イヤミス

映画「楽園」のあらすじとネタバレ!イヤミスすぎる結末の感想は?

吉田修一『犯罪小説集』が『楽園』に改題して映画化!

綾野剛さん、杉咲花さん、佐藤浩市さんら豪華なキャスト陣が注目を集めていますね。

吉田修一さんといえば『悪人』や『怒り』などの話題映画でお馴染みですが、今回の『楽園』はちょっと異色の作品。

原作の「犯罪小説集」は実話をモデルにした短編小説集(※)で、映画『楽園』はその中の2つの短編を組み合わせた内容になっています。

私は原作小説を読んだのですが、特におもしろい2作品が選ばれたという印象ですね。

というわけで!

今回は、映画『楽園』の原作になった2つの短編小説のあらすじ・ネタバレをご紹介していきたいと思います!

※映画「楽園」のモデルになった事件とは?

映画「楽園」のモデルになった事件とは?元ネタの実話を解説!映画『楽園』の原作は『犯罪小説集』という吉田修一さんの短編集なのですが、実は収録された5つの短編にはそれぞれ『元ネタ』が存在します。 ...

映画「楽園」のあらすじとネタバレ!

原作の『犯罪小説集』に収録されている5つの短編小説のうち、映画化されるのは

  • 『青田Y字路』
  • 『万屋善次郎』

の2編。

まずは『青田Y字路』の内容から見ていきましょう!

青田Y字路

青々とした田園風景が広がる夏の田舎道。

すっと延びた砂利敷きの一本道は、大きな一本杉を境に別れ、Y字路になっている。

そのY字路で、小学生の女の子が消えた。

地元の人々はすぐに捜索隊を組んで藤木愛華ちゃんを捜したが、一向に見つからない。

やがて警察も到着したが、ついに愛華ちゃんは発見されなかった。

10年後。

再び事件が起きた。

やはり小学生の女の子が、例のY字路で消えたのだという。

同じ過ちを繰り返してはならないと、今度は100人を超える住民たちが捜索隊に志願した。

姿の見えない犯人への怒り。

田舎の狭い人間関係の中、誰が犯人なのかという疑心暗鬼。

興奮した人々の中、湯川という男が声をあげた。

「なあ、やっぱりあいつが怪しいんじゃないか?」

湯川が言う《あいつ》とは、中村豪士のことだ。

神社の骨董市で偽物のブランドバッグを売ったりして生計を立てている外国人の母子。

中国かフィリピンか、東南アジア系の顔だち。

中村豪士はその息子の方だ。

現在、豪士は35歳。まともな職にはつかず、昔と変わらず母親の手伝いをしている。

湯川が豪士の名を挙げたのには理由がある。

10年前、湯川は「愛華ちゃんのランドセルが見つかった」という一報を受けて、夜の闇の中、Y字路の用水路に降りた。

その時、一緒に用水路に降りたのが豪士だった。

2人は足を滑らせないように腕を組み、分担して用水路の左右を調べたが、結局ランドセルは見つからなかった。

……もし、それが豪士の狙いだったのだとしたら?

豪士に腕を組まれていた湯川は、用水路の片側しか見ていない。

本当は反対側には愛華ちゃんのランドセルがあって、豪士はそれを隠していたのではないか?

湯川はずっと豪士のことを疑っていたのだ。

怒りと疑心暗鬼ですっかり冷静さを失っていた住民たちは、湯川の先導で豪士の家へ。

湯川の疑念は熱狂した集団の中で歪に育っていき、家に着くころには住民たちは何の確証もなく「豪士が犯人に違いない」と決めつけていた。

呼びかけに応じないとみると、集団は扉を蹴破り、土足で家の中に侵入。

家の中を荒らして回ったが、豪士も、消えた女の子の姿もなかった。

……と、その時、集団の中の1人が声をあげた。

「豪士がいたぞ!」

目をやると、遠くに走っている豪士が見える。

「おい、待て、この野郎!」

住民たちは鬼の形相で豪士を追いかけた。

豪士は先ほどまでいた油そば屋に駆け込んだ。

「助けてください!」という言葉に店員が迷惑そうな表情を浮かべたので、店内で暴れまわって客も店員も追い出した。

そうして豪士は店内に油をまくと、店を取り囲む住民たちに向けて叫んだ。

「入ってきたら火をつける!」

住民たちは豪士を睨みながら、しかし遠巻きにするだけで誰も店に近づいてはいかない。

住民たちの憎しみのこもった視線を受け止めながら、豪士は思った。

(……ああ、まただ)

外国人だというだけで差別され、理不尽な扱いを受ける。

幼いころから、豪士はこの田舎で何度も何度も理不尽な攻撃にさらされてきた。

帰宅途中で家が荒らされている光景を見て、とっさに逃げ出したのはこれまでの経験があったからだ。

誰も自分の話を聞いてくれない。

誰も助けてくれない。

身をもってそのことを知っていたからこそ、豪士は逃げ出したのだ。

店を取り囲む住民たちの中で、愛華ちゃんの祖父である藤木五郎は思った。

もうすべてを終わらせたい、と。

どんな形であれ事件に区切りをつけて楽になりたい、と。

だから、五郎は決めつけることにした。

10年前の事件も、今回の事件も、豪士が犯人に違いないのだ、と。

「私の息子は何もしていません!」と泣き叫ぶ豪士の母親に、五郎は怒鳴った。

「じゃあ、なんで逃げるんだよ! あんたの息子が犯人なんだよ! 愛華を返せ! 返せねえんだったら、命で詫びろ!」

泣き叫ぶ母親。

それを押さえつける男たち。

店の中で何かを叫んでいる豪士。

混沌とした状況の中に、一人の男が駆け込んできた。

「ちょっと待ってください!」

男は五郎も知る自動車整備工場の社長だった。

その話によれば、豪士はついさっきまで、車の修理のために男の整備工場にいたのだという。

「だから、今日、その女の子がいなくなった時間に間違いなく私と一緒だったんですよ!」

男の証言によって、豪士のアリバイが証明された。

豪士は犯人ではなかった。

「放して! 放して! 豪士! お母さんここにいるから! もう大丈夫だから!」

涙声の絶叫が辺りに響く。

逆に、整備工場の社長の話を聞いて、ここまで追いかけてきた男たちの表情はすでにしらけ始めていた。

そして、ついにその時が来た。

「逃げろ!逃げろ、逃げろ!」

集まった住民たちが我先にと逃げていく。

油そば屋の店内に、火柱が立っていた。

まかれた油に火が移り、残った五郎や母親の目の前まで黒煙と炎が広がってくる。

これまで聞いたこともないような男の叫び声が聞こえたかと思うと、同時に店のガラス窓が割れ、火だるまの男が駆け出してきた。

叫び声を上げ、火だるまの男がのたうち回る。

豪士だ。

やがて火だるまの体から力が抜け、コンクリートに溶け込むようにその動きは止まった。

五郎は思わず横にいる母親の肩を掴んだ。

まるで自分まで燃え尽きたかのように、母親の体からは力が抜けていた。

一方、その頃、別の捜索隊の方では「女の子が無事に見つかった」という知らせが届いていた。

どこかの男が車に乗せて連れ去っていたところを、警察に見つかったということだった。

10年前のY字路。

愛華ちゃんが友達の紡ちゃんと別れ、一人で帰路についている。

ふと見ると、白いバンに若い男が腰かけている。

その男がなんだか泣いているように見えて、愛華ちゃんは声をかけた。

「遊んでくれる人、いないの?」

帰り道でつくったシロツメクサの花冠を、男の頭にのせる。

「バイバイ」

手を振って去っていく愛華ちゃんを目で追うと、男は立ち上がった。

頭から花冠が落ちる。

小さく白い花を踏みつけて、男は愛華ちゃんのあとを追った。

<青田Y字路・完>

感想と解説

個人的には『犯罪小説集』の中ではこの『青田Y字路』が一番面白かったです。

閉鎖的な村社会という舞台で、外国人であるというだけで魔女裁判にかけられてしまう中村豪士。

結局、豪士は2度目の少女誘拐事件の犯人ではなかったのに、最後は冤罪に絶望して自らに火をつけてこの世を去ります。

無罪である彼をそこまで追い詰めたのは住民たちの勝手な思い込みだったのに、その住民たちは豪士が犯人ではないとわかると「なんだ、そうだったのか」と言わんばかりのしらけた態度をとる始末。

彼らはきっと「なんてことをしてしまったんだ!」なんて1ミリも思っていないんです。

悪びれてないし、なんなら「自分は事件を解決するために正しい行動をした」とすら思っているかもしれません。

まさに『おぞましい』という言葉がピッタリな、人間の醜さをべっとりと描いたイヤミスな短編小説でした。

イヤミスといえば『青田Y字路』は結末も秀逸でしたね。

エピローグで描かれている「若い男」の正体は謎。

個人的には「中村豪士のことかな?」と思いました。

はっきりとは描かれていないものの「10年前の愛華ちゃんの事件の犯人は中村豪士だった」と読み取れるラストになっているわけですね。

イヤミスにイヤミスを上塗りしたような、厚みのある気持ち悪さ(誉め言葉)にはゾクリとさせられました。

ちなみに映画で杉咲花さんが演じる湯川紡は、エピローグにあるように「愛華ちゃんの最後の目撃者」

10年前の事件当日、愛華ちゃんは紡ちゃんを「一緒うちで遊ぼう」と誘っていたのですが、機嫌が悪かったのか紡ちゃんは「やだ!」と断って家に帰っています。

事件の後、紡ちゃんは事件の責任の一端は自分にあるとして罪悪感を抱くことになるのですが、実はそれはまさにその通りで、もし紡ちゃんが愛華ちゃんとそのまま一緒に帰っていたら、愛華ちゃんと豪士は出会っていなかったわけで、愛華ちゃんは助かっていたんですよね。

原作小説では出番の少なかった紡ですが、映画ではヒロイン扱いっぽいので、どのような役割を担うキャラクターになるのか楽しみです。

万屋善次郎

とある田舎の限界集落に、善次郎という男がいる。

数年前、父親を看取るために東京から戻ってきた男で、1人になった今も村に住み続けている。

大柄で無愛想だが、裏表がなく心根の優しい男だ。

善次郎は60代だが、80代や90代ばかりの村の中では最も若い。

善次郎は養蜂を営みながら、村の人々の雑用をあれこれと引き受けていた。

ある時、村の寄り合いで「善次郎のつくるハチミツで村おこしをしよう」という話が出た。

意気込んだ善次郎はさっそく資金を調達し、役場にも相談し、村おこしの準備を始める。

役場はちょうどその手の話を求めていたようで、とんとん拍子に予算がおりることになった。

ところが、やがて話はおかしな方向へとこじれていく。

集落のまとめ役である伊作が「なぜ勝手に役場に話を通したのか」と激怒したのだ。

伊作にしてみれば、まとめ役である自分が役場と交渉するつもりだった。

それなのに善次郎が相談もなしに話を進めたものだから、メンツをつぶされたと感じたのだ。

もちろん善次郎にしてみれば「面倒な交渉は自分がして、あとから報告しよう」という、ただそれだけの考えだったのだが……。

伊作の主張はほとんど言いがかりに近いものだったが、善次郎はともかく場を収めようと頭を下げた。

だが、伊作は許さない。

というのも「伊作が善次郎を罵った」という噂がすでに村中に流れていて、しかもいつしか「善次郎が村の水源を悪徳企業に売却しようとしていたらしい」などという根も葉もない尾ひれがついていたからだ。

ここで伊作が善次郎を許せば、今度は許した伊作を集落の他の住人たちが許さない。

村八分どころか「村十分」にされることは目に見えていた。

それを恐れたがために、伊作は懸命に土下座して許しを請う善次郎を無下に追い返したのだった。

結局、村おこしの計画は中止となった。

そして、その頃から善次郎の様子は一変した。

養蜂をやめ、ずっと家に引きこもるようになった。

家の前に気味の悪いマネキンを並べて、「立ち入り禁止」と地面に書いた。

夜中にうろうろと徘徊したり、ぶつぶつと独り言を言うようになった。

家には不潔で荒んだ雰囲気が漂うようになり、近づくと酷い臭いがするようになった。

そんな善次郎の様子を見て、集落の住人たちは「頭がおかしくなったのだ」と解釈した。

ある日、多部という夫婦の仲立ちで、しぶしぶながら伊作が善次郎に謝ることになった。

ところが、伊作たちがいくら呼び掛けても善次郎は家の戸を開けようとすらしない。

門前払いに腹を立てた伊作は、怒鳴り散らし、家の前に並べられたマネキンを蹴飛ばして帰った。

「おい善次郎! お前のごたる奴は、この集落にはいらん! この集落が嫌なら、さっさと出ていかんか! 出ていかんなら、俺がこのボロ小屋に火つけてやる!」

この小さな集落に前代未聞の事件が起こったのは、この夜のことだった。

小さな集落で起こった大規模な殺人事件は、全国のニュースを賑わせた。

一晩で被害者は六名。

その中には伊作や多部夫婦も含まれている。

容疑者はもちろん善次郎だ。

善次郎は山へ逃げ込み、自分の腹を刺して自害しようとしていた。

まだ意識があるうちに警察が確保し、すぐに救急車に乗せたが、病院に着く前にこの世から去った。

<万屋善次郎・完>

感想と解説

これもかなりなイヤミスでしたね。後味が悪いったらありません(誉め言葉)

田舎の集落という状況は『青田Y字路』に通じるものがありますが、『万屋善次郎』の舞台はさらに規模の小さい限界集落。

善次郎は心から村のためを思って行動したはずなのに、理不尽にも「村十分」にされてしまいます。

そうして行きついた終着点が、未曽有の凶悪事件。

果たして罪人は犯人である善次郎か、己の小さなメンツのために善次郎を村十分に追い込んでしまった伊作か、それとも集落の住民全員か。

今回は省略しましたが、間接的に善次郎を狂わせた「加担者」である集落の老人たちが、そのことにまるで無自覚で「自分はなにも悪くない」と心から信じ込んでいる様子にはゾクリとさせられました。

『青田Y字路』が疑心暗鬼や集団心理の狂気を描いた作品だったとすれば、『万屋善次郎』は閉鎖的な集落の陰湿さをじっとりと描いた作品といったところですね。

やはり今回は省略したのですが、「万屋善次郎」では『犬』が重要な役割を果たしていました。

善次郎が飼っている大型犬のレオと、伊作の妻である志津が飼っている小型犬のチョコ。

飼い主である二人は最終的に加害者と被害者という関係になるわけですが、この二匹の犬は事件後もお互いを守ろうとするほど固い絆で結ばれていました。

愚かで醜い人間よりも、よっぽど獣のほうが健全な関係を築けているという対比だったのではないかと思います。

※「青田Y字路」と「万屋善次郎」のモデルはあの事件!

映画「楽園」のモデルになった事件とは?元ネタの実話を解説!映画『楽園』の原作は『犯罪小説集』という吉田修一さんの短編集なのですが、実は収録された5つの短編にはそれぞれ『元ネタ』が存在します。 ...

 

まとめ

吉田修一『犯罪小説集』が『楽園』と改題して映画化!

今回は原作小説から、映画化される2つの短編のあらすじ・ネタバレをお届けしました!

率直な感想として、この2つの短編小説は面白かったです!

『負』の感情や人間性がありありと描かれていて、決して気分の良くなる作品ではないのですが、イヤミス好きにはたまらない内容になっています。

また、実話をモデルにしているだけあって、全体的に『生々しい』雰囲気が漂っている点も臨場感を高めていました。

物語的には全然接点のない2つの短編が、映画でどのように組み合わさり、どんな相乗効果を見せてくれるのか楽しみです。


 

映画『楽園』の配信は?

楽園
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※配信情報は2020年6月時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

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POSTED COMMENT

  1. whisky より:

    善次郎については以下のように感じました。
    独断で村興し事業を役所へ掛け合う。これ、一住民が県庁へ出向いて市の事業を掛け合うのと同じ。伊作から説明され叱られても「でも色よい返事はもらってないから」とか言って間違いに気付けない。その後にも「何か落ち度あった?」ですから、もう付ける薬が無いって思われて仕方ありません。
    さらには犬の放し飼い、役所からの注意を無視して農地へ植林といった違反行為。
    以上の行動だけでも狂ってると思われて仕方ないです。

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