今さらながら、映画「砂の器(1974)」を見ました。
「中島健人くん主演で2019年版ドラマが制作されるらしいし、予習がてら映画も見ておこうかな」という軽い気持ちがきっかけだったのですが、あまりの名作ぶりにまさかの号泣!
殺人事件を巡るサスペンスが、あんな涙なくして見られない結末で終わるとは……!
というわけで今回は、何度も映像化された「砂の器」の原点、映画「砂の器(1974)」のあらすじとネタバレ解説です!
Contents
犯行動機を巡る物語
映画「砂の器」は東京で発生したある殺人事件を巡る物語です。
序盤では被害者の身元すら不明で、手がかりになる情報は以下の3つだけ。
1.事件当日、被害者はバーで加害者らしき若い男と話し込んでいた。
2.会話の中で聞き取れたのは、東北弁訛りの「カメダ」という言葉だけ。
3.加害者らしき男は白いスポーツシャツを着ていた。もし犯人なら返り血を浴びているはず。
ベテラン刑事の今西はこの少ない情報を出発点にして、全国各地を飛び回りながら事件の真相に近づいていきます。
……もうだいたいの方が知っていると思うので最初に言っておくと、犯人は新進気鋭の作曲家にしてピアニストの和賀英良ですね。
ミステリーには
・犯人は誰か?(Who done it)
・どのような手段でやったのか?(How done it)
・なぜ犯行に及んだのか?(Why done it)
という視点がありますが、「砂の器」においては誰がどうやってやったのかは(視聴者には)隠されていません。
※犯行に手段については「後頭部殴った後、さらに車で轢いた」と実にシンプル。DNA鑑定とかない時代なので、これだけでは犯人は特定できません。
というわけで、「砂の器」の見どころは犯行動機!
順風満帆の人生を送っているはずの和賀英良が、なぜ人の命を奪わなければならなかったのか?
そこには驚くべき秘密が隠されていました!
真相に近づいていく
「砂の器」の特徴といえば、次から次へと現れる《謎》の数々!
・東北弁訛りの「カメダ」とは?
・列車から紙吹雪を散らせる女の正体は?
・被害者がとった不可解な行動の理由とは?
それら《謎》の答えが一本につながるとき、ようやく今西は犯人とその犯行動機にたどり着きます。
まるで点と点がつながっていくかのような『謎解き』もまた「砂の器」を名作たらしめる所以(ゆえん)でしょう。
というわけで、それぞれの《謎》とその答えについて簡単にまとめてみました。
東北弁訛りの「カメダ」
結論からいうと、答えは「亀嵩(カメダケ)」という地名。
その所在地は東北……ではなく島根県!
実は東北弁と出雲弁はイントネーションが似ている、というのが重要なトリックになっています。
で、この亀嵩なんですが、被害者である三木謙一(65)が駐在さんだったころに勤めていた土地なんですね。
今西は「なるほど、犯人は警察官だった三木に恨みを持つ人間だな!」と確信して島根へと向かうのですが……結果は空振り。
三木謙一は誰からも慕われる立派な人物であり決して誰からも恨まれてなどいない、という情報を得たところで行き詰ってしまいました。
【Point】怨恨による犯行ではない
列車から紙吹雪を散らせた女
一見「きれいだなー」という感想だけで終わってしまいそうなこの場面は、実は証拠隠滅のシーン!
散っていったのは紙切れではなく、実は布切れ。
そう、返り血を浴びた和賀英良の白いスポーツシャツこそが、紙吹雪の正体だったのです!
※後に拾い集めた布切れについている血痕が被害者の血液型と一致
つまり、それをバラまいた女は和賀の協力者。
その正体は……高級クラブのホステスにして和賀の愛人でもある高木理恵子!
※和賀には他に婚約者あり
捜査の手が及ぶやいなや、理恵子は(和賀の協力により)失踪。
最終的には和賀の子どもを深夜の路上で流産させて失血死してしまいます。
理恵子はシングルマザーになってでも子を産みたいと懇願したのですが、和賀はそれを許さず中絶を命令していました。
でも、やっぱり理恵子は諦めきれなくて……その結果の悲劇。
和賀もまさか理恵子がそんなことになっているとは知らず、亡くなった後も理恵子の部屋を訪ねます。
皮肉なことに、この訪問によって理恵子と和賀の関係が警察サイドにバレてしまうのでした。
被害者がとった不可解な行動
被害者の三木謙一は岡山県在住。
伊勢参りの旅に出たはずが、なぜか東京で身元不明の遺体になっていました。
というわけで『なぜ被害者は予定になかった東京行きを決めたのか?』が一つの大きな謎になっています。
その謎を解き明かすために三重県へと飛んだ今西が見つけたのは、被害者が目撃したであろう一枚の写真。
そこに写っていたのは
・前大蔵大臣の田所重喜
・その娘である田所佐知子
そして
・佐知子の婚約者である和賀英良
この中で「加害者らしき若い男」に当てはまるのは……もちろん和賀だけですね。
今西は「三木は写真の和賀を見て急きょ東京行きを決めたのでは?」と推測。
こうして今西は、ついに和賀のしっぽを捕まえたのでした。
さて、いよいよここからが本題!
三木謙一と和賀英良には一見何の接点もありません。
では、なぜ三木は和賀に会いに東京へと向かったのでしょうか?
この謎が解けるとき、事件の全貌が明らかになります!
和賀英良の正体と犯行動機
前述の通り、天才ピアニストである和賀英良と退職した元警官である三木謙一との間には何の接点もありません。
和賀の出身地は大阪であり、島根や岡山といった三木謙一の生活圏にも何のゆかりもありません。
捜査は再び行き詰ります。
そんな中、状況を打開したのはやはり今西!
今西はまず役所で「和賀家の戸籍の原本は空襲で一度焼かれており、現在の戸籍は本人の申告に基づいて作成されていること」を突き止めます。
※和賀夫婦は空襲で亡くなったため、ここでの『本人』とは英良のこと
続いて当時の和賀家を覚えている人に話を聞いてみると、なんと和賀家には子供がいなかったというではありませんか!
つまり、和賀英良は和賀英良ではなかったわけですね。
その正体は、おそらく和賀家の雇い人だった青年。
青年の素性についての記録は残っていませんでしたが、今西の頭には閃くものがありました。
和賀英良の正体は……!
和賀の正体
和賀英良の本名は本浦秀夫。
和賀には三木との接点はありませんでしたが、本浦秀夫には三木との接点がありました。
それはまだ秀夫が10歳にも満たない子供だった頃の話。
父親の本浦千代吉ともども故郷の石川県を離れた秀夫は、長い放浪生活の末に亀嵩にたどり着き、そこで三木謙一と出会います。
今でいうところのホームレス状態だった本浦親子は駐在だった三木に拾われ、面倒を見てもらいました。
つまり、本浦親子にとって三木は恩人というわけです。
その後、千代吉が病気のため国立療養所へと送られることになり、親子は離れ離れに。
残された秀夫は子供のいなかった三木夫婦に引き取られることになりましたが、やがて秀夫は家を抜け出して再び放浪の旅に出ます。
で、なんやかんやあって、気づけば大阪の和賀家の雇い人になっていて……あとは簡単ですね。
空襲の後、秀夫は「和賀英良」としての戸籍を創作し、苦学生時代を経た後、実力で世界的に注目されるピアニストになったというわけです。
伊勢で和賀英良の写真を見た三木謙一は、すぐに和賀が秀夫であると気づきました。
三木が東京に向かったのは、消息不明だった秀夫に会うためだったんですね。
本浦親子の『宿命』
そもそも、なぜ本浦親子は故郷を離れなければならなかったのでしょうか?
その理由は、千代吉の病気。
千代吉は「らい病(ハンセン氏病)」にかかっていたのです。
ハンセン氏病というのは「らい菌」に感染することで神経や皮膚にさまざまな異常をきたす病気で、たとえば手足の感覚がなくなったり、体の一部が変形したりといった症状が現れます。
ハンセン氏病は感染力の弱い病気であり治療法も確立されていたにもかかわらず、当時は感染力の強い不治の病として隔離政策が実施されていました。
要するに、ハンセン氏病患者は『感染源』として忌み嫌われ、差別されていたんですね。
だから本浦親子は故郷を追われ、差別され続けながら全国を放浪しなければならなかったのです。
残された秀夫の引き取り手がなかなか見つからなかったのも、秀夫がハンセン氏病の父と長い間一緒にいたから。
秀夫の母親が家を出たのも、夫である千代吉がハンセン氏病に罹患したから。
このように、ハンセン氏病に対する人々の根拠のない差別は根深いものでした。
※ハンセン氏病については隔離された人々へのあまりにも酷い仕打ちなどが問題となりました。国内では1946年から治療が始まったにも関わらず、隔離政策が廃止されたのはなんと1996年(平成8年)のこと。まだまだ差別意識の残る1974年にハンセン氏病差別を作中で扱ったという点においても「砂の器」は注目されました。
犯行動機
秀夫が恩人ともいえる三木を殺害したのは、正体が露見することを恐れてのことでした。
戸籍の偽造だけでもスキャンダルなのに、そのうえハンセン氏病患者の子どもだと知られれば、栄光に満ちた『和賀英良』の道のりはそこでおしまい。
音楽家としての道が閉ざされるばかりか、再び世間から差別の目で見られることになってしまいます。
もちろん前大蔵大臣の娘である佐知子との縁談もご破算。
正体がバレれば、和賀は金も地位も名誉も、すべて失うことになります。
だから、自分の正体を知る唯一の人間である三木謙一を手にかけた……というわけですね。
ただ、実は映画の中では和賀本人が犯行動機を語るシーンはないので、これらは今西らによる推測です。
大筋としてはハズレてはないと思いますが、はたして和賀の動機は本当に『保身』だけだったのでしょうか?
回想の中で、幼き日の秀夫は父・千代吉と仲睦まじく、離別の際には全身全霊でそれを拒んでいました。
三木家を飛び出したのも「あくまで自分は千代吉の息子だ」という意識があったからではないかと思います。
三木と会って父親がまだ生きていると知った和賀は、きっと心の中では「父・千代吉に会いたい」と強烈に思ったはずです。
しかし、和賀は父に会いに行きませんでした。
それどころか「千代吉に会うべきだ」と強く勧めてきた三木まで手にかけてしまいました。
その理由が『保身』というのは、どうにも納得がいきません。
和賀はどうして父に会いに行かなかったのか?
和賀はなぜ三木を手にかけたのか?
うんうんと考えた末に、私はようやく答えを導き出しました。
和賀が千代吉に会わなかったのは、自分のためであり、また父のためでもあったのではないでしょうか。
親子の再会は感動的なものになるでしょうが、その先に待っているのは和賀英良の失脚。
自分に会ったことで息子が何もかも失ったと知れば、千代吉はどんなに後悔するでしょう。
父子両者にとって不幸な未来しか待ち受けていないとなれば、和賀も苦渋の選択として父に会わない道を選ぶしかありません。
しかし、人情派の三木はそれでも強く「父親に会うべきだ」と勧めてきました。
何を言っても三木は諦める様子がありません。
だから、和賀は三木を葬り去るしか手がなかったんです。
見方を変えると、これはつまり親に会いたいという渇望を凌駕するほど、ハンセン氏病への偏見や差別が酷かったということでもあります。
当時の時代背景を考えると、映画「砂の器」にはハンセン氏病に関する啓蒙というか、メッセージが込められていたのでしょう。
映画の中には、千代吉が今西に「こんな人(和賀英良)知らない」と涙ながらに否定するシーンがあります。
大きくなった息子の姿に感極まりながらも、息子を差別の目から遠ざけるために「知らない人だ」と嘘をつくシーンです。
私もそうだったように、多くの人が悲しい父子の《宿命》に胸を打たれたことでしょう。
今は想像することしかできませんが、当時映画「砂の器」を見た人たちは、きっとハンセン氏病への誤解を解いたのではないかと思います。
映画「砂の器」の感想
印象的だったのは、やっぱりラストのコンサートシーンです。
テーマ曲である『宿命』をBGMに、本浦親子の過去が回想されるシーンには心を揺さぶられずにはいられませんでした。
どこにいっても石を投げつけられるほどの差別を受けた子供時代、すっかり厳しい顔つきが板についてしまった秀夫の心中はいかほどだったことでしょう。
世間を恨み、病気を呪い、無知で理解のない人々に怒り、どれだけ傷ついてきたことか。
そんな秀夫の激しく哀しい感情が詰まったかのような『宿命』の旋律には、ゾワゾワと心がかきむしられるようでした。
↓ピアノ協奏曲『宿命』
時を越えて色あせない名曲ですよね。
私は中居正広版ドラマ「砂の器(2004)」の世代なのですが、この曲だけははっきりと覚えていました。
当時はあまり興味を持てなかったので見ていなかったのですが、映画「砂の器」の名作ぶりを知った今は、中居くんバージョンも見てみたいなあ、と思います。
映画とドラマでは使える時間が違いますから、また違った面白さがありそうですよね(中居くんお芝居上手いしね)
まとめ
映画「砂の器」のネタバレ要素を三行でまとめると
・犯人は和賀英良
・英良の正体は本浦秀夫であり、ハンセン氏病の元患者である父親(本浦千代吉)との関係を隠し通すために、事情を知る三木謙一を手にかけた
・最後は今西にすべてを見抜かれ逮捕
こんな感じでしょうか。
次から次に現れる謎が真相に向かってどんどんつながっていく様子も面白かったですが、最も印象的だったのはテーマ曲『宿命』が流れるラストシーン!
ハンセン氏病による差別を受け続けた本浦親子の過去には胸を痛めずにはいられませんでした。
そして現在、本浦親子はお互いのことを何より大事に想っているのに、決して会うことはできない……まさに《宿命》を感じさせる親子の事情がまたなんとも哀れで悲しくて……。
とても短い言葉では語りきれない『感動』が映画「砂の器」には確かにありました。
さすがは松本清張先生の代表作!
昔の映画ですが、今見ても凄みが伝わってきたので、未見の方はぜひ見てみてください。
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