ついにドラマ「絶対正義」の放送がスタートしましたね!
秋吉理香子さんの原作小説が最高だったので、この日をずっと楽しみにしていました。
秋吉作品の見どころといえば、なんといっても衝撃的な結末!
個人的には「絶対正義」の面白さの90%はラスト30ページに凝縮されていると思っています。
なので、ドラマも数話で見限らず、ぜひ最後まで見続けてほしいところです。
とはいえ「最終回のネタバレを先に知りたい!」と思うのもまた人情。
というわけで今回は、原作小説をもとにドラマ「絶対正義」の物語や結末を一足先に公開していこうと思います!
Contents
あらすじと4人の犯行動機
最終回のネタバレをより楽しむためにも、まずは物語のあらすじや伏線を簡単にチェックしておきましょう!
★「絶対正義」のあらすじ
高規範子は決して間違ったことをしない。
高規範子は常に正しいことだけをする。
たとえば、スーパーで子どもがパンを万引きするところを目撃したら?
彼女は一秒も迷わずに、警察に通報する。
たとえ、その子の家が貧乏で、やむにやまれぬ行為だったとしても関係ない。
たとえ、その子が実の娘だったとしても迷いはない。
なぜなら、窃盗は違法行為だから。
範子にとっての《正しさ》とは、すなわち法律だ。
ひとたび範子に有罪判決を下されたならば、もう逃げ場はない。
罪人が適切に裁かれるまで、範子は徹底的に追い詰める。
極端な話、その結果として誰かが命を落としても、範子は眉ひとつ動かさないだろう。
およそ彼女に人間らしい感情や心の機微などはない。
彼女にあるのは『正義』だけ。
100%の《正しさ》を悪人に突き付けるときにだけ、彼女はうっとりと微笑む。
範子のおぞましさを体験した者は、恐怖とともにこう思う。
「正義とは、なんと暴力的なのか」と。
和樹、由美子、理穂、麗香、そして範子。
高校卒業15周年記念の同窓会で再会した5人は、東京で定期的にランチ会を開くことに決めた。
しかし、久々の再会で盛り上がっていたのは最初のうちだけ。
4人の生活は少しずつ範子の《正義》によって狂わされ、追い詰められていく。
ついに耐えきれなくなった4人は、ある日とうとう、範子を亡き者にした。
それから5年後の現在。
4人のもとに謎の招待状が届いた。
差出人の名前は……高規範子。
封筒の中に入っていたカードにはこう書かれていた。
『あの日から五年が経とうとしています。久しぶりにお目にかかりませんか。存分にわたしのことを思い出していただきたいのです。たくさん語らいましょう。お待ちしております』
あの日、確かに範子の呼吸も心臓も止まっていた。
生きているはずがない。
しかし、ならばこの招待状はいったい?
4人は範子の影に恐怖しながらも、招待に応じることに決めた。
果たして、そこに待っていたのは……。
★登場人物(事件当時35歳。現在は40歳)
・高規範子……あらゆる不正を断罪する『絶対正義』の女。公務員の夫と結婚し、娘が1人いる。中学生の時、門限を破った自分を探す途中に母が飲酒運転の車にはねられて亡くなった事件をきっかけに、正義に目覚めた。
・今村和樹……ノンフィクション作家。フリージャーナリストとして心血を注いで書き上げた本が話題となり、文学賞を受賞した。
・西山由美子……主婦。2児の母。おっとりした性格。
・理穂・ウィリアムズ……アメリカ人の夫とインターナショナルスクールを経営している実業家。
・石森麗香……中堅女優。独身。
次は、4人の犯行動機(5年前に何があったか?)について見ていきましょう!
※「ラストだけ知りたい!」という方は先の方まで飛ばしてください。
和樹の犯行動機
数年がかりの取材の末に和樹が書き上げた『ヤミに蠢く金』は世間に大きな衝撃を与えた。
過去の汚職を暴かれた政治家は次期総理大臣候補から一転して失墜。
一躍話題の本となった『ヤミに蠢く金』は大きな文学賞の候補作としてノミネートされた。
もし受賞ということになれば映画化もされるだろうし、印税も入る。
それになにより「受賞者」の肩書きには信頼感がある。
これからフリーで活動していく中で、取材に応じてもらいやすくなるのだ。
これまでの苦労がやっと報われる、と和樹が未来への希望を抱いていたときだった。
――正義の怪物が訪ねてきたのは。
範子は取材中の和樹の行動をすべて洗い直し、情報収集の方法に違法性があったことを突き止めていた。
罪には裁きを。
範子はさも当然という顔で「文学賞の事務所にも報告する」という。
そんなことをされたら、ノミネートは取り消されるだろう。
これまで世話になった各方面に迷惑がかかるし、業界内での和樹の評判は地に落ちる……。
「やめてよ。わたしがどれだけ心血を注いでこの作品を書き上げたか、範子だって知ってるじゃない」
「心血を注ぐということが、間違ったことをしてもいい理由にはならないわ」
「汚職政治家の政治生命を終わらせたのよ? あんな男が総理の椅子に座ることを防いだ。意義のあることだと思わない?」
「意義のあることの前には、小さな悪事を働いてもいいの?」
何を言っても無駄だった。それでも和樹は範子にすがりついて懇願した。
「ねえ、考え直してよ」
「ダメよ。これは不正をただすためなんだもの。正義こそ、この世で最も大切なものなんだから」
範子の顔には、あの恍惚とした微笑が浮かんでいた。
◆
文学賞の受賞を邪魔させないため、自らの作家生命を守るために、和樹は範子を殺した。
その後、和樹は無事に文学賞を受賞した。
由美子の犯行動機
結婚生活が順調だったのは、最初のうちだけだった。
誠実な人だと見込んで結婚した夫の雅彦は典型的な亭主関白で、家事も育児も、何一つ手伝ってはくれなかった。
だが、それだけならまだいい。
雅彦がリストラされてからは、本当に地獄だった。
度重なる不採用通知に心が折れた雅彦は、やがて働くことを放棄した。
何もしてくれない夫の分まで、家事も育児も仕事も、由美子が一手に引き受けなければならなくなったのだ。
そんな心身ともにギリギリまで追い詰められていた時だった。
――範子と再会したのは。
夫の愚痴をこぼすと、範子はすぐに行動を起こし、あっという間に夫を再就職させてしまった。
「ほんまありがとう。この世にひとりでもわたしの味方がいてくれるってことが、ほんまに嬉しかった」
「わたしは別に、誰の味方でもないよ。正しいことをしただけだから、気にしないで」
後に、由美子はこの時の範子の言葉の《本当の意味》を知ることになる。
範子のおかげで戻ってきた平穏な日々は、長くは続かなかった。
雅彦は由美子に隠れて仕事を辞めていて、借金した金を生活費に充てていたのだ。
……もう我慢の限界。
ついに由美子は雅彦を見限り、子どもたちを連れて家を出た。
常に不機嫌をまき散らしていた雅彦のいない生活が、どれだけ安らかだったことか。
小さなアパートに引っ越してからは、精神的なストレスから元気のなかった子どもたちにも笑顔が戻った。
やっと取り戻した安らかな家庭。
……そこに《正義》の影が迫る。
秘密にしていた引っ越し先に雅彦が押しかけてきた。
聞けば、住所は範子から教えてもらったのだという。
ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべながら、雅彦は言った。
「離婚はしないからな」
借金を生活費に充てていたことから、調停離婚において雅彦が不利にならないこと。
もし離婚した場合、由美子にも借金を返済する義務が生じること。
専門的な法律の仕組みを、雅彦はぺらぺらと語りだす。
よどみのない雅彦の話しぶりに、由美子はハッとした。
「もしかしてそれ……全部、範子が?」
「そう。教えてくれた」
目の前が真っ暗になる。
「出て行って!」
「出て行かないよ。夫婦には同居の義務があるんだそうだ。それを最初に放棄したのは、お前だからな。調停では不利になるかもしれないな」
ひとしきり笑うと、怯える子供たちを抱きしめながら、雅彦はさも愉快そうに言った。
「範子さんは本当に恩人だ。お前が頼る気持ちが、よーくわかったよ」
由美子はすぐに範子に抗議の電話をかけた。
「範子はあたしの友達でしょ!? どっちの味方やのよ!」
「言ったじゃない。わたしは雅彦さんの味方でも、由美子の味方でもないわ。わたしは……正義の味方なの」
離婚調停では、範子の存在がさらに邪魔になった。
夫婦喧嘩のときに由美子が子供に怪我をさせてしまったことを、範子は『虐待』として証言するというのだ。
しかも、いつの間に撮ったのか証拠の写真つきで。
「ちょっと待って、お願い。雅彦に慰謝料でもなんでも払う。でも虐待の証言はやめて。あれは本当にたまたま……」
「わたしは正しいことをしたいだけ。正義こそ、この世で一番大切なものだから」
去っていく範子の背中を見ながら、由美子は問う。
子ども2人をわたしから奪う正義ってなに?
そんな正義に、何の意味があんの?
もう、限界。
子どもたちを取られたら、生きてはいけない――
◆
離婚調停での範子の証言を阻止するため、子どもたちとの未来のために、由美子は範子を殺した。
その後、由美子は無事に親権を勝ち取った。
現在は2人の子供と穏やかな生活を送っている。
理穂の犯行動機
当時、理穂は不妊に悩んでいた。
アメリカ人の夫は「卵子提供を受けたら?」と何度も提案してきたが、冗談じゃない。
自分のお腹を痛めて、自分のDNAを受け継いだ子を産む。
そこに意味があるのだと理穂は考えていた。
しかし、夫はそんな理穂の考えをなかなか理解してはくれなかった。
「範子が卵子を提供してくれるそうだ。君の親友で、僕の恩人でもある範子なら、君も納得してくれるだろう?」
喜色満面の笑みを浮かべる夫の言葉に、理穂は耳を疑った。
……確かに、理穂は高校時代、範子の《正義》に助けられたことがある。
無二の親友だと見込んで、会社の経理もお願いした。
その《正義》で悪質なモンスターペアレントを黙らせたこともあるから、会社や夫にとって範子は『恩人』と言えなくもない。
しかし、それとこれとは話が別だ。
もし範子が本当の親友だったとしても、その卵子ならば納得できるという話ではない。
……まして相手はあの範子だ。
社員として雇ってようやく、理穂は範子の正義が常軌を逸していることに気がついた。
範子の正義の本質は《攻撃》だ。
他人を傷つけ、追い詰め、破滅させること。
それこそが範子の《正義》なのだ。
「範子なんて、親友でもなんでもないわ! いつも正義を押しつけて、こっちの頭がおかしくなりそう! あんな子、だいっきらいよ!」
大声で、一気にぶちまける。
ハッと気がつくと、夫が蒼ざめた顔で理穂を見つめていた。
「なんてことを言うんだ。ノリコのことを悪く言うなんて、どうかしてる。僕たちは助けられてばかりなのに……」
「範子はわたしたちを助けてるんじゃないの。あの子にとって大事なのは正義だけ。あの子には、思いやりも優しさも温もりも――」
すっと片手を理穂の前に立ててさえぎると、夫は冷たい声を出した。
「それ以上ノリコを悪く言ったら……僕は君のことを一生、軽蔑する」
なんということだろう。
どうして、わたしが範子の子供を産まなくちゃならないの?
拒否すればわたしが悪者になる。
夫に軽蔑させる。
なんとか範子を説得して、範子に卵子提供を撤回してもらわなければ……。
しかし、範子は聞く耳を持たなかった。
「不妊である理穂は、すでにご主人の権利を侵害しているとも考えられる。卵子提供を拒むということは、ご主人からさらに子供を持つ機会を奪うということ。不妊は理穂のせいではないとしても、こちらは完全に権利の剥奪になるんじゃないかしら」
「剥奪って……どうしてわたしが悪者になるのよ。あんた、頭おかしいんじゃない? あんたが撤回してくれれば、誰も傷つかずに済む話じゃないの!」
「ご主人から断られない限り、わたしはオファーを撤回したりしない」
夫はやっと子供を持てるという喜びが全身からあふれている。説得などできるはずがない。
かといって範子を説得するのは不可能だし、卵子提供を拒否すれば理穂が悪者になってしまう。
逃げ場は、ない。
このまま範子の子供を産むしかないというのか……。
「もうすぐ範子は真のファミリーになるんだからね」
夫の言葉に、悪寒が全身を駆け巡った。
◆
範子の卵子提供を阻止するため、範子の子供を産むという最悪な未来を回避するために、理穂は範子を殺した。
現在、理穂は念願の子供を妊娠している。
麗香の犯行動機
麗香の恋人には妻子がいる。
といっても、一般的な『不倫』とは事情が違う。
彼……本間亮治の妻は8年前から昏睡状態に陥っている。
意識もなく、目覚める見込みもない。
長い間、本間はそんな妻の介護を続けながら、父親として2人の子供を育ててきた。
たった1人で。
麗香はいつしか、そんな本間のことを支えてあげたいと思うようになった。
だから、何度断られても諦めずに気持ちを伝えた。
「俺、もういっぺん幸せになってもいいのかな」
そうしてようやく、2人は結ばれたのだった。
奥さんのご両親は「いままで本当にありがとう」と2人の新たな門出を祝福してくれた。
一方で、子どもたちはまだ麗香の存在を知らない。
籍を抜くのも再婚するのも、子どもたちが成人してからにしようと2人で決めた。
だから、2人の時間を過ごせるのは、本間が麗香のマンションを訪ねてきている時だけ。
そんな関係でも、麗香は満ち足りていた。
女優である麗香とディレクターである本間の関係は、誰も知らない。
同窓会で再会した高校時代のメンバーにも、このことは秘密にしている。
麗香が亮治との関係を打ち明けているのは、心から信頼しているごく少数の人にだけ。
……その中には、親友にして恩人の範子も含まれていた。
「不倫は間違ってると思う。罪と言っても民法上のことだし、もちろん刑法上の罪ではない。けれど、不法行為であることには間違いないわ」
「不法……行為……?」
「もちろん、奥さまが訴えを起こさない限り、麗香は罰せられることはない。けれども、だからといって正しいことでもないでしょう」
このとき、他の3人と同じように麗香は悟った。
高校時代に範子が助けてくれたのは、そこに友情があったからじゃない。彼女はただ《正義》を成していただけなのだと。
そして、範子の《正義》にとって、自分は《悪》なのだということを。
範子はまず「本間が夫として麗香の生活費を払っている」という点に喰らいついた。
「本間氏と麗香は他人、つまり扶養義務は存在しない。あかの他人から受領しているのだから、贈与税がかかるわ」
黙っていればわからないという麗香の反論を、範子は「わたしが税務署に告発するわ」の一言で切り捨てた。
……だが、それはまだいい。
贈与税くらい、別に払ったって構わない。
問題は、範子が「子どもたちに2人の関係を話す」と言い出したことだ。
「麗香は、本間さんが未成年のお子さんを監護すべき時間を奪っている。こういう場合は、『特段の事情がある』として、お子さんからも麗香に慰謝料を請求できる可能性があるの」
「え……?」
「息子さんたちが実際に慰謝料を請求するかどうかはわからない。けれども、そういう権利があるということを、わたしは正しい大人として、教えてあげる義務があると考えてる。もちろん必要とあらば、慰謝料請求の裁判ではわたしも証言台に立つわ」
またあの微笑だ。血の気を失った麗香の唇がわなわなと震える。
「ひどいよ……範子は、わたしが嫌いなの?」
「どうしていきなり話が飛ぶの。わたしが嫌いなのは、間違ったことだけよ」
いきなり裁判だとか慰謝料だとか言われたら、中学生と小学生の子供たちは混乱するだろう。
周りの大人たちに相談するかもしれない。
もし、そのことをマスコミに嗅ぎつけられたら?
取材が来た場合、範子は「正直にすべてを話す」という。
いくら愛し合っていようとも、形式上では『不倫』だ。
麗香も本間も世間から徹底的に非難されて、業界から干されてしまうに違いない。
そうなればもちろん、本間との結婚もできなくなるだろう。
このままでは《正義》に幸せな未来を壊されてしまう……!
◆
本間との不倫関係を隠すため、口封じをするために、麗香は範子を殺した。
子どもたちが成人するまであと少し。
石森麗香のスキャンダルはまだ報じられていない。
五年前の事件の全貌
その日は、定例のランチ会の日だった。
場所は5人の地元である山梨県。
洒落たカジュアル・フレンチを食べた後、範子が「ねえ、久しぶりにみさき山に行ってみない? ちょうどリンドウが見頃でしょ。野生のリンドウの写真を撮りたいのよ」と言った。
4人は賛成し、範子の車に乗り込んだ。
範子は山道の運転が得意ではなかったので、途中からは麗香が運転席についた。
助手席に範子。後ろのシートに由美子、和樹、理穂。
いつも通り、運転速度に細かく文句をつけながら範子が《その一言》を口にする。
「正義こそ、この世で一番大切なものよ」
その《正義》に人生を壊されかけていた4人の耳に、その言葉はどう響いたのか。
最初に行動を起こしたのは助手席の真後ろにいた由美子だった。
両手を伸ばし、助手席にいる範子の首を思い切り絞めた。
当然、範子は全身全霊で抵抗する。
すると今度は、理穂と和樹が身を乗り出し、暴れる範子の両腕両足を押さえつけた。
「由美子、早く! ちゃんと首を絞めて!」
なぜ、和樹と理穂まで?
混乱しながらも、由美子は再び両手に力を入れた。
気がつくと、範子は動かなくなっていた。
いつの間にか車も止まっている。
「――死んだの?」
呼吸を確かめようと、範子の鼻の下に、由美子がおそるおそる手をかざした時だった。
カッと、範子の目が見開かれた。
範子は咳き込みながらシートベルトを外すと、車の外へ這い出た。
目の前で範子が逃げていくというのに、由美子も理穂も和樹も動けず、ただぽかんと眺めていた。
――と突然、車が動いた。
よろめきながらも車から離れようと歩く範子をめがけて、突進していく。
ドン、という鈍い、嫌な音がした。
急ブレーキがかかり、車が停止する。
運転席では麗香がハンドルを握りしめたまま、真っ青な顔をして震えていた。
その後、4人は共謀して「範子が運転を誤って車ごと崖から転落した」かのように偽装した。
崖への道は廃道であり、立ち入り禁止になっている。
範子の遺体が見つからないように、という思惑だった。
事件からしばらくの間、4人は眠れぬ日々を過ごした。
「共犯がいる。自分は一人じゃない」と思いたくて、何度も何度も4人で集まった。
半年経っても、一年経っても、範子の遺体は見つからない。
4人が「逃げきれた」と安心できるようになったのは、事件から2年後のことだった。
「あたしたち、今日で会うのを最後にしよう」
今となっては、お互いの顔を見ることで逆に事件のことを思い出してしまう。
和樹の提案に3人も賛成した。
事件のことを忘れ、それぞれの日常へと戻っていくために。
◆
5年前のあの日、4人は何の打ち合わせもなく、それぞれの事情によって範子を亡き者にした。
事故に見せかけて車ごと崖から落とした範子の遺体は、まだ見つかっていない。
しかし、4人は確かに範子の心臓が止まっていること、呼吸が止まっていることを確認している。
生きているはずがない。
第一、もし仮に範子が生きているとしたら、4人はとっくに逮捕されているはずだ。
ならば、不気味な《招待状》は誰が何の目的で送ってきたというのか?
それを確かめるため、4人は招待に応じることに決めた。
そこで待ち受けていたのは……。
「の……りこ……?」
招待状の送り主とその目的【結末のネタバレ】
「お待ちしておりました」
微笑みながら近づいてくる女は、どう見ても高規範子だった。
「会場までご案内します。さあ、一緒に行きましょう」
先導する範子の後ろを、4人はふらふらとついていく。
「さあ、どうぞ」
範子が扉を開けると、その中は……パーティ会場だった。
大勢の人間が賑やかに談笑している。
これは、いったい何?
呆然と立ち尽くす女たちに、範子は困ったように眉を寄せた。
「あの……先ほどから一体どうなさったんですか?」
その丁寧な口調に、麗香はハッとした。
冷静になってみると、目の前の範子には違和感がある。
『若すぎる』
それも5年前で時が止まった、どころの若さではない。
まるで高校時代の……
「あなた、もしかして」
理穂が口を開いた。
「律子ちゃん?」
その名前に弾かれたように、和樹も由美子も麗香も、かつての範子にそっくりな女を見た。
「そうです……けど?」
範子の一人娘・律子は当然といわんばかりに頷いた。
律子の説明によって、すべての謎は氷解した。
1.範子の遺体が発見された。警察は事故として処理。
2.範子の遺言に従って、夫と娘は葬式のかわりにこの『思い出の会』を開いた。
3.手違いで遺体発見の連絡が4人にだけ届いてなかったため、招待状の文面が意味深に見えた。
「そういうわけで、今日は涙は不要です。妻の遺志を尊重して、どうか楽しく過ごしてください」
夫と律子が、会釈をして去っていく。
二人の姿が遠のくのを確認してから、4人は顔を見合わせた。
「楽しく過ごす、ですって」
どうしても上がってしまう口角を抑えようとしながら、理穂が言った。
「そうね。是非、範子の遺志のままに」
「存分に、楽しませてもらうとしよう」
共犯者たちは余裕たっぷりの笑みを浮かべると、足取りも軽やかにテーブルへと向かった。
勝った……!
あの範子を出し抜き、完全犯罪を成し遂げた……!
4人は解放感と達成感を味わいながら、勝利の美酒に酔いしれた。
気がつけば、『思い出の会』も終わりの時間。
マイクを持った律子が前に立ち、最後の挨拶を始めた。
律子「実は母は、最期にわたしたちに置き土産をしていってくれました。母は非常に正義感が強く、カメラやビデオカメラを常に持ち歩いていました。事故や事件に遭遇したら、すぐに記録できるようにです」
律子「そんな母ですから、車にも、当時はまだ珍しかったドライブレコーダーをつけていました。母のドライブレコーダーは当時でも最新式で、車内と車外を同時に録画できるタイプのものでした。つまり母が最期に見たものが、これには映っているということです」
律子「この映像は、わたしも父もまだ見ておりません。ここに今日お集りの大切なみなさまと共に、リアルタイムで分かち合いたいと思ったからです。『思い出の会』にふさわしい余興になることでしょう」
「今すぐ止めないと」
和樹が立ち上がったときには、もう遅かった。
会場の照明が消え、前方のスクリーンが照らされる。
映し出されたのは和樹、由美子、理穂、麗香、そして範子の姿。
惨劇の一部始終が、衆人環視の中で上映された。
エピローグ【真の結末のネタバレ】
事件の一部始終が上映されたことで、会場は阿鼻叫喚に包まれた。
その後、警察の到着により4人は逮捕。
範子から日常を守り切ったと浮かれたのもつかの間、4人はすべてを失って拘置所に収監された。
そして今、面会室のアクリル板を隔てて、和樹の前には律子が座っている。
「本当に、お母様のことはなんとお詫びしたらいいか……」
神妙に反省している和樹を見て、律子は……笑いを必死でこらえた。
謝罪も償いも必要ない。
だって、母をこの世から消してくれた4人に、律子は心から感謝しているのだから。
看守の目さえなければ、とめどなく感謝を述べたいくらいだった。
高規範子の《正義》に誰よりもうんざりしていたのは、実の娘である律子だった。
なにせ、生まれたときからずっと範子の《正義》に監視されてきたのだ。
その苦痛は和樹たちの比ではない。
範子の正義にがんじがらめにされていた律子は、いつしか願うようになっていた。
――母がいなくなればいいのに、と。
やがて、律子は《正義》の範囲内で範子を亡き者にできないかと考えるようになった。
たとえば、こんなふうに。
『運転が得意でない母に山道を走らせたら、事故で命を落とすかもしれない』
あの日、範子が山に行きたいと言い出したのは、律子が「みさき山で、野生のリンドウの写真を撮ってきて。絵の宿題で描きたいから」と頼んだからだった。
4人の女たちがそうしなければ、きっと自分が手を下していた。
だから感謝しこそすれ、少しも女たちに恨みはない。
それは律子の偽らざる本心だ。
だが、同時に律子はこう思ってもいる。
《正義》で悪を裁くのは、なんて気持ちがいいのだろう、と。
律子も女たちも、範子を亡き者にしたいという共通の願いを抱いていた。
それなのに今、律子と女たちの明暗は面会室のアクリル板を隔ててはっきりと分かれている。
それは律子が正しく、女たちが間違っていたという証だ。
律子は母を排除することに成功したが、何一つ罪を犯していない。
正しければ、すべてが許される。
正義こそ、全て。
律子の顔には、範子と同じうっとりとした微笑が浮かんでいた。
それは《正義》で誰かを断罪したときに感じる、途方もない快感の表れ。
律子がわざとレコーダーの映像を衆人環視の中で上映し、4人を公開処刑にしたのは、この快楽を味わうためだった。
場に似つかわしくない律子の微笑を見て、和樹はハッとした。
「律子ちゃん、ひょっとして全部あなたが仕組ん――」
「そろそろ失礼します」
和樹を遮って、律子は立ち上がった。
「おばさまたちが刑期を終えて出所なさったら」
見下ろすようにして、律子は告げる。
「常にわたしが見張っておいてあげますね。もう二度と間違ったことをしないように。正しいことだけをして生きていけるように。ずっと、ずーっと」
和樹がヒッと息を吸い込んだ。
顔は色を失い、頬が震えている。
そんな和樹に、律子は笑みを投げかけた。
律子には和樹の心境がよく理解できた。
きっと和樹は今、この微笑の中に母を見ている。
あの、正義をなしとげた時の、恍惚とした母を。
女たちが命をかけて葬り去ったはずの、母を。
呆然と座っている和樹を残し、律子は面会室を後にした。
ふと、律子は思いついた。
祖母も、母に対して非常に厳しかったと聞いている。
門限を破った当時中学生の母を探しに夜中に出かけたところを、祖母は飲酒運転の車にはねられたらしい。
もしかしたら……母も律子と同じように、罪を犯さない方法で祖母を排除したのではないか?
そしてそのことをきっかけに、正義に目覚めたのではないだろうか?
だとしたら母も、いつか娘に排除されるという可能性を考えていたかもしれない。
しかし、その方法が法を犯すものでさえなければ、わたしに葬り去られてもよいと思っていたのでは――
考えすぎだろうか?
それとも……
明日、律子は高校生になる。
《正義》に目覚めた律子の、新しい生活が始まる。
<絶対正義・完>
まとめと感想
秋吉理香子「絶対正義」がドラマ化!
今回は原作小説のあらすじ・ネタバレをお届けしました。
ちょっと長くなったので、おそらくドラマ最終回に放送されるであろう『驚きの結末』について、改めてまとめてみますね。
1.招待状の送り主は範子ではなく、範子の夫と娘の律子。遺体が発見されたため、葬式代わりの『思い出の会』に招待するためのものだった。
2.『思い出の会』のラストで上映されたのは、範子の車に設置されていたドライブレコーダーの映像。動かぬ証拠により和樹たち4人の犯人は逮捕された。
3.『思い出の会』は律子が和樹たちを公開処刑するためにひらいたものだった。
4.和樹たちを断罪することで、律子もまた《正義》に目覚めた。
ex.律子も範子の《正義》の被害者だった。律子は法律の範囲内で母を亡き者にしようとあの手この手を試していた。しかし、最終的には《正義》の快感に目覚め、母と同じ正義の怪物に変貌した。
◆
いやあ、秋吉理香子さんらしいイヤミスなラストでしたね!
特にエピローグでのどんでん返しには驚かされました。
・律子もまた範子を葬ろうとしていたこと
・そんな律子が2代目の《正義の味方》になったこと
ゾッとする展開の連続で、読み終わった後には「やられた!」という満足感がありました。
これだから秋吉理香子さんの作品は大好きです。
ドラマ情報
キャスト
高規範子……山口紗弥加(高校時代:白石聖)
西山由美子……美村里江(高校時代:桜田ひより)
理穂・ウィリアムズ……片瀬那奈(高校時代:小野莉奈)
今村和樹……桜井ユキ(高校時代:小向なる)
石森麗華……田中みな実(高校時代:飯田祐真)
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