ホラー

五十嵐貴久「リハーサル」あらすじネタバレ!結末のリカが怖すぎ!

前回読んだ『リカ』がめっちゃ怖かったので、今回はその前日譚にあたる『リハーサル』を読んでみました。

小説「リカ」あらすじネタバレ!結末がガチで怖すぎる!【ドラマ化】小説「リカ」を読みました。これ、めっっっさ怖いです……!ホラー小説とかイヤミスとか全然平気で読めるのに、この「リカ」には...

結論からいえば、今回もヤバかったです。

帯に『リカシリーズ史上最も酸鼻な幕切れ』と書いてあったのですが、その通りでした。

※酸鼻……むごたらしくいたましいこと。見るに耐えないほど悲惨な状態。

あのラストは怖すぎるしエグすぎる……!

というわけで、今回はそんな小説『リハーサル』のあらすじネタバレです!

 

あらすじ

大矢昌史(34)は花山病院の副院長。

病院の経営は順調で、医師・看護師はまるで家族のように団結している。

また、プライベートでは婚約者・佐藤真由美(26)との結婚を翌年に控えている。

絵にかいたような順風満帆な人生。

これからもずっと平穏で幸福な人生が続いていくのだろう、と大矢は思っていた。

……まだ、このときは。

きっかけは、病院入り口に貼りつけた『看護婦募集』のポスターだった。

(あのとき、あのポスターさえ貼っていなければ……)

後に、薄れゆく意識の中で心から後悔することになることを、大矢はまだ知らない。

『リハーサル』の時代背景は1990年代後半。

まだ携帯電話が発売されたばかりの頃で、作中にはポケベルも登場します。

シリーズ時系列的には第1作目『リカ』から数年前の物語です。

ネタバレ

ここからは大矢の一人称視点になります。「私=大矢」です。

雨宮リカと申します。よろしくお願いします」

花山病院の看護婦採用面接。

第一印象から、雨宮リカは他の応募者とは一線を画していた。

背が高く、ひどく痩せていて、顔色が悪い。

そして、体臭が鼻をつく。

……もちろん、これに関しては本人の責任ではないのだが。

履歴書に記載されている年齢は28歳。

不健康そうな見た目さえ除けば、リカは優秀な看護婦であるように思われた。

経験もあるし、話し方からは頭の回転が速いこともわかる。

何より、リカは慶葉病院の内山前理事長からの推薦状を持参していた。

内山先生と言えば日本医師会の元副会長だ。

そんな大物からの推薦状を持つ人材を不採用にするわけにはいかないだろう。

病院の怪談

花山病院には外科、内科、小児科の3科がある。

リカには私と同じ外科で働いてもらうことにした。

不安材料だった体臭も、それほど気にはならない。

リカの仕事ぶりは実に優秀だった。

夜。真由美とのデート。

リカのことを話すと、真由美はふと思い出したように言った。

「聞いたことがあるの。体臭が強くて、顔色の悪い、背の高い看護婦がいるって。彼女の病勤務する病院で何人も入院患者が死んだって

脅すように言ったかと思うと、真由美は

「悪趣味な冗談よね」

と言って笑った。

研修医の真由美が先輩から聞いた話だというから、きっとからかわれたのだろう。

病院に怪談はつきもの。

よく聞く話だ。

第一、真由美にそう話した医者は、研修医の頃にその《噂話》を聞いたのだという。

真由美より10歳も年上の医者が、だ。

リカは28歳なのだから、年齢的にもその噂話と関係があるはずがない。

医療事故

「鉗子が一本足りません」

手術後、副院長室を訪ねてきたリカが言った。

先ほどの開腹手術の際、医療器具を体内に残したまま傷口を縫合してしまったのだろうという。

『医療事故』

最悪の単語が頭をよぎる。

……しかし、ありえない。

終わったばかりの手術は実に初歩的なもので、素人でもそんなミスなどしない。

それに、私は確かに看護師に体内から取り出した鉗子を渡したはずだ。

「君の勘違いだろう?」

「そんなことを言っている場合ではありません。気づいているのは私だけです」

リカが一歩近づく。

強い臭気が鼻をついた。

「先生、私、先生のためなら何でもします」

まだ全身麻酔が効いているうちに患者の腹をもう一度開けよう、とリカが言う。

「今なら、だれにも気づかれません。先生とリカ、2人だけの秘密です」

「いや、しかし……」

それは許される行為ではない。

もしリカの言うことが本当だとしても、今こっそりと再手術するのではなく、改めて同意を得たうえで再手術するべきだ。

……ただし、その場合、私は無能の烙印を押されることになるだろう。

病院の評判も落ちるし、最悪の場合、訴えられる可能性もある。

ためらう私の耳元で、リカが湿っぽくささやいた。

「先生。先生は今、すごいピンチなんだよ? わかってる? でも大丈夫。リカが助けてあげる。そのためにリカはこの病院に来た。運命だったの

医師失格

走って手術室に行くと、たしかに体内に鉗子は残っていた。

とはいえ、私にも医師としての誇りがある。

自らの評価を落とそうとも、同意を得てから再手術しようと決断した。

しかし……

「なっ……!」

私の決意をあざ笑うかのように、リカが勝手に局所麻酔を患者に注射した。

そして、そのまま縫ったばかりの糸を抜き、傷口を開く。

「何てことを……」

もはや選択の余地はない。

私はリカに導かれるままに体内から鉗子を取り出し、傷口を再度縫い合わせた。

……ああ、なんということだ。

取り返しのつかないことをしてしまった。

もう後戻りはできない。

私は……医師失格だ。

異常

気づいたときには、院内に「副院長と雨宮看護師はつきあっているらしい」という噂が広がっていた。

広めたのは他の誰でもない、リカ本人だ。

「彼から交際を申し込まれたの」と気恥ずかしそうに言いふらしているのだという。

……あの女は、いったい何を言っているんだ!?

「なぜ、そんな嘘をつく?」

私の問いに、リカはこう答えた。

「やめてよ、もう。照れるのはわかるけど、別にいいでしょ?」

まるで会話が成立しない。

私は直感で理解した。

リカには嘘をついているという自覚がない。

リカの頭の中では、私とリカは恋人関係ということになっている。

リカは頭の中の妄想こそを現実だと思い込んでいるのだ。

それは違う、といくら言っても意味はない。

自分にとって都合の悪い《現実》など、リカには見えていないのだから。

リカはいつのまにか叔父をたらしこんでいた。

叔父・花山大次郎は4階の特別個室で看護を受けている。

かつては尊敬すべき高潔な医師だったが、半身不随になり病院の経営を離れてからは被害妄想が強くなり、誰彼となく怒鳴り散らす扱いにくい患者になっている。

そんな叔父を、どうやったのか、リカはすっかり篭絡していた。

「リカはイイむすめダ。やるナ、マサふミ」

驚くべきことに、そういって叔父は笑った。

私にさえも「ビョウインをノットるツモリだろウ!」と唾を飛ばしていた、あの叔父が。

信じられなかった。

そして、それ以上にゾッとした。

叔父はすっかりリカの虜になっていて、リカの言うことをすべて鵜呑みにしている。

私とリカが男女の関係なのだと思い込んでいるのも、そのためだ。

経営から離れたとはいえ、今も名実ともに花山病院のトップは叔父だ。

その叔父をリカが操っているということは、すなわち、リカがこの病院を支配しているということを意味している。

脅迫

「君には辞めてもらう」

「同じ職場だとやりにくい? でも、別にいいと思うんだけどな。2人とも愛し合ってるんだし」

……やっぱりだ。

リカは私と交際しているという、ありもしない話を現実だと思い込んでいる。

それを周囲に言いふらし、叔父にまで真実だと思い込ませている。

この女は、危険すぎる。

「いいか、よく聞け。僕は婚約している。来年の夏には結婚する。君と交際することはありえない」

ペアン鉗子、と唐突にリカが言った。

「あなたに返そうと思ってたの。あれ? だけどどこに置いたんだっけ。ロッカーかな? 持って帰ったんだっけ? ねえ、どこにあるか知ってる? リカ、忘れちゃった」

思わず一歩下がった。

リカは鉗子を持っている。

患者の血液がついた、あの鉗子を。

……医療ミスの証拠を!

いったいどこまでが計算なんだ?

少なくても、ただの精神異常者ではない。

この女は今、私を脅している。

「何が目的だ。金か? 鉗子を返せ。いくら払えばいい?」

「リカ、お金なんかいらない。あなたが一緒にいてくれたらそれだけでいいの」

そう言いながらも、リカは私に2人きりの時は名前で呼ぶことを約束させた。

もうすぐ三か月の試用期間が終わる。

そうすればリカを辞めさせられる。

思えば、婦長の小山内は最初から「採用しない方がいい。やめさせた方がいい」と繰り返していた。

彼女の意見を聞くべきだったんだ。

副院長である私と古株の小山内婦長が声をそろえれば、あの叔父だってリカを辞めさせることに反対はできないだろう。

鉗子にしたって、別に動かぬ証拠というわけでもない。

リカの言うことなど、きっと誰も信じないだろう。

そう思っていた矢先だった。

小山内婦長が階段から転落したという一報が私の耳に入ってきたのは。

崩壊の予兆

小山内婦長の状態を見た瞬間、私は息をのんだ。

脊髄損傷の中でも最悪の頸椎損傷。

おそらく、小山内婦長は今後手足を動かすことはおろか、自発呼吸、食事、排泄もできなくなる可能性が高い。

会話もできず、すべての感覚を失い、車いす生活を余儀なくされることになるだろう。

そして、それは一生続く。

中枢神経の損傷を治療することは誰にもできない。

婦長は……生ける屍になる。

それにしても妙だ。

婦長は4階から踊り場を越えて3階に転落していた。

よほどの勢いで走りでもしていない限り、そうはならない。

だが、あの冷静な婦長が階段を走り下りようとしていたとも考えられない。

それはまるで、誰かに突き落とされたかのような転落事故だった。

小山内婦長の不在により、花山病院はかつてない混乱状態に陥った。

病院を取り仕切っていたのは彼女だったのだ。

実務的にも、精神的にも、小山内婦長はみんなの支柱だった。

特に看護師たちのショックは大きく、各所で小さなトラブルが頻発するようになった。

かつて《ひとつの家族》だった花山病院は、もう存在しない。

スタッフたちの心は不安と多忙に押し流され、バラバラになっていった。

そんな中、明らかな《精神異常者》であるリカの存在は、まるでスタッフたちの不安を増幅する装置のように働いていた。

小山内婦長の事故は始まりにすぎなかった。

  • 患者の家にいやがらせの品が届いた。
  • 看護師の家が放火された。
  • 受付の女性が《何か》に怯えて退職した。

まるで呪われているかのように、花山病院の周辺で事件が連続している。

その結果、花山病院にはすっかり『怯え』が蔓延していた。

かつて清潔で温かかった病院内の雰囲気は、今や暗く、よどみ、濁っている。

  • 次は何が起こる?
  • 次は誰が不運に見舞われる?

医師も看護婦も声を潜めて話すようになった。

花山病院に何が起きている?

いったいなにが原因なのか?

考えるたびに頭に浮かんでくるのはリカの歪んだ顔だった。

証拠はない。

だが、すべてはあの女が病院に来てからの出来事だ。

リカの存在こそがすべての元凶であるように思われてならなかった。

……とはいえ、リカは今や完全に叔父の心を掌握している。

人事権を持つ叔父が首を縦に振らない以上、リカを解雇することはできない。

こんなとき、せめて小山内婦長さえいてくれたら……。

リカ

「例の看護婦、リカって名前じゃない?」

真由美からの電話。

開口一番の問いに、私は驚愕した。

「なんでその名前を!?」

「実はね……」

真由美は独自にリカの噂について調べていたらしい。

そして、いくつかの情報を手に入れた。

曰く、リカの本名は『升本リカ』

リカが務めた病院では必ず奇妙な事件が起こる。

患者の連続死や盗難事件、他にも……

「あたしが聞いたのはエレベーターの誤作動で、看護婦の体が真っ二つに切断されたって話……」

そのすべては事故として処理されている。

しかし、ただの偶然とも思われない。

なぜなら、今まさに花山病院でも同じことが起こっているのだから。

真由美が集めた噂話が本当だとすれば、少なくともリカは28歳ではない。

となると、履歴書に書かれた経歴も疑わしくなってくる。

リカ、おまえはいったい何者なんだ?

罪の上塗り

内科の刈谷先生が退職届を残して消えた。

ここ最近の株の暴落が原因だろう。

刈谷先生はかなりの大金をつぎ込んでいたから……。

刈谷先生は夜逃げ同然に消えていて、その足取りを掴むことはできなかった。

病院に怪しげな黒服の男たちが押しかけてきた。

「大矢昌史さんですね? あなたは借金の保証人になっています」

「……え?」

男たちは闇金の人間だった。

見せられた刈谷先生の借用書の保証人の部分には、私の署名捺印がある。

……やられた。

刈谷先生は最初から私に借金をなすりつけるつもりだったのだ。

どんなに「私は保証人になってない!」と説明しても無駄だった。

刈谷が残した借金は1500万円。

とても私が払える金額ではない。

とはいえ、このまま催促を無視するというわけにもいかないだろう。

そんなことをすれば、男たちが病院にどんな嫌がらせをするかわかったものじゃない。

花山病院の評判は地に落ち、閉院を余儀なくされることになる。

それだけは……それだけは回避しなくては……!

結局、私は男たちに1500万円を支払った。

銀行から借りた、医療機器を買うための資金を使って。

つまるところ、私のやったことは横領だ。

だが、私的な目的のためじゃない!

病院を守るためには、そうするしかなかったんだ……!

横領の件はすぐに明るみに出た。

私は叔父から激しく叱責され「オマエハクビダ!」と言い渡された。

すべては病院のためにやったことだった。

私はむしろ被害者だった。

それなのに、どうして……。

どうすればいいのかわからないまま、その日の診療を終えてマンションに帰った。

携帯が鳴ったのは、深夜十二時を回った時だった。

犯行動機

叔父の花山大次郎が亡くなった。

第一発見者はリカ。

リカからの連絡を受けた私は、叔父の病室に到着した二人目の人間だった。

「いったい何があった?」

「わかりません。でも、たぶん急性心不全だと思う。脳梗塞患者にはよくあることだわ」

リカはそう言ったが、医師としての私の見解は違った。

これは、心不全じゃない。

巧妙にカモフラージュされてはいるが、窒息死だ。

「……君が殺したんだな?」

ささやくように言う。

リカは何のこと、と大きく首を傾げた。

「リカがこのジジイを殺す? そんなわけない。だって、殺したのはあなただもの

「何を言ってる? ふざけるな、叔父だぞ。あれだけ世話になった肉親を、僕が殺すわけないだろう」

犯人はお前だ、と私はリカを指さす。

すると、リカの顔に暗い笑みが広がった。

「そうかな? リカ、誰よりも叔父様の世話をしてきた。実の娘のように可愛がってくれたし、リカもパパのように慕ってた。それは看護婦全員が知ってる。リカに叔父様を殺す理由なんてない。でも、あなたは?

あなたは病院のお金を使い込んだ、とリカが真っ黒な目で覗き込んだ。

「叔父様が怒って、あなたを首にするといっていたのは、もうみんな知ってるんだよ。この世からいなくなればいいって思ったでしょ? リカ、全部わかってる。だって、リカはあなたを愛してるから。全部許してあげる」

激しい目眩と頭痛が襲ってきた。

このまま朝まで何もなかったことにすればいい、とリカがささやいた。

「朝の巡回でリカが見つけて、あなたに報告する。あなたが急性心不全って死亡診断書に書けば、それですべてが終わる」

葬儀

叔父を殺したのはリカだ。

しかし、私は死亡診断書に『急性心不全』と書いた。

そうするしかなかった。

リカが叔父の病室に通っていたのは事実で、看護婦たちはリカと叔父がいかがわしい関係にあると思っている。

つまり、リカには叔父を殺す動機がない。

一方で、私には犯行動機がある。

横領の件を責められて首を言い渡されたばかりだった。

必然的に第一容疑者は私になる。

もちろん警察が詳しく調べれば、私の身の潔白は証明されるだろう。

しかし、その過程ではどうしても横領の話が出てきてしまう。

警察に横領の件が露見すれば、花山病院は地域からの信頼を失うことになる。

病院を守るためには、リカの凶行に目をつぶるしかなかった。

どのみち叔父はあと5年も生きられなかった。

これは仕方がないことだ、と私は自分に言い聞かせた。

葬儀のために何日も病院を閉めるわけにはいかない。

スタッフは告別式にだけ参加させることにした。

だから、今日の通夜にリカの姿はない。

身内として私の隣についていた真由美によれば、リカは看護学校時代にいじめられていたそうだ。

そして、リカをいじめていた同期の学生たちは看護学校の火災事故でそのほとんどが亡くなっている。

……リカだ。リカの報復に違いない。

一秒でも早くリカを辞めさせなければ、きっと大変なことになる。

叔父が亡くなったことで、花山病院のトップは私に引き継がれる。

告別式が終わり、落ち着いたら、リカを病院から排除しなければ……!

回想

今にして思えば、鉗子を患者の体内に入れたのはリカだったのだ。

リカは手術後に患者の縫合を解き、鉗子を入れ、再び縫合した。

捏造された医療事故によって、私はまんまと罠にはまってしまった。

そうして私の弱みを握ると、リカは邪魔者の排除を開始した。

小山内婦長は、リカによって階段から突き落とされたのだ。

患者への嫌がらせも看護婦の家が放火されたのも、すべてリカによるものだったと今なら断言できる。

そして、リカはついに叔父まで手にかけた。

証拠はない。だが、絶対だ。

つまり、リカが排除しようとしていたのは、すべて私と近しい関係にある者、あるいは私に好意を持っている者だった。

『好意を持っている者』の中には、ただ親しげに私と会話しただけの女性も含まれている。

家が放火された森田看護師は、もともとボディタッチが多い人だった。

リカの行動の原動力は嫉妬だ。

ただ私が誰かと話しているだけで許せない。

だから、手を下した。

こんなこと、警察に行っても信じてもらえるはずがない。

リカの手口は実に巧妙で、証拠と呼べるものも残っていない。

せめて、これ以上の犠牲者だけは出さないようにしなくては……!

悪魔

病院からの着信に出る。

「藤鐘さんが自殺しました。4階の特別個室で首を吊って」

一瞬で頭が真っ白になった。

藤鐘さんは小山内婦長のあとを継いだ新しい婦長だ。

竹を割ったような性格で、リカのことを打ち明けた時も「私からガツンと言ってやりますよ」と頼もしい口ぶりだった。

断言できるが、とても自分で首をくくるような人ではない。

……遅かったのだ。

現場に駆けつけてゾッとした。

遺書があるのだ。

そこには『尊敬する前院長の死にショックを受けたので自殺する』と書かれてある。

遺体が見つかったのは叔父が過ごしていた特別個室。

遺体に争った痕跡はなく、警察は遺書の内容に疑問を抱いていない。

そう、その現場には不自然な点がなかった。

警察のような事情を知らぬ第三者は、リカの犯行に気づくことさえできない。

悪魔のように巧妙な手口だった。

いや、手口だけじゃない。

こんなことを平然とやってのける、あの女こそが悪魔なのだ。

偽装自殺だと訴えるか?

いや、警察は聞いちゃくれない。

胡散臭そうな目で見られるのがオチだ。

悔しさに顔を歪ませていると、藤鐘を慕っていた倉田看護婦が個室に駆け込んできた。

その目が遺体を捉えた瞬間、倉田は悲鳴を上げた。

「藤鐘さんが自殺するなんてありえません! 雨宮さんです! 雨宮さんが殺したんです!」

泣き崩れる彼女を、刑事が戸惑った顔でちらりと見る。

「その……雨宮という人は仏さんと仲が悪かったので?」

私は首を横に振った。

リカと藤鐘は科も違うし、表面上は何の接点もない。

警察が考えるようなわかりやすい『動機』など、何一つ存在していないのだ。

後日、警察から司法解剖の結果が届いた。

結果は『自殺』だった。

司法解剖だって、人間のやることだ。

先入観によって結果が左右されることもあるのだろう。

倉田看護婦が車にはねられた。

まるで故意に倉田を狙ったかのような、どこか不自然なひき逃げ事故。

幸い全治二か月の単純骨折だったが、倉田の様子は明らかに異常だった。

何か恐ろしいものでも見たかのように、ぶるぶると震えて怯えている。

「あたし、病院を辞めます。だから今すぐ退院させてください。ここにいたくないんです」

5日後、倉田は本当に退職届を残して退院してしまった。

……また、リカなのか。

倉田が特別個室で絶叫した告発の報復ということなのか。

今後、倉田はリカの影に怯えながら生きていかなければならない。

生きている限り、ずっと。

その恐怖は誰にも想像できない。

次の標的

電話が鳴った。

リカだよ、と明るい声がした。

「何をしてる? 今どこだ?」

「気になる? ホント、男の人ってそういうとこあるよね。束縛したい、みたいな?」

話が噛み合わない。

リカはこちらの質問をすべて無視して一方的に話し続けた。

「実はね、さっき退職届を送ったところなの。いろいろ考えたけど、やっぱりその方がいいと思って」

「何?」

「身辺整理ってとこかな。リカは少し古いのかもしれないけど、結婚したら女性は家庭に入るべきだって思うから。その方が、あなただって安心して働けるでしょ?」

いったい、この女は何を言っている?

頭痛と耳鳴りがどんどん酷くなっていく。

よく聞け、と私は携帯電話を持ち直した。

「僕は君と結婚するつもりなんて、これっぽっちもない。君はどうかしている。大きな病院で精密検査を受けるべきだ」

心配してくれるんだね、とリカが鼻をすする音がした。

「ありがとう、そういう優しいところ、大好き……!」

何を言っても、この女は自分に都合のいい話にすり替える。

徒労感だけが増していく。

「ねえ、あの女とまだ会ってるの?」

まるでスイッチが切り替わったように、低い声でリカが言った。

「あの女?」

「嫌な感じ。女狐っていうの? それとも泥棒猫? 最悪、最低。あんな女のどこがいいの?」

誰のことを言っている?

まさか……真由美のことか?

「そりゃ、ちょっときれいかもしれないけど、育ちが悪いのは見ればわかる。昌史さん、気をつけて。騙されないで。大丈夫、リカが守ってあげるからね。それがリカの務めだからリカの使命だからリカはそれが運命だったの

私が何を言っても、無駄だった。

リカの耳には届かない。

「上品ぶって、あんな取り澄ました様子で、お葬式の時もちゃっかりあなたの隣に座って……本当に腹が立つイライラするすごくすごくすごく――

いきなり通話が切れた。

すぐかけなおしたが、呼び出し音が鳴り続けるだけだった。

どす黒い不安が私の胸を覆う。

まさか……まさか真由美に危害を加えるつもりなのか!?

嵐の前の静けさ

胸を覆った悪い予感が嘘だったかのように、平和な日々が続いている。

数日前に退職届が届いたこと以外、リカからの接触はない。

次に狙われるとしたら真由美だが、彼女には万全の警戒態勢を続けてもらっている。

さすがのリカといえども、警戒している相手を出し抜くのは容易ではないはずだ。

悪夢から覚めたかのような平和な日常が戻ってきつつある。

……そう、思っていた。

結末

真由美の首が、そこにあった。

完成したばかりの美容整形外科病棟。

高圧蒸気滅菌機の中に、真由美の首が収められている。

顔の表皮がきれに剥がされていて、まるで人体模型の標本のようだ。

それでも、顔の輪郭やイヤリング、髪形などから真由美であることがわかる。

私を呼び出した柏手先生が「わたしではありません」とガタガタ震えながら言った。

「真由美さんは……院長の婚約者は、わたしが見たとき、もう……あの女がやったんです」

心が麻痺しているのか、涙さえ出なかった。

だが、真由美が殺されたことだけはわかった。

「……わたしの妻と娘は、あの女にさらわれました」

柏手先生は家族を人質にとられ、リカの命令に従うことを誓ったのだという。

「あの女は自分の顔を変えてほしいと言ったんです。わたしに選択肢はありませんでした」

柏手先生の顔色は血の気が引いて異常なまでに青白い。

「わたしは……あの女が写真を持ってくると思っていたんです。タレントか女優か、そういう写真です。でも、違いました。あの女が持ってきたのは、真由美さんの顔そのものだったんです

「顔……そのもの?」

柏手先生が床を指さした。

茶色いボストンバッグが転がっていた。

「あの女は、そのバッグに真由美さんの頭部を入れて、ここへ持ってきました。目を見開いたままの真由美さんの顔は……私には正視できませんでした」

この顔にしてほしいの。

こういう顔になりたいの。

だって、昌史さんはこういう顔が好きだから。

あの女は歌うようにそういったんです、と柏木先生が両手で自分の顔をかきむしった。

「わたしには、他にどうしようもなかった。従わなければ、あの女はわたしの妻と娘を殺すとわかったからです」

「真由美の顔の皮膚を切り取ったのはリカですか?」

器用なメスさばきでした、と虚ろな声で柏木先生が言った。

リカは今どこに、と言いかけた私の口が閉じた。

奥にある二代目の手術台の床から、黒い影が近づいていた。

顔中に包帯を巻いた背の高い女。

顔の9割が包帯で覆われていたが、左目の部分だけが開いている。

やっと来てくれた、とリカが美しい声で言った。

「もう、いつも待たせるんだから。リカ、こんな服で会いたくなかった。ちゃんとデート用の服だってあるのに……でも、来てくれたからいいか。許してあげる」

いったいどうなっている?

リカは大がかりな美容整形手術を終えたばかりだ。

体を起こすだけでも激痛が襲うはずなのに、リカは立ち、歩き、話し、笑っている。

この女は痛みを感じないのか?

「リカね、きれいになったの」

得意そうにリカが言った。

私はそれを無視して、滅菌機を指さす。

「真由美が何をした? どうして、あんな惨いことを……」

人の男に色目使うなんて、女として最低最悪、リカが包帯の隙間から真っ赤な唾を吐いた。

「人の男を盗る女はみんな死ねばいいんだ。そうでしょう? リカ間違ってないリカはいつだって正しい」

私の中で膨れ上がっていた怒りが、その瞬間爆発した。

リカに飛びつき、その場にねじ伏せる。

携帯電話を、と私は叫んだ。

「柏手先生、警察に電話してください! この女は異常だ! 放っておいたら何をするかわからない。早く通報するんです」

すさまじい声で叫んだリカが激しく身をよじった。

私は右手をその顔に突き立てた。

ぶよぶよした肉の感触。

腐臭と血の臭いがあたりに充満した。

解けた包帯の隙間から、生々しい真っ赤な肉の色が見えた。

「柏手先生、早く!」

背中に鈍い衝撃が走った。

全身の力が抜けていく。

振り向くと、手術用のメスを握っている柏手先生がそこにいた。

メスの先が赤く光っている。

背中に手を当てた。

血にまみれた手を見つめていると、急に視界が変わった。

私は倒れていた。

柏手先生が刺したのは私の肺だった。

出血がひどい。

きっと数分も保たないだろう。

「お願いしますお願いします教えてください! 妻は、娘はどこに? 警察に通報したりなんかしません。わたしはあなたを守ったんですよ。だから教えてください」

土下座を繰り返す柏手先生の喉を、リカがメスで切り裂いた。

「馬鹿医者! 昌史さんになんてことをするの!」

喉を押さえたまま床に膝をついた柏手先生の右目に、リカがメスを突き立てた。

何の音もしなかった。

「昌史さん、しっかりして!」

駆け寄ったリカが私を抱きしめた。

リカの鼻から下を覆っていた包帯が、解けて床に落ちた。

そこにあったのは異様に腫れあがった肉塊だった。

「お願い、リカを見て!」

リカが私に頬ずりする。

「きれいになったねって言って。お願い、リカをひとりにしないで。こんなに愛してるのに!」

指一本動かせなかった。

暗渠のような真っ黒な眼窩に、光はなかった。

意識が遠のいていく。

どうして、私はあの日、看護婦の新規採用を決めたのか。

あの日でなくてもよかった。

前日でも、一週間後でも構わなかった。

看護婦募集の貼り紙など、する必要さえなかった。

あの日、あの時、看護婦を新たに採用すると決めた瞬間から、すべてはこうなる運命だったのか。

ほんのわずかなタイミング、ほんのわずかな不運。

そのためにこんなことになった。

(なぜ)

最期に頭に浮かんだのは、その二文字だった。

それきり、すべてが闇になった。

エピローグ

つまらないつまらないつまらない。

リカは昌史さんを愛していた。

誰よりも誰よりも誰よりも。

もちろん昌史さんも私のことを愛していた。

誰よりも誰よりも誰よりも。

でも、昌史さんは死んでしまった。

あの馬鹿医者が余計なことをしたからだ。

あの女の頭や、あの馬鹿医者の死体を片付けるのは面倒だった。

特に馬鹿医者の体は重くて、切り刻んで運び出すしかなかった。

車に積んで、いつもの山に捨ててきた。

あの女の胴体も、馬鹿医者の妻も娘も一緒だから、寂しくないよね。

でも、昌史さんはリカのそばにいてほしかった。

だから、一緒に帰った。

バラバラにした手足や胴体は海に捨てて、頭だけを持ち帰った。

わかってる。

昌史さんは死んでしまった。

でも、忘れることはできない。

あんなに愛し合い、分かり合えた人はいなかったから。

返事がなくてもリカの方から話しかけることはできる。

今はそれでいい。

いつかまた、恋をすることがあったら、その人にはリカより長生きしてほしいな。

もし目も鼻も手足もなくても、生きていてくれたらそれでいい。

だって抱きしめることはできる。

温かさを感じることも。

リカはそれだけで幸せ。

ああ、昌史さん、ゴメンね。

今はあなたと話さなきゃダメだよね。

結婚のこととか子供のこととか将来の夢とか何でも話そうねだってリカは昌史さんのこと愛しているからリカのこと好きだよねリカも大好き――

ずっと、一緒にいたいな。

<完>

※物語はシリーズ第一作『リカ』へと続きます。ラストのエグさは『リハーサル』以上!

小説「リカ」あらすじネタバレ!結末がガチで怖すぎる!【ドラマ化】小説「リカ」を読みました。これ、めっっっさ怖いです……!ホラー小説とかイヤミスとか全然平気で読めるのに、この「リカ」には...
ぱんだ
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まとめ

今回は五十嵐貴久『リハーサル』のあらすじネタバレをお届けました!

では、最後にまとめです。

3行まとめ
  • 主要登場人物のほとんどがリカの犠牲者になる(ほぼ全滅)
  • 映像を想像するとエグすぎる結末
  • 一作目「リカ」につながるエピローグにも鳥肌

今回もラストの怖さが尋常じゃありませんでした。

まだ「くるぞくるぞ……」と身構えていたから耐えられましたが、ドラマでいきなりこの結末を見せられたら、トラウマになりかねないレベルだと思います。

……というか、ラストのシーンって実写化できる気がしないんですが、どうなるんでしょうね?

ドラマ化情報

小説『リカ』&『リハーサル』が実写ドラマ化!

気になるキャストはこんな感じです。

  • 高岡早紀さん(雨宮リカ役)
  • 小池徹平さん(大矢昌史役)
  • 大谷亮平さん(本間隆雄役)

今回のドラマ化はちょっとおもしろくて、

  • シリーズ最新作(四作目)「リハーサル」が第一部(時系列的には「リカ」の前日譚)
  • シリーズ第一作の「リカ」が第二部

という特殊な構成になっています。

第二部の主人公は出会い系に手を出しちゃった平凡なサラリーマンの本間隆雄。

彼は大矢医師以上に惨たらしい最期を迎えることになります。

※ヒント:『リハーサル』のエピローグでリカはなんと言っていたでしょう? 答えはネタバレ記事でチェック!

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1シーズンで「リカ」と「リハーサル」、どちらも楽しめる今回のドラマ化はまさに『一粒で二度おいしい』って感じですね(笑)

ドラマ「リカ」放送日時
  • 2019年10月5日(土)スタート
  • 毎週土曜日23:40~
  • 東海テレビ・フジテレビ系全国ネット

小説のなかでもはっきりとした素性が明らかにならなかったリカは自称28歳。

ただし、小説には『50歳のようにも見える』という記述がありました。

で、そんなリカを演じるのが高岡早紀さん(46歳)なわけで……なかなか原作に忠実な気がしますね。

「う~ん、他の人でもそうだけど、リカを演じるにしてはちょっと健康的すぎない?」と最初は思ったのですが、もしかしたら予想を超えるクオリティの《リカ》が見られるのかも……!?

原作がおもしろかっただけに、ドラマにも期待です!

ぱんだ
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またね!

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