たせたらかわいそうだろ」

お兄ちゃんのせいだと、真由子は笑った。奈良の腰に回した手に力を籠めた。

「お兄ちゃん、ありがとう」

奈良は答えなかった。

「私の悲鳴を、聞いてくれた」

「違う。聞こえなかったんだ」

「その悲鳴じゃない。後の悲鳴。お兄ちゃんだけが、二十年以上聞き続けてくれた」

奈良は、奥歯を噛みしめた。前が見えなくなりそうだった。

「お兄ちゃん、転んだ日のこと、覚えてる? お兄ちゃんの自転車でこうやって二人乗りしてさ。怪我したのは私なのに、お兄ちゃんの方がわんわん泣いたでしょ」

奈良はスピードを落とした。右手をハンドルから放した。

腹の前で組まれた妹の両手を、奈良は右手でしっかり覆ってから、強く握る。

「忘れた」

駅が見えてきた。

<完>

感想

文庫巻末の解説に次のような一文がありました。

『本作はエンタテインメント性を抑え、よりリアルで地道な捜査過程を描くことに重きを置いた作品になっている』

わたしの受けた印象もまったく同じです。

奈良は次々と浮かび上がる容疑者を追いかけますが、そのことごとくが空振りでした。

徒労。むなしさ。失望。

そんな刑事の実感が伝わってくる作品でした。そこにエンタメはありません。「読んでいて楽しい小説」としておすすめはできません。

こんなふうに書くと「つまらなかったの?」と思われるでしょうから、先読みしてお答えします。

探偵が事件の謎を追うようないわゆるミステリ小説が好きな方には、つまらないかもしれません。

なぜなら、本作は警察小説だからです。しかも、警察小説のなかでも「エンタメ性を抑えた」作品だからです。

文庫の帯には「警察ミステリー」と銘打ってありましたが、単に警察小説と分類した方がいいのではないかとわたしは思います。

わたしは本作を読んで(今さらながら)警察小説とミステリ小説の違いに気づかされました。

ミステリ小説の肝は犯人の正体であり、不可解な謎の真相であり、あるいは犯行動機やトリックです。

一方、警察小説は同じ過程で犯人を追っているように見えても、その主眼はあくまで人間ドラマに置かれています。

特にわたしの胸を打ったのは被害者家族の三年間です。

『雨に消えた向日葵』では奈良を中心にした捜査パートと並行して、被害者家族の《現実》が克明に描かれていました。

たとえば、こんな場面があります。

事件の後、沙希は一時期、東京の父親の家に移っていました。彼女は手土産にケーキを買って、埼玉の母親の様子を見にいきます。母親は不在で、机の上には作り置きの手料理と葵宛てのメモが残されていました。

『葵へ おかえり! ママはお仕事でドラッグストアにいます。七時半までには帰るからね。ご飯を食べて待っていてね。今日は豚肉の生姜焼きにしたから、葵のためにキャベツをたくさん千切りにしておいたよ。明日は葵の大好物のエビフライ! ママ』

ごみ箱には同じようなメモが何枚も丸めて捨てられていました。沙希はケーキを二つしか買ってこなかったことを後悔します。母親と、自分のためのケーキでした。

『ママ&葵へ 目白から来たよ。会えなかったけど、また来るね。冷蔵庫にママと葵の分のショートケーキ買ってあるから、食べてね。それでは塾に行ってきます! 沙希』

沙希は母親に倣ってメモを書いて立ち去る……という場面です。

母親や沙希の心中を推察してくどくど書くような無粋はしませんが、胸に迫る場面でした。

ご覧のように本作における被害者家族は事件の悲惨さを強調するための(ただただ可哀想なだけの)キャラクターではありません。

血の通った、現実に重みをともなって存在している人間として、彼らは本当の意味で【リアルに】描かれていました。

だからこそ、です。

葵ちゃんが生きて戻ってきてくれた! とあれほど目頭が熱くなったのは、三年間の家族の葛藤をまざまざと目撃していたからこそ、だったのでしょう。

痛快なエンタメ小説とはほぼ正反対の、地味で刺激に乏しい、しかし、警察小説らしい感動のある一冊でした。

※もちろん主人公である奈良と妹・真由子のドラマもよかったです。

 

ぱんだ
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まとめ

今回は吉川英梨『雨に消えた向日葵』のあらすじネタバレ解説(と感想)をお届けしました!

  • 徒労ばかりの捜査
  • 奈良と妹のドラマ
  • 被害者家族のリアル

この三本柱からなる物語はどの部分を読んでも「現実らしさ」が滲んでいて、ときにフィクションであることを忘れそうになるほどでした。

刑事として、残された家族としての三年間。

その結末に待ち受ける事件解決では、それぞれの三年分の想いがどっと押し寄せてきて、不覚にも目が潤みました。

「ふだんはミステリばかりだけど、警察小説もたまにいいな」と素直に思わせてくれた一冊です。

ドラマ情報

キャスト

  • ムロツヨシ

ほか

放送日

2022年7月放送・配信スタート(全5話)

ぱんだ
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