ラストに驚き 記事内にPRを含む場合があります

『青くて痛くて脆い』ネタバレ解説|あらすじには嘘がある【映画原作小説】

住野よる『青くて痛くて脆い』を読みました。

住野よるさんといえば『君の膵臓をたべたい』のタイトルが真っ先に思い出されますが、本作はある意味『膵臓』の対になっている小説です。

『膵臓』で感動してくれた全ての人たちの心を、 この本で塗り替えたい(住野よる)

登場人物はまたまた

  • おとなしい男の子
  • 明るい女の子

の組み合わせで、やっぱり男の子が女の子に振り回されます。

ただ、『膵臓』と決定的に違うのは、最初から女の子の死が明かされていること。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

今回はいろんな意味で衝撃的な『青くて痛くて脆い』の

  • あらすじ
  • とっておきの秘密
  • 結末

全部がわかるネタバレ解説をお届けします!

あらすじ

人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃(あきよしひさの)に出会った。

空気の読めない発言を連発し、周囲から浮いていて、けれど誰よりも純粋だった彼女。

秋好の理想と情熱に感化され、僕たちは二人で「モアイ」という秘密結社を結成した。

それから3年。

あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。

僕の心には、彼女がついた嘘が棘のように刺さっていた。

「僕が、秋好が残した嘘を、本当に変える」

それは僕にとって、世間への反逆を意味していた。

(単行本帯のあらすじより)

主人公(=僕)の名前は田端楓(たばたかえで)

ネタバレ

あらすじにもあるように、ヒロインの秋好寿乃は亡くなります。

それも、物語が始まってからたったの30ページで。

そこから作中の時間は一気に進んで、楓が就活を終えた大学四年生から本編がスタート。

楓は大学生活でやり残したことに目を向け、亡き寿乃のために《あること》を計画します。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

計画の内容に話を移す前に、お伝えしておきたいことが3つあります。

1つめは、秋好寿乃がどのようにして亡くなったのかはこの時点ではわからないということ。

小説ではちょくちょく回想がはさまれていて、寿乃がこの世からいなくなるまでの数か月間の様子が描かれています。

寿乃の身になにが起こったのは物語の後半まで隠されているんですね。

続いて、2つ目。

楓と寿乃の間に恋愛感情は一切ありません。

生前、寿乃は彼氏をつくっていました。

そのことに楓は嫉妬したりはしませんでした。

ふたりはあくまで『友人』の関係です。

最後に、3つ目。

田端楓と秋好寿乃のパーソナリティについてです。

楓は受動的というか内向的というか、人と距離を取る生き方をよしとしています。

「僕は、あまり人間に近づきすぎないようにっていうことと、誰かの意見を真っ向から否定しないようにって、気をつけてる、かな。

それを守れば、誰かを嫌な気分にしてしまうことを減らせて、結果的に自分を守ることにもなるから」

四年間の大学生活ではほとんど友人をつくらず、静かに退屈に日々を過ごしていました。

一方、寿乃は楓とは真逆の性格の持ち主でした。

明るくて、行動的。

ただ、あまりに純粋で真っすぐすぎる性格が災いして、周囲からは浮いていました。

「この世界に暴力はいらないと思います」

講義中に挙手して小学生みたいな理想論を堂々と言ってしまう痛いやつ、それが寿乃です。

「大学で一人ぼっちだった」という点では楓と同じで、だからこそふたりは真逆な性格ながらも友人になれたのでした。

※人を拒まない楓を寿乃が振り回すような(微笑ましい)関係性でした


楓の目的

楓が亡き寿乃のために決意したこと。

それは「モアイ」をぶっ潰すことです。

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと?

順番に説明します。

「モアイ」は寿乃と楓がふたりで設立した秘密結社です。

秘密結社といっても悪だくみをするわけではなく、活動内容はボランティアや講演会への参加など。

寿乃は「世界をよりよくしたい」という理想を本気で実現しようとしていて、そのためにあらゆる社会問題に関心を持っていました。

「モアイ」の活動は寿乃によって決められ、楓はそれに付き合ったり付き合わなかったり……。

要するに「モアイ」は寿乃が楓と一緒に行動するための、ただの方便のようなものでした。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

ところが、「モアイ」はやがて変わっていきます。

大学から活動が評価されたことをきっかけに、メンバーが急増。

組織の規模が大きくなるにつれてリーダーである寿乃は忙しくなり、楓との距離も離れていきました。

そこから時間をちょっと飛ばして……。

寿乃がこの世から消えたことで「モアイ」はその在り方を大きく変えました。

今の「モアイ」は就活系の巨大団体です。

「なりたい自分になる」という寿乃の理想は形骸化し、就活のコネをつくるための場所に成り下がっています。

もちろん就活という新しい活動内容が悪いというわけではありません。

しかし、それはあの真っすぐに理想を思い求めていた寿乃が望んでいたことではないはずです。

 

『今のモアイを壊す』

 

楓はさっそく行動を開始します。


モアイを壊す

個人が組織と戦う方法なんて限られています。

楓は「モアイ」の不祥事を暴き、それをSNSで拡散することにしました。

※炎上させる、というやつですね。

過程は長くなるので省略。

試行錯誤の末、楓は「モアイ」の不祥事をついに見つけます。

「モアイ」はイベントに参加した学生の名簿を企業に横流ししていました。

楓は迷うことなくSNSに爆弾を投下しました。

証拠画像つきのリークは瞬く間に拡散され、狙い通り「モアイ」は大いに炎上しました。

その反響は楓の予想を軽く飛び越え、なんと週刊誌の記事でも取り上げられて……。

最終的に、モアイは解散を発表しました。

楓は目的を達成したのです。

楓は現在の「モアイ」のリーダーであるヒロの顔を思い浮かべます。

楓と寿乃のものだった「モアイ」を奪った略奪者。

当初の理想を投げ捨てて現在の体制をつくった独裁者。

楓が鳥肌が立つほど嫌悪している敵。

ヒロの苦渋に満ちた表情を想像して、楓は溜飲を下げます。

どうだ。

思い知ったか、ヒロ。

いや……

 

 

秋好寿乃

ぱんだ
ぱんだ
!?!?


秋好寿乃の消失

秋好寿乃は死んでなんかいませんでした。

これが小説『青くて痛くて脆い』最大の秘密(トリック)です。

いったいどういうことなのか?

「モアイ」がふたりだけの秘密結社から大規模な組織に成長していったことはもうお話ししましたね。

組織運営の責任を背負ったことで、寿乃はその在り方を変えていきました。

たとえば、会議の場で《理想》を追い求めたいと発言したメンバーに、こんなこと↓を言ってしまうほどに。

「分かるけど、現実的には厳しいかなぁ」

以前の寿乃なら、こんなこと絶対に口にしませんでした。

無理でも無茶でも理想を追い求めることそのものに意義があるはずだ、と大いに賛同したはずです。

かつて「世界から暴力がなくなればいい」と本気で口にしていた理想主義者は、つまり楓がよく知る秋好寿乃は、もう世界のどこにもいませんでした。

楓はこの寿乃の変化を指して

(かつての)秋好寿乃はもういない」

と表現していたんですね。

そこにいるのは僕が出会った秋好ではもうなかった。

理想を捨て去った、面白くもないただの大学生がそこにいた。

寿乃の変化に失望した楓は、自ら「モアイ」を去りました。

そしてそれから二年半、「モアイ」とも寿乃とも一切関係を断っていました。

そして今。

敵が秋好寿乃であろうと、いや、だからこそ、楓の決意は揺るぎません。

 

『あの頃の秋好寿乃のために、今のモアイを壊す』

 

「モアイ」の解散を決定・発表したのは、現リーダーのヒロこと、秋好寿乃でした。

「ヒロ」は寿乃のあだ名です。

由来は「ヒーロー」から。

かつての寿乃はまさに世界の理不尽にたった一人で立ち向かう勇者のようでした。


傷つき、傷つけて

寿乃は炎上の犯人が楓だと気づいていました。

「久しぶり、田端くん」

その一言から、二年半ぶりの対話が始まります。

「なんで、あんなことしたの」

「……モアイはおかしくなってしまった」

楓は信じていました。

言葉を尽くして説得すれば、寿乃はきっとわかってくれる。

失った理想を取り戻し、またイチからやり直してくれるはずだと。

そのときはまた寿乃のことを手伝おうと、楓は思っていました。

しかし……

「ふざけんなっ!」

寿乃から返ってきたのは反省の言葉ではなく、罵声でした。

そこから始まったのは、口論ですらない感情まかせの言葉のぶつけあい。

「君は、どうしてそんな風になっちゃったの?」

「それこそ、こっちの台詞だ。理想も捨て去って、どうしてそんな風になっちゃたんだよ」

「捨ててない! でも、願ってるだけじゃ無理なんだよ。叶えたいものに辿り着くために、手段と努力と方法がいるの。おかしくなったんじゃない、手に入れようとしたんだよ、それくらい分かってよっ!」

「……願う力を信じなくなったら、それはもう、理想じゃない」

「そんな……」

話はずっと平行線。

わかりあうことができないまま、話はふたりの出会いにまでさかのぼっていって……。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「ただ痛いだけのお前なんて、あの時受け入れてやらなければよかった」

そうすれば、僕の四年間はこんなにもみじめにならなかった。

秋好は、面食らったような顔をする。

何を、驚くようなことがあるのか。

「自己顕示欲の塊のお前は、あの時、ただ誰でもいいから、自分の傷の応急処置をしたくて、適当な僕を選んだだけだ、僕が、お前なんかの隣に偶然、座ってしまったから」

「ちがっ……」

何かを言いかけた秋好は息と一緒に、その言葉を呑み込んでしまった。彼女の顔色がどんどん変わっていくのが分かった。

僕の毒で、傷ついていることが分かった。

何を勝手にそんな顔をしているんだと、思い、また毒が噴き出してきた。

「何が、理想のためだ。何が皆のためだ。お前はずっと、お前のためだけにしか生きていないくせに、僕はその巻き添えになった」

ずっと、言ってやりたかったのだと、本気で思った。

秋好だけじゃない。結局はみんな自分のためで、そこにあるものがなんだってよくて、そこにいるのが誰だってよくて、自己顕示欲やお金や性欲のために、人を利用できる。

そしてきっと、

「お前は僕を、間に合わせに使っただけだ。誰でもよかったんだ。誰か自分を見てくれる人、その代用品に僕を使ったんだ」

いや、でも、秋好なら、ことここに至ってすら、まだそんな気持ちが、

「……そうかもしれない」

秋好は、僕の毒を全て飲み込んでしまったような、苦しみ抜いた顔をして頷いた。

その顔が、いやに脳裏に焼き付いて。

何も聞こえなくなった。

耳が切り取られたのだと思った。それから胸や、腹も。空洞に風が通って、いやに寒気がした。危機感に、襲われた。

けれど、最後に言い残すべきことが何かある気がしたから。

「お前がいない方が幸せだった。きっと、みんなそうだ」

秋好を見て、僕は彼女に背を向けた。

その顔が見たかったんだと、遠い昔に思っていたような気がしたけど、もうどうでも良かった。

これで、僕と秋好の、別れとなった。

ここの楓はマジで最悪ですよね。

でも、なんでこんなことを言ってしまったのか、その本当の理由を楓はちゃんと最後に告白しています。さて、この物語もいよいよ大詰めです。


青くて痛くて脆い

寿乃と話した日から、楓はまるで廃人のようになってしまいました。

目的を達成したはずなのに、達成感はゼロ。

ぐるぐると堂々巡りの思考を続けて、何度も何度も考えて、楓はようやく悟ります。

なんて遅いんだろう。今ようやく、気がついた。

秋好が傷つくのなんて、本当は見たくなかったんだ。

今さらなにを、と思われるかもしれません。

でも、大切な人を傷つけて初めて「取り返しのつかないことをした」と気づくほど、楓は未熟だったんです。

青くて痛くて脆いのは、楓自身でした。

※以下、小説から一部抜粋

…………

僕は、秋好を人間として見ていなかった。

記憶の中にある、形の決まった存在のようにして決めつけていた。

現実の秋好を見ることを、僕がいつしか勝手に終わりにして、美化していた。

そして勝手に失望した。

友達だったはずなのになんて、そんな建前を使って。

変わらず、僕のことを友達だと思ってくれていた人を、傷つけようとし、傷つけた。

なんの躊躇もせずに、自分と同じ傷を負ってほしいと思っていた。

どうして、僕はそんな考えを持った。

傷ついたからだ。傷つけられたからだ。

傷ついたから、傷つけていいなんて、はずがないのに。

やってみたら後悔と恥が残っただけだった。

(中略)

人は人を、間に合わせに使う。

独りぼっちの人が同じく独りぼっちの人を友達にすることもそう。

理解者のいない人が理解者を求める行為もそう。

例えば病に倒れた人が寄り添ってくれる人を求めるのだってそうだ。

僕も、どこかでやっていること。

間に合わせに使われ傷ついたことが、相手を傷つけていい理由になんて、本当はならない。

そもそもが、傷つくようなことですらないのかもしれない。

必要とされたじゃないか。

僕だってきっと、声をかけてもらえて嬉しかったはずだ。

その瞬間の気持ちで十分だったはずだ。

間に合わせって、つまり、心の隙間を埋められたってことだ。

心の隙間に、必要としてもらえたってことだ。

空洞を埋められる人になれたってことだ。

今、僕の心に生じたような空洞を、埋めてもらえたらどれだけ救われるだろう。

それを出来たはずだったのに、僕は、友達を傷つけた。

僕は、なんてことを。

人格どころじゃない、僕は、秋好の存在を否定した。

今初めて、自分がやろうとしていたことの意味を、人を傷つけることの意味を、理解した。

謝りたい、と心の底から願った。

今ここに至って、初めて。

なのにいくら待ってみても、秋好が、僕の目の前に現れてくれることはなかった。


結末

楓が寿乃に謝って終わり……なんて結末にはもちろんなりません。

寿乃に謝ろうと楓は家を飛び出しますが、ふと、冷静になります。

謝ってどうする? 謝るのなんて、全て自分のためなのに。

そもそも、なんで許してもらえる気でいた?

僕なんかに、あいつがもう二度と会いたいはずもない。

寿乃への謝罪が自己満足にすぎないと楓は気づきました。

けれど、だからといって何もしないままというわけにもいきません。

何か自分にできることはないだろうか?

楓はアドバイスを求めるため、《脇坂》の研究室を訪ねました。

脇坂は初期からモアイを観察していた大学院の先輩です。

寿乃をおもしろがって部外者という立場から活動のアドバイスをしていました。

脇坂から助言を得るためには、まず、洗いざらい全てを打ち明ける必要がありました。

なぜ、モアイを壊そうと思ったのか。

その《本当の理由》を。

 

「僕は、ずっと、あそこにいたかったんです」

 

楓は寿乃とふたりだけの、秘密結社としてのモアイが好きでした。

寿乃のことが異性として好きだった、というわけではありません。

ただ、必要とされることが嬉しかったんです。

寿乃の目が自分だけに向けられていることが、嬉しかったんです。

それなのにモアイは組織として成長し、寿乃の目は「みんな」に向けられるようになっていきました。

それが、イヤだった。

駄々をこねる子どものような、幼稚な理由です。

寿乃はいつだって楓を気にかけ「嫌なことがあるなら遠慮なく言ってほしい」と言ってくれていました。

楓はただ正直に、寂しいといえばよかったんです。

たったそれだけで、よかったはずなんです。

でも、こじれて膨れ上がった自尊心が、それを邪魔しました。

分からなかったんだ。

自分の弱さを呑み込むというのが、どういうことか。

モアイのことも、寿乃のことも、もう取り返しがつきません。

楓はモアイという居場所を、多くの人々から奪ってしまいました。

居場所がなくなる辛さを、誰よりも知っていたはずなのに。

楓は脇坂に訊ねました。

何か自分にできることはないだろうか、と。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「でも、君に何か出来たとして、君の望む場所を取り戻すことは出来ないよ」

分かっている。

「それは、いいの?」

僕は、息を何度か大きく吸って、大きく吐いた。

「悲しいと、思います」

もう、隠したりしてはいけなかった。

秋好がこっちを見てくれなくなって寂しかったと、隠して傷つけたりしてはいけなかった。

「でもずっと前の僕みたいに、モアイにいたいと思ってる子達が、いるから」

「なるほど」

脇坂は今までで一番深く頷いた。

「つまり君は、過去の自分を助けてあげたいだけなんだな」

言葉の意味を、しっかりと噛みしめ、呑み込み、僕は頷いた。

「……はい、そうだと、思います」

その通りだった。

これ以上飾り立てる言葉は何も持たなかった。

僕が答えて数秒、脇坂は何を思ったのか、僕の方を見て首を傾げた。

それから少しだけ口角を上げた。今日初めて見た、彼の笑顔だった。

「また連絡するよ」


エピローグ

~5年後~

はっきりと書かれているわけではないのですが、あれから楓はモアイに代わる新しい団体の立ち上げに関わっていたようです。

新しい団体の設立者は元モアイのメンバーで、楓の後輩だった川原里沙。

※今回はサブキャラのエピソードをがっつり省略しましたが、川原さんも癖のある魅力的なキャラです。

川原さんをリーダーとした就活系新団体はモアイのような巨大組織にはならず、小規模ながら真剣に将来を見据える学生たちの居場所になっていきました。

そして、この日。

楓は社会人の立場から学生たちに話をするべく、新団体の交流会に足を運んでいました。

「学生時代に多くを学んだ出来事があれば、聞かせていただけますか?」

大学生からの質問に、楓は真剣に答えます。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「大切な人を傷つけて後悔したことです」

グループ内の、空気の重さが変わったのを感じた。

その空気の重さに、声のトーンを合わせるように意識する。

「その人のことが嫌いだったわけじゃありません。むしろ尊敬していたからこそ、その人の行動が自分から見て間違ったものに見えると、正してやろうだなんて、自分勝手なことを思ってしまった結果でした」

一人の男の子が、浅く頷く。

「その人との関係は、もう取り戻せるものではありませんでした」

大人になった僕の、本心を差し出す。

「僕は今でも、後悔しています。偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、その後悔に気がつくことが出来て良かったとは思っています。誰かを傷つけたんだ、という後悔が、今でも自分の中に根付いて、出来る範囲ですが、人に対して誠実であろうという自分を作ってくれています。誠実であろうと、思うことが出来ています」

本当に出来ているかは、自分ではわからないけれど。

「もう二度と、あんなことをしたくない、大切な人を傷つけたくないと思ったことが、仕事においても日常生活においても、僕に大きな影響を与えた学生生活の中での出来事です。僕もまだ少しずつですが、大切な人たちを傷つけない、居場所のような人間になれたらと、気恥ずかしい言い方になるんですが、思っています」

どうにか話をまとめることが出来た。

学生たちの顔色を窺いつつ、次の質問を促そうかと思い目線を上げた。

そうして、目が合った。

彼女と、目が合った。

目が合って、僕は呼吸を止めた。

相手は、ためらいがちに、一度頷いた。

…………

これもはっきりとは書かれていないのですが、『彼女』というのは間違いなく秋好寿乃のことでしょう。

このあと無言で会場を去る寿乃を、楓は追いかけます。

でも、声をかけて、もし、相手を不快にさせてしまったら?

あの頃の楓なら、傷つくことに怯えて一歩をためらっていたかもしれません。

けれど、楓は成長しました。

※以下、小説から一部抜粋

…………

傷つきたくない、怖い。

……けど。

もう一度、君と、会いたい。

間違っていた自分のこと、弱かった自分のこと。

そして、自分とは違う君のこと。

今なら、受けとめられる。

僕は、君がいたおかげで、そういう人間になろうと思えた。

足を速めて、彼女の背中に追いつく。

怖いに決まっている。僕は僕だ、変わらない。

無視されるかもしれない。拒絶されるかもしれない。

無視されてもいい。拒絶されてもいい。

その時もう一度、ちゃんと傷つけ。

<完>


感想

刊行後のインタビューで、住野よるさんは次のようにコメントしています。

住野よるは「キラキラした話を書くやつじゃないぞ」ということも、この作品で見せたいなと思いました。

わたしは最初(『キミスイ』みたいに)「また泣ける小説かな?」と思って読み始めたので、まんまと見せつけられました。

『青くて痛くて脆い』は泣ける物語ではありませんし、ましてや感動するタイプの小説でもありません。

わたしは楓よりもずっと前に《青春の終わり》を迎えている大人です。

その立場から読んだ本作は、目も当てられない楓の未熟さや痛さがいたたまれなくなるばかりで、ちっとも共感(感情移入)できませんでした。

とはいえ、「じゃあ面白くなかったの?」と聞かれれば、答えは「No」です。

寿乃が生きていたという仕掛けには「あっ!」と驚かされましたし、それなりに青春を謳歌している楓の日常は読んでいてとても楽しかったです。

やがて楓は青春特有の《痛さ》を爆発させるわけですが、それだって今の自分が共感できないだけで、過去を振り返ってみれば身に覚えがある《痛さ》でした。

なんてことはありません。

楓に対して抱いた「あいたたた……」という感情は、そのまま過去の自分に抱いている気持ちだったんです。

誰だって過去の黒歴史なんて好き好んで思い出したりしませんよね。

『青くて痛くて脆い』はそんな黒歴史を掘り返して突きつけてくるような小説で、なんとも複雑な気持ちにさせられました。

人は変われる

これ↓もインタビューに掲載されていたコメントです。

僕が『膵臓』からずっと描き続けているのは、「人は変われるはずだ」ということ。

『青くて痛くて脆い』はそのひとつの集大成になる作品だと思っています。

たしかに結末で描かれていた五年後の楓は成長していましたよね。

「人に誠実でありたい」なんて最初の楓とはまるきり真逆のことを言っていました。

かつてはあんなに不器用で、意固地で、自分本位で、ひねくれていたのに(笑)

「あんな風だった楓だっていい方向に変わることができたんだよ」

というのがこの物語のテーマであり、ひいては住野よるさんからのメッセージなのだとわたしは思いました。

大人の本読みさんよりも、まさに青春のまっただ中にいる中学生~大学生くらいの世代にお勧めしたい一冊です。

「2018年 二十歳(ハタチ)が一番読んだ小説ランキング」の1位だったそうです。

ぱんだ
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まとめ

今回は住野よる『青くて痛くて脆い』のネタバレ解説をお届けしました!

一言でまとめるなら

『未熟さと隣り合わせの青春が終わり、少年少女が(いい意味で)大人になる物語』

といったところでしょうか。

『キミスイ』とはまた毛色の違う、けれどとても住野よるさんらしい小説でした。

若い感受性にこそ響く物語だと思うので、中学生~大学生の現役青春世代に特におすすめしたいですね。

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映画情報

特報動画

 

キャスト

役名キャスト備考
田端楓吉沢亮主人公
秋好寿乃杉咲花ヒロイン
前川董介岡山天音楓の友人
本田朝美松本穂香董介の後輩
天野巧清水尋也モアイの幹部
西山瑞希森七菜映画オリジナル
川原理沙茅島みずき楓の後輩
大橋光石研映画オリジナル
脇坂柄本佑モアイの観測者

 



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