サスペンス

『水曜日が消えた』ネタバレ解説!あらすじから結末までまるわかり!

本田壱成『水曜日が消えた』を読みました!

こちらは中村倫也さんが主演する映画の原作小説(ノベライズ)なのですが、純粋に小説としてめちゃくちゃおもしろかったです!

※映画のノベライズは当たりハズレがあるので……

特によかったのは、なんといってもあのラスト!

まるでミステリ小説のように伏線が回収されていく展開にはゾクッとしました。

ぱんだ
ぱんだ
気になる!

今回はそんな『水曜日が消えた』の魅力がまるっとわかるネタバレ解説をお届けします!

あらすじ

一人の身体に宿った《七人の僕》

曜日ごとに切り替わる人格のうち火曜日担当が僕だ。

だけど、ある朝目覚めるとそこは――水曜日!?

いつもは定休日の飲食店、入ったことのない図書館、そして、初めての恋。

友人の一ノ瀬にたしなめられながらも、浮かれていた僕(火曜日)だったが、ある不穏な気配に気づく。

僕らのなかに裏切者がいる……!?

予測不能の《七心一体》恋愛サスペンス!

(文庫裏表紙のあらすじより)

予告動画

ネタバレ

まずは基本的な設定から見ていきましょう。

人格分裂の原因

『僕』が7つの人格を持っているのは、16年前の交通事故が原因です。

当時、『僕』は10歳でした。

※つまり、現在の『僕』は26歳

『僕』は通院していますが、今のところ治る見込みはありません。

症状

7つの人格は性格も特技もバラバラで、記憶もそれぞれ独立しています。

火曜日の『僕』は他の曜日がどのように一日を過ごしていたのか知りません。

火曜日の朝に起きて、火曜日の夜に寝る。

次に目覚めるのは次の週の火曜日です。

火曜日の『僕』にとっては、一週間後が明日なんですね。

それはつまり、(体感としての)生きる時間が七分の一になっていることを意味しています。

7つの人格はそれぞれこんな感じ↓

  • 月……良くも悪くもバンドマン
  • 火……主人公。個性がないのが悩み
  • 水……さわやかスポーツマン
  • 木……イラストレイター
  • 金……趣味は植物を育てること
  • 土……ネットゲームしたりアプリ開発したり
  • 日……釣り人

日常

『僕』は一軒家に一人暮らししています。

病院からの補助金と親の遺産があるので、生活費には困りません。

ただ、一日ごとに人格が切り替わる体質のせいで人間関係は壊滅的。

友人と呼べる存在はなぜか何かと構ってくれる一ノ瀬ひとりだけです。

登場人物

名前説明
主人公 名前はわからない
瑞野さんヒロイン 図書館司書
一ノ瀬『僕』の友人 女性
安藤『僕』の主治医
新木新人医師

『水曜日が消えた』の登場人物はだいたいこの5人です。

急に安藤先生の助手として現れた新木。

そして、なぜか『僕』の家に入り浸っている一ノ瀬。

この2人には「何かあるんじゃないか?」という怪しさがあるような、ないような……。

水曜日が消えた

「……今日、水曜日?」

その水曜日の朝に目覚めたのは、なぜか火曜日の人格でした。

原因は不明。

水曜日の人格がどうなってしまったのかも不明。

明らかな異常事態に直面して、しかし火曜日の『僕』は喜びます。

  • 飲食店は定休日
  • 図書館は休館日
  • 週に一回の通院の日でもある

『僕』はいつも火曜日が一週間でいちばん退屈な日だと嘆いていました。

そんな『僕』にとって水曜日は、いわば新しい世界です。

『僕』はさっそく水曜日(未知の世界)に飛び出していきました。

目的地はずっとずっと行きたかった図書館。

 

そこで、『僕』は恋に落ちます。

 

相手は図書館司書の瑞野(みずの)さん。

やわらかく微笑む瑞野さんの笑顔に、『僕』の心臓は高鳴るばかり。

夢のように最高な一日に心から満足しながら、『僕』は眠りに落ちました。

以下、表記を次のように統一します。

  • 火曜日の人格=『僕』
  • 他曜日の人格=『〇曜日』

初デート

翌週の水曜日の朝も、目覚めたのは『僕』でした。

『僕』は勇気を出して(というか一ノ瀬に後押しされて)瑞野さんをデートに誘います。

気になる瑞野さんの返事は……

「来週の水曜日なら、仕事が終わった後、空いてます」

にこりと微笑む瑞野さん。

ありていに言えば「脈あり」です。

生まれて初めてのデートに舞い上がりすぎて、『僕』はその夜なかなか寝付けないほどでした。

一週間後。

『僕』は万全を期すため火曜から(初めての)徹夜をして水曜日を迎えていました。

※人格は「睡眠」を境に切り替わる

デートのプランは映画のレイトショー。

一ノ瀬に勧められた恋愛映画を観終わると、すっかり夜中の時間になっていました。

このまま告白したらOKの返事がもらえそうなほどのいい雰囲気が、ふたりを包んでいます。

「初めて会った時のこと、憶えていますか?」

そう口にしたのは瑞野さんのほうでした。

初めて会った時もなにも、まだ先々週(僕にとっては数日前)の出来事です。

もちろん『僕』ははっきりと覚えています。

最初に目が合ったのは家の前の道で、

図書館に行ったらたまたま瑞野さんが働いていて、

はじめて言葉を交わしたときから瑞野さんは微笑んでくれて……

ふと、なにかが『僕』の頭の片隅に引っかかります。

どうして瑞野さんは最初からあんなに優しかったのだろう?

『僕』の思考が「その先」に進む前に、瑞野さんがまた口を開きました。

「あの時は、ありがとうございました。河川敷で、風が強くて、運んでた掲示物が飛ばされちゃって……。あなたは関係ないのに、時間をかけて一緒に拾ってくれた」

……え?

「あの時、あなたは『いいなあ』って言ってくれたんです。わたしの仕事のことを、『いい仕事ですね』って。それでわたし、もう一度仕事を好きになってみよう、って思えたんです」

……それは

ずっと、水曜の朝にすれ違う人のままかなって思っていました。でも、あなたは図書館に来てくれた」

 

それは、僕じゃない

 

考えたくないのに、

わかりたくないのに、

『僕』はどうしようもなく理解してしまいます。

瑞野さんの美しい笑顔が、いったい誰に向けられていたのか。

なぜ、瑞野さんは最初から笑いかけてくれたのか。

瑞野さんが好きなのは『僕』ではなく『水曜日』でした。

「図書館で会ったあなたは、すれ違ってた時とは全然違う人みたいで。正直、今でも少し、戸惑ってます。でも、だからかな。わたし、気づいたらあなたのことばかり考えてます。

初めて会った時のあなたを、もう一度みたい」

残酷な真実に、『僕』の目の前は真っ暗になります。

「よかったら、他の日も会えませんか?」

数分前なら嬉しく思ったはずのその言葉も、いまはただむなしいだけ。

瑞野さんの言葉は『僕』の耳をするりと通り抜けていきました。

「これから、もっと   のこと  たい す。  ですか?」

聞きたくない……いや、これは……?

「わ し、あなた こ が きです」

それは失恋のショックによる現実逃避……ではありませんでした。

瑞野さんの声は本当にぷつぷつと途切れていて、いや、何度も何度も途切れているのは世界そのもので……

 

(何だ、これは?)

 

『僕』の意識はいきなり正体不明の異常に襲われていました。

激しい混乱と恐怖に支配された『僕』は、心配する瑞野さんの手を振り払って、逃げるように駆け出します。

(なんで……どうしてこんなことに……!?)

※以下、小説より一部抜粋

…………

地面を踏む感覚すら途切れる中、何度もふらつきながら、必死に身体を動かし続けた。

走る間、耳の奥では、安藤先生の声がリフレインしていた。

『担当医により処方された薬は、所定の時間に必ず服用してください』

『夜は二十四時までに必ず就寝してください』

毎週面倒そうに読み上げられる、治療同意書の注意書き。

あれを軽んじたツケが回ってきたのだ。そうとしか思えなかった。

(でも、まさか――こんなに早く――)

『僕』は瑞野さんとのデートのために徹夜していましたね。

同じように『僕』は、病院から指示された薬(眠くなる)も飲んでいませんでした。

裏切り

正体不明の異変に襲われながらも、『僕』はなんとか家に辿り着きました。

薬を飲んで、気絶するようにベッドに沈み込んで……。

………。

……。

…。

目が覚めると、翌週の火曜日。

ひとまず、先週(きのう)の《異変》は感じられません。

『僕』は安藤先生に相談するため、通いなれた病院へと向かいました。

ところが……

「お話は、私が伺いましょう。今は、私があなたの主治医です」

いつもの研究室に、安藤先生の姿はありませんでした。

代わりに立っていたのは、安藤の教え子だという新木。

研究室からはごっそりとモノが運び出されていて、安藤先生に《何か》があったことを示していました。

それも、良くない《何か》が。

「安藤医師は今、ここにいません。彼は、調査を受けています」

「……どうして、ですか?」

「過去数年にわたり、あなたの測定データに修正や改ざんが見つかっています」

安藤先生は主治医として『僕』の病気(周期性人格障害)を治療しているはずでした。

ところが実際には、安藤先生は病院に隠れてデータや薬の成分に手を加え、『僕』が治らないようにしていました。

つまり、7つの人格をそのまま現状維持させようとしていたんです。

『僕』の病気は世界で一人だけのものであり、他に症例はありません。

だから誰も安藤先生の不正に気づけませんでした。

今回、安藤先生の罪が露呈したのは、学会から送り込まれた調査員(スパイ)である新木が動かぬ証拠を掴んだからでした。

では、目的は?

新木によれば、安藤先生は名誉と利益に目がくらんだのではないか、とのことでした。

一人の人間が異なる分野において、その道のプロフェッショナルと呼べる才能を同時に発揮している。

それが生来のものではなく脳の状態によってもたらされるものだとしたら、症例の持つ価値は『治療』の範囲を大きくこえる。詳しい研究を経て同様の状態を他者に再現する術が見出されれば、どれだけの名誉と利益が生じるかわからない。

安藤医師はあなたという逸材を、失うことを惜しんだのでしょう」

極限の二択

安藤先生の裏切りはショックですが、今はそれどころではありません。

《異変》のことを話すと、新木は深く頷きました。

 

「あなたの人格は、たった一つに絞られようとしているんです」

 

『水曜日』が消えたように、このまま放置すればやがて人格の自然淘汰が起きる、と新木は言います。

最終的に生き残る人格はひとつだけ。

残り6つの人格は消滅する。

……じゃあ、もしも最後の一人(人格)になれなかったら?

人格の消滅は『僕』にとって死そのものです。

どうにか助かる方法はないのか。

救いを求めるように尋ねると、新木は「手術を受けてほしい」と答えました。

手術をすれば7つの人格は統合され、全員分の記憶と技術がそのまま受け継がれる、と。

生き残りに賭けるのは、あまりにリスクが大きすぎます。

手術を受けるべきだ、と『僕』の理性は一瞬で判断しました。

しかし……

※以下、小説より一部抜粋

…………

「僕らの人格が一つになったら……それってもう、今の僕らの誰とも違う人になるんじゃ、ないですか?」

七人のうち一人しか残らない、どころの話じゃない。

この手術を受けてしまえば、つまりそれは。

七人のうち誰も残らない、ということになるんじゃないか。

「正直なところ、それについてはわかりません。他の症例を見ると、手術後のあなたは、七つの人格の全てを『過去の自分』として思い出すことができる可能性が高い。今こうしているあなたと、未来のあなたの人格は、しっかりと繋がるわけです。ただしそれが『同じ人格』かと問われれば、ここから先は哲学の領域です」

「僕は、僕のままでいたいんです。先生」

すがるように、つぶやいていた。そのままぐいと身を乗り出す。

「だったら僕は、このまま手術を受けないで、最後の一人として残った方が……」

「ですが、残るのがあなたとは限らない」

あまりにも、冷静な声色だった。

「ここまで顕著な自覚症状が現れているとなれば、猶予はほとんどありません」

すっ、と紙を手に取って、先生はこちらへ差し出す。

受け取って視線を落とすと、そこには「手術同意書」の文言があった。

「一刻も早い決断を、お願いします」

「……考えてみます」

(中略)

考えれば考えるほど、八方塞がりだった。

二つの選択肢は、結局のところどちらもただの賭けでしかない。

統合された自分が確かに自分であることに賭けるか、最後の一人に自分が残ることに賭けるかの違いでしかないのだ。

どちらを選ぶべきかなんて、僕にわかるはずもない。

決意

いきなり命(人格の消滅)にかかわる選択を迫られた『僕』は、あまりの恐怖に怯えることしかできませんでした。

ただでさえ火曜日の『僕』の性格は、ちょっと頼りないというか、ありていに言ってヘタレです。

手術を受けるか、自然淘汰に任せるか。

極限の二択を突きつけられても、どちらかを選ぶことなんてできません。

『僕』はまるで小動物のように、ひざを抱えてガタガタと震えていました。

……『水曜日』の机のなかに「それ」を見つけるまでは。

一言でいえば『水曜日』はめちゃくちゃいいやつだったんです。

『水曜日』の机のなかに入っていたのは、風に飛ばされてなくなってしまったはずの図書館の掲示物。

瑞野さんがつくったそれを、『水曜日』はあとから川原を何時間も探して見つけ出していました。

しかも、それだけではありません。

汚れていた紙工作をキレイにしようとアイロンをかけて、

すると焦げてしまったから新しく自分でつくろうとして、

でも不器用だから何度も何度も失敗して、

『水曜日』の机の中には、簡単な紙工作の失敗作が数えきれないほど入っていました。

『水曜日』はいったいどうして、不慣れな工作をそんなに頑張っていたのでしょうか?

それはきっと、瑞野さんのことが好きだったから……ではありません。

もし困っていたのが他の人でも、『水曜日』は同じことをしたはずです。

水曜日の世界で、『僕』は何度も目の当たりにしてきました。

道行く人が笑顔で挨拶してくれる。

子どもたちが「兄ちゃん」と慕ってくる。

瑞野さんが柔らかく微笑んでくれる。

『水曜日』は誰からも慕われる、これ以上ないほど爽やかな善人だったのでしょう。

それなのに。

『水曜日』は、もういません。

もしかしたら、『僕』のせいで。

せっかく作った紙工作を、瑞野さんに渡すこともなく。

 

それは、ダメだ。

 

そう思った瞬間、答えは出ていました。

身体の震えはピタリと止まっていました。

運命の木曜日

6月4日(木)

水曜日に徹夜することで、『僕』は木曜日の世界に足を踏み入れていました。

なぜなら、木曜日こそが境界線だから。

ぱんだ
ぱんだ
境界線?

はい。ここからは物語の見せ場である《謎解き》の時間です。

実はこれまで物語が進んでいくにつれて、少しずつこんな情報(伏線)が提示されていました。

…………

いつも大物を釣って魚拓にしている『日曜日』が、スーパーで買ったアジを魚拓にしていた。

他の曜日とボードゲームで遊んでいた『土曜日』の指し手が止まっていた。

『金曜日』は人格統合の手術を拒んでいた。

…………

どれも一見、それほど重要な出来事ではないように思われます。

しかし、出来事の順番を含めて、これらには実はとても大きな意味がありました。

結論から言いましょう。

『日曜日』も

『土曜日』も

『金曜日』も

すでに『水曜日』と同じように消えています。

ぱんだ
ぱんだ
!!!

では、消えた曜日に起きていたのは、いったい誰だったのでしょうか?

曜日が消えていった順番に注目すれば、答えは一目瞭然ですね。

そう、『月曜日』です。

『僕』が水曜日を自分のものにしていたように、『月曜日』は逆向きに曜日を乗り越えていました。

『僕』が気づかなかっただけで、すでに自然淘汰は最終段階に到達していたのです。

最後に生き残るのは『僕』か『月曜日』のどちらか一人だけ。

お互いの曜日侵食が衝突する木曜日こそ、運命の別れ道です。

『僕』はスマホのカメラを起動し、自分が写るようにして録画ボタンを押します。

そして画面に映る自分に『僕』は話しかけました。

 

「初めましてだね、月曜日」

平行線

『月曜日』はある意味、『僕』とは正反対の人格です。

不真面目で自分勝手。

次の朝に目覚める『僕』のことなんておかまいなしで、酒は飲みまくるわ、ベッドに見知らぬ女を連れ込むわ、やりたい放題です。

『月曜日』は趣味で音楽をやっているのですが、悪い意味で想像するバンドマンと言えばイメージしやすいでしょうか。

とにかく『月曜日』はそんな人格なので、『僕』と意見が合うわけがありません。

『僕』は手術を受けるべきだと説得を試みますが、案の定『月曜日』はまったく聞く耳を持ちませんでした。

『手術? 病院で? ちゃんと? いい子ちゃんぶるねー、そういうの嫌いだな。せっかく俺ら、ここまで残ってるんだぜ? 今さら手術なんて受ける必要ないって。

一対一、恨みっこなしの勝負といこうぜ。俺が残るか、お前が残るか。確率は二分の一。悪くない勝率だろ?』

返ってきたのは、自分さえよければいいという『月曜日』らしい身勝手で乱暴な答え。

ただ、『僕』にはそんな『月曜日』の気持ちも理解できました。

一つの曜日に閉じ込められる苦痛も。

二日連続で起きていられる感動も。

自分のままでいたいという主張も。

『僕』だって同じように苦しみ、感動し、望んでいたことだから。

だから『僕』と『月曜日』の違いなんて、本当はあまりなかったのかもしれません。

けれど……

「僕は、水曜日のことを知ってしまったから」

※以下、小説より一部抜粋

…………

知ってしまった。

知ってしまったら、見なかったことにはできない。

いなかったことになんて、できるはずもない。

水曜日を、瑞野さんに逢わせてやりたいんだ。

木曜日にもっと絵を描かせてやりたいんだ。

金曜日の手で家が(植物だらけになって)どうなっていくかを見たいんだ。

土曜日に、まだ一度もゲームで勝ってないんだ。

日曜日の釣った魚をまた食べたいんだ。

月曜日(きみ)とだって、こんな話じゃなくて、話したいことが沢山あるんだ」

――「自分の人生を七人で分けるのと、独り占めするのは、どっちがいい?」

もし、こんな身体になる前にそう訊かれたら、僕だって「一人がいい」と答えるに決まっている。

けれど、僕らはもう分かれてしまったのだ。

生まれてしまったのだ。

そのまま十六年を重ねてしまったのだ。

がしゃああん、と画面の向こうから音が響いた。

右足に鈍い痛みが増えている。傍らにある看板を、月曜日が思いきり蹴ったらしい。

※『僕』と『月曜日』は意識を取り合いながら、スマホの録画で会話している状態です。

『だーかーら! そういう綺麗ごとが嫌いだって言ってんだよ!』

画面の中で、月曜日が叫ぶ。その表情を見て、僕は思わず呻いた。

「……くそっ」

『おれは絶対に認めねえからな。同意書持って病院行ってみればいいじゃんか。俺に代わったところですぐに騒いでやる。手術、断固拒否だってな!』

真実

『月曜日』の言う通り、『僕』の意思だけで手術を受けることはできません。

もし『僕』が自然淘汰によって最後の一人になったとしても、他の曜日が失われてしまっては『僕』にとって失敗と同じです。

(どうすればいい……どうすれば……)

突破口になったのは、ずっと忘れていた16年前の記憶でした。

交通事故で両親が亡くなり、僕の人格が7つに分かたれた日。

あの日、本当は何があったのか。

16年前。

10歳の『僕』が両親と一緒に車に乗っていたのは、新しい家に引っ越すためでした。

そして、僕はその引っ越しを歓迎してはいませんでした。

転校によって仲のいい友だちや好きな女の子と離れ離れになるのが嫌だったからです。

しかも、両親は車の中で夫婦喧嘩を始めたではありませんか。

『僕』は本当に嫌な気持ちになって、耳を閉ざす代わりに《それ》を引っ張りました。

そう……防犯ブザーのヒモを。

ぱんだ
ぱんだ
あっ……

車内に鳴り響く甲高い電子音。

ぎょっとして後部座席を振り返る両親。

直後、激しい衝撃が車を襲って……。

交通事故の原因は『僕』でした。

しかも、それだけではありません。

『僕』が使ってしまった防犯ブザーは、同級生からもらったものでした。

その子は同じ年なのにいつもお姉さんぶっていて、

別れ際にはそう、頭に手をぽんと置いてこう言ったのです。

 

「幸せになれよ!」

 

ああ、なんということでしょう。

それはいつも、一ノ瀬が口癖のように『僕』に言う言葉とまったく同じでした。

ずっと不思議に思っていた疑問が一瞬にして氷解していきます。

一ノ瀬はどうして『僕』の前に現れたのか?

どうしてこんなにも『僕』のことを構うのか?

その答えは、きっと……

※以下、小説より一部抜粋

…………

「罪悪感だ」

その言葉を口にしたとき、胸がひどく痛んだ。

「彼女は、僕らの事故が、自分が贈った防犯ブザーのせいだって知ってたんだ」

医療関係の編集者をしている一ノ瀬だ。

仕事の調べ物でもする中で、僕という患者の存在を知ったのだろう。

そして興味を持って調べるうちに、僕の素性にも気づいてしまった。

「だからあいつは、僕らのもとを訪れて……それからずっと、傍にいてくれたんだ。僕らがこんな身体になったのは、自分のせいだと思ったから」

『……あの紐を引いたのは、俺の意志だろ』

月曜日が低い声で言った。

「一ノ瀬は、そのことを知らない。それを知ってるのは、あのとき車内にいた僕らだけなんだ」

『じゃあ、それを言ってやれば……ああ、でもあいつは』

「そうだよ。そんな言葉じゃ、きっと納得しない。あいつは面倒なやつだから……いろんなことを、考えてしまうやつだから」

決着

一ノ瀬のことを大事に思っているのは、『僕』だけではありません。

一ノ瀬は各曜日の『僕』と親しくしていました。

それに、人格が分かたれても『僕』は『僕』です。

たったひとりの大切な友人のことを、

自分のせいで罪悪感に囚われている一ノ瀬のことを、

小学生のときに好きだった女の子のことを、

助けないなんて選択肢は『僕たち』にはありません。

勝負あり、でした。

『月曜日』から急速に戦意が失われていくのが、『僕』にはわかりました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「もう、解放してあげないと。僕らがしっかり身体を治して、自分の意思で未来を選んだんだって伝えないと、彼女はどこにも行けないよ」

長い沈黙があった。数分間の後、月曜日はそっとつぶやいた。

『……もう、いい。もう疲れた』

「月曜日……君は」

『わかったよ。お前の賭けってのに乗ってやる』

全身から力が抜けた。

ありがとう、と僕が小さくつぶやくと、月曜日がうんざりしたように唸った。

『ったく、仕方ねぇだろ。お前、ずりいんだよ。よりにもよってあいつのことを持ち出しやがって……』

悪役を演じた月曜日ですが、実は悪人というわけではありません。

月曜日は月曜日なりに、一ノ瀬のために行動していました。

自分の生き残りを望んだのは、「幸せになれ」という一ノ瀬の言葉を愚直に実行しようとした結果です。

月曜日は『僕』との対話の中で自分の行いが本当に一ノ瀬を解放するために必要なことじゃなかったと気づいたから、素直に諦めたんですね。エモい。

結末

『僕』は手術を受けました。

といっても、人格を統合するためではありません。

『僕』が『月曜日』に提案したのは、自然淘汰でも人格統合でもない第三の選択肢でした。

安藤先生にも話を聞いて、賭けるに値する可能性があると信じたもう一つの道。

それは、7つの人格に戻ること。

脳の力は未知数です。

強く強く願えば、手術後も人格が統合されることなく、元通りの(7人の)状態に戻れるのではないか、と『僕』は考えました。

もちろん保証なんてどこにもない、リスクの大きな賭けです。

手術によって予定通り人格が統合される可能性もあります。

それでも『僕』はその希望に賭けました。

手術中。ぼんやりとした意識のなかで、『僕』は他の曜日と邂逅します。

スポーツウェアを着た水曜日。

眼鏡にエプロン姿の木曜日。

ワイシャツの裾をズボンにすっかり入れている、几帳面な金曜日。

髪にパーマがかかっている土曜日。

無口な日曜日。

そして、ゆったりしたカーディガンを羽織った月曜日。

「馬鹿だよなあ、お前」

『月曜日』は笑って言います。

きっと、お前がオリジナルだったんだぜ? 素直に手術だけ受けて一つになってりゃ、そこに残る人格はお前だった。馬鹿なやつだよ」

どこか吹っ切れたような雰囲気の『月曜日』に、『僕』は笑い返しました。

「まあ、いいさ。一人より、七人のほうがいい」

「ふん。格好つけやがって」

すっきりとした表情の月曜日を見て、『僕』は正しい選択をしたのだと思いました。

そして、手術の結果は……

ちなみに安藤先生は欲に目がくらんだ裏切り者ではありませんでした。

先生は『僕』のことを息子のように思っていて、だからこそ医師の道を外れてまで現状維持に努めていたんです。

万が一の事態が起こって、『僕』が失われないように。

安藤先生は『僕』を守ろうとしていたんですね。

エピローグ

~三か月後~

9月22日(火)

『僕』はヴェネツィアのホテルの客室で目覚めます。

1日ごとに人格が変わる生活では、海外旅行なんて夢のまた夢。

せいぜい図書館で借りた写真集を眺めることしかできませんでした。

でも、今は違います。

手術の結果、『僕』は7つの人格に戻りました。

そして、手術以前と比べて、『僕』は他の曜日と仲良くなりました。

こうして海外で目覚めることができているのも、前日の『月曜日』が持ち時間を移動に使ってくれたおかげです。

(まさか僕に、いや僕らに、こんな時が訪れるなんて)

温かな感慨を抱きながら、僕は身体を起こします。

すると……

「……ん」

ベッドの上、『僕』のすぐ隣から小さな声が聞こえてきました。

びっくりして視線を移すと、そこには……

※以下、小説より一部抜粋

…………

「おはよ。あんまり起きないから、こっちがもう一度寝ちゃったよ」

月曜日だ。あいつが余計なことを考えたのだ。

嫌がらせのつもりなのか、僕に黙って、こっそりと旅行計画に強烈なスパイスを仕込みやがったのだ。

一ノ瀬の表情は、ひどく穏やかだった。

少し前まで彼女が浮かべていたものよりも、何倍も落ち着いた微笑みがそこにあった。

きっともう何年も、彼女から失われていた表情。

それは何とも魅力的で、僕はついうっかり見惚れてしまう。

見惚れながら、考えた。

今の彼女に向けて、僕はいったい何を言うべきだろう。

幸せになれよ――いや、少し違うかな。

「ねえ、一ノ瀬」

「うん?」

彼女の頭に手のひらをぽんと置いて、つぶやいた。

「幸せに、なろうよ」

君も、僕も。僕と同じ身体を持つ、けれどどうしようもなく僕と違う六人の同居人も。

それぞれが、それぞれのやり方で、幸せになろう。

一ノ瀬はきょとんと目を見開く。大きな瞳の中で、水の都の景色が揺れた。

沈黙は、十秒ほど。彼女はそっと瞬きをすると、やはり穏やかな笑みを浮かべて……

「十六年遅いよ」

と、言った。

<完>

ぱんだ
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感想

そう、真のヒロインは一ノ瀬だったんです!

これにはやられました!

「ヒロインは瑞野さん」と思い込んでいたので、まったくの不意打ちでした。

そして、このラストですよ!

「幸せになれ」と言い続けていた一ノ瀬に「幸せになろう」と返す場面なんて、もう最高じゃないですか!

一ノ瀬と『僕』の関係が三か月でどのように変化していたのかはわかりませんが、たぶん告白かプロポーズの言葉ですよね。

穏やかで優しい空気を感じられる、最高のハッピーエンドでした!

余談ですが『月曜日』が『僕』に「お前がオリジナルだった」と言っていたのは、一ノ瀬の態度が理由です。

一ノ瀬は『僕』と初めて会った時だけ、表情に違和感を浮かべませんでした。それはつまり、火曜日の『僕』が一ノ瀬の記憶にあるオリジナルだったということです。

あらためて読みかえしてみると、一ノ瀬は平等に見えて、実は火曜日の『僕』に一番肩入れしていることがわかります。うーん、エモい。

ミステリ好きにもおすすめ

小説『水曜日が消えた』にはミステリ小説のようなおもしろさがありました。

  • 一ノ瀬の正体
  • 月曜日の曜日越え

最後に解き明かされるこの《謎》に向けて、作中にはさりげなく伏線が仕込まれています。

たとえば、一ノ瀬が「防犯ブザーは好きじゃない」と発言していたり

終盤の謎解きシーンで伏線の解説をされたときには「あっ、そういうことだったのか!」と新鮮に驚ける楽しさがありました。

小説はもちろんのこと、映画も二周目まで楽しめる作品になっているんじゃないかと思います。

決めつけはもったいない

正直にいうと、初めて『水曜日が消えた』の情報を見たときは

「あ、これはファンの人が中村倫也さんを見に行く映画なんだな」

と思いました。

でも、小説を読み終わった今は違います。

「中村倫也ファンはもちろん、そうじゃない人にもめちゃくちゃおすすめ!」

と声を大にして言いたいです。

ストーリーがかなりおもしろいので、キャストに一切興味がなかったとしても十分に楽しめる作品だと思います。

今回のネタバレで伝えきれなかった魅力もまだまだあるので、ぜひ映画や小説で『水曜日が消えた』のおもしろさを味わってみてください。

ぱんだ
ぱんだ
おすすめ!

映画と小説の違い

実は『水曜日が消えた』は小説と映画で少し違いがあります。

たとえば

  • 人格分裂の原因が過去の交通事故であること
  • 一ノ瀬が元同級生であること

小説ではこれらがしばらく隠されているのですが、映画では最初からオープンな情報になっています。

※公式サイトに書いています。

では、映画と小説はどのような関係なのでしょうか?

ここで監督・脚本の吉野耕平さんのTwitterを見てみると、

『映画と小説は両方ともに楽しめる関係になっています』

とありました。

ということは、おそらく

  • 映画にあって小説にないシーン
  • 小説にあって映画にないシーン

があるということですよね。

『水曜日が消えた』を120%楽しむためには、映画と小説どちらもチェックする必要がありそうです。

今回のネタバレは小説の内容に基づいています。

映画を観て「これは!」という違いがあったら追記する予定です!

まとめ

今回は『水曜日が消えた』のネタバレをお届けしました!

では、最後にまとめです!

3行まとめ
  • 実は『月曜日』も他の曜日に目覚めていた
  • 最後は消えた曜日も復活してハッピーエンド
  • 真のヒロインは一ノ瀬だった

ジャンルは「恋愛サスペンス」となっていますが、ときどきコメディだったり、ミステリみたいな伏線回収があったり、

『総合エンタメ』

という印象の物語でした。

素直におもしろかったです。

「中村倫也さんが好きなら必見!」という類の映画ではなく、ふつうに「5月公開のおもしろい邦画」としておすすめです。

映画情報

キャスト

  • 『僕』:中村倫也
  • 一ノ瀬:石橋菜津美
  • 新木 :中島歩
  • 瑞野 :深川麻衣
  • 医師 :きたろう

公開日

2020年5月15日公開

2020年6月19日公開!

ぱんだ
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