吉田修一「太陽は動かない」を読みました!
声を大にして言いたいのですが、これ、めちゃくちゃ面白いです!
- 裏社会で生きる産業スパイが主人公
- アジア各国の大企業や政府の思惑が交差する壮大なスケール
- だんだん明かされていく敵の《真の目的》
- 正体不明の謎の美女
印象としては、大人向けのシビアな『ルパン三世』って感じですね。
同じ吉田修一作品でも『怒り』や『悪人』とはまったく別のエンタメ小説でした。
とはいえ、そこはやっぱり吉田修一先生。
エンタメ小説といっても『頭を空っぽにして楽しめる作品』とはいきません。
それぞれの陣営の思惑が入り組みまくってて、正直、物語の本筋はかなり複雑です。
そこで!
今回は複雑な「太陽は動かない」のあらすじをわかりやすく簡潔にお伝えしていこうと思います!
※結末までのネタバレを含みます。ご注意ください。
Contents
第一部 天津スタジアム爆破計画
『AN通信』はアジアのニュースを発信する小さな会社である。
……表向きは。
AN通信の実態は産業スパイ組織であり、独自に集めた裏の情報を大企業や政府に高値で売ることを生業としている。
鷹野一彦はそんなAN通信のエージェント。
部下の田岡亮一とコンビを組んで任務にあたっている。
さて、今回も鷹野は金になりそうなキナ臭い情報を入手した。
◆
ことの発端は、南シナ海で見つかった新油田。
油田開発に手をあげたのは中国のエネルギー企業『新源石油』だった。
新源石油は日本企業である『興和』、韓国企業である『南星』と提携し、油田開発を進める計画だ。
一方、そんな新源石油の計画を邪魔しようと画策する勢力が存在した。
中国政府である。
新源石油は利益重視の地方企業。
今回の油田開発でも、勝手に外国資本を受け入れている。
中央政府にしてみれば、言うことを聞かない地方企業の存在はおもしろくない。
新油田開発は政府主導で行われるべきだと考えている。
◆
そこで中国政府はある計画を立てた。
『天津スタジアム爆破計画』
CIAを通じて新源石油に悪感情を持つウイグル過激派を扇動し、サッカー日韓戦が行われる天津スタジアムで爆破テロを起こさせる。
そうすれば日韓の世論は中国憎しに傾き、『興和』『南星』は新源石油との提携を打ち切らざるを得ない。
あとは改めて中国政府が新源石油を操り、自ら選んだ日韓の企業(日基とサウンデ)と開発を進めていけばいい。
◆
鷹野は考えた。
この情報を最も高値で買うのは誰なのか?
答えはすぐに出た。
『興和』と『南星』だ。
ウイグル過激派は中国政府に利用されているだけであって、油田開発を巡る謀略のことは知らない。
興和・南星にテロ計画のことを知らせ、さらにウイグル過激派との交渉の席を用意することができれば、高額な情報料を手に入れられるはずだ。
人質
上海に渡った鷹野は、裏社会の情報通・張豪(ジャンハオ)のルートを使って、ウイグル過激派のリーダーであるシャマルと接触した。
しかし、交渉は失敗。
シャマルは利益のためではなく、あくまでウイグル族の歴史と誇りのために戦うという。
◆
鷹野は拉致されるように『興和』の上海支社へと連行された。
そこで待っていたのは興和の上海支社長・新井。
新井「私たちはね、実行犯グループとの話し合いを期待していたんですよ。なのに、あなたは失敗した」
興和と南星はデイビッド・キム(鷹野のライバル)からの情報提供により、爆破計画のことをすでに知っていた。
シャマルとの交渉に失敗した今、もう鷹野に手持ちの情報はない。
今回の商売は完全に失敗だ。
鷹野「もう私たちにできることはありません」
潔く言い切る鷹野に、新井は唾を飛ばす。
新井「いや、ですから、それじゃ困るんですって! もっと本気でやってもらわなければ!」
一枚の写真が突き出される。
そこに写っていたのは、見るも無残に痛めつけられた田岡の姿だった。
新井「この写真の男は、多少乱暴なやり方でしたが、現在私どもがお預かりしております。そして先ほど天津に運ばれたそうです。そう、3日後に爆破される場所にです」
つまり、爆破テロを防がなければ田岡の命もない……。
新井「鷹野さん、簡単に『もう無理だ』なんて言わないでくださいよ。私たちだって必死なんです。なんとしてでもこの爆破を止めるんだ!」
新源石油との提携が流れれば、おそらく新井たちの首が飛ぶ。
だから、なりふり構わない手段だって選ぶ。
こうして鷹野は一気に窮地へと追い込まれた。
◆
裏社会では利益こそが絶対であり、人間としての感情を挟むことは禁じられている。
今回の場合、鷹野がとるべき行動は『田岡を見捨てて次の仕事に移る』ことだ。
鷹野たち諜報員の胸には小型の爆弾が埋め込まれている。
一日一回の定時連絡を欠かせば、それは容赦なく爆発する。
天津スタジアムの爆破を待つことなく、田岡はAN通信によって始末されるだろう。
……しかし、鷹野はそれをよしとしなかった。
田岡の影武者を立てて組織の目をごまかすと、自身は一路天津へと向かった。
天津スタジアム
- シャマルと再交渉して爆破を中止させる作戦
- 当日までに田岡を取り戻す作戦
鷹野が打った手はどれも失敗に終わった。
残された手は、日韓戦当日の天津スタジアムから田岡を救出する道のみ。
鷹野は張豪からつかわされた張雨(ジャンユウ)とともに天津スタジアムに潜入した。
◆
サッカー日韓戦の試合前には、アジアで大人気の中国人歌手・一陣風が一曲披露する予定になっている。
シャマルをはじめとするウイグル過激派は、その一陣風の控え室を拠点として動き回り、すでに爆弾の設置を終えていた。
ウイグル族の血が流れている一陣風は、シャマルたちの協力者だったのだ。
◆
シャマルたちの計画は実にあっさりと崩壊した。
計画の恐ろしさに耐えられなくなった一陣風のヘアメイクが「もうすぐここは爆発する! 逃げて!」と叫び声をあげたのだ。
叫び声を引き金にしたパニックはすぐに広がり、たちまち観客たちは我先に逃げようとスタジアムの出口に押し寄せた。
◆
田岡は天津スタジアムの地下にあるゴミ集積所に隠されていた。
鷹野がそのことに気づいたのは、爆発の寸前。
間一髪のタイミングで田岡を救出すると、鷹野は急いで車に乗り込み、逃げ惑う群衆をかき分けて天津スタジアムから離れた。
ドン!
背後で地面を揺らすような爆発音が聞こえる。
と、そのとき。
鷹野たちの車の進行を妨げるように、人影が立ちふさがった。
シャマルとその仲間だ。
車に乗せろということらしい。
シャマル「これは取引よ! 損はさせない!」
鷹野は一瞬考えたあと、シャマルたちを車に乗せた。
さきほどよりも大きな爆発音が、再び地面を揺らした。
◆
これが三か月に及ぶ鷹野たちのミッションのラストシーンだった。
ウイグルの新源石油と「興和+南星」の提携阻止を目論む爆破計画を知り得ながら、結局阻止して興和や南星につくことも、逆に実行側につくこともできず、手にした情報だけを無駄にした完全なる失敗の光景だった。
第二部 巨大な陰謀
鷹野には最初から疑問に思っていることがあった。
新油田開発を巡る競争に、いるべき存在がいなかったのは何故だ?
- 中国の国営総合エネルギー巨大企業『CNOX』
- 香港トラスト銀行の頭取『アンディ・黄』
まっさきに新油田開発に手をあげそうな両者の影が、今回は一切なかった。
……つまり、CNOXとアンディ・黄は裏で油田よりも大きな儲け話を進めている?
とはいえ、油田よりも金になるエネルギー事業などそうそうあるはずもないが……。
◆
青木優が鷹野を訪ねてきた。
青木はAN通信上海支社の文化記者で、『表向きの仕事』のために採用された一般人だ。
天津スタジアムの一件では、田岡の影武者を用意するために協力してもらっていた。
青木「単刀直入に言います。私も、鷹野さんと同じ仕事がしたいんです。AN通信という会社が陰でどんな仕事をしているのか、私、知ってます。知ってて、上海支局の現地採用枠に応募したんです」
青木の父親はAN通信の《商売》によって、情報戦に負けた側の人間だった。
その後、父親は自ら命を絶ち、母親は精神を病んで入院。
つまり、青木家はAN通信によって壊されたのだ。
とはいえ、青木の目的は復讐ではなかった。
父親とは違う《勝つ側の人間》になること。
そのために青木優はAN通信に入りたいのだという。
鷹野「じゃあ、服を脱いで見せろ」
青木「え?」
鷹野「そのくらいのこともできないのか?」
青木は覚悟を示すように、鷹野の前で一糸まとわぬ姿になった。
鷹野はそんな青木のことを無表情で見つめ続ける。
青木「こ、これでAN通信に入れてくれるんですよね?」
鷹野「無理だな」
鷹野は無慈悲に告げると、青木を部屋から追い出した。
◆
一方その頃、デイビッド・キム(鷹野の同業者)は小田部菜々という若い女を口説き落としていた。
もちろん《仕事》のために。
菜々の父親は京都大学の教授でマイクロ波研究の第一人者である小田部憲三博士だ。
菜々を手中に収めれば、小田部博士を裏から操るのは実にたやすい。
小田部博士を押さえることで莫大な金が手に入るとデイビッド・キムに情報提供したのは謎の美女・AYAKOだった。
近頃、AYAKOはアンディ・黄の新しい恋人として社交の場に現れている。
CNOXの真の計画
CNOXは日本の大手電機メーカー『MET』と新しいプロジェクトを始動させていた。
『水上太陽光発電』
日本の海上に太陽光パネルを設置し、電力を確保する計画だ。
ゆくゆくは政府も巻き込み、国をあげての『メガソーラー計画』として推し進めていく予定だという。
……ただし、水上太陽光発電そのものは特に目新しい技術ではない。
CNOXにとって新油田よりも価値のある計画だとは、鷹野には思われなかった。
◆
調査の結果、鷹野はCNOXの《真の計画》を知る。
『宇宙太陽光発電』
人工衛星からマイクロ波によって宇宙の太陽光エネルギーを送り、地表で受信する。
もし実現すれば従来とは比べ物にならないエネルギーが手に入る。
……と、いうことは……
鷹野「METとの計画はフェイクだ! CNOXは最初からMETが開発した蓄電池技術が欲しかっただけだ!」
CNOXのフェイク(メガソーラー計画)によって、日本は国をあげて旧式の太陽光発電を選択することになる。
一度計画が動き出してしまえば、もう引くことはできない。
日本が遅れた発電計画を進めている間に、中国は最新式モデルで世界を支配するだろう。
エネルギー分野で先頭を走れるはずだった日本は、この宇宙太陽光発電の分野で二流国、三流国となる……。
◆
宇宙太陽光発電に必要なものは大きく分けて3つ。
- 人工衛星
- 地上の受信装置(レクテナ基地)
- マイクロ波技術
中国はすでに人工衛星とレクテナ基地を用意している。
だから、鍵となるのは日本が保有している『マイクロ波の伝送技術』だ。
この技術が中国に渡れば、日本は国家間のエネルギー競争に負ける。
そして、そのマイクロ波技術の第一人者こそ、デイビッド・キムが接触している小田部博士その人。
デイビッド・キムはすでに小田部博士を操り、日本国内にもあった宇宙太陽光発電の計画をストップさせていた。
デイビッド・キムとAYAKOはCNOX(中国)側の味方。
それに対して鷹野はMET側の味方として動いている。
窮地
CNOXのレクテナ基地を調査しようする鷹野だったが、ヘリが撃墜され、CNOXの幹部・ジミー・オハラに捕まってしまう。
ジミー「このまま明日の正午を過ぎれば、その胸の爆弾が起爆するんでしょう? 一度見てみたかったんですよねえ」
鷹野、絶体絶命の大ピンチ!
◆
田岡は上司の風間に「鷹野を助けてほしい」と懇願するも、その願いは聞き届けられなかった。
風間「これからはお前が『鷹野』を名乗れ。じき新しい『田岡』がお前の下につく」
田岡「そんな……」
田岡は機密情報をカードにして独断でCNOXと交渉しようとするも、失敗してしまう。
……もう、鷹野は助からない。
◆
砂漠のなかに隠れるように建設されているCNOXのレクテナ基地。
その一角に捕らえられた鷹野は、定時報告のタイムリミットを迎えようとしていた。
残り10分……5分……3分……。
と、そのとき。
とてつもない衝撃がレクテナ基地を襲った。
建設現場のダンプカーが鷹野の捕らえられている部屋に突っ込んできたのだ。
統制された軍団がすみやかにCNOXの見張りを片付けていく。
鷹野を救出に来たのは、天津スタジアムで命を救ったシャマルだった。
鷹野「天津で助けたお礼か?」
シャマル「お礼じゃないわ。あのときに交わした取引よ。ただ、それだけのこと」
風間への定時連絡は間一髪で間に合った。
鷹野(ああ……これであと24時間、生き延びることができる……)
薄れていく意識の中、鷹野は心の中でつぶやいた。
発明品
アジア諸国がエネルギー開発競争に揺れる中、日本は静岡の町工場ではとんでもない発明品が誕生していた。
『新型太陽光パネル』
その性能はなんと従来の太陽光パネルの100倍!
CNOXやMETが知れば、喉から手が出るほど欲しがるに違いない。
そんな『新型』を開発したのは、工場の社長の息子である広津陸。
広津は『新型』を国の事業に採用してもらうため、地元の代議士で1年生議員の五十嵐拓に預けることにした。
◆
五十嵐の眼前にある選択肢は2つ。
- 『新型』をCNOX(中国)に売る
- 『新型』をMET(日本)に売る
前者の場合、莫大な利益を手にすることができるが、日本を裏切ることになってしまう。
後者の場合、日本に貢献することができるが、どのみち『メガソーラー計画』は『宇宙太陽光発電』に勝てない。
日本を裏切り1人勝ちするか、それとも日本とともに沈むか。
五十嵐は『新型を使って日本が生き残る』という第三の選択肢を求めて、AN通信の鷹野・田岡と接触した。
◆
五十嵐と鷹野の交渉の日。
極秘のはずの交渉場所に、招かれざる客がやってきた。
AYAKOだ。
「五十嵐先生、突然失礼します。私は現在、CNOXと仕事をしている者です」
AYAKOは「日本のために新型を使いたい」という五十嵐の決断が非現実的であることを合理的に説明する。
「もちろんお返事はすぐにとは申しません。ゆっくりと考えていただいて、お気持ちが決まりましたらいつでも私にご連絡ください」
AYAKOの邪魔こそ入ったが、五十嵐の心は変わらなかった。
国会議員の身でありながら、国を裏切れるはずもない。
五十嵐(鷹野を通じて『新型』をMETに渡し、国策を宇宙太陽光発電に切り替えられれば、あるいは……!)
一方、五十嵐の隣ですべての話を聞いていた秘書の丹田康祐は複雑な表情を浮かべていた。
◆
……それにしても、なぜAYAKOは鷹野と五十嵐の交渉を知っていたのか?
その理由はすぐに判明した。
「そんなに知りたいなら、種明かししてあげるわよ」
AYAKOの声で登場したのは、青木優。
上海で「AN通信に入りたい」と鷹野に懇願していた女だ。
鷹野に捨てられた青木優は、その後、AYAKOの部下になっていた。
そして、ひそかに入手していたAN通信の暗号パターンを使って、青木は鷹野たちの通信をずっと傍受していた。
だから、鷹野たちの情報はAYAKOに筒抜けだったのだ。
急変
五十嵐の秘書・丹田が裏切った。
丹田からの情報提供により、『新型』の開発者である広津はAYAKOの手に落ちた。
アンディ・黄とCNOXに『新型』が渡れば、いよいよ日本にエネルギー事業での勝ち目はなくなる……。
ところが、AYAKOが広津を連れて行った先は中国ではなくアメリカだった。
CIA(アメリカ)とCNOX(中国)、2つの組織に価格競争させ、より高い金を払う方に『新型』を売る。
それがAYAKOの真の計画だった。
◆
CIAと接触する直前、AYAKOと広津は謎の集団に拉致されてしまう。
それはAYAKOの裏切りを見抜いていたアンディ・黄が送り込んだ軍団だった。
拘束されたAYAKOと広津は問答無用でどこかへ連れ去られた。
◆
アンディ・黄の一人勝ちが決定したかのように思われた矢先、中国で政変が起こった。
アンディ「いったいどうなっている!? CNOXを後押ししていた政治家どもに収賄の嫌疑がかけられる可能性がある!」
CNOXは国営企業だ。
現在後ろ盾になっている政治家が失脚すれば、対立するグループに所属する別の政治家が担当につくことになる。
そうなればCNOXはもはや別組織になるといっても過言ではなく、計画の主導権を握るアンディ・黄ならびに香港トラスト銀行も切り捨てられることになる。
焦るアンディ・黄。
残された道は決定的な報道が流れる前に、急いで宇宙太陽光発電の計画を発表してしまうことだけだ。
しかし、その場合『新型太陽光パネル』は発表までに間に合わない。
革新的な新技術をみすみす取りこぼしてしまうことになる……のは仕方がない。
ただ、もし別の計画に『新型』が使われでもしたら……。
武器だったはずの『新型』が、宇宙太陽光発電計画の邪魔になってしまう。
「だったら、なにもかもまとめて海に沈めてしまえばいいんですよ」
そう助言したのはCNOXのジミー・オハラ。
当初の予定では、広津とAYAKO、そして『新型』の技術が積まれたコンテナは船で東京湾からマニラに運ばれるはずだった。
ならば、それらすべてを海に沈めてなかったことにしてしまえばいい。
そうすれば懸念材料は消え、安心して宇宙太陽光発電計画を発表することができる。
アンディ・黄はさっそく船を沈めるよう部下に指示を出した。
逆転の一手
鷹野・五十嵐・MET。
三者の狙いは『エネルギー開発の国際競争で日本が負けないようにすること』だ。
とはいえ、今から国内の宇宙太陽光発電を再出発させたのでは遅すぎる。
そこで鷹野は中国の宇宙太陽光発電計画に有利な条件でMETを参入させることを目標に定めた。
そのために必要なピースは3つ。
- CNOXからアンディ・黄を排除すること
- 小田部博士を日本に取り戻すこと
- 新型太陽光パネルを手に入れること
鷹野が五十嵐に提供したCNOX内部の賄賂資料により、すでに中国では政変が起きている。
デイビッド・キムとの交渉にも成功していて、小田部博士の確保についても解決済み。
残る問題は『新型』の確保だけ。
鷹野と田岡は海上を航行するアンディ・黄のコンテナ船へと急行した。
海上の救出劇
海上のコンテナ船に乗り込む。
銃撃戦を制し、AYAKOと広津を救出することには成功したものの、一歩遅く、船はすでに沈み始めていた。
乗ってきたボートも、船に備え付けてある救命ボートも、すでに船員たちに使われてしまっている。
大海原のど真ん中。
沈没する船からの脱出手段はなし。
万事休す……と思われたその時、助けは空から現れた。
ヘリから顔を出しているのは、デイビッド・キムだ。
こうして鷹野たちは九死に一生を得た。
◆
鷹野「助けた礼はしてもらうぞ」
AYAKO「誰が頼んだ?」
AYAKOの憎まれ口を、鷹野は鼻で笑った。
鷹野「あんた、溺れかけても奇麗だな」
AYAKOの顔にも笑みが浮かんだ。
結末
その後、新聞には次のような短い記事が掲載された。
◆
『METは5日、中国国家化工集団との間で、次世代太陽光発電(宇宙太陽光発電)分野での業務提携で基本合意したと発表した。
もともと宇宙太陽光発電計画は中国の総合エネルギー企業CNOXによって進められていたが、先月CNOX側からの収賄容疑で太和グループの幹部が解任、党籍はく奪処分を受けたことにより、業務計画がそのままこの中国国家化工集団に引き継がれていた。
今回の提携でMETは京都大学で開発されたマイクロ波送信技術および、新型高性能太陽光パネルを提供し、4年後の実用化を目指す』
エピローグ
田岡には一つだけわからないことがあった。
田岡「なんで鷹野さん、あのAYAKOって女の動向が全部わかってたんすか? 丹田って秘書が五十嵐を裏切って、あの女に連絡とったこともそうだし、あのAYAKOって女が広津陸を連れてアメリカに高跳びしたこともそう、その二人がアンディ・黄に捕らえられてコンテナ船で沈められそうになったことだって、よくよく考えてみると、どこからの情報だったのか、さっぱりわかんないんですよ」
鷹野は笑って短く答えた。
田岡「青木優!? あの女、鷹野さんがAYAKOの元に送り込んでいたんですか?」
鷹野「そういうことだ。お前には、香港のホテルで青木を部屋から追い出したって言ったろ? それで諦めて帰ったって。でも、実際はあいつ諦めてなかったんだよ。廊下で半裸のままずっとドアをたたき続けやがった」
田岡「ってことは、あの女にうちらのこと全部話したってことですか?」
鷹野「何も言ってないし、言うつもりもない。ただ、もうあいつは知ってるよ。これからは上海の張豪の女版みたいなものだ。ある時は仲間、ある時は敵」
田岡「なるほどなー、これでやっと謎が解けましたよ」
◆
METと組んでいた鷹野の《仕事》は成功のうちに幕を閉じた。
短い新聞記事の裏側に壮絶な戦いがあり、壮大な陰謀が渦巻いていたことを、知る者は少ない。
<完>
補足:鷹野の過去と未来
本編では五十嵐が鷹野の素性について探るシーンがありました。
その結果、五十嵐は風間から鷹野たち《諜報員》の出自について知らされます。
AN通信の諜報員はみんな、親に捨てられた子どもたちでした。
ニュースで「虐待死した」と報じられた子どもたち。
それが鷹野たち《諜報員》の正体です。
AN通信は彼らの命を救いましたが、引き換えに厳しい訓練と絶対服従の爆弾を彼らに与えました。
彼らにとってAN通信に拾われたことが幸せなのかはわかりません。
35歳まで生き延びれば解放されて自由に生きていける、というルールこそあれ、今までそうやって自由になった人間はいません。
それでも、鷹野たちは生きていきます。
生きて、生きて、生き延びていきます。
五十嵐はあまりに過酷なその運命に思わず涙を流したのでした。
まとめ
今回は吉田修一「太陽は動かない」のあらすじネタバレをお届けしました!
では、最後にまとめです。
- 『宇宙太陽光発電』を巡る国家規模の計画と陰謀。
- 主人公・鷹野が中国企業CNOXの企みを阻止したおかげで、日本はエネルギー開発の国際競争に負けずに済んだ。
- 鷹野たちAN通信の諜報員は親から捨てられた子どもたちだった。生きろ、自由になるその日まで。
「太陽は動かない」みたいな群像劇って好きなんですよね~。
- 鷹野たちAN通信チーム
- アンディ・黄とCNOXサイド
- 敵か味方かAYAKOとデイビッド・キム
- 政治界の五十嵐たち
それぞれの陣営の思惑が交錯しながら物語がどんどん深まっていく感じがたまりません!
派手なアクションシーンもありますし、とても映像化向きな小説だと思いました。
映画化 & ドラマ化情報
動画
「太陽は動かない」が映画化 & ドラマ化!
気になるメインキャストは
- 藤原竜也さん(鷹野一彦役)
- 竹内涼真さん(田岡亮一役)
うん、これはもう期待しちゃっていいんじゃないでしょうか!
めちゃくちゃ優秀な産業スパイだけど、どこか人間味もある鷹野。
そんな鷹野を慕い、組織に逆らってまで助け出そうとする弟分の田岡。
個人的には小説を読んでイメージしていた人物像(外見)とはちょっと離れていましたが、「それはそれであり! いや、むしろ見てみたい!」と思いました。
ちなみに映画では原作の物語が、ドラマでは同じキャストでオリジナルストーリーが描かれるとのこと。
映画はもちろん、WOWOWで放送される吉田修一さん監修のオリジナルストーリーもぜひチェックしておきたいところですね。
公開日
2020年5月15日公開
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