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「空飛ぶタイヤ」あらすじとネタバレ!感動の結末とは?

WOWOWドラマ「空飛ぶタイヤ」を見ました!

原作は池井戸潤の小説。

硬派な社会・経済ドラマとしても見ごたえがあり、さらにヒューマンドラマとしても思わず号泣してしまうほどの感動作でした。

今回はそんな「空飛ぶタイヤ」のあらすじネタバレをお届けします!

無実の中小企業 vs 絶大な力で罪を隠す大企業!

果たしてその結末は!?

あらすじネタバレ

社員50人ほどの赤松運送を経営する2代目社長・赤松徳郎はその報告を受けて愕然とした。

『社員が交通事故を起こした。巻き込まれた被害者は命を落とした』

事故の詳細は次の通り。

  • 事故はタイヤが脱落したことで発生した。
  • トラックは法定速度で走っており、現場はゆるやかなカーブだった。
  • 亡くなった被害者は若い母親。連れていた幼い子供の目の前で命を落とした。

トラックを運転していた若い社員の安友は「わけがわからないうちに事故が起きた」と言う。

どうやら運転手に非があるわけではなさそうだ…。

となると、事故の原因はなんだったのだろうか?

 

事故原因を調査したトラックの製造元「ホープ自動車」が出した結論は『整備不良』

つまり、赤松運送の整備に問題があったということだ。

すぐさま赤松運送には警察の家宅捜索が入り、事故の件は全国に報道された。

その結果、赤松運送の仕事は激減。

倒産の危機に追い込まれてしまった。

このままでは遠からず資金繰りが滞り、会社は潰れてしまうだろう…。

 

そんな中、赤松は事故トラックの整備担当者がつけていた整備日誌を発見する。

その日誌によれば、該当車両は通常の基準よりも遥かに厳しく点検されていた。それも事故の前日に。

メーカーが分析した事故原因となった部品「ハブ」についても「問題なし」と記録されている。

担当整備士の門田は金髪にピアス…チャラチャラしていそうな男だったが、仕事には誰よりも真面目に取り組んでいたのだ。

 

赤松はその記録を根拠に「事故の原因は整備不良ではない」と確信。

ホープ自動車に「再調査」を強く依頼する。

しかし、ホープ自動車はこれを徹底的に拒否。

どんなに頼んだところで取り付く島もなく、再調査は行われなかった。

 


 

販売部カスタマー戦略課長・沢田悠太

赤松のクレームに対応した沢田は、かすかな違和感を覚えた。

(事故原因を調査した品質保証部が赤松運送のことをやけに気にしているような…?)

不信感を抱いた沢田は独自に品質保証部の『秘密』を調査。

その結果『T会議』の存在にたどり着いた。

 

「T会議」の「T」は「タイヤ」を意味している。

品質保証部と経営上層部によって開かれている「T会議」の目的は、一言でいうと『リコール隠し』

つまり、自社製品である車に重大な欠陥があると知りつつ、その事実を隠すための会議だ。

車には構造的な欠陥があるのだから、当然、全国で事故が発生する。

本来、メーカーはその欠陥を認めて「リコール」を発表しなければならない。

※リコール…設計や製造段階を原因とする不具合が特定の自動車に発見された場合、メーカーがその事実を発表し、該当する製品を無料で修理をする制度

だが、リコールには莫大な経済的損失が伴うし、社会的な信用度も失ってしまう。

先年、粉飾決済が露見して落ち目気味のホープ自動車としては、そのダメージは大きい。

そこでホープ自動車はリコールすべき問題を隠してしまうことにした。

幸いにも、警察から依頼されて事故原因を分析するのは製造元であるホープ自動車だ。

調査を担当する品質保証部が「事故原因は整備不良だ」と結論付ければ、誰もそれに気づかないし逆らえない。

「T会議」…それはまさしくホープ自動車が抱える爆弾であり、闇そのものだった。

 

沢田は考える。

(リコール隠しを外部から指摘されたら、この会社はお終いだ!)

それならばいっそ、内部告発という形をとった方が会社へのダメージは少なくて済む。

「T会議」に関わっていた経営陣、特にそのトップである狩野常務はただでは済まないだろうが、むしろ望むところだ。

内部告発によってホープ自動車の体質が改善され、もっと風通しのいい企業になったら…。

その時は、今のクレーム処理係ではなく、夢だった車の開発に携われるかもしれない。

沢田は赤松には「事故の原因は整備不良です。再調査はできません」と言いつつ、独自に「リコール隠し」の証拠集めを開始した。

 


 

ホープ銀行・井崎一亮

井崎は板挟みに苦悩していた。

ホープ自動車の狩野と、井崎の上司であるホープ銀行専務・巻田は癒着している。

巻田はホープ自動車の担当である井崎に「融資の話を進めろ。グループ企業なのだから当然だ。早く稟議を上げろ」と圧力をかけてくる。

だが、井崎にはどうしてもホープ自動車が融資に値する経営状態にあるとは思えない。

一方で、井崎は狩野が猫可愛がりしている姪の香織の婚約者でもある。

銀行マンとして融資を拒否したいが、しがらみが井崎を迷わせる。

(いったいどうすればいいんだ…?)

そんな中、井崎は大学時代の友人である記者・榎本から「ホープ自動車はリコール隠しをしている」という情報を入手する。

(やはりホープ自動車への融資は危険だ…!)

だが、銀行員もまた「組織の一員」

断固として融資を拒否する権利など井崎にはない。

井崎の苦悩は続く…。

 


 

赤松の決意

一方、赤松もまた事件を追う榎本と接触していた。

榎本は以前から同じようなタイヤの脱落事故が全国で起こっており、そのほとんどが『整備不良』だとホープ自動車に分析されていることを話す。

ホープ自動車への不信感を強めた赤松は「自分たちで事故の再調査を行うしかない」と決意。

そのためにはホープ自動車に保管されている部品「ハブ」を取り戻さなければならない。

赤松はホープ自動車にハブの返却を求めるが、返答は「それはできない」の一点張り。

だが、ハブの所有権はもともと赤松運送にある。

最悪の場合、法的手段に訴えれば勝てるはずだ。

赤松はホープ自動車に「このまま要求に応じないなら裁判にする」という旨の通告書を送った。

 

そんな中、赤松は逆に被害者遺族から裁判を起こされてしまう。

要求された慰謝料は1億5千万円。

とうてい赤松運送に払える金額ではない。

その上、メインバンクであるホープ銀行が「おたくの経営状態は危ない。現在融資している金は全額返してもらう」と宣告してきた。

銀行からの融資を取り上げられれば、それだけで会社立ち行かなくなる。

もちろん今さら他の銀行が金を出してくれるとも思えない。

もはや赤松運送にはいくばくの猶予も残されてはいなかった。

ホープ自動車相手に金も時間もかかる裁判など起こしている余裕はない…。

 


 

ある日、赤松運送にホープ自動車の担当者(沢田含む)が訪ねてきた。

「これまでのご無礼をお許しください。ハブはお返しします」

裁判にするという脅しが効いたのだ!と赤松は喜ぶ。

「しかし、社内調整のため、お返しするまでには時間が必要です。なので、その間の補償金をお支払いしたいと考えています。もしこの場で提案を受けて頂ければ、こちらには1億円をお渡しする用意があります」

1億円!1億円あれば銀行から金を取り上げられても経営を続けていける…!いや、それどころかお釣りがくる!

「ただ…もし社内調整がうまくいかなかった場合、その1億円をもって部品代ということにさせてください」

赤松はホープ自動車の「真の提案」に気づき動揺した。

(こいつらは部品を返す気なんかない!1億円で手打ちにしようとしているだけだ!)

正直、傲慢な提案を切って捨てたいところだが、会社が潰れてしまっては元も子もないのも事実。

道義的正しさと経営的正しさ。

赤松の心は揺れる。

社員も家族も限界だ。赤松を含め、誰もがもう終わりにしたいと強く望んでいる。

そして、赤松が出した結論は…

「お断りします」

まさかの言葉に驚愕する沢田たち。

赤松は憤然と立ち上がると、語気荒く大企業に宣戦布告した。

「赤松運送は、被害者のためにも、この事件の真相を必ず明らかにして見せる!」

誘惑に、金に、大企業に…赤松は屈しなかった。

 

もう後には引けない。バカな決断をした自分を信じてついてきてくれる社員や家族たちのためにも、勝つしかない!

頼みの綱はもうすぐ世に出るという榎本の記事。

ホープ自動車のリコール隠しを暴く記事が世に出さえすれば、赤松運送をとりまく状況も好転するはずなのだ。

そして、榎本が務める「週刊潮流」の発売日。

「え…なんで…なんでだよ…!」

朝イチで買った週刊潮流のどこを探しても、榎本の記事は掲載されていない。

急いで榎本に連絡する赤松。

「すみません…没になりました。もうあの記事が掲載されることはありません。…上の判断です」

悔しさを滲ませる榎本の声。

『圧力』という言葉が赤松の脳裏に浮かぶ。

ホープ自動車は週刊潮流に多くの広告を掲載しているスポンサーだ…。

 


 

沢田の葛藤

沢田は同僚の小牧とともに証拠集めを続けていた。

ターゲットは品質保証部課長の室井。

2人は室井のPCに不正アクセスして証拠を探すが、巧妙に隠してあってなかなか見つからない…。

そんな中、2人は室井の腹心の部下であり社内のネットワーク管理者でもある杉本に企みを看破されてしまう。

沢田は処分を覚悟したが…

「私も社の体質を変えたいと思っています。週刊誌記者(榎本)にリコール隠しの件をリークしました」

杉本もまた「T会議」に疑念を抱く同志だった。

3人は協力体制をとることに。

杉本の協力により「リコール隠し」についての証拠は揃った。

あとはこのことを「T会議」の存在を知らない社長に直訴すれば…!

沢田はリスクを覚悟で、社長に直談判する覚悟を決める。

今まさに社長室に向かおうという、その時…

「沢田君、ちょっといいかね」

上司に指示されて向かった先は人事部。

「沢田君、商品開発部に来ないか?」

この一言が、沢田の心をかき乱した。

 

もちろん沢田にはわかっている。

これが狩野や室井が仕掛けた罠であることは。

狩野はどこからか沢田たちが反旗を翻そうとしていることをつかみ、懐柔策に打って出たのだ。

「ずっとやりたかった仕事なんだろう?やらせてやる。だからもう何もするな」と。

悔しいが、効果は抜群だ。

車の開発は、沢田の夢。車を開発するために、沢田はホープ自動車に入社した。

だが、だからといって社の不正に目をつぶってしまっていいのか?

自分の夢と、自分の魂。

どちらを選択する…?

赤松と同様、沢田にも戦いに疲れ「もう終わりにしたい」という気持ちがある。

赤松は魅力的な提案を愚かにも断ったが、自分はそんなに愚かではない…。

 

沢田は自分の夢を追うため、商品開発部への異動を受け入れ、戦いを諦めることに決めた。

(夢を追うことの何が悪い?)

沢田は少しの罪悪感を抱きつつ、長年温めていたアイデアを形に出来ると期待に胸を膨らませていた。

 

結局、杉本がリークした『リコール隠し』についての記事は掲載されなかった。

狩野が手をまわして記事を差し止めたのだ。

杉本には人事命令が下り、大阪に飛ばされることになった。

 


 

赤松の闘い

「相手がどんなに大きくても、泣き寝入りなんかしないで、間違ってることは間違ってるって言いたいんだよ俺は!」

赤松は榎本に頼み込み、榎本が独自に調査した「過去のホープ自動車製車両不審事故のリスト」を手に入れる。

相変わらずハブは帰ってこない。暴露記事は世に出ない。

赤松は独自にホープ自動車の『秘密』を調べ、それによって自身への疑いを晴らすことにしたのだ。

 

全国で過去に起きた不審事故。

今回の件と同じく『整備不良』と分析された運送会社を巡る日々が始まった。

「真実が知りたい」と週刊潮流を辞めてフリー記者になった榎本もそれに同行する。

…だが、どの運送会社も赤松たちを歓迎しなかった。

「過去の事件だから」「もう忘れたい」「恥ずかしくないのか?」

心無い言葉が容赦なく赤松に降り注ぐ。

リストにある会社をほぼ回り切り、成果ゼロのまま終わりを迎えようとしていたその時…。

赤松運送に分厚い書類が届いた。

書類の1枚目には、送り主から赤松へのメッセージが記されている。

『この書類には私の魂がこもっています。真実を明らかにしてください。相沢』

送り主は過去の事故で車両の整備を担当していた人物。

彼もまた独自に事故原因とホープ自動車の『秘密』について調査し、真実に辿りついていたものの、会社の方針によってずっとそれを公表できずにいたのだ。

「自分にも家族がいるから…」と最初は赤松への協力を拒んだ相沢だったが、赤松の情熱が届いていたのだろう。リスクを承知で手元の調査資料を送ってきてくれたのだ。

さっそく赤松たちは調査資料を分析。

「こ、これは…!」

その結果、ずっと求めてきた『真実』にたどり着いた。

 


 

赤松は相沢の資料を手にホープ自動車に乗り込んだ。

「何度も言っているでしょう。我が社の調査は完璧です。再調査は必要ありません」

そう語る品質保証部の室井の横には、沢田の姿もあった。

赤松は「原因はホープ自動車の方にある。車両に欠陥があったんだ!」と語気を荒くして詰め寄るが、室井は涼しい顔で「そんなことはありません。整備不良です。それに車両は老朽化するんです」ととぼけ続ける。

だが、赤松は怯まない。これは、むしろ望み通りの展開だ。

赤松は調査資料を鞄から取り出し、室井たちの前に叩きつけた。

「これはある交通事故車両の資料だ。原因はホープ自動車側にあった。車に構造的欠陥があったんだ」

「だから、それは整備不良が原因で…」

「新車だったんだよ!」

赤松の一言で室井たちの顔色がさっと変わる。

「この事故車両は購入後わずか一カ月!走行距離たった200kmの新車だったんだよ!」

おどおどと焦った様子の室井たちが資料を読み漁っている。

「それでもお前らは、その車は整備不良だったって言うつもりか!?」

もちろんそんな話は通らない。資料は完璧に「リコール隠し」を証明しているのだから。

 

ホープ自動車を去った後、赤松は警察に資料を届けた。

ずっと赤松を疑っていた刑事・高幡も、資料を見てやっと真実に気がつく。

その結果、警察はホープ自動車を家宅捜索。

社内のあらゆる資料を押収した。そして、その様子は全国に報道された。

 


 

沢田の決断

商品開発部に異動したまでは良かったが、所詮は狩野の手のひらの上。

いくら企画を提案しても通らない。

会議ではろくに検討もされず却下されているらしいと聞き、沢田は自身の身の上を嘆いた。

そんな沢田の目の前に現れたのは、リコール隠しの証拠を掴んだ赤松。

赤松は最後まで自身の正義を貫き、ついにホープ自動車の喉元を刺した。

その結果、ホープ自動車には家宅捜索の手が入った。

 

…だが、狩野もまた手練れである。

室井から報告を受けた狩野は即座に社内の「T会議」に関する全データを消去させた。

家宅捜索から1週間。

いまだに警察は押収した資料の中から有力な手掛かりを見つけられないでいる。

どうやら赤松が握っている資料についても嘘八百を国交省に並びたてて乗り切るつもりのようだ。

また、狩野は重要証拠である赤松運送のハブも勝手に処分させていた。

…真相は闇の中。

家宅捜索が報道されたことでホープ自動車の売り上げは激減したが、ホープグループの一員である以上、グループ企業からの援助が期待できる。

これだけの事態になっても、ホープ自動車が潰れることはないのだ。

 

闘いを手放してしまい、夢も潰えてしまった。

沢田は複雑な心境で不気味に君臨し続けるホープ自動車のこと、そして今後の自分の運命について想いを馳せた。

 


 

そんな中、出向前の杉本が沢田に会いに来た。

杉本は一台のPCを沢田に差し出す。

「これは…!」

そのPCの中には「T会議」の議事録はじめ、杉本が全力で収集した不正の証拠の数々が保管されていた。

杉本は「どうするかは任せる」と言って、そのPCを沢田に託す。

…病気で入院している母を持つ杉本は、今、職を失うわけにはいかない。表立って内部告発することはできない。

だから、かつて一緒に闘った沢田にすべてを託したのだ。

 

…沢田は悩んだ。

沢田にも家庭があるし、何よりまだ車をつくりたいという夢を諦めたわけじゃない。

だが、杉本の魂が詰まったPCを預かった以上「闘わない」という選択もできない。

気がつくと、沢田は目的もわからないまま赤松を訪ねていた。

赤松は1億円の金を蹴ってまで信念を貫いた。沢田はずっとそんな赤松のことを内心バカにしていたが、ついに赤松は確固たる証拠にまでたどり着いてしまったのだ。

…一体、何が赤松をそうさせたのか?

沢田は赤松に問う。

「金より大切なことなんて、いくつもあるだろ」

赤松から手渡されたのは、被害者遺族である幼い子供が書いた手紙。

『かみさまへ ママにもういちど あいたいです』

子供らしい絵柄で描かれた母親の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

沢田は涙をこらえることができなかった。

 

迷いは晴れた。

沢田は警察に杉本から託されたPCを届ける。

妻にはすべてを話したが「それでいいのよ」と笑って受け入れてくれた。

今後、社内に沢田の居場所はなくなるかもしれない。それは承知の上だ。

それでも、警察に証拠を提供した沢田の顔は晴れやかだった。

 


 

結末

家宅捜索からいくら待っても新たな報道はない。

このままではホープ自動車に裁判で勝つより先に、赤松運送は倒産してしまうだろう。

せっかくここまで来たのに…。家族も社員も自分を信じてついてきてくれたのに…。

意気消沈する赤松に、妻は「またイチから出直しましょう。四畳一間でもいいじゃない!」と明るく言う。

「私、今回の事でつくづく思ったの。あなたと結婚して本当に良かったって」

苦境に立たされたからこそ見えた本当の絆もある。社員や家族との絆は今回の事件で確かに深まった。

だが、それでも負けてしまっては意味がない。

「悔しいなぁ…」

滅多に人前で見せない涙を目に浮かべて、赤松は妻にそうつぶやいた。

 

沢田が訪ねてきてから数日後、刑事・高幡が赤松を訪ねてきた。

高幡は深々と頭を下げる。

「本当に申し訳あり合せんでした。これまでのご無礼をお許しください」

聞けば、ついにリコール隠しの決定的証拠が見つかったのだという。

それにより、赤松運送への容疑は完全に晴れたのだ。

高幡が帰った後、赤松と妻は玄関口で泣きながらお互いを抱擁した。

「どうしたの…?」と起き出してきた息子に妻が告げる。

「お父さんの無実が証明されたの。お父さん、勝ったのよ」

涙はいつまでも湧き上がり、赤松の頬を流れ落ちていった。

 

それから間もなく、狩野が逮捕されたと全国に報道された。

それにより遺族からの訴えは取り下げられ、赤松運送の業績も順調に回復。

危機は去った。

正義は成され、赤松運送に再び活気が戻っていく。

 


 

沢田と井崎

グループ企業からの救済はなく、ホープ自動車はセントレア自動車に吸収された。

沢田はそのまま会社に残れることになり、杉本も出向先から呼び戻されることになった。

大団円だ。

一緒に組織の闇に立ち向かった小牧が言う。

「さて、次は何をやらかそうか?」

「勘弁してくれよ」

2人の笑い声が、風通しのいいオフィスビルに響いた。

 

一方、ホープ銀行の井崎。

井崎は結局、銀行マンとしての誇りにかけてホープ銀行への融資を断っていた。

一時は「それも想定内だ。君はチャンスを無駄にした。どのみち金を引っ張る準備は出来ているんだよ」と狩野と巻田から宣告され絶望したものの、井崎は諦めなかった。

最終的にホープ自動車へのグループ企業援助が成されなかったのは、井崎が手をまわしたからだ。

今回の事件を受けて、狩野と癒着していた巻田も失脚するだろう。

唯一気がかりなのは、ケンカ別れしてしまった婚約者の香織のことだが…。

 

ある日、井崎は拘置所の狩野に面会しに行った。

狩野は言う。

「ホープ自動車に勤める社員とその家族。何万人もの人々を守るため、仕方がなかったことだ」

「それでも、罪もない人を犠牲にすることは許されません」

狩野は根っから悪人というわけではない。ただ方法を間違えてしまったのだ。

「狩野さん、本当のコンプライアンスとは企業を守るのではなく、人を守るためのものではないでしょうか?」

面会からの帰り道、偶然香織と再会した井崎。

香織はなんだかバツが悪そうな顔をしている。

そんな香織に井崎は「ここで待っていてもいいかな?」と声をかけた。

今回の事件があったからといって、香織への愛情に何ら変わりはない。

これからは夫として狩野の分まで香織を守ろうと、井崎は決意した。

<空飛ぶタイヤ・完>

 


 

感想

ドラマ「空飛ぶタイヤ」を見た感想は「感動した!」の一言に尽きます。

被害者遺族が涙ながら赤松に「なんで妻が…!」と詰め寄るシーンには胸を締め付けられましたし、赤松が執念の果てにつかみ取った資料を「新車だったんだよ!」と叩きつけるシーンには胸が熱くなりました。

そして極めつけは赤松がついに無罪を勝ち取った場面!

万感の思いが込められた赤松の涙からは、とても言い表せないほどの感動が伝わってきて、見ているこっちも気づけば号泣していました。

喜怒哀楽、とにかく「空飛ぶタイヤ」は感情をぐらぐらと揺さぶってくるような強い力を持つ作品だと思います。

 

魅力的なキャラクターたち

「空飛ぶタイヤ」の登場人物はみんな魅力的!

赤松は気が短く熱くなりやすい性格ですが、真っすぐ情熱的に問題に立ち向かうその姿勢は本当に「カッコいい!」と言わずにはいわれないほど。

一方の沢田は現実主義者で冷めた部分もあるのですが、そんな沢田だからこそ、最後に自ら内部告発するシーンには心揺さぶられるものがありましたね。

沢田の在り方も社会人として非常に「カッコいい」ものでした。

そして、忘れてはならないのがそんな男たちを支える妻や子供、社員や仲間の存在。

赤松も沢田も、きっと1人では最後までことを成し遂げられなかったでしょう。

中でも特に彼らの原動力となったのは、やはり家族。

夫に寄り添い、保身よりも正義や信念を大事にしてほしいと言い含めた妻の存在があったからこそ、男たちは最後まで頑張ることができたのだと思います。

映画「空飛ぶタイヤ」でも主人公級の赤松や沢田はもちろん、その2人を支える家族や仲間たちにも注目ですね。

 


 

多面的なテーマ

実は「空飛ぶタイヤ」のストーリーは実話がモデルになっています。

映画「空飛ぶタイヤ」のモデルになった三菱自動車の実話とは?長瀬智也さんが主演したことでも注目された映画「空飛ぶタイヤ」 原作は池井戸潤さんの小説ですが、実は実話がモデルになっていることをご...

誰もが知るような、誰もが無条件に信頼を寄せているような大企業が平然と中小企業に罪を押し付け、自らの利権を守っていたという信じられない事実。

この事実を知ったというだけでも、

・企業とは、どう在るべきなのか?企業のコンプライアンスとは?

・社会の一員として成すべき正義とは?組織に追従するだけで本当にいいのか?

など、いろいろと考えさせられますよね。

 

また、焦点を赤松や沢田個人に当ててみると「個人 vs 組織」あるいは「中小企業 vs 大企業」という構図のなかで何を考えて、どう行動するのか?というテーマも見えてきます。

・金で懐柔されることを拒み、最後まで自分の信念と正義を貫いた赤松

・自分一人の保身よりも、社会的な動議を優先させて内部告発した沢田

彼らの行動は見ているこちらに勇気と教訓を与えてくれました。

「空飛ぶタイヤ」の場合、何よりも人の命が犠牲になっています。

いかに自分の立場がまずくなろうとも「間違ってることは間違ってる!」と声を大にして言えるような社会人でありたいものですよね。

そういう意味で「空飛ぶタイヤ」は、言いたいことを言えずに抱え込んでいる社会人にこそ読んで(見て)欲しい作品です。

赤松ほど大胆な行動には出られないかもしれませんが、大事な気づきや勇気が得られるかもしれません。

 

最後に触れておきたいのは、人間ドラマとしての「空飛ぶタイヤ」

経済ドラマというジャンルに分類されるであろう「空飛ぶタイヤ」ですが、登場人物たちが織り成す人間ドラマについても要注目!

例えば、事件が起こった後、赤松運送では社員が次々に辞めていきました。

一方で、最後まで残った社員は「給料は要りません。社長、頑張りましょう!」と赤松を励まし支え続けました。

苦境に立たされているからこそ見えてくる本当の絆。

何もなくなってしまってもなお傍にいてくれる人こそ、本当に大切にすべき人ですよね。

赤松にとってそれは、心から自分のことを慕ってくれている社員であり、父親の正義を尊敬してくれている息子であり、最後まで夫を信じ続けてくれた妻でした。

苦しい状況だからこそ、むきだしの言葉で本音をぶつけ合って、そのありがたさが痛感できる。

「空飛ぶタイヤ」はそんな『本当の人と人との絆』を描いた作品でもあったのだと思います。

 


 

まとめ

今回はドラマ版「空飛ぶタイヤ」をベースに、あらすじや結末のネタバレ、感想などをお届けしました。

無実の罪を証明しようと無謀にも大企業に立ち向かう中小企業社長・赤松!

組織の一員でありつつ自社の「悪」を内部告発しようとする沢田!

大企業の持つ絶対的な権力に挫けそうになりながらも、最後は逆転特大ホームラン!

正義は勝つ!を体現するように、ホープ自動車の「リコール隠し」は露見し、それを牽引していた狩野常務は逮捕されました。

赤松は何度も何度も大企業のズルさに心折られそうになりますが、最後まで信念を曲げず、勝利を手にします。

一つ一つの攻防が非常にリアルで、実に見ごたえのある作品でした。

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