切ない・泣ける

小説『余命10年』あらすじネタバレと感想|圧倒的な現実の重み【映画原作】

小坂流加『余命10年』を読みました。

正直、号泣したりはしませんでした。

なぜなら、この作品は「死」を涙を誘うための装置として描いていないからです。

「死ぬって、ドラマティックなことじゃないんだよ」

『余命10年』は(言い方はアレですが)お涙ちょうだいと言わんばかりのご都合悲劇とはきっぱりと一線を画します。

わたしはこの作品で描かれる「死」や「命」に本物の重みを感じました。

ぼろぼろと涙をこぼしたりはしませんでしたが、時に胸を打たれ、時に考えさせられる、素晴らしい小説でした。

今回はそんな小説『余命10年』のあらすじがよくわかるネタバレ(と感想)をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
ごゆっくりどうぞ

あらすじ

20歳の茉莉(まつり)は、数万人に一人という不治の病にたおれ、余命が10年であることを知る。

笑顔でいなければ、周りが追いつめられる。

何かをはじめても志半ばで諦めなくてはならない。

未来に対する諦めから、死への恐怖は薄れ、淡々とした日々を過ごしていく。

そして、何となくはじめた趣味に情熱を注ぎ、恋はしないと心に決める茉莉だったが……。

衝撃のタイトル。衝撃の結末。

涙よりせつないラブストーリー。

(文庫裏表紙のあらすじより)

奇跡は起こらない

高林茉莉(まつり)が余命10年と宣告されたのは、彼女がまだ20歳の頃でした。

そして、医師の見立て通り、茉莉は30歳で亡くなります。

奇跡は起こりません。

最期はベッドから身体を起こすこともできなくなって、もちろんトイレだって一人ではできなくなって、あばら骨が浮き出るほど痩せ細り、救いのない孤独のなか息絶えました。

フィクションに許された美化は、そこには一切ありません。

「これが現実だ」という息が詰まるほどの重苦しさが、ひしひしと伝わってきました。

ぱんだ
ぱんだ
……

話を20歳の頃の茉莉に戻しましょう。

10年間という猶予期間を与えられた茉莉は、ある方針を打ち出します。

それは「恋をしない」というものです。

大切な人ができれば、どうしても生きたいと願ってしまうに違いありません。

誰かを愛するということは、死ぬのが怖くなるということです。

なにもかも諦めてしまえば、生に執着するような未練を残さなければ、最後の時間を心穏やかに過ごせると茉莉は理解していました。

しかし、茉莉は《彼》に出会ってしまいます。

小学校の同窓会で《彼》と再会したとき、茉莉はもう25歳になっていました。

<すぐ下のネタバレにつづく>

ネタバレ

「恋をしない」と誓った茉莉ですが、やがて運命の《彼》と出会います。

彼の名前は真部和人(まなべかずと)

由緒ある茶道の家元の息子です。

「僕は茉莉ちゃんが好きだったんだよ」

にっこりと優しく微笑みながら、和人は「茉莉ちゃんが初恋の人だった」といいます。

そして、同窓会で再会した茉莉をまた好きになった、とも。

【誰かを好きになったりしない】

そう思いながらも、茉莉はすべり落ちるように和人に惹かれていきました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

楽しかった一日の終わりに、どうしてわたしは泣くんだろう。

楽しんだ者勝ちの人生のはずなのに、カズくんといると楽しい後は必ずつらい。楽しい分だけつらい。

つらいのに、もう会いたい。

恋愛感情なんて、一番最初に殺したはずだったのに。

どうかわたしに、死にたくないと思わせないで。

告白

茉莉26歳の冬。

和人に誘われてスノーボードに行った帰り道、二人は吹雪で足止めを食らってしまいます。

今夜は車中泊になる……。

二人きりで夜を過ごすと意識した瞬間、和人の顔が近づいてきました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

和人が突然助手席側の窓に手をついて体ごと顔を寄せてきた。

衝撃に備えるように反射的に目を強くつむってしまう。

体中の血液が一瞬で熱せられたように、体は上気し心拍数も上昇する。

「しないよ、何も」

「え……」

「しない。ちゃんと茉莉ちゃんの気持ち聞くまで」

そっと鼻先だけ合わせると、和人はすぐに離れていく。

茉莉が恐る恐るまぶたを開くと、和人は運転席からお得意の愛嬌のある顔で笑っていた。

「オトナがキスくらいで騒がないの」

「わたしは好きな人じゃなきゃしないの!」

「俺のこと嫌い?」

茉莉は口をつぐむ。和人のその目は、本気というより、くぅんと鳴く子犬のようだった。

「その顔は反則!」

和人のおでこを指で弾く。

「いってーよ、茉莉ちゃん!」

「痛くしたんだもん」

車内に笑い声が響いた。

 

あらがってもあらがっても抜け出せない。

和人を想う気持ちは、体内に根付いて、どう足掻いても抵抗できないほど育ってしまった。

好きだった、彼が。

どうしようもないほどに。諦めることを諦めてしまうほどに。

「何がおかしいの?」

「ん? 好きだなって思って」

「え?」

「あなたを好きだなって思って」

交わる視線の先の和人が面食らったようにきょとんとし、やがて困惑と衝撃と驚きと喜びと興奮を全部シャッフルしたみたいな顔を突き出して叫ぶように聞いてきた。

「俺のこと好き!?」

「うん」

「マジで? こういう冗談だけは許さないよ?」

「冗談でキスもできないんだから、冗談で告白もしない」

「俺も好き。茉莉ちゃんのこと好きだよ」

「小学生のじゃなくて?」

「今、ここにいる君」

和人が恐る恐る手を伸ばしてくる。

綺麗な指先が茉莉の髪を抱いて首筋を引き寄せる。導かれるままに茉莉は彼の胸に頬を寄せた。

やがて2つの席がもどかしかったのか、和人は助手席に乗り込んできて茉莉を膝に抱き上げた。

久しぶりに抱かれた他人の腕の中は、瑞々しい心地よさに溢れていた。

和人は華奢だけど力強くて、首筋を思い切り吸い込むとその匂いに全身が安らぎで満たされた。

ここまでは微笑ましくて幸せな流れですが……

プロポーズ

「茉莉、俺と結婚しよう」

場所は立派なお屋敷(というか和人の実家)お庭。

着物に袖を通した艶やかな姿で、和人は茉莉にプロポーズしました。

恋人としての日々を過ごして、体も心も結ばれて、本当なら茉莉にとって一生忘れられない瞬間になっていたはずです。

しかし、茉莉はその申し出を断ります。

茉莉はずっと和人に嘘をついていました。

病気のことも、余命のことも、ずっと隠し続けてきました。

でも、それも今日で終わりです。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「病気、完治しないの」

茉莉はまっすぐに言った。

「もう、治らないの。だからわたしにカズくんと同じものは背負えない。そんな力、わたしにはない」

「治らないって……え? 治らない病気って……」

「死ぬのよ」

「―――」

和人の表情が一変した。親を見失った迷子が、唐突に自分は迷子だとはっきりと意識したように、和人は目を見開いた。

「死ぬ?」

「そう、死ぬの。わたし死ぬの」

「な、なんで」

「病気が治らなくて」

立ち上がった和人を見上げて、抑揚のない声で茉莉が答える。和人は困惑を露にした。

「治らないって……薬とかは! 入院して、ちゃんと治療して! そうすれば……っ」

「そうしたよ。そうして、でも治らなかったの。今、世界中に、わたしの病気を治す薬はないの。だから死ぬの」

(中略)

「やだよ……俺もう決めたんだ。茉莉をお嫁さんにするって、決めたからダメだよ」

「ごめんね。もう無理なの。指輪、返すね。これもありがとう。嬉しかったよ」

そっと腰掛の上にシルバーの指輪を置くと、茉莉は和人の手を少しずつ引き離して立ち上がった。

絶対に泣いたらだめだと、痛いくらい唇を嚙んだ。

全身が砕けてしまいそうな痛みだった。

和人に背を向けると、小さく一度だけ震えた。

「茉莉……どうして自分が死ぬこと知ってるの……」

「余命10年て言われてるの。それからもう7年経った。だからあと3年」

「3年後に死ぬの?」

「そうよ」

「……なんで、茉莉なんだよ」

答えられなかった。けれどその言葉を和人が言ってくれたことに、茉莉は救われた思いがした。

振り返らずに「さよなら」を告げると、放心している和人を残して茉莉は庭を出る。

大きな門の下を足早に抜けて、屋敷に背を向けて歩いた。

 

(ここから茉莉の日記)

死ぬことだけが安息だったわたしをあなたが生きさせてくれた。

だからわたしは死ぬことが怖くなったの。

死んでしまうことが怖い。

だからこそわたしは、自分が今生きていることを実感できたんだよ。

和人――ありがとう。

ふたりの答え

突然のお別れから一週間後、和人が茉莉を訪ねてきます。

茉莉の両親から病気のことを聞いて、病院にも行って、和人は茉莉の言葉が本当だと確かめていました。

「奇跡はどうやら起きないみたいだな」

茉莉のタイムリミットまで、あと3年。

和人は歴史ある茶道の家の、次期家元です。

期待に圧し潰されて一度は茶道から逃げ出してしまった和人が、茉莉から勇気をもらってようやくつかみ取った立場です。

簡単に投げ出すわけにはいきません。

家のこと、茉莉のこと。

この一週間、和人はずっと考えて考えて考えて……そして答えを出しました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「結婚しよ。3年でいい。茉莉の最後の時間を俺にくれないか? 3年間、大切にする。君のことだけを考えて生きる。だから俺と、結婚しよう」

目の縁に集まってきた涙をこぼしてしまう。

和人が手を伸ばしてくるのを見て、慌てて拭うと、茉莉は首を振った。

「だめ。あげない」

「どうして? ひとりよりふたりの方が」

「死ぬときはひとりよ。だからいや。カズくんに看取ってもらう人生のエンディングなんて、絶対にいや」

「俺じゃ頼りにならない?」

和人が顔をしかめると、茉莉は涙を拭き意志の強い視線で見上げた。

「カズくんの人生は、あと3年で終わらないの。何年も何十年も続いていくんだよ。誰かを愛して子供を作って、いろんな夢を見て生きて欲しい」

「俺はそれを茉莉としたいんだ。茉莉以外考えられないんだ」

「わたしはもう子供が産めないもの。これからどんどん病気も悪くなってく。死ぬって、ドラマティックなことじゃないんだよ。いなくなるの。カズくんがつらくても、抱きしめることもできないの。永遠に消えるの。死ぬってそういうことだよ? わかる?」

和人の片頬に触れながら、茉莉は怒ったように悲しそうにじっと彼を見据えた。

「それにわたしは、カズくんといたら死ぬことが怖くなる。死にたくないって、そのことばかり怯えて3年暮らすことになる。そんなのまっぴらよ。あなたのせいで死にたくないなんていう人生は欲しくない。だから、もう別れるんだよ、わたしたち」

(中略)

「……俺は子供だの夢だのが欲しいわけじゃない。おまえが欲しいんだよ」

「……無理」

「寂しくないのか? 茉莉は俺と離れて寂しくない? 俺は寂しくておかしくなりそうだよ。家のこと全部捨てちまってもいいって本気で思った。茉莉がいないなら全部意味ないって」

和人の投げやりな発言に、茉莉は勢いよく顔を上げた。

両方の手で和人の頬を強く叩いて、そのまま包み込んだ。

その瞬間、茉莉はああそうかと気づいた。

和人を【生かす】こと。それが和人と出会った意味だ。

自分ばかりが和人に生かされたのではなく、自分もまた和人を生かすためにいたのだ。

「ちゃんと生きて! 和人はちゃんと生きてっ! 自分で決めたこと投げ出さないって、逃げないって約束したでしょ。わたしのために全部捨てて、わたしが嬉しいと思う? そんなあなたを好きでいると思う? バカじゃないのッ!」

「茉莉……」

包み込んだ両手でまたパチンと叩く。そうして交わした視線は、ふたり同じ色をしていた。

喜びも悲しみも、愛する想いも、すべて伝わり合えた。

出逢ってからはじめて溶け合えた気がした。

 

「茉莉は、俺と出会ってよかった……? バカな俺と貴重な時間に出逢って、よかった?」

「よかった……巡り合えただけで幸せよ。一緒にいてくれてありがとう」

「……そっか。……君にとって意味のあることならよかったよ」

和人の指先が茉莉の耳をなぞる。頬を撫でて唇に触れると、そっと顔を近づけてふたりは最後のキスをした。

「わたしのこと、ちゃんと諦めてね。それで新しい人を好きになって……いい?」

「……ああ、茉莉の願いなら聞くよ。約束する」

「ごめんね。先に死んじゃってごめんね。弱い命でごめんね……でも、生涯最後に愛した人が、カズくんでよかった……」

「俺は君が、生涯最初に好きになった人だよ」

「ありがとう……」

「生まれ変わったらって、言ってもいい?」

「……また……中学生みたいなこと言う……」

和人は洟(はな)をすすって笑った。茉莉はしっかりと和人を抱きしめて言う。

「次は絶対強い命で生まれてくるね」

「ああ、待ってるよ」

抱き合って、ふたりはしばらく目を閉じた。互いの鼓動が胸に響く。生きていることがただ幸せだった。そしていつかの日を一緒に夢見る。

生きていながら同時に、ふたりは死を共有していた。

茉莉はもう思い残すことは何もなかった。

ありがとうもごめんねも好きですも、全部伝えられた。

死ぬことも、生きることも、もう怖くなかった。

ゆっくり離れると、もう一度視線を交わす。

茉莉は優しく微笑んでみせた。

和人は無邪気な笑みをこぼした。

ふたりはゆっくり背を向けて、銀杏並木を左右に別れる。

サクサクという音が重なって、次第にずれて、やがて遠のいていった。

それが和人を見た最後だった。

それが茉莉を見た最後だった。

結末

残された3年間では、特筆すべきことは何も起こりません。

淡々と残酷に、茉莉はひとつひとつ「当たり前」を手のひらからこぼしていきます。

病状が悪化して入院し、実家での生活を失いました。

歩くことができなくなり、やがてベッドから身を起こすこともできなくなります。

大好きだった漫画を描くことも、コスプレ衣装をつくることも、もうできません。

思えば、失いつづけてばかりの10年間でした。

将来を夢見る力を捨てた。

仕事への憧れを捨てた。

人と同じ生き方を捨てた。

子供を作る希望を捨てた。

結婚を捨てた。

恋を捨てた。

友人を捨てた。

愛する人を捨てた。

和人と別れたことに後悔はありません。

痩せて枯れ枝のようになった手首、落ちくぼんだ目、餓鬼のように膨らんだ腹。

化粧をする体力も気力もとうに失っています。

女であることをやめた今の姿を和人に見られなくてよかった、と茉莉は安堵します。

 

病室での日々は、決して心安らかなものではありませんでした。

達観しているようにみえる茉莉ですが、人間はそんなに強くなれません。

健康な人々に嫉妬して、自己嫌悪に陥る日々。

大好きだった自慢の姉にさえ、茉莉は心無い言葉をぶつけてしまいます。

全部捨てる道を選んだことに、後悔はありません。

けれど、どれだけ捨てても、手放しても、静かな気持ちで最期を迎えるなんてできっこないのです。

生きたいという欲求はこんこんと心の奥底から湧いてきます。

なんで自分だけが、と理不尽な運命に悔し涙が流れます。

 

茉莉の死は、詳細には描かれていませんでした。

これまでの描写から想像すると、咳が止まらなくなって呼吸困難になり、苦しんで苦しんで息絶えたのでしょう。

そのとき家族が見守っていたのか、それとも孤独に亡くなったのか、それもわかりません。

小説では最後に、死を目前に控えた茉莉の心情が描かれていました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

やっぱり、寂しいよ。

すごくすごく寂しいよ。ひとりぼっちはやっぱり寂しいよ。

手を握っていてほしい夜はあるし、抱きしめてほしい心細さだらけだし、しあわせだけに包まれて死ぬことができたらどんなにいいだろうと思うよ。

死ぬことだって本当はいやだよ。

逃げられるものなら逃げたいよ。

もう一度外を歩きたい。空の下を軽やかに自由にこの2本の足で気の向くままに無敵の自分で季節の息吹を思いきり吸い込みたいよ。

桜の花びらを追いかけて、新緑の木漏れ日を見上げて、落ち葉のじゅうたんをさくさく言わせながら、純白の雪を両手で受け止めたい。

その隣に和人がいたら、あの笑顔があったなら他のどんなしあわせも敵わない――。

 

「会いたいよ……、会いたいよ、和人……」

次のシーンは茉莉のお葬式。

小説において、茉莉の最期の瞬間は描かれていませんでした。

生きる

※以下、小説より一部抜粋。

和人はゆっくりと手を伸ばして茉莉の頬に触れる。

もう知っている感触ではなかったけれど、やっとたどり着けたことが単純に嬉しかった。

「茉莉……茉莉ちゃん……」

小さな声がこぼれる。茉莉は今にも目を覚ましそうだ。

「……頑張ったね。俺も頑張ったよ。この秋の茶会から出られるようになった。親父がね、次期家元として認めてくれたんだ。これからももっと頑張るよ。もっと……生きてる限りね……。君を引き止める言葉を3年間ずっと考えてた。時間はどんどんなくなっていくのに、俺は全然諦められなくて……諦めるって約束だったのにね……。3年考えたけど、結局浮かばなかった。でもいつかさ、俺も死ぬ頃になったらわかると思うんだ。君に本当は何をいえばよかったのか……わかるような生き方をするよ……」

頬を撫でて耳に触れて、髪をすいた。

純白のドレスの胸元にある動かない手を取ると、涙があふれ出た。

茉莉の手を両手で包み込む。

頬を流れる涙は湯のように熱いのに、彼女の手は固く冷たかった。

「巡り合えてよかった……それだけで幸せだったよ……ありがとう茉莉……。俺、茶会に出たら見合いするんだ……。きっとその人と結婚するよ。そうしたら少しは安心してくれる? 偉い偉いってさ……また、あん時みたいに……」

 

「……さよなら、茉莉」

そっと茉莉の手を離すと、和人は口付けをした。

茉莉の頬に和人の涙がこぼれ落ちる。

さよならと茉莉が言った気がした。

エピローグ

茉莉が旅立ってから8年後。

和人は思い出の小学校へと足を運んでいました。

図画工作室の奥の棚、積まれたベニヤ板をどけると、そこには彫刻刀で彫られた相合傘がまだ残っていました。

  • 真部和人
  • 高林茉莉

そこにいる茉莉に、和人は話しかけます。

「茉莉。俺、あの後結局結婚しなかったんだ……。でも、最後の約束、やっと叶えられる時がきたんだよ……」

和人はもうすぐ結婚します。

愛していると心から思える人を、やっと見つけることができたから。

小学校に来たのは、思い出を捨てるためでした。

校舎を出ると、和人は真っすぐに焼却炉へと向かいます。

焼却炉の扉を開けた和人は、いつか茉莉に渡した、そして返された、ティファニーのペアリングを投げ入れました。

和人は歩み出す。彼の生きる道を。

※以下、小説より一部抜粋

…………

小学校にはひとつの伝説がある。

図画工作室の棚の一番奥。卒業制作の版画で使うベニヤ板を取り除くと、それは真実に変わる。

今日も想い人を抱えた少女が放課後のチャイムと共にやってくる。

積まれたベニヤ板をどかすと、伝説は本当だったと感嘆の声を上げた。

少女は慣れない手つきで、自分と、想い人の名前を彫る。

そうして彫り終えた名前を見下ろして、少女は満足げに笑った。

混み合った愛の中心に、ふたりがいた。

 

そこにいつも、ふたりは寄り添っている。

――そこにいつも、ふたりは寄り添っている――

<おわり>

ぱんだ
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感想

『余命10年』を読んでいる間、わたしの頭にはひとつの格言が浮かんでいました。

「君がなんとなく生きた今日は、昨日死んでいった人たちががどうしても生きたかった大切な明日だ」

茉莉は「どう死ぬか」を考えます。

死が怖くならないようにと、愛する人と別れさえしました。

そんな茉莉をとおしてわたしが考えさせられたのは「どう生きるか」ということです。

  • 恋をする
  • 友達と遊ぶ
  • 趣味に熱中する
  • 夢のために努力する

茉莉がひとつずつ手のひらからこぼしていったそれらが、わたしの手のなかにはまだあります。

「生きる」という行為は、たぶん心臓が動いていて健康であればいいというわけではないのでしょう。

茉莉が生きたかった明日を生きていると思うと「わたしはなんて日々を無為にすごしてしまっているのだろう」と息が詰まりそうになります。

10年後に死ぬわけじゃなくても、「いちばん若い自分」は日々刻々と失われていきます。

漫然と生きていい日なんか、本当なら一日だってないはずなんですよね……。

「ちゃんと生きたい。ちゃんと生きなきゃ」

『余命10年』を読み終わったあとに残ったのは、悲しいでも切ないでもなくて「茉莉が生きたかった今日をちゃんと生きよう」という気持ちでした。

和人がそうだったように、なんだか茉莉に背中を押されたような気がします。

メメント・モリ(自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな)

重みが違う

正直に告白すると、わたしは著者である小坂流加さんの事情抜きで物語を読むことができませんでした。

小坂流加さんは2017年に逝去されています。

  • 余命宣告を受けていたこと
  • 1つの作品を世に出したこと

もちろん「茉莉=小坂流加さん」ではないのですが、それでも茉莉の心情描写のいくらかはノンフィクションなのではないかと想像してしまいます。

先入観と言われればそれまでです。

しかし、それでもわたしは『余命10年』には他の「病気モノ」とは一線を画す切実さが宿っていると思います。

胸をえぐるように痛くて、心が砕けるほど寂しくて、涙が出るくらい悩んで。

茉莉には物語の登場人物以上の存在感が確かにありました。

茉莉が和人と別れたとき、茉莉のお葬式のとき、わたしの心が激しく揺れ動いたのは彼女という存在に現実の重みがともなっていたからに他なりません。

数多ある物語のなかには「読者を泣かせてやろう」という魂胆が透けて見えるような恋愛小説もあります。

一方で『余命10年』はそれらとはまったく別モノの《重み》のある作品なのだと、これから本書を読む人に向けてのメッセージを残したいと思います。

 

 

まとめ

今回は小坂流加『余命10年』のあらすじネタバレ(と感想)をお届けしました。

茉莉と和人が本当にお別れしてしまったシーン。

場面が切り替わるともう茉莉のお葬式になっていたシーン。

残された和人が新しい一歩を踏み出すラストシーン。

印象的な場面の多い物語でした。

あなたは『余命10年』を読んで何を思いましたか?

どのシーンが好きでしたか?

「わたしも読んだよ!」という人はコメントで教えてくれると嬉しいです。

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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