早見和真「イノセント・デイズ」がドラマ化!
主演の妻夫木聡さんが企画段階から携わっているということでも話題になりました。
以下は、妻夫木聡さんが原作小説に寄せたコメントです。
早見さんの小説の中で一番大好きな作品がこの『イノセント・デイズ』でした。人間にとって幸せとは何なのか、幸せの定義を求められた時、僕には答えがなかった。だせるわけもないんです。幸せに定義なんてないのかもしれない。でも、ただただ信じていたい、そんな気持ちにさせられました。
わたしは小説を読んだのですが、この妻夫木さんのコメントには大いに共感しました。
「イノセント・デイズ」はミステリー小説としてももちろんおもしろいのですが、それ以上に「考えさせられる」タイプの作品なんですよね。
特にあの衝撃的な結末を読み終えた後は、確かに「幸せって何?」と自問したくなります。
というわけで今回はドラマもされた小説「イノセント・デイズ」のネタバレ解説と感想をお届けします!
不審な点が残る凶悪事件の真相とは?
そして、衝撃度120%の結末とは!?
あらすじ
『放火により元恋人の妻と幼い双子の娘の尊い命を奪った』
被告・田中幸乃に下された判決は「死刑」
事件当時、彼女は元恋人・井上敬介にストーカー行為を繰り返していた。
また、事件当日も彼女は現場近くで目撃されている。
取り調べでは素直に罪を認めており、第一審で極刑判決が出たにもかかわらず控訴はしていない。
ニュースでは事件の凶悪さと一緒に、彼女の不幸な生い立ちも紹介された。
劣悪な家庭環境。
中学時代の強盗致傷事件。
事件の3週間前に受けた整形手術。
報道を見た人々は口をそろえて言った。
「なんか、いかにもだよね」
ありふれた不幸な女が引き起こした、どうしようもない凶悪事件。
その認識に疑問を挟むものはいなかった。
…実際に彼女に関わった人々を除けば。
中でも彼女に関する『ある秘密』を知っている幸乃の幼馴染・佐々木慎一は報道を見てすぐに「あの子はやってない」と直感した。
果たしてこれは冤罪事件なのか?
だとしたら真犯人は?
なぜ幸乃は弁解しないのか?
その秘密の全ては『田中幸乃の本当の歴史』を知ることでしか明らかにならないだろう。
主な登場人物
田中幸乃
死刑囚。判決から6年が経過しており、いつ刑が執行されてもおかしくない。30歳。
佐々木慎一
幸乃の幼馴染。元ひきこもり。
幸乃の無罪を直感し、事件の全貌を明らかにすべく行動する。
丹下翔
幸乃の幼馴染。弁護士。
幸乃の支援者ではあるが、慎一とは異なり犯人は幸乃だと思っている。
井上敬介
幸乃の元恋人。被害者遺族。
夜勤に出ていたため放火には巻き込まれなかった。
草部老人
井上家が入居しているアパートのオーナー。
幸乃とは面識があり、比較的同情的な立場。
謎の老婆と金髪の少年
裁判の傍聴席で目撃されている。
当時、老婆はしきりとメディアに出演し、幸乃の凶行を批判していた。
佐渡山瞳
女性刑務官。幸乃のことを気にかける。
小説「イノセント・デイズ」の構成について
小説「イノセントデイズ」は全7章にプロローグとエピローグを加えた計9つの区切りで構成されています。
1章~5章までが「第一部・事件前夜」
6章と7章が「第二部・判決以後」
プロローグの段階ですでに物語の中心人物「田中幸乃」には極刑判決が下されていて、第一部では「幸乃の生い立ち~事件当日まで」が、第二部では「判決~刑の執行まで」が描かれています。
なお、各章ではそれぞれ語り部(視点)が変わっていきます。
複数の人物の視点から「田中幸乃」の人物像と半生が語られていく構成がこの作品の大きな特徴の1つなんですね。
今回はそんな内容を簡潔に整理しつつ、重要なネタバレ部分のみに焦点を当てて解説していきたいと思います!
※しっかり物語の進行を追いたい方や詳しい内容を知りたい方は、こちらの記事をどうぞ!
ネタバレ解説【第一部】
「イノセント・デイズ」中盤までの面白いところは、プロローグで提示された「田中幸乃の人物像」がどんどん覆っていくところです。
以下は各章のタイトルにもなっている裁判長の言葉なのですが、実際の内容と照らし合わせてみると「全然真実と違う!」ということがわかってきます。
では、田中幸乃の人物像にどのような『ズレ』があるのか、ちょっと見ていきましょう。
「覚悟のない十七歳の母のもと――」(1章)
⇒ 幸乃の母は確かに十七歳という若さで子供を産んだが、十分に母としての覚悟を持っていた。
「養父からの激しい暴力にさらされて――」(2章)
⇒ 幼い頃、幸乃は幸せな家庭で愛されて育った。養父が幸乃に手を上げたことは事実だが、それは1度だけのこと。妻(幸乃の母)を事故で失ったショックから酒に呑まれ、ついそうしてしまった。
「中学時代には強盗致傷事件を――」(3章)
⇒ 強盗致傷事件の真犯人は幸乃の友人だった小曽根理子。幸乃は理子をかばって身代わりになっただけ(慎一だけがこの秘密を知っていた)
「罪なき過去の交際相手を――」(4章)
⇒ 幸乃の恋人だった井上敬介は最低な男だった。家では幸乃に暴力を振るい、外では幸乃の金でギャンブルに興じる日々。最後には二股していた相手である美香(後の妻)を選び、一方的に幸乃を捨てた。
「その計画性と深い殺意を考えれば――」(5章)
⇒ 事件当時、幸乃は抗不安剤の過剰摂取で意識がもうろうとしていた。事件時の記憶もあやふやな状態。少なくても幸乃には計画性や放火の意図はなかった。それどころか、幸乃は草部老人との対話を通じてストーカー行為をやめて生まれ変わることを決意していた。整形手術を受けたのは逮捕から逃れるためではなく、新しい自分に生まれ変わるためだった。
プロローグで提示された幸乃の人物像は「不幸な生い立ちから道を外れてしまった典型的なダメ女」というものでしたが、物語が進んでいくにつれて、読者は「あれ、なんか違うぞ?」ということに気づいていきます。
では、『本当の幸乃の人物像』はどのようなものなのでしょうか?
キーワードとなるのは「必要とされたい」という願い(渇望)
母の他界をきっかけに幸乃の人生は狂いはじめ、天使のような少女だった幸乃はそれこそ薄幸を絵にかいたような女の子に育っていってしまいます。
そんな中、一貫して彼女が欲したのは『誰かに必要とされること』でした。
親から、友人から、恋人から必要とされたい。
幸乃はそんな当たり前のことだけを望み…結果として信じた人からことごとく裏切られるという凄惨な人生を歩むことになりました。
養父からは1度きりとはいえ暴力を振るわれ、その後幸乃を引き取った祖母からはやがて疎まれるようになり、唯一の友人だった理子からは身代わりにされ、最後に信じた恋人からは酷い目にあわされた上に一方的に捨てられて…。
これだけ運命に弄ばれれば、誰だって人生に絶望することでしょう。
そんなどん底に突き落とされてもなお、幸乃は草部老人との対話から「新しい自分に変わりたい。人生をやり直したい」と再び前を向くことができたのです。
このことからも、いかに田中幸乃が「善良で芯の強い人物」だったか…言い換えれば「純真無垢(イノセント)な人物」だったかが見て取れます。
以上のような『本当の田中幸乃の人物像』にたどり着いた時、読者はこう疑問に思わざるを得ません。
「本当に幸乃が事件の真犯人なのか?」
幸乃を真犯人たらしめているのは、要するに「自ら罪を認めているという事実」です。
では、もし幸乃が何らかの理由で嘘を吐いていたのだとしたら?
中学生の時、友人をかばって捕まり施設に入れられたように、今回も本当は無実なのでは…?
物語中盤まで進んだ多くの読者は「これは冤罪だろう」とほとんど確信に近い予感を抱くことでしょう。
そして同時にこう思うはずです。
「最後にはきっと無実が証明されるはずだ」
「しかし、なぜ幸乃は本当のことを言わないのか?」
物語の終盤(第二部)ではそのあたりの事情が徐々に明らかになっていきます。
ネタバレ解説【第二部】
第二部最大の見せ場といえば、幸乃を助けるために奔走していた佐々木慎一がついに事件の真相にたどり着くシーンでしょう!
判決から6年が経過し、いつ幸乃の刑が執行されてもおかしくない状況の中、慎一がたどり着いたのは裁判の傍聴席にもいた「謎の老婆(江藤)」
長い沈黙を破り、決意を固めた老婆は事件の全貌を明らかにしたのでした。
「あの事件の本当の犯人は田中幸乃さんではありません」
老婆が語った事件の本当の概要は次の通り。
・真犯人は江藤の孫である浩明と、その仲間の不良グループ
・不良グループの本当の狙いは草部老人だった。動機は公園で説教されたことに対する仕返し。
・不良グループは「草部」と表札の出ている部屋に火をつけたが、その部屋に住んでいたのは井上家だった(幸乃のストーカー行為への対策として井上家と草部家は表札を入れ替えていた)
・その日は空気が乾燥しており、火事は少年たちの予想を超えた規模にまで発展してしまった。
結論から言えば、やはり幸乃は1ミリも事件に関与していなかったのです。
当日、幸乃がアパートの前にいたのは衝動的な行動の結果であり、美香と目が合った後はそのまま帰っただけ。
つまり、冤罪。
幸乃は無実の罪で逮捕され、極刑を言い渡され、6年間も服役し続けてきたのでした。
その後、浩明少年は良心の呵責から自首しようとしましたが、江藤老婆はそれを許しませんでした。
浩明とは縁もゆかりもない「田中幸乃」という女が、なぜか真犯人だということになっていたからです。
老婆は孫可愛さから幸乃を身代わりにすることを決意し、メディアに出ては目撃証言や幸乃を批判するコメントを繰り返しました。
しかし、浩明少年は見知らぬ人間を身代わりにしたという罪の重さに耐えられず、後にバイク事故で他界。
その3回忌を終えたことで、老婆は真実を公にすることにしたのだと慎一に語りました。
9月15日。
慎一が真実に辿りついた秋の日、まだ「幸乃の刑が執行された」というニュースは流れていませんでした。
「本当に間に合った」
慎一のつぶやき通り、老婆の証言により幸乃の無実が証明されてハッピーエンド!
7章のラスト、きっと読者の誰もがそんなエピローグを確信してほっと一息をついたことでしょう。
しかし、まだ今回の事件に関してある意味最大の謎が残されていることに、もしかしたらあなたはモヤモヤしているかもしれませんね。
「なぜ幸乃は自分が犯人じゃないと口にしないのか?」
前述の通り、幸乃と真犯人である不良グループとの間にはなんのつながりもありませんでした。
中学生の事件のときのように「誰かをかばっているから」というもっともらしい理由は成立しないのです。
「幸乃はなぜ容疑を否認しなかったのか?」
「結末はどうなったのか?」
次はいよいよ衝撃の結末へと至る【エピローグ】のネタバレ解説です!
ネタバレ解説【エピローグ】
エピローグで描かれているのは、なんと幸乃が処刑される日の様子!
「え、慎一は間に合ったんじゃないの!?」
という疑問を抱えながら、読者は女性刑務官・佐渡山瞳視点の物語を読み進めていくことになります。
瞳は幸乃が無実であることに気づいていて、なんとか幸乃の処刑を先延ばしにできないかと行動しますが…あえなく失敗。
というのも、瞳は言葉で幸乃を追い詰めて「持病の失神」を起こすことで刑を中断させようとしたのですが、その幸乃自身が歯を食いしばって気を失うことを拒んだのです。
では、なぜ幸乃は無実なのにそんなに一生懸命になってまで裁かれようとしているのでしょうか?
その答えとして、幸乃が瞳に言った台詞をご紹介しましょう。
「もう怖いんですよ。佐渡山さん。もし本当に私を必要としてくれる人がいるんだとしたら、もうその人に見捨てられるのが恐いんです。それは何年もここで耐え忍ぶことより、命を失うことよりずっと恐いことなんです」
信じた人から裏切られ続けた人生の果てに、幸乃はいつしか「もうすべてを終わらせてしまいたい」と願うようになりました。
しかし、だからといって自分で自分の命を終わらせるという行為は容易ではありません。
そんな幸乃にとって、誤認逮捕されたことは「自動的に自分の命を終わらせることができるチャンス」だったのです。
だから幸乃は「自分は犯人じゃない」と言わなかったし、控訴をしない一方で一切の反省を見せなかったんですね。
そしてまさに今、幸乃が懸命に失神を拒んだのも「自分の命を終わらせるという人生最大の願いを叶えるため」
そうして力を振り絞って自分自身と闘った幸乃は…最後の最後でやっと悲願を叶えることに成功しました。
そう、幸乃は処刑されたのです。
奇しくも幸乃の人生に幕が下りた日の日付は「9月15日」
慎一が真相にたどり着いたその日に、幸乃は処刑されてしまっていたのです。
慎一は思わず「間に合った」と口にしましたが、実はほんのわずかな差で幸乃の願いの方が先に「間に合って」しまっていたんですね。
感想
何といっても衝撃的だったのは、やっぱり幸乃が望んで処刑されたという結末ですよね。
「なんだかんだ最後には慎一が幸乃を助けてハッピーエンド」だと思っていたので「そんな!裏切られた!」という気持ちが強かったです。
エピローグまでの流れは完璧に私が期待していた「ハッピーエンド」への道のりを辿っていて、なんならエピローグは「幸乃はもう一度だけ人(慎一)を信じることができました。2人は末永く幸せに暮らしましたとさ」というものだと予想していただけに本当にショックな結末でした。
言ってしまえば『救いがない』
不幸続きの幸乃の人生が報われないまま幕を閉じてしまうなんて…。
たった一日の差で間に合わなかった慎一は、その日の夜の報道を見ていったいどうなってしまうのだろう…?
読み終わった後の感想…というか感情は『無力感』一色でした。
で、その後に湧いてきたのは『怒り』
幸乃を散々酷い目にあわせてきた理子や敬介がのうのうと生き延びているということが許せませんでしたし、老婆の決心が遅すぎた…というより最初から浩明を自首させなかったことにふつふつと怒りがこみ上げてきました。
とはいえ、全てはもう後の祭り。
感情は一周して再び『虚しさ』『無力感』に逆戻り…。
しかし、時間をおいて考えてみると、あの結末には「別の捉え方」があるのだということに気がつきました。
それは「幸乃にとってあの結末は決してバッドエンドではなかった」ということです。
幸乃の立場に立って考えてみると、彼女は最後に「心からの願い」を叶えることができたわけですし、もう人を信じることはできなかったとしても「慎一から必要とされている」という事実そのものは幸乃にとって嬉しいものだったのではないでしょうか。
※その証拠に、幸乃は処刑されるその時まで慎一からの手紙を握りしめてしました。
そう考えると、むしろ周囲の干渉によって望まぬまま生きながらえてしまうことこそが幸乃にとってのバッドエンドだったのでしょう。
それを自身の意志で回避し、しっかりと本懐を遂げられたのですから、幸乃はきっと満足して最期の時を迎えたはずです。
※「棺の中の彼女の表情には一点の曇りもなかった」(by佐渡山瞳)
このあたりが妻夫木さんのコメントにあった
人間にとって幸せとは何なのか、幸せの定義を求められた時、僕には答えがなかった。
という部分につながってくるのでしょうね。
読者(そして慎一)の視点はともかくとして、物語の中心人物である幸乃自身が満足している以上、「イノセント・デイズ」の結末は悲しく切ないものではあれど、決して「不幸なラスト」でも「イヤミス的な終わり方」でもなかったのだと思います。
かといってもちろん「ハッピーエンド」だったとは思いませんし、この結末の受け取り方はきっと人それぞれなのでしょう。
誰に最も感情移入していたかによって感じ方は大きく変わってくるでしょうしね。
私の場合は慎一に感情移入していたので「この後の慎一はどうなってしまうのか…」ということばかりが気になり、暗い気持ちになりました。
しかし、それはあくまで「イノセント・デイズ」という複雑な物語の終わりに対する「1つの捉え方」でしかありません。
「この物語を読み終えた時、いったい自分はどんな感情を抱くのか?」
気になった方は、ぜひご自身の目で確かめてみてください!
まとめ
今回は早見和真「イノセント・デイズ」のネタバレ解説や感想をお届けしました!
こういう「最初に提示された事実」が過去の回想の中でどんどん覆っていくタイプの構成は読んでいて面白いですよね。
「イノセント・デイズ」の場合、そのままハッピーエンドに向かうと油断させておいて、なんとエピローグでもう一度事態をひっくり返すという仕掛けが衝撃的で、読んでいて本当に「えっ、まさか、なんで!?」と声が出てしまいました。
妻夫木さんが「幸せとは何か?」と自問自答したように、「イノセント・デイズ」はかなり深いテーマを含んだ『考えさせられる1冊』だと思います。
「読書体験を通じて物事や自分の人生について考えたい」という方に特におすすめです。
ドラマ『イノセント・デイズ』の配信は?
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