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『となりのナースエイド』あらすじネタバレ解説|知念実希人【ドラマ原作小説】

知念実希人『となりのナースエイド』を読みました!

ナースエイドとは看護助手のことを指します。そのお仕事はこんな感じ↓

「ベッドメイキングとか配膳、食事の介助、あとは患者さんの移動とか、看護師の手伝いをする仕事で(略」

重要なポイントとして、ナースエイドは医療行為をする資格がありません。

一方で、医師や看護師よりも患者と接する機会の多いナースエイドは、患者の心に寄り添うという大切な役割を担う存在でもあります。

今作の主人公は新人ナースエイドの桜庭澪。彼女には衝撃的な過去があり、そして驚くべき秘密がありました。

今回は小説『となりのナースエイド』のあらすじがよくわかるネタバレ解説をお届けします。

ぱんだ
ぱんだ
いってみよう!

あらすじ

新人ナースエイドの桜庭澪(さくらばみお)は、星嶺大学医学部附属病院の統合外科病棟に配属された。

技術至上主義の天才外科医・竜崎大河と時にぶつかりながら、医療行為が許されない立場で患者に寄り添い、癒していく。

澪がナースエイドを志したのは、半年前に起きた凄惨な事件がきっかけだった。

ある日、澪の身辺に怪しい影が差し事件がまだ終わっていなかったことを知る――。

どんでん返しの連続に息を呑む、ノンストップ医療サスペンス!

(文庫裏表紙のあらすじより)

桜庭澪の秘密

患者の心に寄り添うことを重視する澪と、感情を排した完璧な手術のみを追い求める竜崎。真逆の信条を掲げる二人ですが、患者を救いたいという根っこの部分は同じでした。とある患者の手術を通して、二人はお互いを認め合うようになります。

……というのがざっくり小説第一章のあらすじです。

「澪と竜崎の出会い」を描いた第一章ですが、ドラマの合間には【気になる謎】が見え隠れしていました。

ぱんだ
ぱんだ
謎?

第一章における謎は大きく二つあって、そのどちらも桜庭澪に関することです。

1.桜庭澪の過去に何があったのか?

2.桜庭澪は何者なのか?

前者は、あらすじにもある「半年前に起きた凄惨な事件」についてです。

この時点では「どうやら澪の姉は病院の屋上から飛び降りたらしい」という断片的な情報だけが開示されています。事件の詳細はまだわかりません。

事件がトラウマとなった澪は、一切の医療行為ができなくなりました。だから、彼女はナースエイドになったんですね。

ぱんだ
ぱんだ
……できなくなった?

二つめの謎がそれです。

ナースエイドになるのに資格は必要ありません。だというのに、澪には素人離れした医療の知識がありました。

一方で、澪は医療行為に強い拒否反応を示してもいました。ナースエイドの職分に含まれていないから、という事情からではなく、まるでそれがトラウマであるかのように……。

これらを踏まえると、澪の正体についてはある程度の想像がつきます。

澪の前職は看護師。姉が亡くなった事件でトラウマを抱えた澪は、医療行為のできないナースエイドになった、といったところではないでしょうか。

ではここで、第一章のラストを飾る竜崎の台詞をご紹介したいと思います。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「お前は医者だな」

竜崎は澪の目をまっすぐにのぞき込む。

「それも、よく訓練された外科医だ」

ぱんだ
ぱんだ
ナースじゃなくて外科医!?


桜庭澪の過去

まさか澪が医者だったとは……!

軽い驚きを覚えている間にも、物語は進行していきます。

第二章では、澪の部屋に空き巣が入りました。

ひっくり返したように荒らされた部屋に対して、盗まれたのはノートパソコン一台のみ。現金や通帳などには手つかずだったことから、金目当ての犯行ではなかったようです。

警察の話によれば、犯人は「特定の何か」を探していたのではないかということでした。そして、目的が達成されない限り再び狙われる可能性があるとも。

澪はこの頃、誰かの視線を感じていました。そのストーカーが空き巣の犯人で、まだ成果を得られていないのだとしたら、今度は直接、澪に危害を加えてくるかもしれません。

怯える澪に手を差し伸べたのは、たまたま隣の部屋に住んでいた竜崎でした。

ぱんだ
ぱんだ
えっ

はじめにお断りしておくと、澪と竜崎は恋愛関係になりません。

手を差し伸べたというのも、外科手術のためのトレーニング部屋を寝泊りの場所として提供してあげたというだけです。

とはいえ、澪は竜崎に借りができてしまいました。そのうえ、なんやかんやあって手術の延期という無茶なお願いを竜崎にしなくてはならなくなってしまいます。

もちろん竜崎が二つ返事で了承するはずもありません。竜崎は澪に条件を出しました。

「なぜお前が外科医を辞め、ナースエイドとしてうちの病院で働いているのか。それを話すこと。それが手術の延期を検討する最低条件だ」

澪にとっては口にするのもつらい過去でしたが、患者のためとあれば是非もありません。

ためらいつつも、澪はゆっくりと口を開きます。

「私は……人を殺したんです。……誰よりも大切な姉さんを」

澪には唯という二歳年上の姉がいました。唯は新聞記者として活躍していましたが、不幸にも末期がんを患ってしまいました。

治療は不可能でした。せめて最期まで看取りたいと、澪は勤める病院に唯を入院させ、主治医になりました。

唯は正義感の強い新聞記者でした。最期まで事件を追いたいと望む姉に、澪は人工肛門造設の手術を勧めました。特に成長速度の速かった直腸の腫瘍を切除することで、数か月の延命が見込めたからです。

「……それでどうなった?」

手術は成功しました。しかし、唯の望みは叶いませんでした。

「姉の上司が現場に行くことを許可しなかったんです。もし人工肛門部のパッチが外れたりしたら、取材対象に迷惑をかけるって」

記者であり続けるための手術が、かえって唯の記者生命を断つ結果になってしまいました。深く絶望する姉に、澪はなにも言うことができませんでした。患者の心に寄り添うことができませんでした。

『こんなことになってごめんね。本当にごめんね』短い留守電メッセージを残して、桜庭唯は屋上から飛び降りました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「姉の気持ちに寄り添うことなく手術を行い、その結果、姉の命を奪ってしまった。それがお前の背負っている十字架か‥…。だからお前は、メスを捨てたのか」

抑揚のない口調で竜崎が言う。澪は胸を押さえたまま、ゆっくりとあごを引いた。

「大切な人を殺した私に、医師の資格なんてあるわけないですから。あれ以来、医療行為ができなくなりました。注射一つでもやろうとすると、アスファルトに倒れている姉さんの姿がフラッシュバックして、パニック発作を起こすようになったんです」


事件の真相

澪の過去がわかったところで、話を空き巣問題に戻しましょう。

澪には空き巣が狙うような【何か】に心当たりがありませんでした。

いったいどうして自分が狙われているのか?

澪の疑問は【とある訪問者】によって氷解することになります。

ぱんだ
ぱんだ
訪問者?

橘信也(たちばなしんや)。新宿署刑事課に所属する刑事であり、唯の恋人だった人物です。

橘は澪の家に空き巣が入ったと聞いて飛んできたのだといいます。亡き恋人の妹を心配してのこと……ではありません。

「ずっと疑っていたことが、澪ちゃんの部屋が荒らされたと聞いて、確信に変わった。だから伝えにきたんだ。君にとっても、すごく大切なことを」

「すごく大切なこと?」聞き返す澪に、橘は答えます。「ああ、そうだ」

「あれは自殺なんかじゃない。唯は……殺されたんだ」

ぱんだ
ぱんだ
えっ!?

罪の意識が澪の目を曇らせていたのでしょう。唯が飛び降りたとされる事件、家族なら真っ先に気づけたはずの違和感を澪は見落としてしまっていました。

その違和感とは他でもありません。正義感の強い記者だった唯が、会社から禁止されたくらいで大人しく取材を諦めたでしょうか? いいえ、むしろ唯の性格なら……

「逆にジャーナリスト魂に火がついたはず」

唯が会社から取材を禁止されてなおジャーナリスト魂を燃やしていたのだとすれば、彼女に自ら飛び降りる理由などありません。

つまり、事件の真相は他殺。そしておそらく犯人は……

「姉さんは会社に止められても、独自に取材を続けていた。その取材対象は姉さんに、都合の悪い情報を掴まれた。だから……姉さんを屋上から突き落とした」

真実がこの仮説のとおりなら、澪の部屋に空き巣が入った理由にも説明がつきます。

「犯人は証拠を探していたんだよ。唯が見つけた悪事の証拠を」

実際のところ澪は唯からなにも受け取ってなどいないのですが、犯人は澪のもとに証拠品があると思い込んでいるのでしょう。

だとすれば、犯人は再び澪を狙ってくるに違いありません。

では、その犯人とは誰なのか?

メタっぽい物言いになりますが、こういう場合、犯人は見知らぬ誰かではなく、主人公の周囲にいる誰かだったりしますよね。

まさに、今回もそのパターンでした。

第三章のラスト、とあるきっかけから竜崎と澪は犯人に関する重大な手がかりを耳にします。

「桜庭唯の……データをどこに……桜庭さんは隠している……」

それは手術直後の患者がもうろうとした意識のまま口にした言葉でした。眠っている間に聞いた会話をくり返しているようです。

その患者がふだんから壁越しに隣の部屋の会話を盗み聞きしていたことを、澪は知っていました。

間違いありません。それは深夜の看護助手控室で発された言葉でした。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「桜庭唯の……データをどこに……桜庭さんは隠している……。あれが火神……教授に渡ったら……おしまい……」

澪と竜崎は顔を見合わせた。

「いまのって……」

澪がかすれ声を出すと、竜崎は押し殺した声で言った。

「どうやら、お前の同僚の中に犯人がいるようだな」

<すぐ下のネタバレに続く>


ネタバレ

澪には三人の同僚がいます。

早乙女若葉。看護師志望の若い女性。

遠藤剛史。元自衛官のシングルファーザー。

園田悦子。勤続三十年のベテランナースエイド。

「桜庭唯のデータ(=悪事の証拠)」を狙う犯人は看護助手控室に出入りするこの中の誰かであるはずです。澪は犯人を罠にかけることにしました。

ぱんだ
ぱんだ
罠?

手順は簡単です。澪は同僚たちの前で「姉の遺品整理をする」という(嘘の)話をするだけで構いません。

焦った犯人は先に遺品を回収するため、澪が口にした倉庫に現れるはず。そこを竜崎と一緒に取り押さえるという計画です。

結論からいえば、犯人はまんまと罠にかかってくれました。

深夜、倉庫で待ち受ける澪の前に現れたのは……全員でした。

ぱんだ
ぱんだ
……は?

若葉、遠藤、悦子。犯人は三人のうちの誰かではなく、三人全員だったのです!

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと!?

順を追って説明しましょう。

まず、澪の部屋に入った空き巣の正体はこの同僚三人組です。

これまで彼らには「犯行を行うには時間が足りなかったはず」という微妙なアリバイがあったのですが、それは単独犯を想定してのこと。三人で部屋を荒らしたのだとすれば短い時間で終わらせることができたわけで、犯行は可能だったということになります。

では、次です。澪を屋上から突き飛ばしたのは彼ら同僚たちだったのでしょうか?

答えは「No」です。

倉庫で澪に見つかったとき、彼らはかわいそうなほどにおろおろと狼狽していました。とてもではないですが、唯を殺した犯人だとは思えません。

だとすれば、彼らはなぜ澪の部屋を荒らし、唯のデータを手に入れようとしたのでしょうか?

澪が問い詰めると、三人は口を揃えて「黒幕に指示されたから」だと答えました。彼らはそれぞれ黒幕に弱みを握られていて、逆らえなかったのだと。

「それじゃあ教えて。あなたたちを操っていた黒幕の正体を」

澪がその気になれば、倉庫への不法侵入で彼らを警察に突き出すこともできます。同僚たちは観念したかのように答えました。

「……壷倉医局長」

ぱんだ
ぱんだ
誰!?

壷倉は統合外科の実務を一手に担う医局長です。

太った中年男。陰では患者から金を受け取っていたりと、ろくな人物ではありません。

「……どうして壷倉は姉さんのデータを欲しがっていたの? あの男は姉さんに、どんな悪事をあばかれそうになっていたの」

怒り心頭の澪を前にして、悦子がおずおずと答えます。

「医局のお金を使い込んでいることに気づかれたって……それを火神教授に知られたら、自分は破滅するからどんなことがあっても探し出すって」

医局費の横領。それが壷倉の悪事にして、唯が死ななければならなかった理由。

たかが金のために……! 澪は叫びだしそうなほどの怒りを抑えて、冷静に考えます。

姉の仇は判明しました。しかし、まだ終わりではありません。

唯の事件はすでに自殺として処理されています。壷倉を殺人の罪で告発するには、確たる証拠が必要です。

悪事の証拠。唯が残したデータ。それさえあれば……。


竜崎大河の過去

ここまでは澪の物語を追ってきましたが、もう一人の主人公ともいえる竜崎にもやはり物語がありました。

竜崎大河。天才外科医と評される彼の手術の腕は、しかし才能ではなく寝食を惜しむほどのトレーニングによって実現されていました。

努力という一言では片づけられない、偏執的なほどの練習量。竜崎のストイックさのルーツは、母親を亡くしたつらい体験にありました。

ぱんだ
ぱんだ
というと?

まだ竜崎が子どもだった頃の話です。

彼の母親はかかりつけ医の実力不足のせいで亡くなりました。その医師は患者の心に寄り添う「いい先生」ではありましたが、命を救うという至上命題を果たすことはできなかったのです。

竜崎は患者の命を救う外科医になると誓いました。

「深い知識と、磨き上げられた技術、そしてデータに基づいた合理的な判断、それこそが患者の命を救う」

児童養護施設を出た竜崎は、統合外科のトップである火神教授の一番弟子となりました。

竜崎は統合外科のエースにまで上り詰めた今でも毎日のトレーニングを欠かしません。一人でも多くの命を救えるように。今度こそ大切な人を救えるように。

ぱんだ
ぱんだ
なるほどね

そんななか、小説の第四章では竜崎の医師生命にかかわる事件が発生します。

竜崎にとって家族も同然である児童養護施設の女の子が緊急搬送されてきたのです。

診断は虫垂炎(盲腸)でした。竜崎の手にかかればあっという間に成功するであろう手術です。

問題は親でした。未成年の手術を行う場合、親の同意を得る必要があります。だというのに、女の子の母親は手術を拒否したのです。

ぱんだ
ぱんだ
なんで!?

母親は怪しい宗教を信じていて、その教義によれば手術は許されないのだということでした。竜崎に頼まれて澪も説得に当たったのですが、母親は頑として聞く耳を持とうとしません。

虫垂炎を放置すれば、女の子の命に関わる危険性がありました。かといって、親の同意なしに手術を強行すれば、傷害罪に問われることになります。

竜崎の決断は迅速でした。

「小夜子は絶対に俺が助ける」

※以下、小説より一部抜粋

…………

「ダメです!」澪は声を裏返す。「おかしなことをしたら、本当に警察に逮捕されますよ。下手すると、医師免許がなくなりますよ」

「かまわない」わずかな迷いもなく即答した竜崎に、澪は唖然とする。

「かまわないって……、医師免許がなくなったら、手術できなくなるんですよ。お母様が亡くなってから、ずっと苦労して身につけた技術がもう使えなくなるんですよ」

「分かってる。それでもかまわないと言っているんだ」

「なに言ってるんですか! 先生はこれからその手で、何千、何万人という患者さんを救えるんです。その人たちを見捨てるつもりですか!?」

詰問する澪を、竜崎がまっすぐに見つめる。

「メスをおき、ナースエイドとして働くお前は、将来の患者を見捨てたのか?」

「それは……」澪は言葉に詰まる。

「たとえ俺が手術しなくても、その患者たちは他の外科医のオペを受けることができるだろう。俺の将来の患者たちを救える優秀な外科医は、世界中にたくさんいる」

そこで言葉を切った竜崎は、大きく一息ついたあと続けた。

「けれど、小夜子を救える外科医は俺だけなんだ」

これまで見たことがないほどに柔らかく微笑む竜崎を、澪は見つめ続ける。

「唯一の家族である母を救えなかったから外科医を目指し、血の滲むような訓練を続けて最高の技術を身につけた。その技術を持っていながら、また家族を見捨てたら、俺の人生は無意味だったことになる。だから、今度こそ俺に家族を救わせてくれ。あの日からの努力が、あの日からの人生が無駄でなかったと証明させてくれ!」

(竜崎、澪の協力を得て手術を強行)

(そして、手術後――)

「あなた、自分が何をしたのか分かっているの!?」

「ああ、分かっている。よく分かっているよ」

竜崎は幸せそうに、心から幸せそうに微笑んだ。

「俺は今度こそ『家族』を救えたんだ」


黒幕

竜崎が過去のトラウマを乗り越えた一方で、澪の物語も大きな転換点を迎えていました。

小夜子から母親を引き離すため澪は白衣に袖を通し医師として振るまったのですが、そうして久しぶりに手にした自前の聴診器の中には【SDカード】が隠されていました。

澪の聴診器に細工することができた人物。澪に記憶媒体を託したであろう人物。

考えられる可能性は一つしかありません。

「これが、姉さんが遺したデータ……」

ぱんだ
ぱんだ
おお!

SDカードの中身は壷倉医局長の悪事を暴く証拠であるはずです。

パスワードが設定されていて中身を確認することはできませんでしたが、専門家に頼めばロックは解除できるに違いありません。

澪はSDカードを火神教授に預けることにしました。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「実は、私の姉は新聞記者をしていて、壷倉医局長のことを調べていたんです」

澪が切り出すと、火神は「壷倉先生のことを?」と眉をひそめた。

「そうです。医局長は医局費を横領していました。姉は自分になにかあったときのために、その証拠を私に遺したんです。それを知った壷倉先生は私を監視するために……」

澪は同僚たちがスパイだったこと。自分の部屋を荒らしてまで、データを探したことを伝える。説明を聞き終えた火神は困惑の表情を浮かべて、うめくように言う。

「本当に壷倉先生がそんなことを……? なにか証拠があるのか……?」

澪は固く手に握っていたSDカードをローテーブルの上に置いた。

「これが、姉が持っていた壷倉先生の横領の証拠です」

「これが……、中身は確認したのか?」緊張した面持ちで火神が訊ねてくる。

「いいえ、パスワードが必要で開けませんでした。ただ、専門の業者などに頼めば、きっとすぐにパスワードは解読できると思います」

「……なるほど」

火神はSDカードを摘まみ上げる。「本当に壷倉先生が横領したとしたら、由々しき事態だ。告発するためにも、これは私が預かろう。いいかな」

「はい、もちろんです!」

勢い込んで答えた瞬間、脳に違和感が走る。本当に壷倉が黒幕なのだろうか?

悦子の孫を星嶺大学に入れ、若菜の奨学金の支払いを免除し、遠藤の起こした事故の治療費を無料にする。さらには五階病棟のナースエイドとしてスパイを三人も配置する。

壷倉にそこまでの権力があるのだろうか……。

澪はゆっくりと立ち上がると、ふらふらとデスクに近づいていく。

同僚たちはたしかに、壷倉に指示されたと言っていた。壷倉が、自分の横領を火神に知られないために、データが必要だと言っていたと。

けれど、よく考えたらそれもおかしい。わざわざ自分の横領を、悦子たち三人に伝えなくてもいいはずだ。

では、なぜ壷倉は、自分の横領についてのデータだと言ったのか。あり得るとしたら、ナースエイドたちが捕まり、尋問されたときに偽の情報を言わせるため……。

壷倉が自らをスケープゴートにしてでも守ろうとする存在。ナースエイドの配置を決めることができ、そして星嶺大学に大きな影響力を持つ存在。そんな人は……。

部屋の奥までふらふらと移動した澪が、デスク越しに火神を見つめる。

竜崎が「おい、どうした?」と声をかけてくる。澪は火神に手を伸ばした。

「火神教授……、申し訳ないですが、やっぱりSDカードは私が保管します。私が業者に頼んでパスワードを解読して、内容を姉さんが勤めていた新聞社に渡します」

「なるほど……。新聞社にね」呟きながら、火神はSDカードをデスクに置く。

次の瞬間、火神は帆船型のペーパークラフトを素早く掴んで勢いよく振り下ろした。

何度も、何度も、何度も、くり返し……。重い音が響くたびに、SDカードが破壊され、粉々になっていくのを、澪は呆然と見つめることしかできなかった。

「すまないね、これを返すわけにはいかないんだよ」

「やっぱり、あなたが黒幕……」澪はかすれ声で呟く。

「おい、どういうことだ!?」驚きの声を上げて、竜崎が駆け寄ってくる。

「壷倉は単なるスケープゴートでしかなかった。壷倉が横領したという話は、自分のもとにデータを持ってこさせるための嘘。そして、私はまんまとそれにひっかかり、火神教授を告白するためのデータを、本人に渡してしまった」

喘ぐように絞り出す澪の説明を、竜崎は口を半開きにして聞く。

「どうだろうね。君の仮説を証明するデータは、いま消えてしまったよ」


結末

すべての黒幕は火神教授でした。

統合外科のトップにして、竜崎の師。画期的ながん治療法を確立した天才外科医。

思えば、澪を星嶺大学医学部附属病院にスカウトしたのも火神でした。唯の死後、医療行為ができなくなった澪は、火神の勧めでナースエイドになったのです。

それもこれも自身の悪事を隠ぺいするためだった……!?

物語はいよいよ大詰め。ふつうなら火神を倒すための作戦がはじまりそうなところですが……

ぱんだ
ぱんだ
ん?

結論からいえば、火神は亡くなります。

というのも、火神は末期がん患者だったのです。竜崎に延命のための手術をさせた火神でしたが、その手術中に命を落としました。

そして、ここが重要なポイントなのですが、どうやら火神は自身の術中死を想定していたようです。

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと!?

そもそも、なぜ手術は失敗したのでしょうか? あの竜崎が万が一にもミスをするとも思われません。

火神の手術中、竜崎と澪はがん細胞が異常増殖する未知の現象を目撃しています。手術の失敗は、ひとえにその現象のせいです。

火神はその現象を竜崎と澪に見せるため、失敗すると知っていてあえて手術をさせたようでした。

いまさらですが、作中には『シムネス』というオリジナルのがん様態が登場します。10年前に突如としてあらわれた『シムネス』は治療法のない凶悪ながんです。

火神はシムネスの治療法を模索していました。その火神の手術中にがん細胞が未知の現象を見せた……はたしてこれは偶然でしょうか?

もう長くないと悟った火神が、竜崎と澪にがん治療の未来を託すために命を賭して症例を目撃させた……そのように考えるとつじつまがあいます。

ぱんだ
ぱんだ
いや、でも……

はい。火神はSDカードを粉砕し、悪事の証拠を隠ぺいした黒幕だったはずですよね。別の言い方をすれば、唯を殺した犯人でもあるはずです。

その点についてなのですが、手術の直前、火神と澪は次のような会話をしています。

※以下、小説より一部抜粋

…………

「なんで姉さんを……」

「殺す気はなかったんだ……。あの日、君をスカウトしに調布総合病院を訪れたとき、君のお姉さんに声をかけられた。そして、……絶対に知られてはいけないことを指摘されたんだ。動揺して釈明しようとしたら、取材をさせてくれるなら話を聞くと言った。だから、夜に屋上で会うことにしたんだ……」

「なんで屋上に……、最初から突き落とすつもりだったんじゃないですか?」

叫びだしそうなほどの怒りを必死に押し殺し、澪は小声で問い詰める。

「……分からない。あのときは混乱して、自分が自分ではないような感覚で……」

「そんなの言い訳にならない。なにがあったんですか?」

「君のお姉さんは事実を公表すると譲らなかった。そして、もし自分に危害を加えても信頼している人にデータを預かってもらっているから無駄だと言った」

「それなのに……、あなたは姉さんを殺したんですか?」

「本当に殺す気はなかったんだ。説明しようと……。ただ、分かってもらおうと……。けれど、彼女は聞く耳を持たず、取っ組み合いになってしまい、はずみで……」

「はずみで、姉さんを殺したっていうの!?」押し殺していた声が大きくなる。

「すまない……、本当にすまない……。全ては私の責任だ。どう償えばいいかずっと考えていた。けれど、どうしていいのか分からなかった」

「……あなたが、人を殺してまで守ろうとした秘密って何なの」

「言えない……。この秘密があばかれたら、多くの人が命を落とすことになる……」

「どういうこと!? 意味が分からない」

「真実を知りたいなら、外科医に戻りなさい。戻って、オームスのオペレーターになるんだ。そうすれば、理解できるはずだ」

「どういうこと? あなたが開発しているあの治療機器がどう関係するの?」

「本当に、本当にすまなかった……」

…………

少し情報を整理しておきましょう。

第一に、唯を殺した犯人は火神で間違いないようです。ただし、殺人ではなく事故だったとのことでした。

第二に、オームスについて。ざっくりいえば、オームスはシムネスを治療するための設備です。オームスは常人では酔いに耐えられないという欠陥を抱えているのですが、澪だけは例外で、オームスを操ることができます。

火神が澪をスカウトしたのは唯がまだ生きている頃で、本来はオームスのオペレーターとしての働きを期待してのものでした。

火神はオームスのオペレーターになれば真実がわかるといいます。しかし、澪は医療行為ができません。

唯の死に関連した火神の秘密。がん細胞が異常増殖する未知の現象。シムネスとオームス。澪がオームスのオペレーターとなったとき、はたして何が明らかになるのか?

これらの気になる謎は『となりのナースエイド』では明かされません。

おそらく今後の続編に引き継がれるのでしょう。少しもやもやしますが、仕方ありません。大人しく次回作を待つとしましょう。

ぱんだ
ぱんだ
気になる……

さて、小説としてはこの後、ドラマパートが山場を迎えます。

小夜子が新興宗教団体に拉致されたり、山奥の施設から小夜子を取り戻したり、ボウガンで武装した信者たちに追いかけられたり……

ぱんだ
ぱんだ
どゆこと!?

なんやかんやあって、澪は外科医として小夜子を手術します。必要に迫られてのことでしたが、トラウマを乗り越え、「医療行為ができない」という呪いからも解放されたのでした。

新興宗教団体は逮捕。火神の駒だった仲間のナースエイドたちとも和解して、物語は大団円を迎えます。

(ざっくり省略しましたけど、このあたりおもしろかったです)


エピローグ

三か月後。澪は外科医に復帰して、そのうえナースエイドとしても働き続けていました。

また、今後はオームスの試験オペレーターとして研究に協力していく予定でもあります。

「火神教授の言い遺したことが本当なら、姉さんが気づいた秘密、おそらくはあの日、私たちが見た異常に増殖するがん細胞の正体を知る手がかりが、オームスに隠されているはずだから」

一方、竜崎はアメリカに旅立とうとしていました。

医師免許を取り消されてしまった竜崎ですが、世界にはまだ彼の手術を待つ患者がたくさんいます。

裏の世界の医師として、竜崎はこれからも患者の命を救い続けるでしょう。ブラック・ジャックのように。

「いいじゃないか、ブラック・ジャック。あのマンガは大好きだ」

※以下、小説より一部抜粋

…………

「そろそろ行かないとな」

竜崎は右手を差し出してくる。澪はその手を固く握りしめた。

「また、会えますよね?」

「医者の世界は狭い。特に外科医の世界はな。その狭い世界でお互い前を向いて進み続けていれば、どこかで線が交わることもあるだろう」

「そのときまでに、先生に少しでも近づけるよう、腕を磨いておきます」

「そのとき、俺はさらに先に行っているさ」

頷き合った澪と竜崎は、同時に身を翻す。

人々が行き交う空港を、二人の外科医は胸を張って別々の道へと進んでいった。

<おわり>

ぱんだ
ぱんだ
いいねしてね!

 


まとめ

今回は知念実希人『となりのナースエイド』のあらすじネタバレ解説をお届けしました。

いやぁ、まさか物語の根幹をなす謎が未解決のまま終わるとは!

シリーズものとは思っていなかったので、とてもびっくりしました。

異常増殖するがん細胞に、オームスに隠された秘密……いったいなんなのでしょう……。

ぱんだ
ぱんだ
気になる……

謎については消化不良感のある本作ですが、一方で、物語としては素直におもしろかったです。

医療の現場を描いた作品ながら堅苦しさはなく、むしろわかりやすくとっつきやすいエンタメ作品だったように思います。特に終盤はアツい展開の連続で、大いに盛り上がりました。

※「俺のことはいいから先に行け!」みたいなね

今回の記事ではそのあたりバッサリ割愛しているので、これから小説を読むという方も十分にお楽しみいただけると思います。続編にそなえる意味でもぜひご一読を!

 

ドラマ情報

動画

キャスト

  • 川栄李奈(桜庭澪)
  • ⾼杉真宙(竜崎大河)

放送日

2024年1月10日(水)夜10時スタート

ぱんだ
ぱんだ
またね!


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