映画化もされた東野圭吾「ラプラスの魔女」
- 櫻井翔
- 広瀬すず
- 福士蒼汰
超豪華キャストが話題になった映画だけではなく実は原作小説も評価が高い作品なんです。
今回は、そんな小説「ラプラスの魔女」のあらすじネタバレをお届けします!
二転三転する物語の先に待っている結末とは!?
Contents
あらすじネタバレ
羽原円華(18)
父親は天才医師の羽原全太朗、母親は円華の目の前で起こった竜巻事故により逝去。現在は数理学研究所という施設で生活している。
それ以上の情報を彼女に質問してはいけないし、彼女に興味を持つことも許されない。
この条件を受け入れて、武尾徹は円華のボディーガードとなった。
円華が外出するときには必ず武尾と、武尾に仕事を依頼した桐宮玲が同行する。
円華と行動するようになってすぐに、武尾は彼女に「不思議な力」があることに気づく。
例えば、彼女はたった数分たらずの雨の切れ間を正確に予測できる。
例えば、彼女は誰が飛ばしても失敗した紙飛行機を見事に飛ばすことができる。
例えば、彼女は川に落ちた帽子がどのように流れていくかを予知できる。
武尾はこの不思議な現象に疑問を抱いたが、契約通り何一つ円華に質問をしなかった。
一方その頃、世間ではちょっとした事故が報道されていた。
『温泉街で硫化水素ガスによる中毒。著名な映像プロデューサーである水城義郎(66)が亡くなる』
水城義郎は年の離れた妻の千佐都(26)と赤熊温泉に旅行していたが、山の中で運悪く亡くなったという。
第一発見者は妻の千佐都。
たまたま旅館に忘れ物をして戻っていたため、事故を免れた。
なお、この旅行を提案したのは妻の千佐都であり、千佐都は義郎の遺産に加え、最近義郎にかけたばかりの生命保険により大金を手にすることになったそうだ。
赤熊温泉での事故を新聞で知った円華は、すぐに顔色を変えた。
そして、わざと大雪の日に外出すると、武尾と桐宮の隙をついて逃走。
どこかへと消え去ってしまった。
青江修介
青江修介は地球科学を専門とする研究者。
赤熊温泉でのガス中毒事故について調査するよう依頼された青江は、現地へと足を運んだ。
(妙だな)
温泉街の空気にガスが含まれていることは珍しくないが、通常は微量であり、致死量に達する可能性は極めて低い。
もし、たまたまガスが噴出したとしても、屋外ではすぐに流されるため、ガスが滞留している時間も一瞬のはずだ。
つまり、今回の事故は極めて天文学的な確率で発生した…ということなのだろうか?
青江に接触してきた刑事の中岡は千佐都による犯行を疑っていたが、それはありえない。
仮にガスでの犯行を成功させようとすれば、地形や天候、風の強さや向きなどをすべて計算しなくてはならない。
スーパーコンピューターでもない限り、そんなことは不可能なのだ。
そうこうしているうちに、第2の事故が発生した。
『苫手温泉で硫化水素ガスによる事故。亡くなったのは役者の那須野五郎(本名・森本五郎)』
青江は新聞社に依頼され、再び温泉地での事故を調査することに。
(やはり事件性はないはずだ…しかし、こんな事故が連続するというのもおかしい…)
悩む青江は、事故現場の近くで一人の少女を見てハッとする。
(あの子は、赤熊温泉でも見かけた。それに旅行じゃない。明らかに事故のことを調べている)
青江は少女…羽原円華に声をかけた。
すると、円華は人探しをしているという。
年若い男。探し人の名前は「木村」
そういえば、赤熊温泉で女将が2週連続で見たという男の名前は「木村浩一」だったはずだ…。
甘粕才生のブログ
あれから、青江は事故のことが気になって仕方がない。
やはり、あれは単なる事故ではないのではないか?
2つの事故で共通するものと言えば、硫化水素ガス。そして被害者が2人とも映像関係者であるということ。
その線から調査を始めた青江は、2人と結びつく映画監督・甘粕才生(あまかすさいせい)にたどり着く。
甘粕才生は鬼才と言われた監督だったが、ここ数年は表舞台から消えている。
更新がストップして久しい甘粕のブログにたどり着いた青江は、その内容に衝撃を受けた。
- 甘粕才生は過去に、硫化水素ガスによって家族を失っている
- 娘の萌絵が自ら命を絶とうとガスを発生させ、それに妻と息子も巻き込まれた
- 幸い息子の謙人は命を取り留めたものの植物状態になってしまった
- その後、羽原全太朗医師の手術によって謙人は奇跡的な快復を見せたが、後遺症として過去の記憶を失ってしまった
最後に更新されたブログ記事には、前向きな一歩を踏み出そうとしている甘粕才生の心境が綴られている。
それ以降の甘粕才生の行方や、謙人がどうなったかなどはわからない。
『硫化水素』『羽原』…偶然にしては出来すぎている。
それに、甘粕才生は2人の被害者とも接点がある人物だ。
甘粕才生は、今回の連続事故と何か関係があるのだろうか。
謙人と数理学研究所のつながり
事故を追うという点で、青江は刑事・中岡と協力体制にある。2人は考えた。
もし今回の事故が何者かによる犯行だとすれば、少なくても1人では実行不可能だ。
犯人には共犯者がいるはず。
もし赤熊温泉での水城義郎を亡き者にしたのが妻の千佐都であるとすれば、共犯者は…木村?
青江が円華に見せてもらった木村の顔写真は、若い頃の甘粕才生にそっくりだった。
もしや、木村の正体は甘粕謙人なのだろうか…?
さらなる情報を求めて、中岡は羽原全太朗を訪ねることに。
しかし、羽原全太朗は円華についても謙人についても何か隠している様子だ。
中岡は一度引き下がることにした。
中岡が帰った後、羽原全太朗は桐宮玲・武尾と合流した。
実は全太朗は数理学研究所の人間でもある。
全太朗は刑事への応対を武尾にモニターしてもらい、リアルタイムでアドバイスをもらっていたのだ。
その後、事情を知らない武尾に桐宮玲は事情を説明した。
・甘粕謙人は普通の人間と同じレベルにまで快復した
・とある事情から謙人は数理学研究所で生活していたが、突然行方をくらました
・円華は謙人と一緒に研究所で生活していたため、謙人のことをひどく心配していた
武尾は円華のボディーガードというより、監視役として雇われていたのだ。
円華は今、謙人を追っているに違いない…。
中岡の捜査
中岡は甘粕才生について徹底的に調べることにした。
甘粕を知るある人物は言う。
「萌絵は才生の実子ではなかったらしい。そのことを苦にして萌絵は硫化水素ガスを使ったのではないか、と甘粕は言っていた」
甘粕のブログに綴られていた幸せそのものの家族。妻も、息子も、娘も、甘粕のことを尊敬し慕っていたと書かれてある。
その裏には妻の不義と、娘の苦悩が隠されていたのだろうか…?
ところが捜査を進めていくうちに、事態はさらに変化していく。
中岡は甘粕の『嘘』に気づき始めたのだ。
率直に言えば、甘粕家の実態はブログに書かれていたような理想的な家族ではなく、家族仲はもっと冷え切っていたはずなのだ。
妻は甘粕のことを愛しておらず、息子も娘も父親のことを嫌っていたはずだと関係者は言う。
娘の萌絵はブログ内では清楚で真面目な子として書かれていたが、実際には荒れていた時期もあり妊娠・堕胎も経験している。
また、萌絵は父親似の自分の顔を嫌っていた、とも。
(萌絵はやはり才生の実子だった?)
甘粕才生はなぜブログに嘘を書き、知人に嘘をついたのだろうか?
犯行再現
桐宮玲たちが青江に接触してきた。
事故のことはもう追うな、円華に関する情報をわたせ、と桐宮玲は迫ってきたが、青江はこれを拒否。
青江は桐宮玲とのやりとりの中で、でたらめな番号を教えられたと思い込んでいた円華の電話番号が、実は本物である可能性に気がつく。
青江の思惑通り、電話に出たのは第3者ではなくボイスチェンジャーを使った円華だった。
青江は円華に取引を持ち掛け、会う約束をとりつける。
時間と場所は円華の指定。
夜の公園、事故現場と似た地形の場所だ。
そこで青江は信じられない光景を目にする。
(そんな馬鹿な…)
斜面の上にいる円華の足元からドライアイスのスモークが流れ落ち、拡散することなく下方の青江のところに向かってくる。
そしてなんとスモークは青江を通り過ぎることなく、その場で滞留して青江の全身を包んだ。
もしこれが硫化水素だったら、間違いなく青江は生きてはいなかっただろう。
円華はガスを使った人為的な犯行を再現し、それが可能であることを証明してみせたのだ。
そして、円華はそのまま姿を消した。
羽原全太朗が語る「真実」
青江は再び接触してきた桐宮玲と交渉し、ことの真相を知る機会を得る。
数理学研究所で羽原全太朗が青江に語った内容は、恐ろしいものだった。
手術後、甘粕謙人は特殊な力に目覚めた。
それはスーパーコンピューター並みの物理演算能力。
謙人は投げたサイコロの目を正確に予測できるし、放った矢が的のどの位置に当たるかを一瞬で計算できる。
いわば、それは確実に未来を予測できる力。
表面に出るわずかなサインから、謙人は人の心理を読むことすらできた。
その力に着目した国や各機関は、謙人の研究を開始。
目的は「謙人の能力を解明すること」
そして「謙人の能力を再現すること」
しかし、そう都合よく該当する脳の部位を損傷した患者など現れない。
そこで、全太朗は禁断の方法に手を染めることを決意する。
すなわち、健常者に対する手術。人体実験だ。
被験者は羽原円華。全太朗の実の娘。
手術は成功し、円華は謙人と同等の力を手に入れた。
青江「実の娘に…」
全太朗「狂気の沙汰だと言われても仕方ありません。実際、狂ってたんですよ。私も、周りの人間も」
玲「いえ、それは違うと思います」
桐宮玲はさらなる真実を語る。
玲「ほかならぬ、円華さん自身が実験台になることを望んだんです。彼女は言いました」
玲「自分は『ラプラスの魔女』になりたかったのだ、と」
ラプラスの悪魔
『ラプラスの悪魔』
数学者・ラプラスによる仮説。
「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は物理学を用いることでこれらの原子の事件的変化を計算できるだろうから、未来の状態がどうなるかを完全に予知できる」
未来予知。
まさに手術後の謙人は『ラプラスの悪魔』のイメージそのものだ。
そして、円華は謙人と同等の存在として『ラプラスの魔女』になりたかったのだという。
円華は母親を竜巻で失くしている。
現在、地震や竜巻のような自然災害を事前に予知することは未だ難しいが、謙人の能力を磨いていけばそれすらも可能になる。
だから、円華はラプラスの魔女になることを選んだ。
引き換えに、とても大切なものを失うとも知らずに。
謙人の犯行動機
謎は解けた。円華や謙人なら、万に一つの奇跡を起こすことなど造作もないことだ。
例えば、条件さえ選べば硫化水素ガスによる中毒事故を意図的に引き起こすことだって簡単だろう。
青江「赤熊温泉や苫手温泉で起きた出来事は、やはり甘粕謙人による犯行なのか」
玲「残念ながら、その可能性が高いようです。謙人君は昨年の春頃、この研究所から失踪しました。その目的が私たちにはわかりませんでしたが、どうやら最悪の犯罪に手を染めることだったようです」
青江「動機は?」
全太朗「…硫化水素にこだわった犯行である以上、その動機として考えられるのは一つだけです。すなわち、復讐です」
ここで2つの疑問が発生する。
- 甘粕家の硫化水素事件は、萌絵によるものではないのか?
- そもそも謙人は記憶を失っているのだから、復讐の動機はないのではないか?
全太朗の推測はこうだ。
まず、謙人はそもそも記憶を失ってなどいなかった。事情があって記憶喪失のふりをしていたのだ。
次に、復讐である以上、被害者の水城と那須野は甘粕家の事件に関与していた。
青江「あっ、いや、それはおかしい」
そう。事件当日、水城にはアリバイがある。甘粕才生と北海道にいたことがブログに書かれてある。
全太朗「だからといって犯行に関わっていないとは言い切れない」
全太朗「彼らには直接の動機はなかったのではないかと想像しています。動機を持つ主犯が別にいて、水城も那須野も共犯者にすぎなかった、とは考えられないでしょうか」
青江「もう一人いると?」
全太朗「ええ」
青江「誰ですか?」
全太朗「被害者たちと深い関係にある人物です。水城や那須野とも繋がりがある。そして、その人物にも、水城と同様に完璧なアリバイがありました」
青江「あなたはもしや実の父親を…甘粕才生氏を疑っているのですか?彼が妻と娘、さらにも息子まで亡き者にしようとしたと」
全太朗「私だって、そんなことは考えたくない。でもそう考えれば、謙人君が記憶喪失を装った理由にも説明がつくように思うのです」
青江「謙人君は真相を…父親が犯人だと知っていた…」
そう考えれば筋が通る。
そして、謙人の次のターゲットは…甘粕才生。
青江「…動機は。甘粕才生はなぜ家族を亡き者にしようと…?」
全太朗「甘粕親子には…ある重大な欠陥があるのです」
甘粕親子の欠陥
父性欠落症。
羽原全太朗はその先天的・遺伝的な欠陥をそう呼んでいる。
動物には本来、自らの家族を守るためのプログラム(愛情)が備わっているが、甘粕親子にはそれがない。
その結果、赤ちゃんや子供をかわいいと思うこともなくなり、ある意味では残酷な人間になってしまう。
例えば、自らの家族を無慈悲に亡き者にすることすらできるだろう。
…これが「甘粕才生の犯行」を説明するピースの一つ。
そしてもう一つのピースは中岡の捜査によって浮き彫りになってきた。
それは甘粕才生の「完璧主義」
公私において甘粕才生は完璧主義だった。
他人にまで理想を押し付けることはなかったが、例外として恋人には自分の理想像を求め続けていたという。
では、もしもそんな甘粕の妻や子供たちが、理想の家族像とかけ離れている存在だったとしたら…?
真相まであと一歩のところにたどり着いた中岡だったが、警察庁からの圧力により捜査を中止するよう命令が下ってしまう。
中岡は抵抗したが、最後には命令に従うほかなかった。
水城千佐都と謙人
千佐都は義郎の財産目的で結婚した。
ところが、義郎は健康体そのものでありまだまだ長生きしそうな様子だ…。
だからといって千佐都には待つことしかできない…はずだった。
ある日、謙人は千佐都の車にひかれたふりをして接触した。
もちろん軽傷で済むよう計算済みだ。
人の心を読み、操ることすらできる謙人はすぐに千佐都と体の関係になり、甘い言葉で囁いた。
「絶対にばれない方法で、旦那の息の根を止めればいい。そうすればすぐに遺産が手に入る」
「もしうまくいったら、今度はあなたが僕に協力してほしい。僕にも早くいなくなってほしい人間がいる。しかも2人」
やがて千佐都は、義郎も最初から謙人のターゲットであり、自分は利用されただけだということに気づき始める。
しかし、今さら逃げることもできない。謙人には得体のしれない恐怖を感じる。
千佐都はただ、早くすべてが終わってほしいと願うばかりだった。
最終段階
いよいよ謙人の計画の最終段階が始まった。3人目のターゲットは実父・甘粕才生。動機は復讐。
謙人は千佐都を使って才生を山中の廃墟に呼び出した。
もちろん才生もこれが罠であることは承知している。
才生もまた、自分の秘密を知る謙人を生かしておけないと考え、返り討ちにする構えなのだ。
かつて才生が映画を撮影したという廃墟の中、謙人と才生が対峙する。
廃墟の外では、千佐都を尾行し、追っ手を振り切ってきた円華と青江が成り行きを見守っていた。
謙人と才生の会話
謙人「昨年の1月くらいだったかな。テレビで水城義郎が言っていた。近いうちに、あっと驚くような作品を世に送り出す予定だ。実話をもとにした映画で、主人公のモデルとなった人物自身がメガホンをとるってね。それを聞いて、あなたのことだと確信した」
だから謙人は数理学研究所から脱走し、まずは水城義郎に近づいた。
才生「なるほど。だが、おまえはいつ知ったんだ…あの時に硫化水素を発生させたのが俺だってことを」
謙人「そんなの決まってるじゃないか。最初からだよ」
謙人が病院に運ばれたとき、謙人の意識がないと思い込んでいた才生は言った。
「素晴らしい。これもありだ。ドラマになる」と。
そして才生が続けて水城にかけた電話で、謙人は真実を知った。
甘粕家の事件の実行犯は才生自身。
北海道に水城といたアリバイは那須野が影武者となってつくったものだった。
水城と那須野は才生の共犯者だったのだ。
では、なぜ才生は家族を消そうとしたのか?
目的は2つあった。
1つ目は、自分の理想の家族像とは程遠い妻(親の資産狙いで結婚した)や子供たちを抹消するため。
離婚しただけでは甘粕の経歴に汚点が残る。存在から消す必要があった。
特に出来の悪い萌絵を実子ではないと知人に話していたのも自分の完璧主義を守るためだった。
そして2つ目は、極上の映画を撮影するため。
甘粕の書いた「嘘のブログ」の内容は感動的だ。
家族を失い、傷つき、絶望し、それでも前へ進もうとする才生の姿が描かれている。
それを映画化すれば話題作になるに違いない…甘粕はそう言って水城を共犯に引き込んだのだった。
才生「タイトルは『完璧な家族』…悪くないだろ、謙人」
謙人「演説はいいよ、もうたくさんだ」
謙人は腕時計を見る。外は雨脚が強くなっているようだ。謙人が予測した時間が迫る。
次の瞬間。
すさまじい風が窓から入り込んできた。
謙人も、才生も、そして逃げ遅れた千佐都もその場から動くどころか、目を明けることすらできない。
古い廃墟はめりめりと軋み、倒壊した。
天井が、壁が、3人の頭上から落ちてくる。
辺りに轟音が響いた。
結末
『ダウンバースト』
積乱雲から下降する気流が地面に激突し、大きな破壊力を持ったまま周囲に吹き出す現象。
しかも今回のそれは特に強力なものだった。
廃墟が倒壊し、中にいる人間が助からないであろうことを謙人は予測していた。
謙人は最初から、才生もろとも自分の命も絶つつもりだったのだ。
このダウンバーストを予測できた人間がもう一人だけいる。円華だ。
ダウンバーストが起こる寸前、円華は青江に頼んで車を廃墟に突っ込ませていた。
円華「崩壊が始まる前に、一部を壊しておく。ダウンバーストによる壊れ方が変われば助かる可能性があった。結果、建物の屋根が吹き飛び、崩れ落ちる瓦礫は半分以下で済んだ」
その結果…
謙人「ダウンバースト、よく予測できたね」
謙人は重傷を負うこともなく助かった。千佐都も無事だ。
そして、甘粕才生も。下半身が瓦礫の下敷きになっているが、命はある。
謙人「生きていたか」
才生に近づこうとする謙人を、円華が止める。
謙人「そこをどいてくれ」
円華「だめ。手は出させない」
謙人「…このためだけに今日まで生きてきた」
円華「知ってる。だからだめ。今日からは、これ以外のことのために生きて。あたしの気を変わらせることなんて無理だよ。ラプラスの悪魔なんだからわかるでしょ?」
謙人は眉根を寄せて目を瞑った。しばらくそうしたあと、瞼を開いた。
才生に近づいて言う。
謙人「あなたの話は全部録音させてもらった。本当は僕の遺書代わりになるはずだった。でも、これからはお守りとして持っておくよ。あなたが馬鹿な映画をつくるのを防ぐためのお守りとしてね」
くるり、と謙人は身体の向きを変えた。
そして少し片足を引きずりながら歩き出す。
円華の方を見ようとしない。
青江「止めないのか」
円華「無駄だよ」
謙人は振り返ることなく、歩いていった。
その足取りから迷いは感じられない。
彼はきっと、すでに先を見据え、何らかの方針を立てているのだろう。
後日談
謙人はあれから行方不明のまま。
謙人による硫化水素事故は警察にもみ消され、誰とも知れない悪戯半分の犯人がたまたまやったこととして処理された。
温泉地への風評被害は軽くなるだろう。
甘粕才生はすぐに入院することになったが、病院内で首を吊って帰らぬ人になった。
謙人に秘密を握られたまま敗北し、念願の映画をつくることも叶わない。
完璧主義の才生は、それを許せなかったのかもしれない。
青江は桐宮玲たちに説得され、事件の真相を永遠に黙っておくことを了承した。
すべての謎が解け、自分が関わった温泉地の問題にもすでに決着がついている。
何より、真実を語ったとして誰もその内容を信じてはくれないだろう。
そして円華は、また数理学研究所での生活に戻った。
相変わらず武尾もボディーガードとして働いている。
たまたま出くわした強盗事件を解決したりしながら、ラプラスの魔女は元気に生きている。
しかし、武尾にはわからない。
『この世界の未来』を知り尽くしてしまっている彼女が、どんな気持ちで日々を生きているのか。
あるいはそれは、絶望的な心境なのではないのだろうか?
気まぐれに、円華は武尾に普段は禁じられている質問を一つだけ許した。
武尾「それじゃあ一つだけ。ずっと気になってることがあるものですから」
円華「何?」
武尾「ええと、結局、円華さんにはどんなふうに見えているのかなあと思って」
円華「見えてる?何が?」
武尾「この世界の未来です。一体、どうなっていくんですか?」
戦争や災害。円華には最悪の人類史が見えているのではないか?
円華は深いため息をつくと、首を横に振りながら答えた。
円華「それはね、知らないほうがきっと幸せだよ」
<ラプラスの魔女・完>
まとめと感想
東野圭吾「ラプラスの魔女」が映画化!
今回は原作小説のあらすじ・ネタバレをお届けしました。
では、最後にまとめです。
犯人は誰?
温泉街での中毒事故の犯人は甘粕謙人。動機は家族を亡き者にしようとした父・甘粕才生や共犯者への復讐。ある意味では真犯人は甘粕才生だったとも言えるでしょう。
結末は?
謙人は才生に止めを刺さなかったが、才生は自ら首を吊った。
円華の正体は?
脳手術によって驚異的な物理演算能力を手に入れた『ラプラスの魔女』。事実上、未来予知や読心術が使える。謙人はその第一号である『ラプラスの悪魔』
ミステリとしては「そんな超能力者みたいな人間が犯人ってあり?」という感じもしますが、そもそも「空想科学ミステリ」と銘打たれていたので言いっこなしということで。
また、読み進めているうちに「犯人は謙人だろう」「謙人と円華は未来予測ができる存在かな」とすぐ気がつく構成になっているので、この物語の本質は円華たちの能力とは別のところにあったのだと思います。
個人的には、甘粕才生という人間のイメージが180度変化していく展開の過程が面白かったですね。
あと、普通なら円華と謙人に恋愛展開がありそうなところ、あえてドライな関係のまま締めくくられていたのもミステリらしくて好印象でした。
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うわぁ、ありがとうございます!
めちゃくちゃ嬉しいです!
やる気が出ました!!