志駕晃「スマホを落としただけなのに」が映画化!
北川景子さんが主演されるということで注目されていますね。
原作小説の「スマホを(以下略)」は「このミステリーがすごい」最終候補まで進み、大賞こそ逃したものの「編集部一押しの隠し玉」として刊行された作品。
私も文庫版を読んでみたのですが、ラストで明かされる主人公の秘密にはビックリさせられました。
いわゆる「もう一度最初から読んでみると見え方がガラッと変わる」系の結末だったので、私は映画で2周目を楽しみたいと思っています。
というわけで今回は、映画化される小説「スマホを落としただけなのに」のあらすじとネタバレ!
- 真犯人は登場人物の中の誰?
- 主人公の過去に隠された秘密とは?
- 結末はハッピーエンド?それともバッドエンド?
重要なポイントをしっかり押さえて、カンタンにまとめてみました!
Contents
「スマホを落としただけなのに」のあらすじとネタバレ!
★はじめに
小説「スマホを落としただけなのに」は3人の視点が切り替わりながら物語が進んでいきます。
【A】…スマホを拾った男(犯人)
【B】…稲葉麻美(主人公)
【C】…毒島徹(刑事)
この記事でも同じように視点を切り替えるので、見出しの横の【】にも注目してみてくださいね。
では、さっそくチェックしていきましょう!
【A】スマホを拾った男
たまたま拾ったスマホに電話がかかってきた。
表示された名前は「稲葉麻美」
きっと待ち受けのツーショット写真に写っている彼女の方だろう。
「もしもし」
男が電話に出ると、稲葉麻美は警戒を含んだ声色で言った。
「これ、富田誠のスマホですよね?」
富田誠。それが彼氏の方の名前か。
男は「スマホを拾った者です」と名乗り、返却を約束すると電話を切った。
男はあらためてスマホの待ち受け画像を見る。
富田誠はどうもバカそうだ。
それに比べて、稲葉麻美はなんという美人なのだろうか。
モデルと言っても通用するスタイル、整った顔、それに美しいロングヘア。
特に手入れの行き届いた黒い長髪は、男の好みのど真ん中を射抜いている。
男は思った。
(富田にはもったいない女だ。稲葉麻美は俺のものにしよう)
男はいわゆるハッカー(正確にはクラッカー)だ。
セキュリティ意識の低い富田のスマホのパスワードを突破することなど朝飯前。
※愚かなことに富田は自分の誕生日をパスワードに設定していた
富田のスマホからは以下のデータを入手できた。
・富田と麻美のLINEでのやりとり
・麻美の水着画像や、もっとあられもない(生まれたままの)姿の画像
データから判断するに、富田と麻美は交際して1年ほどのカップルだろう。
すでに2人に肉体関係があることは、画像を見れば明らかだ。
男は唇を噛み「富田にはもったいない女だ」とあらためて思った。
男はスマホに細工を施してから、麻美に返した。
直接会ってはいないので、顔は見られていない。
スマホの位置データを監視し続けていると、麻美の最寄り駅が祐天寺であることがわかった。
まるで狩りを楽しむハンターのように、男は舌なめずりをした。
【C】凶悪事件
神奈川県の山中で白骨化した遺体が発見された。
それも、1人だけではない。
同じ山中から2人目、3人目…次々に被害者が掘り起こされた。
遺体の共通点は以下の通り。
・若い女性である
・下腹部にめった刺しの跡がある
・黒髪のストレートロングの持ち主である
・衣服は身につけておらず、遺留品もなし
神奈川県警の刑事である毒島は、部下の加賀谷に語りかけながら考えをまとめていく。
1.これは同一犯による連続殺人事件である
2.犯行は計画的に行われたものである
3.犯人は被害者に性的な暴行を加えている可能性が高い
そこまで考えて、毒島は1つの壁にぶつかった。
『なぜ、被害者の身元が特定できないのか?』
遺留品がないとはいえ、DNA鑑定は可能だ。
捜索願が出されているそれらしき人物を当たれば、そのうちに身元は特定されるはず。
最初の遺体発見から2週間以上が経過し、遺体の数は5人にまで増えている。
当然、大きな事件として警察も人員を投じて捜査に当たらせている。
それなのに被害者が誰なのか、まったくわからない。
これは、どういうことだ?
普通に考えるなら「家族や友人から捜索願が提出されていない」ということになる。
しかし、1年以上も娘からの連絡がなければ、親としては心配せざるをえないはずだ。
まさか被害者は全員、天涯孤独の身の上だとでもいうのだろうか…?
【B】稲葉麻美の悩み
稲葉麻美は迷っていた。
問題は「富田誠からのプロポーズを受けるべきかどうか」
富田は大手家電メーカーに勤めているので経済的には悪くない物件だ。
いじられ体質で、正直で、善人そのものという感じの性格も嫌いではない。
ただ、男としては少し頼りないとも思う。
(本当に富田と結婚していいのだろうか…?)
麻美はもうすぐ30歳になる。決断は急がなければならない。
・富田からのプロポーズを受けるか
・次の相手を探すか
・一生独身を貫く覚悟を決めるか
稲葉麻美は迷っていた。
実のところ、麻美の悩みの種はそれだけではない。
ネットストーカーというのだろうか。
SNSを通じてしつこくつきまとってくる小柳守の存在もまた、麻美にとってやっかいな問題だった。
小柳は富田の会社の人事で働いているため、あまり邪険にはできない。
そう思って我慢してきたが、近所に引っ越してきたり頻繁にデートに誘ってきたりと、だんだん行為がエスカレートしていくのが怖くなって、麻美はついにきっぱりと断りのメッセージを送った。
『今、結婚を前提に交際している相手がいます。M商事に勤務しているサラリーマンです。小柳さんの好意はありがたいですが、わたしは小柳さんとお付き合いすることはできません』
念のため、相手が富田であることは隠しておいた。
その代わり、先日デートしたばかりの元カレ・武井雄哉が務める一流企業「M商事」の名前を出しておいた。
10年ぶりに再会した武井は相変わらずの男前で、先日のデートでは麻美との結婚を考えている節を匂わせていたし、帰り際には激しくキスをされた。
もしかしたら、本当に自分の結婚相手は富田ではなく武井なのかもしれない…。
麻美がそんなことを考えていると、小柳からの返信が届いた。
『相手が富田さんじゃなくてよかったです。実は彼には社内でよくない評判があるので』
小柳の引き際のよさよりも、富田の「よくない評判」というのが気になった。
小柳に尋ねてみると、すぐに答えてくれた。
要約すると「高校時代からつきあっている彼女から大金を借りたのに、借金を返さないまま別れ話を切り出した」ということらしい。
当然、その「彼女」とは麻美のことではない。
二股をかけられていた、ということになる。
麻美には思い当たる節があった。
先日、差出人不明で届いた一通のメール。
そこに添付されていたのは、富田と胸の大きな女のツーショットだった。
富田は「同窓会の写真だし、彼女とはやましい関係じゃない」と説明していたが、やっぱりあの女とも付き合っていたのだ。
そして、そのうえで麻美にプロポーズをしてきていたのだ。
(バカにしている…!)
麻美はさっそく富田を問い詰めることにした。
「え、なに、あさみん。何を言ってるの?」
二股について富田はあくまでもしらを切りとおすつもりらしい。
小柳から聞いたと口にすると、富田は怪訝な表情を浮かべて言った。
「小柳?…ねえ、あさみん。武井雄哉って誰?」
なぜ富田の口からその名前が?
動揺する麻美に富田が説明する。
「いや、その小柳がさ。あさみんはM商事の武井雄哉という男と結婚するらしいって、俺にフェイスブックでわざわざ教えてくれたんだよ」
何がどうなっているのだろう?
小柳には武井の名前は伝えていないのに、なぜそのことを知っているのか?
何かがおかしい。
とはいえ、今はそんなことを考えている余裕はない。
「武井さんは大学の先輩よ。だけど別に結婚なんて…」
麻美は富田から視線を外して弁解した。
大学時代に弄ばれて捨てられたことも、最近デートしたことも、富田には言わなかった。
【B】稲葉麻美の災難
『麻美隊長の恥ずかしい写真を持っています。今からこれをSNSに投稿します』
小柳守からのメールには、確かに裸の画像が添付されていた。
富田のスマホの中にしかないはずの写真を、なぜ小柳が持っているのか?
…いや、今は写真の入手経路などどうでもいい。
小柳とはフェイスブックでつながっている。
写真が投稿されるとしたらフェイスブックに違いない。
慌ててフェイスブックにログインしようとする麻美だったが…
『IDまたはパスワードが違います』
何度試しても、表示されるのは無機質な拒絶のメッセージだけ。
どういうことだろう?
先日、フェイスブックから忠告されてパスワードを変えたばかりだというのに…。
混乱する麻美に追い打ちをかけるように、スマホが着信を告げる。
表示された名前は『武井雄哉』
電話に出ると、武井は有無を言わさず麻美に怒声を浴びせかけた。
「麻美ちゃん、酷いじゃないか。フェイスブックのあの画像削除してよ。それに方々に僕の悪口を書いているでしょ。まあ、僕も結婚していたことを内緒にしていたのは悪かったと思うけど、でも、いきなりフェイスブックにあんな投稿を上げるのはルール違反だよ」
すぐに削除しなければ法的な手段をとる、という一方的な宣言とともに通話は切れた。
結婚?投稿?
いよいよ麻美の混乱は加速していく。
いったい何が起こっているのか…?
友人の加奈子からの電話で、やっと麻美は事の全貌を把握することができた。
1.麻美のフェイスブックは乗っ取られている
2.麻美のフェイスブックに武井とのキス写真が投稿されている
3.麻美の友達に「武井雄哉は妻がいるにもかかわらずわたしの体を弄んだ」などの誹謗中傷のメッセージが送られている
前後の状況を考えれば、犯人は小柳守に違いない。
小柳はフラれた腹いせに麻美のフェイスブックを乗っ取り、麻美と武井の仲を引き裂こうとしているのだ。
いや、それだけではない。
小柳の手のうちにはまだ生まれたままの姿の麻美の画像があるのだ。
もし、それを麻美のフェイスブックに投稿されでもしたら、知り合い全員に見られてしまうことになる。
無関係の不特定多数に流出するならまだしも、面識のある人々にそれを見られるなんて耐えられない。
それだけは阻止しなければならない。
小柳は写真の拡散と引き換えになにを要求してくるだろうか?
金か、それとも麻美自身か。
麻美はパソコンから再度、小柳からのメールを確認してみる。
すると、まだ開いていない添付ファイルがあるではないか。
麻美は不安いっぱいになりながら、そのファイルをクリックした。
一瞬で画面が切り替わる。
『このデバイスはロックされました。ロックを解除して恥ずかしい写真を投稿されたくなかったら、24時間以内に30万円を払いなさい』
麻美は頭を抱えた。
【A】忍び寄る魔の手
ターゲットの情報を集めて、集めて、集めて…それから行動に移る。
これが男のいつものやり方だ。
・SNSの監視
・富田との通信記録の監視
・自宅の監視
男は時間をかけて麻美に関する情報を集めた。
そして、ついに行動を開始した。
麻美に届いた脅迫メールは、小柳ではなく男が送ったものだ。
より正確に言えば、麻美とやりとりしていた小柳のフェイスブックページ自体、男がつくったなりすましページである。
本物の小柳はフェイスブックを放置しているため、第三者から見れば活動中の男のページの方が本物に見える。
脅迫の材料にした「例の画像」は富田のスマホを拾ったときに入手したもの。
武井とのキス写真は麻美を尾行していた時に撮影したもの。
武井が既婚者であることなどは、男にかかればすぐにわかることだった。
では、男の目的はなにか?
男の最終目的は、稲葉麻美を手に入れることだ。
それは稲葉麻美を恋人にする、という意味ではない。
拉致して、監禁して、弄んで、最後には命すら奪う。
男はこれまで何人もの女をそうして屈服させ、最後には山の中に埋めてきた。
稲葉麻美もまた、そうした獲物の1人に過ぎない。
男は考えた。
どうすれば麻美を安全に自分のものにできるだろうか?
麻美は実家とのつながりが希薄であるため、その点についてはいつものやり方でどうとでもなるだろう。
となれば、問題は恋人や近しい人間の存在だ。
富田誠や武井雄哉…彼らにさえ騒がれなければ、麻美が失踪したとしても心配する人間はいない。
フェイスブックに「旅に出る」「留学することになった」と投稿しておけば、疑われることはないだろう。
男は麻美を孤立させるため、フェイスブックを乗っ取って武井とのキス画像を投稿し、方々に武井の悪口を書いて送った。
これで武井はもう麻美と関わろうとはしないだろうし、富田と麻美の仲も今まで通りというわけにはいかない。
前もって富田と麻美にはそれぞれ「相手が浮気している」と思わせるようなメッセージや画像を送りつけていたし、放っておいてもそのうち別れるに違いない。
…さあ、そろそろ仕上げの時間だ。
【C】捜査状況
黒い長髪の女性を狙った連続猟奇事件の捜査はあまり進んでいない。
現場近くで目撃されていた車の情報から波多野という男が捜査線上に浮上したものの、足取りがつかめないどころか、そもそも免許証すら偽造であった可能性が高い。
そんな中でも唯一、被害者の1人の身元が判明したことは大きな前進といえるだろう。
池上総子(23)は北海道の田舎から上京し、池袋の風俗店で働いていた人物。
この被害者を手掛かりにして捜査はさらに前進する…と誰もが思っていた。
しかし、思わぬ展開から捜査はふりだしに戻ることになる。
田舎の母親が「娘は生きている」と証言したのだ。
聞けば、つい最近も娘からの留守電が入っていたのだという。
また、池上総子は毎月必ず実家に仕送りしていて、それは現在でも続いているらしい。
確認してみると、池上総子のSNSは今も更新されており、自撮り写真も投稿されている。
そもそも、もし池上総子が本当に亡くなっているのなら、今でもそのスマホが生きていることからして不自然だ。
持ち主が亡くなったのならば、とっくにスマホの充電が切れているはず。
…やはり池上総子はまだ生きていて、遺体とは別人なのだろうか?
(いいや、違う。やはり池上総子はもうこの世にはいない)
毒島は考える。
池上総子が生きているとすれば、なぜその居場所がわからないのか?
それはきっと、あの遺体こそが池上総子であるからだろう。
おそらく犯人は池上総子が生きているように偽装しているのだ。
(あとひとつ、何かきっかけがあれば…)
警察組織の弱点は動きが鈍いことだ。
確たる証拠や情報がない限り、大胆な捜査には踏み切れない。
あと一歩で届きそうな犯人の背中を思い浮かべ、毒島は唇を噛んだ。
【B】稲葉麻美の救世主
フェイスブックを乗っ取られ、脅迫メールを送り付けられ、おまけにパソコンまでロックされてしまった。
困り果てた麻美は、すぐに浦野に助けを求めることにした。
浦野義治(24)はセキュリティ会社に勤める技術者だ。
フェイスブックでつながった大学の同期から紹介された人物で、以前も富田のスマホがロックされてしまった際に助けられたことがある。
麻美の部屋についてからの浦野の行動は早かった。
あっという間にパソコンのロックを解除すると、フェイスブックのページも難なく取り戻して見せる。
残るは「例の画像」を保持している犯人への対処だが…
「あとは僕に任せてください。ちょっと考えがあるんです」
自信ありげな浦野に、麻美はすべて任せることにした。
そして後日。
「稲葉さん、富田さん。事件はすっかり解決しました。安心してください」
あっさりとした浦野の言葉に、麻美は驚きとともに深い安心感を覚えた。
浦野はその後、小柳になりすましていた犯人のフェイスブックページを逆に乗っ取り、自宅の住所を特定し、脅迫し返したのだという。
「それで、犯人はなんて言ってきましたか」
「稲葉さんの画像は削除したし、もう二度とやりませんと詫びを入れてきました」
浦野はさらに警察に犯人の自宅住所を通報したのだという。
警察に目をつけられてまで犯人が深追いしてくるとは思えない。
つまり、これで問題はすべて解決。
麻美が実害なく窮地を乗り切ることができたのは、浦野という救世主のおかげだ。
(オタクっぽいと思っていたけど、案外、こういう男の子のほうが頼りがいがあっていいのかもしれない)
麻美は密かにそう思った。
【B】稲葉麻美の危機
事件は解決したが、以前と同じ日常が戻ってきたというわけではない。
富田との関係はギクシャクしたままで、結婚話もどうなるかわからない。
いや、そもそも本当に富田と結婚してもいいのだろうか?
富田はあまりに善人すぎる。
自分と結婚することで富田を不幸にしてしまうのではないか、という考えから麻美はいまいち結婚に踏み切れないでいた。
答えの出ない問題から逃げるように、麻美はいきつけのBARに足を運んだ。
すると…
「あれ、稲葉さんじゃないですか」
「あら、浦野さん」
意外な人物がそこにいた。
「稲葉さん、麻美さんって呼んでもいいですか」
「どうぞ。そっちの方がしっくりくるし」
奥手そうなイメージの浦野だったが、なんだか今日は気さくで積極的だ。
プライベートな時間だからだろうか…?
最初は浦野との会話を楽しんでいた麻美だったが、やがて雲行きが怪しくなっていく。
「麻美さんのフェイスブックのパスワードって、sayuri0118じゃないですか。1月18日は麻美さんの誕生日。さゆりさんっていうのは、やっぱり美奈代さんのことですかね」
浦野がさらりと口にしたその名前に、麻美は凍り付いた。
「麻美さんのお友達で、かつてルームシェアをしていた山本美奈代さん。あの自殺したAV女優の渚さゆりさんの本名ですよ」
絶句。
なぜ、浦野がそのことを知っているのか?
もしかしてあの秘密に、浦野は気づいてしまったというのだろうか?
「………」
麻美は浦野に一言も言葉を返すことができなかった。
混乱しているから、という理由からではない。
急に強烈な睡魔が襲ってきたからだ。
まさか、トイレに立った隙にカクテルに睡眠薬を入れられたのか…?
「マスター、タクシーを一台呼んでもらえますか。連れの女性が泥酔しちゃって」
薄れていく意識の中、浦野の声が聞こえる。
そのハスキーな声が、富田のスマホを拾った男の声と一致するということに、麻美はやっと気がついた。
【B】稲葉麻美の窮地
目が覚めると、両手両足が拘束されていた。
麻美はベッドにうつぶせに寝かせられていて、四肢は鎖でベッドにつながれている。
顔を上げると、浦野がパソコンで何やら作業しているのが見えた。
「お目覚めですか」
浦野がこちらを向く。
「心配しないでください。会社には病休する旨のメールを送っておきましたから。そして富田さんと加奈子さんには、少しの間、旅行に行ってくると伝えました。武井さんとはこのまま音信不通でいいですよね」
「なんであなたがそんなことを知っているの」
「そりゃ、麻美さんのすべてを調べさせてもらったからですよ。この後麻美さんは、再来週ぐらいに家庭の事情で急遽実家に戻ることになります」
麻美は浦野の手口に舌を巻いた。そんなことをされては、誰も麻美の失踪に気がつかない。
「浦野君、わたしに何をする気?」
「そうですね。何もかもですよ」
そう答えると、浦野は狂ったように笑い出した。何を考えているのかまったくわからない。
底知れぬ不気味さに麻美は震えた。
「お願い。命だけは助けて」
「助けて?冗談じゃない。あなたは制裁を受けなければならない女なんです」
「制裁?」
「そうです。あなたにだって本当はわかっているはずです。自分は生きていてはいけない女なんだって。だから僕が代わりに、あなたに制裁を与えてあげるんですよ」
浦野はこれまでも同じように女たちを手にかけてきたのだという。
いかなる説得も通じないと悟り、麻美は心底絶望した。
「麻美さん。ちょっと穴を掘りに行ってきます。今まで使っていたところがダメになってしまったので、新しく探さなければなりません」
「穴って?」
「決まっているじゃないですか。麻美さんを埋めるための穴ですよ」
ニヤリと笑うと、浦野は部屋から出ていった。
【B】稲葉麻美の希望
浦野のいない部屋に、スマホの着信音が響いた。
音源はどうやらボストンバッグの中。
電話に出ることさえできれば、助けを呼べる…!
麻美は懸命に体を動かしたが、どうしてもボストンバッグには届かない。
着信は鳴っては途切れて、を繰り返している。
きっと電話の主は心から麻美を心配してくれているのだろう。
「富田君、助けて!」
気がつけば、麻美は大声でそう叫んでいた。
「富田君、ごめん。でも助けて」
しかし、叫んだところで何も起こらない。
…いや、本当にそうだろうか?
麻美はハッとした顔でボストンバッグに顔を向けると、全力で叫んだ。
「ヘイ、シリー!富田君に電話して!」
【B】絶体絶命
ドアを叩く音がした。
「富田君?」
思わずそう叫んでしまったが、入ってきたのは浦野だった。
「富田さんが来るんですね。残念です。たっぷり時間をかけて楽しもうと思っていたのに」
浦野は無骨なナイフを逆手に握ると、麻美の下腹部めがけて高く振り上げた。
「麻美さん、最初はちょっと痛いですよ」
次の瞬間。
背後に回り込んでいた富田が、バッドで浦野の後頭部を強打するのが見えた。
【B】稲葉麻美の秘密
「おい、あさみんの拘束具を外す鍵はどこだ」
富田が声をかけると、浦野は気絶から目を覚ました。
もちろん浦野は拘束してある。
「富田さん、麻美さん。取引をしましょう」
縛られているとは思えないほどの余裕を感じさせながら、浦野は言った。
…不気味だ。
「取引だと?」
「鍵の在り処はちゃんと教えます。その代わり、この戒めをほどいてください」
…話にならない。そんな取引に誰が応じるものか。
2人の心を読んだかのように、浦野は再び口を開く。
「富田さん。パソコンのデスクトップにある動画を再生してみてください。取引というのはその動画のことです」
…まさか。まさか、まさか、まさか!
麻美の心の中は一瞬で恐怖に満たされた。
…その動画は、まさか!
富田が動画を再生してしまう。
画面に映し出されたのは、やはり成人男性向けの…渚さゆりの動画だった。
「これがどうかしたのか?」
さして珍しくもない、という表情で富田が尋ねる。
「髪形も変えてさらに整形もしたので、ちょっと印象が違って見えますが、その女優をよーく見てください。誰かに似ていると思いませんか?」
「…まさか」
「顔でわからなくても、脚のつけ根のほくろなら、富田さんも何度か見たんじゃないですか」
富田の視線が麻美の下半身に集中する。
…ああ、もう終わりだ。
絶望に黒く塗りつぶされていく麻美に追い打ちをかけるように、浦野は秘密を暴く決定的な言葉を口にした。
「その渚さゆりという女優は、5年前に自ら命を絶ちました。しかし、その映像に映っているその女優は、今そこにいる稲葉麻美さんなんです」
「ど、どういうことだ!?」
「本当の稲葉麻美さんはすでに亡くなっています。その動画の女優が稲葉麻美さんになりすましているんです。彼女の本当の名前は山本美奈代です」
どうしようもなくわかってしまった。
理解が及ぶにつれて、富田の目に嫌悪と軽蔑の色がにじんでいく。
富田にだけはそんな眼差しで自分を見てほしくなかった。
麻美の目から大粒の涙がこぼれだした。
沈黙する富田と麻美とは裏腹に、浦野の口は止まらない。
・スタッフのミスから渚さゆりの個人情報が流出してしまったこと
・そのせいで美奈代は家族からも縁を切られ、まっとうな生活を送れなくなったこと
・同居していた本物の稲葉麻美が自ら命を絶ったとき、美奈代が麻美とすり替わったこと
これまで麻美がひた隠しにしてきた秘密を、浦野はべらべらと暴露した。
そして、あらためて究極の二択を突きつけてくる。
「富田さん。このまま僕を警察に突き出せば、僕は洗いざらいしゃべりますよ。きっとマスコミも大騒ぎするはずです。そんなことになったら、麻美さんは一生世間に顔向けできずに生きていかなければならなくなるでしょう。だけどこの鍵さえ外してくれれば、僕は絶対に秘密を守ります」
秘密を守るためにこの狂人を野に放つべきか、それとも浦野を警察に渡して自分の過去を晒すべきか。
麻美にはもう何がなんだかわからなくなっていた。
そんなことよりも、富田との関係が壊れてしまったことの方がショックだった。
「…交渉成立ですね?」
富田はしばらく考えていたが、やがて無言のまま浦野の拘束を解いた。
自由になった浦野は意外なほどあっさりと、富田に麻美の拘束具を外す鍵を渡した。
「………」
麻美の拘束具を外すあいだも、富田は無言だった。
麻美を気遣う言葉は、何も発せられなかった。
麻美にはそのことが何より悲しかった。
麻美が涙で霞む目を上げると、解錠に苦戦している富田の背後に浦野の姿が見えた。
浦野は手に持ったバッドを高々と振り上げている。
「富田君!」
麻美の叫び声よりも一瞬早く、バッドが振り下ろされる。
後頭部を強打された富田は気絶し、そのまま倒れこんだ。
結末
浦野が富田の喉をナイフで引き裂こうとした瞬間、耳をつんざく銃声が部屋に響いた。
「警察だ!次は威嚇じゃないぞ!」
銃を構えた毒島が踏み込んでくる。
「近寄るな!」
浦野はとっさに麻美を人質にとり、ナイフを喉元に突き付ける。
「抵抗するな」
「女がどうなってもいいのか」
硬直状態を破ったのは、毒島の号令だった。
「加賀谷!」
合図とともに背後から加賀谷が現れ、麻美と浦野を引き離す。
毒島は一瞬の隙を見逃さずに浦野の手からナイフを弾き飛ばすと、浦野の手に手錠をはめた。
「殺人罪で逮捕する」
【C】エピローグ(毒島)
なぜ、毒島たちは麻美の監禁場所を特定できたのか?
そのカギとなったのは『スマホ』だ。
浦野は獲物を始末した後も、スマホを操作して生きているように見せかけていた。
画像を加工して自撮り写真をSNSに投稿したり、音声を加工して留守電にメッセージを残したりしていたので、遺族も身内が亡くなっていると気づけなかったのだ。
気づけなかったから、捜索願も提出されなかった。
これが浦野の犯行が今まで明るみに出なかった理由である。
ただし、その代償として浦野は常に獲物のスマホを持ち歩いていなければならない。
毒島たちが麻美の監禁場所にたどり着けたのは、スマホの位置情報をたどったからだった。
もちろん富田からの通報がなければ、おいそれとは動けなかったのだが…。
「犯人の様子はどうだ?」
毒島の問いに、加賀谷が答える。
「ありがとうって、言ったそうです。このまま止めてくれなかったら、もっと多くの女を手にかけなければならなかったって」
「………」
加賀谷によれば、取り調べは順調らしい。
浦野はすべての犯行を認めている。
都会で孤立した若い女を狙っていたのは、犯行を隠すため。
黒い長髪の女ばかり狙っていたのは、そこに母親の面影を見ていたかららしい。
浦野は母親から育児放棄され、酷い環境の中で子供時代を過ごしてきたそうだ。
その生育環境が浦野の性格を歪め、母親の愛情を求めるがゆえに黒髪の女を狙っていた…ということか。
罪状を考えるまでもなく、浦野には極刑が下されるだろう。
いや…正確に言えば浦野善治という名前も波多野という名前も偽名なのだが、本人が本名を黙秘しているので、そう呼ぶしかないのだ。
名無しのまま極刑を言いわたされた犯人はいまだかつていないな、と毒島は思った。
【B】エピローグ(麻美)
どうしてこんなことになってしまったのだろう?
麻美…もとい山本美奈代は過去を振り返る。
金欠が苦しくてスカウトについていってしまったのが悪かったのか?
それとも、スタッフのミスで個人情報が流出したときに、もっと違う対応をしていれば?
いくら考えても答えは出ない。
当時、渚さゆりになってしまった山本美奈代と同じように、本物の稲葉麻美も生きることに限界を感じていた。
ブラック企業に入社し、うつ病で働けなくなった本物の麻美は、美奈代にとって無二の親友だった。
そんな麻美が最後に残したメッセージは、今でも鮮明に思い出せる。
『私の代わりに生きてください 麻美』
最初は嫌な予感がしただけで、そのメッセージの本当の意味には気づけなかった。
しかし、警察からの電話によって美奈代はすべてを知ることになる。
警察は美奈代にこう言ったのだ。
「一緒に住んでいる山本美奈代さんが、電車に飛び込みました。身元を確認したいので、至急警察に来てください」
警察に行くと、遺書を見せられた。
『生きていくのが辛くなりました。皆さん、お世話になりました。さようなら。後のことは稲葉麻美さんにお願いします。 山本美奈代』
本物の麻美は美奈代の服を着て、そして美奈代のスマホを持って電車に飛び込んだ。
山本美奈代は家族から勘当されているので、美奈代が「これは確かに山本美奈代です」と証言すれば、それで入れ替わりは成立する。
「亡くなったのは、ルームシェアをしていた山本美奈代さんですね」
「…はい」
この日から、山本美奈代は稲葉麻美になった。
麻美に似せて何度も整形し、髪形も麻美のトレードマークだった黒い長髪に変えた。
10年ぶりに再会した武井でさえ、その変身には気づかなかったのだ。
罪悪感から富田との結婚をためらってはいたものの、美奈代は生涯秘密を守り抜き、稲葉麻美として生きるつもりだった。
…それなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう?
浦野は律儀に約束を守っているようだ。
美奈代と麻美の入れ替わりについては、いつまでたってもニュースにならなかった。
しかし、それがなんだというのだろう?
病院の自動ドアを抜けて、美奈代は一歩外に出る。
…これから、どこに行こうか?
あれから富田からの連絡はない。
当然だ。彼は美奈代のことを心から軽蔑したはずだ。
彼にとっては、結婚する前に彼女の本性が知れてよかったのかもしれない。
行く当てもないまま、美奈代は足を踏み出す。
その一歩と同時に、スマホが小さく震えた。
LINEのメッセージが届いている。
富田からだ。
『あさみん、新しい戸籍で俺と人生をやり直しませんか?』
麻美の頬を、一筋の涙が流れ落ちた。
<スマホを落としただけなのに・完>
まとめ
志駕晃「スマホを落としただけなのに」が映画化!
今回は原作小説のあらすじネタバレをお届けしました!
あらためて重要なポイントをまとめると…
・犯人は浦野善治
・麻美は亡くなった親友と入れ替わっていた。麻美の本当の名前は山本美奈代
・結末はハッピーエンド
こんな感じですね。
ミステリーなので「犯人は誰なのか?」ということばかり気にしながら読んでいたのですが、まさかその裏で入れ替わりの伏線が張られていたとは気づきませんでした。
正直「あっ、犯人は浦野なの!?」という驚きよりも「え!麻美と美奈代が入れ替わっていたの!?」という衝撃の方が大きかったです。
それを踏まえて読み返してみると「ああ、そういうことだったのか…」と気づく点がいっぱい!
例えば麻美(美奈代)が結婚を迷っていたのも、後ろ暗い秘密があったからなんですよね…。
そんな秘密を恋人である富田に知られてしまった以上、イヤミスなバッドエンドかな、と思っていたのですが…結末はどんでん返しのハッピーエンド!
嫌な気持ちが残らない、幸せなラストには好感が持てました。
さて、そんな驚きと感動が詰まった映画「スマホを落としただけなのに」は2018年11月2日公開!
ネタバレを読んだ方は「2周目の視点」で見てみると、いろんなことに気づけて面白いはず!
麻美を演じる北川景子さんの細かな演技に注目ですね!
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