サスペンス

『鵜頭川村事件』あらすじネタバレ解説!ゾッとする結末に鳥肌

櫛木理宇『鵜頭川村事件』を読みました!

※読みは「うずかわむら」事件

なにやら不穏な気配が漂うタイトルですが、読んでみると想像の軽く10倍は不穏な物語でした。

どこにでもある平和な村だったはずの鵜頭川村が、じわじわと狂気に包まれていって、最後にはおぞましい《事件》が……!

ぱんだ
ぱんだ
ドキドキ

今回はそんな小説『鵜頭川村事件』のネタバレ解説(と感想)をお届けします!

あらすじ

墓参りのため、亡き妻の故郷・鵜頭川村を三年ぶりに訪れた岩森明とその娘。

突然、豪雨にみまわれ、山間の小さな村は土砂崩れで孤立。

そして、若者の死体が発見された。

犯人は村人か、それとも……。

降りしきる雨の中、父と幼い娘は暴動と狂気に陥った村から脱出できるのか。

血と恐怖のパニック・サスペンス!

補足

時は昭和54年6月。

スマホどころか、まだ携帯電話さえない時代です。

鵜頭川村は都会の流行が何年も遅れてやってくるような地方の村で、約300世帯900人が暮らしています。

鵜頭川村では名前(姓)によって明確な格差が存在していて、わかりやすくいえば「矢萩(やはぎ)」の一族が権力者。

村では「矢萩工業」の社長である矢萩吉朗が絶大な権力を握っていて、吉朗の親戚筋である矢萩の人々はみんな同社の幹部だったりします。

村で古くから商店や農業を営む「降谷(ふるたに)」の一族は、支配者である矢萩衆に逆らえません。

くり返しますが、舞台は昭和54年で、しかもド田舎村です。

矢萩がどれだけ横暴にふるまおうと、降谷は我慢するしかない。

それが村における《常識》でした。

鵜頭川村の住人のうち約1割が矢萩姓、約4割が降谷姓。

ネタバレ

まずは殺人事件の情報を整理していきましょう。

被害者の名前は降谷敬一。

いつも穏やかな青年で、決して誰かから恨まれるような人物ではありません。

にもかかわらず、敬一の遺体には無数の刺し傷があり、犯人の明確な殺意を代弁しています。

遺体の発見時には大雨が降っていたため、足跡や物証など、犯人につながる手がかりはまったく残っていませんでした。

ぱんだ
ぱんだ
ふむふむ

実のところ、容疑者は最初からはっきりしていました。

矢萩大助。

無職のごろつきで、性格は短気で粗暴。

傷害と器物損壊の前科は数知れず。

酒癖が悪く、昼間から酒を飲んではふらふらと村を歩き回り、行く先々でトラブルを起こす厄介者です。

これがまたどうしようもないクズで、視線が合えば子どもだろうと殴りかかり、女には見境なく襲いかかる、まさに獣のような男なんですね。

大助はつい先日も畑にガソリンをまき散らすというとんでもないトラブルを起こしたばかりなのですが、その際、暴れる大助を殴って取り押さえていたのが敬一でした。

犯行動機は十分。

「きっと敬一を逆恨みした大助の仕業に違いない」と村人の誰もが思いました。

矢萩の圧政

結論からいえば、矢萩大助には何のペナルティも与えられませんでした。

証拠が不十分だから……ではありません。

大助が村一番の有力者である矢萩吉朗の息子だからです。

矢萩吉朗は大助をたいそう可愛がっていて、これまでのトラブルもすべて揉み消してきました。

吉朗が「堪えてくれ」と頭を下げるだけで、すべて終わりです。

被害者は泣き寝入りするしかありません。

矢萩と降谷の関係性は、まるで貴族と奴隷のよう。

こうして無罪放免となった大助は昼間から(降谷姓の)人妻を襲い、止めに入った女の弟を殴りつけるといった凶行を繰り返すのでした。

※この事件に関しても吉朗の威光でお咎めなし

自警団結成

土砂崩れによる道の断絶。

停電による通信の断絶。

閉じられた村のなかで殺人犯(大助)が大手を振って歩いている状況――。

矢萩衆はともかく、降谷をはじめとする他の住民の不安は日々高まっていきました。

そうして結成されたのが村の青年たちによる「自警団」です。

「――なにかあったら、女子供だけは必ず守れ」

リーダーである降谷辰樹の号令に、若者たちは威勢よく返事します。

自警団の任務は主に見回り。

加えて、大助には常に監視を置き、不審な行動を見逃さないよう注意しました。

降谷辰樹

自警団のリーダー・降谷辰樹は村の若者たちが憧れる「ヒーロー」であり、人を束ねる才能を持つカリスマです。

村の若者はみんな辰樹を尊敬し、こぞって辰樹のファッションや考えを真似しようとします。

本来、辰樹は高校卒業と同時に上京する予定でしたが、不運にも兄が事故で亡くなったため、後継ぎとして村に残ることになりました。

現在の辰樹は矢萩工業の社員です。

若者たちから絶大な支持を集める神童といえど、矢萩から見ればただの子ども。

辰樹はいつも上司(矢萩)の嫁から雑用を命じられ、仕事以外の時間も小間使いのように働かされていました。

当然、鬱屈します。

爽やかな好青年らしい雰囲気は消え、今の辰樹はどこか《危うさ》を感じさせるギラついた雰囲気をまとっています。

親友だった降谷敦人(あつと)が進学して村からいなくなったことも、辰樹を不安定にさせている大きな理由の一つでした。

敦人の弟である降谷港人(みなと)は岩森とならぶこの物語の主人公の一人。

矢萩姓の廉太郎とは親友関係にあります。

力関係の変化

さて、物語はここからどんどん不穏に(おもしろく)なっていきます。

土砂崩れによる孤立は深刻で、救助がいつになるかもわからない状況。

となれば長期的に問題視されるのは食事です。

商店と農家を営むのは降谷姓。

一方、矢萩工業の幹部である矢萩衆には権力こそあれど、食料は降谷から買うしかありません。

すると、どうなるか。

ふだんの仕返しとばかりに、降谷たちは矢萩に対して「売り渋る」ようになりました。

流通は紙幣ではなく物々交換が主となり、米や野菜などの現物を持つものが主導権を握る。

矢萩が貴族のごとくふるまえていたのは、彼らが「雇用する側」だったからです。

しかし、この非常時に肩書きは何の役にも立ちません。

もとより数の上では矢萩より降谷のほうが圧倒的に多いのです。

「矢萩大助を無罪放免した」という負い目もあり、絶対的だった矢萩の権力は日に日に弱まっていきました。

この突然の孤立に、それによって一変した空気に、矢萩一族ははっきりと怯えていた。

この状況を冷静に観察していた岩森は、次のように分析しています。

村中で対立が起こっている。

矢萩衆とそれ以外が反目し、大人たちは矢萩に商品を売り渋り、若者たちは自警団を結成した。

均衡が、ついに崩れ始めている。

長年の憤懣(ふんまん)が、この孤立を機に噴出しようとしている。

※このとき自警団は50人規模に成長。団員に矢萩姓の人間は一人もいません。

支配者の交代

自衛隊ヘリから投下された救援物資を何者かに盗まれたことで、矢萩吉朗の権力はいよいよ地に落ちました。

これにより矢萩と降谷の立場は完全に逆転。

矢萩は「迫害を受ける側」となり、人の目から逃れるように暮らし始めます。

いまの矢萩衆は格好の獲物であった。

そこにはむろん、長年の圧政への意趣返しも含まれていた。

報復を恐れ、矢萩吉朗は屋敷に閉じこもった。

(中略)

鈍感だった矢萩衆も、さすがに怯えに染まりつつあった。

やってきたことをやり返されるのではないか、過去の行いが跳ね返ってくるのではないか――という怯えだ。

鵜頭川村の支配権は矢萩吉朗から自警団(辰樹)へと移りました。

それにともない自警団の在り方も変わります。

「自衛」から「粛清」へ。

自警団員は次第に暴力に酔いはじめ、狩るべき獲物を探してうろつくようになりました。

暴力のハードルが低くなっている。港人は実感した。

団員はわれこそは正義だと思い込んでいる。

これはただの暴力ではない。制裁であり、正当な鉄槌だと信じ切っている。

この変化はもちろん、辰樹の意図によるものです。

辰樹が信奉者たる若者たちを洗脳し、扇動した結果と言ってもいいでしょう。

辰樹は学生運動で使われた演説を声高に叫び、若者たちに「矢萩は特権階級の敵だ」という意識を植えつけ、さらにはアルコールによって正常な判断を奪いました。

その結果、自警団は「革命だ! 闘争だ!」と騒ぎ立てる暴徒へと変質していきました。

副リーダーである白鳥和巳が昼夜問わず無線で垂れ流す辰樹の演説(による洗脳)

同じく副リーダーで、殺された敬一の親友だった西尾健治による感情的なアジ(演説)

これらの効果も抜群で、まだ幼いとすらいえる少年たちはみるみるうちに暴徒化していきました。

そして、事件が起こります。

組織のナンバーツーである西尾健治が何者かによって刺されたのです。

もちろん自警団は「犯人は矢萩の人間に違いない」と考えます。

この頃、矢萩大助はすでに自警団による「制裁(リンチ)」で大怪我を負い、身動き一つとれない状態なので犯人ではありません。

「大助には共犯者がいるのではないか? 次にやられるのは自分の家族なのではないか?」

いっそう濃くなった疑心暗鬼は火薬となり、辰樹の号令で爆発する瞬間をうずうずと待ちわびていました。

そして、ついに狂乱の夜が始まります。

鵜頭川村事件

「やられる前に、やってしまえ」

不安と興奮を起爆剤にして、辰樹はついに爆薬に火をつけました。

矢萩衆を狩る《夜襲》

つい数日前まで平和だった鵜頭川村に、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がります。

若者たちは酒と暴力衝動に酔い、つまり正気を失って、一切のためらいなく矢萩の男たちを袋叩きにしていきます。

ある者は上司を、ある者は親を、ここぞとばかりに殴りつけていく――。

これはただの私怨だ。

混乱に乗じて、自分たちを虐げて抑圧してきた者たちに報復しているのだ。

ただの復讐だ。

「矢萩を狩る」という大義名分が意味を失うまで、さしたる時間は必要ありませんでした。

狂気に身をゆだねた若者たちは姓の区別なく商店を襲撃し、村人の家から貴重品を略奪し、はてには自警団員同士で傷つけ合い始めました。

中には手斧で腕を切断されかけた者もいて、混乱はもう収拾がつかない段階へと達しています。

のちに「鵜頭川村事件」と名づけられる一夜の内乱事件。

まだまだ夜は長く、朝までの時間が永劫にも思われる絶望の中、命からがら暴徒たちから逃げ回っている二組の影がありました。

  • 岩森明とその娘・愛子
  • 降谷港人と矢萩廉太郎

二組は合流し、治外法権ともいえる田所エツ子(※)の家に逃げ込むことで、なんとか暴徒たちから身を隠すことに成功しました。

ただし、その数分後に、岩森と港人は渦中の鵜頭川村へ引き返すことになります。

ふたりともに縁のある矢萩有美(※)の安否を確かめるため、危険を承知で戻ることにしたのでした。

田所エツ子は村はずれの高台に住む老婦人。子どもたちに慕われているうえ、元来「よそ者」であるため襲撃を免れた。

矢萩有美は岩森の亡妻・節子の親友。降谷から矢萩に嫁いだため、どちらの姓からも嫌がらせを受けている。

真犯人

ちょっと途中を省略しますが、有美は無事でした。

けれど、今度は港人が自警団に捕まってしまいます。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

港人は降谷姓ですが、矢萩廉太郎を逃がしたため「裏切者」という扱いです。

港人は縛られ、辰樹の前に跪(ひざまず)かされます。

降谷辰樹。

言ってしまえば、鵜頭川村事件の首謀者は辰樹です。

血まみれの矢萩衆。

狂ったように騒ぎ、本能のまま拳を振るう若者たち。

めちゃくちゃに壊され、火をつけられた村の家屋。

すべて辰樹が計画したとおりの光景です。

狂乱する若者たちの中心にあって、しかし、辰樹だけは心から凍てついたように昏く静かな目で港人を見下ろしていました。

そこには優しかった頃の、港人が憧れていた辰樹の姿はもうありません。

きっと次の瞬間にも、辰樹は港人を血に飢えた獣たち(自警団員)のなかへ無慈悲に放り込むことでしょう。

まだまだ暴れ足りない少年たちも「餌(えさ)」に噛みついていいという主人の許しをうずうずと待ちわびているようでした。

絶体絶命の大ピンチ。

港人が迫りくる死の予感に体を震わせた、そのときです。

一台の車が荒々しく集団の中へと突っ込んできました。

そして……

 

降谷敬一を殺した犯人を、いまここで引き渡す――。全員聞け。皆こっちを見ろ!」

 

車から降りるなり声高に叫んだのは、岩森明でした。

そのすぐそばには《犯人》らしき人影が転がされています。

矢萩大助……ではありません。

大助はとっくに自警団に捕まり、顔の原形が分からなくなるほど殴られています。

すべての始まり……敬一を殺した犯人の正体は……

 

「――聞け! 降谷敬一を殺したのは、ここにいる西尾健治だ!」

真相

再確認しておくと、西尾健治は自警団のナンバーツーです。

何者かに刺された傷は深く、本来なら絶対安静にしていなければなりません。

西尾は降谷敬一の親友であり、これまで自警団に「敬一の仇をとれ! 矢萩大助を許すな!」と発破をかけてきた張本人でもあります。

ふつうに考えれば、西尾健治が犯人であるはずがありません。

しかし……

西尾「……後悔は、してねえ……」

西尾はあっさりと自身が犯人であることを認めました。

もはや命が尽きるまでわずかな時間しか残されていない、と本人もわかっているのです。

岩森に促されて、西尾はぽつぽつと真相を語り始めます。

西尾「うちの親父の女癖についちゃあ、知っとるやつも沢山おろうよ……」

西尾の話を要約すると、次のとおりです。

まず、西尾と敬一は実のところ異母兄弟でした。

西尾の父親が未亡人だった降谷邦枝に産ませたのが、敬一です。

西尾は邦枝が営む託児所に預けられ、敬一とはそれこそ兄弟のように(兄弟なんですけど)育ちました。

ここまでは、まだよかったのです。

問題は、敬一が近々西尾家の子どもとして正式に認知される手はずになっていることでした。

西尾「敬一のやつぁ、悪びれもせんで、わざわざ訪ねて来よって……。これで本物の兄弟になれるって、嬉しげなツラぁして……」

敬一には何の悪意もありませんでした。

しかし、西尾にとってそれは決して受け入れられない報告でした。

西尾「ふざけんなて。……うちのおふくろに、そんげ事言えるか……。認知されたとなれば当然、相続にも、敬一は噛んでくるでねか。

親父の女癖にさんざん泣かさって、苦労してきたおふくろに……今度は遺産まで、横からかすめ取られるなんて……」

西尾が敬一を刺したのは、憎かったからではありません。

まだ真実を知らない母親を守るため、西尾はそうするしかなかったんです。

時代は昭和。しかもド田舎村。

真実が明るみに出れば、西尾の母は同情されるどころか「いたらねぇ嫁だから浮気なぞされるんだ」と姑からいびられていたことでしょう。

しいて言えば、西尾がもっとも憎んだのは己の父親です。

しかし、父親を軽蔑し、たとえ刺したところで問題は解決しません。

西尾は悩みに悩んだ末、敬一を殺すという苦渋の決断を下しました。

これが始まりの殺人事件の全貌です。

ぱんだ
ぱんだ
じゃあ西尾の傷は?

西尾の傷は自分自身で刺したものです。

少しでも長く真相を隠しておくための隠ぺい工作、といったところですね。

ところが、いざ腹を刺す瞬間を辰樹に見られてしまい、西尾の手元は狂います。

自傷が致命傷になってしまったのは、そのためです。

辰樹は西尾が犯人であることに早い段階から気づいていました。

気づいてなお、村を壊すために利用していました。

結末

『敬一を殺した犯人は、自警団の西尾健治だった』

真実が明らかになり、自警団の存在意義は失われました。

これにより狂乱の一夜は終わり……なんて、そんなわけがありません。

暴徒と化した自警団の目的はいまや「本能のままに暴れること」に置き換わっています。

たとえ絶対的リーダーである辰樹が解散を命じたとしても、朝が来るまで若者たちは破壊の限りを尽くすでしょう。

そして、そもそも辰樹には事態を収める意志がありません。

辰樹の目的は最初から村をめちゃくちゃに破壊することでした。

すでに暴動による死人さえでていますが、辰樹の目に動揺の色はありません。

狂った若者たちの渦中、そのリーダーである辰樹だけが冷静です。

すべては辰樹の計画通り――。

とはいえ、それもこの一夜だけのこと。

村への道はいずれ開かれ、辰樹は警察によって逮捕される運命にあります。

朝が来れば熱に浮かされた若者たちも正気を取り戻すでしょうし、辰樹の天下はあと数時間、といったところでしょう。

 

「終わりだ、辰樹くん」

 

岩森の呼びかけに、辰樹が答えます。

 

「ああ、そうだな。自警団ごっこはもう終わりだ。――だども、おれは逃げ切らせてもらう」

 

次の瞬間、辰樹のとった行動に、岩森は目を疑いました。

片手には手斧。

反対側の腕には見間違えるはずもない……田所エツ子の家に置いてきたはずの愛子が抱えられています。

 

(愛子を人質にして逃げるつもりなのか)

 

目の前が真っ暗になりそうなほどの絶望に、岩森の心臓が高鳴ります。

一歩でも動けば、愛子に危険が及ぶかもしれない。

かといって愛子を人質にした辰樹を見逃すわけにもいかない。

気づけば岩森は無我夢中で辰樹に突進していました。

そこから始まったのは原始的な命のやり取り。

牙を肉に突き立て、爪で肉を削ぐような、獣と獣の殺し合い。

辰樹の振るう手斧が岩森の肩に食い込んだかと思うと、今度は岩森が辰樹の耳を噛みちぎる……。

 

壮絶な争いの末、最後に勝利したのは岩森のほうでした。

 

港人が「愛子ちゃんが見ている!」と叫ばなければ、きっと辰樹の息の根を完全に止めていたことでしょう。

暴徒化した村人と同じように我を失っていた自分を振り返り、岩森は思います。

狂気はどこからかやってくるのではない。己の内側に誰もが狂気を飼っているのだ、と。

エピローグ

夜が明け、自衛隊が到着したことで「鵜頭川村事件」は終結します。

死者4名、重軽傷者78名。

辰樹は逮捕され、事件は小さく報道されました。

時を少し戻して、岩森と辰樹の《決闘》が終わった直後。

体力を使い果たした辰樹はぽつぽつと、もうひとつの真相について語り始めます。

「おれも……西尾と同じ、なのさ」

西尾がそうであったように、辰樹にも異母兄弟がいました。

白鳥和巳です。

白鳥は辰樹の父親がよその家庭の女に産ませた不義の子どもでした。

それだけではありません。

表面上では辰樹の叔父ということになっている降谷直樹も、実のところ辰樹の異母兄でした。

鵜頭川村で複数の異母兄弟が生まれたのは、決して偶然ではありません。

「西尾の親父に女遊びを教えたんは、うちの親父だ。な? この村は腐っとる……だろう?」

あらためて触れておくと、辰樹は兄の事故死によって繰り上がりで後継ぎにされ、進学が決まっていたにもかかわらず村から出られませんでした。

矢萩工業の社員として理不尽にこき使われる日々。

無二の親友だった敦人の喪失(進学により上京)

鬱屈していた辰樹は、ある日、村内に異母兄弟が何人もいると知って……。

ぱんだ
ぱんだ
……

これが「鵜頭川村事件」の真相です。

はたして悪人は誰だったのでしょうか?

西尾、辰樹、彼らの父親たち、あるいは「村」そのもの。

今回の事件は腐りきった村が、自然の摂理として腐り落ちたという、そういうことだったのかもしれません。

ラストシーン

※以下、小説より一部抜粋

「……辰樹さん」

港人は顔を上げ、辰樹にいま一度問うた。

「ほんとうに、本気だったんですか。本心から、岩森さんを殺す気だったんですか?」

「ああ。……本気、さ」

いまだ地面に仰向いたまま、辰樹は笑った。

片耳はちぎれ、利き手の指が二本折れていた。

顔面は血にまみれ、酸欠で青黒く膨れている。

息をするのもやっとに見えた。

「もちろん、本気だった。……殺したかったし……、殺されたかった」

くっ、と喉を鳴らす。

「だが、そうもいかんか……。あんな歳の娘がいる、父親だしな。長い裁判も、刑務所暮らしも……おれの都合で押しつけるのは、酷な話か」

それでも、命のやりとりをする相手くらいは選びたかったのさ――。

<完>

岩森は鵜頭川村に住んでいたころ、まだ優等生だった辰樹と親しくしていました。

辰樹は自分が認めた男であり、なおかつ「都会」と「大人」という属性を持つ岩森こそ闘う相手にふさわしいと判断したのではないでしょうか。

感想

ほんとうにゾッとするほど怖い小説でした。

ジャンルとしてはサスペンスに分類されると思うのですが、体感としてはほとんどホラーです。

何が怖いって、「村の好青年」だったはずの登場人物が、いつのまにか狂気に憑かれた暴徒になっているところですよ!

最初からサイコパスな登場人物がいて、頭のネジがどっかいっちゃったような事件を起こしているわけじゃないんです。

どこにでもいる普通の人が、少しずつ狂気に染まっていく恐怖。

作中では自警団の若者が狂気に染まっていく過程が、とても論理的に、納得できるかたちで描かれています。

ちょっと想像してみてください。

あなたのよく知る(きっと穏やかな)家族や友人が、狂ったように暴れまわっている様子を。

幽霊なんかが登場する並みのホラーよりよっぽど怖いと思いませんか。

小説『鵜頭川村事件』では後味が悪いことに「絶対的な悪」が描かれていません。

黒幕だったはずの辰樹も、よくよく考えてみると被害者だったというか、村(環境)に追い詰められて事件を起こさざるを得なかった、という節があります。

岩森のモノローグにもあるように「狂気は誰の内側にも眠っているものだ」という一片の真実を、この物語は突きつけてきます。

すると、どうでしょう。

物語の世界に収まっていたはずの恐怖が、フィクションの壁を越えて現実に侵食してくるようではありませんか。

誰だって、しかるべき状況に追い込まれれば、自分さえ知らなかった狂気の一面を発現させる……。

それはいわば《人間の本性》というべきものでしょう。

自分の中にも、いま隣にいる人の中にも、獣のように暴力的な本性が眠っている。

『鵜頭川村事件』そんな否定したくても否定できないおぞましさを読者に意識させる、不穏さに満ち満ちた小説でした。

誤解を避けるために補足しておくと、めちゃくちゃおもしろかったです。

イヤミス系が好きな人はきっとハマるはず!

まとめ

今回は櫛木理宇『鵜頭川村事件』のネタバレ解説をお届けしました!

どんどん不穏な雰囲気が濃くなっていく展開は読めば読むほど続きが気になってしまい、気づけば夢中でページをめくっていました。

わたしは櫛木理宇さんの小説を読むのは二冊目なんですが、どちらもすごくよかったのでもう完全にファンになりました!

また近いうちに櫛木理宇さんの作品を読んでみたいと思います。

※↓前に読んだ櫛木理宇作品

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『鵜頭川村事件』はWOWOWドラマ化が発表されています。

キャストや放送時期など続報が待たれます。

ぱんだ
ぱんだ
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