百田尚樹「フォルトゥナの瞳」が映画化!
神木隆之介さん有村架純さんが出演して話題になりました。
わたしは小説「フォルトゥナの瞳」を読んだのですが、内容もさることながら、とにかく意外な結末にビックリしたことを覚えています。
というわけで今回は映画化もされた小説「フォルトゥナの瞳」結末までのあらすじネタバレをお届けします!
愛する人を守るため、運命を視る青年が選んだ答えとは…!?
あらすじネタバレ
運命を視る瞳
木山慎一郎は自動車の塗装(コーティング)工。
幼い頃に家族を事故で亡くした慎一郎は天涯孤独の身で、友人も恋人もいない。
ただ黙々と車を磨くことだけが慎一郎の生活のすべてであり、そのことに不満はなかった。
そんな淡々とした日々の中、慎一郎に不思議な力が宿る。
ある共通点を持つ人々の体が透けて見えるようになったのだ。
透明化は指先から始まり、指、手、腕…と進んでいく。
やがて透明化が全身に及び、輪郭すら失った完全な透明人間ができあがると、いよいよ終わりだ。
その透明人間は、数時間以内に死ぬ。
つまり、慎一郎だけに見える透明化は「死の予兆」
慎一郎はある日突然、人の運命を視る能力に目覚めてしまったのだ。
この能力に関して最も重要なポイントは、運命は絶対ではないということだろう。
例えば、慎一郎は透明人間に話しかけることで、その人物を数十秒後の交通事故から救うことができる。
その場合、慎一郎が話しかけた時点でその人物は透明ではなくなる。運命が変わった証だ。
ただし、当然ながら末期がんなどの理由で透明に見える人物を救うことはできない。
それでも、慎一郎に宿った力が人間の命を救えるものであるということだけは確かだった。
この能力の法則に気づいたとき、慎一郎は己の瞳を呪った。
身体が透明になっている人間を見るたびに「もしかしたら自分なら助けられるかもしれないのに」という罪悪感に苛まれる。
とはいえ、現実問題として透明人間全員を救うことなど不可能だ。
透明人間が、いつ、どこで、何が原因で亡くなるかはわからない。
仕事だってあるし、その人物を四六時中監視するというわけにもいかない。
結局のところ、慎一郎にできることなどほとんどないのだ。
頭では理解しつつも、根が善良な慎一郎は透明化した人を見るたびに心を痛めていた。
たまに交通事故のような、原因と対処法がわかる場合にだけ、慎一郎は透明人間の運命を変えた。
しかし、命を助けられた人間には「救われた」という自覚はない。
多くの場合、助かった人間は「変な奴だ」と言わんばかりの目で慎一郎を一瞥し、去っていった。
感謝はない。それでも慎一郎は満足だった。
人の運命を変えた後は、なぜか決まって頭痛や胸の痛みを覚えた。
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事件
慎一郎が能力を持て余している中、事件は起こった。
慎一郎に目をかけてくれている社長の遠藤が透け始めたのだ。
遠藤が透け始めたのは、チンピラ社員の金田にクビを言い渡した直後から。
おそらく、遠藤は逆恨みした金田の報復によって命を落とすことになるのだろう…。
遠藤はふらふらしていた慎一郎を拾って育て上げてくれた大恩人だ。
これまでとはケースが違う。
身近で、大切な人に迫る死の運命。
(助けなければ!)
その夜、慎一郎は遠藤に声をかけ、一緒に居酒屋に行くことにした。
店に向かう道中、気を張っていた慎一郎は後ろから近づく人影にいち早く気付いた。
身を挺して遠藤をかばうように飛び出すと、体に激痛が走る。
…どうやらバットで殴られたらしい。
どうにか顔をあげると、怒り狂った遠藤が馬乗りになり金田を殴りつけていた。
さきほどまで完全に透明だった遠藤の全身は、今はもう普通に見える。
運命が、変わったのだ。
慎一郎はこれまで呪いであるとさえ思っていた能力に初めて感謝した。
遠藤を助けた日から、慎一郎の中で何かが変わった。
以前はできるだけ透明な人間に関わりたくないと思っていたが、今は積極的に助けたいと思っている。
助けたところで慎一郎に益はない。それどころか気づかれもしないだろう。
だが、それでいい。
そうすることで透明人間の家族や恋人…泣くことになる人が減るというなら、それで十分だ。
遠藤の事件をきっかけに、善人である慎一郎はそう思うようになっていた。
だから、慎一郎がその人物に出会ったのも、ちょうど透けている若者をなんとか助けられないかと思案している時だった。
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バタフライ効果
「おい、余計なことは考えるな。お前にはあの男が透けて見えるんだろう?」
いきなり後ろから声をかけられ、慎一郎は驚いた。
「あなたも…見えてるんですか?」
男は小さく頷く。
「あいつは3日後に死ぬ。ただし、理由はわからない」
男は慎一郎にはわからない正確な運命の時間まで把握しているらしい。
黒川と名乗る男に誘われ、慎一郎は近くの居酒屋で話をすることにした。
「1つ忠告しておく、人の運命に関わるな」
能力に目覚めて30年になるという黒川は苦々しく語った。
かつて運命を変えて救った男が、のちに隣人の女の命を奪い、ニュースになったことがある、と。
未来を変えるという力は神の領分であり、人間が手を出してはいけないものなのだ、と。
しかしそれは極端なケースの話だろう、と慎一郎が納得できないでいると、黒川は「バタフライ効果(エフェクト)」について語った。
『バタフライ効果』
蝶の羽ばたきが巡り巡って遠くの地で嵐を起こすかのように、ほんの小さな変化(原因)が将来的に大きな変化(結果)をもたらすことを指す。
例えば、目の前の1人を救ったことで運命の歯車が狂い、結果的により多くの人間が命を落とすことになるかもしれない。
運命を変えることは危険なのだ、と繰り返し黒川は語った。
「後悔することになるぞ」
最後にそう言い残し、黒川は去っていった。
黒川の話を聞いても、他人を助けたいという慎一郎の意思は変わらなかった。
ただ、あの時の黒川の態度は少し気にかかる。
「後悔することになるぞ」という言葉の後、黒川は何かを言いかけていた。
いったい黒川は何を言おうとしていたのだろうか…?
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運命の出会い
携帯ショップで対応してくれた女性店員の指先が透けていた。
先日、黒川から忠告されたばかりだが、慎一郎は彼女を助けたいという使命感を抱く。
とはいえ、どうすれば彼女の運命を変えられるのかはわからない。
仕方なく慎一郎は、何度も店に通っては、彼女のことを観察し続けた。
最初は指先だけだった透明化が、どんどん全身に広がっていく。
ついに彼女の全身が透明になった日、慎一郎は思い切ってやや強引に声をかけることにした。
「仕事の後、30分だけ時間をください。大事な話があります」
待ち合わせ場所は近所のスタバ。
彼女は来てくれると約束してくれたが、すっぽかされたとしても不思議ではない。
もし彼女が連日現れる自分に気づいていたとしたら、きっとストーカーのように見えていたことだろう。
もし、彼女が現れなければ、それが彼女の運命だったということだ…。
慎一郎は落ち着かない気持ちで彼女のことを待ち続けた。
「お待たせして、すみません」
気がつくと目の前に青いワンピースを着た若い女性が息を弾ませて立っていた。
「桐生です」
その女性が言ったとき、慎一郎は声をあげそうになった。
全身、どこも透けていない!
彼女に本来何が起こるはずだったのかはわからないが、とにかく運命は変わり、彼女の命は助かったのだ。
全身から力が抜けていく。思わず笑みがこぼれた。
桐生はそんな慎一郎を不思議そうに見つめている。
…しかし、こうなるともはや話すべきことはない。
信じてもらえるとは思わなかったが、慎一郎は今この瞬間に桐生の命が助かったのだと素直に話した。
桐生はそんな慎一郎に不審な目を向けることなく、真摯に話を聞いてくれた。
店を出て、桐生と別れる。
不意に体がしびれ、胸に激痛が走り、目の前が真っ暗になった。
人の命を救った後にやってくる、いつもの症状だ。
今までは偶然かと思っていたが、こうなってはもはや疑いようもない。
人の運命を変えると、その代償として立っていられないほどの痛みに襲われることになるのだ。
しかし、他人の命が助かることを思えば耐えられない苦しみではない、と慎一郎は思った。
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独立
「お前、来月から独立しろ」
遠藤がそう告げた時には、すでに工場の手配から事務手続きまですべて済んでいた。
慎一郎は遠藤の会社で最も腕のいいスタッフだ。
前々から独立を勧められてはいたが、まさかこんな急にその日がやってくるとは…。
驚きつつも、慎一郎は遠藤の勧めに従って独立することにした。
今度のことは、遠藤が自分のことを思ってくれてのことだろう。
期待に応えられるよう、頑張らなくては…!
十月一日、慎一郎は蒲田で開業した。
会社名は「木山コーティング」
慎一郎はこれまで住んでいたアパートを引き払い、ガレージの二階に住むことにした。
遠藤が仕事を回してくれるので、出だしは順調。
1人で黙々と仕事に打ち込む日々は、思っていたよりも楽しかった。
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フォルトゥナの瞳
気がつけば、11月に入っていた。
慎一郎はふと黒川のことを思い出す。
果たして、あのとき黒川は何を言おうとしていたのか?
どうにか黒川への連絡手段を探し出した慎一郎は、アポを取り、再び黒川と会うことにした。
「人を助けた時に、体に異変を感じなかったか」
「…感じました」
再会した黒川から聞かされたのは、運命を変えた後の痛みについて。
「お前の心臓や脳の血管が損傷を受けているんだ。なぜかは知らないが、人の命を救うと、自分の命が削れていく」
黒川はかつて人の命を救い続けて亡くなった人間がいたという。
死因は脳出血。24歳の若さだった。
「人の運命に勝手に手を加えれば、代償を支払わされるということだ。お前がもし長生きしたいなら、他人の運命には関わるな」
黒川はそうやって、見て見ぬふりをしながら生きているのだという。
「俺たちはいわば、フォルトゥナの瞳を持っているんだ」
ローマ神話に登場する運命の女神・フォルトゥナ。
神ならざる身でその力を使えば、己の命を削ることになる…。
その日、慎一郎は初めて救うことのできる透明人間に背を向けた。
もしかしたら、次の1人を救った瞬間、自分の命が消えてしまうかもしれないのだから…。
黒川の言葉は正しい。
誰だって自分の命が一番大事に決まっている。
慎一郎は今後一切、他人の運命に関わらないと決めた。
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恋
慎一郎の工場に桐生が訪ねてきた。
用件はお礼。
あの夜、桐生のいつもの帰り道では爆発事故が起こっていた。
事故の時刻は、爆発することになる工場の前を、ちょうど桐生が通りかかる頃。
慎一郎の「命が助かった」という言葉が真実だったと気づいた桐生は、感謝を伝えるためにこうして来たのだという。
深々と頭を下げる桐生に対し、慎一郎はなんとか誤魔化そうとしどろもどろになって言った。
「正直に言うと、桐生さんのことが気になって、声をかけたかったんです。すいません、ナンパでした」
苦しい嘘だ。桐生は納得していなさそうだったが、慎一郎の能力についてそれ以上追求してはこなかった。
その後、桐生は慎一郎の仕事を見学していった。
じっと手元を見つめられていると、なんだかドキドキしていつも通りの作業ができない。
慎一郎がやっとの思いで作業を終えると、桐生は思いもかけない感想を口にした。
「仕事をしている時の木山さん、すごく素敵でしたよ。恰好よかったです」
どう答えていいものかわからず、慎一郎は思わず俯いた。
「私は桐生葵と申します。今日は本当にありがとうございました」
桐生はそう言うと、一礼して去っていった。
その後ろ姿を見つめながら、慎一郎は「桐生葵」と小さくつぶやく。
胸が小さくときめいた。
それからというもの、慎一郎は気づけば葵のことばかり考えていた。
認めざるを得ない。
(自分は、葵に恋をしている)
自分に自信が持てない慎一郎は「どうせ実らぬ恋だ」と決めつけ、葵のことなど忘れてしまおうとした。
しかし、どうしても葵のことが頭から離れない。
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ふと、2年前の恋のことを思い出す。
遠藤の会社で事務をしていた真理子とは恋人同然の関係だったが、臆病な慎一郎はずっと告白できないでいた。
そのうちに真理子は金持ちの客と付き合うことになり、しばらくして捨てられた。
そのまま退職した彼女は、風の噂によるとクスリに手を出し、今は体を売って生計を立てているのだという。
彼女がそんなふうに身を落とした原因の一端は、ふられるのが怖くて告白できなかった自分にもあるはずだ。
そう思った瞬間、桐生葵のことが頭に浮かんだ。
(葵に告白しよう)
そう決意すると、慎一郎は葵が働く携帯ショップへと急いだ。
やや強引に葵に近づくと、仕事終わりに会う約束を取り付ける。
待ち合わせ場所は、あの時のスタバ。
膝が震えるほど緊張したが、慎一郎はなんとか口を開き、来たばかりの葵の顔を見つめ、他の客にも聞こえるほどの大声で言った。
「桐生さん、僕と付き合ってください」
言ってからすぐに後悔した。これでは見世物同然だ。
「出ましょう」という彼女の言葉に従い、慎一郎はしょぼくれながら席を立った。
店を出た瞬間、葵は笑い出した。
「びっくりしたわ。すごく大きな声だったから」
「ごめんなさい。恥ずかしい思いをさせてしまって…」
「全然、大丈夫。店を出たのは、恥ずかしいからじゃないですよ」
歩きながら、葵は微笑んだ。
「見ず知らずの人に、私の言葉を聞かせたくなかったから」
葵はささやくような声で続けた。
「さっきの返事…はい、です」
慎一郎は自分の耳を疑った。
「今、何と言ったのですか」
「二度は言いません」
こうして、木山慎一郎と桐生葵は恋人同士になった。
慎一郎はまさに天にも昇る気持ちを味わいながら、運命の不思議さについて考えた。
葵と出会えたのは、能力があったからこそだ。
慎一郎は初めてフォルトゥナの瞳に感謝した。
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予兆
1週間で7人。このところ、やけに手が透けた人を見る。
以前は1週間に1人見るかどうかという頻度だったことを考えると、このペースは明らかに異常だ。
そこまで考えて、慎一郎はハッと気がついた。
もしかしたら、これらの人々は同時に命を落とすのではないか?
例えば、災害などによって。
経験則からすると、『何か』が起こるのは3週間後。ちょうど年末のあたりか。
フォルトゥナの瞳では、自分の寿命は見えない。
今のところ葵は透けていないが、大怪我をしないとは限らない。
自分と葵は無事でいられるのだろうか…?
改めて考えてみると、最近増えた透明人間たちには共通点がある。
彼らを見かけることが多いのは、駅周辺、もしくは電車の中だ。
ということは、彼らは同じ電車に乗って落命する運命にあるのではないか?
列車事故…!
慎一郎は普段電車を使わないが、葵は通勤で利用している。
万が一のことがあってはいけない。
慎一郎はやや強引に葵を誘って、年末に旅行へ行くことにした。
これで2人とも安全に年を越せるはずだ…。
激痛が慎一郎の心臓を襲った。
といっても、他人の運命を変えたりはしていない。
もしかして、思っている以上に自分の体はもうボロボロなのかもしれない…。
病院へ行くと「狭心症」と診断された。
冠動脈が狭窄しているという。やはりフォルトゥナの瞳の代償か。
だとしたら、やはりこれ以上人の命を救うのは危険だ。
次に誰かの命を救えば、その時は慎一郎の命がなくなってしまうかもしれない。
能力は使わないと決意する一方、気づけば慎一郎は列車事故について調査していた。
手間さえ惜しまなければ、透明人間だらけの「未来の事故車両」を見つけるのは難しくない。
その結果、慎一郎は事故を起こす車両と事故が起きる区画を突き止めた。
葵とは関係のない電車だった。
大勢の人間を見捨てるようで心苦しかったが、彼らを助けるわけにはいかない。
それが本来の運命なのだ。
ふと見ると、保育園で遊ぶ子供たちが目に入った。
楽しげに遊ぶ子供たちの中で、年長と思しき子供たちの体が、みんな透けていた。
(あんな小さな子たちまで…!)
きっと何かのイベントに出かけるため、事故車両に乗るのだろう。
引率するであろう先生の体も透けている。
慎一郎は強烈に「助けたい」と思った。
しかし、そんなことをすれば自分の命が消えてしまう。
激しい葛藤。
強烈に、葵に会いたいと思った。
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葛藤
「葵はどうして僕なんかと付き合ってくれたの?」
「慎一郎さんは、私の命を救ってくれたじゃないですか。あの事故の現場を見たとき、もしかしたら、あの人は運命の人かもしれないと思った。だから慎一郎さんの会社を探して訪ねました。そこで慎一郎さんの真剣に仕事している姿を見て、はっきりと好意を持ちました」
葵の言葉に、慎一郎は胸を痛めた。
葵の命を助けたとき、慎一郎はまだフォルトゥナの瞳の代償について知らなかった。
もし、先にそのことを知っていたら、葵のことを助けたりはしなかっただろう。
「慎一郎さんを好きになった理由はもう一つあるの。それは、慎一郎さんが他人のために生きることができる人だと思ったから」
「えっ」
「慎一郎さんは、自分のことよりも、いつも他人のことを気遣っている。それって、すごく素敵だと思ったの」
葵の言葉に、思わず慎一郎は俯いた。
誤解だ。自分はそんな人間じゃない。
今だって、自分たちのことだけを考えて、何の罪もない子供たちを見捨てようとしている…。
その夜、慎一郎は悪夢にうなされた。
振り払っても振り払っても、子供たちに取り囲まれる夢だった。
振り払われて泣いている子供の顔を見ると、幼い頃に事故で亡くした妹のなつこだった。
子供たちのことが気にかかって、仕事にならない。
慎一郎は保育園に電話し、年長の子供たちが乗る電車を特定した。
事故が起こるのは12月24日、クリスマスイブの朝。
(4日後だって!?年末だと思っていたのに…!)
極限の精神状態の中、慎一郎の思考はゆらゆらと揺れていた。
『子供たちを助けたい』
これまでに何人かの運命を変えてきた代償として、自分の体はすでに激しく損傷している。心臓を襲う狭心症の発作のサイクルも短くなってきている。きっと長生きはできない。ならば、子供たちの未来を守るために、この命を使うべきではないか?子供たちを見捨てるなんて、良心の呵責に耐えられない。
『やっと掴んだ幸せを手放したくない』
自分がいなくなれば、葵は悲しむだろう。葵のためにも生きなければ。他人の運命には関わらないと決めたはずだ。他人の運命を変える義務なんてない。確かに自分の寿命は長くはないかもしれないが、だからこそ残された日々は葵と一緒に過ごしたい。
はっきりしているのは、どのみち自分は長生きできないということ。
問題は、残された時間をどう使うべきかということだ。
迷いの中、答えはふっと心に降りてきた。
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決意
残された寿命は長くはない。
葵とともに幸福な人生を歩めないなら…それならば、子供たちの命を救いたい。
自分が死ねば、葵は悲しむだろう。でも、その悲しみは永久には続かない。
いつの日か、葵はまた恋をするだろう。葵の前に、必ず素敵な男性が現れるはずだ。
葵に別れを切り出す必要はない。
クリスマスイブの朝、自分は子供たちの命を救ったあとに寿命を終える。
葵と一緒にいられるのはあと4日間しかない。
一緒に旅行に行く日を迎えることもないだろう。
不意に、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
突然の涙を目の当たりにして、葵が何を思ったかはわからない。
けれど、もしかしたら何かを察したのかもしれない。
その後、葵の行動はいつになく積極的だった。
慎一郎の家に行きたいと言ったのも、寝室を見たいと言ったのも、先にキスをしてきたのも彼女だった。
その夜、慎一郎と葵は初めて結ばれた。
すべてが終わった後、慎一郎はもう思い残すことはないと思った。
悔いはない。迷いは完全に消えた。
自分でも不思議に思うほど恐怖心もなかった。
目を閉じている葵に軽くキスをした。
葵はうっすらと目を開けて、慎一郎を見た。
その時、葵の表情が悲しみに変わった気がした。
葵の両目にみるみる涙が浮かんでくる。
理由を尋ねても、葵は「なんでもない」というばかりだ。
初めて結ばれたことで、感情が高ぶっているのかもしれない。
「葵」
「なあに?」
「愛してる」
「…私も」
翌日も仕事があるといって、葵は夜のうちに帰っていった。
葵の後ろ姿を見ながら、慎一郎は声も出さずに泣いた。
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結末
子供たちだけを助けるよりも、どうせなら事故そのものをなくしたい。
そのためには事故の原因を突き止める必要がある。
考えを巡らせている中で、慎一郎はふとあることに気づいた。
(そういえば、この前会った金田の指も透けていた)
遠藤の会社をクビになった後、金田は改心し、近くの運送会社に勤めている。
トラック運転手である金田は、通勤電車とは無縁のはずだ。
しかし、あの時の金田の透け方は、事故車両に乗り合わせる運命の人たちとほとんど同じだった。
ということは…事故の原因は金田のトラックか?
最初は突飛な発想に思えたが、だんだんと的を射ているように思えてくる。
さっそく慎一郎は金田に連絡し、24日の予定を聞いてみることにした。
「24日の朝はまだ湘南にいるぞ」
金田の返答は予想外のものだった。
きっと指が透けていたのは、サーフィンが原因だったのだ。
ふりだしに戻る。
もう悠長に原因を突き止めている時間はない。
事故を止めるにはどうすればいい?
…最も確実な方法が、1つだけある。
慎一郎は最後の手を使う覚悟を決めた。
葵からメールが来たが、決心が鈍らないように携帯を壊した。
運命の日、12月24日の朝。
慎一郎は蒲田駅と川崎駅の中間にある踏切に来ていた。
当該の電車が通る時間にあわせて、線路に寝そべる。
計画を邪魔されないように、線路と体をチェーンでぐるぐる巻きにした。
すぐに周囲の人間が異変に気付き、慎一郎を線路からどけようとするが、ロック付きのチェーンはそう簡単には外れない。
「よお、木山じゃないか。何やってんだ」
ふと見ると、線路のわきにきょとんとした顔の金田が立っていた。
すぐそばにはトラックも見える。
聞けば、会社から呼び戻されて朝から仕事になったらしい。
金田がこの場所にいるのは偶然ではないだろう。
やはり、事故の原因は金田のトラックだったのだ。
その証拠に、目の前にいる金田の体は、どこも透けてはいなかった。
やがて鉄道会社の作業員たちがボルトカッターを持ってやってきた。
大勢で慎一郎を取り押さえ、チェーンを次々に切っていく。
抵抗する慎一郎。
偶然、1人の作業員の腕時計がちらりと見えた。
9時15分。
…時間だ。間に合った。
予定時刻になっても電車は来ない。
事故は、未然に防がれた。
成功したのだ。
そう思った瞬間、かつてない痛みが慎一郎の左胸に走った。
続いて目の前が真っ暗になる。
(ああ、これが死か…)
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エピローグ
新聞には、男が蒲田駅付近の踏切に進入して体を線路にくくりつけたという記事が載っていた。
その男性は急性の心筋梗塞で死亡。
名前は伏せられていたが、葵にはそれが木山慎一郎だとわかっていた。
この日が来ることも知っていた。
なぜなら、慎一郎は自分と同じ「目」を持っていたから。
彼は事故を未然に防ぐために自らを犠牲にしたのだ。
葵は誰もいない休憩室で回想した。
慎一郎が私を誘ったのは、私の体が透けていたからだ。
あの時、彼は私を助けようと思い、声をかけたのだ。
まさか自分と同じ「目」を持つ人間に出会うとは夢にも思っていなかった。
しかし慎一郎に惹かれたのはそれが理由じゃない。
彼が素朴で純真な男性だったからだ。
彼が最後まで悩んでいたのも知っていた。でも、私は彼に生きてほしかった。
弱い私がそうしたように、多くの人を見捨ててでも、生を選んでほしかった。
私との人生を選んでほしかった。
でも…彼は死を選んだ。
その瞬間ははっきりと覚えている。
私を優しく抱いている彼の体がすーっと消えていくのが見えた。
あの時の絶望的な気持ちは一生忘れないだろう。
世間は木山慎一郎を頭の狂った男だとみなすだろう。
慎一郎がどれほど多くの人の命を救ったのか…それを知るのは私だけだ。
彼がどれほど英雄的な勇気を持った男性であるかを、大声で叫びたかった。
しかし彼はそんなことは微塵も望んではいないだろう。
慎一郎から店に速達が届いたのは今日の午後だった。
封筒の中身はグリーティングカード。
「メリー・クリスマス!葵、愛してる」
葵の目から涙がこぼれ、頬を伝って落ちた。
<フォルトゥナの瞳・完>
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感想と疑問点
小説「フォルトゥナの瞳」はとにかく考えさせられる作品でした。
例えば、慎一郎はフォルトゥナの瞳を得たことによって幸せになったのか?それとも不幸になったのか?という点もそうです。
フォルトゥナの瞳を得たことによって、慎一郎は本来ならば抱えなくてもいい罪悪感を抱えることになり、何も知らずに能力を使った代償として身体はボロボロになり、最後には自己犠牲の末に命まで落としてしまいました。
いわば、百害あって一利なし。
ずる賢い人間ならばフォルトゥナの瞳を上手に利用できたかもしれませんが、純朴な慎一郎にとってその能力は「呪い」以外の何物でもなかったことでしょう。
しかし、ここで考えなければならないのは、桐生葵の存在です。
もしフォルトゥナの瞳がなければ、慎一郎と葵が恋人になることはなかったでしょう。
それによって慎一郎が長生きできたとしても、それは誰かを愛することを知らない人生。
一概に「長生きできた方が幸せだった」とは言えません。
では、慎一郎は果たして幸せだったのか、それとも不幸だったのか…。
このように小説「フォルトゥナの瞳」は多くのことを読者に考えさせます。
人生について、運命について、幸せについて。
本を読みながら、私はずっと「君ならどうする?」と語りかけられているような気分でした。
文庫版「フォルトゥナの瞳」は約500ページの大ボリューム作品。
今回のあらすじネタバレでは内容のほんの一部しかお伝えできていませんので、興味を持たれた方はぜひ本の方もお手に取ってみてください。
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最大の疑問点は葵の気持ち
ラストで衝撃的な事実が明かされたとき、私はすぐに1つの疑問を抱きました。
「なぜ葵は慎一郎を止めなかったのか?」
フォルトゥナの瞳の持ち主である葵は、慎一郎が列車事故を止め、そのまま命を落とすことがわかっていました。
ならば、なぜなりふり構わず止めなかったのでしょうか?
「慎一郎の決心を尊重したから」という答えが一番しっくりきますが、それでも「何が何でも愛する人には生きていてほしい」と思うのが人情というものではないでしょうか。
う~ん、女心がわからない…。
葵に関してもう一つ言えば「なぜカミングアウトしなかったのか?」というのも大きな疑問点です。
もし「私も同じ力を持っている」と打ち明けていれば、結末は大きく変わったのではないでしょうか。
慎一郎にとってよくなかったのは、力について話せる人、力のことを理解してくれている人がいなかったことです。
※黒川は作中で亡くなっています。
恋人同士で、フォルトゥナの瞳を持つもの同士。
もし2人がそういう関係であれば、慎一郎もあそこまで思いつめはしなかったのではないでしょうか。
確かに、慎一郎は代償によってもう寿命が残されていなかったかもしれません。
それでも、彼の人生で最も価値のあった「人を愛する」という幸福を、もう少しだけ享受する権利が慎一郎にはあったはずです。
そう思うと、葵が最後まで自分の秘密を打ち明けなかったことは残念でなりません。
なんだかんだ言いましたが、きっと私は慎一郎と葵のハッピーエンドが見たかっただけなんだと思います。
これまで報われない人生を送ってきた慎一郎には、もっと幸せになってほしかった…!
もちろん小説の結末も素晴らしいものでしたが、私の素直な感想は上記の通りでした。
映画版では小説と大きく違う結末になりそうなので、そちらの方ではせめて2人がもう少し幸せになれていればいいなと思います。
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まとめ
今回は小説「フォルトゥナの瞳」のあらすじ・ネタバレ・感想などをお届けしました!
百田尚樹さんといえば「永遠の0」「海賊と呼ばれた男」で知られる作家さんですが、「フォルトゥナの瞳」はそれらとは毛色の違うSF作品。
「もしも人の寿命が見える目を持ってしまったら?」というスタート地点から物語はぐんぐん広がっていき、思いもよらない結末へとたどり着いていきます。
愛する人との幸福な日々と無関係な大勢の人の命を天秤にかけた主人公が最後に選んだのは、まさかの後者!
力の代償として自らが命を失うという、あまりにも悲しい結末でした。
そしてエピローグで明かされたのは、実は恋人の葵も同じ「フォルトゥナの瞳」の持ち主だったという意外すぎる真実!
読者は慎一郎に感情移入するように仕組まれているのですが、改めて葵視点で物語を見返してみると多くのことを発見できるのでおススメです。
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