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東野圭吾「人魚の眠る家」感想とネタバレ解説!【映画原作小説】

東野圭吾「人魚の眠る家」を読みました!

テーマは「脳死」

答えの出ない深い問題をめぐる物語は、読んでいてとても考えさせられました。

というわけで今回は小説「人魚の眠る家」の感想と解説をお届けします!

※結末までのネタバレを含むので、ご注意ください!

あらすじ

「瑞穂がプールで溺れた!」

離婚直前の播磨夫妻に入った悲報は、小学校にも上がっていない愛娘の水難事故。

瑞穂はすぐに病院に運び込まれたが、一歩遅かった。

医師による「おそらく脳死しています」という最悪の宣告が夫妻に重くのしかかる。

夫妻に与えられた選択肢は二つ。

・脳死判定を受け、臓器提供に同意する

・このまま延命治療を続け、遠くない心停止を待つ

最終的に夫妻が選んだのは、延命治療の道だった。

通常なら、どんなに長くても1ヶ月以内には体の機能が停止する。

しかし、中には「長期脳死」と言われる稀有なケースもある。

1ヶ月が過ぎ、半年が過ぎ、1年が過ぎた。

瑞穂の心臓は動きを止めない。

薫子は全身全霊をかけて瑞穂の介護を続けていくが…。

小説「人魚の眠る家」あらすじネタバレ!感動の結末とは?東野圭吾さんといえばミステリー小説のイメージが強いですが、「人魚の眠る家」は深いテーマを扱ったヒューマンドラマです。 今回は映画化...

 

登場人物

播磨薫子

瑞穂の母。瑞穂の在宅介護にすべてを捧げる。

播磨和昌

瑞穂の父。自身が社長を務める「ハリマテクス」では障害者のための器機を開発している。

瑞穂

プールで溺れ、二度と目覚めない状態に。心臓は動いているが、意識はない。

生人(イクト)

瑞穂の2歳下の弟。

千鶴子

薫子の母。プールでの監督責任を気に病み、残りの人生を瑞穂の介護に捧げる。

美晴

薫子の妹。

若葉

美晴の娘。薫子の姪。瑞穂と一緒にプールにいた。

星野祐也

ハリマテクスの若き研究者。

播磨夫妻の頼みにより、瑞穂の介護用装置を開発する。

進藤

医師。

 


 

「人魚の眠る家」に学ぶ脳死と臓器移植

感想にも関わることなので、先に作中で説明されていることの解説から始めたいと思います。

※わかりやすさを重視した解説です。表現として微妙な部分があればご指摘ください。

 

脳死とは?

言葉通り『体(心臓)は生きてるけれど、脳(大脳と脳幹)は死んでいる』状態です。

・大脳…知覚・記憶・判断などを司る

・脳幹…呼吸・循環機能の調整などを管理

これらの脳機能が回復不可能な段階まで機能低下することを『脳死』といいます。

大脳の機能低下により意識(精神活動)はなく、脳幹の機能低下により自発呼吸は不可能。

この段階から回復する可能性はありません。

海外では「脳死=人の死」と認められているので、脳死が認められた段階で治療は打ち切られます。

一方、日本ではちょっと変わった法律が施行されています。

※ちなみに、いわゆる「植物状態」というのは『大脳=機能低下、脳幹=無事』な状態なので、多くの場合は自発呼吸がありますし、回復の可能性も残されています。

 


 

脳死と法律と臓器移植

「人魚の眠る家」の瑞穂ちゃんの例で考えてみましょう。

水難事故により、瑞穂ちゃんは「おそらく脳死だろう」と判断されました。

この「おそらく」というのは『脳死を確認するためのテストが行われていない』という意味です。

もしかしたら回復するかもしれない、の「おそらく」ではありません。

便宜上そう言わざるを得ない、の「おそらく」です。

では、なぜそんな言い回しをしなくてはならないのかというと、ちょっと不思議な法律があるからなんですね。

瑞穂ちゃんの状態について告げられた後、播磨夫妻は「臓器提供の意思はあるか?」と尋ねられました。

2010年の臓器移植法改正により、本人の意思が不明な場合には、家族の承諾で臓器を提供できるようになったからです。

さて、ここでちょっと不思議な法律が登場します。

簡単にいうと、臓器提供に同意するか否かで、瑞穂ちゃんの法的な扱い方が変わってくるんです。

・臓器提供に同意…判定テストが行われ、脳死が確定。この時点で瑞穂ちゃんは死亡したことになり、臓器が摘出される。

・臓器提供を拒否…判定テストが行われないため、脳死は未確定。瑞穂ちゃんは「まだ生きている」という扱いになり、延命治療が続けられる。

臓器提供を拒否し、延命治療を続けたとしても、通常であれば近日中に心臓の動きが止まり、完全な命の終わりを迎えることになります。

その場合、当然ながら心臓を臓器提供することはできません。

するとどうなるかというと、国内でドナー待ちしている子どもに臓器が行きわたらず、彼らは時に数億円という莫大な費用を払って海外で手術を受けざるを得なくなります。

ちなみに、国内で手術を受ければ数十万円です。

しかし、その場合、責められるべきは臓器提供を拒否した親たちでしょうか?

彼らの立場に立ってみれば「おそらく」などと曖昧な言葉を用いられれば、奇跡を信じて延命治療を選びたくなるのも当然です。

作中で薫子はこのことを指摘し、制度そのものに問題点があると主張しました。

 

脳死と倫理

薫子が大切に介護を続けた瑞穂ちゃんは、結局のところ「生きていた」のでしょうか?

法律的には「生きていた」ということになります。

しかし、事実上、瑞穂ちゃんは判定テストを受けさえすればいつでも脳死が確定するような状態でした。

大脳が機能低下しているということは、精神活動(意識・心の動き)はなかったはずです。

そのことを考えると、多くの人が「それは生きているとは言わないのでは?」と思うのではないでしょうか。

小説「人魚の眠る家」のクライマックスで描かれていたのは、まさにこの問題ですね。

最終的に、作中では「絶対的な答えはない。それぞれが自分なりの考えを持っていればいい。ただし、それを人に強要してはいけない」という結論が出されました。

薫子は周囲の人間に「瑞穂が生きていると心から信じていてほしい」と望みましたが、その願望は不幸な事件にまで発展してしまいます。

事件後の薫子のように「人は人、私は私」という広い心を持っていたいものです。

※他のあらゆる問題についても、同じ教訓が当てはまりそうですね。

 


 

小説「人魚の眠る家」の感想

『作家デビュー30周年記念作品』と銘打たれた「人魚の眠る家」

読み終わった瞬間の感想は「東野圭吾ってすごい…!」という語彙力のない賞賛の一言だけでした。

その後、少し冷静になって改めて「どこが面白かったのか?」と考えてみたところ、以下のようなポイントが思い浮かんできたので、感想としてまとめていきたいと思います。

 

考えさせられる深いテーマ

「人魚の眠る家」を読み進めていくと、すぐにこの作品が「脳死・臓器移植」をテーマにしたものだと気づきます。

恥ずかしながら私はそれらの問題について知らない事ばかりで、途中からは「現状にはそんな問題があるのか…」とまるで有意義な講義を受けているような感覚に陥りました。

とはいえ、それは決して「小難しくてつまらなかった」という意味ではありません。

東野圭吾一流の筆致によって、それらの問題は違和感なく物語の中に溶け込んでいて、読んでいて苦になることはありませんでした。

むしろ、物語の中の当事者(特に薫子)に感情移入することによって、私は自然と「自分ならどうするだろうか?この問題についてどう考えるのか?」と自問を始めていました。

すると、いかにこれらの問題が難しいものであるか、考えなければならないことであるのかがわかってくるのです。

もし、この小説に出会わなければ、私はこの先もこれらの問題について知ることなく、自分ならどうするかと考えることもなかったでしょう。

もちろん私は、誰もが世の中にあるすべての問題について把握し、一度は考えてみなければならない、などとは思っていません。

しかし、だからといって(幸運にも)自分の身近に存在しない問題については無関心でいていいとも思いません。

そういう意味合いにおいて、実に自然な形で「脳死・臓器移植」の知識と問題点について教え、それらについて考える機会をくれた「人魚の眠る家」には感謝しています。

この点について「面白い」と表現するのには少し語弊があるかもしれませんが、「勉強になった。読んでよかった」という意味合いです。あしからず。

 


 

引き込まれるヒューマンドラマ

前述したような深いテーマ性を内包しているにも関わらず、「人魚の眠る家」は物語としても面白い!

最初は瑞穂ちゃんに注がれる純粋な親の愛を見ていたはずなのに、いつのまにか薫子を中心に不穏な空気が漂い始めて、第5章ではついに事件発生!

薫子が瑞穂に向かって包丁を振り上げた時には「あ、ダメだ!これ止まらないヤツだ!」と本当にハラハラさせられました。

だから、結局若葉のおかげで何とか丸く収まったときは心底ほっとしましたし、第6章で薫子が「人それぞれの考え方があっていい」と悟った発言をしたときにはある種の感動がありました。

そうそう、感動と言えば「人魚の眠る家」の二重の結末にはしてやられましたね。

第6章のラスト、進藤医師にいわれて和昌が「瑞穂の心臓はまだ誰かの身体の中で動き続けているのだから、瑞穂はまだ生きているのかもしれないな」と考えるシーンだけでも結末としては充分だったのに、そこへきてあのエピローグは本当に「それはズルいよ!」という感じでした(笑)

 

感動のエピローグ

プロローグで登場したっきり一向に現れなかった宗吾少年が、まさか瑞穂の心臓によって救われていただなんて!

そのことに気づいた時、私の涙腺は完全に崩壊してしまいました。

だって、もし事故直後に臓器を提供していたら、瑞穂の心臓は宗吾には渡らなかったわけです。

もちろんその場合は他の患者のもとに渡ったのでしょうが、私はこのエピローグを読んで「ああ、薫子の数年に及ぶ介護にはちゃんと意味があったんだな」と感じ、涙が止まりませんでした。

なんだか、薫子(に感情移入していた自分)が救われたような気がしたのです。

さらに、なんと宗吾は心臓移植後から(瑞穂のいた)屋敷のことを夢に見るようになり、瑞穂の部屋に漂っていた薔薇の香りを感じるようになったというではありませんか!

この物語では「瑞穂が目を覚ました!」なんてほとんど非科学的な奇跡は起こりませんでした。

しかし、その代わりほんの小さな奇跡は確かに起こっていたのです。

このあたりは、もう東野圭吾が泣かせにかかっているとしか思えません。

そんな東野圭吾の最後の一撃は、とどめとばかりの〆の一文!

『宗吾はそっと胸に手を当てた。この薔薇の香りは、心臓の元の持ち主がもたらすものではないか、と思っている。そして確信するのだ。この大切な命をくれた子供は、深い愛情と薔薇の香りに包まれ、きっと幸せだったに違いない、と』

完全敗北でした。もはや号泣でした。

大切なことは『瑞穂が目を覚ますか否か(結果)』ではなく『薫子がずっと瑞穂に愛情を注ぎつつけたこと(過程)』だったんですよね。

結末の文章を読み終え、本を閉じた後、私の心の中には語彙力の感じられない一言が繰り返し繰り返し浮かんできました。

「東野圭吾ってすごいわ…!」

 


 

まとめ

今回は東野圭吾「人魚の眠る家」の感想や解説をお届けしました!

総じて私が言いたかったのは『この本はちょっと難しいテーマを扱ってるけど、すごく勉強になるし、普通に面白いヒューマンドラマだし、あとラストでめちゃくちゃ泣ける』ということです。

帯に書いてある『愛する人を持つ、すべての人へ』というフレーズ通り、小さいお子さんを持つ親御さんを始め、いろんな人に読まれればいいなと思います。

映画『人魚の眠る家』の配信は?

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FOD〇(レンタル)

※配信情報は2020年6月時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。



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