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小説『インフルエンス』ネタバレ解説!あらすじから結末まで【近藤史恵】

近藤史恵『インフルエンス』を読みました!

登場人物は女子三人。

子どものころに知り合った三人は、当たり前ですがそれぞれ別の道に進んでいきます。

しかし、三人には切っても切れない絆がありました。

それは殺人事件を共有しているということ。

後年一人が苦境に陥ったとき、他の二人がとった行動とは――

三つの殺人事件と女同士の友情、結末には驚くべき展開が待ち受けています。

というわけで今回は小説『インフルエンス』結末までのあらすじネタバレをお届けします!

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

大阪郊外の巨大団地で育った小学生の友梨(ゆり)はある時、かつての親友・里子(さとこ)が無邪気に語っていた言葉の意味に気付き、衝撃を受ける。

胸に重いものを抱えたまま中学生になった友梨。

憧れの存在だった真帆(まほ)と友達になれて喜んだのも束の間、暴漢に襲われそうになった真帆を助けようとして男をナイフで刺してしまう。

だが、翌日、警察に逮捕されたのは何故か里子だった――

幼い頃のわずかな違和感が、次第に人生を侵食し、かたちを決めていく。

深い孤独に陥らざるをえなかった女性が、二十年後に決断したこととは何だったのか?

社会に満ちる見えない罪、からまった謎、緻密な心理サスペンス。

補足

物語の主な登場人物は3人。

  • 戸塚友梨
  • 日野里子
  • 坂崎真帆

彼女たちは子どものころ同じ団地に住んでいて、同じ中学校に通っていました。

それから30年くらい時が流れて、彼女たちの年齢は今、47歳。

物語は「47歳の友梨が自分の人生を《小説家》に語る」という形で進んでいきます。

だから物語の視点(主人公)は友梨であり、言ってみれば自伝みたいな内容になっているのですが、話のなかには「3つの殺人」が登場します。

それも、ただの殺人事件ではありません。

警察すら欺いてみせた《時を越えた交換殺人》

  • 誰が誰を殺したのか?
  • なぜそうなったのか?

真相にたどりつくためには、彼女たちの複雑な関係性を理解する必要があります。

というわけで、物語は友梨の子ども時代から始まります。


ネタバレ

同じ団地に住む友梨と里子は一番の親友同士で、お互いの家にしょっちゅう遊びに行っていました。

その関係性が変わったのは、小学二年生の頃。

里子「女の子はおじいちゃんと寝るんだよ。そうでしょ」

祖父と同じ布団で寝かされている、という里子の発言に友梨の両親は凍りつきました。

証拠があるわけではありません。

しかし、小学二年生の女の子が祖父と一緒に寝ているというのは、もしかして……。

疑惑は疑惑のまま。

友梨の両親も、わざわざ他所の家庭に首を突っ込むような真似はしません。

一方で、友梨の両親は里子が家に遊びにくると(少しだけ)嫌な顔をするようになりました。

大人の気配を、子どもは敏感に感じ取ります。

友梨と里子の距離は少しずつ遠ざかっていき、やがて一緒に遊ばなくなりました。

11歳

友梨が《その意味》を理解したのは、小学5年生のときでした。

学校では性教育が実施され、大好きな漫画や小説に登場する「性」の雰囲気に気づけるようになった年頃。

里子「もし、誰かに言ったら、殺すから」

後にそう釘を刺さざるを得なかった里子の身に、いったい何が起こっていたのか。

友梨は激しく両親を恨みました。

なぜ、里子を助けてあげなかったのか!

しかし、どんなに両親を恨めしく思ってみても、過去は変えられません。

発言の意味がわかっていなかったとはいえ、友梨もまた里子を見殺しにした人間の一人でした。


14歳【前編】

中学二年生は、わたしにとって地獄の季節だった。

友梨が入学した中学校は酷く荒れていました。

不良が堂々と煙草を吸い、窓ガラスを割って回るような環境です。

友梨が地味な女子グループに混ざってやりすごしている一方で、里子は不良のリーダー格である細尾の彼女になっていました。

 

《事件》が起こったのは、そんなある日のことでした。

細尾たち不良グループが、ダウン症の生徒である皆上理菜子を殺してしまったのです。

細尾たちが誰かを殴る蹴るする光景はもはや日常茶飯事で、誰も止めようともしなかったのだといいます。

友梨はなにより、里子も暴行の現場に居合わせていた(笑っていた)という事実にショックを受けました。

 

細尾が少年院に入ると、学校は体制を厳しく改めました。

竹刀を持った体罰教師たちが見回るようになり、学校から不良の姿は消えました。

すると、どうなるか。

クラスの権力者であり、人気者だった里子なのに、もう誰も彼女には話しかけない。

細尾の彼女だった里子は一転してクラスでの地位を失い、やがて不登校になりました。

友梨はちらりと「今度こそ里子に手を差し伸べるべきではないか」と思いましたが、結局は何もしませんでした。

亡くなった理菜子のことを思えば、自業自得。

それに理菜子の面倒を見ていて、誰よりもその死を嘆き悲しんでいた前島アリサは、友梨にとって仲のいい友達でした。

14歳【後編】

この頃、友梨の友だちといえば真帆でした。

真帆は東京から団地に引っ越してきた子で、洗練された美しさを漂わせていました。

※友梨たちが住んでいるのは大阪

不審者に真帆が狙われたのは、その美しさゆえだったのでしょう。

場所は団地の敷地内。

夜道を帰る真帆の後ろ姿を見送っていた友梨は、慌てて駆け出しました。

車に引きずり込もうとする暴漢に体当たりして、もみあいになり……。

無我夢中でした。

気づけば、拾った包丁で男の腹を刺していました。

刃物は男が真帆を脅すために突きつけていたものだったのでしょう。

真帆「逃げよう! 正当防衛だから!」

矛盾する真帆の言葉にうながされ、友梨は息を切らして走りました。

 

翌日、警察に連れていかれたのは、なぜか里子でした。

それから何日待っても、警察が友梨を訪ねてくるようなことはありませんでした。

里子が罪を認めているのでしょう。

でも、どうして?

確かに、事件現場は里子の部屋から見える位置にありました。

とはいえ、すっかり疎遠になった里子が進んで友梨の身代わりになったとは思えません。

いったいどうして……?


15歳

友梨は結局、事件の真相を誰にも話しませんでした。

警察に自首するべきだったのかもしれない、とは思うものの、それはどこか非現実的なことのように思われました。

 

友梨が再び里子の姿を見たのは、中学三年生の三学期。

この一年間は少年院に入っていた、と里子は言います。

裁判では里子が襲われたことになっていて情状酌量が認められたものの、反撃としてはあまりに何度も刺していたため過剰防衛だとみなされた、ということでした。

つまり、あの夜の真相はこうです。

  1. 里子は事件を目撃していた
  2. 包丁を拾い、あらためて男を刺した
  3. 結果、男は死亡した

友梨は里子に尋ねます。

「どうして……?」

※以下、小説から一部抜粋

…………

「友梨ちゃんを守るため……かな?」

「冗談はやめて」

「あはは、やっぱり信じてくれないか。本当は、もう家も学校も嫌になったから。友梨ちゃんとあの子(真帆)が逃げていくのを見て、刺したのがわたしなら、ちょっとの間だけでも今の毎日から逃げられるかな、と思ったの」

これまで自分で考えたどの理由よりもしっくりきた。

だが、自分の罪が軽くなったとは思わない。

(中略)

「でもさあ、ちょっとつらかった」

里子は妙に明るい声で言った。

「わたしのことは誰も助けてくれないのに、友梨ちゃんはあの子を助けるんだ、と思った」

息が詰まった。

そう、わたしは里子に手を差し伸べることができなかった。

真帆にしたように全力で、里子を襲う運命に抵抗することができなかった。

「ごめん……」

謝って、済むことだとは思わない。

ただ、自然にそう言っていた。

里子は振り返った。ぐっとわたしの腕をつかんで、自分に引き寄せた。

顔が急に近くなる。

「じゃあ、わたしのことも助けてよ」

「え……?」

「わたしは友梨ちゃんの身代わりになって少年院に行った。前科はつかないけど、友梨ちゃんだって少年院に行くことがどういうことかわかるよね。これからどんな目で見られて生きていくことになるかわかるよね」

身代わりになってほしいと頼んだわけではない。

だが、わたしは魅入られたように動けなかった。

「どうすれば……いいの?」

「うちのジジイを殺して」

 

今すぐでなくてもいい、と里子は言った。

「今すぐ、ジジイが殺されたら、わたしがやったってバレる。それは困るから、あと半年だけ我慢する。それからふたりで、どうやって殺すか考えよう」

激しい動悸の中、わたしはただこくんと頷いた。


16歳

計画はシンプルなものでした。

  1. 里子の祖父が一人きりのタイミングを見計らって家を訪ねる
  2. (4階の)窓から突き落とす

実行役の友梨が合鍵で施錠してしまえば、ぱっと見は事故に見えるはず。

犯行動機のない友梨に疑いが向くことはないし、里子は歯医者でアリバイを確保しておけばいい。

完璧な計画とはいえないものの、事故として処理される勝算は十分にある、というのが友梨と里子の出した結論でした。

 

このときの友梨の心境は、やや複雑なものでした。

なぜなら、友梨はもう人(真帆を襲った暴漢)を一人殺しているのです。

ためらいがないわけではありませんが、もし逮捕されたとしても「本来受けるべきだった罰を受けるだけ」という気持ちがありました。

思えば、あのとき真帆を守るように男に立ち向かっていったのも、かつて里子を救えなかった罪悪感が原動力になっていたような気がします。

里子から脅されてしかたなくやる、というのとは少し違うようでした。

計画について話し合ううち、里子に対して友梨は友情めいたつながりを感じるようになっていました。

 

実行日は8月6日(高校一年生の夏休み)

変装して日野家に歩いていく道すがら、友梨は信じられない光景を目撃します。

里子の祖父が窓から落下したのです。

友梨ではありません。友梨はいままさに日野家に向かって歩いているところでした。

本当に事故が起こったとも考えられません。いくらなんでもできすぎています。

では、誰が?

友梨はすぐに《犯人》の正体に気づきました。

今日の計画を知っている人物は、友梨と里子を除けば、一人しかいません。

 

友梨「どうして! どうして真帆が!」

里子は計画に真帆を巻き込んでいました。

犯行時刻の友梨のアリバイを証言する協力者として。

そして同時に、友梨の裏切りを牽制する保険として。

もし友梨が怖気づいたときは、真帆に「暴漢を最初に刺したのは友梨だ」と証言させるつもりでした。

もちろん真帆はアリバイ証言はしても、友梨の罪を証言するつもりなんてありませんでした。

ただ、話を聞く過程で

  • 友梨が里子の祖父を殺す計画
  • 里子が祖父から受けた性虐待

のことを知っていたのは確かです。

友梨の先回りをして里子の祖父を突き落とすことができたのは、真帆だけでした。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「大丈夫……誰にも見られなかったと思う……」

「どうして! どうして真帆が!」

「同じことでしょ」

「なにが!」

「友梨が殺して、わたしが嘘をついてアリバイ作るのも、わたしが殺して、友梨が嘘をついてアリバイを作るのも、成功さえすれば同じことじゃない? どっちがやったのかなんて、わたしと友梨しか知らない。他の人には絶対わからない」

同じはずはない。

同じであるはずはない。

真帆は乾いた声で笑いながら言った。

「絶対、わたしの方がうまくやれる」

このとき、なぜ真帆が友梨の代わりに標的の背を押したのか。

その理由はまだわかりません。終盤まで残る謎の一つです。

なお、里子の祖父は死亡し、事故として処理されました。


高校生

友梨は高校生活でひとりの友だちもつくりませんでした。

自分の罪を思うと常に首にロープが巻かれているような気がして、友達をつくる気になんてなれませんでした。

それぞれ別の高校に進学していた里子と真帆は、やがて引っ越し、団地からいなくなりました。

大学生

友梨が次に里子の姿を見たのは、大学の仲間たちと訪れたディズニーランドでのことでした。

同い年の女の子たちときゃいきゃいはしゃいでいる友梨とは対照的に、里子は彼氏と二人きりで(そして泊りがけで)遊びにきていました。

そして、その彼氏とは誰であろう細尾でした。

遊び半分でダウン症の女子の命を奪い、少年院に送られた、あの細尾です。

里子と細尾が恋人同士であることに、友梨は訳も分からないまま傷つき、そして同時に腹を立てました。

「細尾くんと一緒なんだね」

「結局さ、一度レールから外れてしまうと、もう戻れないんだなと思ったよ。歩(細尾)とわたしは同じようなタイプの人間だし」

里子は高校を中退して、今は夜の店で働いているのだと言います。

友梨は長年わだかまっていた《あの日のこと》を告白しました。

【里子の祖父を突き落としたのは、自分ではない】

自分の手柄でもないことで里子から感謝されるのは、フェアではないと思ってのことでした。

もちろん真帆の名前は出していません。

しかし、里子は頭の良い人間です。

後日、今度は真帆から電話がかかってきました。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「友梨、どうしてあの子に喋ったの?」

わたしは息を呑んだ。

里子は気づいたのだ。自分の祖父を殺したのが、真帆だということに。

「絶対に許さないから。あんな子に話すなんて……」

たぶん、里子は何らかの形で真帆に近づいたのだろう。

そして疑惑を確かめようとした。かまをかけたのかもしれない。

そしてそれに真帆は引っかかってしまった。

「脅されたらどうしてくれるの? あの子、わたしの服のボタンを持ってた。家に落ちてたのを見つけて、友梨のだと思って隠してたって」

つまり、里子は推測だけではなく、物的証拠も持っているということだ。

 

「絶対に許さない。許さないから」

頼んだわけではない。真帆が勝手にやったことだ。

だが、それはあの中二の冬の出来事も同じだ。

真帆を助けるために、原田という男を刺した。真帆はそんなこと頼んでいない。

わたしは無事に切り抜けることができて、真帆が切り抜けられないとしたら、わたしはいったいなにをすればいいのだろう。

真帆は低い声で言った。

「もし、あの子が脅迫してきたら、今度は友梨があの子を殺して


34歳

友梨は東京に本社を構える書店に就職しました。転勤が多い、というのが決め手でした。

最初は福岡。次は大阪に戻って、現在は東京。

友梨は就職してからの10年間を、きわめて孤独に過ごしました。

この間、里子や真帆とは一切かかわっていません。

だから、真帆から電話がかかってきたのは、実に10年ぶりのことでした。

 

「今、わたし困ってるの。その……夫がわたしに暴力を振るうの」

真帆は結婚したものの、深刻なDVに苦しめられているといいます。

「ねえ友梨、もし、わたしが夫を殺してと言ったらどうする?」

 

それが弱みにつけ込むような脅迫であったなら、友梨は応えなかったでしょう。

空っぽだったこの10年、自分の罪を意識しなかった日はありません。

いまさら逮捕されたとして、むしろせいせいするくらいです。

しかし、真帆の声色は違いました。

友梨を親友だと見込んで、心から助けを求めているようでした。

 

真帆が自分で手を下すわけにはいきません。

なぜなら、彼女には三歳になる女の子(依子ちゃん)がいるからです。

真帆が捕まれば、子どもの人生が狂ってしまいます。

一方、友梨にはそういったしがらみがありません。

友梨はさして迷うことなく、真帆の頼みを聞き入れました。

自分の決断が正しいのかどうかはわからない。

たぶん間違っているのだろう。

それでも真帆を救うことすらできないのなら、わたしには何の価値もないと思った。

首尾よく真帆の夫を排除できたとして、それによって真帆との絆がよみがえるわけではありません。

むしろ関係を疑われないように、一切連絡を絶たなければならなくなります。

友達を助けると同時に、友達を失う。

それでもいい、と友梨は思いました。

きっと何年か経てばまた笑って話せるときがくるはずだと、そう思いました。

 

その日の詳細については特に語るべきこともありません。

予定通り指定された家の扉を開けると、予定通り太った男が寝ていて、予定通り台所の包丁を突き立てた。

それだけです。

真帆は依子ちゃんを連れて実家に戻り、アリバイをつくっています。

その真帆と友梨が最後に会ったのは高校生の時で、警察もまさか二人の友情が続いているとは考えないでしょう。

 

自宅に戻る途中、電車を待つホームの向かい側。

そこにはありえない光景が広がっていました。

実家に戻っているはずの真帆が優しく微笑んでいたのです。

友梨は「なぜ?」という疑問符で頭がいっぱいになります。

しかし、駆け寄って問い質すことはできません。

友梨は人の命を奪ったばかりであり、真帆との関係を疑われるような行動だけは慎まなければなりませんでした。


疑惑

真帆への疑念がいっそう強くなったのは、実家の母が雑談中に放った次の一言がきっかけでした。

「真帆ちゃんもまだ、結婚していないんですって」

真帆が結婚していないのだとすれば、友梨が手にかけたあの男はいったい誰だったのでしょうか?

もちろん入籍していないだけで、事実上の夫だったという可能性もあります。

でも、そうじゃないとしたら……?

 

友梨は真帆のことを調べました。

結果は次のとおりです。

  1. 男は元ヤクザで、アパートからの立ち退きを拒否していた
  2. 男が住むアパートは、真帆が相続したものだった

男が死んだことで予定されていたアパートの取り壊しが実現し、跡地にはマンションが建てられるということでした。

当然、真帆のもとには莫大な利益が転がり込むことになるわけで……。

 

【真帆は金のために友梨に嘘をついて、邪魔な男を殺させた】

そう考えるのが妥当でしょう。

気がかりがあるとすれば娘だと紹介された依子ちゃんの存在ですが、やり口はいくらでもあるように思われました。

仮説

友梨、真帆、里子。

これは三人の女性を巡る物語です。

となれば当然、このクライマックスにおいて里子が登場しないはずがありません。

里子はあの後、細尾と結婚していました。

そして、友梨が包丁を突き立てた太った男の正体は他ならぬその細尾歩でした。

ぱんだ
ぱんだ
え!?

友梨が殺したのは真帆の夫ではなく、里子の夫だった……ということになります。

真帆のアパートにたまたま細尾と里子が住んでいて、立ち退きを拒否していたということでしょうか?

いや、偶然にしては出来すぎていると言わざるを得ません。

友梨はひとつの仮説を想像しました。

※以下、小説から一部抜粋

…………

里子が持ちかけたのかもしれない。

高校一年生のとき、わたしに祖父を殺せと持ちかけたように。

里子は、あの日、実行したのがわたしでなく、真帆だと知っている。

真帆の洋服のボタンも持っている。

証拠とされるかどうかは難しいが、現実に手を下した真帆からすれば、脅威だろう。

 

そして、真帆はあのときとは逆に、わたしに殺させようとした。

高校一年生のあのときは、真帆にもわたしにも動機はなかった。

だが、今回は真帆には動機がある。

実行犯になり、疑われるわけにはいかない。

 

動機もなく、長い間つながりも途絶えていたわたしならば、疑われることはない。

やっと、真帆の行動が、自分の中で納得できた気がする。

これは、あの高一の夏の焼き直しなのだ。

同じ絵を、鏡に映したように逆に描いただけだ。ならば、わたしにやらせることになんの罪悪感もないはずだ。

(中略)

ふいに思った。

里子は、細尾を殺したのがわたしだと知っているのだろうか。


真相

友梨は里子が暮らしている大阪へ。

そこで目撃したのは、あの《依子ちゃん》と一緒にいる里子でした。

すっかり母親らしくなっている里子は、最低な夫だった細尾が亡くなったからでしょうか、憑き物が落ちたかのようにすっきりとした表情を浮かべています。

里子「たぶん、わたし、いろいろ間違えてきたんだけど、もう間違えない。わたしと同じような思いを、この子にはさせない」

優しいまなざしで愛しそうに娘を見つめる里子。

そこには嘘がない、と友梨は感じます。

きっと、里子は細尾が殺された事件に関わっていません。

その最期についても世間の風評通り「暴力団関係のトラブルで始末された」と思っているようです。

これからの身の振り方について尋ねると、里子は言いました。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「今、真帆が(仕事と住む場所を)いろいろ探してくれているんだけどね。覚えてるでしょ。真帆」

「覚えてるけど……、里子、真帆と仲良かったっけ」

「彼女の持ってる部屋を借りてたの。大家と店子の関係。いろいろ親身になって相談に乗ってくれたり、夜、依子を預かってくれたり、世話になりっぱなし」

…………

友梨が知る里子と真帆の関係は、祖父を突き落とした事件で弱みを握りあっている、どちらかといえば敵対的な関係性でした。

しかし、それはもう10年も昔の話です。

友梨は思います。

真帆と里子にもわたしの知らない時間はあったのだ。

里子が入院している間、娘の依子の面倒を見ていたのは真帆で、依子は真帆に懐いていた。

【現在(※)、真帆と里子の関係は良好なものである】

※友梨たちの年齢で34歳のとき

最後のパズルピースが埋まり、すべての謎が解けます。

 

つまり、真帆はDV被害に苦しんでいる里子を救うために、友梨に細尾を殺させたのです。

アパートの大家である真帆には犯行動機(利益)があるため、自分で手を下せばたちまち警察に捕まってしまいます。

その点、10年以上もつながりのない友梨には犯行動機がありません。

三人のうち誰も逮捕されずに済む方法は、それしかありませんでした。


結末

友梨は警察に自首しました。

裁判には一年半かかり、懲役五年の判決が言い渡されました。

初犯とはいえ短い刑期です。

裁判では真帆と里子が証言台に立ち、友梨に有利な証言をしていました。

 

では、友梨はいったいどうして自首したのでしょうか?

その理由を、友梨は次のように真帆に語りました。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「自首した」

電話の向こうで、真帆が絶句するのがわかった。

「どうして……」

「心配しないで。真帆の名前は出さない」

「出してよ。出しなさいよ」

「出さないよ。里子を守れるのは真帆でしょう」

里子に会いに行ってわかったのだ。真帆は、里子を守ろうとしたのだと。

「里子をよろしくね」

(中略)

思えば、わたしたちはずっと入れ替わりを続けていた。

里子がわたしの罪を引き受けて、真帆がわたしの代わりに里子の祖父を殺し、そして、今度は真帆と里子が入れ替わる。

でも、これで終わりにしたい。

里子はもう間違えないと言った。わたしももう間違えない。

自分の犯した罪は自分で引き受ける。

そうすれば真帆も里子も自由になる。

何年かの刑期の後、わたしも自由になる。そこからまたわたしもやり直すのだ。

(中略)

わたしが自首するのは、里子や真帆への思いやりのためではない。

これはわたしの人生で、逃げ回るよりも、やり直すことを選んだというだけだ。

里子は、人は結局、誰のことも変えられないのだと言った。

それも事実だが、もしわたしたちのうち、誰かひとりでも欠けていて、誰かひとりでも違うやり方を選んだのなら、わたしたちは、今、ここにはいないのではないだろうか。

わたしたちは、それぞれひとりだったけれど、一緒にいないときも関わり続けてきたし、これからもそれは続いていく。

 

本当のことを言うと、わたしが真帆や里子に抱いている気持ちが、友情なのか愛情なのか、まだわからないし、それほど美しいものではないような気がする。

少なくとも、他の人たちに感動してもらえるようなきれいなものではない。

それでも、わたしは思うのだ。

わたしは決して、孤独ではなかったと。

小説のタイトル『インフルエンス(影響)』を象徴するようなモノローグでしたね


エピローグ

確認しておくと、これまでの話はすべて「47歳の友梨が《小説家》に自分の人生を話している」という形で語られていました。

目的はどうやらお金で、小説にしてもらって原作料(?)をもらいたいから、とのことでした。

しかし、そこに含まれている《嘘》に小説家は気づきます。

実は小説家は友梨たちと同い年で、同じ大阪の中学校に在籍していました。

だから、話者が本物の友梨ではないと気づくことができたのです。

 

裁判までの話を聞き終えると、小説家は尋ねました。

「ねえ、坂崎真帆さん。あなたがなぜ、戸塚友梨のふりをしているのかだけ教えて」

驚く彼女に事情を説明すると、《真帆》は納得したようにつぶやきました。

※以下、小説から一部抜粋

…………

「友梨が、あなたの本を何冊も持っていた。あなたのファンだと思ってたけど、もしかしたら、同じ学校の出身だったから?」

書店に勤めていた戸塚友梨なら、わたし(小説家)のことを知っていても不思議はない。

「そうかもしれない。で、戸塚さんは?」

 

三年前に死んだわ。膵臓癌だった」

わたしは、身体を強ばらせた。

「亡くなる前、あの子はわたしに本を何冊かと古いパソコンをくれた。その中にあなたの本があって、パソコンの中に、あの子が書いた自伝のような小説が入っていた。

正直、そのままじゃどこの新人賞に応募しても、通りそうにない出来だったし、わたしもリライトなんかできない。だから形にしてほしかった。お金のことは怪しまれないための言い訳」

そういうことだったのか。

 

「日野聡子は?」

「元気にしている。依子ももう高校生になった」

「坂崎さんが援助したの?」

「少しね。住む部屋を紹介して、里子が体調を崩したりしたときには、依子を預かったり、そんな程度だけど」

それでも、子供を連れてひとりで生きる女性には、大きな助けになるだろう。

「友梨は、わたしと里子の間にも心のつながりがあったのかもしれないと言っていたけど、わたしはそこまで友情を感じているわけではないし、ただ困っているときに、こっちが負担を感じない程度に協力しているだけ」

ただ、それだけ。そう真帆は繰り返した。

それでも、彼女たちは繋がっている。続いているのだ。

(中略)

「友梨は特別だった?」

真帆は、少し腹を立てたようにそう尋ねたわたしを見た。

「誰も、あんなふうに無我夢中で、わたしを助けてくれようとはしなかった。人を傷つけてまでも、わたしを守ろうとしてくれた人はいなかった。あなたにはいた?」

わたしは首を横に振る。

「あのとき、はじめて、わたしはこの世界で生きていていいんだと思った。でも、後になってわかった。里子を守れなかったという悔いが、友梨にあんな行動を取らせたんだって。そのことが許せなかった」

真帆が友梨い絶交を言い渡したことは、前に聞いた。

「里子から里子の祖父を殺す計画を立てていると聞いたとき、もっと許せないと思った。わたし以外の人のためにそんなことはさせたくない。友梨以外の誰もわたしを救ってくれなかった。わたしには彼女しかいない」

ああ、この感覚は覚えがある。

真帆は友梨に、子供のような独占欲を抱いたまま、大人になったのだ。

小さい頃、いちばん仲のいい友達は宝物だった。どこか恋人めいた親密さと、独占欲。

友達を失うことほど悲しいことは、あまりなかった。

 

「もう長いこと会っていなかったのに、友梨がわたしの嘘を信じて、人を殺してまでわたしを助けようとしてくれたことはうれしかった。でも、同時に、取り返しのつかないことをしてしまったことに気づいた」

真帆の嘘に友梨が気づけば、友梨はもう真帆を許さないかもしれないし、気づかなくても、嘘を繕い続けるためには、もう友梨に会うことはできない。

「でも、守ろうとしたのは本当。友梨を犯罪者にするつもりはなかった」

まさか彼女が自首するとは思わなかったのだろう。

「刑期を終えたら、また会おうって約束したけど、彼女は出所して、半年も経たないうちに病に倒れてしまった」

 

「友梨がわたしを本当に許してくれたかどうかはわからない。でも、少なくとも表面上は許してくれた。パソコンも本も、わたしに託してくれた。だから、わたし、里子とそれなりにやっていく。時々腹の立つこともあるけどね」

「ときどきしかないのなら、うまくいってるよ」

わたしがそう言うと、真帆は洟(はな)をすすり上げて、少し笑った。

<完>

まとめと感想

今回は近藤史恵『インフルエンス』のネタバレをお届けしました。

「殺人」というワードが飛び交うサスペンスでありつつ、ラストまで読むと女性三人の絆(友情)の物語だったことがわかります。

友梨、真帆、里子。三人は別に仲良し三人娘というわけではなく、作中にもあるように10年以上も連絡を取り合わない時期だってありました。

しかし、DVに苦しむ里子を、友梨と真帆は法外な手段をとってまで助けようとします。

真帆にとっては里子というより、依子ちゃんを助けたかったのかもしれません。

友梨にしても、後悔や罪悪感のために、あるいは今度こそ自分の罪と向き合うために、そうしたにすぎなかったのかもしれません。

ふたりは「それが友情だったのかはわからない」と語っています。

けれど、わたしは思うのです。

それは確かに友情だったのだ、と。

どこかつくりものめいたきれいすぎる《友情》を描く作品が多い中、本作では《しがらみ》と隣り合わせの、つまり非常に現実的な友情の在り方が描かれていたように思います。

「面倒くささ」や「なりゆき」、その他もろもろの不純物の混じった本物の「友情」

それが確かな手触りをもって感じられるこの物語が、わたしは好きです。

今回は本編が長くなりすぎて盛り込めませんでしたが、ふとした地の文(※)共感できる表現が多く見られたのも印象的でした。

※セリフ以外の文章

大人世代の女性におすすめしたい一冊です。

 

ドラマ情報

キャスト

  • 橋本環奈(友梨)
  • 葵わかな(真帆)
  • 吉川愛(里子)

ほか

放送日時

  • 2021年3月20日(土・祝)放送・配信スタート
  • 毎週土曜よる10:00(全5話)

WOWOWオンデマンドにて配信予定

ぱんだ
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雑誌でいえば『りぼん』『マーガレット』とかですね。



歴代の名作から最新作までとにかくラインナップが豪華!



少女漫画が好きなら、一度はチェックしておきたいアプリです。



↓配信中タイトル
  • 『ハニーレモンソーダ』
  • 『君に届け』
  • 『NANA-ナナ-』
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