秦建日子『サイレント・トーキョー』を読みました!
※小説の原題は『And so this is Xmas』
- 叙述トリックあり
- 真犯人を隠す巧妙なミスリードあり
あらすじでは「クライムサスペンス」と紹介されていますが、実際にはミステリ小説に近い読みごたえでした。
- 物語の結末は?
- 真犯人は誰?
- 叙述トリックって?
この記事では『サイレント・トーキョー』の魅力をぎゅぎゅっと凝縮してネタバレ解説していきます!
どうぞゆっくりご覧になっていってくださいね。
この記事では映画『サイレント・トーキョー』原作小説の内容をネタバレ解説しています。
もし映画で一部設定が変更されている場合、そちらには対応していません。
あらすじ
「これは、戦争です」
12月22日、クリスマスを目前ににぎわう東京・恵比寿で爆破テロが発生。
すぐに届いた犯行声明で、犯人は日本国首相の生放送テレビ対談を要求、受け入れられなければ次は渋谷で無差別爆破テロを起こす、と予告する。
対する首相はテロには屈しないと拒否。
そして翌日、最悪の事態が……!
圧倒的なリアリティとスケールでおくる衝撃のクライムサスペンス!
映画原作。
(文庫裏表紙のあらすじより)
怪しい登場人物たち
『サイレント・トーキョー』には特定の主人公がいません。
というか、登場人物それぞれに物語(背景)があって、何人も主人公がいるような感じです。
※群像劇ってやつですね
読者はいろんな登場人物の視点から多角的に物語を見ることになるのですが、途中でふと気づきます。
「もしかして、このなかに犯人いる?」
怪しい行動は犯人だからなのか、それともミスリードなのか。
犯人はこのなか↓にいます。
登場人物
名前 | 説明 | 怪しさ |
朝比奈仁 | 料理人 謎の軍人に追われている | ★★★ |
須永基樹 | 天才プログラマー 行動に謎が多い | ★★★ |
来栖公太 | 大学生 脅されて犯人の指示に従う | ★ |
ヤマグチアイコ | 主婦 脅されて犯人の指示に従う | ★ |
世田志乃夫 | ベテラン刑事 事件の核心に迫る | ★ |
泉大輝 | 世田の相棒 若い警察官 | ★ |
印南綾乃 | 須永に恋心を抱いている | ★ |
ショーン・ベイリー | 朝比奈を追う謎の軍人 爆弾のプロ | ★★★ |
ネタバレ
恵比寿で起きた第一の爆発は『空砲』でした。
音と光だけのフェイクで、怪我人はゼロ。
ただし、専門家が見れば熟達したプロによってつくられた爆弾であることは一目瞭然でした。
犯人は首相との対談を要求し、叶えられない場合には、今度こそホンモノの爆弾を爆発させると宣言します。
期限は、明日の十八時半。
場所は、渋谷駅のハチ公前。
ご丁寧に場所まで指定されていたにもかかわらず、警察が爆弾を発見したのは刻限の三分前でした。
まさか爆弾がハチ公の首輪に偽装されていたとは、誰も予想できなかったのです。
もちろんたった三分では、爆弾の解除なんてできません。
「伏せろ! 下がれ!」
声を張り上げて叫び、地面に伏せた爆弾処理班を、見物に集まった野次馬たちはポカンとした表情で見つめていました。
そして……
爆発
多くの人間は即死でした。
その数、実に四百人以上。
スマホで動画を撮っていた野次馬も、
通りすがりのサラリーマンも、
男も女も老人も若者も、
みんなみんな、一瞬で命を落としました。
彼らに共通していたのは、
『自分はテロとはなんの関係もない』
『日本は安全だ』
『もし爆発してもたいしたことはないだろう』
という根拠のない思い込みを抱いていたことだけでした。
容疑者・須永基樹
いったい誰が犯人なのか?
わかりやすく怪しいのは須永基樹です。
須永は爆発の直前まで、ハチ公のまわりを何周もぐるぐる歩き回りながら、道行く人を動画に撮っていました。
それも、爆発の影響が及ばない70メートルという距離を保ちながら、です。
70メートル以内が爆弾の危険圏内だなんて、素人が知っているはずありません。
それに須永はその日、綾乃からの食事の誘いを「東京駅の近くで会食がある」と言って断っていました。
本当は渋谷で動画を撮っていたのに、嘘をついたんです。
他にも須永には興信所を使って誰かの情報を集めていたりと不審な行動が目立ちます。
はい。ただ、一方で須永には非常に母親想いであるという一面もあります。
女手ひとつで自分を育ててくれた母親に須永はとても感謝していて、ようやく再婚して幸せを掴んだ母親のことをなによりも大切に思っています。
そんな人物が、はたしてこんなに残酷な爆破テロを起こすでしょうか?
容疑者・朝比奈仁
もし須永が犯人じゃないのなら、次に怪しいのは朝比奈仁です。
朝比奈の物語には、ショーン・ベイリーという軍人が必ず登場します。
で、どうやらこのショーンという軍人は爆弾専門チームの一員であり、朝比奈に爆弾の知識と技術を教え込んだ人間でもあるようなのです。
ここでちょっと、ショーンと朝比奈の会話を見てみましょう。
…………
「あの話、今度のクリスマスに実行しないか?」
唐突にその話題が出て、仁は少しだけ狼狽した。
いつかは、うん、そういうことになるのだろう。
ずっとそう思っていた。
だが、「じゃあ、来月に」といきなり言われると、やはり、何かしら心にブレーキがかかるのは否めなかった。
「俺は本気だよ、仁」
そうショーンは言った。
「だらだらと先延ばしにするのは、もうゴメンなんだ。中東のあたりが急速にきな臭くなってるだろ? もたもたしてたら、やれるものもやれなくなるかもしれない」
いつのまにか、ショーンの顔から笑みが消え、真剣な目で仁を見つめていた。
「来月のクリスマス?」
仁が確認した。
「そう。来月のクリスマス」
そうきっぱりとショーンは言った。
「最高のクリスマスにしようじゃないか。俺たち流のやり方で」
※時系列的には事件よりも過去のタイミングに交わされた会話ですね
…………
渋谷の惨劇が起きたのは12月23日。
犯人は翌日(クリスマス・イブ)も東京のどこかを爆破すると宣言しています。
朝比奈とショーンが話していた『クリスマスに実行するあの話』というのは、もしかして……?
犯人は
刑事の世田は須永を怪しみ、その身柄を確保します。
しかし、須永は犯人ではありませんでした。
- 興信所を利用していたこと
- 現場を動画撮影していたこと
一連の不審な行動はむしろ犯人を探しだすためのものでした。
では、いったいなぜ須永は犯人を探しだそうとしていたのでしょうか?
須永の目的はただひとつ、母親の幸せを守ることです。
須永は朝比奈仁が一連の事件の犯人だと目しています。
もし朝比奈仁が逮捕されれば、その経歴や過去まで徹底的に洗われ、マスコミが騒ぎ立てるに違いありません。
そんなことになれば、朝比奈仁の元妻である須永の母親がどんな目に遭うか、想像はつくというものです。
はい。朝比奈仁は約二十年前に失踪した須永の実の父親だったのです。
※「須永」は母親の姓
須永「俺のお袋は二十年近く苦しんだんだ。犯罪者の元妻とか言われて世間の晒し者になんか絶対にさせない」
さて、こうなると困るのは世田のほうです。
次の爆破まで、残り十時間。
少しでも手がかりを得るために須永から情報を引き出さなければならないのですが、母親を守るという須永の決意は固く、簡単には口を割りそうにありません。
「また何百人もの人が死ぬかもしれないんだぞ!」
「赤の他人の命なんて知ったことか!」
押し問答を続けている間にも、刻一刻とタイムリミットは近づいてきます。
世田は覚悟を決めました。
須永が提示した取引に応じると約束したのです。
須永が差し出すのは朝比奈について知っているすべての情報と、裁判で動かぬ証拠となるであろう朝比奈との通話データ。
※おそらく、この電話で朝比奈は「70メートル以内に近づくな」と須永に警告したものと思われます。
一方、須永が世田に要求したのは……↓
「俺が知っている男(朝比奈)がもしその犯人だったら、その時はそいつを問答無用で殺してほしい。その上で、そいつの本名やかつての家族の名前がマスコミに流れないよう、警察で責任をもって情報を操作してほしい」
あらゆる意味で呑めないはずのこの条件を、しかし世田は受け入れました。
「いいだろう。あんたの父親が犯人だったら、俺がそいつを撃とうじゃないか。俺は見たんだ。あの地獄のような渋谷をこの目で見た。相手が誰であれ、そいつを銃で撃つことには何のためらいもない」
須永の情報によって捜査は一気に進展しました。
犯人が残したメモから、次に爆破される場所も明らかになります。
爆弾が仕掛けられている場所は……東京タワー。
結末
かつて朝比奈仁がシェフとして働いていたレストラン「KIRAKU」
店の中でも窓際の、ひときわ東京タワーがよく見える場所に朝比奈仁は座っていました。
足元には爆弾が入っているであろう黒いボストンバッグ。
朝比奈の目の前には困惑した表情の女性が座っています。
「動くな! 動けばおまえを撃つ!」
警告と同時に店に飛び込んできたのは、世田を先頭にした警官隊。
一斉に銃口を向けられた朝比奈ですが、その表情に焦りの色は浮かんでいませんでした。
「おまえらこそ動くな! このバッグには音声感知センサーってやつが入っている。俺がキーワードを言うだけで爆発するぞ」
朝比奈はボストンバッグを手に立ち上がると、女性を人質にして堂々と店を出ていきます。
もう少し自由にさせてもらえれば爆弾の解除パスワードを教える、と言い残して。
「俺は今、あの人(女性)と会話を楽しんでたところなんだ。おまえら、その邪魔をするな。俺は彼女と話をする。そのあと、少しドライブもする。ブルーバードに乗って、レインボーブリッジまで行きたいんだ。そこまで自由にさせてくれたら、東京タワーの爆弾の解除パスワードを教えてやる。
あれにも、これと同じ、音声感知センサーが取り付けられているはずだからな」
その後の展開は、実にあっけないものでした。
朝比奈は女性を車に乗せてレインボーブリッジまで走ると、電話で須永に爆弾の解除パスワードを伝え、そのまま車ごと海に飛び込んでいきました。
そして、海中で爆発。
心中に巻き込まれた女性の遺体は流されて見つかりませんでした。
◆
こうして、東京タワーの爆発は未然に防がれました。
犯人の自爆により、事件は一件落着。
須永の要望どおり、警察は犯人の個人情報を一切公開しませんでした。
日本史上最大のテロ事件は人々の心に消えない傷跡を残しましたが、それもやがては風化していくことでしょう。
………というのが、須永や世田の目線から見た「表面上の結末」です。
一足先にネタバレすると、真犯人は朝比奈仁ではありません。
- 真犯人は誰なのか?
- 犯行動機は?
- なぜ朝比奈は犯人のようにふるまったのか?
ここからの謎解きが、この物語のいちばんおもしろいところです。
真犯人
もったいぶらずに言うと、真犯人は朝比奈が人質にした(ように見えた)女性のほうです。
爆弾が入ったボストンバッグは女性が持参したもので、東京タワーに仕掛けられた爆弾も彼女の手によって設置されたものでした。
だから朝比奈は「(東京タワーの爆弾にも)音声感知センサーが取り付けられているはずだからな」という妙な言い回しをしていたんですね。
では、この女性はいったい何者なのでしょうか?
彼女の名前はヤマグチアイコ。
読者目線では「真犯人に爆弾を取りつけられ、言いなりになって動いていた主婦」に見えていた人物です。
彼女はそれまで
- 真犯人と一番最初に接触した人物
であり、大学生の来栖公太と一緒に犯人の使い走りをさせられていたものと思われていました。
しかし、それはヤマグチアイコの自作自演だったのです。
アイコはまるで犯人から指示を受けて動いているようにふるまいながら、実は自分の意志で行動していました。
思い返してみると、アイコの行動には確かに不審な点が少なくありません。
- 目立つ役回りは来栖に押しつけていた
- 途中から来栖と別行動になり、それから行方が分からなくなっていた
- 犯人からの指示を受けるのはいつもアイコだった
それでもアイコが容疑者にあがらなかったのは、犯人は男であるという前提があったからです。
警察も、そして読者も、この誤認識によりアイコを容疑者から除外してしまいます。
しかし、実はその「犯人が男である」という情報の出どころは、アイコが事件に巻き込まれた主婦として一部始終を記録した(ように見せかけた)ノートです。
犯人が捜査をかく乱するために用意した情報を、警察も読者もまんまと鵜呑みにしてしまっていたんですね。
小説のプロローグでは、アイコが犯人の男と出会うシーンが描かれています。
読者はそれが現実に起こった出来事ではなく、アイコがノートに書いた偽のストーリーだと見抜かなければなりませんでした。
叙述トリック、というほどでもないですが、なかなか巧妙なミスリードだったと思います。
さて、これで犯人はわかりました。
しかし、まだその犯行動機も、朝比奈仁との関係性も謎に包まれたままです。
犯行動機
ヤマグチアイコは首相との対談を望んでいました。
それは「日本も、戦争のできる国になるべきだ(※)」と口にした首相に、どうしても言ってやりたいことがあったからです。
※集団的自衛権の話ですね
だから、アイコが爆破テロを起こしたのは(端的にいえば)「首相との対談を実現させるための手段だった」ということになります。
ただ、話はそう簡単ではありません。
爆破によって『日本に本当の戦争を突きつけること』もまた、アイコの目的でした。
事件の本質を理解するためには、アイコの過去を知る必要があります。
ヤマグチアイコは、戦争で夫を亡くしました。
といっても、夫は戦地で亡くなったわけではありません。
戦場で多くの部下を失った彼は心を病み、首を吊って自ら命を絶ったのです。
精神が壊れてしまっていた夫は、首を吊る前にアイコに自分の持つすべての知識と技術を叩き込みました。
「俺は君の夫だ。だから、君を守る義務がある。俺は思い知らされた。国は君を守らない。君を守ることができるのは、俺と、俺の持っている知識だけだ。
俺は、世界で一番爆弾についての知識がある。
それを君に教える。そうすれば、君はいつだって、君の命を狙う理不尽な悪意から自分の身を守れるようになる」
客観的に見て、アイコに爆弾の知識など必要ありませんでした。
しかし、夫はそれこそが最愛の妻を守るために最善の方法なのだと、壊れた心で考えたのです。
軍隊式の厳しい訓練の末に、アイコは夫の持つ知識と技術をマスターしました。
「アイコ、おめでとう。君はもう大丈夫だ。君は、俺が教えた誰よりも優秀な技術者になった。君に比べたら、日本の自衛隊も機動隊も、ジュニア・ハイスクールの生徒みたいなものだ」
夫が本当に嬉しそうに笑っていたことを、アイコは今でも覚えています。
なぜなら、彼女の夫が亡くなったのは、その翌朝だったからです。
アイコが目を覚ました時には、夫はもう冷たくなっていました。
「日本も、戦争のできる国になるべきだ」
アイコが首相の発言を耳にしたのは、絶望を抱えて故郷の日本に戻ってきた、空港でのことでした。
はい。最悪です……。
戦争でなにもかも失ったアイコにとって、それは決して聞き流せない言葉でした。
アイコの《戦争》が始まったのは、だから、その瞬間です。
私は、彼(首相)と彼を選んだすべての人に、戦争とは何かを教えてあげることにしました。
アイコを突き動かしたのは、平和ボケした日本への激しい怒りだったといえるでしょう。
朝比奈仁の正体
小説にはひとつ、叙述トリックが仕込まれていました。
ころころと視点(主人公)が変わる構成において、朝比奈仁の物語だけが10年以上も過去の出来事だったということです。
朝比奈と軍人ショーンが、こんなやりとり↓をしていたことを覚えていますか?
「あの話、今度のクリスマスに実行しないか?」
「来月のクリスマス?」
仁が確認した。
「そう。来月のクリスマス」
そうきっぱりとショーンは言った。
このやりとりは、そのまま読むと
- 事件の一か月前に
- 事件を起こす相談をしている
ように見えますね。
しかし、これはミスリードであり、実際には時系列も話の内容も思っていたものとは違います。
では、まずは時系列から説明しましょう。
軍人ショーン・ベイリーはイラク戦争で亡くなっているため、作中年代である2016年においては故人になっています。
だからもちろん、ショーンが話していたのは2016年のクリスマスのことではありません。
では、ショーンが朝比奈に持ち掛けていた『あの話』とはいったいなんだったのでしょうか?
もったいぶらずに言いましょう。
結婚です。
くり返しますが、ショーンは朝比奈に結婚の相談をしていました。
一応補足すると、朝比奈もショーンも男性です。
ふたりとも、ゲイだったんですね。
小説の冒頭には朝比奈のショーンの出会いが描かれていました。
実に巧妙な文章なので、ちょっと紹介させてください。
※以下、小説より一部抜粋。
…………
「たいへんお待たせいたしました」
仁は、レジに入り、伝票を見る。
「二万八千円になります」
が、男は動かなかった。財布を出しもせず、ただ、仁の前に立っている。
「?」
仁は、顔を上げて男を見た。男は仁を見ていた。当然、目が合った。
目が合った瞬間に、仁はすべてを理解した。バレている。相手はすでに自分の秘密に気がついている。
「今日は、とてもLuckyな夜だ。TOKYOで、こんな出会いがあるなんて」
男は流暢な日本語で言った。そして、
「あんた、それで隠しているつもりなら甘いぜ。俺にはすぐにわかったよ」
と言って、ニヤリと笑った。
(中略)
「店が終わったら電話をくれよナ」
「……」
「くれなかったら、俺はまたこの店に来る。でも、おまえはそれは困るんだろう?」
…………
めちゃくちゃ意味深な、怪しさ満点の会話ですよね。
これによって、読者はまんまと「朝比奈=怪しい」と思い込んでしまいます。
しかし、改めて読んでみるとこれがやがて恋人同士になる仁とショーンの出会いの場面だったことがよくわかります。
このとき朝比奈は結婚していて、子ども(須永)もいました。
そしてこのあと、朝比奈は妻子を捨てて消えることになります。
続・朝比奈仁の正体
では、いよいよ最後の謎解きです。
朝比奈仁は
- ヤマグチアイコに代わって犯人のふりをして、
- 東京タワーの爆発を阻止し、
- 自爆しました。
さて、朝比奈仁とヤマグチアイコにはどんなつながりがあったのでしょうか。
実は記事内にこっそりヒントを仕込んでいたのですが、気づきましたか?
二人の共通点といえば、パートナーが爆発物を専門とする軍人だったことです。
物語的に、これが単なる偶然であるわけがありません。
※メタい話ですけどね(笑)
ヤマグチアイコの夫はロブ・フォックスという名前で、チームの隊長でした。
そして朝比奈の恋人だったショーン・ベイリーは、そのロブの部下でした。
- 恵比寿ガーデンプレイス
- 渋谷のハチ公前(スクランブル交差点)
- 東京タワー
アイコが爆破のターゲットに選んだ場所は、ショーンの上司であるロブの新婚旅行のために、朝比奈が考えたルートでした。
それだけではありません。
- 空砲のプラスチック爆弾
- 半径70メートル以内はせん滅する本物の時限爆弾
- 音声感知センサーつきの高度な遠隔操作爆弾
アイコが使用した爆弾は、すべてチーム・ロブ・フォックスの隊員が体験する訓練の内容そのままでした。
ショーンのスキル復習につきあって、爆弾の訓練を一通り施された朝比奈には、それがチーム・ロブ・フォックスの関係者による犯行だとすぐにわかりました。
朝比奈仁の一連の行動は、だから、こういうこと↓だったんです。
※以下、小説より一部抜粋。アイコが公太に送ったメールの文章です。
…………
彼(朝比奈)は、もし犯人がロブの奥さんのアイコなら、渋谷の次は東京タワー。
そしてその犯行を(新婚旅行でロブとアイコが行くはずだった)六本木にある「KIRAKU」という店の窓際の席から見るに違いない……そう考えて、彼はあそこにやってきたんです。
レインボーブリッジに向かう車の中で、彼は私に言いました。
「アイコ。俺は、君の気持ちが痛いほどわかる。同じような怒りを、俺だってずっとずっとこの国に感じていた。でも、アイコ。それでも、あと一回は、日本にチャンスをあげてもいいんじゃないかな」
彼はもともと死ぬつもりでした。
ショーンを喪ってから、ずっと死に場所を探していたのだと言っていました。
「アイコ。海に落ちたら、君は車からとにかく離れてくれ。俺は、君が安全な距離を取った後にこの爆弾を起爆する。ショーンが心から尊敬していたロブの奥さんを救って死ぬんだ。最高の終わり方だと思う。
でもね、アイコ。君にはまだ使命が残ってる。世界最高のロブの技術は、今は君の中で生きているんだ。この先、ロブやショーンを愚弄するやつらが出てきたら、そのときはアイコ、君にはもう一回戦ってほしい」
そう彼は私に言い遺しました。
イヤミスなラスト
上の文章からわかるように、実はヤマグチアイコは生きていました。
小説のラストは、アイコが公太に送ったメール(上の文章のつづき)でしめくくられます。
それがまたなんともイヤミスな感じで好きだったので、最後に紹介して終わりにしたいと思います。
…………
公太くん。
爆弾は、まだありますよ。
私が仕掛けた爆弾は、まだいくつも、いくつも、東京の街の中で静かにそのスイッチが押されるのを待っています。
(中略)
公太くん。
あなたはジャーナリスト志望だと言っていましたね。
だから、あなたからみんなに、私のメッセージを伝えてください。
「戦争がしたくなったら、いつでも私のことを呼ぶように」
ロブ・フォックスから、今や世界で一番のエキスパートは君だと言われたこの私が、あなたたちの愛する人に、いつでも爆弾のプレゼントを贈ります。
では、ちょっと遅いけれど、メリークリスマス。
そして、ハッピーニューイヤー。
アイコ
…………
『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』というタイトルを不気味に回収する素敵な(?)ラストでした。
実は小説ではこのあとちょっとだけエピローグが続きます。
爆破で盲目になった綾乃を須永が見舞うシーンが描かれていて、人間の善性を描くような爽やかで希望のある内容になっていました。
小説『サイレント・トーキョー』🎄
ミスリードがほんとうに自然で、いつのまにか間違った思い込みに誘導されていました😅
ラストで明かされる真相にはきっと驚かされるはず❗️
今冬に公開予定の映画のキャストは#佐藤浩市 #石田ゆり子 #西島秀俊 ほかhttps://t.co/k6UZpTn9yP
— わかたけ@読んでネタバレ (@wakatake_panda) April 3, 2020
まとめ
今回は秦建日子『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』のネタバレ解説をお届けしました!
では、最後にまとめです。
- 真犯人はヤマグチアイコ
- 目的は平和ボケした日本に《戦争》を突きつけること
- 朝比奈の正体はアイコに近しい戦争遺族
- 結末で、朝比奈はアイコの罪をかぶって自爆する
アイコの怪しさを巧妙に隠しつつ、須永や朝比奈に疑いの目を向けさせるミスリードがおもしろかったです!
特に真相を知っているかどうかで朝比奈の物語パートの見え方がガラリと変わるのは、本当にうまいなと思いました。
答え合わせとしての二周目も楽しめる作品だと思います。
映画情報
キャスト
- 佐藤浩市
- 石田ゆり子
- 西島秀俊
- 中村倫也
- 広瀬アリス
- 井之脇海
- 勝地涼
公開日
2020年12月4日公開
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- 『NANA-ナナ-』
こんばんは。「サイレント・トーキョー」を読み終えたものの、いくつか不明な点がありネットを検索したら、こちらのサイトに辿り着きました!すっきりしなかった部分が解消し、じわじわと余韻がきています。解説してくださった内容を踏まえて、改めて読んでみようと思います。もっと映画の公開が楽しみになりました。解説してくださり、ありがとうございます!
>なるさん
最後まで読んでくださりありがとうございます!
もやもや解消のお力になれたようで、うれしいです。
映画公開も楽しみですね。